コメディ・ライト小説(新)

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AIも異世界もないこの世界で、彼女のために、闘う。
日時: 2020/06/10 01:20
名前: 多寡ユウ (ID: NqZUFIjv)
参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi

何気ない昼下がりのことだった。

「ポップメニューに、メッセージが送信されました。」
≪to:ユウキ  よー、へたっぴ。お前、てっとりばやくポーション買ってきてぇー、にんずうぶんねぇー。制限時間は5分。遅刻したら置いてきぼりの刑だから≫

スライム狩りをして、レベル上げをしようと思っていたが、あまりにスライムが怖すぎて、退散し、トボトボ帰っていた。
そんな時、自分の視界のポップアップに、クランメンバーからの伝言がピコンっ!という音を立てながら、アナウンスのボイスが聞こえた。これが出てきたらパシリの合図だ。

「≪to:タクム  わかった。≫タッタッッ(空中のキーボードを打つ音)」

たまたま町中にいたから、ポーションは早く買えそうだ。早く買ってみんなのところにもっていかなくちゃ。また仲間外れにされちゃう。

町と言っても、ごく簡単な“まち”。村に近い。昔ながらのかやぶきの建物が乱立し、二階建ての建物なんてものは、この村にはない。だから、ぼくみたいな弱い人間には居心地がいいのかもしれない。ほかのクランメンバーはもう少し立地が良くて、レンガだったり、石でできた西洋風の建物に住んでいるクラメンもいる。

僕はポップアップに返信をすると、急いで薬品ショップに向かった。

「ごめんくださーい、あの、ポーションをまた、20本くらいほしいんですけど」

「あら、ゆうきくん。また来たのね。またエネミー狩りにでかけるの?」

「あ、そうなんです。クラメンと。えへへへ」

「気をつけなさいよ。あなたのクラメンの子たち、そんなに強くないから、そんなにポーション買うんでしょ?」

「へ?あ、ああ。いえ、みんなは強いんですけど。主にこれは僕のためですよ、えへへへ」

「あら、そうなの?それならいいんだけど」

この薬局ショップのおばさんは、昔からの知り合いだ。僕がパシリにされているのはもちろん知らない。おばさんは、僕以外のクランメンバーが弱いから、僕が代わりにポーションをみんな分買ってあげているって思っている。でも、実際には逆で、僕が弱いから、ポーションを貢いでいるだけってのは、口が裂けても言えないんだ。なにせ。

この薬局ショップの隣が、僕の家だから。
もしこのおばさんに、僕がクランでのけ者にされているって知ったら、おばさんがお母さんにチクるかもしれない。そしたら、ぼくはあのクランにいられなくなるかもしれない。唯一の居場所だったあのクランに。そうなることだけは、いやだった。
すると、薬局のおばさんから血の気が引く発言が飛び込んできた。

「あらやだ。今ポーション10本しかないわ。この前入荷したはずなんだけど、おかしいわねえ」

「え、10本しかないんですか?」

「そうみたい。10本しか売れないけど、みんな大丈夫かしら?」

「へ?あ、み、みんなは、ぼ、ぼくが守るので大丈夫ですよ!あははは」

「あらそう?ならごめんなさいね。10本ってことで、じゃあ1000円ね。まいどあり」

「じゃあ僕、急がないと。時間もないし」

「そうなの?もう少しゆっくりしていけばいいのに」

「そういうわけにもいかなくて、それじゃあおばさん、またきます」

「そう。気を付けてね」

薬局のおばさんに、ありがとうございました。と言って、となりの建物へ足早に向かった。

「お母さんに、みんなと狩りに行くって言わないと」

すると、家の玄関近くで、これから買い出しに行こうとサンダルを結ぶお母さんの姿があった。

「お母さん。今日、みんなと狩りに行くから、遅くなる。」

「あらそうなの。いってらっしゃい。気を付けてね。夜までには帰ってきなさい」

「わかった。父さんは?」

「父さんなら、今クエストに出ているみたいよ。なんでも、超高額なクエストらしいから、今日は何かごちそうにしようかしら。だから、ユウキ。今日は友達と遊んでいないで早く帰ってくるのよ」

「わかった。別に遊んではいないけど」

「遊んでいるでしょう。そんな友達とクエストに行ったって、ろくなお金にならないんだから。そろそろユウキも、お手伝いクエストでもやってほしいわ」

「・・・・いってきます」

「あっ!タクムくんにいつも誘ってくれてありがとうって伝えるのよ!」

「・・・・」

僕はその場にいるのが、いやになって、玄関を飛び出した。

・・そう。この世界では、クエストで得れるお金がすべてだ。僕の父さんも、お母さんも、他のこの世界に住んでいる人は全員が、クエストでお金を得ている。エネミーを倒したり、貴重なエネミーを捕まえたり、採集やお手伝いなんてものもある。すべてがクエストだ。
そのお金で僕らは飲んで食べて衣食住を満たす。それがこの世界だ。僕が物心ついた時から、ぼくの世界は、この世界だった。意識が芽生えた時から、といった方が正しいかも。

そんな中で、お母さんが僕に勧めるのが、お手伝いクエスト。おばあちゃんのマッサージや、農家に行って野菜を収穫したり、田植えをするクエストが主になっている。この世界で人口の大半を占める高齢者へのサポートが、お手伝いクエストの大半だ。給料は良い。毎日なにかしらのお手伝いクエストをやれば、家計を支えられる。

でも、ぼくはお父さんみたいなクエストがやりたい。

僕のお父さんは、地下にある99層迷宮での、エネミー討伐クエストによく行く。危険と隣り合わせのこのクエストは、給料もめちゃくちゃいい。敵が強ければ強いほど、給料は跳ね上がる。僕のお父さんはだいたい、99層の中での2層のボスを倒すクエストを毎週2回ほどやっている。週2回で2層のボスを倒すと、ぼくら3人家族の食費と水道代と居住費を賄うことができるらしい。詳しいことは知らないけど。

でも、危険と隣り合わせのクエストでもある。99層迷宮は、死人が良く出る。僕のクランのメンバーの中にも、お父さんを99層迷宮のクエストで失った子がいる。噂によるとだけど、自分の右上に出てくるHPがゼロになると、この世界から消えちゃうとかなんとか聞いたことがある。噂の域を出ないけど。

だから、お手伝いクエストは危険がない分、収入はそんなに良くない。
一方で、エネミー討伐クエストは危険と隣り合わせになるぶん、収入もいいんだ。
だから僕はお父さんみたいな一家の大黒柱になりたい。いつか、お父さんや、ぼくのクランメンバーをあって驚かせるような大偉業を打ち立てるんだ。

「いつになることやら、だけどさ」

僕の職業は、【戦士】。基本ステータスが平均以下で、何のとりえもないジョブ。
ここから進化すれば、かっこいいジョブになるんだけど、敵を倒しに行くのも怖すぎて、レベル上げもできずにいた。

「もっと僕が強かったら、みんなを驚かせることができるんだけどなあ」

現時点で僕のレベルは、まだ7。クランの他のメンバーは、30以上がゴロゴロいる。リーダーのタクムに至っては、もう40に到達するくらい強プレイヤーだ。この世界では、強いものがレベルを上げ、弱いものは取り残されていく。いや、勇気あるものはエネミーに立ち向かい、レベルを上げて経験値を蓄えていき、臆病者はいつまでたっても経験値が上がらいままだ。
僕はまだスライムすらろくに倒せない。レベル2のスライムですら、剣で切れないのだ。おびえてしまう。極度のビビりな僕にとっては、スライムでさえ、名前を言ってはいけないあの人なみの強さがあるのだ。

「はやく、強くなりたい」

ここ最近の、僕の些細な願いで、しかし叶わない願いだ。
そんな愚痴をたれながら、ぼくは村の中心にある転移ポートに向かった。

★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★


「おせぇよ。お前。ふざけてんの?ポーション10個しかねーじゃねぇか」

転移ポートから転移して、タクムの住む石畳の町の広場に僕とクランメンバーはいた。

薬局のおばさんとお母さんと話をしてたら、2分だけ遅刻した。でも、この怒りようだ。理不尽。このクランのリーダーであるタクムは、僕以外のメンツが遅れても何とも言わない。でも、ぼくだけにはめっぽう厳しい。タクムのクランメンバーは、リーダーであるイケメンだけど性悪なタクム。副リーダーであるアモンとコウタ、そして僕の4人チームだ。なぜ僕がここにいるのかは、想像してほしい。

僕はお父さんみたいに家族を支えられるくらいに強くなりたくて、クエストをやっている同年代のクランに片っ端から応募した。結果的には弱すぎてどこからも、いい返事がもらえず、結果的にこのクランで貢ぐ係をやりながら、経験値のおこぼれをもらっている。


「売り切れで・・」

そんななか僕をいじるメンツのもう一人、アモンが口を開く。彼は、タラコ唇。

「おいおい。お前おつかいすら、できないの?」

毎回心の中で、このタラコ唇が、って心で幾千回も唱えている。
続いて、コウタ。特徴のない顔。だけど、どこかむかつく。

「いいかい、へたっぴ。明日も狩りに行くから、明日はポーション30個。忘れたらマジでモンスターの中に置いてきぼりの刑だからな」

「気を付ける・・」

「んな、びくびくすんなよ。俺ら“トモダチ”だろ?」

「・・・・・」


実際かれらには逆らえない。
僕はまだ一次職の戦士職。
一方で、タクムとアモンとコウタは、戦士職の1個上の二次職である、盾戦士だ。
実力差は歴然。逆らえるなんて思っていない。

そして、お母さんやお父さん、そしてこのクランメンバーしか居場所がない僕にとっては、このクランも居場所のひとつなんだ。

このクランを出ても、他のクランで僕を欲しがってくれる人がいるとは限らない。多少このクランがブラックでもやっていくしかない。経験値のおこぼれをもらいながら、いつかお父さんみたいに、99層迷宮にチャレンジして金持ちになって、お父さんとお母さんを楽させたり、可愛い女の子と一緒にいたり、そんな生活をいつかしたい。というかそれ以外に、生きる意味がないんだ。

なんてったってこの世界の“成功”は、自分自らの強さをどれだけ高められるかだから。

だから、このクランで泥水すすって、生きていくしかない。我慢して雀の涙の経験値を吸い取って、いつか大きくなってやる。そして、タクムやアモンや、コウタを見返してやる。

叱られ終わって、ようやく森に向かおうと転移ポートに入るさなか。

「・・・なにが、置いてきぼりの刑だ、バーカ。いつかお前らを置いてきぼりにしてやる・・・」

自分にだけ聞こえる声で、そうつぶやいた。
そんなこといつか言えたらなあって、思いながら。

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Re: AIも異世界もないこの世界で、彼女のために、闘う。 ( No.10 )
日時: 2020/06/14 19:27
名前: 多寡ユウ (ID: NqZUFIjv)
参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi


★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★

アイさんの事前説明では、13層:ジェイソンがボスエネミーであるこの層は、死海と呼ばれ、生い茂った大樹が生える森の迷宮らしい。薄気味の悪い濃霧と、膨大な数の大樹が、人の方向感覚を失わせる。そして、厄介なのはこの大樹、ひとを喰らう大樹らしい。大樹に寄りかかって休憩している人、足が遅い人を、ご自慢の太い根っこで次々と地中へと引きずり込み、喰らっていく。集団行動はマストになって来るダンジョンだ。

レジスタンスがマッピングできてるのは、ごくわずかな範囲だけ。ボスのいる空間と、13層の入り口を結んだルートだけらしい。アイさんの透明化のスキルによって、全体を見た感じでは、1万キロはあろうかという広さらしく、今までの1層から12層の中では比べ物にならない広さらしい。前回ジェイソンに負け、多くのレジスタンスの仲間が、森中に離散。そのまま100人の隊員が行方知れずになってしまった。

アイさんが残った隊員100人を13層の入り口まで非難させてから、残りの行方不明になった100人の無事を確かめるために透明化のスキルで森全体を視認すると、すでに行方不明者は大樹に飲み込まれた後だったという。

けがを負った身で樹海をさまよった挙句、足が遅い隊員は大樹に飲み込まれ、残りの足が速い隊員も負傷のため木に寄りかかるなどして、木に食われてしまったのだという。

僕たち100人の隊員は、13層入り口に転移されると、アイさんが全体に注意勧告をする。

「みんな、この森は、濃霧と人食い大樹の生い茂る死海だ。作戦通り、100人全員が高速で動き、ボスのいる空間までたどりつく必要がある。リュウたちローグ班は、根っこを切り刻みながら進んでほしい。ゴウたちナイト班は、誰かが襲われそうになった所を盾で防ぎながら進行してくれ。サユリたち魔術師班は、人食い大樹の根っこの攻撃を防ぐ防壁を張りながら、また火炎弾で応戦しながら動いてほしい」

アイさんは先日の作戦会議の内容を、反復するようにみんなに伝える。

「集団行動がマストだ。みんなお互いの距離感を近めて、ボスのいる空間まで無傷でたどり着こう」

「「「「はいっ!」」」」

全体の気持ちいい返事の後、僕らはジェイソンがいる空間に向かった。
僕らはこの時、ボスが既存の空間からすでに移動しているとは思いもせずに。

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死海の奥底。先天的な病により奇形になった顔、黒いジャンパーを着た大男が大樹の根っこの上に座っていた。不気味な息遣いとうめき声をあげながら、13層の入り口付近の敵に気が付き、目を覚ましていた。そのジェイソンの脳天には、深く刻まれた刺し傷があり、その奇怪な顔をより一層際立たせている。


「ugagagaaaaaaaaaaaaaaa,あああぁぅあ類、wake up、何か月ぶりの客人だin ages. 」


ジェイソンの下の大樹の根っこでさえも、うめきながら返事をしているようだ。
ジェイソンのその言葉は、なにか言葉であって、言葉ではない。そんなまがまがしさを感じさせる言語だった。

「sorry to keep your f###### waiting, お出迎え,し、二ヒ!」


ジェイソンはその奇形な顔に、真っ白なホッケーマスクをかぶり、白いインナーシャツの上に黒いコートを羽織り、黒いズボンを履いて、戦闘態勢に入った。

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「火炎弾!シールド!」

魔術師が迫りくる大樹の根っこに向かって、効果抜群の火炎弾を放ちながら、敵に降りかかる根っこに関しては、シールドで防ぐことを繰り返し、進行する。

「シールドアタック!」

魔術師が襲われた時には、盾をもつ騎士職の隊員がシールドで根っこの攻撃を防ぐ。

「スラッシュ!」

そして弱った根っこを、切断していくローグ隊。

完全に役割分担はできていて、誰一人としてかけることなく、開けた場所に着くことができた。アイさんの号令で、ここで一度休憩ということになった。

「ひとまず、ここで休憩しよう。みな、ポーションやMPポーションで、回復をしてくれ」


「ふぅ」

ようやく一度呼吸が置けた。入り口からずっと緊張の糸を張っていた。誰かが襲われたときにはシールドアタックで、根っこの攻撃を防いでいた分、周りに気を配っていたのだ。僕がポーションで自分のHPを回復していると、ゴウさんが話かけに来てくれた。

「どうだ。調子は?」

「ぼちぼちです。周りのことを気にしながら進むのに慣れていないので、少し大変ですが」

「そうか、まあ無理はするな。HPが足りなくなったら、隊の中央に行くんだ。根っこの攻撃に合わなくて済む」


隊の中央にいれば、その周囲の隊員が根っこに対して攻撃をしてくれる。その分、楽ができるというわけだ。だから、HPがなくなったり、MPがなくなった魔術師が、隊の中央に戻り、ポーションで回復。その後、もう一度前線に戻るようにして、隊の外側で根っこと戦うという形で、ここまで移動をしてきた。


「HPの減りには気をつけて進んでいけば、大丈夫です。だから心配ありません」

「頼もしいな。君の頑張りは、この一か月で特訓を担当した私が保証しよう。君なら絶対に・・」


ゴウさんがその言葉を言うよりも前に、チェーンソーの不気味な機械音が突然森中に響き渡った。


「!?」


(チェーンソー!?の音?)
アイさんの説明では、ボス部屋まではまだまだのはずだったのに、なぜチェーンソーの音が聞こえるんだ?数ある選択肢の中である可能性は、チェーンソーを持っている他のエネミーが近くにいること。もしくは、ボスエネミーであるジェイソン本人が近くにいること、この二つだ。
(ジェイソン以外っていうのは、希望的観測すぎるか・・)


「っ!全員、戦闘態勢に移れ!」


あまりの唐突な出来事に、アイさんは困惑しながらも全員の士気を下げることなく、全体に指示を出す。ボスのいる空間までは距離があるはずだが、あきらかにチェーンソーの音が聞こえてくる。アイさんたちレジスタンスの隊員100人を死に追いやった張本人のものなのか。この時点では判別はつかない。しかし、アイさんの作戦説明によれば、チェーンソーをもっているエネミーは一体しか確認されなかったという。それがボスエネミーであるジェイソンだ。

となると、このチェーンソーの音は、ジェイソン本人が近くにいるという可能性にほかならない。


「警戒を怠るな!どこから飛び出してくるか分からないぞ!」


アイサンの説明だと、ジェイソンは森を味方につけているために、根っこに攻撃されることはない。加えて、根っこの蠢きが、ジェイソンの大柄な足音をかき消す材料になっているのだという。

(どこだ!どこにいるんだ)

ジェイソンの体長はだいたい4m。武器は鉈とチェーンソー。しかし、一番やっかいなのはその体や、武器ではない。一番のやっかいなことは、不死の体であることだ。

ジェイソンは先のレジスタンスの攻略の際に、アイさんが脳天に向かって放った斬撃をもろに受けており、脳を一部損傷している。

前回攻略の際にはしっかりと言葉を話していたらしいが、アイさんに脳天を貫かれてから、凶暴性を増したらしい。推測だと、脳天を貫かれたことによる言語能力障害や、理性障害を引き起こしている可能性が高く、より一層凶暴化・錯乱化しているという。

(脳を貫かれても死なない体で、そしてなお強くなるって、バケモンだ)

レジスタンスの隊員全体で、四方八方、上を確認する。チェーンソーの音は段々大きくなっていくが、いまだジェイソンは姿を現さない。
と、レジスタンス全体で不安感があるとき、


「まーしった、dayo💛」


ジェイソンが真下からまるで巨大モグラのように出現し、その場にいた10人ほどの隊員を空中に吹き飛ばしながら、出現した。

Re: AIも異世界もないこの世界で、彼女のために、闘う。 ( No.11 )
日時: 2020/06/15 15:24
名前: 多寡ユウ (ID: NqZUFIjv)
参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi



運悪くジェイソンの真下にいた魔術師隊が10名吹っ飛ばされ、空中を舞う。そのすきにジェイソンは、両手にもつチェーンソーで、空中の10人を一閃しようとする。

「させるか!」

一瞬の判断で、リュウがローグ特有のものすごい速さで、ジェイソンのチェーンソーに向かって、自慢の大手裏剣で立ち向かった。
ガギガギガぎンッ!!!という爆音を鳴らして、ジェイソンのチェーンソーと、リュウの大手裏剣がぶつかり合う。しかし、チェーンソーの攻撃力の方が勝っているのか、徐々に大手裏剣を切断されていくのが分かる。

「げっ、コイツ!」

とっさに大手裏剣をチェーンソーとの鍔迫り合いをやめ、リュウはジェイソンから離れた。目的である、空中に浮遊している魔術師10人は助けられた。彼らはすでに落下のダメージは受けているが、HPが全損になるほどの致命傷ではなかったらしく、みな立ち上がって
ポーションを飲み、戦闘態勢に入りなおす。

同タイミングで、

「メキメキメキメキメキメキメキメキ」

そんなジェイソンが先ほど出てきた地面の穴から、大樹の根っこが数えきれない本数生えてきた。その根っこがレジスタンスの隊員を一人ずつ狙って、地面に引きずり込もうと、ものすごい勢いで隊員に突進してくる。

「シールドアタック!」


それをすかさずゴウが、自慢の盾で防ぎ、なんとか、ジェイソンと大樹の根っこの急襲作戦を回避することに成功した。
ついに、13層最初の戦いの火ぶたが切って落とされた。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
ガギン!ガギン!という音を立てながら、リュウと、ジェイソンが戦っている。しかし、リュウにはジェイソンのチェーンソーは分が悪いらしく、リュウの大手裏剣はみるみるうちに傷ついていった。


「ふぅーう。そのチェーンソー、いつ見てもぶっ壊れ性能だな」

「YEAHHH,am,お前知っているぞ。何か月か前に、俺からrun awayしたガキone of them.素敵な顔だち、殺す」

「うるせぇえ、黙って駆逐されろ、ジェイソン」

「それは、impossible。誰もこの森から出さない。’ll be death.ABSOLUTELY・・・・・・・・uう、gaggaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!?!?!?!?」

「セイントボール」

リュウが話している間、後方にいたサユリがジェイソンに向かって聖魔法を放たれた。淡い光の光球はゆっくりとジェイソンに近づき、彼の肌に触れると、制属性の小爆発を生み、ジェイソンにダメージを与えた。

「そこおお、ブツブツ話してないで、ちゃんとお姉さんもいるんだよぉ」

サユリが皮肉っぽく、さも寂しそうな顔をして言う。
前回のレジスタンスとジェイソンとの戦いでは、ジェイソンの攻撃を前に、離散した。そして、大樹の枝に一番被害を受けたのは、魔術師隊、サユリさんの隊だった。サユリの隊は、他のどんな隊よりも大きな隊であったが、その損害により半分以下まで隊員の数を減らした。この戦いで、最も責任を果たしたいのは、彼女なのだろう。

「うsが、saint 聖属性、I hate it, 遠くから打ちやがっててめえ。でも君のこと、ジェイソン覚えてるよぉ、last time 大樹の根っこがたくさん食べた、job.君みたいな人is was so many lol.かわいそうに,かわいそうにpoor youニヒ」

「・・・・・はーい、テメェ。ぶっころしまーす。神聖気炎砲弾。」


サユリさんは先ほどの寂しそうな顔から、怒りに満ちた表情に一変する。長い詠唱寺間を伴う大魔法を唱えるために、サユリさんはジェイソンに向けて両手のひらを向けて、詠唱を開始する。

「二ひ、ニヒにヒヒヒヒヒヒいいいいい!」

しかし、その隙を逃さんとばかりに、ジェイソンがサユリさんの前方にいるリュウを大ジャンプで飛び越えて、チェーンソーで切りかかった。4mはあろう大男とは思えない身のこなしに、リュウは反応が遅れる。


「しまった!サユリ!」

リュウの頭上を飛び越え、ジェイソンがサユリの目の前に向かおうとしている。アイさんは、空中に放り投げられた魔術師たちの援護にあたっている。ゴウさんも、地中から伸びてきた大樹の根っこから他の隊員を守っている最中で、サユリさんのところまで行くのには間に合いそうではなかった。

リュウは、サユリのもとに、その自慢の神速を活かして、駆け寄ろうとする。
しかし、その瞬間に、地中から伸びてきた大樹に足を絡められ、身動きが取れなくなる。


「っ、くそっ!」


リュウが叫んだ時にはもうすでにジェイソンはサユリさんの目の前にたち、チェーンソーを右から左に向かって一閃した。全員が万事休すと思われた次の瞬間、
僕が盾を使って、ジェイソンの攻撃を受け止めた。

「!!!!」

運よくサユリさんの近くにいたおかげで、盾職で足が遅いといえども、サユリさんの近くにいたからこそ、サユリさんを守れた。しかし、ジェイソンのチェーンソーの力を前に、力負けしそうになる。


「サユリさん・・・!詠唱を続けて下さい!!!」

「ゆ、ユウキ君!」


僕がチェーンソーの攻撃を受け止めている間に、なんとか聖属性の大魔法を!そう思っていた時。


「チェーンソーは、僕チンの本当の武器じゃないんだ」


ジェイソンは両手もちから、左手のみでチェーンソーで切りかかるのに切り替えていた。その代わり、背中に背負う大鉈を右手で引き抜き、僕に向かって振りかぶった。

「ニヒ」

(死ぬ。)

とっさにそう思った。後ろのサユリさんの詠唱はまだ終わらない。しかも、武器の両手もち、2つの武器をいなせるほど、僕の盾スキルは上がっていない。しかし、サユリさんを死なせないためには、この大鉈を僕が受けきるしかない。しかし、受けきる道具は剣だけ。剣の腕をこの1か月では磨けなかった。自分の怠惰を今なら呪いたい。

(死ぬんだ、僕)

サユリさんを助けるためには、この剣で受けるしかない。しかし剣スキルがない僕にとってそれは、受けきれずに、僕が大鉈に切断されることを意味していた。

(ごめんね、アイさん・・・)

と心の中で、死期を悟っていたその時、
アイさんが、文字通り神速の速さで僕の目の前に立ちはだかった。


「死なせない」


その小さな声を聴いた後、僕の目の前には、
アイさんの噴水のような大量の血しぶきが綺麗に舞っていた。


「ア・・・・・イ・・・さ、ん?」


僕は声にならない声をあげていた。アイさんは、ジェイソンの大鉈に背中を向けて、僕を抱きかかえるようにして僕を庇っていた。アイさんの黒色の背中側の鎧は、もろに大鉈を受けた分、粉々に砕けていて、アイさんの背中さえも切り裂いた。
その背中から大鉈で引き裂かれたであろう、血と肉がほとばしって飛ぶ。筋肉の筋が宙を舞い、赤黒い血液が大鉈の軌道をなぞるように流れたのだ。


「あ、ああああああアイさん!!」


アイさんはその場で吐血し、僕を抱きかかえるようにしていた態勢から、僕に寄りかかる態勢に変わる。その苦しそうな息遣いから、先ほどのジェイソンの攻撃が重傷を負わせるものだということが分かった。

「アイさん、アイさん、アイさん・・、アイさん!」

僕はただアイさんを呼ぶことしかできなかった。アイさんを僕は抱きかかえると、僕の両手のひらにべったりと黒っぽい血が付く。内臓まで浸食しているのか、アイさんの背中はもはや筋肉が直にでていた。それでも、アイさんのHPは残り1割残っていて、まだ助かる余地があることを感じさせた。


「アイ!」


サユリさんが、詠唱を一時中断し、その場へ駆けつける。


「アイ!」


リュウも、自分の足に絡まっていた大樹の根っこを切り刻み終わり、僕とアイさんのほうに駆けつけ、


「アイ!」


ゴウも、根っこの攻撃を受けきり、こちらに近づいてくる。

今アイさんを治療すれば、助かるかもしれない。

しかし、ジェイソンがその隙に2つ目の太刀筋を大鉈で繰り出す。ジェイソンは、アイさんと僕もろとも、その大鉈で切り刻もうとしていた。リュウやサユリさん、ゴウの今の間合いではアイさんを助けることはできない。


「!」


アイさんを守らなければ。
まだアイさんに、息はある。あの大鉈を防ぐことができれば、隊長たちがここに来ればなんとかアイさんは助かるはず!


「オオオオオオオオオオオオオ!!シールド、アタッーク!!」


僕の雄たけびと同時に盾を前に突き出す。


「ユウキ君・・・・、やめろ!」


アイさんの声が聞こえた気がするが、今の僕の耳には何も入って来なかった。
大鉈と僕の盾が、ガギン!という音を立ててぶつかり合い、次の瞬間。

「ニヒ(笑)」

盾をジェイソンの大鉈が貫通し、僕の首を掻っ切った。

首を掻っ切られた瞬間は今でも覚えている。先ほどまで目の前で僕に寄りかかっていたアイさんの顔が、一瞬にして見えなくなった。首が吹き飛ばされたのだと気が付いたのは、僕の首が空中を浮遊しているときだった。

僕のHPゲージが6割・・、3割・・・、1割・・とものすごい速さで減っていく。ついには僕のHPはゼロになり、僕の頭も地面に落ちた。


「っっaaゆ・・、sき!やだ。dddやだ!・・・・・」


アイさんの悲痛な顔が僕の目に映った。今にも泣きだしそうな顔をしながら、僕の体を抱く。そして、血まみれになってしまった腕を僕の頭のほうに近づけてくる。しかし、その後ろには満面の笑みを仮面の奥にのぞかせたジェイソンが、アイさんに大鉈を再度振りかぶった。


「・・・・・・・・・!」


やめろ!ということも、アイさんを盾で再び守ることもできないまま、アイさんの首が大鉈で掻っ切られるその瞬間。
意識はなくなり、世界は真っ黒に染まった。

・・・・・・・・・。

(くそ、クソクソクソ!)
守れなかった。アイさんを守り切れなかった。それどころか、アイさんに庇われてしまった。アイさんは・・、死んだのかは、わからない。あのあと、隊長たちが間に合っていて、助かったかもしれない。でも、隊長たちが間に合わなくて、助からなかったかもしれない。)

(くそ、くそ、クソ、弱い弱い。僕は、なんて弱いんだ)

心の中で暗闇に向かって叫んだ。
結局、何も守れなかった。ただのお荷物だった。アイさんを助けるとかほざいておいて、ふたを開けてみれば、僕が助けられていた。アイさんを守る騎士になろうと思って、盾を握ったのに、その盾をいとも簡単に切断された。アイさんを守る人間になりたかったのに、最後にジェイソンに着られるアイさんをただ無意識の中で見ている事しかできなかった。

(くそ、くそ・・・、僕にもっと力があれば・・・、なにかできれば・・・アイさんを・・・・)

そんな後悔にさいなまれていた。

(僕は死んだんだろうか)

真っ暗な世界だ。でも、かろうじて思念はある。でも、自分の視界には何も表示されない。真っ暗な世界が広がる。一筋の光もにない。こんな世界でこれから、アイさんを助けられなかった苦しみをずっと感じながら、生きるのか。

(そうでないなら、死なせてくれ。たのむから)

そう心の中ですべてをあきらめかけていた時、僕のピコン!という音を立てて、ポップアップが表示された。

(?なんだこれ)
そこには、電子的なポップアップメニューの囲いの中に、一つの質問と、YES or NOの選択肢が表示されていた。

「一つ前のセーブ画面に戻りますか? YES or NO?」

なんだこれ。ひとつ前のセーブ画面に戻りますかって、こんなメニューがあるなんて僕は聞いたことがない。まずもって、セーブってなんだ?わかるようで分からない。なんのことを言っているんだ。

そうこうしているうちに、残り時間がポップアップ上部に表示される。

「残り時間、10秒?」

僕は何が何やら分からないまま、YESかNOの選択肢を押さなければならなかった。
残り時間は、9・・8・・・7・・・・6・・・・5とどんどん減っていった。YESかNOを押さねば、このカウントダウンは終わってしまう。なんとなく、ここでYESを押せば、何かが変わる予感がした。その予感がどこから来た知識なのか、僕にはわからなかった。
3・・・2・・・・・・・1と、0を刻むより前に、僕は僕の本能に従い、

「YES」

のボタンを押した。

Re: AIも異世界もないこの世界で、彼女のために、闘う。 ( No.12 )
日時: 2020/06/16 02:22
名前: 多寡ユウ (ID: NqZUFIjv)
参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi

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「ありがとう。ユウキ君」

僕が気が付くと、目の前にはよく見知ったその人がいた。
その人は1か月前に僕がレジスタンスに入団を決めた日と同じような顔をして、僕を見ていた。その眼にはうっすら涙さえ浮かべていて、
その表情は、悲しみと喜びが混在する、何ともさみしい表情だった。


(アイ・・・・・・・さん)


目の前にアイさんがいることで、先ほどまでジェイソン戦で張りつめていた緊張の糸がプツンと切れた。
僕は気が付けばアイさんに向かって、走り出し、アイさんを思いっきり抱きしめていた。


「なっ!お、おい、ユウキ君。どうしたんだ急に」


アイさんがいる。ここにアイさんがいる。その事実だけで僕は泣き出してしまった。


「アイさん・・・、アイさん・・・!」


僕はアイさんのことをぎゅっと抱きしめた。


「ユウキ君・・・、なにかあったのか」


僕はアイさんを抱きしめながら、泣き出してしまった。
アイさんがここにいる。
まだ死んでいない。
まだ生きている。
まだ息をしている。
今ここに元気に立っている。
それだけで、僕の心は安堵し、その安心から涙があふれてきてしまった。

と、心が落ち着いてくると、アイさんがジェイソンから受けた傷のことを思い出した。
(・・・あ!背中の傷!)


「アイさん!後ろ向いて下さい!」

「えっ、後ろ?」

「いいから早く!」

「えっ、ええええっ!」

アイさんの後ろに向かせると、黒色の鎧がアイさんの背中を守っていた。おかしい。さっきアイさんの背中は、鎧ごと切り裂かれていたはず。なのになんで。

「アイさん!鎧脱がしますよ!」

「ふぇ?」

「失礼します!」

そういってアイさんの背中の鎧を外して、その同じく黒色のシャツをめくり背中を確認した。しかし傷なんてものは1ミクロンたりともなく、アイさんの黒いのブラジャーがあるだけだった。

「そんな・・・馬鹿な」

そんなはずはない。あの時確かに、アイさんは重傷を負っていたはず・・、

「いいぞ、いいぞ!もっとやれ少年!「アイ、顔が赤いぞ「あらあら、なかなかエロいのねぇユウキ君」」」

とまあ僕がアイさんのケガの具合を見ていると、隊長たちの声も聞こえてきた。なぜここに隊長たちが?さっきまでジェイソンとの戦いにいたはず。というか、ここはどこだ。僕が周りに気を配ると、どうやら見知った光景だった。100人ほどいる隊員たちが30卓ほどのテーブルに座り、驚いた様子でこちらを見ている。そして僕を囲むようにして、隊長たちがいる。この光景・・、どこかで。

「ゆ~う~き~く~ん!!!」

「へ?」

あ、やばい。アイさんの下着出しっぱなしだった。

「す、!スミマセン!」

急いで上にずらしていた黒いシャツを下におろして、ブラジャーを隠し、鎧をかぶせた。

「すみません!悪気はなくって、あの。ごめんなさい!」

僕は急いでスライディング土下座をして、アイさんに向かって平謝りした。アイさんも、赤面しているが、さほど怒っている様子はなく、「まったく」と言ってため息をついて、身だしなみを整えていた。

「いや、別に、君が急にそういうことをするから、みんなの前で。わたしも、こういうのはあまり、け、経験がなくてだな、えっと、だから、つまり、驚いただけだ、まったく・・」

アイさん、意外と怒ってないな。
赤面するアイさんを見ながら、僕は再び安堵し、涙がちょちょぎれた。アイさんの悲痛な顔しか見てこなかった気がする。だからこそ、アイさんの恥ずかしがる顔を見れたのが、たまらなかったのだ。

でも、どうして、今僕はここにいるんだ。

隊長3人も他のレジスタンスのメンバー100人も、アイさんもここにいる。ここは間違いなく、僕が1か月間お世話になった本拠地に違いない。そしてこの場面、レジスタンスのメンバーが全員卓に座り、隊長たちも全員集合して、アイさんの嬉しさと悲痛の入り混じった顔。あれに僕は見覚えがある気がする。

ジェイソンの戦いの後に、僕が気を失って、ここにいるということか?

それにしては、アイさんの背中の傷がない。

ここはどこで、いつなんだ。


「だ、大丈夫か?ユウキ君、何かあったんじゃ」


僕が思案していると、アイさんが僕を気にかけてくれた。


「あ、だ、大丈夫です!なんでもありません。ハハハ」


「そうか?それならいいのだが。まあ今日はあんなことがあって疲れたろう。ゆっくり休んでくれ」

「あんなこと?」

「?・・ああ。すまん言葉足らずだったな。今日、君がケルベロスに襲われたことだよ」

「!!!!」

今日、ケルベロスに襲われた????
そんな馬鹿な。僕が襲われたのは、ちょうど1か月くらい前のはず。
僕は今の僕のレベルを確かめるために、僕のレベルの画面を確認した。

「レベル・・・・・、8?」

レベル・・、8?
僕のレベルは13層攻略の当日にはレベル50にはなっていた。みんなの戦力になるために、頑張って修行してやっと50まで届いたんだ。それなのに。

「アイさん…」

「ん?なんだ」

「僕らは、いつ13層攻略に挑むんですか」

「ン・・・、いい質問だな。そうだな、1か月後には作戦を実施したいと考えている。それまでに修行し、強くなっておくのだぞ、ユウキ君」


(そんな…馬鹿な。時間が、戻っている??)
僕のレベルが8だったのは、ケルベロスを倒した直後のことだ。そのあとは、僕はアイさんを守りたくて、ゴウの隊員になり、ゴウに修行をつけてもらった。1か月でアイさんを守れるくらい強くなるために、頑張ったんだ。なのに、

何もかもが、リセットしている。

Re: AIも異世界もないこの世界で、彼女のために、闘う。 ( No.13 )
日時: 2020/06/16 02:24
名前: 多寡ユウ (ID: NqZUFIjv)
参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi




何もかもが、リセットしている。

「よし、ユウキ君。今日はひとまず、親御さんの元に帰るのだ。ご両親も、帰りが遅く、さぞ心配している事だろう。もう黄昏時だ。日没まで、時間はない。早めに帰りなさい」


アイさんが僕に向かって、実家に帰るように促してくる。しかし、当の僕はそんな信条であるはずもなく、ただ茫然と、その場で起こった出来事を整理しなければならなかった。

「今日は、帰りません。アイさん、少し話があるんです。本拠地に泊まってもいいでしょうか」

「えっええ!」

アイサンが驚いた様子で僕の方を見てきた。

そして、同時にリュウとゴウ、サユリさんが茶化しに入る。

「おおうおう、愛の告白か!少年!「なかなかの根性だな「あらぁ~、お姉さん男らしくて好きよぉ」」」

そういうことではないのだ。今は、この状況を確かめる必要がある。でも、今全員に報告するわけにはいかない。アイさんに報告しなければ。


「ととと、泊まる場所はある。私の部屋というわけには無論いかないが、ステイスペースでの寝泊まりは可能だ。親御さんにはメールか何かで連絡しておくといい。話はあとで聞くとしよう」

「はい。ありがとうございます」

そうして、僕の、僕だけの13層攻略の日が終わった。
今は、この謎を突き詰めなければならない。
🌊🌊🌊🌊🌊🌊🌊🌊🌊🌊🌊🌊🌊🌊🌊🌊🌊🌊🌊🌊🌊🌊🌊🌊🌊🌊🌊
アイさんとの話し合いは、夜の9時に本拠地近くのレストランで行うと決めて、アイさんにも連絡した。僕の両親には、2泊3日でタクムの家に遊びに行くと嘘をつき、適当にやり過ごした。

そうして、アイさんが来るまでの時間で、僕は今まで起きたことを整理した。
13層攻略があった今日。
① 詠唱中のサユリさんを守るため、ジェイソンに僕は立ち向かった。
② アイさんはジェイソンに背中を切られ、重傷を負った。
③ 次に僕が首をはねられて、死亡した。
④ しかし、「もう一度セーブ画面に戻りますか」というポップアップの指示に、「YES」のボタンを押すと、
⑤ 攻略1か月前の、僕がレジスタンスに入団した日に戻ってしまい、
⑥ アイさんも僕も生き返っている
というわけだ。

以上のことを頭の中で整理するには、アイさんが1か月以上前に行っていたこの世界は作られた世界であり、本物の世界は別にあるという発言も重要かもしれない。なぜなら、この世界は誰かによってつくられたからこそ、もう一度過去を繰り返すという、通常ではありえないことが起こっているかもしれない。

でも、そうするならば、

僕以外の人たちも、あの画面が表示されてもおかしくないはずだ。
あの画面というのは、「前のセーブ画面に戻りますか」「YES or NO」のあの画面。もし、そうならば、この世界で死んだ人には、あの画面が表示されて、過去に戻っている可能性もあるということだ。

でも、それは今考えても仕方がない。
多分、この整理した事項を並べると、
僕は未来から来たということになるだろう。
未来から、悲惨な未来を変えるためにやってきたと考えるのが自然だ。

今はアイさんに、その事の次第を説明するのが先決。

そんなこんなで、頭の中を整理していると、アイさんがやってきた。時間通りにくる正確さは、いつ考えてもすごい。僕が修行しているときも、そうだった。アイさんが時間に遅れたことは一度たりともなかった。
時計は、ちょうど九時を指し示していた。

「待たせたな。ユウキ君。どうした?そんな思い悩んだ顔をして」

「アイさん。ありがとうございます。きてくれて」

「なに。君が尋常ではない顔をしていたからな。レジスタンスの本拠地に来てから、様子がおかしいと感じていたが。なにか、あったのか?」


アイさんは席に座ると、この店のサンドウィッチを店員に頼みながら着席した。
「アイさん・・・」

「どうした、神妙な顔をして」

「話したいことがあるんです」

「ああ、どうした」

「僕は・・、未来からきたかもしれないんです」

🌊🌊🌊🌊🌊🌊🌊🌊🌊🌊🌊🌊🌊🌊🌊🌊🌊🌊🌊🌊🌊🌊🌊🌊🌊

僕は今までにあったできごとを全て洗いざらい話した。僕は一か月後の未来から来たのではないかという結論から、その結論に至った背景まで。全部。

するとアイさんは合点がいったような顔をして、「そうか・・」と一言だけ言うと考えこんでしまった。
え、いや、それだけ?僕にとってはめちゃくちゃ重要なことだったんだけど、アイさんにとってはさして新しいことでもなかったのだろうか。もしかしたら、今までもそうした未来から来た人間に会ったことがあるとか。


「アイさん、どう思いますか」

「うむ、一つ質問してもいいか」

「はい」

「君がジェイソンのこと、13層攻略の時期のこと、そして、私の背中を見たことは、全て未来に怒った出来事が関係しているということだな」

「その通りです」

「そうか・・、合点がいったよ。君がレジスタンスの攻略計画を何から何まで知っているから、私は肝を冷やしたよ。どこかで自分が酒におぼれて口走ったのではないかとな」

「お酒飲まれるんですね、アイさん」

「それはそうだ。リーダーという立ち位置も、どうにも責任とかやらなければならないこととか、マネジメントとか、そういう雑務諸々で疲れることもあるのだ。骨折り損のくたびれ儲けだよ」

骨折り損のくたびれもうけ・・・・、どんな意味だったか完全に忘れているので、僕は内心ではスルーしたが、要約すると、働いても割に合わないみたいな意味なのだろう。正直、知らないが。

「今日の私の背中を見て、ブラジャーの色を確認したことは、無罪放免にするとしよう、そういう事情があったわけだしな」

「あははははは、よかったです。怒ってるかと思ってたので」

「怒ってなどおらぬ。だがな、ああいうことをされたのは、初めてだったのだ。それで、少し気が動転してしまっただけだ」

アイさんが頬を赤らめ、赤面する。
赤面するアイさんが一番かわいいと心の中で僕はそう思っていた。
「ご注文のサンドイッチでございます」
すると、そうこうしているうちに、アイさんが注文したサンドイッチが運ばれてきた。
「有難うございます」とアイさんは店員さんに一瞥すると、
サンドイッチをまず一口食べて、話の続きを始めた。


「君が未来からきたのは、間違いないだろう。ここが本来の世界ではないと前提のもとに立つと、猶更そうしたリセットという機能がこの世界にあってもなんら不思議ではない」

「はい、スミマセン、そんな機能使っちゃって」

「いや、謝ることじゃないよ。なにせ、君は我々レジスタンスが負け行く運命を変えたのだ。誇りに思え。ユウキ君」

「負けゆくっていっても、僕がいなければ、勝てたかもしれません」

事実、僕があの時にジェイソンの攻撃を受けようとしていなければ、アイさんは僕を庇って死ぬことはなかったんだから、状況はもっと好転していたに違いない。

「いいや、それは違うよ。サユリは、大魔術や、回復魔術も扱える非常に優秀な魔術師だ。ジェイソン戦でも、主力のアタッカーであり、ヒーラーでもある。しかし、その分詠唱には時間がかかり、敵のエイムを受けるリスクも高まる。だからこそ、彼女を守った君の功績は高いというべきだろう」

「でも、結局、アイさんに守られてしまって、僕はなにもできませんでした」

「自分を責めるな。時として自分を過剰に責めることは、君の成長を鈍化させる。それに、君には今知識がある。ジェイソンが未来で急襲をかけてくることも、サユリが詠唱時間のスキに襲われることも、君の盾がジェイソンの大鉈には通用しないことも。君は今沢山の情報を知っているわけだ。それならば、我らの勝率が高まったと考えることもできよう」

「はあ」

Re: AIも異世界もないこの世界で、彼女のために、闘う。 ( No.14 )
日時: 2020/06/16 05:22
名前: 多寡ユウ (ID: NqZUFIjv)
参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi

「でも、結局、アイさんに守られてしまって、僕はなにもできませんでした」

「自分を責めるな。時として自分を過剰に責めることは、君の成長を鈍化させる。それに、君には今、経験がある。ジェイソンが未来で急襲をかけてくることも、サユリが詠唱時間のスキに襲われることも、君の盾がジェイソンの大鉈には通用しないことも。君は今沢山の情報を知っているわけだ。それならば、我らの勝率が高まったと考えることもできよう。だからユウキ君、君は何もできていないことなんてない。君は13層での戦いで,生還し、今ここにいる。それだけでいいんだ」

「でも・・・」

「おそらく、いや確実に一か月後の13層攻略に君は参加していた。そうして、大樹の根とジェイソン・ボーヒーズを前に惨敗した。しかし、それでも君が諦めず、私にもう一度ついてきてくれるというならば、教えてくれ。過去の戦闘の記憶を。そして、我らレジスタンスに、勝利をもたらしてくれ、ユウキ君」

「僕は・・・」

僕が、あの時。僕にできることは何一つなかった。
ジェイソンのチェーンソーと大鉈を前にして、
僕にできたことは、サユリさんが大魔術を撃つまでの時間稼ぎくらいだった。
しかし、結果的に、その時間でさえも稼ぐことはできず、アイさんに重傷を負わせてしまった。
だからこそ、
「僕は僕にできることをします、アイさん」


アイさんがもう一つの世界があると言ってから、僕は一か月間この世界のことを考えていた。
この世界はどんな世界なのか、この世界での死は何を意味するのか。
だから、僕はあの時のポップアップメニューで、YESのボタンを押せたのかもしれない。
アイさんがもう一つの世界の可能性を感じさせてくれたからだ。



僕が僕にできることは、前回の記憶を次回の13層攻略に活かすこと。この知識をみんなに共有して、全員で作戦を練ることだ。そして、アイさんも生きて、隊長たちと、他の隊員のみんなと、全員で13層を攻略し、14層に到達する。

それが僕にできる唯一のことだ。

「ジェイソンは、まず僕たちが進行してくるのを先読みして、地面を掘って僕たちに近づいてきます。前回の攻略では、森の中の開けた場所でジェイソンは顔を出しました・・・・。そうして・・・・」

僕はアイさんに、前回攻略であったことをすべて話した。

「となると、ジェイソンの大鉈にレベル50程度の盾は効かない。だとするならば、ローグ職や魔術師職の方がユウキ君には・・・

そうして、アイさんと二人で作戦を立て、一か月後に13層攻略をすることを決めた。

🌊🌊🌊🌊🌊🌊🌊🌊🌊🌊🌊🌊🌊🌊🌊🌊🌊🌊🌊🌊🌊🌊🌊🌊

一か月間

僕は、ゴウさんの騎士としての盾戦士ではなく、
リュウさんに、ローグ職の訓練を受けていた。
リュウさんのモテエピソードを聞きながら、毎晩なにか色恋沙汰の話をされ、
それを苦笑いで聞くという日々が続いた。

アイさんとの作戦会議の中で、ローグ隊の方が移動速度や攻撃力も高く、根っこの除去やジェイソンへの急襲などにも即座に対応できる。

というわけで、僕は一か月間の間、リュウさんにみっちりしごかれて、前回と同様にレベル50に到達した。

もう同じ過ちは犯さない、二度と。
アイさんを助けて、13層を突破してやる。

そうして、一か月の時が怒涛の如く過ぎ、
そんなこんなで、レベル50になったというこのタイミング。
ついにアイさんが、99層迷宮の13層の攻略を明日行うというアナウンスを告げた。

🌊🌊🌊🌊🌊🌊🌊🌊🌊🌊🌊🌊🌊🌊🌊🌊🌊🌊🌊🌊🌊🌊🌊🌊🌊


13層攻略の前夜、僕は本拠地近くのレストランで、四人掛けの机で一人食事をしていた。次の日に迫る決戦を前にして、どうにも気持ちが落ち着かなかった。これまでの特訓の成果は十分だったろうか、ちゃんと明日の攻略ではアイさんの役に立つことができるのかとナイーブになっていたからだ。

「不安だ・・・・」

今度こそ、アイさんを守ることできるのか。アイさんの役に立つことができるのか。
そんな不安が頭からずっと離れないでいた。過去にも同じような思考をした気がする。


「僕は、アイさんを守る、そのためのローグだ・・・」


そんなフルオブナイーブな状況な中、茶色の革装備を装備した1m80cmのイケメンが、僕の前方からやってきた。そのイケメン茶髪の見知った人は、軽装奈な茶色の革装備に身を包み、背中には大手裏剣を持っていた。

リュウだ。


「どうしたんー、ユウキ?こんなところで、みんな明日に備えて武器の手入れしているンゴよ~」


軽いデジャブを感じながら、リュウは僕が座っている四人掛けのテーブルの目の前の席に座ると、店員を呼び、僕と同じくサンドウィッチを頼む。
戦闘前日や前夜はあまり酒は飲まず、こうしてサンドウィッチなどの軽食で済ませて、おなかの調子を良くしておくことが望ましいと、そういえばリュウの特訓で教わった。


「そうですよね・・・スミマセン。なんか。一人になりたくて」

「・・・不安、かぁ?お前さん、開口一番、アイの服を脱がせたやつなのに、」

「いやいや、あれは事故ですって!」

「本当かねぇ?まあ、俺っち不安ってのはわかるだけどね」

「えっ」

「いや、今のユウキと同じような顔を、よく戦の前にしていた人間が、昔にいたもんでさ。ソイツも内心の不安が、顔に出やすいタイプの人間だったんだよ。こまったやろーだよな」

「そんな人・・、リュウさんの知り合いでもいたんですね」

「ははは。そうだな。そいつは今レジスタンスで、隊をまとめる隊長をやっているよ」

「え・・・、それって誰なんですか?」

「ふえー、それを聞くぅ?」

「あ、スミマセン。失礼でしたよね」

「いやいいよいいよ。昔は隠してたけど、今はもう隠していないしね。だから言うけども、その隊長ってのは、俺っちのことよん」

(えっ・・・)

「俺は、前に盗人やったんよ」

「確かに、ぽいっですね」

「いや、ぽいとか言うな!(笑)」

リュウさんが盗人?この世界では盗人は罪人扱いだ。小規模の罪を働くのは、大貧困家庭出身の子たちが多くそういった犯罪を繰り返す。凶悪殺人等は、家庭環境などから帝都に住んでいる人間の方が起こしやすいが、窃盗などの警備な犯罪をするのは、超絶貧困家庭に住んでいたという証拠にさえなることもある。

「俺んちは、裕福じゃなくてな。毎日金もなくて、だべるものさえなかったんだ。そんなときにさ、こう、盗んじまいたくなるわけよ。親父とかお袋とかはもうとっくに闇金に殺されちまって、俺に残されてたのは妹だけだった。だから、その妹のために、ずーっと盗みをしていたってわけ」

「ご両親はもう、この世にはいないんですか」

「そーいうことになるねー。いやーまったく人騒がせな親だよなあまったく。自分の子供おいて、一銭も残さずあっちに行っちゃうなんてさぁ。薄情だとは思わねーか?」

「いや、それは・・」

「わりわり、答えにくかったな。今の質問。やめだやめやめ。でもまあ俺はだから、盗人出身なんですねぇ。で、俺がたまたま盗人としても足が速くて、俺の足の速さを買ってくれたのが、アイってわけよ」

「足の速さで、隊長まで上り詰めたんですね・・」

「どへ!そんなわけないじゃん!少年、意外と馬鹿だなぁ!俺はコツコツ出たくもない戦場に出て、経験値を摘んだわけよ。それで今の隊長の地位になれてんの。足の速さで隊長になれたら、おまえどっかのランナーつれてくればいいっしょ」

「はははは、そうですよね(さっきまで神妙な面持ちで話していたのに、急に変な話題にするから、調子狂うなあ)」

へへへといたずらにリュウが笑っていると、注文したサンドイッチが届く。そのサンドイッチをリュウは頬張りながら、話の続きを始めた。

「だからさ、俺っちは、基本的に戦闘は好きじゃないのよ。血を見るのも嫌だしさ。盗人の方が100倍いいってわけ。でも、俺っちには妹がいる。あいつに腹いっぱい飯を食べさせてやりたい。そして、俺と妹をどん底から救い上げてくれたアイに、恩返しがしたい。それが、俺が今ローグ隊の隊長をやっている理由ってわけ」

「・・・・ゴウさんも、リュウさんも、それぞれの想いがあるんですね」

「え、お前。ゴウの隊長になった理由も知ってんの?」

「そうですね。知ってます」

「あいつ、俺には話したことねーのに。ほんっとにソリがあわねーんだよなあ。あいつの特訓受けなくて正解だぜ、ユウキ!」

(もう、一度受けたんですけどね・・・)
でも、リュウさんにもリュウさんの想いがあって、この戦いに臨んでいる。愛する妹さんのため、アイさんのため、持ちたくもない武器を持って、リュウは闘っているんだ。

リュウさんのためにも明日、頑張らなきゃ。

絶対に13層を攻略しよう。そう心に誓ったのだった。

そして、夜は更け、日はのぼり、僕にとっては二度目の、13層の攻略の当日の朝がやってきた。

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