ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
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- ゆーくんの包帯戦争。(グロ注意)
- 日時: 2009/10/30 15:17
- 名前: 朝崎疾風 (ID: VZEtILIi)
えー、以前書いていた「包帯戦争」がこちらの都合で書けなくなり、ボツになりました。
今回も重く、今まで以上にグロいです。それだけよろしく。
■登場人物■
ゆーくん
この物語の語り手。自称「人殺し」。過去にあった事件でトラウマが多い。「なんて」「とか思ったりして」が口癖。
ヒナト
苗字は岸田。ゆーくんに忠実でそれ以外の人間(特に女子や大人)を嫌う。過去にあった事件でトラウマがある。ゴスロリを愛用している。
画像>>6
- Re: ゆーくんの包帯戦争。(グロ注意) ( No.22 )
- 日時: 2009/10/30 21:16
- 名前: 朝崎疾風 (ID: VZEtILIi)
第二章
願わくば、透明人間になってみたい。なんて
双子のおにーちゃんが、足を思い切り蹴ってきた。
痛いって泣いてるのに、何度も何度も。
何かが折れる、いやな音がして、悲鳴があがる。
可愛い顔の女の子が、とても怯えた表情でおにーちゃんを見ている。
やがて、僕もおにーちゃんに連れられて、血だらけのおとーさんとおかーさんと面会した。
「殺してみろ」
おにーちゃんの、どっちかがそう言った。
首を横に振ると、後ろから思い切り何かで頭を叩かれた。
足が思うように動かせない。
ずっと恐怖で固まっていた女の子に、金属バッドを握らせて、おにーちゃんがドス声で呟いた。
「撲殺してさあ、みーんなみーんな死ぬんだよッ」
- Re: ゆーくんの包帯戦争。(グロ注意) ( No.23 )
- 日時: 2009/10/30 21:18
- 名前: 朝崎疾風 (ID: VZEtILIi)
ヒナトの料理は壊滅的にヤバイです。
理解いただき、ゆーくんもきっと内心嬉しいはずです。あの子に包丁を持たせてはダメです。
いろんな意味で。
>琉絵s
- Re: ゆーくんの包帯戦争。(グロ注意) ( No.24 )
- 日時: 2009/10/30 21:36
- 名前: 朝崎疾風 (ID: VZEtILIi)
♪
悪の帝王からもらった薬を、嫌がるヒナトの手の平に乗せる。
注意深くそれを見て、何か毒なのかと思っているのか、
「誰からもらったの?」
「先生、だよ」
「………………あの女は、嫌いだ」
敵意をむき出しにして、薬を拒む。気持ちはわからなくもないかも知れないけど、飲まないと発狂してしまう。
「ヒナト、お願いだから。きーて?」
「むー。じゃあ、キスしてくれる?」
「わかった」
「じゃあ、飲む!」
まったく。ヒナトの作ったハンバーグ(らしき物体)を食べた僕の身にもなってほしい。とは言えない。
薬を口内に入れ、用意していた水を飲む。
ごくりと飲み込み、僕の首に手を回してきた。
そっと目を閉じたのを見て、僕はヒナトにキスをする。
別に、これがファーストキスな訳じゃない。
もう何回も、と言えばそうでもないけど、今まで4回してある。同棲生活も1年が少し過ぎていた。
カップルなら、それ以上の肉体的関係があってもいいのではと指摘するかも知れないけど、生憎僕にも、そしてヒナトにもその気はゼロに近いほど、無い。皆無だ。
そーゆーのではないからね。
だって、加害者と一緒に住むってだけでアレだからね。どーかしてるから。
唇を離すと、ヒナトがニカッと笑い、
「それでいーのだっ!」
いいのかよ。
そう言おうとして、止めた。
わけは簡単。
それでいーから。
僕は知っている。ヒナトが昔、愛情に飢えていた事を。
そして、そこを漬け込まれて、狂気の沙汰にたどり着いてしまった事も。
そうだよ。
フェアじゃないじゃないか。
ヒナトは愛情を求めている。たとえ、それが僕でなくてもどっちでもいいのだろう。
彼女が求めているのは、透明な愛なんだから。
僕だろうが、帝王だろうが、近所の親父だろうが、ホームレスだろうが、妊婦だろうが、人間は嫌いだけど、愛情が欲しい。
だから、ヒナトは僕を選んだ。
自分と同じく、人間嫌いで、同じように狂わされ、壊され、心をズタズタに引き裂かれた僕を、「愛情提供者」として選んだ。
僕は別に、愛情も何もないから、というか、感情なんてもうどっちでもいいから、それならヒナトに答えてやろうと言うだけの事で。
「もー寝るのじゃー。布団を引くぞ、ゆーくん!」
「はいはい。明日も、学校休みか。犯人捕まってくれよなー」
「なぬっ!?ゆーくんはいつから正義の事について考えるようになったのじゃ??」
最初から、正義なんて考えてねーよ・。
「最初から、考えてるよ」
嘘をついてしまった。なんて。
ヒナトが僕のひいた布団に寝そべる。
そして思い切り伸びをして、
「寝ようっ、ゆーくん!夢に羽ばたこう!そして天国へゴールインだっ!」
死んでるじゃん、それ。
僕は躊躇もせず、ヒナトの横に腰を降ろす。
「ゆーくん、大好き」
「僕もだよ」
「ゆーくん以外の人間は、大嫌い」
「僕もだよ」
「世界は、いつもあたしを独りにしていくから、キライ」
闇に呑まれないように、僕らはギュッと手を繋いで眠る。
僕はいつも、ヒナトが夢に堕ちるまで、起きている。そして、彼女が心地いいリズムで寝息をたてはじめたとき、僕は初めて、この世界で一番キミを愛しいと思う。
- Re: ゆーくんの包帯戦争。(グロ注意) ( No.25 )
- 日時: 2009/10/31 07:23
- 名前: 朝崎疾風 (ID: VZEtILIi)
僕が起きたのは、まだ暗い、おそらくは今日付がかわったぐらいの時間。
僕はヒナトの奇声で眼を覚ました。
冷たい空気は刃のように肌を貫き、外の世界はまだ闇で覆われている。
ヒナトは体を痙攣させ、頭を上下に強く振っていた。
「ヒナトっ」
暴れるヒナトの細い腕を掴み、動きを抑える。今までも、何回かこの「発作」は起こった。
「あ……あ……っ、ギイエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエッッッ!!!」
獣のような、人間のものとは思えない声を発しながら、首がもげそうなほど上下に振る。
僕から逃れようと、必死でもがくが、やがて納まったのか、
「ぎーヴぃー…………がー…………」
最後に唸り声のようなものをあげて、ガクッと力尽きてしまった。
電気をつけて時計を見ると、1時すぎ。
ベッドで完全に気を失っている、死体のように動かないヒナトの横で、
「………………………」
その寝顔を無言で見つめる。
機械仕掛けのコッペリアのように、時々ヒナトは壊れる。いや、間違い。
普通にしている時点でもう、狂っている。
第一、僕がヒナトと同棲しているのは、ヒナトが僕と同じ境遇で、少し違う理由で壊されて、ヒナトと再会したとき、愛に飢え、援助交際というとんでもない事をしようとしていたからであり。
そして、自分はゆーくんだと名乗ると、彼女は感極まって泣いてしまい、嬉しさのあまり僕にキスをしてきた。
後で聞いたら、援交はただ抱きしめてくれるだけのものだという、非常に危ない勘違いをしていたようで。
ともかく、アレだ。
本人がもう眠っているのだから、これ以上余計な事は考えず、こちらも寝よう。
キミに妨害された、冷たい夢の続きを知りたいからね。
- Re: ゆーくんの包帯戦争。(グロ注意) ( No.26 )
- 日時: 2009/10/31 08:13
- 名前: 朝崎疾風 (ID: VZEtILIi)
「いやー!あたしも行く!絶対に行くのだっ!!」
そんなにはしゃがなくても……少し困る。
でも、自分でこの子の「愛情提供者」になったんだから、きちんと役を承らなければ!
「いやー、だからね。今日は僕も用事があって……」
「ダメー!あたしも一緒に行く!行くのっ!」
ワガママスイッチ、発動か。
「来てもいいけど、きっとヒナト、嫌になってすぐに帰ると思うよ」
「それでもいーの!何で?何でヒナトが一緒じゃダメなの??」
キミが最も苦手としている女性に会うからだよ。
「んー。危険だから」
色んな意味で、あの人は危険だ。帝王め。
それでもヒナトは引かず、
「行く!行くったら、行くー!!」
駄々をこねてしまった。昨日の、というか今朝方の奇声あげている時の方が大人しいぞ、なんて。思ったりしなくもない。
仕方なく、ヒナトと手を繋いで目的地に向かう。
今日もゴスロリで、スカートは赤と黒のチェック、黒の薄い長袖(白い雪のようなものが舞っている)を着ている。これも精神の歪みか?あー、なるほどね。
「どこ行くの?」
「ヒナトが、一番キライな場所」
ギュッと、手を握る力が強くなった。怖いのだろう。
「大丈夫。僕がいるし」
「うん、うん。ゆーくんがいるから、安心なのだっ」
住宅街を抜けて、細い路地裏を通り、大きな道に出る。
お昼過ぎでどこかに食事でも行くのか、通り過ぎている車が多い。
今日の朝ごはんは、僕が作った。
ヒナトの料理を笑いながら食べる自信がなくなったので。はははは。笑えねーよ。
ヒナトの体が、硬直した。
ん?あぁ、そっか。動物的その本能と視力で捕らえたんだな。感心する。大賞をあげたいくらいに。
僕は殴られた影響で、視力が低下してるから。
「ゆーくん、帰ろう」
「ダメ。ここに用事あったんだから」
「あたしはここが大嫌いだ。ゆーくん、知ってるでしょ?」
「言ったじゃん。ヒナトがキライな場所に行くって」
「むー。ならば、あたしは外で待ってる」
それが一番こえーよ。
「誰かに連れて行かれたら困るでしょ」
「大丈夫っ。反撃するのだっ」
「何でするっていうの」
「こ・れ」
ヒナトが赤黒チェックのスカートから、小型ナイフを取り出した。パチンッと音をさせて、刃を開く。
「ヒナト、それいつも持ち歩いてるの?」
「護身用なのだ〜」
ヒナトの世界では、法律も糞もあったものじゃないらしい。
「いや、ソレ法に触れるから。貸して」
「ゆーくんはあたしが襲われてもいーの?」
よかねーけど。ヒナトは護身術、というか反撃術なら昔小さい頃に覚えたじゃんか。
最低の結果で終わったけど。
「殺人犯、捕まってないのにー」
「だから、中入るよ」
「むー。ナイフはお預けなのだ」
「そのナイフ、貸して」
さっきからモタモタして全然足が進んでいない。傍から見れば、僕はいたいけなゴスロリ少女をナンパしているという大変不快な誤解を受けられるハメになるんだろうーなー。なんて。
「ダメだよ」
「どーして?」
「これで、ゆーくんを殺すんだもん」
喉から出そうだった言葉を飲み込んだ。少しだけ肩に力を入れる。
「ゆーくんを殺そうとする奴ら、嫌い。だから、ゆーくんが殺されそうになったら、あたしがゆーくんを殺すの」
僕を殺そうとする狂気の犯人を殺してくれよ。
でも、生憎ヒナトの頭にはその光景しか浮かんでいないだろう。昔、そんな事が実際に合ったわけだから。
「ありがとう。じゃあ、そのナイフは隠して持っててね」
「ラジャっ」
「あと、それを病院内で振り回さないでね。誰も傷つけちゃけないよ」
「うー、でもゆーくんが殺されそうになったら、発動しちゃうかも♪♪」
笑顔でそんな物騒な事を言われても困る。とにかく、今は病院に行かないといけないわけで。
僕の、じゃない。ヒナトの、だ。
だからわざとヒナトが来るように煽ってみたけど、こんなに釣れるとは思わなかった。
「何しに来たんですかー」
白一色の清潔感と消毒液の匂いで統一された部屋の、パイプ椅子。そこに帝王は君臨していた。
サンダルを脱ぎ散らかし、眼鏡を外して、おそらくは目の部分に水蒸気を放っているタオルを置いている。
「えっと、この子を見てもらいに」
「へーほー彼女?」
「ヒナト」
先生が顔を上げた。タオルが床に落ちたが、先生はそれに目もくれず、食い入るようにヒナトを見ている。
ヒナトは無表情で先生を睨んでいた。
「…………………連れて来たわけ」
「ヒナト、あんま病院も行ってないし。お願いしますよー」
「…………………そう言うんならさ、その子をしつけてから来なさい。一応保護者でしょーが」
まあ、そうなんですけどね。
でもヒナトをしつけられるのって、無理だと思う。
「帰りたい」
ヒナトが短く言葉を発す。
帝王がひくっと顔を引きつらせ、
「ほら、帰りたいって言ってるじゃない。早く帰りなさい」
「…………………ヒナト、少し外に出てくれる?」
「うー?」
僕は、ヒナトが苦手とする冷たい目をして、
「お願いだから」
「わ、わかった。でも、何か合ったら悲鳴あげてねっ!ナイフで反撃するからっ!」
病院で何する気だよ。
ヒナトが素直に出て行き、僕は立ったまま帝王を見下ろした。
「それって、諦めてるって事ですか?」
「簡単に言っちゃえば、そーね。だって、態度からして“もう治療なんて受けません”オーラーぷんぷんじゃないの。それに、私を見て敵意むき出しだし」
それは、帝王だけではなく他の人間全体に当てはまる事だ。ヒナトは、愛情を求めているけど、人間を嫌う。
その理由は簡単。
人間に酷い事をされ、人間に壊されたから。
そして、僕も。
「はー、お腹すいたなー」
「仕事しなさい。それで給料もらえるって、医者も楽だよな」
「まー、ね」
まったく。少しはヒナトの事を見てもらおうと思ったのに。
「あの子、随分ゴシックな格好じゃないの」
「趣味、らしいけど」
「とことん道を踏み外しているわね」
もう逆戻りくらいの勢いですが。
先生が眼鏡をかけ、床に落ちているタオルを拾った。冷たくなっていたのか、顔をしかめる。
「とりあえず、あの子がまともに人の話を聞くようになったら連れてきて。まあ、勿論一生直らないと思うけどね」
当たり前だ。
もうヒナトはボロボロに壊れている。
壊れているものを、元のように完全に修復するのは、不可能だ。ましてや、それが心という脆いものならなおさら。