コメディ・ライト小説(新)
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- 転生と言う「拉致」
- 日時: 2023/01/19 19:43
- 名前: 赤坂 (ID: dYnSNeny)
――――「異世界」を知っているか。
‥‥現代の日本では年間五千人の若い男女が、何らかの事故事件、又は他殺に限らず自殺する等して「異世界」とやらに「転生――否「拉致」されている。
勿論、皆が知る転生は「拉致」なんかではなくある一種の「運命」だと感じるだろう。
が、年間五千人もの一般市民を、しかも未来ある若者をそう易々を殺され、その身体又は意識を異世界に連れて行かれると大迷惑だ。‥‥しかも少子化の日本で。
最早、少子化の原因はこれなんじゃないかとも言えそうだ。
この「転生」と称した「拉致」はその現象に至るまでに大きな特徴がある。
「転生する過程に絶命する」
これは完全に意図的に起こっていると言えるだろう。何故ならば、この現象は実に計画性を有しているからだ。
もし、「不慮の事故」や「たまたま事件に遭遇」ならば悔やむしかないが、そこの第三者の君!見ているだろ‥‥向こうで説明受けてる所!
その内容も実に、実に恣意的だ。いや、これは向こうの事情かも知れないが、まずは内容の例を見て行こう。
例「実は‥‥君の力がいるんだ!この世界を助けてほしい!‥‥だから君をここに連れて来たッッ!」
はいこれ。完全に「元から君を殺す気満々でした。」と自白しているだろ?尚、「連れて来た」は「殺す・拉致する」と捉えてもらっても構わない。過程が過程だからだ。
よって、計画性は認められ、ついでに理由も自分勝手だったと言うわけだ……
―――――俺もその被害者の一人だ。 クソが。
――――――――――――――――――――――――
登場人物
(序章)>>1
・津々良 啓二(35)
警視庁刑事部に所属している男性。そして本作の主人公。
いつも何処か抜けているが、いざという時は頼りになる。
・早稲場 國江(25)
津々良の後輩。津々良の事を慕っている女性。
いつも冷静で、津々良の支えとなっている。
・皆 芳香(17)
序章における捜索対象。女子高生。
少し雰囲気が暗く、不思議な女子。津々良に大きく関わる事になる。
(一章)>>2-8
・マルーン・ハンス(21)
一章1で登場する馬車を操縦する御者。第一異世界民。
ロズポンド王国近衛師団の騎兵隊の馬を操り馬車を走らす。
とても明るく元気な若者だ。
・ミナリア殿下(17)
一章2で登場するロズポンド王国の殿下。苗字はコンタイン。
性格は気弱いがとても親切な女性だ。
作中で主人公とハンスに大きく関わる。
・セントルファー国王陛下(64)
一章3で登場するロズポンド王国の第57代国王陛下。
とても温和な性格でジョークを飛ばす。
・セナ・アンジェリカ(22)
セントルファー国王陛下の宮殿で働く召使い。
謙虚な人柄で、可愛らしい。
・グロリア・ルントー(24)
同じく宮殿で働く召使い。
津々良に対し冷たいが、作中では面倒を見る事になる。
・フローレス・フォンタイン(72)
宮殿で働く召使いの中では最年長。
常に冷静で、役職はメイド長。眼鏡を掛けている。
・エリカ・フォンタイン(13)
フォンタインの孫。宮殿で最年少の召使いとして働く。
作中には書かれないかも知れないが、両親を戦災で亡くしている。
(二章)>>9-15
・コリウヌ・ファラヌイス(??)
異世界の五大賢者の一人。訳あってか堕賢者なるものに変わった。
作中では強力な腐敗魔法を見せつける。
・ウィスタネル・レオナード(76)
ロズポンド王国の首相。もうすっかりお爺さんだが頭はキレる方。
作中ではソビエティアに対し、髪の無い頭を抱える事になる。蒼白顔。
・フォステン・コンティ(72)
ロズポンド王国の外務大臣。高身長に眼鏡を掛けた男。
首相の元に働く補佐役も務める。実はフローレスと幼馴染。
・司書さん(??)
セントルファー邸地下図書館の管理人。
少し痩せこけた顔で不思議チックなお爺さんだ。魔法が使える。
(三章)
・石島 伊祖(18)
「大扶桑人民同盟」と言う革命組織に属する。
序盤に登場し、津々良達を襲い、革命の方針を語る。
・竹本 高徳(21)
人民同盟に属する石島の仲間。
大柄な男で張り切った声で話す。ソビエティアから流れた狙撃銃を愛銃としている。
・九十九 稔枝(16)
人民同盟に属する石島の仲間。
石島とともに行動するメンバーの中で最も身長が低く最年少。丸眼鏡におとなしい少女だ。
・棚田 宗(21)
人民同盟に属する石島の仲間。
頬骨の突き出ている無口な男。普段から作業帽を被って脱がない。
・大村 玄(65)
人民同盟の議長。いわゆるリーダー。
多くの「同志」に慕われ、津々良たちを優しく相手する。
- Re: 転生と言う「拉致」 ( No.13 )
- 日時: 2023/01/05 23:42
- 名前: 赤坂 (ID: dYnSNeny)
二章5 戦争の行く末
王都 中央区 首相官邸
凍えるような深夜。
津々良や皆が宮殿での日常を送っている中、ソビエティアとロズポンドの戦争は続いている。‥‥いや、戦争と言えど睨み合いが続いている状態だ。
そんな中、ウィスタネル首相率いる内閣は、水面下の外交を続けていた。
今日も首相官邸の執務室では、葉巻を吹かし眉間にしわを寄せている首相と、共に葉巻でなく煙草を吸って黒電話を見つめるフォステン外務大臣がいた。
何んとも重い空気だ。
「‥首相。最早、相手方はこちらの人質戦術には乗りませんな‥」
「ああ、完全に遊ばれておる。その上、こちらから手を出させようとも考えている。」
「ええ。恐らく、我が国の国際社会からの批判を狙っているのでしょう。その手には乗らぬように気を付けてくださいよ。」
「ええい、そんなの分かっとるわい‥」
昨日の交渉の対応はガサツな物だった。
電話は国家指導者たる書記長ではなく、ただの一人の外交官。
講和交渉の条件はスタインフォッド森林の完全な領有の認可。
20世紀 春 某日
「‥‥それだけは無理だ‥」
<ですが首相、書記長並びに連合政府はそれを最低条件としております。この割譲の要求が呑めないのであれば、交渉期限日には行動を再開いたします。>
「‥だがな君、こちらには貴国の従軍賢者<コリウヌ・ファラヌイス>が捕虜として確保されている。この人質を解放し、そちらに送還するには条件が重い。」
<‥少々お待ちを。‥‥ええ。連合政府としての結論としましては構いません。>
ふざけるな‥、とウィスタネルは下唇を噛んだ。とんだ舐め腐った対応だ。
ここでの譲歩は許されないが、頑なに反発しているとその反動が恐れられる。
「(‥難しい所だ。)‥貴官の言う事はよーく分かった。今日はもう遅い、また明日に交渉を取ろうじゃないか。」
<‥分かりました。では失礼します。>
と言い、通話は切れた。
半ば勢いで立ち上がったウィスタネルは、自分の椅子に脱力したように腰掛け、数の少ない葉巻に火を灯した。
―――――――――――――――――
フォステンは、もう髪の無い頭を掻き、悩み続けた。
その時、一つの考えが浮かんだ。
ハッとした表情で
「‥多方面に交渉を取りましょう。我が国、我が一政府のみが扱う問題ではないのですよ。」
「どういう事だ、フォステン。」
「彼の国の恐怖・圧力は王侯文化圏のみならず極東文化圏にまで及んでおります。そこで極東諸国に連絡をし、対ソ包囲網を形成すると言うのは妙案でございましょう?」
ウィスタネルの表情は見る見るうちに精気に満ち、これしかないと確信した。
この無根拠ともとれる確信は、彼の経験から来たものだろう。
「な、ならば‥」
「ニッポニアに同盟を求めましょう。」
「今すぐにでも行こう。航空機は?」
「いえ、ここは海路で行きましょう。我が国周辺の制空権はどっこいどっこいであります。」
「すぐに王立海軍に連絡を取れ!そして宮殿への車も手配しろ!‥」
王都 東区 セントルファー邸
早朝。
宮殿では毎日のように、ミナリアはお勉強、従者達は日常の庶務をこなしながら一日を送っていた。
もちろん、俺は専属執事として勉強中のミナリアの隣にいた。
「‥勉強熱心なこった。」
「ええ、勉強は大事。こういう経験は豊かな生活の証拠よ?」
「勉強が豊かな生活の象徴なんて、俺の国じゃあ考えられないな。」
「ニッポニアは豊かな国なのね。」
「‥おう。そういや最近、皆を見ないけど‥」
「ヨシカちゃんの事?」
「そうだよ。あいつ遊び歩てんじゃねぇか?」
「ふ~ん」と、ミナリアはペンを指で回しながら本を眺めていた。
その時、突然部屋のドアがノックされた。
「ん?入れていいのか?」
「良いよ。どうぞ~!」
と開いた扉の先から、フローレスが入って来た。
「失礼します。ミナリア様。」
「どうしたの、フローレス?」
フローレスは、「首相のウィスタネル様からでございます。」と言い、要件を話し出した。
「実はウィスタネル首相が来られておりまして、セントルファー陛下に謁見しております。是非、ご出席を。」
「俺も行くのか?」
「‥ミナリア様の要望でございましたら。」
俺はミナリアの方を向き、その返答を確認した。
ミナリアは少々不安そうにしたが、軽く頷いた。
「‥殿下の仰せのままに。」
そしてミナリアには「ぜっっっっったい変なコトしないように!!」と小声で釘を刺された。
部屋に出る際、フローレスに執事服の襟を直された後に歩き出した。
「どんな奴なんだ?‥」
「う~ん、就任式で見た所、お爺さん。」
「‥‥」
フローレスの後を歩いていると、謁見室と思しき部屋のドアについた。
ドアの両隣には小銃を持った軍服‥‥って、あの軍服は陸軍の物か。
全く気分が悪い。
「着きました。 ミナリア様とその専属執事です。お開けなさい。」
「はッ!」
片方の兵士がノックした後、扉が開けられた。
豪華な内装の部屋には、セントルファー国王陛下とウィスタネル首相と考えられる男が椅子に腰かけている。
「‥ああ首相。これが私の娘だよ。ミナリア、ミナリア・コンタイン。」
「そうでありますか、はぁ。全くお美しい方でありますなぁ。」
ミナリアは少し戸惑いつつも、軽くお辞儀をし答えた。
‥この首相は見覚えがあるな。
「(‥‥アッ!!前の世界でリムジンに乗っていた政府高官か!)」
――――よく覚えてるねぇ~
お前‥‥何で聞こえて。
じゃなくてどこ行ったんだよ?
――――まぁまぁ
「‥‥ぇねぇ!ケイジ?」
「――あぅ?どうしたんだ。」
「どうしたもこうしたもボーっとしてたじゃない。大丈夫?」
目の前には国王陛下の隣に座るミナリアと、起立して俺に握手を求めようと手を差し出している首相がいた。
「ッあ!‥どうも。」
「どうもどうも。専属執事兼護衛官の方であるとお聞きしております。どうやらミナリア様の命の恩人だと?」
「え、ええ。そうだ‥です。この腰の拳銃で暴漢を一名‥」
ウィスタネルは頷き、自分の椅子に戻った。
俺はミナリアの隣に立ち、その話を聞く事にした。
「‥では陛下、話を戻しましょう。‥現在、我々内閣は陛下の議会にて、挙国一致の体制を構築する旨を陛下の議会に提案するつもりです。」
「挙国一致の体制?‥」
「ええ。現在の我が国は遺憾ながら、彼のソビエティアに支配されかねません。この状態においては与野党などとは言っておられません。今こそ国内代表の知識を集結させる時であります。」
「もっと具体的な案は無いのかい?」
国王陛下は少し顔をしかめ、聞き返した。
「あります。本日の午前に考えた話なのですがね。‥極東諸国に当てがあります。」
「極東文化圏か‥?」
「ええ。大ニッポニア帝國であります。‥そちらの護衛官の方のお国でしょう?」
厳密に言うと違うだろうが、「ええ、まぁ。」
愛想笑いをしていった。
「だったら帰国ですな。んん?」
「そうですね。」
「‥そこで陛下、ニッポニア国に同盟を求め、ソビエティアへの両方面からの圧力で交渉に臨むのです。」
「‥確かにニッポニアは現在、極東文化圏唯一の列強諸国であるからな‥‥良いだろう。それで我々は?」
「是非、我々と共に外交へ‥」
マジでッ!?俺も行けるのかな!?
正直、一度行ってみたかった。俺のいた日本とは何が違う‥って言うか時代が違うだろうが楽しみだぁ。
「娘も一緒にかい?」
「ミナリア様も共に来て頂きたい‥」
「私は行ってみたいです。‥執事は‥」
俺の行きたい気持ちが伝わったのだろうか。
どうやら俺も連れて行くよう、説得するようだ。
「ミナリア様が連れて行きたいのであれば。」
「よっしゃァァァ!!‥‥‥」
つい声に出してしまった。
やっべクソ恥ずかしい。
「も、もう!!ケイジッ!!」
そんな一騒ぎが過ぎ去った後、首相のすぐにでもと言う事で極東へ向かう事に。
どうやらすでに宮殿には、軍の車両が停止しているらしい。
首相と俺達は玄関に向かった。
「現在、制空権は敵方に奪取されている恐れがあります。ですので海軍艦艇で向かいます。」
「分かった。港へ?」
「ええ。東区の果ての補給港です。」
俺達の後ろにはグロリアとセナが立っていた。
国王陛下は二人に、この屋敷の管理を頼んだ。
「分かりました!!」
セナは元気よく返し、俺達を見送った。
「行ってらっしゃいませ、国王陛下。」
グロリアは淡々と言葉を発し、頭を下げた。
ロータリーには陸軍の物だろう。沢山の車両・トラックが停車している。
国王陛下とミナリアは黒塗りの公用車に、俺は軍の自動車に誘導された。
内装を見てみると‥
「いつ見ても古くせぇなぁ。」
車の後部座席に腰を下ろすと、隣の兵士から声を掛けられた。
「やぁ津々良!久しぶり!!」
「‥何で名前‥」
――――忘れるなんてひどいなぁ
「‥!?皆!」
「そうだよ。何してたんだよ~」
「それはこっちのセリフだ!突然姿を消して何を‥」
「これを見て。」
手を差し出してきた。
その手の中には、銃弾が装填されたベレッタのマガジンが。
「ッ、何でお前が?」
「いやいや、あの時の戦いから消耗してたでしょ?」
「で、でもどうやって‥?」
「陸軍のおじさん達に<イロイロ>して作ってもらった。」
「色々って‥お前まだ子供だろうが。」
俺の叱責を余所に窓からの景色を眺めている。
やがて車列は進み出し、俺のいる車も前へ。
そのまま街へ降りると、市民の目線が向けられた。物々しい雰囲気だ。
走る事、約二時間‥
段々と海が見えて来た。昼に射す陽が波に反射し、キラキラと輝いている。
「わぁ~。ツツラ!!海だよ!」
「おぉ~ってそんなもん横浜で見れるだろうが。」
海上には数隻の船や軍艦が走っている。
その光景は中々見られない物だろう。
「(‥こんな呑気なことやってても戦時下なんだよなぁ‥。この前、エリカが言っていたようにソビエティアは強い国なんだろうか‥)」
「そろそろ着きますよツツラさん。」
車のドライバーに声を掛けられたすぐ後、見慣れない場所に到着した。
周辺は壁に囲まれており、ゲートの前には二人の兵士が小銃を持ち立っている。
険しい顔だ。
「ささ、降りましょう。」
「‥‥ここは基地か?」
ドアを開け、外に出る。
ミナリアのいる車両に向かい、彼女を待つ。
少し経って出て来た。
「おうミナリア。お疲れさん。」
「ああケイジ、車酔いとかしなかった?大丈夫?」
「大丈夫だ、大丈夫。‥‥てかここ何処なんだよ。」
「ここは東区第十二補給基地よ。民間船舶から海軍のお船までがここで補給するの。」
はぁ~。デカい基地だ。海自の横須賀基地並みじゃねぇか??
ゲートから内部に入ると、目の前には大きな海。直ぐ近くに波止場がある。
波止場には灰色の駆逐艦と思われる中型艦艇や、白い塗装がなされている戦艦までもが停泊している。
「海自の護衛艦とは全然違うなぁ。」
「何をボーっとしてるの。行くよ~」
ミナリアに怒られ、そのまま歩き出した。
俺達は何処に行くのか?
「さぁさぁ陛下。早速海軍の艦艇で向かいますぞ。長期遠征用の準備は出来ております故。」
「にしてもデカい船だねぇ首相。これに乗るのかい?」
国王陛下たちが見ているのは先程の白い戦艦。
まさか‥これに乗れるのか!?
「そうですよ陛下。本艦は海軍の最新の艦艇です。名前は‥」
「<ヴォイトーク>であります。」
一人の水兵が答えた。
「<ヴォイトーク>と言えば海軍の初代司令官かね?」
「そうであります。陛下。」
「良い名前だ。‥それでもう乗るのかい?首相」
「そうですな、乗りましょう。」
数人の水兵に案内され、国王陛下達は<ヴォイトーク>に掛かった乗船用ラッタルに登り、俺達も続いた。
白い船体の横を登った先、広い甲板と各地に設置されている機銃や、三連装の巨大な主砲が目に入る。
そのまま中央部へ歩いて行くと、これもまた大きな艦橋と煙突が姿を現した。
「すげぇぇぇ!!こんなん現代じゃ見れないぞ!!」
艦内に入り、タラップを下ると艦内宮殿とも言われる、貴族専用室に案内された。
国王陛下とミナリア、専属執事兼護衛官である俺もここで過ごすらしい。
「では皆様、ここでお過ごしください。では。」
と、その水兵は去って行った。
部屋の中はミナリアの自室と大差なく、過ごしやすいものだろう。
「ねぇケイジ、船酔いするタイプ?」
「‥うーん、分からん。」
三半規管は強い方だ。多分酔わないだろうが‥‥
荷物を整理していると、やがて艦は出港した。
船体の窓から外を覗くと、数隻の曳航船が<ヴォイトーク>を引っ張っている。
じきに岸壁から離され、湾内を抜けて行った。
第二の祖国ニッポニア。どんな国なのだろうか‥
- Re: 転生と言う「拉致」 ( No.14 )
- 日時: 2020/02/14 01:07
- 名前: 赤坂 (ID: uFovKUbX)
二章 番外編 艦内のお勉強
人生いつでも勉強勉強。
特にこの世界では小学校レベルの勉強をしなければならん。
何故なら‥‥字が読めないからだ。
ちょっと前にエリカには、語学の講師を頼んだが仕事の後だと眠くて仕方ない。
出港する前日に取り組んだ字の練習だが、まっっっったく覚えていない。
せめてニッポニアでは日本語であってほしい‥‥
「だがサボると痛い目見るんだよなぁ~」
いつも通り早起きした俺は狭い二段ベッドに横になり、グチグチと愚痴を言っていた。
ミナリアの部屋であることは確かだが、俺達は士官同様二段ベッドと言う事だ‥。
「――――ツツラさーん。お勉強の時間ですよ~」
俺が枕に伏せていると、幼い少女の声が聞こえて来た。
皆と一緒で幻聴か。
「‥‥面倒くさーい。もう眠ーい‥」
「‥幻聴ですよ~。起きて下さ~い。」
「そうかあ~幻聴かぁ~‥‥って、幻聴にしてはハッキリと?」
と思った次の瞬間、背中に激痛が走る。
「ウゴォォォォォッッ!?‥」
宮殿での激務に疲れた中年オヤジの腰は弱いのだ。
そのまま焦って、後ろを振り向くと‥
「ビックリしました? さ、艦内では宮殿ほどに忙しくないですよね?」
「お、おおおお前‥」
背中に跨る少女はパジャマ姿のエリカ本人だった。
‥あれ?宮殿では大分ヤバいことに?
「‥おいおい、こっそり抜け出してきたのか?」
「‥チガイマスヨ。フローレスメイド長ニイッテマスヨ。」
「絶対違うだろー。って言っても今更帰れねぇか。ここは北海の真ん中‥」
「じゃ、お勉強しましょう!ここに机は?」
周囲をキョロキョロ見渡す。
室内の壁際に置かれている古びた勉強机が見つかったらしく、ベッドから軽く飛び出しその机をたたく。
「ちょっと汚いですねー‥雑巾持ってきますね~!!」
と、室外へ走って行った。
――――相変わらず元気だね~エリカちゃん。
そうだなぁって、見えるのか?
何処だ?
――――貴方の頭上だよ。
でも何で透明に‥?
――――ほらこの前言ったでしょ?マが強いと透明化できない。‥逆も然り。
そんな事も言ってたなぁ‥。ここは弱いのか?
――――そう。だから段々薄くなぁる。
と、ボーッとしていたらエリカが戻って来た。
メイドである以上、家事はテキパキとやっている。
「さ、座ってください!帳面と筆、本もありますので準備万端です。」
「お、おう。んじゃ失礼するか。」
木の椅子に腰かけると、帳面が渡され適当に開いてみる。
余りに乱雑な字だ。夜更かしした中坊が5,6時間目になって、ウトウトしている時に書く字だ。
「こりゃ汚いですね‥」
「机がか?それとも俺の字か?!」
「こ、後者です。」
「だよなー。」
俺は手渡された万年筆を持ち、A,Ą,B,C,Ć,D,E‥‥Z,Ź,Żまで書いていく。
寝起きは脳が冴えるだけあってしっかり書ける。
「じゃ、例文を書いていきますよ~。」
<Tsutsura lubi psy.>
「さぁ読み上げて下さい!」
「(文字は違えど、発音だけは日本語なんだよなぁ)‥つ、つ、ら、は‥犬が好きだ?」
「はいそうですね。これは主格です。」
やべぇ、こんなんキリがねぇ‥
しばらく主格を用いた文を書いていく。
「‥なぁ?今、服装パジャマだけど。何処で寝てるんだ?」
「?下のベッドで寝てますよ?」
「あ、そうなのか。てか着替えないのか?」
「大丈夫です。さぁ続けて下さい。」
俺は口を紡ぎ、再度万年筆を動かした。
しばらくして朝食の時間になり、ミナリアに呼ばれた。
「ケイジ~。朝食のご飯が運ばれたよ~。」
朝食のご飯と言うパワーワードと共に食事を引き取った。
その意外と想像以上に豪勢な食事を口にしている間、エリカは俺の書いた文章を眺めていた。
<Minaria lubi koty.(ミナリアは猫が好きだ。)>
<Lubię Nipponia.(ニッポニアが好きだ。)>
「ふふ、勉強熱心ですねツツラさん。」
<Erica jest mała!(エリカはチビだぁーい!)>
「‥少し腹が立ちますね。」
その文章を横目に、エリカは俺の食事眺めていた。
毒をもってやりたいです。と思った。
「‥どうしたんだ?」
「何でもないです!!」
- Re: 転生と言う「拉致」 ( No.15 )
- 日時: 2020/02/18 23:50
- 名前: 赤坂 (ID: uFovKUbX)
二章6 極東の大帝國
駆逐艦20隻と航空母艦2隻から成る大艦隊の旗艦<ヴォイトーク>。
艦及び艦隊の司令部となる艦橋では、艦長以下数名の下士官で物々しい空気が流れていた。
国の重鎮‥国家元首の命を担っているのだ。
「‥艦長、無線室から通達です。」
「‥ん、何だね。」
艦内無線の受話器を取り、耳に当てた。
「こちら艦長。何があった。」
<‥艦長、定時連絡として王立海軍司令部に掛けているのですが、応答がありません。如何しましょう。>
「応答なしか‥。ここは遠すぎて戦艦一隻如きの無線は弱いのかもしれん。向こうに着いたら再度連絡を取るとしよう。」
<了解。>
現在、艦隊は便宜上現実世界の名称で呼ぶと、大西洋を抜け、東大西洋を経由し、インド洋を航行している。
王国から出港して月日が流れた。もう2ヶ月と15日が経つ。もう少しでニッポニアだ。
甲板では<ヴォイトーク>の日課である甲板掃除をしている。
俺も艦内生活で衰えた体を動かすため、水兵たちと掃除に加わった。
やる事は雑巾で一気に甲板を走るだけの事だったが‥‥
「‥あッッッ!腰が痛い!!」
「大丈夫かぁ?」
艦橋周辺の雑巾掛けだけで腰を痛めてしまった。
歳を感じる。
――――もうおじさんだねぇー
いや、体力はある方だ!!
こんなとこでギブは出来ん。
「ツツラさん、もうやめます?」
「まだだっ!!俺は続けるぞ!」
‥‥一時間後。
俺は艦内の医務室のベッドでうつ伏せていた。
一通り雑巾掛けが終わったと思って、急に立ち上がると腰がつるように
―――――ぎっくり腰だ。
「専属護衛官殿、完全にやっておりますな。」
「そ、そんなぁ‥‥。」
「取り敢えず湿布薬を塗っておきます~。」
と言い、灰色の粘土?を塗られた。
え、湿布って白い布じゃないのか?
‥背中がねちゃあってする。
「はい、しばらくするとスース―するからねー。じゃ、お大事に。」
「は、はぁ。」
俺は腰に手を当てながら、前かがみで退室した。
医務室を出ると、険しい顔の水兵が立っていた。
「ツツラ殿、急いで自室へお戻りください。」
「‥え?」
「先程、国籍不明の艦船の接近が確認されました。ミナリア様の元へ、さぁ。」
「わ、分かった分かった‥」
俺は水兵に助力されながら部屋に戻った。
戻るとすぐに放送が流れた。
<こちら艦長。つい先程、本艦隊から左前方に1隻の軽巡洋艦、7隻の駆逐艦を確認。周辺国籍であることが確認できない為、厳重に警戒し、本海域を突破せよ。‥対艦警戒。>
「‥大丈夫なのかな?」
ミナリアが国王陛下に心配そうに言う。
「大丈夫さ、我が国の海軍は世界有数のものだからねぇ」
俺は取り合えず自分の机に向かい、椅子に座っている。
すると背中からエリカが話しかけて来た。
「ツツラさ~ん。こんな事になるなら乗らなければよかったです‥‥」
「行けるって。だって戦艦だぞ?そう簡単に沈むわけないだろ。」
船の機関のパワーが上がり、航行速度が速くなる。
室内は大きく揺れ、固定されている机等がミシミシと音を立てる。
「ゆっ揺れるなぁ!」
海に浮かぶ城である戦艦<ヴォイトーク>と、小さな砦である駆逐隊は二手に分かれた。
数隻の駆逐艦と戦艦<ヴォイトーク>はそのまま航行し、駆逐隊は敵と思われる艦に接近する。
殴り合いに特化した戦艦であっても、国王陛下を乗せているとなると尻尾巻いて逃げるしかない。
‥‥艦橋横には双眼鏡を持った見張り員が監視しており、不明艦の動向を探っている。
同伴している航空母艦からはエンジンを鳴らし、観測機が飛び立っていく。
「もしかしたら内湾周辺国の艦隊が出しゃばって来たのかも知れん。もしくは赤軍の七七駐屯軍か?」
「七七駐屯軍‥‥海外領土の駐屯軍ですか‥」
「もうあと数日でニッポニアだ。絶対襲わせるな。」
「はい、艦長。」
味方の駆逐艦の一隻が汽笛を鳴らした。
退去するように警告しているのだ。
そして‥
「――――――不明艦から発砲煙!」
――と、一波乱あったが‥‥
俺、艦長、ミナリアと国王陛下は乗組員の操縦する艦載の内火艇に乗り、その艦に渡っている。
その艦の国籍はニッポニアだ。
―――――またの名を「大扶桑帝國」と言う。
俺達の乗る船は直に艦の左舷に接舷した。
そして上から覗き込む若い白い制服の水兵は‥‥
「どうも、ロズポンド王国国王陛下及びミナリア様。艦長が待っております。今、引き揚げますね。」
まさに日本人だ。
とても見慣れた顔だ。自然と涙が出てくる。
「ああ、ありがとう‥‥」
「勝本であります。」
「ああ、カツモトさん。」
艦に装備されている収容クレーンで引き揚げられた。
甲板には肩に階級章、白い軍帽の姿で、艦長と副長と思しき男性二人が敬礼しながら直立している。
「ようこそ、我が艦<飛揚>へ。」
先程撃った砲は空砲で、礼砲として射撃したとの事。
戦闘状態は避けられた。
「これはどうも、艦長さんかな?」
「はい。私は<山本 五郎>と申します。こちらは副長の‥‥」
「<新井田 信介>であります!」
国王陛下は二人とも握手し、俺とミナリアは会釈を返した。
<ヴォイトーク>艦長も帽子を脱ぎ、艦長と副長に挨拶を交わした。
それが済むと早速艦内に案内された。そのまま帝國艦隊と王国艦隊は合流し、帝國へ向かうとの事。
「‥‥ここ内湾にソビエティア連合加盟国の実効支配が及んでいるのです。そこで本国は極東文化圏の保護を名目に警備活動を。」
勝本艦長と国王陛下は艦内の部屋で会話している。
会話内容からしてニッポニアは強い国のようだ。
‥‥二週間が経った。
艦隊は厳重な警戒態勢で扶桑国の帝都港に入港した。
帝都の名称は「平卿府」。現実の神奈川県から東京都全域を含めた府県だ。
甲板から下船用のラッタルを下ると、沢山の扶桑国の兵士が整列していた。
国王陛下の後に続いて、別々の専用の公用車に乗車する。
「街の風景は少しふる‥いやモダンだな。」
「ケイジはここの出身なんでしょ?」
「そうそう。懐かしい。」
車は人の賑わう大通りを走って行く。
見える景色はレンガ造りのビル、百貨店や木造の民家が並んでいる。
歩道にはいわゆる「モガ」と「モボ」が歩いている。歴史の授業で言うと日露戦争前の日本だろうか。
到着した先は外交官や来賓が寝泊まりする迎賓館だった。
「福仲迎賓処」と言うらしい。
「ここか。何か長崎のあれに似てるな。はうす‥」
「では執事様と来賓様は、別の部屋でございますのでどうぞ着いて来てください。」
散切り頭の車の運転手が誘導してくれる。
‥‥てか俺は別室なのか?専属執事兼護衛官なのに?
「じゃ、ケイジ。また後でね。艦内生活で疲れた分、しっかり休んでね?」
「は、はい‥」
館は三階まであり、一階には庶務に。二階からは従業員と言う名の武官や外交官が。
三階には来賓・国賓が寝泊まりする。
「(安全保障上の措置って事か‥)」
「執事様は二階の部屋でございます。どうぞこの部屋に。」
と教えられたのは窓際の部屋。
外の景色がよく見えるが‥窓際部署かぁ‥‥
「ではお寛ぎください。」
久しぶりの広いフッカフカのベッドに飛びついた。
複数人で寝る為なのか、二人以上は寝れる大きさだ。
「いやぁ~‥疲れたぞ‥」
艦内生活の疲れが溜まっているのか、そのままスーツで眠りについてしまった。
- Re: 転生と言う「拉致」 ( No.16 )
- 日時: 2023/01/05 16:56
- 名前: 赤坂 (ID: dYnSNeny)
三章1 愛国
※本章からは、二次大戦当時の日本の政治的背景をモチーフにした内容が出てきます。
※なお、作者赤坂と本作品には如何なる思想や国家に対し、差別する意図はございません。
―――――天国から見る夢か、それとも帰還か。
次に見えた景色は蛍光灯と、周囲がやけに白い部屋だ。
夢のはずなのにはっきりと意識があると思う。明晰夢?
「‥あぁ‥‥」
声が籠る。何かマスクを着けているのか。
このままだと埒が明かないもので、取り合えず体を起こしてみる。
両手を着き、体を上がらせる。
「‥ふぐっ?!」
背中を曲げようと試みると、腹部と背中に激痛が走る。
変に動いたからなのか、アラームが聞こえる。
奥から急ぐ足音が聞こえる。
「‥津々良さん!?お、起きましたか?!」
声の聞こえる方へ目をやると、白衣を着た男性看護師がいた。
一見、アジア人だ。
「津々良さ‥‥ちょっと待っててくださいね!?今、先生を‥」
その看護師はヤマグチ先生、ヤマグチ先生と叫びながら廊下へ走って行った。
俺は未だボケているのか、痛いのに体を動かそうとする。
汗をダラダラと掻いて、何とか‥‥
―――景色が暗転する!?‥
「‥‥‥はッ!?」
次に目を覚ましたのは、昨日の客室だった。
今度は何も痛くない体を起こした先には、皆が立っていた。
「おはよー!お仕事の時間ですよー?」
「‥‥何だお前か‥」
「な、何だって何っ!酷いなぁ」
皆は多少怒ってそう言った。
「ち、違うんだ‥」と弁解しようとした時、
「‥なぁ皆。」
「‥っ、突然どうしたの?そんな神妙な顔して‥?」
「変なこと聞くけどな。俺はあの時、本当に死んだのか?」
――あれは恐らく病室。あの看護師の顔は日本人か?じゃあ、俺のこの世界は‥
俺の脳内は混乱に塗れていた。
何も結論が出ず、この巡りを空ぶらせるばかりだ。
「実は偉く現実的な‥明晰夢を見たんだ。だが夢であるのは確かなのだが‥」
「感覚があったりして?」
「‥そう!そうだ。腹部に強烈な痛み‥刺されたところと一緒な気がする。」
「‥いや、こんな事考えていても仕方ねぇや。さっさと着替えて、飯に行こう。」
俺は、昨夜寝ている間に置かれていた茶色の旅行鞄を開けた。
中にはスーツなどの着替え、洗面用具が入っている。
真っ黒の綺麗なスーツに袖を通し、ボサボサの髪を洗面所で整える。
ホルスターに銃を通し、準備オーケーだ。
「さぁ、出るか。」
「うん。」
「あ、食堂は一階中央だよ。着いて来て!」
皆の案内で着いた食堂は、セントルファー邸のとは違い、質素なものだった。
だが落ち着くな。
食堂の席にはミナリアが座っていた。こちらに気づいてにこやかに呼んだ。
「ケイジ―!」
「お、おう。今行くよ」
ミナリアの席には二人分の食事が置かれており、皆と俺はそれを取り‥
「おお!和食かぁ‥。しんみり来るなぁ‥」
「久しぶりだよねー。」
食事の献立は‥
味噌汁と白米、漬物に魚。今じゃあ一般的なものだが、この時代にはさぞ贅沢だろう。
箸を取り、手を付けた。
「じゃ、いただきます。」
と、さっさと平らげてしまった。
食後には新聞を読んだ後、散歩にでも出かけようと思ったら。
「私も着いてく。ニッポニアなんて初めて来るな~」
と、ミナリアが飛びついて来た。
「そうか。じゃ、護衛官としてはついて行かざるを得ないな。」
俺はミナリアと共に表玄関を出た。
階段を降り、目の前の正門に向かい歩道に出る。
‥‥しばらく歩いていると
「あ、やべ。ここの通貨って持ってるか?」
「それについては大丈夫!ここの交通機関は全て国営で、私の持ってるパスを見せたらタダで乗れるよ。」
と、ミナリアはポッケから「扶桑国外務省 国賓優待証」と書かれた手帳を見せて来た。
今の日本の外交特権か。
「そうか。じゃ、早速チンチン電車にでも乗るか。」
「ち‥ちん?」
「あそこの大通りにレール走ってるぞ。‥近くに駅があるからそれに乗ろうぜ。」
「う、うん。任せるわ‥」
ここは「三草之駅」と言うそうだ。軍服姿の兵士が数人待っている小さな駅だ。
数分経って、黄色い可愛らしい電車がやって来た。
「さ、乗るぞ。」
小さな車内には、背広姿の男や和服姿の女が座っている。
俺の西洋服の格好と、扶桑では見られない顔つきの美女に凝視している。
髭の生やしたお爺さんに声を掛けられた。
「お、おいおい兄ちゃん。あんた何で、別嬪なお嬢さんと一緒に、そんなヘンテコリンで暑そうな格好してるんだい?」
「へ、ヘンテコリンて‥‥」
「ケイジ、ヘンテコリン?ベッピン?って何?」
俺は取り合えず、開いた座席に座った。
相変わらず、視線がこちらに向く。
「ヘンテコリンってのは、変な、って意味。で、別嬪は美人って事!」
「そ、そんなぁ美人だなんて//」
隣に座る婦人がミナリアに話しかける。
「お嬢ちゃん。こんな紳士な人と何処に行くんだい?」
「え、えっと‥何か自然の景色が見られる所に行きたいです‥」
「そうだったらね、あと二駅先の<新城ヶ丘>って駅に降りると、夏の青々とした山景色が見れるわよ?」
と、いう事でそこに行ってみる事にした。
列車の車掌に「にいじろがおか~、にいじろがおか~」と言うと、俺達はそこで降りた。
降りた先には、長い階段があり、そこを登っていく。
「ハァ‥何段あるんだよ?」
「ケイジ~。先に行くよ~!」
ミナリアはタタっと階段を登って行く。
この神社の様な長い階段をぜーぜー言いながら登り終えると、目の前には壮大な山々と、風に揺れる木々が目に入った。
「やっと‥着いた‥‥」
「ねぇねぇ目の前が緑だよ!! こんな景色中々見れないなぁ!」
と、初めて見るであろう光景に一人心弾ませるミナリアを見ていた。
何処かエリカと似ている気がするぞ。ご機嫌だ。
「――――津々良さんですよね。」
「‥!?!?!?」
背中の方から突然、声を掛けられた。
即座に振り向くと、黒い軍服姿の若い少年がいた。
「そ、そうだ。軍の方がどうしてここに?」
「いえ、軍の者ではございませんよ。警視庁の者であります。あなた方の護衛に。」
よく見ると、腰には拳銃と警棒。
胸には朝日影。
「それはありがたいが‥実はミナリア殿下と関わって良い人間は俺だけだ。帰ってくれ。」
警官の俺は知っている。
警察機関の人間を名乗るには、警察手帳がいるはずだ。その手帳の中身を見せる癖がない。
新人警官とは言え、警視庁の国賓護衛を新人に任せるわけが‥
「それは無理です。警視庁及び内閣府からの命令です。」
「じゃあ、警察手帳を見せろ。」
「んっ‥‥。」
まるで持っていない事を露わにするように動かない。
‥しかも奥からぞろぞろと軍服姿の男女がやって来た。
「お前らは何なんだ。」
「‥私の部下ですよ。何か問題でも。」
まるで何処かのカルト集団みたいに薄気味悪い奴ら。
とにかく、危険そうな人物は近づけないようにしなくては。
「じゃあ、そいつらも警官か?」
「‥同志だ。」
「え?」
彼らの軍服をよく見ると、「大扶桑人民同盟」と刺繍されている。
人民同盟‥?
「じんみん‥どうめい?って何なんだよ」
「俺達は警官じゃない。お前の連れている女に用があるだけだ。」
そう言い、装備している回転式拳銃を取りだした。
その銃口を俺の額に向ける。
「何をしているの?!」
「ミナリアッ‥‥」
おいおいどうするよ!!
――――ちょっとまずいね‥
不味いどころじゃないぞ、こんなんどうするんだよチクショウ!!
ちょっと動いたらバキューンだぞ!!
――――助けたいけど‥。取り合えず、ミナリアちゃんを守らなきゃ。
だよな。
「同志‥だったな?」
「それがどうしたのです。」
「それって社会主義的なアレか?ほら‥ソビエティアの‥」
この時代で、この言い回しって来たら左翼的なアレだよな。
大逆事件は起きないルートか?
「そうです。同志シュルカノフ書記長の下に、国民の平等な幸福が実現されるのです。」
「ならば勝手にすがっていればいいだろう。何故、ミナリアに固執する?」
「‥戦争です。王侯文化圏の戦争だ。」
「ここでミナリア殿下を殺し、セントルファーも殺せば王国は終わる。そして世界革命の一歩になるのです。」
「そんな無茶苦茶な‥」
俺は沸々と怒りが湧いて来るのを感じた。
何でミナリアが関係するんだ。
「そうだよな‥。こいつ見たいな奴がいるから人に警戒心を持つんだ。」
「な、何ですか?」
「ケイジ‥?どうしたの?‥」
俺は脳天の拳銃を掴み、怯える少年を蹴りつけた。
ソビエティアの軍人や信者なんてクソ食らえだ。あの変人堕賢者も、セントルファーを殺した暗殺者も、そもそも‥
「本国でミナリアを殺そうとした男も‥‥」
「あぁ‥。あの男はお前に撃たれたんでしたねぇ‥」
唇から血を流しながら答えた。
「やっぱりお前らがァ‥」
今までミナリアに付きまとう不幸や、あの国で起こる問題はこいつらが‥
俺は奪い取った拳銃を構え、戸惑いなく撃ち抜いた。
「やっちゃった‥」
ミナリアはキョトンとして呟いた。
正直言って殺人には慣れていた。何回も引き金を引き、これまで四、五回は人を撃った。
俺の周りにいる「同志」は驚愕の顔をして動かない。
「さぁ、お前らも帰れ、さぁ!」
真上に残る弾薬全て撃ち、警告の意を示した。
そうするとさっさと逃げて行った。
「こんなものか。あいつらの根気は‥」
「も、もう大丈夫なの‥?」
「‥!?‥ああ、大丈夫だ。さぁ戻ろう。」
俺はミナリアの手を取り、もう息の無い少年の顔を見た。
何故か幸せそうな顔をしている。
軍服の胸ポケが膨らんでいる。
「何か入っているな‥」
中には手帳が入っていた。
パラパラとめくると、白黒写真と名前が書かれたページを見つけた。
石島 伊祖(いしじま いそ)と書かれている。
「‥せっかくの楽しい観光が台無しだ。さっさと帰ろう。」
「う、うん。」
俺達は帰りの電車にせっせと乗り込み、三草へ乗った。
今思うと新聞の表に<帝國陸軍中佐、赤の凶手に散る。>と書いていた。
赤、は赤軍か‥?
- Re: 転生と言う「拉致」 ( No.17 )
- 日時: 2023/01/05 17:51
- 名前: 赤坂 (ID: dYnSNeny)
三章2 伏兵
「ケガはないか?」と、俺は横に座るミナリアに目をやった。
ミナリアは先ほどの騒動に戸惑いながらも冷静を取り戻そうと、微笑みながら「大丈夫だよ!」と返す。
「‥どこに行っても一国の王女というのは苦労するな」
まったく気の休まらない、と王女のその心労は絶えないだろう。
そもそも考えてみれば今は戦争中なのだ、今も王国の何処かで戦闘が発生している。
――――こんな所で殺られるわけにいかないよ
分かっている。取り敢えずは館に戻らなければいかん。
同志、とされているヤツら。絶対まだ沢山いるよな?
――――きっと何処かに潜んでいるかも…?
「二駅過ぎたらすぐだからな。」
迎賓処は駅から出ると歩いて一分もかからない。目と鼻の先だ。
だがきっと迎賓処の近くにも潜んでいるかもしれない。
幼い子供を寝かしつけるような電車のリズムに、安心しきったミナリアはスヤスヤと寝息を立てている。
やがて、車掌が鈴を鳴らし、
「まもなく、みくさの~みくさの~」
と乗客に知らせた。
降車駅だ、俺はミナリアを軽く揺さぶり起こそうとした。
電車が駅に入るところだった、一台の黒い車が左の前方からかなりの速度で突っ込んでくる。
「――危ないッ!」
甲高い警笛を鳴らして間もなく、車は正面から衝突した。
衝撃は一両しかない車両に伝わり、衝撃音とともにミナリアは飛び起きた。
「キャッ!!」
強い揺れに体を奪われ、俺はミナリアに覆い被さるように倒れた。
「痛ぇ‥、チクショウ」
俺の背中に何か突き刺さったような痛みが走った。
揺れる脳でグラつく視界を耐えながら体を起こしてみると、周囲には座席後ろのガラスが割れて飛び散っている。
‥ミナリアを守らねば!
「おい!起きろミナリア!」
「う、うん‥?」
幸い、ミナリアにはガラスの雨がかかることはなかったが、強く頭を打ったようだ。
酷い傷じゃないか。
ハンカチで頭から少々溢れる傷口を抑え、俺はミナリアの肩を担いだ。
「ここから出るぞ、事故った。すぐ近くに迎賓処もある‥。」
多分違うだろう、要人の乗る車両に外部から事故を装う。
襲撃犯によくある手法じゃないか、それか都市伏兵か?
俺は片手でホルスターに手をかけ、後部の車両ドアを抜けながら拳銃を取り出した。
周囲を見渡すと、事故の衝撃音から集まった野次馬に、交番の警官が群がっている。
ドアから降り、左を見ると先ほどの車が衝突し煙をあげているのが見える。
「さぁ、移動すんぞ。」
「わかった‥。ありがとう。」
ミナリアは肩を担がれた状態から回復し、俺の手を握った。
無理はさせるが、走って逃げ込む。
「走るぞ。治療は向こうでできるからな。」
左右を見渡し、目の前の野次馬を掻き分け、車道から迎賓処に向かって走り出す‥。
突如、バン!と軽やかな発破音が響いた。
走り抜けようとした足が熱くなった。
「――――ッ、足がッ!」
足を抜かれたのだ。激しい出血でズボンが赤黒く染まっていく。
俺は痛みのあまりまたも倒れこんでしまった。手を引いていたミナリアもつられてこける。
「(しまった!)‥ミナリアッ!走れッッ!」
「ケイジ!手を離さないで!さッ!」
ミナリアは倒れた俺を引っ張ろうとしている‥。
――バンッ!
また先ほどの銃声が響いた。
どこだ!?、と焦ったときだった。
「‥ミナリア?!」
胸を撃ち抜かれ、赤い血しぶきをあげて‥。
ミナリアは声にもならない声を出し、そのまま仰向けに倒れた。
ミナリアがまた、殺されて、しまった。