ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
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- LOVE SEED!
- 日時: 2010/01/07 16:22
- 名前: のんびり (ID: W8aSPOGo)
初めましてです。
のんびりです。動詞ではなく名詞です。
まだまだ未熟な私ですが、頑張るのでよろしくお願いします!
コメディ・ライトかシリアス・ダークのどっちに入れるか迷いました。だってどっちも入ってる感じになりそうだし・・・結局シリアスの方に入れましたが。
登場人物
「逢梨明ユウ(ありあ・ゆう)」
記憶喪失の少年。魔法と魔術が使えない魔導拒絶体質である。綺麗な銀髪は、右目で分けてありちょっと跳ねている感じ。印象的なその琥珀色の瞳はまさに宝石のようとまでどこかで言われているとかいないとか。
「真宮愛佳(まみや・あいか)」
ユウの第一発見者。修三の娘。銃器なら大体扱う事が出来る。茶髪の肩まであるセミロング髪。頭に黒いリボンをつけていて、後ろから先端が出ている。そこにフリルがあしらってある。
「冬樹白馬(ふゆき・はくま)」
名門校フレイヤ学園に通っている少年。無口でかなり真面目。特別所為のグローブをつけて相手を殴る蹴るが主な攻撃方法。綺麗な黒髪で、丸フレームの眼鏡をかけている。唯一その透き通ったブルーサファイアのような瞳が明るく見える。EX,s所属。
「真宮修三(まみや・しゅうぞう)」
愛佳の父。実は教師だったり。主にハルバードという戦闘用の槍のような斧を使用しており、家にある道場に3本ほど飾ってあるとか。
「冬樹先生」
防人学園生物学教師。
「葛木先生」
防人学園魔術科教師。
登場キャラ、及びそのキャラの説明は更新されて行きます!
- LOVE SEED! ( No.9 )
- 日時: 2010/01/04 13:25
- 名前: のんびり (ID: W8aSPOGo)
第2話「消え行く記憶と決定祭」(4)
驚いた。
正直驚いた。
まさか本当にあの悪人面の生徒と当たる事になるとは思いもしなかった実はちょっと緊張気味で調子に乗ったような事も言ったけどまさか本当に当たるなんてこれっっっぽっちも思っていなかったからー、とか心の中で言い訳を並べるユウ。
ぶっちゃけ、恐いと言えば恐いし、恐くないと言えば恐くない中途半端な心境だ。
とはいえ初戦から、と言う訳ではないのでとりあえず安心。出来る訳も無かった。
緊張からとかではない。
初戦が自分ではなく、愛佳だからだ。
ちらと愛佳の方を見てみる。
「ガクガクガクガク……」
滅茶苦茶緊張していた。
(大丈夫かよあれで……)
心の底から心配だった、自分の試合よりも。
愛佳の名前が進行役の男に叫ばれ、ビクっとしながらステージに上がって行く。といっても、ある意味偽物だが。
ステージ上で戦うのは安全面を考慮してバーチャル化された自分だ。身体は普段のように動くし、自分の身体能力なども完全トレースされているので動きは心配ない。斬られたり撃たれたりされた時の痛みまで再現され、腕が落とされれば落とされた感覚がして血が噴き出す感覚もする。完全リアルな体験(?)が出来る訳だ。
ちなみに実体化しているのでバーチャルになっていない物にも触れる。
愛佳の対戦相手は右腕に機械巨腕(ロボットアーム)を装備した少女だった。その機械巨腕はやけにゴツく、まるで殴るために作られたかのように見えた。当たったら愛佳は一撃な気がする。
(大丈夫かよ……)
後ろから見ていても分かるほどに緊張している愛佳を見ていると、心配以外の気持ちが沸いて来ない。
だが、場外にいる側には何も出来ない。勝つにしろ負けるにしろ見ている事しか出来ないのだ。ただただここで勝敗が決するまで応援しているしかない。
「……では、始め!!」
* * *
愛佳はステージ上にいる。
目の前には対戦相手がいて、自分の手には母の形見である銃のアークM999がある。試合は既に始まっていて、対戦相手の女生徒は機械巨腕を振りかぶりながらこちらに走ってくる。
緊張感は段々とほぐれて来た。
さっきまで緊張で身体がろくに動かない状態だったが、開始されてからそれも解消されてくる。意外とこういう時に強いのではと愛佳は思う。
相手との距離は10メートルくらい。それを相手は徐々に縮めてくる。
頭が冴える。
こっちはただ呟くだけだ。
「…………、コンタクト。ターゲット……ロックオン」
そのガーネットのように赤い瞳。その上につけてある特殊なコンタクトは、ロボットアニメのように相手をロックオンする事が出来る。それは自分の銃とリンクし正確に射撃する事が可能にする事が出来るのだ。
狙うは機械巨腕の間接部。肩、肘、手首等の部分を撃ち抜けば攻撃方法は無くなる。
距離は現在5メートル前後。緊張などもう感じてはいない。愛佳はなんの躊躇いも無くトリガーをひく。
瞬間、相手の女子生徒の右肩が後ろに引っ張られた。
彼女はその反動に引っ張られ、軽く仰け反る。
「くっ……!」
足をついて何とか体制を立て直そうとするも、耐えきれずそのまま尻餅をつく。
関節部分に違和感がある。今の一発で以上を来したらしい。
舌打ちをついて一気に愛佳へと突っ込んで行く。が、さらに機械巨腕へ撃たれ動きが悪くなってくる。
「う、うああああぁぁぁぁ!!!」
もうがむしゃらに突っ込んで行くしか無くなった女生徒。
「……特殊弾倉装填完了。行くよ、8連弾……!」
第一弾倉、龍爪。
勢いよく水圧弾が放たれ機械巨腕を通り過ぎる。思いきり装甲を削り取りながらそれはどこかへ消え去る。それも気にぜずまだ走ってくる。
第二弾倉、虎牙。
雷のごとく機械巨腕に圧縮された電撃が直撃する。龍爪の水が電流の通しを良くし、完全にショートさせ動かなくする。さすがに驚愕した女生徒は一瞬足を止めてしまう。
第四弾倉、火炎双翼。
炎の鳥が一気に女生徒を包み込む。
その瞬間。勝負は決した。
- LOVE SEED! ( No.10 )
- 日時: 2010/01/05 00:52
- 名前: のんびり (ID: W8aSPOGo)
第2話「消え行く記憶と決定祭」(5)
圧倒的だなー、と爽やかな顔をしながら思った。
さっきまで緊張していた愛佳は一体どこに行ったのだろうか。さっぱり分からない。本番とかに強いタイプなのか?
どっちにしろ愛佳の勝利だった。これで愛佳はEX,s入りか……。周りの大歓声がそれを証明しているようだぜ。これが俺の時にも流れれば良いけどな。
ちなみに俺の番は最後だからまだ先だ。
『続きましてぇ、右方の大門大介、左方の冬樹白馬(ふゆき・はくま)です』
降りて来た愛佳が耳元でささやく。
「左方の子って、家の冬樹先生の息子さんなんだって」
「……マジか。制服からしてあいつもフレイヤ学園っぽいけど」
左方はこっちから見て向こう側だ。見てみると、綺麗な黒髪に、特に特別な訳でもない丸フレームの眼鏡をかけて、フレイヤ学園の白いジャケットを着た無愛想な少年だ。
さっきの悪人面もそうだったはずだからフレイヤ学園の生徒が2人も出てる訳だ。やっぱ名門だからなのかそれは関係なくなのか。それにしても仮にも名門とか言われてるんだからもっと愛想のいい奴とか悪人面じゃない奴とかいなかった物か。面接とかしてないんじゃないだろうな。
『それでは、始めぇっ!!』
それは一瞬だった。
始め、その一言と同時に眼鏡をかけた左方の奴。つまり冬樹白馬が消えたかと思えば、いつの間にか大門の懐に入り込み、鳩尾へと強烈な一撃を放った。それだけだったのだが、大門はふらっと倒れた。たった一撃で気絶させたあいつの一撃の威力がどんな物か少し興味があると同時に驚きでいっぱいだった。
「す、凄い……」
愛佳が横で口に手を当てながら呟いた。
俺自身そう思う。最短記録でも更新されたんじゃないかと思うほど早かった。さっき愛佳に捧げた物と同じような歓声はまだ聞こえない。みんな黙ったままだ。
冬樹白馬はただ何も言わずに消えた。バーチャル化を解除したらしい。他のやつの試合はどうでもいい、と言う事なのか?
しばらく呆然としていた進行役の男はハッと気付いたように口を開く。
『あー……つ、続きまして、右方の月路鏡(つきじ・みら)、左方の──』
大きくため息をついて俺はステージ前を背にする。
「? どこか行くの?」
「ああ、適当に回ってくる」
バーチャル化を解除する。一瞬意識が飛んだ後、本体の身体に感覚が戻ってくる。カプセルから出てみると、俺以外に一つ開いているのがあった。多分さっきの冬樹先生の息子、白馬だろう。
「…………」
腕を動かすと、何かのっているのに気付いた。見てみると、刀が一本あった。そういえばおっさんに武器が無いからって貰ったんだったっけ。置いて行く訳にも行かず、とりあえず持ってカプセルから出る。
特に見て回る当ても無く、適当にぶらつく。所々にあるテレビ画面にはさっきの月路鏡と、誰かの戦いが繰り広げられている。これを見ていれば戻るタイミングも分かるだろう。
光が見えた方に行ってみる。外に続いているみたいだから何となくそっちに引きつけられていた。
そこから見えた景色はある意味凄かった。
技術都市シュヴェーデの半分が丸ごと見渡せるのだ。女王のいる城は見えないが、工場や研究所のような場所はあちこちに見える。絶景、といえるような物ではない。何が凄いと聞かれれば多分、答えられないだろう。でも俺は何となく凄いと感じた。
「誰だ……」
ふと視界右から声が聞こえた。周りを見ても俺以外にいないから俺に言ったんだろうな。とりあえず何か返事でも返しておこうと声の聞こえた方に顔を向けると、
そこには誰もいなかった。
「──ッ!!」
瞬間、上空からの不自然な音に気付いた。何か落ちてくるような空を切る音。上を見るより先に刀を抜いてそれを受け止めていた。
ズン、と指先から足のつま先まで伝わってくる衝撃。
「ッ!」
何か驚きを感じているような声が聞こえた。って、今はそんな事どうでも良かった。
「おい、何だよ急に!」
「……逢梨明ユウ、か。決定祭出場生徒の」
気付かなかったとか?いや、それは良いけどだからって真上から殴り掛かってくるのもどうと。
俺が受け止めに使った刀は、白馬のつけているグローブに掴まれている。特に血も何も出ている訳じゃないようだから切れたりはしていないようだ。
ゆっくりと刀身を離して俺の目の前に立つと、
「別に。ただの防衛反応だ。悪かったな」
「謝るなら殴り掛かってくんなよな……マジで恐いから」
……………………。
しばらくの沈黙。だって相手の冬樹白馬が何も返事をして来ないもんだから俺も言う事が無くなる訳で、こんな沈黙も必然的な事だったりする。
と、この微妙な空気の沈黙の中で口を開いたのは目の前の無愛想な眼鏡男白馬だった。
「何で分かったんだ……?」
「はぁ?」
「完全に音も立てずに不意討ったはずだった」
こいつ、涼しい顔してとんでもない事を……。
「いや、だって空気の音が……」
「空気?」
「あー、空気を切る音って言うかなー。とりあえずそんな感じの音が聞こえたもんだからな、上から」
「…………」
また黙っちまったよ。絶対こいつとの会話を弾ませた奴っていないだろうな。
「そんな小さな音を聞き取った上に受け止めたのか……」
「ん? 何か言ったか?」
「別に何も。じゃあ、また後で表彰台の上ででも」
「おいおい、まだ勝った訳じゃないんだぜ?」
踵を返しながら、
「……そうだったな」一間置いて続ける「相手の男は結構な手だれだが、たいした事は無い。俺に言わせればただの雑魚だ。苦戦したって絶対的に勝てるだろう」
そう言い捨てて姿を消して行った。といってもスタジアムの奥に消えただけだけど。
結構良い奴なのかもしれない、と俺は思った。でもさっきの出来事を思い出したら、
「……勘違いかもしれない」
* * *
結構長く話していたのか、中に入ってみたらもう俺の前の試合が終わりそうだった。急いでカプセルの中に入る。意識が飛ぶのと同時、バーチャル化された俺の身体に意識が宿り、急いでステージ前に戻った。
「はぁ……はぁ……間に合った」
ついた時には調度俺の前の試合が終わった時だった。何とかまだ右方だ左方だとかは呼ばれる前に来れた。
「ユウ、遅いよ。もうちょっとで試合始まる所だったんだからね」
「良いだろ別に、呼ばれる前に間に合ったんだから」
息を整えて、ステージの階段を上る。手には刀を持って。
『続いて、右方の逢梨明ユウ、左方の杯礼帑(さかずき・れいど)の試合です』
あいつ意外にカッコいい名前だったんだな。顔が似合わないぜ。
杯を見てみると、うわなんかでかい銃槍(ガンランス)持ってる……。あんなもん振り回すなんてお前本当に高1か?
見てみればやけに変な形の銃槍だ。持つ所の一番後ろの先端部分に小型のロケットブースターみたいなのがついてるし、槍の胴体はつぼみみたいにデコボコしている。先端、つまり刃のちょっと後ろ辺りには、刃が小さい代わりにパラボラアンテナみたいなのがついてる。滅茶苦茶へんな銃槍だった。
やっぱり悪人面な杯の顔は、ワックスでガチガチに固められたツンツンとした草原色の髪が更に悪人面っぽくしているから不思議だった。
周りに観客席の人達は静かだった。多分杯が恐いんだろうな。
「まさか、本当に当たっちまうとはウンガネェナァ?」
「さっきから思ってたんだけど、なんでいちいち一部だけカタカナでカタコト喋りなんだよ?」
「気にすんな、これがウマレツキダ」
「残念な奴だな」
はっはっはっはっは、と笑い飛ばす杯の姿はどこかのヤクザみたいだった。
『それでは、始め!』
さて、始まりだな。EX,sに入れるか入れないかの勝負の。
- Re: LOVE SEED! ( No.11 )
- 日時: 2010/01/07 16:16
- 名前: のんびり (ID: W8aSPOGo)
第2話「消え行く記憶と決定祭」(6)
進行役の一言と共に俺はとりあえず抜刀。杯も銃槍を構え直している。無駄にある筋肉のおかげか、その巨大な銃槍を軽々と片手で扱っているから驚いたもんだよな。
刀と巨大な銃槍。勝てるかどうかは分からないもんだな。
「へへ、行くゼェ!」
ロケットブースターが点火したかと思えば、一気に俺に突っ込んできやがった。20mくらいあった距離を一気に縮めてくる。
とりあえずバックステップでちょっとだけ距離をとり、横っ飛びでまっすぐ来る杯を避ける。ロケットブースターを止めて急ブレーキをかけた杯は、俺の横を通り過ぎ様に銃槍を振るって来た。俺はもう一度バックステップをとりながら銃槍の刃を刀で受け流す。
「へっ、やるじゃネェカ。俺の初激をウケラレタ奴なんて初めてダ」
「自慢にもならないんですけど……」
受け流しただけなのにかなり腕がしびれる。なんつー筋肉してんだよこいつ。
今度は杯の方が距離を取り出した。その刹那、何人かの観客がざわつき始める。何が始まるのか全く分からない俺は、ただ相手がどう出てくるのかを見ているしか出来なかった。
「このままガンガンガンガンやっててもイイケドヨぉ、んなかったるい事やってられネェ。だからさっさと終わらせちまってもいいよなァ?」
「面白いことを言うもんだな。そんな手品が出来るのかよ?」
「舐めんな、俺をただの悪人面の見かけ倒しだとオモッタラ大間違いだゼ」
俺に向けて杯は銃槍を構え直す。だがそれだけじゃなく、右足を俺の方に。左足を外側に向け、大砲でも撃つみたいなポーズをとりだした。やっぱり意味の分からない俺は、ただ身構えるだけだ。
「ケッ、身構えただけで俺のこいつを押さえきれるカヨ」
言ったと同時、バチバチと何かが音を立てる。
それは、杯の持っている銃槍のパラボラアンテナが静電気のような物を刃に集中させている音だった。バチバチと音を立てながら段々と刃が光を放ってくる。
「エネルギーバスターだな……」
「?」
後ろからの声につい振り向いてしまう。そこには、
白馬がいた。さっきの眼鏡男だ。
「ん?てめぇ、冬樹白馬かッ!なんだよ、俺の敵さんにアドバイスかァ?」
「そんなつもりは無い。ただ俺は独り言を言っているだけだ」
真顔でそんな事を言う白馬に何故か気圧されている杯。そんなに恐いのか。俺にはさっぱり分からない理解出来ない。
「一点に集中、圧縮したエネルギーの塊を一気に放出するいわゆる必殺技って奴だな。破壊力は抜群。押さえきれる物じゃない。魔力をエネルギーに変換してるから属性攻撃も可能か。唯一の弱点は──」
「行っくゼエエエェェェェェッッッ!!
とんでもない爆発音で白馬の声が聞こえないッ!
前を見てみれば、空色の光の塊が俺に向かって来ていた。滅茶苦茶バカでかい。圧縮されたのを一気に放出って、こんなに圧縮してたのかよ……。
(どうする……、今更逃げても間に合わないしなぁ。こう言う時は──)
『知識』に頼るしかないよな。
世界が止まったような感覚がした。俺としてはありがたい、少しでも掘り出す時間が欲しい。
記憶は無くても『知識』はある。聞いた事も無い言葉すら入っているくらいだ。こんな時の解決策もあっても良いと思うけどな。
頭の中の引き出しを開けたり閉めたりするイメージが流れる。
(急げ、急げ急げ……!)
まだ時間は止まってくれている。でもそれはきっとすぐ進む事だろう。急がなけりゃ間に合わない。
(…………。こいつは──、使えないかな?)
ある一つの知識を頭の中で繰り返す。
「やってみるしか無い」
時間が、
止まっていた時間が、
進みだした。
「うおおぉりゃあぁぁ!!」
俺はその光に向かって走りだす。周りからは「何やってんだアイツ!?」や、「血迷ったのか……?」とか、「諦めたか」といったような色々な事を言っている奴がいる。でも俺には関係ない。すぐに驚愕の表情にしてやるぜ。
エネルギーバスターはもう目の前だ。そこに俺は、
思いきり刀をぶつける。
グキっ、と嫌な音がした気がした。確かに威力は凄かった。刀で押さえただけでこれだ。でも、
「反発消滅(ブレイク)ッ!!」
自分の魔力を刀に集中させる。俺の、つまり、魔導拒絶体質の魔力だ。魔法でも魔術じゃなくても、変換されている魔力に変わりはない。そんな物にこいつをぶち当てれば──。
瞬間、大きな爆風のような物が吹き荒れた。おそらく皆俺が負けたと思っているのだろう。前から「バカな奴だぜ、ひゃハハハ!」という杯の声が聞こえる。
視界が晴れる。そこには、
「ぷっ、クククク。あっははははははははっ!何だよそのアホ面は?俺が倒された幻覚でも見たかよ?」
唖然とした杯がそこにいた。クックック、ヤバい。笑いがこらえきれないぜ。幽霊でも見たみたいな顔してる。豆くらった鳩じゃないんだからさ、そんなアホ面してんなよな。
「て、テメェ……どんなイカサマしやがった……!?」
「ただ自分の魔力をさっきのにぶち当てただけだけど?」
あっ、という納得でもしたような愛佳の声が聞こえた。
「魔導拒絶体質?あれは魔法、魔術に関わらず、変換された魔力や自然の力と反発して爆発とか暴走するからそのエネルギーで打ち消した、って事?」
「ご明察」
「魔導拒絶体質だとぉ?」
納得してないな、こいつ。顔に書いてある。
「いやー、ぶっつけでやってみたけど結構うまくいったもんだよな。爆発とかしなくてよかったわー」
それを聞いた杯の顔が真っ赤になって起こりだした。何で起こってんのか知らないけど、俺の今の言葉に怒ったっぽい。キレやすい奴、最近の十代かよ?
「バカにしやがってェ……」
俺がいつ馬鹿にしたんだ?もしかして被害妄想なのか?だったら滅茶苦茶迷惑だな……。どっちにしろ俺は馬鹿にした覚えは無い。確実に勝手に怒ってるだけだな。
「テメェ、ブチコロシ決定だ」
- Re: LOVE SEED! ( No.12 )
- 日時: 2010/01/09 00:21
- 名前: のんびり (ID: W8aSPOGo)
ガチャン、と金属音がスタジアム内の静寂を打ち破る。杯の持っていた銃槍のつぼみのようになっていた部分が花が開くように開いたと同時、外部装甲でも外すかのようにさっきとは大違いにスリムな槍を取り出した。パラボラアンテナはつけたままだけど。
「外して来たか……」
後ろの白馬が呟いた。なるほど、元々はあのくらいの槍だった訳か。さっきと違ってかなり軽そうだ。
ロケットブースターをパージする。カッコつけているのか試し振りしているのか、その槍を振り回し始めた。
「俺はそうやって笑ってバカにされるのがキライナンダ」
全くバカにしたつもりはない。
「ふざけやがって、ズタズタにヒキサイテぶっ殺してやるッ!」
言った瞬間、杯の姿が俺の目の前から消えた。
そして気付けば、
もう目と鼻の先に杯はいやがった。
「何ッ!?」
「だあアアアアアアアアアぁぁぁぁぁぁぁァ!!!」
振るのではなく、槍の十八番の突き刺しをしようとしてきやがった。避ける事も出来ない。流す事も受け止める事すら不可能な状況。でかい図体して滅茶苦茶速い……ッ!
俺は一撃必殺は避けるため思いきり地面を蹴る。無論後ろに。
「駄目っ! ユウ!!」
愛佳の声にハッとする。杯は目の前に、
いない。
さっきまでまさに目と鼻の先で槍を真上から突き刺しに来ていた杯の姿が目の前にいない!?
と、今更ながらに気付く。背後の気配に。
「残像かよ、下がる直前のは……!」
後ろを振り向けば、
今度こそ本物の杯がいた。
(どうする……どうするどうするどうする!?」
俺は今足が地に着いていない。方向転換は不可能。受け止めるのも、無理かもしれない。
迂闊だった。
もっと集中していればあいつの残像も気配も分かったはずなのに。
勝利を確信していたのかもしれない。心のどこかで。
悔しさが心の中で広がる中、左肩から感じる激痛に耐えきれず声から悲鳴のような物が漏れるのを感じていた。今更よく分からないぜ……。
何秒か経ったか、痛みが鮮明に伝わって来た。ゆっくり左肩を見てみれば、杯の槍が俺の肩を完全に貫通していた。
「ウオォォラアアアア!!」
杯が俺を槍に突き刺したまま持ち上げて来たかと思えば、思いきり振り回し始めた。ずるずると槍が肩から抜けて行く感覚と共に痛みが走り、小さな悲鳴を上げさせてくる。
そのままバットでも振るように思いきり杯が振ると、肩から突然槍が抜けた。当然痛みは走るし、蓋のような役割をしていた槍が抜けた事で、血があふれてくる。地面に叩き付けられ、身体に力も入らず立ち上がれない。だがまだ負けじゃない。気絶するか場外になるか負けを認めるかするまではまだ俺は負けじゃない。
「けっ、他愛もネェナァ。雑魚が調子に乗るからダ」
杯の戯れ言なんて聞いてられない。早く立ち上がらなきゃ、さらにやられて、その内本当に意識が飛んだり場外にさせられかねない。
それでも、身体は動いてはくれない。何度俺が動けと言ってもだ。
横目で白馬の方を見る。何かを呟いているがここからでは聞こえない。が、口の動きだけで何となく何を言っているか分かる。「あれはマグレだったのか」だ。さっきの白馬の奇襲の事だろうな。
思わず負けるかも、なんてネガティブな事考えたのを思いきり後悔する。まだ終わってないんだ、諦めちゃいられない。
再び杯のバカの戯れ言が耳に入ってくる。もはや雑音にしか聞こえなかった。が、
「けっ、仲良く雑魚同士で群れてっからそうなるんだよ」
雑魚同士、だと?
「さっきの真宮とか言う女。相手が良かっただけで本当は負けてたんじゃないのか? はっはっは! そうに違いないぜ、所詮は女だからなぁ!」
…………。
今のはカチンと来た。
今のだけは……。訂正させなきゃ気がすまない。
俺じゃなくて他人を、愛佳を貶す何て事は──ッ!
「許せるかよ……」
「あぁん?」
身体に力が戻ってくる。まるでさっきまで俺が死んでたみたいに身体の中が熱く感じる。今さっきが寒すぎるように思えて来たぜ。
ゆっくり立ち上がる。ちょっと身体に力を入れただけで左肩から血が抜けて行くのを感じる。
左はもう使い物にはならない。
「おいテメェ……」
俺は吐き捨てる。頭の中には言いたい事が山のようにあるけど、それを全部まとめれば一つになる。
「何でそこで愛佳が出てきやがる。なんで俺じゃなくてアイツを貶してきやがる」
「はぁ? 何言ってんだお前。頭でもオカシクなったか? そんなもん、決まってんじゃねェか」
一間置いて、ニヤリと笑うと、
「勝者の特権だからだよ、雑魚どもを見下すのは」
そうか。こいつはまだ分かってないらしい。
一番の雑魚は、自分自身だって事が。
「さぁて、トドメと行くか。ヘッ!」
当然のように杯に姿は消える。
頭が冴える。肩の痛みで緊張と集中が途切れないでいてくれるんだ。かなりありがたい。
さっきと同じように目の前に杯が現れる。が、
俺はそれを無視する。
「気配がないんだよ、お前には」
フッと消え去る目の前にいた杯の残像。
さっきのように背後に来るか?いや、周りにあいつの気配はない。
音が聞こえる。
空を切るような音だ。
それは段々と近づいてくる。
「──上かッ!!」
俺の真上。そこにはエネルギーバスターを放とうとしている杯がいた。
「乱れ撃ちだコラァあああああああ!!」
放たれたエネルギーバスターは散弾のように弾け飛ぶ。逃げ場は無い。なら全て消し去るしかない。
「反発消滅……!」
持っている刀に俺の魔力を流す。そして俺にまっすぐ飛んでくる奴を弾き飛ばす!
雨のように降り注ぐエネルギーバスターの塊。次々と壊して行くと、周りが見え辛くなって来た。
でも焦る必要も何も無いんだぜ? 何たって杯は──。
「真上にいるんだからなぁッ!!」
「しま──ッ!」
「遅いぜぇッ!!」
杯が気付いた時にはもう俺はあいつの横っ腹まで刀身を届かせていた。
「死ぬ経験が出来てよかったじゃないか、杯」
杯が言ったように見下してやる。どんな嫌な思いをしている事だろうな。あいつはそれを知らないから雑魚のままだったんだ。今回でそれを肌で感じ取ればきっと次にあう時にはもう雑魚卒業してるかもな。
「──チェックメイトだ」
- Re: LOVE SEED! ( No.13 )
- 日時: 2010/01/10 11:05
- 名前: のんびり (ID: W8aSPOGo)
勝った。
杯は俺が真っ二つにした瞬間に消え去った。バーチャル化が解除されたって事は一応死んだって事(バーチャル化された杯が)になったんだろう。
……とは言いつつも、俺も終わった瞬間に気絶したんだけどな。無理してたらしくて1時間くらい目が覚めなかったらしい。律儀にも待っていてくれた観客は、俺が入って来たと同時にプロのスポーツ選手でも出て来たみたいに歓声を上げた。ちょっと照れくさかったのは内緒だ。
表彰式みたいな事をやって、決定されたEX,sメンバーを発表した。らしいんだけど、全然の覚えてない。何て言うか滅茶苦茶ボーッとしてて聞こえなかった。愛佳と白馬はもう知ってるけど、残りの2人は全く知らないんだよな。
さてさて、これからどうなるやら……。
第3話「諦めの許されない時」(1)
「森だなー、緑一色だなー」
俺は今とあるどこかの森にいる。一応俺だけじゃなくて愛佳も白馬も、ついでに後の2人のメンバーの鏡とフェリも。
周りを見渡すと、360度どこをみても木とか草ばかり。まさに森だ。樹海って程じゃないけど、迷ったら1日は何も食えなさそうな場所だ。それでもそんなにでかい森って訳じゃなくて、洞窟みたいな所に行くための道にある小さな森だから迷ったってその程度で済む。
何でこんな所にいるかと言うと、少し時間を遡ってEX,sメンバー決定翌日あたりまで長々と行かせてもらおう。
* * *
決定祭の翌日。寝覚めは何だか最悪だった。
昨日はなんだかんだで疲れてぼんやりしながら夕飯を食べ、風呂入って歯磨いて部屋に戻ればすぐにベッドの中に潜り込んでいったわけだが。
なんとまぁ起きてみれば横に愛佳がいるじゃないか。
後で聞いた話だと、愛佳も疲れてボーッとしていたもんだから部屋を間違えて来たとか。俺がいるのも気付かずに俺のベッドに入り込んで来た訳だ。アホの子だよ……。
そんな事も知らなかった俺は眠気も吹っ飛んで「うわぁぁ!?」とか情けない声だしてベッドから転げ落ちた。思いきり横にあった椅子の足に頭をぶつけ、痛みにうずくまりながら転がれば机にぶつかり、上から置いておいたらしき辞書が降って来て角が眉間に突き刺さり、それで気絶すれば楽だったけど出来ずにまた転がれば机にぶつかり。そうこうしていると、ドアをこじ開けておっさんが入って来た訳で。ベッドはドアを開けた目の前にあるから、調度目をこすりながら起き上がった愛佳をみて声にもならない悲鳴を上げたおっさん。起きただけならまだ楽だっただろうが、一時でも着替えようと思ったのかワイシャツのボタンは2、3個はずれた状態だったもんだから真っ赤な顔しておっさんが俺に殴り掛かってきやがった。
まだ殴られた所が痛い……。
結局愛佳に怒られて朝食を減らされてた哀れなおっさんが今ここにいる。一応誤解はとけてよかった物の、かなり不機嫌そうな顔をしている。
「今日からだよね、EX,s(イクセス)の活動」
「ん、ああ。そうだな」
と、曖昧な返事をしているのだが、EX,sがどんな事をするのか詳しい事は知らないんだよな。魔獣討伐とか何かの事件を解決したりとかっていうのと、学園都市の生徒会的仕事っていうのは分かるんだけど、細かい所までは知らない訳で。
「「「ごちそうさまでした」」」
朝食を食べ終えると、鞄を持ってさっさと行かなきゃならない。今日は学校は休みだけど、EX,sの活動はあるからな。学園都市って言う学校は休みはあまりないんだ。
EX,sの活動する部屋は理事長館という学園都市アシュセイヴァーの理事長がいるこの都市の中心の建物だ。6階建ての理事長館は結構広い。例えるなら大きな学校の校庭までが校舎のような感じだ。理事長館は教師達が出入りする場所でもあり、かなり出入りの多い場所らしい。そこの5階に今から俺達は行かなきゃならない。
「それじゃ、行ってくるね。お父さん」
「いってらっしゃい、愛佳」
「行ってくるぜおっさん」
「…………」
「俺は無視かよ……」
* * *
理事長館について中に入ってみると、まるでホテルみたいなロビーがあった。とりあえず受付に話して、案内してもらう。
5階までエレベーターで上がり、一番奥の部屋に連れていかれる。時間はぴったりだ。
一応ノックして中に入る。
「おう、来たか逢梨明に真宮」
生徒会室と書かれたドアの向こうには、大きなテーブルの真正面にいた男が話しかけて来た。理事長リッドベルト・クレアだ。
理事長は今年からの理事長らしく、今までの中で最年少の理事長らしい。顔は整っているし片目が髪で隠れているって言う所がカッコいいらしくて女生徒及び女教師に人気がある人だ。って聞いた。
「そこの席に座りやがれ」
促されるままに俺と愛佳は目の前の椅子に座る。
「よし、これがEX,sのメンバー全員だな。一応いろいろ期待してるから頑張りやがれ。とりあえず今日は自己紹介程度で終えるから。じゃあ後は勝手にやっててくれ」
ただそれだけを言うと、理事長は去って行った……。
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