コメディ・ライト小説(新)
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- 転生と言う「拉致」
- 日時: 2023/01/19 19:43
- 名前: 赤坂 (ID: dYnSNeny)
――――「異世界」を知っているか。
‥‥現代の日本では年間五千人の若い男女が、何らかの事故事件、又は他殺に限らず自殺する等して「異世界」とやらに「転生――否「拉致」されている。
勿論、皆が知る転生は「拉致」なんかではなくある一種の「運命」だと感じるだろう。
が、年間五千人もの一般市民を、しかも未来ある若者をそう易々を殺され、その身体又は意識を異世界に連れて行かれると大迷惑だ。‥‥しかも少子化の日本で。
最早、少子化の原因はこれなんじゃないかとも言えそうだ。
この「転生」と称した「拉致」はその現象に至るまでに大きな特徴がある。
「転生する過程に絶命する」
これは完全に意図的に起こっていると言えるだろう。何故ならば、この現象は実に計画性を有しているからだ。
もし、「不慮の事故」や「たまたま事件に遭遇」ならば悔やむしかないが、そこの第三者の君!見ているだろ‥‥向こうで説明受けてる所!
その内容も実に、実に恣意的だ。いや、これは向こうの事情かも知れないが、まずは内容の例を見て行こう。
例「実は‥‥君の力がいるんだ!この世界を助けてほしい!‥‥だから君をここに連れて来たッッ!」
はいこれ。完全に「元から君を殺す気満々でした。」と自白しているだろ?尚、「連れて来た」は「殺す・拉致する」と捉えてもらっても構わない。過程が過程だからだ。
よって、計画性は認められ、ついでに理由も自分勝手だったと言うわけだ……
―――――俺もその被害者の一人だ。 クソが。
――――――――――――――――――――――――
登場人物
(序章)>>1
・津々良 啓二(35)
警視庁刑事部に所属している男性。そして本作の主人公。
いつも何処か抜けているが、いざという時は頼りになる。
・早稲場 國江(25)
津々良の後輩。津々良の事を慕っている女性。
いつも冷静で、津々良の支えとなっている。
・皆 芳香(17)
序章における捜索対象。女子高生。
少し雰囲気が暗く、不思議な女子。津々良に大きく関わる事になる。
(一章)>>2-8
・マルーン・ハンス(21)
一章1で登場する馬車を操縦する御者。第一異世界民。
ロズポンド王国近衛師団の騎兵隊の馬を操り馬車を走らす。
とても明るく元気な若者だ。
・ミナリア殿下(17)
一章2で登場するロズポンド王国の殿下。苗字はコンタイン。
性格は気弱いがとても親切な女性だ。
作中で主人公とハンスに大きく関わる。
・セントルファー国王陛下(64)
一章3で登場するロズポンド王国の第57代国王陛下。
とても温和な性格でジョークを飛ばす。
・セナ・アンジェリカ(22)
セントルファー国王陛下の宮殿で働く召使い。
謙虚な人柄で、可愛らしい。
・グロリア・ルントー(24)
同じく宮殿で働く召使い。
津々良に対し冷たいが、作中では面倒を見る事になる。
・フローレス・フォンタイン(72)
宮殿で働く召使いの中では最年長。
常に冷静で、役職はメイド長。眼鏡を掛けている。
・エリカ・フォンタイン(13)
フォンタインの孫。宮殿で最年少の召使いとして働く。
作中には書かれないかも知れないが、両親を戦災で亡くしている。
(二章)>>9-15
・コリウヌ・ファラヌイス(??)
異世界の五大賢者の一人。訳あってか堕賢者なるものに変わった。
作中では強力な腐敗魔法を見せつける。
・ウィスタネル・レオナード(76)
ロズポンド王国の首相。もうすっかりお爺さんだが頭はキレる方。
作中ではソビエティアに対し、髪の無い頭を抱える事になる。蒼白顔。
・フォステン・コンティ(72)
ロズポンド王国の外務大臣。高身長に眼鏡を掛けた男。
首相の元に働く補佐役も務める。実はフローレスと幼馴染。
・司書さん(??)
セントルファー邸地下図書館の管理人。
少し痩せこけた顔で不思議チックなお爺さんだ。魔法が使える。
(三章)
・石島 伊祖(18)
「大扶桑人民同盟」と言う革命組織に属する。
序盤に登場し、津々良達を襲い、革命の方針を語る。
・竹本 高徳(21)
人民同盟に属する石島の仲間。
大柄な男で張り切った声で話す。ソビエティアから流れた狙撃銃を愛銃としている。
・九十九 稔枝(16)
人民同盟に属する石島の仲間。
石島とともに行動するメンバーの中で最も身長が低く最年少。丸眼鏡におとなしい少女だ。
・棚田 宗(21)
人民同盟に属する石島の仲間。
頬骨の突き出ている無口な男。普段から作業帽を被って脱がない。
・大村 玄(65)
人民同盟の議長。いわゆるリーダー。
多くの「同志」に慕われ、津々良たちを優しく相手する。
- Re: 転生と言う「拉致」 ( No.8 )
- 日時: 2020/01/25 01:42
- 名前: 赤坂 (ID: uFovKUbX)
一章 6 結果
王立陸軍 クバ収容所
俺はこの薄汚い、暗い収容所で取り調べと言う名の暴行を受けていた。
急がないと間に合わない‥‥。こんな所で足止めを食らうとは。クソ!
皆、やり直しは出来ないのか‥‥
――――出来たらしてるよ。どうやらここでは縛りを受けているようだよ。
縛り?
――――そう。ここらでは「マ」を使う能力は封じられてる。
つまり、その「マ」を使うであろうお前のやり直しは、お預けって事かよ。
――――そうね。
クソッ!一体何が目的でこんな仕打ちを‥‥!
こういう時、大抵はヒロインや仲間が助けてくれるって言うのが定説だ。
が、今回はそうとは行かなそうだ。
てか、やり直しが効かないって‥‥詰んだか?これ。
「チクショウ!何でこんな事に‥‥」
勿論、銃は奪われ、持っている物は全てボッシュートだ。
抵抗する術がない。
しばらくすると休憩に行っていた陸軍士官が帰って来た。
クソ、こいつの顔を見てるとムカムカする。
「よぉ~外人。良い子にしてたか?へへへ」
「(舐めやがって)‥‥お前の<良い子>はこんな顔か?」
俺は睨み返した。
「‥‥おうおう。元気そうじゃねぇかよ。もう数発行くか。」
そう言いだすと、そいつは警棒を腰から取り出した。
そして俺の顔面めがけ、振りかざす。
「くッ!」
バン!、と大きな音を立てる。
それも連続で、だ。
俺は気の狂いそうな痛みに悶え、意識を保とうと堪えていた。
「‥‥ハァ‥ハァ‥。一体何が目的なんだ。」
「‥‥‥」
「‥‥無いんだろう。じゃあ俺を拘束しておく意味など無いな。この手錠を解け。」
「黙れ黙れ、黙れ!!調子に乗るなァ!このジジィ!」
「‥‥ガァッ!」
奴はもう一度その警棒を振り下ろした。流石にこの一撃は響いた。
俺は目の前が暗くなり、意識が飛んだ。
――――――そして気が付くと、俺は銃を撃ち、男の頭を貫いていた‥‥
‥‥いや、城門が爆発する瞬間に‥違う、防空壕から出て来た時に見た兵士の死に顔‥‥
‥‥死んでもぬけの殻になった国王陛下の体‥‥‥泣き崩れるミナリアの姿―――――
これら全てが数珠つなぎになって、俺の瞳に映る。
‥‥‥次に映ったのは、血生臭いコンクリートの天井ではなく、大理石の天井の下で床についていた。
「ッ!‥‥ハァッ‥ハッ?!」
俺は一気に体を起こすと、体中で濡れた感覚がした。
どうやらおぞましい程の寝汗を掻いていた。全身ビショビショだ。
周囲を見回すと、そこには召使いであるセナ、とグロリアがいた。
「お客人が目を覚まされました!」
セナが部屋のドアを開け、外の人に向かい叫ぶ。
「本当か!今行く!」
外から男の声がする。
数人の足音がバタバタと近づく。
ぼやける瞳に映ったのは白衣の男と、黒いスーツ姿の爺さん‥‥
そして少女の顔。
「‥ああ。あぁ‥‥」
うまく言葉が出ない。浮かばない。
やがて一人の医者が言った。
「目は、見えてますか?‥あ、このペンを見てください。」
そう言い、彼は黒い万年筆を取り出した。
俺はそのペンを何とか追った。
「見えて‥いますね。起きてます。」
「あ、あぁ‥‥。」
「無理なさらないでください。先程、ミナリア殿下の治癒魔法により経過を見ている所です。この魔法には軽い麻酔効果がありましてね。恐らく、寝ぼけたような感覚になります。」
治癒魔法か。便利なものだ。
あ、そういやハンスは‥‥
「あ、あ、あんす。は、ハンスは?‥‥」
「ハンスさんはもうすぐ到着しますよ。」
医者は下がり、ミナリアに話を代わった。
ミナリアはホッとしたような様子だった。
「助けてくださった方。ホントに良かった‥あなたのお陰で傷つかずに済みました。なのにこんな‥」
「い、いや‥大丈夫、だ。ここは‥‥」
「ここは私のお父様、セントルファー国王陛下の宮殿です。」
どうやら俺が気を失っている間に、ここに運ばれたらしい。
俺の体は傷だらけで、至る所から血が出ていたらしい。
「そう、か。‥‥あッ!銃は!?」
そうだ。あの時、ベレッタもその他の色んな物も奪われたんだった。
セナがこちらにやってきて
「こちらにありますよ。ご安心ください。」
大事な荷物の確認が済んで安堵した矢先、本来の目的を思い出した。
「今日、今日だ!今日にでも!」
周囲の人間は困惑した顔になり、こちらを見つめる。
ミナリアは先手を切って、何なのか聞いて来た。
「な、何かあったのですか?」
「今日はセントル‥国王陛下が中央区に行って、それで襲われ‥」
「お父様ですか?だったらここに‥」
やぁ!、と笑顔で出て来たのはスーツの爺さん。
あのジョークの好きなセントルファー国王陛下だった。
俺は自然と涙が出て来た。この方を助ける為に苦痛に耐えてきたのだ‥‥
涙が出ると共に、言葉も失った。
「お、おお‥‥!おおっ‥‥」
「ど、どうしたんだ~!!何で泣いているんだ~?」
セントルファー国王陛下は苦笑しながら、抱き着く俺をかかえてくれた。
しばらく泣いた後、俺は自力でベッドから降り、シャワーを浴びようと浴場の場所をセナに聞いた。
「浴場ですか?お連れしますよー。着いて来てください~」
「頼むよ。」
部屋を出て、廊下を歩く途中、俺の服が気になったので聞いてみた。
「そ、そういやぁ、俺のスーツは?」
「もうボロボロなので‥捨てました!」
捨てました!、じゃねーよ。
マジか、案外高いスーツだったのに‥
「じゃ、じゃあ俺の服はどうしたら‥」
「あ、一級の仕立て屋に頼みましたよ!と言っても私ですけどね~」
本人は裁縫や服を仕立てるのが得意なようで、趣味で多くの服を作ったと誇らしげに語った。
そりゃよかったな。
階段を降りて、大きな洗面所に着いた。
肝心の風呂場は、お高いホテルの大浴場を独占したような感じだ。
「デッッッッケェェェェェ!!!」
「‥‥じゃあごゆっくり~。私は外で待っておりますので何かあればお声がけくださいね。」
さっそく俺は素っ裸になり、人生で一回やってみたかった浴場にダイブしてみた。
「行くぞォォォォ!!」
俺は駆け出し、湯舟に向かいジャンプした。
勢いよくお湯の中に入ると‥‥
「‥‥ア˝ッッッヂィィィィィィィ!?!?!?」
「どうかされましたかお客様!?」
結局、全身がジンジンする中、新しいパジャマを着て出て来た。
お湯のせいで顔が真っ赤だ。
行き先が無いので、さっきの自室に戻ることにした。
「疲れた‥‥。まさか風呂があんなに熱いとは‥」
そう愚痴を垂らしながら、自室のドアを開けた。
部屋の中には、ベッドに座っているミナリアがいた。
「あ、お帰りなさい。お風呂どうでした?」
「良かったです。はい。」
「‥!その顔、どうしたんですか?!」
「ちょっとのぼせました。大丈夫です。にしても何故、ここに?」
少し驚いて敬語になっている俺に対し、真剣な顔になったミナリアが口を開いた。
「実は‥‥」
「じ、実は?」
「私の執事になって欲しい事を話しに来ました。」
「しつじ?執事‥。」
そう言えばそんなイベントもあったな。
「はい、専属執事になって欲しいのです。」
「もちろん、拒否権はありません。国王陛下による命令です。」
「えッ、拒否権ないんですか。」
はい、と笑顔で答えた。
何か強かだな、このお嬢さん。
――――良かったじゃない。こんな可愛い子の執事でしょ?
お前、いたのか。
そうだよ、こいつの専属執事だよ。
――――拒否権ないんでしょ?やるしかないじゃん。
そうだな。
―――――良いですか?」
「‥‥分かった。やろうじゃないか!」
前回は出来なかったが、これからは専属執事ライフの幕開けだ。
やる事は多そうだが、前回聞いたし。
「でも、セナがスーツを仕立てるのとあなたの傷が癒えるまでは休憩で~す。」
「えっと‥‥名前を。」
「‥‥名前を言って無かったですね。私はミナリア。<ミナリア・コンタイン>。公的な所じゃなければミナリアって呼んでね。」
「そうか。俺は<津々良 啓二>。よろしく。呼び方は任せる。ミナリア」
コンタインって苗字か。初めて聞いた。
前回は「ミナリア」しか聞かなかった。
傷が癒えるまでは休暇か。
早く治って欲しくて、ホント待ち遠しい。
- Re: 転生と言う「拉致」 ( No.9 )
- 日時: 2020/01/26 08:46
- 名前: 赤坂 (ID: uFovKUbX)
二章1平和とちょっとしたハプニング
―――――やっと手に入れた平和な生活。
専属執事に指名されてから一週間が経った。
全身の傷も動くのに不自由しない程に完治した。
そんな中、俺は部屋のベッドに腰掛け、ただただボーっとしていた。
「あー‥。暇だなー」
――――暇そうだね。
暇そう、じゃなくて暇だよ。
折角完治しても、勝手に外には出れないしなぁ。
――――でも、このままじゃニート。
こら、そんな事言うんじゃねぇ。
突如、部屋のドアが叩かれた。
「失礼しまーす。」
ドアが開くと、セナとエリカが入って来た。
セナの手には新しいスーツが。エリカの手には採寸用の道具が。
「スーツが出来ました!来てください、さぁさぁ!」
「うおおお!!出来たのか!」
早速、セナからスーツを受け取り、手を通してみる。
その姿を鏡で見てみると‥‥
「(やべ、何かおやじ臭いな‥‥)‥なかなか良いじゃねぇか!」
――――ププッ!スーツ来た途端、中年のおやじになってんじゃんwwwwww
ファ、ハァァァァ!?
エリカはスーツのズボンと、袖を図った。
「ぴったりね!」
「じゃ、これからはお仕事頑張ってくださいね♪」
「お、おう!」
エリカの声援もあり、一気にやる気が出て来た。
勿論、警官たる俺がロリコンって言うわけではない。
セナに、準備が済んだら一階に来るように言われた。
取り合えず荷物をまとめ、一応ホルスターを腰につけ、銃を装備しておく。
急ぎ足で大階段を降りると、グロリアが立っていた。
「やっと来たわね。遅いじゃない。」
「悪かったな。病み上がりなんだよ。」
そんなこと言ってたら執事なんてできないじゃない、と文句を立てて来た。
「とにかく、一日の基本業務を言うわね。覚悟しなさい?」
「お、おう。早く言えよ。」
どうせ、この前見たいにダラダラと業務内容を言っていくんだろうなぁ。
と思っていたが。
「基本、護衛官としてミナリア殿下のそばに居とくだけね。」
「え?」
「近くで歩くだけ、あ、でも他のメイドのお使いとか手伝いをしてもらうかもしれないわ。」
「やっぱそうか‥‥」
「適当に作ったメモを渡しとくわね。見ときなさい。 じゃあ私は仕事に戻るわ。」
そう言い、グロリアは颯爽と戻って行った。
どれどれ、どんな時間割だろうか。
朝の内容。
4:00起床。4:30までには準備を終える事。
セナと一緒に殿下の部屋へ、4:50には殿下を起こす。
起こした後には部屋の前の掃除。5:30までに終わらす。
‥‥ってこの前と同じかよ!
「マジかよ‥。こりゃ大変だな‥」
「今は午前九時か。殿下のお話相手か‥」
メモを一通り確認したら、ミナリアの部屋に向かう事にした。
ドアの前に立つ。なんかちょっと緊張するな。
「ミナリアー。入るぞー」
ドアを開けると、机に向かい本を読んでいるミナリアがいた。
部屋の中はほとんどが真っ白で、朝の太陽に照らされ部屋が明るい。
ミナリアの机の隣には本棚がある。
「‥‥!あ、おはよう!ツツラさん!」
「さんって。執事なんだから呼び捨てだろ。そこっ」
「ん~。じゃあ<ケイジ>って呼ぶ事にする。」
「そうか。良いんじゃないか?」
「そうする。それでどうしたの?」
特に用事などないので、「暇だから来た。」と。
「そう。私は政治についての本を読んでいるの。見る?」
「政治か。見るぞ。」
その本の内容はちんぷんかんぷんで、そもそも字が読めなかった。
何これ?
「え‥‥。あぁ、俺。字が読めねぇ‥」
「え!?字が読めなかったの?」
「ま、まぁこの国には住んでいなかったしな。俺、日本‥‥ニッポニア人だし?」
ニッポニアと言う国名を聞いた途端、ミナリアは驚いた。
「あんな遠い極東の国からやって来たの?!」
「そ、そうだ。」
「でも何でソビエティアから亡命してきたの?」
まずい。ニッポニア人のくせにソビエティアから来たのはおかしいよな。
「ああ!えっとな。ニッポニアでは陸軍の軍人だったんだよ。で、ソビエティアに送られてだな…」
「こ、この銃はニッポニアの銃だ!陸軍の兵士に支給されるんだよ!」
「‥‥な、なら国に帰りたいと思わないの?寂しくない?」
「いやはや、どうにも思わないなぁ」
へぇー‥‥と本を横目にミナリアは答える。
話題が見つからない。困った。
ここはそそくさと‥
「そうだな。勉強の邪魔を致しませんように、失礼しま~す。」
戻る為にドアを開けると、目の前にセナがいた。
かなりびっくりした。
「あ、ツツラさん!どうかしました?」
「いや何でもない。仕事の一環だ。じゃ」
「は~い」
バケモンだと思った…。
明日からは忙しいし、街の散策でもするとしよう。
自転車か何か貸してくれると良いんだが‥‥
そう考えこんでいると、窓の掃除をしているフローレスにあった。
メイド長だから、何か管理しているだろう。
「‥!フローレス!」
「はい、如何しましたかツツラ様。」
「さ、様‥‥。いや、外に行くから自転車か何か乗り物を貸してほしいなと。」
「承知しました。従者用のバイクがございます。鍵とヘルメットをお渡ししますので少々お待ちください。」
「はぁ、頼む。」
しばらく待ちフローレスが来ると、一緒に表階段に向かった。
階段のすぐ横には三台のバイクが置いてあり、どのバイクもピッカピカの黒バイだ。しかも大きい。
だが時代も時代で二次大戦時のバイクの様な見た目だ。
「バイクの乗り方は分かりますか。まず鍵を挿し、足元にあるペダルを蹴り下ろすのですよ。後、ヘルメットを着けるのをお忘れなく。」
「(そんな事知ってるよ‥‥)ありがとう、じゃ行ってくる。」
「気を付けて。では。」
俺はバイクを始動させ、宮殿前のロータリーを出た。
宮殿に続く、森林道を颯爽と走り抜ける。
風邪が顔を触れていく。これは気持ちいい!
「‥‥フォォォォォォォォォォッッッ!!!!スゲェェ!」
少しガタガタとする荒い道が下り坂になり、元からのスピードに相まってもっと速くなる。
あの時の馬車の様に、景色が一瞬で過ぎていく。
‥‥段々と住宅地に近づいてきた。
「やべ、そろそろ減速しねぇと。」
――――え~!もっともっと!」
「チッ、しゃーねぇーなぁー!!‥‥って、誰ッッ!」
後ろには姿を見せた皆が俺の腰を掴んでいた。
姿は健全で明るい女子高生の見た目だ。
「誰って‥‥皆だよ?皆 芳香。知ってるでしょ?」
「は?君、そんな姿だったのか‥‥」
「てか全身よく見ると‥‥裸ッッッッ!?」
「‥‥ああ。そうだった。いっつも透明だったから裸で慣れてんだった。」
流石に街中で裸の少女を連れているとか‥‥
世間の目がやばい。教育的に駄目な父親か、奴隷商に思われてしまう.
服を用意しないと。
「しょうがない!服を買ってくるかぁ。‥‥と言えどお金ないんだった‥‥」
「だったら津々良‥もしかして私を辱めに合わせるの?」
「な訳あるか!もう一度透明化できないのか?」
「むむむ‥‥」
皆は体を震わせ、それっぽい事をやって見せたが一向に変わらない。
ハッキリと見えている。
「ダメ。どうやらここ周辺のマが強くて、透明化しようとも体が過剰反応して戻らなーい!」
「戻らなーい、じゃねぇよ!どうやって戻すんだよ。」
「単純だよ。マの強い地域から抜け出すの。ここら一帯はとても強いね。」
「どうしようか。裸のまま街を抜けるか?」
「まー頑張ってよおじさーん!!アハハ」
自分の事だろうが‥‥
皆は腰に両手を当て、笑っている。 両手を腰に当てて。
「お、おい!丸見えだ!」
「アハハハハ‥‥はッ!」
お前に羞恥心は無いのか‥‥
――――無いよー。無くなったー
「は?!何で読めるんだ?!」
目の前にはニヤニヤしている皆がいる。
相変わらず大っぴらで。
「仕方ない。一度、宮殿に戻るか。服を調達しよう。」
「じゃ、行こう!」
バイクを反転させ、もう一度宮殿に戻ることにした。
二度手間だ、クソ。
「登りはこえーな‥‥行きはよいよい帰りは恐いってこんな事か。」
何度かひっくり返りそうになったが、宮殿前のロータリーに到着した。
適当な所に止め、周囲の目に警戒しながら入った。
「服は何処だ‥」
――――何してるのよ!!!」
後ろから女の声がした。
瞬時に振り替えるとグロリアが立っていた。
「ちょっと!街に行ったと思えば、女の子拾ってきたの!?しかも裸で!」
「違う、違うぞ!この子は‥森林道の陰に隠れていた‥その‥」
「迷い子でーす!」
「そう!迷い子だ!」
グロリアは尚も不気味がっていたが、どっちにしろ服を用意しなくてはならないので、皆とグロリアはクローゼットに向かった。
ったく何処まで世話を焼かせるんだ、この娘は。
- Re: 転生と言う「拉致」 ( No.10 )
- 日時: 2020/01/30 21:27
- 名前: 赤坂 (ID: uFovKUbX)
二章2 本拠地
あれから数分、早く外に出たい俺はクローゼットに行って皆をせかした。
てか待つ必要もないはずだけどな。
「おい、まだか。」
「―――まだ!」
「‥‥じゃあ俺は街に行くからな!!また戻る!」
「え~!ちょっと~!!」
どれだけ時間をかけるんだ。
ずっと待ってられないし、先に街へ行くとしよう。
大階段の前に停めたバイクに跨り、森林道をまた下る。
この世界の服はどんなだろうか。今まで意識してみてなかったな。
男は紳士服で、女は知らん。
「‥ちょっと気になるな。あいつ性格は腹立つけど、可愛かったし‥へへ。」
――――場所は離れても、心の声は聞こえてるから!!
「お、おい!?」
俺はバイクの操作を誤りかけた。
あとちょっとで頭から落ちる所だった。
――――変な事考えてるの分かってまーす。じゃ、行ってこーい。
もう何も考えないようにしよう。
そう思いながら、やっとの事で下りきった。
風景は北欧を思わせる白レンガに赤屋根。
そして商店が立ち並ぶ通りでは香水のにおい。
街は活気に溢れており、様々な所で人が集まっている。 これでも戦時下だよな?
「人生で初めての海外旅行って奴か。いいな」
俺はバイクを車道に走らせ、街並みと北欧美女を楽しんだ。
可愛い子が多かった。
車道の車通りは多く、バイクで来て正解だった。
賑やかな通りを抜けていくと、段々と道は整備されなくなり、
やがて小さな村落集団にたどり着いた。何処かで通りを外れたようだ。
「おう。こんな都会のど真ん中にこんな田舎か。」
バイクを降りて、村の中に入ってみる。
街の明るさとは打って変わって、何処か寂しい雰囲気だ。
ふと周囲を見渡すと、雑木林に包まれている。
「感じ悪いな‥」
「でもちょっと興味があるな‥‥散策してみるか」
建てられている民家はどれも古く、とても貧しい村だろうか。
だがその古民家の周りには、泥に汚れた深い緑色の迷彩トラックが停められている。
‥つまり軍のトラック?
「あの時(城壁前の爆撃)に見た王立陸軍のトラックは‥‥確か、深い青色だよな?」
少しずつそのトラックに近づき、慎重に荷台の中に入ろうと試みる。
僅かながら、爆薬みたいな物が見当たった。
だがその時だった。
「――――お前誰だ!」
後方から男の声がする。
まずい! また捕まる!?
咄嗟にトラックの荷台に隠れた。
「‥‥」
「おい、そこのお前!!こっちに来い、分かってんだよ!」
俺は荷台の後ろから動かず、呼吸を抑えた。
トラックの奥を非常に怪しんでいるだろう、その男はゆっくりとこちらへ近づく。
もし銃を持っていたら?もし、俺を殺しに来ていたら?
―――――もし、この世界で死んだら?
ダメだ。想像もできない‥‥
段々、足音が大きくなる。
次第に近づいてきている事が分かる。
「‥‥戦おう。」
俺はホルスターの付けられてある右腰に手を当て、いつでも撃てるように‥‥‥
‥もうすぐ隣に来る。
「くッ‥」
荷台の角から忍び寄ったその男は、一瞬にしてこちらに銃を構えた。
それと同時に俺も立ち上がり、ベレッタを奴の首に狙った。
俺と奴の目線は合い、双方にらみ合う。
「へ‥どうするよ兄ちゃん‥」
「舐めるなよジジイが‥‥」
どちらも撃てば確実に殺れる。
さて、どうする。
「このままだとどちらも死ぬ‥。そのライフルは遠距離用だろう。要は狙撃銃だ。」
「何故、狙撃銃を持ってきた?‥‥俺のベレッタは引き金を引き続ければ、撃ち続けられる‥‥」
その若い兵士は悔しそうに歯を食いしばり、手に構えるライフルを握りしめた。
「クソ‥。だがな爺さん。こっちは外さない。この短距離ならな‥‥」
どちらも呼吸が早くなる。
緊張のあまり、吐き出しそうにもなる呼吸だ。
「(‥‥急に動いて避け、俺のベレッタで数発撃ち込めば終わりだ‥)そうか‥‥」
「さぁ投降しろ。その拳銃を捨てろ。」
「‥‥ッ!死ねい!」
俺は引き金を数回引き、奴の首元から肩にかけて命中させた。
奴もその反動で引き金を引き、俺が銃を構える右肩に命中させた。
その両方の銃声が響きわたる。
「ウグッ!!!」
「痛ぇ!!ああっ!!‥に、逃げなくては‥‥」
俺は右肩から溢れる血をそのままに、バイクの元へ走り出した。
先程の銃声を聞いて、数多の兵士が飛び出してくるだろう。
必死に走り続け、乗って来たバイクに跨った。
「急げ急げ急げ!!!‥‥」
焦る気持ちが先行し、上手くペダルに足が掛からない。
早くしないと撃ち殺される‥‥
「‥‥あいつだ!ロズポンドの侵入者だ、捕らえろ!」
「急げ‥急げ!!」
何度かペダルをキックし、バイクのエンジンが鳴りだした。
直ぐに方向転換し、スピードを上げて元の通りに向かう。
「撃て、撃て!逃がすな!」
後ろから銃弾が飛んでくる。
数発は地面に落ちたが、一発だけが後輪に命中した。
少しバランスを崩したが、幸いこける事は無かった。
「ウオォォォォォォッッ!!」
命からがら振り切ったが、肩の血が止まらない。
スーツが赤く染まってくる。
しばらく走ると、賑やかな通りに戻った。
俺のバイクはスピードを下げずに通りを疾走する。
周りの通行人は俺の姿にギョっとし、沢山の目線を向けてくる。
宮殿に続く森林道の入り口に着いた。
普通なら肩の痛みで失神している頃だが、肩の血が止まらないのを同じようにアドレナリンも止まらない。
その森林道を上りきると、出発したロータリーが見えて来た。
バイクは大階段の前に乗り捨て、玄関に走りだす。
出血過多で意識が朦朧としてくる。
宮殿のドアを乱暴に開け、倒れこむと同時に意識は絶えた――――――
―――――そして見えて来たのは担架に運ばれて、救急車に乗せられる光景だ。
俺は腹を抑えられ、サイレンの中、一人の救急隊員がしきりに俺の名前を呼ぶ。
「‥‥津々良さん!死ぬな!まだ腹の傷は浅い!」
‥‥違うだろう‥‥‥俺は肩を撃ち抜かれたんだ‥‥
何故、腹を抑えているんだ。
左側に傾くと、涙目になっている早稲場がいる。
俺の後輩だ‥‥。何でここに‥‥
「ダメ!‥まだ生きれますよ!‥逝かないでください!‥‥」
「津々良刑事!センパイ‥‥津々良先輩!」
早稲場は俺の手を握り、泣いてばかりいる。
段々と眠くなる。
―――――ああ‥これが"死ぬ"って事なんだな―――――
「‥‥ゥゥゥゥウウウウウアアアアアァァァァァァッッッッ!!!」
俺は叫び声と共に飛び起きた。
飛び起きて少しすると、寝ぼけた感覚も抜けてくる。
そして視界がはっきりすると、目の前に怯えて抱き合っているセナとエリカがいた。
エリカが心配そうに声を掛けた。
「‥ツツラ‥さ、ん?」
「ッッ!ここは救急車じゃない!?」
この前と同じ宮殿での自室だった。
どうやらまた運ばれて治療を受けたそうだ。
俺の叫び声を聞いて、ミナリアと皆が駆けて入って来た。
「!!起きたの!」
ミナリアが驚きと歓喜で声に出した。
「良かった‥良かった‥。調子はどうなの?」
「お、おう。何か大丈夫だ‥‥」
皆も俺の元にやってきて声を掛けた。
「ホント目を覚ましてくれて良かった。貴方が死ぬと私も消えるから‥」
「‥す、すまんな‥‥」
俺はこの前の事を思い出した。
そうだ。軍事基地だ。
「お、おい!すぐに国王陛下を呼んできてくれ!‥‥あと、東区の地図も!」
セナは困惑した顔になりつつも国王陛下を呼びに行った。
一刻も早く伝えないと‥‥
「もうケイジ!昨日から一日ずっと意識を失っていたんだよ!?しかも、途中から呼吸が浅くなって‥‥」
「死にかけながらずっと眠っていたのか‥‥。だが‥それに見合った報酬は頭に入れて来たぞ。お国の為にってか。」
「何言ってるのか分からないけど‥とにかく、ぜっっったいに安静にしててね!」
「いや、それは無理だ。俺にはやる事があるんだ。」
ミナリアの顔はどんどん険しくなる。
「調子に乗らないでっ!あなたがどんなに危ない状態で、どれだけ心配したと‥‥」
だが俺にはこの国の為にやらなければならない事がある。
殿下のお願いであろうとも聞き入れる事は出来ない。
「すまんな。」
と返した直後、エリカが言い放った。
「国王陛下がいらっしゃいました。」
「一体どうしたんだ!?つい先週にボロボロで宮殿に来たと思えば、今回は銃弾で死にかけてくるなんて!」
俺は苦笑しながら、「まぁ、そういう星の下に生まれちゃっただけだなぁ。」と返した。
「さて、国王陛下。実は大事な事が‥‥」
「何だい?」
俺は布団の上に地図を広げ、昨日走った通りを探した。
「この地区で、古びた村落があるはずなんだ。何か知ってるか?」
「この周辺で古びた村落だね‥‥。あぁ、この森林道を下った先のルーツェン通りからだね。」
「ルーツェン通りって言うのか‥‥。そこの通りから外れた小道があるはずだ。」
国王陛下は地図の「ルーツェン通り」を書いてあるだろう所に指さし、通りを辿って行った。
その先に二手に分かれた道がある。左には商店街が。右からは木が生い茂った場所が書かれている。
「‥‥この村か‥。君、ここに入ったのかい?」
「多分そうなんだ。そこに沢山の軍用トラックが止まっていて、王立陸軍の物でないかも知れないんだ。しかも荷台の中には爆薬があった。」
「そして俺を襲った数人の兵士は、ロズポンド王国に対して敵対していた。」
「‥‥そうか。それはソビエティア軍のスパイの本拠地かも知れん。王都で破壊工作を企んでるんじゃないだろうか。」
その可能性を考えた国王陛下は、セナに電話を持ってくるように言った。
セナは小走りで室内の置き電話を取って、電話を掛けた。
「貸してくれ。」
国王陛下は受話器を取って、しばらく待ち、話し出した。
「‥‥ランディア近衛師団長に代わってくれ。」
「‥‥‥ッ師団長か。緊急の命令があるんだ。‥‥ああ、出動命令だ。今からいう場所にソビエティア軍がいる。」
「‥‥場所はルーツェン通りから外れた‥そう、その村落だ。それでだな‥今わかっている敵の数は…」
「多分、大勢いると思うぞ。」
「‥三個大隊くらいを送ってくれ。‥ああ頼む。後、そこに停車してあるトラックには爆薬が仕込まれている。十分に気を付けてくれ‥ああ、ありがとう。じゃあ」
その後、受話器を戻した。
「ツツラ君、君を信用して送ってみるよ。私は部隊と合流してそこに向かうよ。」
「ま、待ってくれ!俺もついていく。傷は‥ミナリア殿下の魔法で完治したんだ。あと俺、第一発見者だし。ね?」
突然、ミナリアは声を上げた。
「ダメっっ!!安静にしててって言ったじゃない!」
「でも、あの時のように魔法で治してくれたんじゃ‥‥」
「銃弾は取り除けてないの!もし無理に動いて、銃弾が肩の何処かにぶつかったら出血しちゃうんだよ!?」
ミナリアは俺の顔を見つめ、必死に訴える。
俺はミナリアの目から顔を逸らし、説得を試みる。
「ちゃんとこっち見て!」
「‥‥分かった分かった。じゃあ治療の為に街の医者を教えてくれ。それなら良いだろ~?」
「‥‥‥じゃあ仕方ないわね。でも!グロリアの監視付き!」
それを聞いたのち、グロリアと俺は部屋を出て、玄関へ向かう。
その玄関に着くまでずっと、ずっっっっとしつこく注意してきた。
「ケイジ!分かってる?グロリアの目を盗んで逃げだしちゃダメ!‥‥聞いてる!?」
「聞いてるよ。だいじょーぶ大丈夫!」
玄関の前で、グロリアはミナリアに向かい、一礼し「行って参ります。」と一言返した。
「じゃあ行くわよ。逃げたりしたら言いつけるから肝に命じときなさい?」
「はいはい‥。じゃ行くぞ?」
俺は助手席でなく、後部座席に座り移動した。
道を下り、大通りに出た。
だが通りは渋滞で進まない。
「何だ?」
「‥‥どうやら陛下の近衛師団がこの地域を封鎖しているようね。時間かかるわよ。」
「(‥‥しめた)これじゃあ進まないな‥」
「そうね。歩く?」
「そうしよう。」
俺はニヤリとし、勢いよくドアを開け外に出た。
何処を見ても車だらけで、まさに交通マヒだ。
さて、一発かますとしよう。
- Re: 転生と言う「拉致」 ( No.11 )
- 日時: 2020/02/01 21:56
- 名前: 赤坂 (ID: uFovKUbX)
二章3 堕賢者の猛攻
同時に車外に出た二人は、周囲を見渡し、人混みの通りを進んだ。
俺は取り合えずグロリアの後ろを歩き、少しずつ離れる事にした。
「ここら一帯は全部人混みよ。離れないようにしなさい!」
「おう、分かった!」
とか言っときながら後で逃げるんだが。
しばらく歩いていると、例の分岐点に着いた。
「ツツラ!!いる?!」
「ああ!いるよ!」
その分岐では軍のトラックや、兵士が集まっており非常にうるさい。
チャンスだ。近くの近衛兵に紛れるとしよう。
俺は黒っぽい汚れた軍服の男集団に紛れた。もうグロリアの目にはつかないぜ‥‥
「この先か‥‥」
雑木林の入り口には検問所が設置されており、入れなくなっている。
こうなったら汚れ覚悟で林の中に入るほかない。
検問所から離れた所から入るとするか。
検問を避け、木々に沿いながら入れそうな場所を探す。
「えーい仕方ないッッ!突撃だ!」
突貫するとしよう。
枝のチクチクする木々に走りこむ。とても厚い木々で最早森林か。
走り抜けて施設が見えて来た時、
‥‥男たちの声と、沢山の銃声が鳴り響いた。
どうやら近衛兵が突入したようだ。
「隙を見てトラックを探し出さなくては‥‥」
大勢の敵兵が、味方との交戦に夢中になっている。このがら空きになるときがチャンスだ。
確かトラックのあった古民家は少し豪華な見た目だったな。
俺は家々の壁に沿いながら、周囲を警戒し進んだ。
足元の砂の音に耳を澄ませ、足を進めないといけない。
村中に銃声とうめき声が広がる。
目的地へ向かう途中に見た兵士は皆、死体だった。
小走りで家の間を走ろうとしたその時、足元から声がした。
「‥‥お前は‥味方か‥」
「ッ!?衛兵か!」
黒い軍服の男が寝そべっていた。肩と腹部から血を流している。
俺はその老兵を見、どうにか助けようとした。
「俺の事は良い‥それよりも気をつけろ‥‥敵兵の中に‥賢者が、いる‥」
「ま、待て!話は後で聞くから。まだ傷は浅いんだ。必ず助けるからな!」
「す、すまん‥‥」
「おう!‥‥すぐ隣の家に逃げ込むか。」
俺は中に敵がいるかも知れないと思い、銃を構えながら慎重にドアを開けた。
中に入ってみると、数人の兵士が腐り死んでいた。
「臭ッ‥いが仕方ない。」
その衛兵の脇に腕を通し、扉へ引っ張って行った。
床に寝かせると、大量の血が溢れてくる。
「今から止血してやるからな!」
「あ、ありがとう‥‥!」
ハンカチを患部に当て、必死に試みる。
直ぐにハンカチは赤く染まり、尚も溢れてくる。
「と、止まらない!‥‥」
「も、もう良いんだ。それよりも‥聞け!‥最期だ‥」
「くッ‥分かった。言ってくれよ」
「‥敵に‥堕賢者がいる。」
堕賢者‥‥どんな奴なんだ。
荒い息遣いで彼は続けた。
「そして‥その姿は――――――
‥‥言いかけたその時、家の外で大きな爆発が起こった。
一瞬で火の海になり、俺たちの居場所も火を被った。
「―――ダメだ!‥ここもすぐ焼ける!」
俺は肩を貸し、ドアへ歩き出した。
恐らく、あのトラックの爆弾が爆発したか‥
外に出てみると焼け死んだ敵味方の兵士が倒れている。
まさに地獄絵図。
焼死体の山の奥には一人の男が立っている。
その姿は黒く、そして血に染まった軍服は吐き気を感じさせるほどだ。
だが、一目で分かる姿だ。あの衛兵が言わんとする者だ。
賢者だ。堕賢者だ‥‥
「‥お前‥逃げろ!‥俺を‥‥この老いぼれを置いていけ!!‥」
俺の肩に掛かるその男はもがいた。
だが俺は助ける‥。俺に関わった人は死なせたくない。
「ダメだ。一緒に逃げ出すぞ。」
逃げ出そうとした瞬間、隣にいた男は腐っていた。
顔は老け、黒く染まり、一部白骨化していく。
「お、おい爺さん!‥‥あいつが‥あいつがやったのか?」
堕賢者はこちらをまじまじと見つめ、やがて口角を上げた。
もう見つかっていた‥‥。俺も、俺もああなるのか?!
「抗ってやる。抗ってやる‥」
俺は腐ってしまった衛兵の体を置き、まだ残っている瞼を閉じた。
そして振り向き、拳銃を奴に向けた。
「賢者だが何だが知らないが。人殺しは警官として見過ごせねぇんだよ!今すぐ投降しろ!!」
その男は走り出し、助走をつけては跳ね、俺の目の前に着地した。
何て跳躍力だ?!
「ヒヒヒヒ‥‥」
顔を見上げ、俺の顔を見る。
その顔はまるでゾンビの様だ。あの衛兵と同じように。
「君ぃ‥。僕の死魔法が効かないのかねぇ?‥」
「何なんだお前!撃ち殺されてぇのか?!」
「へへへへぇ‥そうか。君、五大賢者の一人に守られてるねぇ。神の御加護って奴さぁ?」
「し、知らねぇよ!俺の家は仏教だ!神様なんて信じちゃいねぇ!!」
――――津々良!貴方はミナリアの加護を受けているのよ!
そうなのか?
――――奴の魔法は通用しない!だから早く逃げて!
この状況で!?
俺は銃口を奴の脳天に突き付けた。
だがその男は、怯えることもなく続けた。
「ッヒヒヒ‥。そんなおもちゃが通用するとでも?」
「神様の迷信より、科学技術が勝るんだよ!」
そう言い、俺は引き金を引いた。
確実に脳天を貫いた。だが‥
「痛くも痒くも無いんだなぁ」
脳天からは血が止まらないのに、奴は健在だ。
どういう事だ?賢者でも人間じゃないのか?!
皆!!やり直しは出来ないのか!?
――――無理!一定以上離れていると対象には使えないの!
「君‥その賢者はミナリアかねぇ?」
「ッ?!」
「図星かな?」
「知らん。てか名乗らない人間に何を聞かれても答えんぞ。」
そいつは「おっとこれは失敬」と少し驚いた顔で返した。
「では名乗ろうかぁ。‥私は世界第三賢者、腐敗を司る者!‥堕賢者<コリウヌ・ファラヌイス>であーる!!」
「‥じゃ!」
名前だけ聞いて、俺は全力疾走した。
死に物狂いで発狂しながら。
目先には近衛師団の衛兵キャンプがあり、そこに装甲車が停車している。
「よぉぉぉぉぉぉぉし!!!」
だが後ろからは奴が追いかけていると思うとちびりそうだ。
30代のおっさんが走るのだ。足はパンパンになりながら味方に向かって走る。
「さぁさぁ何処まで逃げられるかなぁ?」
コリウヌは先程に見せた跳躍力で俺を追いかける。
気を抜くとすぐに捕まりそうだ。
「おぉぉぉぉぉいぃぃぃぃ!!!」
「なんだなんだ?」
数人の衛兵がこちらを見る。
そして俺の奥にいる堕賢者に気づき、急いで銃を構えた。
「銃ゥゥッ!!、構えーーーーッッ!!」
「構えーーーーッッ!!」
「‥撃てェェェェッッ!!!」
数発のライフルの射撃音が聞こえてくる。
その内の一発が頬をかすめた。
「うおッッ!?危ねぇなあ!?」
残りの弾は全てコリウヌに当たったんだろうが、恐らく効かないだろう。
衛兵達は弾の装填を始めた。
「射撃用ーーーー意!!!」
「まぁぁぁぁぁてぇぇぇぇぇ!!!」
もうすぐで彼らの元だ。
足を止めるな、足を止めるな!
「ヒヒヒ‥腐敗化ッ‥‥」
あと少しで味方に合流できるその時、彼らの体は腐り始めた。
しかも鉄は酸化し、車両も動かなそうだ。
「ッハァァァァ!?」
「ヒヒヒヒ‥諦めた方がいい‥」
戦うしかない‥
ホルスターから銃を取り出し、弾の限りに撃ち放した。
「オラァァァァッッッ!!」
「‥‥で、どうしたのかね?そんな物は効かぬと言ったろう」
完全に腰が抜けてしまった。
もう立てない。
「あ、あはは‥‥そうか‥」
「じゃあそろそろお遊戯もお仕舞にしようかね。さぁ‥」
ダメだ。今度ばかりは死ぬッッ‥
コリウヌはその軍服から拳銃を抜き、俺に構える。
「貴様に魔法を使う価値はあらぬ。死ね」
そう告げた刹那―――――
「―――――硬直波ッッ!!」
「ッ!?誰だ!」
後ろから若い女の声が聞こえた。
その声の主は‥‥
「お前‥‥ミナリア!?」
「っさぁ!早く逃げて!」
何とミナリア殿下と、大勢の衛兵が駆けつけて来たのだ。
だがコリウヌに殺されてしまう‥‥
「こ、コリウヌは!?」
コリウヌはその体が硬直している。
どうやらしばらくは動かなそうだ。
「ほら早くっ、立ってよ!!」
「こ、腰が抜けた‥。引っ張ってくれ‥」
そう言い、ミナリアに手を差し出した。
その手を取ってもらい、何とか走り出した。
「この先に車があるわ!‥さぁ早く乗って!」
ミナリアにせかされ、車に乗ると早速怒号が聞こえて来た。
車が走り出すと、
「何でグロリアから離れたのッ!?ダメって言ったじゃない!あと少し遅れていたら死んでいたかもしれないんだよ!?」
「‥ぐうの音も出ません。」
と、問い詰められた。
ミナリアの目はこちらをじっと見つめる。
「あの時言ったよね?絶対グロリアから離れちゃダメって!!とっっても心配したんだから!!」
「そ、そうだよなぁ‥‥」
「とにかく!‥生きていたからよかったけど、もうこんな無茶したら行けません!」
「そ、それにしてもあの堕賢者は‥」
「それについてはもう大丈夫よ。衛兵部隊と共に結界を張ったの。もう出られないわ。」
俺は大きくため息を吐き、「良かった‥‥」と声を漏らした。
全身から力が抜け、座席に寄り掛かる。
「でーもー!!後でみっちりお説教です!!」
「あ、‥‥へぇ~‥」
ミナリアのお叱りも余所に、俺は車内で爆睡した‥‥。
- Re: 転生と言う「拉致」 ( No.12 )
- 日時: 2020/02/06 23:47
- 名前: 赤坂 (ID: uFovKUbX)
二章4 エリカとお勉強と。
――――――そろそろ起きないかなぁ
‥‥誰かの猫撫で声が聞こえる。
日曜のダラダラしたくなる朝の様な感覚‥‥
――――――早く起きないかなぁ‥
もう少し寝たい‥
まだ起きないぞ俺は。
――――――早く起きてッッッ!!!
と言う声と同時に体中が揺れる感覚がする!
も、もう起きるしかないッ!!
「‥はぁぁぁあああいッッ!!!起きますッ!」
「もう、やっと起きた‥」
横には少し怒りっぽいのミナリアがいた。
ここは寝室か。どうやってここに‥‥
「ここにはグロリアが肩を貸して、連れてきてくれたの。感謝しないとね~」
「はははぁ‥。そりゃありがたいことだ。」
「しかも宮殿に戻ってくる度、医者に掛かってる!今回は肩の銃弾の取り出し。」
「かなり酷かったんだよ?右肩の内出血。」
朝からグロテスクな事聞かされたな。
「そうか。かなり無理をしたな。すまんかった。」
「うん。かなり無理をしたね。」
その後、ドアから国王陛下と皆、グロリアが入って来た。
国王陛下は相変わらずおおらかで、だが、グロリアはご機嫌が悪い様子だ。
「やぁツツラ君、やっと起きたかい?昨晩は車の中でおねんねだったねぇ?」
「本当にそうよ。全く呑気ね!」
「すまなかったなぁ。」
皆はゆっくりこちらに歩いて来た。
そして‥
「バッッッッッッカじゃないの!?」
と勢いよく頬をぶった。
痛ぇなコノヤロ。
「あいた―‥ひでぇわ芳香さん、病人をぶつなんて~」
「ホントはもっとぶってやりたい!!‥何であんな無茶したの!!」
「そりゃあ‥ねぇ?俺の座右の銘があるんだよこれが。」
国王陛下の興味に触ったようだ。
「ほう、それはどんな?」
「昔の偉人の言葉から持ってきた考えだ。俺の祖国の考えで、<かくすれば かくなるものと 知りながら やむにやまれぬ 大和魂>ってのがある。」
「それは誰の言葉で、やまと‥だましい?とは何だね?」
「この言葉は<吉田松陰>と言う偉人の言葉。そんで<大和魂>ってのはだな‥あ~。言うなれば我ら日本人の心って奴だ。」
それを聞き、グロリアが問いかけた。
「二ホン人って何よ?」そういや、この世界線では世界地図イベントはやってないのか。
「日本人。恐らくここでは<ニッポニア>の事だろう。俺達はニッポニアの事を<日本>と言うんだ。」
「ふーん。そうなのね。」
「で、この言葉にはどういった意味があるんだい?」
「この言葉には、<こうすればこうなるって分かっているが、それでもせざるを得ないのが日本人の心だ>と言う意味になる。」
周囲には全く意味が分からない‥‥みたいな空気が流れている。
独特の日本の感性は、流石に難しかったか‥
「ま、まぁ何か分かるんだなツツラ君!! さぁ、朝ご飯にしようか!」
「その優しさが心に刺さるッッ‥‥!」
俺はいつの間にか着ていた寝巻きから、右肩の銃傷が縫われたスーツに着替えた。
その後、国王陛下、ミナリア、皆と一緒に一階の食堂に向かった。
既に配膳された料理に口をつける。
「美味い美味い‥‥。国王陛下、そういや聞きたい事があるんだ。」
「ん?何だい?」
「あの時、確か<コリウヌ・なんとかかんとか>って奴が‥」
下の名前が出てこない為、取り合えずなんとかかんとかで‥
国王陛下は苦笑交じりで答えた。
「<なんとかかんとか>って言う人物はいないねぇ‥。けど<コリウヌ・ファラヌイス>なら知っているよ。」
「そう、それ。そいつがえ~っと、<世界第三賢者>とか<五大賢者>とか‥」
俺の言葉を聞いたミナリアが反応した。
「五大賢者、何で知ってるの?‥まさか‥」
「そいつ、ミナリア殿下の事も知ってて、何か<神の御加護>とか何んとか」
国王陛下が俺に話し出した。
「そうだよ。ミナリアは五大賢者の一人で、世界第五賢者‥」
「生を司る者、よ。私は彼と違って、生物の傷、精神を癒す能力を持っているの。」
「俺の傷もそれでか。」
「そうよ。」
だが、そう何者も賢者になれる物なのか?
それにコリウヌは明らかに人を攻撃できる魔法を‥
「因みに、この国では習得できる魔法が非殺傷な物だけなんだ。だから娘も命に関わる魔法は使えないんだよ。」
「そうなのか。だけどコリウヌは使ってた?」
「あの男はソビエティア軍の従軍賢者さ。これは賢者の御主人―――<神>との契約に違反する。」
「どういう事だ?」
「世界には五大賢者と言われるように五人の賢者がいる。生まれながら特異な能力を持った人間がそうさ。娘も生まれながらの能力者‥」
生まれつき‥‥先天性な能力なのか。
赤ん坊の頃から魔法が?
「その能力は<神>に与えられたと言うのが教えなんだよ。与えられる代わりに幾つかの契約がかかる。これは世界的な法として扱われる。」
「つまり国際法か。」
「そうだ。その法律は神との契約で、これを破った賢者を堕天使ならぬ、堕賢者なんだよ。」
「大まかな内容はえー‥‥」
国王陛下は思い出そうとしている時、痺れを切らしたミナリアが間に入って説明した。
「一つ、公共の福祉の為に使う事。二つ、能力を使い、傲慢に振舞わない事。三つ、如何なる組織、団体の隷下となり能力を使わぬ事。四つ、不要な殺傷に能力を使わない事。五つ、能力を権力としない事。」
「その五つか。で、奴は三つ目と四つ目に反したのか。」
「そう。他にも色々してそうだけどね。」
益々興味がわいてくる。世界観、魔法、五大賢者―――――
元居た世界とは常識も違う。
「もっと知りたくなってきた。さっさと飯を終えて調べたいことがある。資料館みたいな所、無いか?」
「あるとも。但し、仕事を終えてからだね。この数日は執事の仕事したかな?」
「あ、あはははは‥」
やっべぇ‥ここに来て、ここでした仕事ってなにもねぇ‥!!
――――バーカ。これからはここで働くんだよ?
お前は働かねぇじゃないか。
――――そうだよ?でも津々良のそばにいなきゃダメだから楽じゃないし~
「でもケイジ、基本は私の側にいるだけでしょ?」
「おう。」
「じゃあご飯食べた後に私、勉強ついでに宮殿内の資料図書館に行くからそこで見ましょ。」
「よし、行こう。」
ミナリアはせっせと食べ終わり、一緒に食器を厨房に持って行った。
内心ウキウキしながら、ミナリアと行動を共にした。
「さ、行きましょ。」
「おし。てか、何処に資料図書館なんてあるんだよ?」
「地下にあるの。ついて来て」
ミナリアの言う通りについていくと、玄関前の大階段の後ろに地下階段があった。
秘密基地かな?
石造りの、まるで中世の城のような階段を下ると大きな扉が見えて来た。
今までこんな、無駄に、豪勢な扉の資料室があったか‥
「‥あら?もう開いてる‥?」
「何だよ。いつもは閉まってるのか?」
「ええ、そうよ。シェルターも兼ねているしね。施錠はするの」
そのまま入ってみると中には司書と思しき爺さんと、高い所の本を取ろうとしているエリカがいた。
爺さんはそこらの古めな本屋にいるような司書の格好だ。
「ほう。殿下様。本日はどのような本をお探しで?」
「ええ、私は非殺傷魔導書。横にいる専属執事に世界史の本を。」
「ちょ、ちょっと待ってくれ。俺は字が読めないんだ。」
「あちゃー‥そうだったわ。」
本を探しに来たが、字が読めないのに本とは意味が無い。
いちいち翻訳してもらうのはちょっと‥
「取り合えず、世界史やその他歴史の類の本はエリカさんのいる所に配列しております。」
「あ、ありがとう‥えーと‥‥」
「私の事は<司書>とお呼びください。執事様。」
「は、はぁ。ありがとう司書さん。」
俺は未だ奮闘しているエリカの所に行き、目当ての本を探した。
「うーんっ!!うーん!!」
「‥おうエリカちゃん。どうしたんだ?」
「あ、ツツラさん!実はあそこにある本を‥」
と指を指されたが棚が高く、指した先が全く分からない。
だが必死に伝えようとしている所は眼福眼福‥
「そ、そうか。ちょっと分からないから持ち上げてやろう。」
「ッ!お願いします!!」
俺はエリカの脇を抱え、本人に取ってもらう事にした。
「ちょ、ちょっとこしょばいです//」
「ならはやくとれー」
とのろけたやり取りを交わし、エリカは何かを取った。
その後、降ろすように言った。
「取ったか?」
「はい!取れました!」
降ろした後、どんな本を取ったのか聞いてみた。
エリカは喜んで見せて来た。
「‥?すまん、読めねぇ」
「そそそ、そうなんですか!?」
「そんな驚くなよ‥。俺、日本人なんだぞ?」
「ニッポニアから来たんでしたね。これは魔導史の本です!」
「まどう?魔術師になりたいのか?」
「いえ、ミナリア様見たいになりたいなぁって‥」
いや、結局は魔術使いたいんじゃねぇか。
「それはまぁ良いんだが。大まかな世界史の解説書とか無いか?」
「あ、あります!取ってきますねっ!」
そう言い、少し離れた本棚に向かい、数冊の本を持ってきた。
小走りで戻ってくる。
「ツツラさん!幾つか持ってきました!‥あそこの読書スペースで読みましょう!」
と、長いテーブルと沢山の椅子が並べられている場所を指した。
俺達は適当な椅子に座り、その取って来た本を見てみた。
「全部で、三冊取ってきました。では、お読みしますね!!」
「はい、お願いします。」
「はい、一冊目はこの赤い本!<魔法と世界の歴史>って言う本です。」
エリカは適当なページを開き、俺の代わりに字を読んでくれた。
そのページには年表見たいな物が書かれていた。
「近代史の大きな出来事を、簡単に要約して読み上げますね! 1875年、賢者独立戦争からリギリオ連合帝国から自由都市合衆国が独立‥」
と、キリがないので興味がある奴だけを聞いた。
「そうですね。どんな事に興味があるんですか?」
「ああ、世界の賢者とかかなぁ。」
「世界の賢者ですね!それだったら‥このページですね!」
そのページには見開きの世界地図と、各地の賢者に関するであろう情報が記載されていた。
エリカはその内容を読み上げた。
「世界には<五大賢者>と呼ばれる、魔法を扱う者の中で突飛した能力を持つ者が五人存在する。合衆国文化圏に第一賢者<デトロ家>。砂漠文化圏に第二賢者<アルベ家>。凍土文化圏に第三賢者<ファラヌイス家>。極東文化圏に第四賢者<イザナ家>。王侯文化圏に第五賢者<コンタイン家>。‥がありますね。」
世界地図にはその<文化圏>が記されていた。
合衆国文化圏は現実世界の南北米大陸のような地域に。砂漠文化圏はアフリカ大陸。凍土文化圏はシベリアと類似した地域。極東文化圏はニッポニアから東南アジアみたいな地域に。そして王侯文化圏はここ。
「そうなのか。各々の能力の特徴ってあるのか?」
「少しお持ちを‥‥。<デトロ家>は近代工業及び蒸気魔法を扱い、合衆国文化圏の市民の生活を支えている。<アルベ家>は主に自然魔法を扱う。それにより砂漠文化圏の安定を図っている。<ファラヌイス家>は攻撃魔法や腐敗魔法を扱う。凍土圏に於ける動物の生息に関与している。<イザナ家>はその地域の人間の極楽を司る。その為、精神魔法や環境魔法も扱う。<コンタイン家>は人間の生を操り、その能力は医療の役割を持つ。」
「どうやら<イザナ家>の地域は多神教で、その賢者となる人の出身地域で考えは変わるようですよ。」
「多神教は日本と一緒か‥。その家名って元からなのか?だとすればセントルファーもコンタイン?」
「いえ、賢者としての才能が発覚した後、神からの<神名>として授かります。だから、国王陛下は苗字が異なります。」
や、ややこしいな‥‥
いずれ字の勉強もしなくてはならない。
やる事は山積みだ。
「色々あるんだな。俺からすればややこしい事だなぁ。」
「そうですね~。そういえばツツラさんは、この国の字が読めないんですよね?‥でしたら私が毎晩お付き添いしましょうか?」
「字が読めればエリカちゃんに迷惑は掛からないしなぁ。是非頼みたいぞ。」
「分かりました!お任せください!!」
という事で、これからはロズポンドの言語をエリカに教えてもらうか。
こうなると色々な事があって楽しみだな。流石、第二の人生か。