コメディ・ライト小説(新)

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喫茶Anjouにお任せ下さい
日時: 2019/05/27 16:44
名前: 青い海 (ID: EDXcI6jL)

海岸沿いの道に、白い壁のお洒落な外観をした喫茶店がある。
18歳の少女が経営している『Anjou』という名前のそのお店は、老若男女問わず人気だ。

なんでも、看板メニューである『ふわとろパンケーキ』が高校生が作ったと思わないくらいに本格的で美味しいらしく、ついつい何回も来てしまうんだとか。

しかし
そんな人気店の『Anjou』にも秘密があった。


それは、
知る人ぞ知る『探偵事務所』だということ。


***


あたしが引き受けるんだ。そこらの探偵よりはいいと思うぞ?」
少し男気がある探偵事務所所長兼喫茶店オーナー
楠木杏樹くすのきあんじゅ

「おい!杏!何でお前はそう後先考えず依頼を引き受けちまうんだよ」
少し俺様気質な杏樹の幼馴染み
須藤拓磨すとうたくま

「まあまあ、2人とも喧嘩しないの。仲直りして。ね?」
物腰柔らかな謎多き従業員
歌野琉生うたのるい

「はあーっ、何でこんなにここの店は可愛くないの!?」
女顔負けの可愛さをもつ女装男子
七瀬遥ななせはるか


暴力上等、危険不可避、波瀾の連続

普通の高校生とはちょっと違う
彼らの日常を少し覗いてみませんか?

Re: 喫茶Anjouにお任せ下さい ( No.9 )
日時: 2019/05/22 13:52
名前: 青い海 (ID: EDXcI6jL)

「やだぁー、お兄さん彼女いたのぉ?...あーあ。ワタシ、失恋しちゃったなぁ...」
「ははっ、キミも彼女いるだろ?すげーイケメンの。俺よりあっちの方が何倍も良いって」
「...お兄さんみたいに優しくないもん...。顔もお兄さんの方がワタシ好みだなぁ?」

......。


期待を持たせた甘い台詞。
聞いていると、私の神経を逆撫でしてくるような猫撫で声。


「...はぁ...」
分かってた。旅館の前にいるのを見たときから分かってた。
分かってた、

けど

「お前らなあ、...っむぐ!!」

ガタッと椅子から乱暴立ち上がり、遥と琉生がいるであろう方向を向いて、文句を言おうとした時。

背後から何者かに口元を押さえられ、話せなくなる。


「~~~~っ!!!!」

誰だっ!
顔を見ようと後ろを振り返ろうとしても、私の口を押さえてない方の手で、体をがっちり固定されていて、動けなくなる。


「はいはい。杏樹ちゃん、静かにねー?今、遥が四奈川さん口説き落としてる最中だから」

...この声...琉生、か?

「むふふ(琉生か)?」
確認しようとして、話そうと試みるも、やはり口元を押さえられていたら話すことは難しい。
自分でも何を言っているのか分からなかった。


「そうそう。琉生だよー?だから安心して黙っててね?」
「......」

琉生の表情を見なくても分かる。
...こいつの笑顔、今絶対悪魔みたいだ。

何か企んでんのか?

琉生に口を塞がれながら、何で琉生と遥がこんなことをしているのか考える。

「...?」

でも、普段謎に包まれている2人だからか、考えていることが全く分からない。
もしかして、仕事の手伝いをしてくれているのかも、とか一瞬考えてしまったが、面倒臭がり屋のコイツらが自ら仕事をするなんて事有り得ない。

「まーまー。そんな怖い顔しないの。大丈夫大丈夫。遥が上手くやってくれるから」
「ふ(はぁ)?」

ふふっ、と笑いをこぼす琉生がいつも以上に気味悪く思った。

Re: 喫茶Anjouにお任せ下さい ( No.10 )
日時: 2019/05/22 14:51
名前: 青い海 (ID: EDXcI6jL)







***


『探偵事務所』Anjouの方を訪ねてきたのは、四奈川コーポレーションの副社長だとか言う、地味な男だった。


「あっ、あの!...探偵事務所の『Anjou』ってこちらであって...ますか?」


分厚い眼鏡に目元まであるボサボサの髪。洗ったのかどうか定かではないよれよれの服。
一瞬、ホームレスか何かだと思ったが、どうやら四奈川コーポレーションの副社長らしい。

因みに名前は河野健。
今回の依頼は、自分の婚約者が居なくなってしまったので、探してほしいというもの。

...正直、依頼を引き受けたくなかった。
何故ならその婚約者が居なくなったのは一昨日から。
普通、旅行にでも行ったらそのくらいは遊んでるだろうし、何せ大人の女性だ。
小さい子どもが3日居なくなったのなら一大事だが大人なのであれば、別に事件でも何でもない。

しかも、その婚約者が友達と出掛けて行ったと言うのが恋人としか行けない(正確には恋人以外の人と行っても楽しくない)と有名な羽月旅館。
完全に浮気されているのにも関わらず、のこのこAnjouに依頼して、コイツは馬鹿なのだろうか。

...いや。馬鹿だ。






そして

『警察より探偵あたしを頼ってくれたんだ。嬉しいじゃん。な?』

杏樹ちゃんに言われたこの一言で行く気の無かった調査に来てしまった僕はもっと馬鹿だ。


「ねぇ、琉生。やっぱり羽月って外観クソよね」
「...そうは思うけど口に出さないの。折角の美人なのに」
「あんたのその外面、遥は嫌いよ。ニコニコニコニコ、気持ち悪い。感情の1つや2つ、出してみなさいよ」
「出してるよ。感情くらい」
「そうは思えないけど。あんたが怒ったとしても、口で相手を言い負かすじゃない。本気で怒ってんのなら、」
「あ。杏樹ちゃん達が来た。ほら、遥。台本通りによろしくね」
「っは?...はあ。分かったわよ」


僕達は、杏樹ちゃんと拓磨が羽月旅館に向かったあと、近道をして一足先に羽月旅館に来ていた。
何故ならこれからやることがあるから。


『歌ちゃん、私ねぇ...人生嫌になっちゃったぁ』


それは、彼女があいつらに関係しているかの事実確認。

Re: 喫茶Anjouにお任せ下さい ( No.11 )
日時: 2019/06/02 21:44
名前: 青い海 (ID: EDXcI6jL)

『おっちゃーん!ビールもう二本っ!!!』
『はいよーっ!って、サキちゃん、ちょっと飲み過ぎじゃねえか?これで8本目だぞ?』
『だぁーいじょうぶ!だいじょーぶっ!私お酒強いんだぁー』

初めの彼女の第一印象は、よく酒を飲むバカ。別に悩みなんて無さそうだなって思ってた。
それくらい彼女は、笑って、酒を飲んで、また楽しそうに笑ってた。

『叔父さん、俺は唐揚げがいい。部活で腹減ってるから大盛りな?』
『琉生、オメーなぁ?俺の仕事場で夕飯食おうとしてんじゃねーぞ』
『じゃ、金払う』
『そーゆー問題じゃねぇーっ!』

この時、俺は高校1年生。
部活も入ってて、叔父さんが経営している居酒屋に部活帰りに寄って、晩御飯を食べて帰るという日々を送っていた。

『まーまーおっちゃん。いいじゃない?唐揚げくらい。文句あんなら私が金払うしさぁ?』
『だから、金なんか要らねーよ!何で自分の息子に飯食わすのに金を貰わなきゃなんねーんだ。それより、俺はなあ』
『家族皆で食べたいんでしょ?ね?叔父さん』
『分かってんじゃねーか』
『じゃ、正解したからご褒美に唐揚げ』
『...はあ。わーったよ。じゃ、サキちゃん、ちょっと待っててな?』
『はあーいっ!』

叔父さんが俺の唐揚げを作りに厨房へ入って行った後、俺はさっきからビールを豪快に飲んでいる女の隣に座った。

『ねー、お姉さんはここの常連なの?叔父さんが名前で呼んでるけど』
『んー?私ぃ藤野沙希ふじのさきでぇすっ!よろしくねぇー、イケメンくんっ☆』

自分で酒が強いと言いながら、顔は真っ赤で、話が噛み合わない。
もう完全に酔っていると思うのに、ビールを飲む手は止まらない。


...大丈夫か?こいつ。さっきビール二本頼んでたのに。

『ぷっ、あはははははっ!!キミ、考えてること顔に出すぎーっ!分かりやすっ!!』
『...は?』
『いやね、ちょっと酔ってるフリをしてみたの。そしたら、“大丈夫か、こいつ”っていう目で見てくるんだもん!私の予想通りで笑えるわぁー、ははっ』


お腹を抱えて笑い出す女...サキ。
一つに結んである茶色の長い髪が、サキが動く度にサラサラと揺れた。

『...俺、あんたの笑いのツボが分かんないんだけど』
『分かんなくていーの!って、そんなことより!年上に向かって“あんた”はないでしょ“あんた”はあーっ!?』
『えー、んじゃあ...サキ』
『んなっ!よよよよよよよよ、呼び捨てっ!?』
『ははっ、なに顔真っ赤にしてんの?もしや男に免疫無し?』
『違うっ!私、これでも28だしっ!』

いーっ、と歯を出して俺に反抗してくるサキ。
何か、年上と思えないんだけど。

『自慢になってねぇよ。28なんておばさんじゃん』
『じゃあ高校生のキミは赤ちゃんね?』

“おばさん”という単語に反応したサキが、直ぐに言い返してくる。
その顔はムカつくほどに勝ち誇ったような笑みを浮かべていた。
そんな顔を見て、大人しく引き下がる俺では無いわけで。

『へー』
サキの方を向いて、少しだけ距離を詰める。
『っ、何、よっ...』
何かの危険を察知したのか、逃げようと後ろに下がるサキの腰に手を伸ばして、ぐいっとそのまま俺の方に引き寄せた。
『赤ちゃんが、コンナコト出来るんだあ?』
目の前にあるサキの顔。
二重で、大きな茶色の瞳が俺を捉える。

俺はそのまま顔を近付ける。
サキは、ぎゅっとしっかり目を瞑っている。

『ふっ、ばぁーか』


ちゅ


驚いた顔をして、俺の顔を見るサキ。

『何?口にちゅーしてほしかった?』

からかって言ってみるも、サキは未だに放心状態。
何処か一点をずっと見つめている。

...おかしいな。
ちゃんと頬にしたんだけど。

『...キミ、何て名前』
『は?...歌野琉生だけど』
『じゃあ歌ちゃんね!』
『いや、......は?』

急に何言い出してんだ?
さっきまで放心状態だったのに。

そして、急にこっちを向いたかと思うと、
『私ね、浮気されてんの』
突然、キラキラの笑顔でそんな衝撃的な事を口にした。

いや、ホントに何が言いたいのか分からない。

『だからね、女慣れしてそうな歌ちゃんに話聞こうと思って』
『...浮気する旦那の意図を...?』
『そう!私、恋愛経験少ないからさぁ、何で浮気されたか分かんないんだよねー。何にも悪いことしてないのにさ』

...成る程。
つまりは、旦那に浮気された理由が分かんないから、同じ匂いを感じる俺に教えてくれと言ってるわけか。

『...まぁ、相談くらいなら...?つーか言っとくけど俺、女は取っ替え引っ替えしてるけどちゃんと付き合ってるからな。違う女に乗り換えるのは、別れてからだし。サキの浮気男と一緒にすんなよ』

Re: 喫茶Anjouにお任せ下さい ( No.12 )
日時: 2019/05/26 21:13
名前: 青い海 (ID: EDXcI6jL)



『へー、そうなの?出会ったばかりの女に簡単にキスした歌ちゃんとうちの旦那って何か違うの?私、同じに見えるんだけど』

俺が言った言葉が気に入らないのか、へらへら笑いながら結構胸に突き刺さってくる言葉を言ってきたサキ。
チラッと見たその顔は、目がなんだか冷たくて。
ゾクッと背中が震える。


『……なーんてね!冗談よ!歌ちゃんは私たちと違って若いもんねー?どんどん女の子落としちゃいなさいっ!いいよねえ~?彼女が選び放題なんて、美形の特権だよ?』

しかし、それも一瞬。
直ぐにケラケラ笑うサキに戻った。

『あ、あとね、相談のことも冗談だから!高校生に相談するほど、私は弱くないからね~!お姉さんは強いんだよ!』

ああ、噓だ。
そう思った。
さっきまでのおっさんみたいに笑いではなく、力なく笑ったサキを見て瞬時にそう思った。

『……話は聞いてやる』
『…………へ?』
『サキの旦那の事。ストレス溜まってんなら此処に来れば?サキの愚痴、聞いてやるからさ』

目を見開いているサキに、にっこりと笑って言う。

『歌ちゃん、だからさぁ冗談だって。あ、もしかして私の迫真の演技に騙されちゃった? いやぁ私凄いね!女優さんになれるかもよ…『るさい』

必死に強がるサキを見ていられずに、思わず出たのがその言葉。
いや、もっと他に言葉あっただろ、と思ったけど、今じゃサキに弱音を吐かせることで頭がいっぱいで言葉遣いまでに頭は働かなかった。

『……うるさいは酷いよ?歌ちゃん?』
少しひきつった笑みを浮かべながら、俺の顔を覗き込む。

やめてくれ。
そんな顔すんな。


その顔は……
昔の俺に、似てるんだよ。


『ねえサキ、明日も来てよ』
『は?』

ポカンとするサキに、そう言い放つ。

もう、いいや。
サキの意思なんて関係ない。

サキが話したくないんなら、
話したくなるようにしてやるよ。



『あ、ビール来た。…………じゃあ、明日待ってるから』

そう言って席を立つ。
親父が唐揚げがどうのこうの言ってるけど、そんな場合じゃ無くなった。


ニヤリと不敵な笑みを浮かべながら、俺は暖簾をくぐって家へと向かって歩き出す。






――――これが、彼女……沙希と俺の出会いだった。




Re: 喫茶Anjouにお任せ下さい ( No.13 )
日時: 2019/05/28 22:46
名前: 青い海 (ID: EDXcI6jL)




『明日来てねって言われたから、来ちゃった☆』
『お。話してくれんの?』






次の日の夜から、彼女はよく叔父さんの店に来るようになった。

1日溜め込んだ不満やら何やらを、飲みながら一気に吐き出すのである。

お酒を飲むと饒舌になるサキは、酔った勢いで色んな事を教えてくれた。


『旦那の名前を使いたくないから今は旧姓を名乗っている』
『谷本興業の社長の娘のココという女が旦那の浮気相手』
『浮気されたままは悔しいから自分もタケちゃんという幼馴染みに会っている』

などだ。




***



そして現在。

『行方不明の谷本湖子さんっつー奴を探しに、羽月旅館へ行くぞ』

その事を思い出した俺は、本当に谷本湖子がサキの旦那の浮気相手なのか、確認しに来たのである。




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