ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
■漢字にルビが振れるようになりました!使用方法は漢字のよみがなを半角かっこで括るだけ。
入力例)鳴(な)かぬなら 鳴(な)くまでまとう 不如帰(ホトトギス)
- 熱血教師と死神様
- 日時: 2010/03/01 14:21
- 名前: 海鼠 (ID: HiDlQ61b)
こんにちは、海鼠デス。
この小説は一応2作目です。
1作目は消えてしまったんです…
いつか書きなおすので宜しく願いしますv
あんまり得意じゃないんですけど
チョイ恋愛を取り入れようと思っています。
んじゃ、人物紹介行きます↓↓↓
**北条 紫堂(14)♀**
死神の血を持つ中学二年生。
ある事件がきっかけで心を閉ざしてしまった。
**高橋 秀彦(25)♂**
新米教師。
何事にも本気でやり遂げる熱血教師。
**福田 春(14)♂**
大阪弁丸出しで紫堂が好きな中学二年生。
雷神の血を持つ。陽気で綺麗好き。
**後藤 純(14)♂**
春の親友。一見クールだが抜けたところもある。
風神の血を持つ、中学二年生。
**五十嵐・F・輝馬(15)♂**
女の子に見えるが本性は鬼のように怖い執事。
**etc..**
Epilogue>>03
第01話>>04
第02話>>06
第03話>>08
第04話>>10
第05話>>12
番外編>>13
第06話>>16
第07話>>20
第08話>>22
第09話>>23
番外編>>24
第10話>>25
コメくれると励みになります^^
- Re: 熱血教師と死神様 ( No.3 )
- 日時: 2010/01/28 17:35
- 名前: 海鼠 (ID: HiDlQ61b)
Epilogue
私は暗い闇の中。
ただ一人うずくまっていた。
時間が過ぎるのを待った。
この身体が朽ち果てるのを待った。
神様として生まれてきた私。
神の力が宿るこの左目。
私の全てが気に入らなかった。
—どうせ私はこのまま消えるのだ。
- Re: 熱血教師と死神様 ( No.4 )
- 日時: 2010/03/01 12:40
- 名前: 海鼠 (ID: HiDlQ61b)
第01話
「…テ…。」
誰かが俺を呼んでいた。
弱々しくて聞き覚えのある声。
「…ヶテ。」
眼の前が真っ暗で、何もない。
誰かが助けを呼んでいる。
「…助ヶテ、……高彦。」
———『高彦』。
俺をこう呼ぶのは、1人しか思い当たらない。
すぐに声の正体がわかった。
「…北…条?」
俺はゆっくり目を覚ます。
朝日が、カーテンの間から差し込んでいた。
窓を開けると静かに風が吹いた。
4月とはいえ、まだ肌寒い。
歯を磨いて、着替えて、椅子に座る。
ボーっとしている俺を叱るかのように、
ケータイが激しく揺れた。
「…もしもし、高橋秀彦さんですか?」
『異動先の学校』の人からだった。
ココで評判を落とすわけにはいかない。
そんな緊張からか、俺は勢いよく立ちあがり、
背筋を伸ばした。
この春、俺は学校を移動することになった。
これで2回目だが、異動とはなかなかなれない物だ。
「こちらの学園の場所は
たった今、あなたのPCに送りましたので、
ご確認してください。では、失礼いたします。」
それだけ言うと、電話を切られてしまった。
返事をしていなかった事に少し後悔した。
俺はPCをチェックした。
ここから3時間もあることに気付き、
急いで車に乗った。
『神ノ子学園』…。
あの、北条がいる学校。
不思議と胸が震えた。
ゆっくり深呼吸してハンドルを握る。
「助ヶテ、高彦…!!」
あの夢の声がよみがえる。
ハンドルを握る手に力を入れた。
——…一刻も早く学園に行かなければ。
妙な不安で、頭がいっぱいだった。
家を出てすぐの信号が赤になる。
ゆっくり車を止めた。
ケータイが青く点滅しているのに気付き、
信号を気にしながらケータイを開く。
彼女からのメールだった。
『荷物を宅配便に預けたよ
しばらく会えないけど、頑張ってネ
美由紀』
そうだ、しばらくここには帰られないんだ。
俺の家から3時間も離れた学校に
毎日通勤したら体力がもたないし。
返信しようとケータイを顔に近づけた。
不意に信号がチラっと目に入る。
青に変わっているのに気付き、
急いでケータイを閉じる。
「学校着いたら、手紙送ろ…。」
アクセルを踏むと、
俺の家が、友達の家が、
どんどん小さくなっていく。
「…ほんとにこの山登るのか。」
家を出て3時間ちょっと。
人気のない所に大きな鳥居があるところまできた。
この上に『神の子学園』があるらしいが…。
「なんか不気味だな…。」
車から出ると、
風が背中を押すように強く吹いた。
「寒…。」
急いで車に入る。
本当にこの山の上に学校があるのか、
心配だが登ってみることにした。
静かに風が吹き、
カラカラと竹同士がぶつかる音がし、
太陽の光が、竹の葉の間からきらきらと光る。
それに見とれながら、
ゆっくり運転した。
『竹の森』を抜けるとすぐに
俺の家ぐらい大きな門があった。
誰もいないし、門は開きそうにない。
ケータイも圏外で、学校に連絡もできない。
「よじ登る…のはダメだよな。」
ひとりごとのつもりで言うと
何か、声が聞こえた。
「…ァハハ。
やれるもんならやってみ。」
あたりを見まわしても、人はいない。
「こっちや!こっち!
上見んとあかんで兄ちゃん!!」
上も見ると、あの大きな門の上に何かがいた。
逆光でよく見えないが、人のようだ。
- Re: 熱血教師と死神様 ( No.6 )
- 日時: 2010/03/01 12:43
- 名前: 海鼠 (ID: HiDlQ61b)
第02話
「兄ちゃん、お困りのようやな。」
門の上から少年が飛び降りてきた。
こちらに近づいてくるので、俺は後ずさりした。
「怖がらんでえぇんよ?
ここ、入りたいんやろ。任せとき。」
少年は大きな門に手を触れた。
バチバチと音がする。
「危ないで、下がっとき。」
そういうと大きな爆破音がした。
煙が俺を包んで、何も見れなくなった。
「…だ、大丈夫か!?」
煙が濃いほうへ進んでいくと、
仰向けになった少年が笑っていた。
「へへ…これでは入れるで!」
少年は、何事もなかったように立ち上がり、
服についた砂をはらった。
煙が薄くなっていく。
眼の前にあったはずの門が、
跡形もなく消えていた。
「どゃ!凄いやろ!!」
少年は腰に手を当てて、
にんまりとした顔で言った。
俺は微笑で応えた。
次第に風が強くなる。
「…今日は風が強いんだな。」
「風…。」
少年は少し固まって、冷や汗を流し始めた。
「…に、兄ちゃん!
じゃあ俺この辺で…」
「またお前か、春」
今度は、真っ黒な髪の少年がこちらに来て、
『春』という子の襟をつかんで持ち上げた。
「ったく、お前は何回言ったらわかるんや!
ここの門は壊すな、俺が怒られるんやで!!」
「ごめん!ホンマごめんて!!」
黒髪少年は、こっちを睨んできた。
俺の顔を珍しそうに見てくる。
「…どうやら一般人のようやな、『おっさん』。」
25歳なのにおっさんと言われた。悔しいというか、
少し大人になったようで嬉しかった。
「おっさん、ここで見たこと忘れてくれん?
俺ら、一般人に言っちゃだめな秘密抱えとるんよ」
こそっと黒髪が俺の耳元で囁いた。
『わかった』と、俺も小さく答えた。
「…何かと思ったら…またアンタらか!」
「ぅわ、チビラムや。逃げるぞ、春!」
「分かってるて、純!」
『ほな、また!』。二人はそう言って
向こうに逃げていった。
「まて、クソガキ——!!」
この声はどこかで聞き覚えのある声だ。
—思い出した、朝に電話した『丁寧な人』!
「あ、あの…。
朝に電話した『高橋 秀彦』ですけど…。」
鬼のような顔でこちらを見ると
「あ。」
一言つぶやき、子供のような可愛い顔になった。
「いやぁ〜、お恥ずかしい所を〜。」
咳払いをして
「えっと、わたくし
『五十嵐・F・輝馬』と申します。」
と一礼した。
…なんだか『変』な学校だ…。
…
「で、ココが職員室です。」
五十嵐さんに、
簡単に学校内を説明してもらったが、
余りにも広すぎて良く分からなかった。
「…覚えられるかな。」
「ま、いつか慣れますって。
コーヒー入れますんで、
そこらへんに座ってください。」
やたら大きなソファに座る。
コーヒーの香りが、俺を包んだ。
眼を閉じると、朝に聞こえたあの声がよみがえった。
「…北条。」
そう呟くと五十嵐さんは手を止めた。
「あの子のこと、御存じなんですか?」
「えぇ、前にいた学校にいたので…。」
五十嵐さんはもう一度コーヒーを入れ、
『どうぞ』とコーヒーカップを手渡してくれた。
「あの子はかわいそうな子です。」
そう言って、俺の隣に座った。
「薄々気づいていると思いますが、
ココは特殊な能力を持った子が集まる所なんです。
我々はその子たちを『神の子』と呼んでいます。」
じゃあ、さっきの
『春』や『純』という子も
神の子なんだ…。
「北条さんのお父様も、
神の子の一人でした。
ですが北条さんがまだ小学生のころ、
お父様は呪いでお亡くなりになったのです。」
五十嵐さんは、コーヒーに砂糖を入れた。
ポチャンとわざとのように音を出して。
「彼は…、お父様は『ゼウス』という
素晴らしい神の力を持っていました。
ですが北条さんを守るため、
彼は悪魔と契約し、その命を捨てたのです。」
「…そんなことが…。」
「ええ…。北条さんも
神の子の血を持っていました。
北条さんには、お兄様がおられます。
お兄様は『生神様』、
北条さんは『死神様』の血を受け継いだのです。」
「死神!?北条が!!?」
「そうです。
可哀そうなことに、
北条さんのお母様は彼女を拒み、
親戚の方も見向きもしなかったそうです。」
そういうと、
五十嵐さんはコーヒーをすすり、
ため息をついた。
「ちやほやとされるお兄様を目の前に、
彼女は一体どんな気持だったんでしょうか。
きっと身も心もボロボロになっていたでしょう。
彼女を支えてくれるのは、たくさんの彼女の友達。
友達がいたからこそ彼女は
今日まで生きてこれたんです。きっと。」
五十嵐さんはコーヒーを飲みほした。
そしてにっこりとこちらを向いて言った。
「あなたのおかげでもあるんです。」
「…俺の。」
「彼女は、教えてくれませんでしたが、
あなたとの関わりであなたを信用してるんです。」
「それって…!」
「言わなくて結構です。
コーヒー冷めますよ。」
そうだ…きっとあの事だ。
1年前のあの『事件』——。
俺はコーヒーと一口で飲み干した。
そして自分に誓った。
『北条の心の傷を治す。』と——。
- Re: 熱血教師と死神様 ( No.8 )
- 日時: 2010/03/01 12:45
- 名前: 海鼠 (ID: HiDlQ61b)
第03話
『先生、起きて?』
「…ぇ?」
あたりは真っ暗。
その中にポツンと北条がいた。
「ぁ…北条?
なんで、ココに…。」
『うふふッ。
私は紫堂チャンじゃないわょ?』
眼の前にいる『北条』は、
人差指を自分の口元にあてた。
「…何を言って…。」
『…センセイ、分からないのぉ?』
こちらに『北条』が近づく。
ゆっくり後ろに下がる。
…そこにふわりと風が吹く。
いつの間にか眼の前に『北条』がいた。
『センセイ…。
一つ忠告してあげる。』
そう言って『北条』は
自分の人差指を、今度は
俺の口元にあてた。
『センセイは紫堂チャンを守れない。』
「!?ッ」
『教えてあげようか?
紫堂チャンの本当の姿。』
『北条』はニヤリと笑う。
—眼の前が白く輝いた…。
「はぁ…ッ!はぁ…。」
「先生、大丈夫ですか?」
眼の前に五十嵐さんがいた。
あぁ、さっきのは夢なんだ。
「…大丈夫です。
とても怖い夢を見てただけで…。」
「…高橋先生より前にいた先生方も
そうおっしゃって、気味悪がり異動したのです。」
「…。」
背筋がぞくぞくする。
あの声がよみがえる。
『センセイは、—守れない。』
このことか?
気味悪がって逃げるとでも思っているのか?
そう思うと、余計に強がってしまう。
昔、こんな俺を笑ってくれる北条がいた。
少し強がった事を言うと、
ニコニコした顔で見つめてくる。
鮮明にその表情が頭の中に映し出される。
「…高橋先生?」
五十嵐さんが不安そうな様子で顔を覗いてくる。
「長時間車に乗ってましたから、
疲れたんですよ。
先生のお部屋用意しております。
ゆっくり休んでください。」
「はぁ…。」
五十嵐さんはコーヒーカップを持って
カタカタと鳴らしながら、棚の上に置いた。
「さぁ、行きましょうか。」
「そうですね。」
ドアを開けるとコーヒーの香りが逃げて行った。
すがすがしい竹の間を通り過ぎた風が吹く。
中庭の所々に小さな鳥居があった。
「ココです、ここが先生のお部屋。
好きに使っていいですよ。ぁ、風呂がこっちで…」
部屋はとても広く、カーペットも柔らかかった。
「あ、あの…荷物はどこに?」
「え?」
向こうからヒョイと首を出す五十嵐さん。
チョコマカと歩く姿は子供のようだった。
「えっと、多分あっちの部屋です。
ちょっと見てきますね、待っててください。」
五十嵐さんは、そういうと
『あっちの部屋』に入って言った。
俺は一人ため息をつく。
「疲れた…。」
だんだんまぶたが重くなる。
頬をつねり目を覚ます。
眠気がしてはつねる…その繰り返しだった。
「…遅いな。」
俺は立ち上がり、
『あっちの部屋』を覗いた。
「あああああぁ———!!」
五十嵐さんの叫び声で
俺はすっかり目を覚ましてしまった。
「またお前らか!
全く手間かけさせやがって!!」
「痛いて!
許してや、チビラム!」
俺の知っている五十嵐さんとは全然違う人だ…。
さっきまで、おしとやかな人だったのに。
「その呼び名はやめんか!
何回言ったらわかる!!」
五十嵐さんは
『春』の胸倉をつかみ顔を近づけた。
「ごめんて!
申しません〜!!」
抵抗する春を尻目に、
純はこっちに来てひそひそ声で話しかけてきた。
「許してや、春とチビラムは
いっつもこんな感じなんや。…
おっさん、先生になる人やったンか。
俺な『後藤 純』って言うんや、よろしく。」
やっぱり『春』と『純』なんだ。
この二人が俺の生徒…。
「あぁ、チビラムって五十嵐のことな。
身長が俺らより低いし、羊やから『ラム』な。」
羊…。執事のことかな。純は冷静な子に見えるけど、
こんな良くあるパターンの間違え方するんだな…。
「『ひつじ』じゃなくて『しつじ』。」
俺はゆっくり言った。
純の顔は固まり、『ぁ—…。』と呟いた。
「ったく!チビのくせに…!
離せッつってんだろ!!女男ぉ!!」
「黙れ、クソガキ!
あれほど髪を染めるなと
言ったのに赤くして…!
その根性たたきなおしてやる!」
「だから!これは地毛や!!
わざわざこの山を下ってまで髪染めんわ!
俺の根性叩き直す前にお前のセンスを叩き直せ!」
口論は次第に激しくなる。
五十嵐さんは男だったんだ。
夢が壊れた気がした…。
「そ。チビはセンス悪いんや。
『神ノ子学園』て名前つけたのチビラムやで。」
純は親指で五十嵐さんを指しながら言った。
「…こんな楽しい学校に北条がいるんだ。」
すると口論はピタリと止まる。
春は五十嵐さんを押し倒し俺の目の前に来て、
「…兄ちゃん、実は俺から
紫堂取ろうとしとんか!?」
「はぁ???」
五十嵐さんはクスッと笑う。
ひゅーひゅーと冷やかす純。
「なんでそんな話になるんだ!別に北条は…!!」
「私が何?」
冷淡な声が背後に忍び寄る。
左目を黒い包帯を巻いた紫堂がそこにいた。
身体がじわじわと温かくなる。やっと会えた!
嬉しかったが、それどころではないようだ…。
- Re: 熱血教師と死神様 ( No.10 )
- 日時: 2010/03/01 12:50
- 名前: 海鼠 (ID: HiDlQ61b)
第04話
「うるさいと思ったら…。
もう、あんたら喧嘩はやめろって言ってるだろ!」
北条は腕を組みながらそう言った。
…本当に久しぶりだ。身長も前より高くなっている。
「なぁ、紫堂。
この兄ちゃんと俺、どっちがえぇ?」
照れくさいそうな顔をして春は尋ねた。
北条はチラッとこちらを見て眉間にしわを寄せた。
「春じゃない事は確かやろ。」
純は春の肩に手を添えた。
その純の言動で喧嘩の引き金を引いてしまった。
隣で喧嘩が勃発している中、北条は怒ったような顔でじろじろとこっちを見ている。
「……ぉ…覚えてる?」
俺がそう言うと
北条はズイズイとこちらに近づいてくる。
『ん—…』と北条は唸りながらも考えていた。
それから時が止まった気がしたが、
喧嘩の音しか聞こえた。
「…高彦?」
胸の奥に詰まった何かが、すっと通った。
『高彦』、この子だけが言う俺のあだ名…。
「で、何しに来たの?」
「ぇ。」
変わったのは身長や顔つきだけじゃなかった。
あのころの北条は、明るかったのに。
今の北条はなんていうか、『シリアス』だ。
「あの…、今日からココの先生になることに…。」
北条の顔が急に凍りついた。
「聞いてないわよ…。どう言うこと?」
二人の喧嘩がピタリと止まる。
五十嵐さんもジッとこちらを見ている。
それからしばらく無音の時間が続いた。
その時間と切り裂くかのように北条はつぶやいた。
…—「帰れ。」
その声が響くと時も風も全て止まった感じがした。
「…北条?」
「帰ってよ…。
こんなところ、あんたが来るところじゃない。」
北条の一言で、春と純はうつむいてしまった。
「…帰って、アンタのために言ってんの。」
紫堂は後ろを向いてそう言った。
どんな表情をしているのかわからないが、
だんだん声が『泣いているよう』だった。
「…じゃ、もう会うことは…ないだろうけど。」
「待てよッ!!」
俺は叫んだ。それしか方法が思い当らなかった。
…俺は『誓った』のだ。この子を守ると。
「…我慢してないで言えよ。」
北条は拳を作り、力を入れる。
カタカタと震えて血が滴る。
「何もできないくせに、
そんなこと言うなッッ!!帰れ!!」
北条はそう叫んで、部屋を出る。
せっかく会ったのに…。
この一瞬を無駄にしてしまった、後悔した。
北条にはたくさんの心の闇がある。
父さんの死、親から見放された悔しさ…。
…それを振り払う力と度胸が俺にあるのだろうか?
そんな不安がどんどんあふれ出る。
-+*+番外編-+*+-
「どうして…ココに、高彦が…ッ!!」
私は走った。
竹やぶの中へ逃げるように。
眼が潤んで前がよく見えない。
肩に竹が当たって痛い。
それでも足は止まってくれなかった。
『…我慢してないで言えよ。』
また高彦の声が聞こえた。
それに気を取られていると、
お腹に何かが当たった。
「うぁ…ッ」
あたったのはまだ成長している途中の竹だった。
「痛ァ…、…何よ…。」
地面に寝転んだ。
甘く綺麗な4月の風が、
私をあざ笑うかのように強く吹いた。
『我慢してないで言えよ。』
あの声がまだ耳に残っていた。
私はその優しさが嫌いなんだ。
優しさに触れると、苦しくなって恋しくなる。
そしていつかその優しさが消えて『痛くなる』。
…父さんが死んだ時もそうだった。
優しくしてくれて、そんな父さんがいなくなって。
その『痛み』に耐えられない、
私って本当に無力。
…その『痛み』を強く締め付ける高彦。
高彦が『好き』だからこそ、
『痛み』が強くなって離れない。
自分が苦しくなる道を選んでここまで来た。
でもその『痛み』は胸に焼き付いて離れない。
——私は高彦が嫌い。
この掲示板は過去ログ化されています。