コメディ・ライト小説(新)

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君を想い出すその時には君の事を――。
日時: 2020/09/24 17:41
名前: 雪林檎 ◆iPZ3/IklKM (ID: w1UoqX1L)

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Re: 君を想い出すその時には君の事を――。 ( No.13 )
日時: 2020/03/04 16:16
名前: 雪林檎 ◆iPZ3/IklKM (ID: FCVTIPcN)
参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no

第2章 第4話;「自分の運命を決める闘い。」 【大切な思い出。】

「う~ん、いい匂いだ。」
「この匂いの誘惑には勝てないな。」
「えぇ……。瑠璃ちゃんのスフォリアテッレはスイーツの名店も泣くほど美味しいわ。」
テーブルに座った僕らは香って来たパイの匂いにうっとりする。
「出来た……!!」
小倉さんの声が響き、皆身を乗り出す。
「今日は、うかちゃんも手伝ってくれた。」
そう聞くと僕は自然とそわそわして恥ずかしそうに目線を逸らしている彼女を見た。
「う、美味くできたと思うから、食べて。」
「味わってしっかりと。数、少ないから。」
という言葉を聞き、僕らは一斉にスフォリアテッレを口に入れる。
 モグモグ。
口に入れた瞬間、チーズの香りとバターの甘みが伝わり思わず声を零す。

「「「「ほぅ―――……。」」」」

なんて美味しいんだろう。
「もっと!!食べたいよぅうう!!」
「足りない、足りないわ!!」
「瑠璃ちゃん、カモ―ヌッ。」
「瑠璃、美味しい!!美味しいよ!」
皆、欲しいと騒ぎだす。
「味わって、って言ったのに……。」
困ったように眉を下げる小倉さんは急かされ、キッチンへと走り出す。

***

「よっと……。」
私は、スフォリアテッレと包んだ箱を積んで歩いていると後ろから声をかけられる。
「――日高さん、何をしているんだ?」
振り向かなくても判る、この声の主は勿論―――九条君だ。
「あの、お母様とか色んな人が食べたいって言ってたから今から届けるんだ。」
「ふぅん。……で、小倉さんは?」
「えっと、多分。今頃―――……。」


『小倉、もっと!!もっと!!』
藤谷がフォークを持ちながらテーブルを叩く。
 ドンドンッ。
『カモーヌ!カモーヌ!!僕のスフォリアテッレッ。』
獲物を捕らえるように目を光らせながら、猫月はフッと笑う。
『はい、はい、はい……!!』
忙しそうにキッチンに立つ小倉さん。

「ってなってた。」
「そうか。」
しばらく黙り込むと九条君は、ひゅうっと背伸びをし、包んだ箱を多く持っていく。
そして振り返る。

「………日高さんが転んだら、せっかく作ったスフォリアテッレが勿体ないだろう。行こう。」

緊張で強張ったような声が聞こえ、ほんのりと耳が赤くなっているのが私は見えてクスッと笑ってしまう。
素直じゃないなぁ――――でも優しいな。
「うんっ!!」

***

「まぁ、美味しそうなスフォリアテッレ。食べましょうか。」
お母様は嬉しそうに頬を染めながら、フォークを持つ。
綺麗に切って、お母様の紅色の唇に掠りながら口の中に入る。
「……美味しいわね。」
うっとりと微笑みながらお皿を持ち、スフォリアテッレを見つめる。
「このパイを食べると昔の事を思い出すわ。―――……藤花ちゃんと総司が合ったあの日を。」
私の名前までは聞こえたが後の方は聞こえなかった。
しかし、九条君は過剰に反応して言う。
「あまり、昔の事をッ!言うのは……!!」
お母様は目を見開く。
思い出したかのようにごめんなさい、と言いながら九条君の頭を撫でる。
「そうね――――藤花ちゃん、気にしないでね。」
 昔の事をって何?私の名前をどうして??
状況が理解できないなぁ。何のことだろうか。
首を傾げていると、
「本当に何でもないんだ。」
なだめるように言われ、私は植木鉢を抱えながら黙り込む。
あまり、詮索すると嫌だよね。
やめよう、本人に気にしないでって言われたんだから。
さり気なく話題を変えてみると、
「―――……このお花はお母様から、貰うの?」
「え?――――あぁ、用事があった時には分けてもらっている。」
あ、嬉しそうな顔になった。
九条君の頬がほんのりと薄紅色に染まる。
「この花はアイビーと言って、花言葉は公正と信頼。」
へぇ、可愛らしい花だなぁ。
うっとりと花に微笑みかける九条君は眩しかった。
「えっと、九条君って花言葉とか種類とか詳しいけど、お花が好きなの?」
思い切って聞いてみるとビクッと顔を強張らせ、ふいっとそっぽを向く。
「……すッ、好きで悪いか?」
なんか、、可愛い。
拗ねたような声を出し、真っ赤に耳を染めて私の反応を気にしている素振りを見せた。

「ううん、むしろ良いと思うよ。」

私の言葉を聞くと九条君はホッとしたように声を漏らし、そうか、と笑みを見せた。
微笑んでいた彼は――――直後、黙り込み私をジッと見つめてくる。
どうしたんだろう。
「?」
私が首を傾げていると、迷ったように顎に手を当てようやく口を開く。
「あの日高さん、花の肥料を持っているか?」
持っていないけど……、と思い首を振ると九条君は優しく微笑む。
「じゃあ、明日。ラウンジで朝食を食べた後、市場へ行こうか。」
「えっ!?」
「――……あ、嫌か?」
私を見つめる瞳には不安が渦巻いていた。
そんなわけない、誘ってくれたことにただ、ビックリしただけだから。
って思い、口を開いた。
「違う、誘ってくれたことが嬉しいくてつい声を上げてしまっただけ。」
ありのままの気持ちを伝えると不安が渦巻いていた瞳をフッと甘やかにし笑みを浮かべた。
「そうか、、、、、じゃあまた明日。」
手を振り、私も手を振り返す。
「うん。」
風のように走り去っていく彼を見ながら、私は鼓動が早くなる胸を抑えた。

***

 彼女は覚えているはずもない、僕と君が初めて出会った日の事を。そこから、絶望に陥った事も。
彼女が作ってくれたスフォリアテッレを僕は丁寧に切り分け、口の中に運ぶ。
このチーズの香りとバターの甘み、微かにあるレモン味―――隠し味。
「……懐かしいな。」
頬を伝って零れた涙とコーヒーの苦みが昔の事を、鮮明に思い出させた。


『――――総司、そんなにかしこまらなくていいのよ。――だって、私達は家族になるんだから、ね。』
綺麗な黒髪の女性が淑やかに微笑みながら、僕の頭を大切に撫でる。
『家族……?』
僕が呟くと、
『あぁ。おいで、総司。』
たくましく、勇ましくも優しい雰囲気がある男性に僕を強く抱きしめる。
『お待たせ致しました、お嬢様が作ったスフォリアテッレです。』
彼女の従者である青年が微笑みながら言った。
『総司の為に初めて、藤花ちゃんが作ったんでしょう?』
『うんっ!』
彼女は可愛らしく愛らしい笑みを僕に向ける。
『なっ!!?藤花の手料理を俺のよりも先にっ!!!』
男性がガクッと肩を落とし、悔しそうに僕を見つめる。
『仕方ないでしょう、総司は藤花ちゃんの未来のお婿さんなんだから。』
“お婿さん”という言葉を聞いて僕と彼女はお互いに見つめ微笑み合う。
あの頃の僕は日高さんの事を、僕の未来のお嫁さん、そう思っていた。
『さぁ、いただきましょう。』
おっとりとした声が響き、僕らは席に着き綺麗に切り分け口に入れる。
 パク。
初めて食べたスフォリアテッレ。
チーズの香りとバターの甘み、微かにあるレモン味が口いっぱいに広がった。
『美味しい?』
そう聞かれ、僕は。
『うんっ!!』
そう答えた。
二人で微笑み合っていると女性が口元を拭いてくれた。
『二人とも付いているわよ。』
拭かれた彼女は、ありがとうっと言った。

初めて感じた、家族という温かみ。
誰かを“好き”だって感じた気持ち。
でも、楽しく嬉しいことだけじゃなかった。

『―――……総司、お嬢さんとの挨拶。上手くやれよ。』
父が言う。
『大丈夫よ、賢い貴方なら出来るわ。総司。』
母が言う。
『お前は貴和の弟の息子でお嬢さんの婚約者だ。大丈夫だよ。』
『その権利を持っているのよ、総司。』
両親は、「成功しろ、気に入られろよ。」そんな事しか言わなかった。

『後々、貴和には“ボス”の座から降りてもらって俺たち一族が組織を貰うからな。』

親友とか言って、父と母には私欲を満たす事しか頭になかった。
そんな両親が嫌だった。
ある時、両親達が彼女の両親の暗殺を企てている事を知った僕はその時、絶望に陥る事もまだ、知らなかった。


***

「僕は、あんな事をして彼女を壊してしまったんです。家族という温かさを知ってしまったから―――……。」
「総司。」
「ただ、怖いんです。知られたらって、こんなの――。」
彼女の母親の所に来ては、このように弱音ばかり言ってしまう。
「違うわ、貴方が悪いんじゃない。」
こうやって慰めて肯定してくれる。


「―――……ねぇ、総司。貴方があの子と婚約を破棄したとき、私と貴和に預けた物――――覚えているかしら。」


輝くように周りには宝石が散りばめている綺麗な指輪。
渡そうと思っていた指輪―――渡せなかった僕の想いが詰まった指輪。
「いつでも、取りに来て頂戴。」
真剣に僕を見つめながら続けて言う。
「……藤花は――――あの子は貴方の力になると思うから。」
僕は即座に首を振って否定する。
「日高さんは僕の事が理解できないし、僕だって理解してくれなくて良い、と思っています―――……。」
「総司……。」
気の毒そうに見つめる彼女の眼差しが妙に痛かった。

***

「――――おはよう、日高さん。」
ドアを開けると、私服姿の九条君が立っていた。
いつもスーツだったから、私は新鮮すぎて目を丸くしてしまった。
「では行くか。」
スタスタと歩き出す九条君の背中を見上げながら私も後をついていった。

***
「やったねん、また勝っちゃった!!」
にこっと満面の笑みで金を抱える成清に皆、頭を抱える。
「お前、こんなに賭け事、強いのかよ。」
俺は唸った。
「これで、お前の馬鹿付きのせいでこっちの商売は上がったりだよ……!!」
男が言う。
「ってかよ、その俺達から巻き上げた金で何、買うんだよ!!」
盛が怒鳴る。
すると成清はうーんと顎を触ってそれからニッと笑う。
「これで、ラザニアにスフォリアテッレでしょ~、マカロンに!!いっぱい食べられるよ!!」
猫耳のフードを揺らしながら答える。
俺達は一斉に溜め息を吐いた。
「はい、はい……お前はそういうやつだもんな。」
と呆れて男は言っていると、女性の怒号が響いた。

「だから……さっきまでバッグがあったのになくなっているんですッ!!!」
綺麗なドレスを着た若い女性は怒鳴る。
俺達は顔を見合わせ組織のネクタイをキチンとし、その女性に声をかけた。

***

街の花屋を回って、約二時間が経った。
「これで、買い物はひと段落したな。」
ぎこちなく私は九条君を見た。
真っ直ぐと前を向いて未来を見据えているかのように歩いている九条君はいつもよりずっと大人に、凛々しく見えた。
私がまじまじと見ていると、
「何だ?」
と聞かれ、ビクッと身体が強張る。
「えっと……九条君ってすごいなと思って。」
「は?」
口をぽかんと開き、首を傾げる。
「だって、自分にも私達にも厳しいし、冷静でいつもその先を見ている感じが凄いなって。」
そういうと戸惑ったように目線を逸らして言う。
「と、当然だ。任された以上、日高さんの事もちゃんと護るし、サポートもする。人に厳しければまずは自分に厳しく出しな。」
目を伏せて言う彼はなんだか違う人と喋っている気持ちになった。
そんな雰囲気に私は心のざわめきを感じた。
「私ももっと頑張らなくちゃ……デュエロだって勝ち進まなければいけないし。そんな中で自分の能力が何かも知らないから。」
素直に言うと。
「日高さん、能力は何の為にあると思っているんだ、僕は時々、解らなくなる。今までは誰かを護る為だって思ってけれど…………。」
九条君は微かに震えていた。
「僕は……ッ。いや、何でもない。」
どうしたの、と訊ねようとしたその時―――……男性とぶつかってしまった。
 ドンっ!!
「す、すみません!」
と急いで謝ると、男性はビクッと顔を揺らし立ち去ろうとする。
何か、反応が怪しかった。
謝れられた事だけであんなに恐がるのかな?
黙って男性の後姿を見ていると、
「なあ、今の男。怪しかったよな?」
と問いかけられて私は急いで首を縦に振った。
「あの人、変だった。」
「早く、追いかけるぞ!」
顔を見合わせて、私達は走る。

***
「はぁ……ここまで来れば安心だな。今日は運がいいな。」
と言いながら男は、綺麗な宝石が散りばめられたバッグを取り出す。
路地裏で嬉しそうにバッグを開き、財布をもち、札束を数える。
「あれ、明らかにあの男の奴じゃないよな……?」
耳元で囁かれ、私は頷いた。
「行くぞ。」
と言われ、男に声をかける。
「おい。」
男は振り向き、私達を睨み付ける。
「なんだよ、坊やとお嬢ちゃん。」
手元にあるバッグを確認し、私は男に向かって歩き出す。

「―――……そのバッグは貴方のものじゃない。」

とキッパリと言って私はバッグを取る。
男は見破られたように顔をしかめる。
「――――……人のものを取って自分のものにしようとするやつは野放しにはできないな。」
九条君は身構える。
すると、男はニッと不敵に笑い。
「やってみな、お前みたいなチビがどうやって俺を捕まえるんだ?」
というと、九条君がその言葉にキレて睨み付けたその時――――足音が多くなる。
「「!!」」
振り向くと男達が私達の事を囲むようにいた。
中には大きな棒を持っている人までいた。
「お前ら、噂の組織・セグレードだろ?知ってるぜ、女にぎゅうじられるようじゃお前たち組織も終わりだなぁ!!」
男達はクスクスと笑い始めた。
私はもう我慢できなくなり、蹴りを入れようとしたその時、九条君が首にナイフを当てた。

「―――……僕達、組織の事を知っている人間はどうなったかじゃあ、知っているよな?」

フッと笑う九条君はとても恐ろしかった。
「お、お前!断罪の総司!?」
と男は焦って言う。
「死ぬ前に言いたいことはそれだけか?―――……彼女とボスを貶す奴らは容赦しない!!」
私は息を呑んで言う。
「私も―――母様と父様を侮辱する人は許さない!!」
そう言って、護身のために習ったナイフを手に持つ。
「大丈夫か?」
そんな心配する声を無視して私は男にナイフを突きつける。
「ほら、大丈夫でしょ?」
というと、
「習いたてなんだよな………?」
疑問の声がかかり、私は頷く。
そんな彼はナイフを握りしめて、華麗に男達の動きを止める。
私は、棒を持った男の首に足蹴りして男を気絶させる。
「お嬢ちゃん、背後ががらすきだよ。」
と言われて振り向くと拳が顔に向かってくる。
「……危なッ!!」
首を慌ててかわして、よろめいた男を回し蹴りをする。
「うぐッ!!!」
男達の低い呻き声が次々と響く。
「ちくしょうッ!!!」
男が叫んだのを私が睨むとビクッと後ずさりをする。
逃げようとする男の目の前にナイフを思い切り、投げる。
 ザクッ。
ナイフが壁に突き刺す音が響き、男は目を丸くする。
私は続けざまにナイフを投げて男をしゃがみ込むようにする。
男は恐怖で気を失う。
二人で顔を見合わせてニコッと笑い合う。

***
「はい、貴方のお財布です。」
と綺麗なバッグも返すと若い女性はニコッと微笑む。
「ありがとう。もう助かりました、このバッグお気に入りなんですよ~!」
女性と話して合っている藤花を見つめて俺は話す。
「藤花が異常に気付いたんだってな。」
というと、
「あぁ、ナイフも習いたてだって言うのにこんな風にナイフを刺して捕まえたんだ。」
九条は呆れたようにナイフの差し跡を見る。
「一つ、かりが出来ちゃったねー♪」
口元のソースをペロッと舐めて頷きながら成清は言う。
すると、九条は目を伏せて言う。
「出すぎた真似、本当にすまない。」
その言葉に成清は真っ直ぐ見つめて頭を撫でる。
「いや、むしろ助かったよ~!!そうたんのお・か・げ!!」
抱きついた成清を、ふざけるな、と肘で押す。
「……ッ。」
諦めた九条は顔を伏せる。
「まあ、そうたんのそういう義理堅いところ、ボクは好きだよ~❤」
「……どうも。」
恥ずかしそうにそっぽと向いた九条の頬を成清は摘み言う。
「それよりも、うかたんの事たっぷりと褒めてあげてよ?」
と成清が言うと、九条は目を丸くする。
「そうだよ、藤花の勘の良さが今回の犯人を捕まえられたんだしな。」
俺が九条の頭に手を置くと、べしッと跳ね返されて藤花の事をまじまじと見つめた。
「女の子は褒めてくれて成長するんだからね~。」
九条はその言葉に
「それもそうかもな。」
と素直に言った。

Re: 君を想い出すその時には君の事を――。 ( No.14 )
日時: 2020/03/28 15:21
名前: 雪林檎 ◆iPZ3/IklKM (ID: FCVTIPcN)
参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no


第2章 第5話;「自分の運命を決める闘い。」  【二人の時間。】

真っ赤に染まった道を私達は歩く。
九条君は私の事をチラチラと見てきた。
やがて、マンションの目の前になって入ろうとすると、
「ひ、日高さん。」
声を掛けられた。
驚いて振り向くと、手を掴まれて手の上に可愛い包箱を渡された。
「えっと…………これは?」
訪いかけると、恥ずかしそうに目線を逸らしながら
「今日、日高さんは街でずっと髪飾り屋に迷ったように商品を見つめていて……だから。」
口を噤んだ九条君はバッと思い切り顔を上げる。
「た、たまたまその店員に声を掛けられたから買っただけのものだ。それが、偶然にも女子用だったから…………。」
必死に言い訳をする子供みたいに見えて、私は笑ってしまいそうになった。

「…………つまり、私の為に買ってくれたんだ。ありがとう。」

と微笑んで言うと、九条君は口をゆっくりと開く。
「今日、君に助けられた。日高さんの勘の良さがあの女性を助けられた、感謝している。」
はっきり感謝していると言われて私の心は、ボールみたいに弾んだ。
カッと顔に血が上ったような気がした。
私は焦って口を開く。
「ね、ねぇッ、あのさ、さっきの泥棒を気絶させた技って何?」
訊ねると、首を傾げてから穏やかに微笑んで言う。
「あぁ、みねうちの事か。姐様に伝授された。これなら地に血が流れず、汚すこともない。」
そういう九条君は自分の手を握りしめてフッと笑う。
私はその姿を見つめて、口から声がこぼれる。

「すごいね。」

その言葉を聞いた九条君は驚いて、振り向き私の事をまじまじと見る。
九条君は息を呑んで、恥ずかしそうに俯く。
そして、
「当然だ。」
返事をする。
「…………九条君ってお母様と仲が良いよね。」
「は?」
凝視する彼を見て、お母様の事を私は思い出す。
「お母様は組織のみんなに優しい、でも、特に九条君の事は期待しているんだと思う。」
「ふざけるな…………っ!!」
そういうと、九条君は怒ったように眉を寄せて怒鳴り、溜め息を吐く。
「お前は本当に何もわかっていない。一番、周りから期待されているのは君だ、ボスがデュエロを開くと言ったのも跡継ぎである日高さんを育てるためだと僕は思っている。」
言い残し、スタスタと歩き出す。
「一度褒められたからって調子に乗られては困る。―――勝ち進むんだろう?デュエロ。」
ビシッと怒られ、私は包箱を見つめた。

***
「そうたん、君さぁ。うかたんに厳しすぎない?」
猫月さんに指摘され、僕は顔を手で覆う。
「昨日もうかたんの事を突き放すようなこと言ったんだって?女の子を悲しませるなんていくらそうたんでも許せないなぁ。」
ケラケラ笑ってふざけていた猫月さんは、急に僕の事をキッと睨む。
「確かにあの時、いっぱい褒めてあげてってボク、言ったよね。」
と言われ、僕は口を開く。
「…………何か言っていたのか、日高さんは。」
訊ねると、頬を膨らませて言う。
「言わなくても判るに決まってるよ、超判りやすいんだから。あの子。」
聞いてみると、朝から肩を落としていたそうだ。

「いつまでさ、隠しておくつもり?初めて出会った人として、うかたんを騙して、せめてでも従兄だってことぐらいは伝えたら、どう?」

「このままじゃ、僕は彼女に―――ッ。」
自然に指を握りしめる。
「君は我慢しすぎだ。もちろん、その理由は解ってる、苦しいかもしれない。でも、藤花ちゃんに向き合ったあげるべきだと思うよ。」
そんなすべてを見切ったような猫月さんの言葉に僕は唇を噛み締める。
「君のやっていることはただの“逃げ”でしかないよ。本当は解っているんだろう、何をすべきか。」
図星を当てられて、僕は息を呑む。
「…………いい加減、大人になれ。総司。」
その言葉が僕の心に深く突き刺さった。
何も言い返せなくて、ただ、ただ悔しくて。
考えていることを言葉に出されて恥ずかしくて。
彼女に会わせるのが怖かった。
知られたくなかった。
彼女はいつか、猫月さんたちを通して全てを知ってしまうと思った。

Re: 君を想い出すその時には君の事を――。 ( No.15 )
日時: 2020/03/31 16:03
名前: 雪林檎 ◆iPZ3/IklKM (ID: FCVTIPcN)
参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no

第2章 第6話;「自分の運命を決める闘い。」 【コーヒーの約束と心の距離。】


 『一度褒められたからって調子に乗られては困る。』
怒ってた…………あんなこと言ったら怒らせるに決まってる。
調子に乗ってた私。九条君に褒められたからって発言する言葉は一度考えて言わなくちゃ。
もう私の中で悪態は出なくなったって思ってた。
でも全然だったな……なくなったわけじゃなかった。
こうやって人の気持ちを考えないで嫌な気持ちにさせて私って凄く最低だ。
「やっと仲良くなれたのに………怒らせちゃったら終わりだよね。」
そう思い視界に入った可愛い包箱を見つめる。
何かを大切な仲間という存在から貰うのは初めてだった。
大事でまだ開けられていない。
「…………。」
静かに立ち上がり包箱を手に取ってリボンを丁寧に外していく。
「!」
入っていたのは欲しかったゴムだった。
綺麗な月のゴム――――急いで着けていた真っ黒なリボンのゴムを外して月のゴムを使って結ってみる。
いつもの私とは違って見えた。
似合わないと思いあの日諦めて店を出たのに…………気が付いていたんだ。
よく見てるなあ……。
「っ……!」
ほわっと心が温かくなった。
すぐさまお礼を言いたくなった。
貰うだけじゃ悪いと思って部屋のドアを開けた。
いつもいたこのドアの目の前にも九条君はいなかった。
「……それもそうだよね………怒らせちゃったんだもん……。」
一人で呟いた私の心は何故か冷たく冷え切っていた。
頬に少量の涙が伝っていた――――。

***

「…………っ!」
一人、僕は布団の中で悶えていた。
こんなにも遅くまで寝ている日はなかった。
昨日までは5時には起きていたのに今は9時だ。
「あんなこと言わなければよかった………本当に馬鹿だな、僕は。」
と呟いて、布団から起き上がる。
カーテンを開け、朝のすがすがしい日差しを浴びる。
ふわぁっとあくびをした後、洗面台に行こうとすると

『~♪♪』

スマホの着信音が鳴り響いた。
朝に誰から?と思い僕は手に取る。
声を聴いた瞬間、僕は泣きそうになる。


『………あ、の九条君。昨日はごめんなさい、私何にも考えてなかった。』


心配そうな声。
そっか、彼女は僕以上に不安を抱えているんだな。
「僕こそ………強く言ってしまってすまなかった。」
すると日高さんは、
『………ちゃんと、謝りたいしありがとうも伝えたいから明日の午後4時、一緒にコーヒーを飲みませんか?』
と焦ったように言う。
僕は聴きながらスケジュールを確認する。
「その日は僕は生徒会があるから日高さんとは帰りの時間が違うし、どこで待ち合わせをするんだ?」
『あのね……!カフェで飲むんじゃなくてね、わ、私が淹れたいの!!だから、、、部屋に来てくださ、、い。』
日高さんが…………?
『いいかな?』
僕の心は勿論のことながら、弾んだ。
「良いに決まってるが――――日高さんは大丈夫なんだな?」
『明日、じゃあまたあとでね。』

 ブツ――――ッ。

明日がとても楽しみになった。

***

今日は九条君とのコーヒーの約束の日だ。
急いで帰って部屋を綺麗にして九条君をもてなしたい。
「「「「それではさようなら。」」」
帰りの挨拶をした後、私は急いで家へと向かう………はずだった。

「藤花!」

名前を呼ばれ、振り向くと黒いリムジンに乗った穂高と何故か乗っていた小倉さんが居た。
「今から帰りか?」
と言われ、私は言う。
「ああ、今から家へと帰りコーヒーの準備をするんだ。」
すると、
「コーヒーって?」
訊ねられて「九条君に淹れてあげるんだ。」と答えると穂高はムッとしたように顔をしかめる。
「?」
「おい、俺の婚約者だ。車に乗せろ。」
黒のスーツを着た男達に穂高はそう言い、私の腕を掴み取り車に乗せようとする。
「穂高、これはどういうことだ!?九条君との約束が私にはあるんだが!?」
と乗せられるのを拒むと、穂高はチッと舌打ちをして私に怒鳴りつける。
「婚約者の方がその約束よりも大切だろ!!…………構わず乗せてくれ。」
グイっと男たちの力は強くなる。

「る、瑠璃!!」

小倉さんは、走ってきた水無瀬君に言う。
「水無瀬…………来て。」
穂高はその言葉に反応し、「奴も乗せろ。」と男達に言う。
水無瀬君は軽々、乗せられてしまった。

***

「こッ、ここは?!!」
―――……ここは中華料理店だな。
「さあ、お前たち。食べるがいい!!」
穂高は上機嫌で料理を頼む。
「北京ダック、食べたい!!」
小倉さんは次々と料理を平らげる。
「帰りたいんだが………どうして、無理やり私を乗せたんだ!!?」
と叫ぶと、穂高は真剣な顔つきになって言う。

「藤花に話すべきことがあるんだ………。」

私はその真剣な眼差しに何も言えなかった。

***
中華料理店に高級ショッピングモール、遊園地…………あっという間に日は暮れて月が光り輝く時間になった。
九条君との約束の時間はもう、過ぎていた。
きっと、また怒っている。
もしくは心配で探していたら…………と考えると途端に会いたくて仕方がなくなった。
「帰りたい。…………帰りたいッ!!」
と叫ぶと穂高は私の頭を優しく撫でた。
「そろそろ種明かしするか。」
その声が掛かり、私は穂高の顔を見つめる。

「――――……九条はお前の従兄で元婚約者だ。」

え?
私は目を見開いた。
「そッ、、そんなわけがない!!嘘を吐いているんでしょッ!?だって九条君が私の元婚約者だとすれば記憶があるはずよ、なのに記憶はない!?どうしてなの?!」
と声を荒げて言うと、穂高は悲しそうに眉を下げてギュッと私の事を抱きしめる。
「こんな事、俺だって言いたくない。だけど………お前は12年前、セグレード能力を使って記憶を失った。両親の記憶から九条に関する記憶、そしてこの事に危機を感じた親父さんが能力を封印して消したんだ。」
穂高の話は全て筋が通っていた。
母様に父様の言う遊んだ記憶もなかったし、能力の事を言うと悲しい顔をして私の事をただ、抱きしめていた。
だから、九条君も―――……?

『知っている。』

『昔から見ている。』

『あまり、昔の事を言うのは……!』

あんなにも初めて出会った時、黙っていたの?
と、なると皆で私の事を騙して演技をしていたって事…………?
嘘、嘘だ……あんなにも信じていたのにも言ってくれなかった??
涙が溢れ出してきた。
もう、信じられない……。
母様も父様も九条君も――――皆、嘘吐き。
「今までごめん。藤花、許してくれ―――……!!」
穂高は私の事をずっと抱きしめてくれていた。

Re: 君を想い出すその時には君の事を――。 ( No.16 )
日時: 2020/03/30 16:21
名前: 雪林檎 ◆iPZ3/IklKM (ID: FCVTIPcN)
参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no

第2章 第7話;「自分の運命を決める闘い。」 【反逆の僕。】

確かめなきゃ、確かめたい…………こんなの嘘だって言ってほしい。
九条君は違うって嘘は吐いてないってお願いだから言って?
 ピンポーン。
震える手でインターホンを押す。
「はい。」
九条君の声だ。
私はホッと安心する。
「――――……日高さん。」
気が付くと目の前には九条君が居た。
髪は少し濡れていて眼鏡を掛けていた。
「その様子だと無事だったんですね。」
怪訝そうな顔で私のことを見てくる。
「あ、ごめんなさい。約束が守れなくて…………急に穂高が来てやむを得なかったの!」
と理由を説明して今までどこに居たかを言うと、ますます、九条君の顔は険しくなった。

「日野西との事を僕に謝罪する必要はないと思う、そもそも婚約者同士だしな。それとも、、謝罪するほど満更ではないのか?」

「な、なんで、そんなわけッ!」
私が反応して睨むとクスッと鼻で笑う。
「では日高さんは無意識に、男に気を持たせるのがとても上手なんだな。」
気を持たせる?私がいつ?
約束を破ったのは私、悪いのは解っているでも――――私を侮辱するにも程がありすぎる
「…喧嘩を売っているの?」
と訊ねると
「まさか。僕は日高さんの味方だ。護っている日高さんの手を咬むことなど、あり得るか?」
これは明らかに私の事を咬んでる。
お互いを睨みあっていると九条君は私の手を掬い取って言う。

「覚えておく事だ、日高さん。この指を契約を交わしたことを。」

指を絡めてにこっと怪しく笑った。
「例え何があったとしても。日高さん自身が僕を、拒んだとしても、だ。」
君が―――私と一緒に今までいたのはこの為なの?
聞けない、聞きたくない。
どうして隠して、私の事を脅すのかと。
ずっと約束を気にしていたのに、帰りたかったのに。
こんなにも想っていたのに。
無遠慮な言葉が悔しくて、哀しくて。
「ふざけるのも大概にしろ!!」
私は手を振り払って踵を返した。
口ではこんなことを言っているけどそれでも、どうしようもなくそんな気持ちになってしまう、そんな自分の心の根底にあるものに気がついて。

私は、九条君の事が―――……好きなの………?

目から涙が溢れ出した。
「―――……っ!」
騙されているって解ってても君の事を想っている、という事か。
我ながら馬鹿すぎる。


****

「話さないで頂くことは出来るか?僕に出来る事ならば何でもするから―――……。」
僕は躊躇なく日野西 穂高に向かって跪く。
その僕を見た日野西はフッと声を漏らして手を突き出す。
「だが断る!!!」
断る―――……?
「何故だ。君にとって不都合だからか?」
「それはお前の方だろうが。」
図星をつかれ、僕は黙り込む。

「―――……生憎のところ、もう藤花には種明かしをしてしまった。」

「お前!!」
僕は剣をに抜き、日野西もケラケラ笑いながら剣を振る。
剣を何度も交えていると、
 ピンポーン!
エレベーターの音が鳴り響く。
「おっと、ようやく来たな。」
まるで待ちわびていたように言うと僕に目をやり不自然に笑う。
…………ようやく来た―――?まさか!?

「やめてッ!!」

長い二つに結った黒髪、焦った声―――……日高 藤花が居た。
「おはよう、我が婚約者。」
と、日野西が挨拶を言う。
僕も続いて
「おはよう、日高さん。」
挨拶を言うと
「いらない、挨拶なんか―――……その手を離して。」
と苦い顔をしてそっぽを向く。
僕達は交わしていた剣をしまい日高さんに歩み寄る。

「マンションの中、自分達を傷つける行為は止せ!」

心配そうな顔で救急箱の中から絆創膏を丁寧に貼ってくれた。

****

「日高さん、僕は―――……!」
打ち明けようとすると、日高さんは目をギュッと伏せて耳を塞ぐ。
「聞きたくない!―――……心の準備ができたらちゃんと、聞くから。今は、やめて……。それと、私も話したいことがあるの。」
と手を掴まれ、日高さんは小さく「ごめんなさい。」と呟く。
「―――さてと、明日、デュエロ開幕日だ。お互い最善を尽くそうぜ。」
日野西は強引に話をすり替えて日高さんの頭を
「元気出せよ、藤花。」
と言って撫でると日高さんは泣きそうになって小さく頷いた。

僕の奥底に眠っている猛獣。

嫉妬という獣―――……昨日は嫉妬に乗っ取られて理性というものがなくなっていた。

遅くまで日野西といた、他の人もいたのに。

それだけで嫉妬し、日高さんの事を傷つけた。

脅して騙して、侮辱して―――……僕は最低だな。

僕は右手を握り締めた。

Re: 君を想い出すその時には君の事を――。 ( No.17 )
日時: 2020/03/31 16:13
名前: 雪林檎 ◆iPZ3/IklKM (ID: FCVTIPcN)
参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no

第2章 第8話;「自分の運命を決める闘い。」 【セグレードデュエロ、開幕。不安と欲望。】

「遂にセグレードデュエロ開幕で~す!!」
アナウンスが入り、声が上がる。
やっとだ、今日で私の運命が決まる。
「勝利したものは組織のボスの座、願い事が叶えられお嬢と結婚が出来ます!!」
勝つ、絶対に勝たなきゃダメなんだ―――……!
「司会はこの川崎 千乃と三ケ谷 美湖です。よろしくお願いします~!」
私は逸る心臓を抑えながら、戦闘図を見る。
「おっ、気合入ってんじゃん。早いね~!」
「毛ガニ…………。」
「ちょっと、どきなさいよッ。ジャガイモ!」
「ふむ。」
藤谷に北小路さん、小倉さんや水無瀬君、九条君や穂高も私の周りに集まる。
「第一回戦目は―――……あっ、ひのと小倉だ。」
穂高と小倉さんは向き直る。
小倉さんはメロンパンを口いっぱいに頬張りながら不安そうに言う。
「……穂高様と勝負………?」
すると、穂高は小倉さんに対して言う。
「――……らしいな。瑠璃、お互い頑張ろう。」
コクっと頷くと準備室に行ってしまった。
「勝ち抜きか、勝ち進む程相手は強くなるって事。成清は組織のナンバー2だし最後の方か……。」
そう呟くと「元気出せ。」と私の頭を撫でた。
皆と闘いあわなきゃいけない、でも、私は勝ちたいから。

***

「あ、そうたん!やっほ~、瑠璃ちゃんとほっちゃん。殺り合ってるね♪」
会場では小倉さんと日野西が凄まじい闘いをしていた。
「どっちが勝つのか分かってるんだろう?」
僕がそう訊くとニヤッと猫月さんは笑う。
「さぁね~、視ちゃったらつまんないでしょ?」
遊びだと思っているのか―――……この人は。

***

「勝者は大剣を手にする男、穂高~!!!」
と判定されて次の勝負が始まる。
藤谷はニコッと笑って余裕そうにしていて、北小路さんは冷や汗を流していた。
始まる前に会場で会話しているようだった。

***

「紫、勝負が終わったらさ話したいことがあるんだけど。」
ジャガイモは真剣な表情でそう言う。
私は睨み付けて、
「話なんか聞かないわよ、残念でしたね。」
と言ってみると困ったように笑って言う。
「…………じゃあさ、紫に勝ったら俺の事聞いて?」
私に勝てる自信があるって事??
上等じゃあないの―――……ふつふつと湧き上がる怒りを開始とともにジャガイモに当てに行く。

***

「なーんか、北小路。怒ってんな、超コエ―。」
穂高がそう呟く。
私は北小路さんに押されっぱなしの負けちゃいそうな藤谷を見る。
『もう疲れちゃったのか、紫。』
息切れた北小路さんに藤谷は何か言っている。
それに反発してしゃがみ込んでしまっていた北小路さんは立とうとする。
藤谷はゆっくりと歩み寄って行って
『バーン、負けだよ。紫。』
人差し指を向ける。
その時、北小路さんは負けを認めたように苦笑した。
「勝者は―――……獲物を待ちわびる獣、政宗!!!」

***
「俺は、お前に勝つッ!!」
そう水無瀬君に告げられ、私は頷く。
「見てろよ、俺の能力ッ。この身をドラゴンに変えよ!!」
と呪文を叫ぶ水無瀬君は光り輝いて―――……恐ろしいドラゴンに…?
「わああああぁ!!?また失敗した、くそ~!」
と可愛らしいミニドラゴン姿に私は笑いそうになりながらもトドメを刺す。
「勝者は―――……勇敢な黒き少女、藤花!!」

***
「俺な、カッコいいトコ見せたいんだわ。頑張ろうな。」
と藤谷に言われ、私は頷く。
「動きを止めよ―――。」
美しい光に私は戸惑いながらも動きを止められる前に、足蹴りをする。
「勝者は―――……勇敢な黒き少女、藤花!!連続です!!」

***
「何で、俺達負けたんだ…………?」
藤花に負けた俺達は呆然とする。
「その理由は何だと思う~?」
甲高い声が聞こえ、俺達は振り返る。
「成清ッ!」、「猫月ッ!」
名前を呼ぶと手を振る。
「お前は、解ってるって事かよ?」
と訊いてみたら大きく成清は頷いた。
「うかたん自身が、成長して気持ちを固めて……能力と向き合ってるからだよ。」
え?と俺達は顔を見合わせる。
「んじゃ、」

***
 穂高と九条君はそれぞれの相手と闘っていた。
穂高の相手は猫月 成清。
九条君の相手はお母様。

「成清を越えてみせる!」

「貴女に僕の成長を見て貰いたいんだ。」

やはり勝ち進んでいる穂高と九条君達。
そんな二人の試合を見ている私にどこからか、不思議な声が掛かってきた。

『―――……聞こえるか、我が主よ。』


これは、私の化身の声…………?
『そうだ、我が主。封印されていたが主が記憶を大体取り戻したおかげでこうやって主と話せるのだ。』
黙っていると言ってくる。
『能力の真実を知りたければ、全てを知りたければ選べ。九条 総司か日野西 穂高か。恋する者をはっきり選べ。』
知りたい―――……でも、『選ぶ。』という事は天秤にかけるって事?
そんなの嫌だ、かけがえのない私の仲間なのに―――。
『また訊ねるぞ。』
声が聞こえなくなり、私は不安が胸に渦巻いていた。

***

「くそッ!」
俺は叫ぶ。
やはり一筋縄ではいかない成清は。ナンバー2の実力はとても強い。
俺はその時、初めて実感する。いつもふざけている成清も本当は強いのだと。
しかし、闘いながら成清との出来事を思い出した俺は、あの時、胸の内を泣きながら話してくれて闘ってくれた成清と本気を出して闘ったことで自分が能力を使えるようになったと心で俺は礼を言った。
交えていた剣を成清に吹っ飛ばされてしまった。
「どうするの、ほっちゃん。」
成清の問いかけに、俺は成清の遥か後ろに居る藤花の姿を見つけた。


「セグレード能力は大切な誰かを守る力。俺の大切な………それは――……!」


セグレード能力で剣を手元に戻し、刃を成清の喉元に突き付けた。
「見事だよ、ほっちゃん。」
誰よりも俺の成長を喜んでくれるふざけた猫の微笑み。

***

一方、菖蒲と戦っている総司の刀には迷いがあった。
姐様に刀を向けている事への迷いだった。

「それで私に勝てると思っているの!?どれだけ、甘く見ているの、総司ッ!?」
姐様に言葉と剣に追い詰められていく。
そんな姐様に心の中で、僕は自分を対等の相手として扱ってくれる事に感謝の気持ちでいっぱいだった。
それでけでなく、家族として迎え入れてくれたあの日から日高さんの家族を大切にしたいという気持ちで、両親を力で眠らせてしまった事への罪から目を反らし日高さんまで避け続けてきた。
しかし、今は違うんだ。いつか目覚める両親と共に歩いていくと決めたんだ………。
ちゃんと、自分のしたことを打ち明けて日高さんに想いを伝えたいんだ。

「覚悟!」

自分に向かってくる姐様の後ろに自分の闘いを見ている日高さんの姿を見つけた。
両親と自分がそう思えるようになれたきっかけは、

「君だ!」

鞘で姐様の攻撃を受け止め、隙をついて刀を拾う。
そしてセグレード能力を使う。

「御免!」

姐様がくらっと眠くなったのを横目に僕は、首に刀を突きつけた。

「見事な峰打ちだったわね。見せて貰ったわ、貴方の成長を―――……。」

勝負がつくと姐様は心から喜ぶ微笑みを浮かべていた。

***

「貴方の手元に戻ってくる運命だとしたら?」
受け取っていた婚約指輪を僕に手渡すと姐様はニコッと優しく微笑む。
もし、藤花が帰ってきてくれる運命なら―――……。
心に何回も刻んだ言葉を僕は言う。

「これを日高さんに渡す為、僕は必ず優勝します。」

僕は彼女に命に誓う。
僕の背後に居た穂高を見て姐様は姐様は口を開く。

「貴方達二人が刃を交えるのもきっと運命が導いた事―――……頑張ってね、二人共。」

そして、いよいよ日野西と僕の試合が始まろうとしている。
勝ったどちらかが、ボスとの挑戦権を賭けて日高さんと闘えるんだ。

「この勝負に全てが、かかっているんだ。僕は負けられないんだ。」
「それは俺もそうだ。」

お互いを睨み合うと握手する。
「僕とも約束しろ!おまえの全てを僕にぶつけると。」
「約束する!俺の全てをかけておまえを倒す!」

総司も同様に誓う。
そして一切手加減なしの二人の闘いが始まった―――……。


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