コメディ・ライト小説(新)
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- 夏の終わりに、それを知った。
- 日時: 2019/07/09 16:16
- 名前: 笑心 (ID: ldN9usvX)
どれが間違いで、何が正しいのか。
そんなこと、考える余裕なんてなかった。
いや、わかるわけなかった。
失いたくない。離れたくない。
そんな思いだけが、頭の中を占めていく。
他の人の気持ちなんて考えてもなかった。
ただ、私は。
『なーみちゃん。ずっといっしょだよ?』
永遠を信じて疑わなかったあの頃に、戻りたかった。
- Re: 夏の終わりに、それを知った。 ( No.9 )
- 日時: 2019/07/24 20:21
- 名前: 笑心 (ID: ldN9usvX)
*
学校から近いうちの団地は、数分でモモの家に着いた。因みに綾はニコニコと笑いながら私達の後を付いてきている。
「ただいま」
「あら、お帰りなさい。遥...って七海ちゃんと綾くん!?」
「久しぶり、晴子!」
「お邪魔します。すいません、突然」
「もうー!水臭いわね!いいわよ!上がって上がって!後でお菓子とかお茶とか持っていくわね!」
「いいよ別に。俺が持ってく」
「あら、そう?じゃー、遥の部屋分かる?って七海ちゃんは覚えてるか」
「そう、ですね...」
当たり前だけど、モモママは遥が男だってこと知ってたんだ。じゃあ、何で私に言ってくれなかったんだろう?
てゆーか自分の息子が女装してることに何で反対しないんだろう。世間体とか考えて普通は猛反対するのに。
モモと一緒に何か隠してるのかな?
考えれば考えるほど分からない。
そもそも私、モモが男だってことに驚いてるのに。
てくてくと階段を上がりながらモモの部屋へと進んでいく。そーいえば、モモの家に来るのは毎回だけど部屋に入るのは久しぶりだな...。ドアの前までは来たことあるけど、中に入ろうとすると『入るな!絶対!今部屋汚いの!』って止められてたしなあ。
階段を上がりきり、左に曲がると焦げ茶色のドアがある。ドアノブを回し、押し開ければ。
「...わあ」
そこは、見たことのないモモの部屋だった。
モノトーンの落ち着いた部屋は、あの天使のような外見とは程遠い。普段の『モモ』からかけ離れた、私の知らないモモが過ごしている空間だった。
...これが、男の子の部屋。
唖然としてその場に立ち尽くす。
どうやらこれでモモが男ということを嫌でも信じなくてはいけなくなってしまった。
「うーわ、遥の女装道具が見当たらない」
「ったりめーだろ、バァカ。ここにも女物があったら気色悪いわ」
っわ!!!
いつの間に後ろにいたの!?モモ!
振り替えれば、お茶やらお菓子やらをお盆にのせて立っているモモがいて。
ギョッと目を見開く。
何この人。天使と悪魔の次は幽霊にでもなるつもりなの!?
「つーか綾どけ。邪魔なんだよ」
しかし本人はそんな私なんか気にする様子もなく、しっしと手で綾を追い払う動作をしながらずかずかと部屋の中へ入っていく。
そして、真ん中にある黒いガラスのテーブルにお盆を置くと此方を見やった。
「何つったってんだよ?早く来いよ」
いやー、来いって言われてもさあ...。
なんか、モモがモモじゃない気がして怖いんだよね。
「...やっぱ、いいや!」
「は?」
「取り敢えず、モモが男なのは分かったから!」
「お前が聞きたいのは、俺がこんな格好してる理由だろ?」
「そう、だけど...」
ちら、とモモを見る。
やっぱり、違う。いつもはもっと、我が儘女王様って感じなのに...。
今は、
何だか、
弱々しい。
「ごめん。私から言ったのに」
「いや...。俺は別に...」
ほら、また。
私と目が合わない。
合わせようとしない。
なんだか、腫れ物扱い。
いつもの、モモじゃない。
同じ人物の、はずなのに。
男だろうが女だろうが、一緒に過ごしてきた『モモ』のはずなのに。
私の目の前にいるのは、モモじゃない別の誰かのような気がしてならない。
違う。違う。違う。
じゃあ、この人は誰?
「ご、めん...」
「え?」
そう言うや否や、私はユーターンして玄関へと走って戻る。
「あれ?七海ちゃん?どうしたの?」
可愛らしく首を傾げる晴子さん。
手には制服を持っていて、今からモモの部屋に届けようとしていたところなんだろう。
「...あの!」
「ん?」
「モモは、ホントに男なんですか?」
そう問えば、一瞬驚いたような顔をした晴子さん。でも直ぐに、いつものように微笑んだ。
「ええ、そうよ。遥は息子なの」
その一言で、ガラガラとモモとの思い出が崩れ落ちていく。
「もしかして、七海ちゃん思い出したの?」
ショックで立ち尽くしていた私は、晴子さんのその言葉が聞こえなかった。
- Re: 夏の終わりに、それを知った。 ( No.10 )
- 日時: 2019/07/28 18:15
- 名前: 笑心 (ID: ldN9usvX)
「あー!七海、こんな所にいたあー!もうー、トイレ行くって遥の部屋を出てから帰ってこないんだもんー。心配したじゃん!」
...。
「七海?」
...。
「七海ちゃん?どうしたの...?」
...。
「ごめん、晴子。もう俺ら帰るね。遥に伝えといて『もらってくぞ』って」
「え?」
「じゃ、お邪魔しました~」
どうゆうこと?
『ええ、そうよ。遥は息子なの』
『俺は元から男だっつの!!!』
『うん、そーだよ。桃瀬遥は男です!』
何。何なの。
何で皆知ってるの?
何で私は知らないの?
何で気付けなかったの?
それとも大きなドッキリ?
どっかでカメラ回ってるんじゃないの?
やめてよ。
やめて。
だって、モモは...ッ!
『なみちゃん!』
あんなに可愛い、女の子なのに。
「ねえ、七海」
嫌だ。
「いつまでそーしてんの?」
嫌だ。
「あのね、七海が落ち込むのもよく分かるけど、一番傷ついてるのは遥だからね?」
いや、だ。
モモが消えていく。
あの人がモモじゃないなら、私が一緒に過ごしてきたモモはどこにいるの?
消さないで。
私から親友まで、奪わないでよ。
「七海ッ!!!!!」
「!」
聞こえた綾の大きな声に耳を塞ぐ。
「な...に...」
何故か目の前にいる綾を見れば、悲しそうに笑っていた。
「ダメだよ、そんな無防備な姿男の前で晒したら。七海可愛いからパクって食べられちゃう」
「は...?」
何言ってるんだ?コイツ?
ギロッと鋭い目線で綾を睨む。
すると綾は『冗談冗談』と笑いながら私を宥めた。
「アイツは『モモ』だよ」
そして、いつになく真剣な顔でそう口にした綾は、さっきとは違っていて、
「へ?」
驚いて思わず間抜けな声を出す。
「七海ちゃんのお世話係で幼馴染みで親友で、我が儘女王の桃瀬遥だよ。それに変わりはないのは、七海が一番知ってるでしょ?」
「っ、!」
「だからさ、そんな男バージョンの遥を嫌わないであげてよ。傷ついてたから、ね?」
よしよし、と私の頭を撫でる綾の手は温かくて。
日だまりのように笑う顔が優しくて。
何より、私が悩んでいたことを理解してくれたことが嬉しくて。
その頭で今何を考えているのか分からないけれど。やっぱり私にとっては『今日知り合ったばかりの転校生』だけれど。
この人に、甘えてみたくなった。
ぽす、と綾の胸板に体を預ける。
「へ!?あ、の。七海!?」
「ありがとう...」
「え?」
「っ、ジュース買ってきてって言ったの!」
「え!?ああ、うん!了解しました!」
バタバタとコンビニへ走っていった綾を見ながらフッ、と笑う。
...てか、私、何してんのよ!
幼馴染みらしいけど!知り合いらしいけど!
でも、仮にも同級生の男の子に...!
さっき自分がした行動を思い出して、ボッと一気に顔が熱くなる。
...あー、何だかもう。綾に縋ってしまったことが衝撃的すぎて、モモが消えるとか悩んでたことが小さく思えてきた。
『アイツはモモだよ』
そうだね。男だろうが女だろうが、あの人は私の親友の『モモ』だ。
何だ。簡単じゃん。
私は何に落ち込んでたんだろう。
『大きくなったらさ!二人で旅行行こ!』
『はあー?んなの、今から行くわよ』
『えっ?』
『知ってるでしょ?アタシ、お金持ちなの』
ほら。まだこんなにも鮮明に覚えてる。
私が覚えている限りモモと過ごした思い出は消えない。
消さないよ。
だって、あの時。
一番楽しかったもんね。
『きゃー!何これ!めっちゃ綺麗な海じゃん!』
『七海って異様なほど海好きよね...』
『異様なは余計よ!全く、いっつも一言多いんだから』
『ありがと』
『へ?え、えと。何、急に...』
『仲良くしてくれて、親友でいてくれて、ありがと。って伝えたかっただけよ。学年百位以下のお馬鹿さん?』
『なっ!なんで知って!ってえ!今の言葉でさっきの感謝の言葉が台無しだわ!』
『ふん、台無しで結構。ほら、海で騒いできなさいよ。馬鹿みたいに』
『...はーるーかー!いい加減にしろーー!』
“けど。大好きよ、七海”
私に聞こえないようにか、小さく言っていたその言葉は、聞こえなかったことにするね。
モモは素直じゃないから。きっとあの言葉も無かったことにするでしょ?
そんなの、嫌だから。
私の心の奥の宝箱にしまっておくね。
「七海!買ってきたよ!ジュース!飲も!」
思い出に浸っていると、コンビニから出てきた綾がてけてけと私の所まで走ってくる。
「はい、これが七海のね」
「ありがとう」
渡された、ブドウ味の炭酸を手に取る。
わあ、これ好きなやつだ!
まじまじと見つめながらキャップをくるくると回して取って、そのまま口へと運ぶ。
「んふふー♪美味しい!ナイスチョイスだよ!りょ...」
「そりゃ~良かったですぅ~」
ん?何か様子が変?
「綾?何かあんた酔ってるみたいよ...」
いや、ジュースで酔うってなんだ?
てゆーか、ホントに酒じゃなくても酔う人っているんだ。
「よってら~い!」
酔ってるわ。めっちゃ酔ってるわ。
「はあ...。綾、あんたもうこれ禁止ね?」
「むう...」
「膨れてもだーめ」
これ以上酔われたら私どうしたらいいのか分かんないし!
そっと綾が持ってるジュースを持って、どんなジュースなのか確かめる。
...が。
『金麦100%!!』
とデカデカと書いてあるこれは、明らかに酒だった。
何なの、今日は。
ビックリデーなの?それとも厄日?
てゆーか、綾。あんた何で買えたのよ!
しかもこれ空だし!
あ、有り得ない...。
何だコイツ。ビール一気に飲むとか、上司に勧められて酒一気飲みする新入社員かよ。
酒豪を目指してるアホかよ。
ああ、もうダメだ。何か意味不明すぎて目眩してきた。
「モモだ。モモに助けを求めよう...」
すっごく気まずいけど私が頼れるのはモモしかいない。
意を決してポケットからスマホを取り出すと、モモに電話をかける。
『...何、どした?』
聞いたことのないその優しい声は、怒ってないかなとか、電話かけるの気まずいなとかぐるぐると悩んでいた私の考えを吹き飛ばした。
なんだ。
モモ、普通じゃん。
ホッと胸をなで下ろすと、私もいつもの調子で話し掛ける。
「た、助けて、モモー!」
『だから、どうしたんだよ。内容を言え。内容を』
はあ、と呆れたようにため息をついた音が画面越しに聞こえてきた。
うわあ。どうしよう。これから『綾が酒で酔いました』なんて言ったらもっと呆れられるよ…。
どう言って説明しようかと、ありとあらゆる文字をつなげて文章にして、あーでもないこーでもないと考える。
『おい、内容は?』
しかし、モモのいらだったような声を聞いて、正直に言おうと口を開いた。
「えーとですね……綾が酒を飲んで酔っ払ってるんです。モモの家行っていい?」
恐る恐る返事を待てば。
『はあ?酒?』
案の定呆れられました。
『てか、は?ジュースじゃなくて酒?』
はい、酒です。
未成年なのに買えてしまってるんです。この人。
私の肩に手を回してぐたっとしている綾を横目に見る。
『つーか今お前どこにいんの?』
「どこ?えーと。公園?コンビニが近くにあるほうの」
『あー、分かった。今からそっち行くわ。ソイツ捨ててもいいからお前は家に帰ってろ。いいな?』
「う、うん。分かった。ありがとう、遥」
『へ?今お前...』
「男の子だから『モモ』は嫌でしょ?」
『嬉しいけど、七海が呼んでくれんならあだ名なんかなんでもいーよ』
「な!」
なんつー台詞を…。
普段なら絶対に言わないであろう甘々な台詞に自分の顔が熱くなっているのが分かる。
しかし。
そんな顔の熱も、
『…ってか七海が俺を下の名前で呼ぶのって本気で怒ってる時だけだったからなんか怖いしな!』
この一言で一気に冷めた。
喧嘩売ってんの?
さっきの甘い台詞台無しだし。
一言文句を言ってやろうと口を開いた瞬間。
『じゃーな』
何かを感じたのか、遥は焦るようにそう言い放つと、
「っ、ちょ!」
『ーー...』
一方的に電話を切った。
私はしばらくスマホを耳に当てたまま立ち尽くす。
本当、嬉しい事言ってくれた後にいつもああやって人の癪に障ることを言うんだから。
「まったく…」
にしても、
『七海が呼んでくれんならあだ名なんかなんでもいーよ』
さっきのは、ちょっときたな。
「やっば。なんでモモ…じゃなかった遥に照れなきゃなんないの」
女装してた男だよ?親友だよ?
ありえんわ。
私、今日変だ。
綾に抱き着くわ、遥の言葉にトキメくわ…。
頭を抱えて悶々と考える。
「七海は変でいーの」
そんな時に聞こえた私の心の声に答えるかのように放たれた言葉に驚いて隣を見れば、私の肩に手を回したままにっこりと笑う綾。
何この人。エスパー?
酔ってるのに。
へらへらしてるのに。
綾は私の心の声をいとも簡単に見抜く。
「なんで?」
「えーだって。どんな七海もかわいーもん」
へら、と笑って私に顔を近付ける。
その瞬間ドキドキと急にせわしなく動き始める心臓。
ち、近い…。
ゆっくりと後ずされば、綾も離れた分だけ距離を詰めてくる。
そして、距離が綾の吐息がかかるほど近くなった時。
「ねえ、七海。秘密基地行こう」
綾はそう言って、小首を傾げた。
- Re: 夏の終わりに、それを知った。 ( No.11 )
- 日時: 2019/07/28 18:11
- 名前: 笑心 (ID: ldN9usvX)
ねえ、知ってた?
- Re: 夏の終わりに、それを知った。 ( No.12 )
- 日時: 2019/07/28 22:02
- 名前: 笑心 (ID: ldN9usvX)
*
「わあ、懐かしいねえ。昔のまんまじゃん~」
「ちょ、綾!帰ろうよ!足フラフラで怖いんだけど!」
「え~やだ。七海と折角の二人っきりのチャンス、逃したくないもんね~」
えーはい。私は今、森の中にある、昔遥と綾と私の三人で作ったという秘密基地に来ています。
布とかトタンとか段ボールとかを使って森の中にある洞窟を利用して作った秘密基地は確かに懐かしいけれど。まだ残ってくれてて嬉しいけれど。
実は私、ここに来ているのは自分の意志ではありません。
目の前の酔っ払い…綾のせいでせいでここにいるのです。
『ねぇ、七海。秘密基地行こう』
あの時、そう言った綾の返事を断った私ですが
『行こぉよ~。絶対楽しいからさあ~』
と、酔っているとは思えないくらいの馬鹿力で私を引っ張る綾に抵抗出来ず。
不本意だけど。
ここに来てしまっているというわけです。
「わーもう。そんな冗談言わなくていいから!早く帰ろーよー」
「中に入れるよぉ~。七海ぃ入るよ~」
「は!?え、ちょ」
慌てて綾から離れようとするがもう遅い。
グイッと私の腕を引っ張る力には抗えず。バランスを崩した私はそのまま綾の腕の中に収まり、気が付けば秘密基地の中にいた。
「七海、抱き心地いいね…」
ぎゅう、と私を強く抱きしめる綾。
二人きりでこんなことされたらキュンキュンする、はずなのに…。
どうしてかな?
抱きしめる力が強すぎて胸キュンより命の危機を感じるんだけど。
「あ、あの綾…。苦しいから、離して…」
「嫌だ」
「は?」
噓でしょ。
何この駄々をこねる保育園児並の我が儘っぷりは!
呆れてもう抵抗する気力も体力もなくなってしまった私。
「お願いだから離して」
戦意喪失し、掠れた声で弱々しくそう口にすれば、
「離さないもん」
綾はぷくっと頬を膨らまして可愛く言うと、
そのまま私を床に押し倒した。
「俺はぁ~、七海のこと好きらの。七海はあ~?俺のこと、好きぃ~?」
甘い言葉。こいつが酔ってさえいなければ、素直にドキドキしてしまうような。
だけどこいつは酔っ払い。
普段のあのチャラさがアルコールが回ってグレードアップしているだけだ。
- Re: 夏の終わりに、それを知った。 ( No.13 )
- 日時: 2019/08/21 15:45
- 名前: 笑心 (ID: ldN9usvX)
でも、グレードアップしすぎでは?
つーか何で押し倒した。
身動きとれないし。床に敷いてあるシート薄いから沢山転がってる小石たちがもろ背中に当たって凄く痛いんだけど。
「...綾」
「ん~?なあに?」
「どけ。邪魔」
「え~、やだ」
ははははは。
やだ、だと?
ふざけんな。
「はよどけ、変態!!」
足を思いっきり上げて蹴りを食らわす。狙って蹴ったわけではないので、どこに当たったかは定かではないが、この際そんなことどうでもいい。
綾が倒れて軽くなった私はのっそりと起き上がる。
「んんー」
因みに綾はというと仰向けになって寝ている。
そう。
さっきまでの出来事を覚えていないというかのようにぐっすりと。
まじくそ腹立つ。
「...綾」
「らあ~」
すやすやと眠るヤツを見るのは赤ちゃんを見ているようで一ミリくらいは微笑ましい気持ちになるが、今の私はイライラ度はMAXだ。コイツに気遣う心なんてもう持ち合わせていない。
「帰るか」
スマホのホーム画面にうつる時間はいつの間にか十時。
そしていつのまにやら遥からの着信が画面いっぱいにきているし。
これは早く帰らないと遥に怒られる。
否、これは遥般若が登場するかもしれない。
「やっば」
遥にかけ直しつつ、私はあの公園へと向かった。