ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

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殺人ゲーム
日時: 2010/03/17 12:41
名前: (*´・ω・) 薫 ◆csrKrKYmRA (ID: fgNCgvNG)
参照: http://sukittekotosa.blog.shinobi.jp/

初めまして、日高薫と申します(*´・ω・)
森ガイやブログなどで多く小説を書かせていただいているものです。
ようやく脱ゆとりではありますが、まだまだ至らない点が多くございます。
何卒よろしくお願いいたします(´・ω・`)


大まかなあらすじ

神力という特殊な魔法を使える「神力者」と、
そうでない普通の「ヒト」。
世界の人間はだいたいこの二種類に別れていて、
神力を悪用して殺人を犯す組織、
神力者を憎んでいるヒトによる殺人組織、
そんな殺人組織を食い止めるための正義の組織などが、
政府を築いていた。
この話は正義の組織「聖騎士」のとある班員たちの、
生と死に向かい合う話しです。



注意書

・カオス!カヲス!
・組織的なものがよく分からず、私自身混乱していますが・・・見逃してくださいorz


それでも全然おk!見てやんよ!という、
心の優しい方は是非お読み下さい!

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第3話 特訓 3/3 ( No.7 )
日時: 2010/03/17 12:52
名前: (*´・ω・) 薫 ◆csrKrKYmRA (ID: fgNCgvNG)
参照: http://sukittekotosa.blog.shinobi.jp/

「馬鹿者がぁあああああ!!!」

スピーカーが壊れるのではないかと思うような大音量だった。
音はいうまでもなく割れている。

龍宮藍夜の声だ。

流石のルイと光輝も争いを止め、鬱陶しそうにスピーカーを見上げる。

「任務を何だと思ってるんだ貴様らは!!!それでも昇格した身か!!!」

説教が始まる。
奏馬はハァとため息をつき、肩を落とした。

「まず矢吹!!!」
「はは、はいっ!!!」
「お前は実践で動けなさすぎる!!!
どうして砂原がいたときは簡単にできた連係プレーができないんだ!!!!
確かに他の奴等が強欲なのはある、だがお前にはお前で出来る事があるはずだ!!!」
「すすす、スミマセン・・・」

奏馬の肩が更に落ちるのを、龍宮はモニター越しから見ていた。
本当は、奏馬に怒るのは不本意だ。
ほとんど悪いのは他の3人なのだから。
奏馬は練習の時、1人だと役に立たない神力にコンプレックスをもっているのか、懸命に練習していた。
いくら優秀な部員でもしないような基礎練習を、黙々としているのだ。
そんな彼を叱るのは、いくら鬼のような龍宮でも、したくない。

その苛立ちをぶつけるように、龍宮は轟の名を怒鳴りつけた。

「鳴澤!!!」
「はぁ・・・何スか?」
「『何スか』じゃないだろ?
お前は何でそうやって1人で暴走しようとするんだ!!!
いいか?仲間は手駒じゃないんだぞ!!!」

その言葉に、轟はカチンときた。
仲間は手駒じゃない——
そんなこと、知っている。
そう思っているのは恐らく、影のボスである天道昴ぐらいだ。
昴には、ひどい憎しみがある。
轟は昴を、いつか絶対に潰してやろうと思っていた。

言い返す間も与えず、龍宮は今までにない大音量で怒鳴った。

「五十嵐!!!!!駿河!!!!!!」
「・・・はい」
「はい」

その後、ルイと光輝が龍宮の説教につかまっていたのは、約10分だ。
不運な事に、奏馬と轟まで巻き込まれる。

「いいか、次の初任務でもこんな状況だと、お前らをまた聖騎士部隊に戻すぞ!!!」

龍宮の決断に、4人は凍りついたように固まった。
今までの努力が、水の泡になる——?

ちょっと待てよ、冗談だろ・・・?!

「今日はもう遅い、さっさと寝ろ!!!」

ブチっと、乱暴にノイズが切れる。
無線が絶たれたのだ。

静まり返ったバーチャルトレーニングルームで、最初に動いたのはルイだった。
ルイは長めの黒髪を払うように首を振り、鋭い目つきで光輝を睨んだ。

「・・・覚えておけ」
「それはこっちの台詞」

さらりと返し、光輝はうーんと伸びをした。
小動物のようなその仕草と対照的に、ルイは完璧に肉食だ。

(小動物が光輝で肉食がルイ。轟は百獣の王っぽいなー・・・。
ん?なら俺は草食か・・・って、ンなこと言ってる場合じゃねぇよ!!)

正気を取り戻し、奏馬はあせったように大声を張り上げた。
その震えた声は、とてもリーダーとは思えない。

「お、俺達次の任務で失敗したら——また戻っちまうんだぞ?!」

光輝から返ってきたのは、ごくごく呑気な言葉だ。

「知ってるけど?」
「知ってるって・・・お前らの仲修復しないと絶対失敗するだろ!!」
「フフ、奏馬ってば分かってないなぁ・・・。
ボクたちが仲直りできる訳ないだろ、光と闇は戦うのが宿命なんだから」

その言葉が、鋭い棘のようにルイの胸に突き刺さる。
彼が過去に背負った光と闇が、心の中で渦をまいた。
話をそらす様に、ルイは濁った言葉を発す。

「・・・仲を修復したところで、俺達の実力が変わるとは思わない。時間の無駄だ」
「ボクもそのことだけにはさんせー。
ま、ルイと仲良くなるなんて死んでも御免だよ」
「フン、望むところだ」

吐き捨てるように言うと、ルイは不機嫌そうな顔をしたままトレーニングルームから出ようとした。
その後姿に、咄嗟に奏馬が声をかける。

「待って!!」

睨みつけるように振り返ったルイを見て、一瞬硬直してしまう。
だが直ぐに気を取り直し、言った。

「あ、あの、明日の朝8時からミーティングやるからな!」
「何のために?」

うんざりしたように、ルイが言い返す。

「何のためって・・・今後のD班のために・・・」

返ってきたのは舌打ちだった。
轟も眉間にしわを寄せている。

「何だよ、そんなに嫌そうな顔すんなよ、俺だってやなんだから・・・
って、ちょっと、聞いてる?」

ルイはまたくるりと背を向け、部屋から出て行ってしまった。
光輝も奏馬を哀れむような微笑を見せ、その後を追うように行く。

「まっ、頑張れや?」という声と共に、轟だけが奏馬の肩に手を置き、無邪気に笑った。
その顔を見た瞬間、涙があふれそうになる。

頑張ってるのに報われないって、本当に悲しい。
でも最近、自分は何したってそうだ。
実践で動けず、リーダーなのに班員を団結させる事もできない。

全部砂原馨二がいなくなってからだ。
馬鹿、何でいなくなっちまったんだよ・・・。

奏馬は誰もいなくなったバーチャルトレーニングルームの天井を見上げ、静かに呟いた。

「・・・馬鹿野郎」

第4話 異変は突然 1/4 ( No.8 )
日時: 2010/03/17 12:59
名前: (*´・ω・) 薫 ◆csrKrKYmRA (ID: fgNCgvNG)
参照: http://sukittekotosa.blog.shinobi.jp/

その日寮に帰ると、ルイがシャワーを浴びていた。
ルイは半年ほど前から、奏馬の部屋に居候している。
あまりにも光輝との喧嘩が酷いので、所長から寮を没収されたのだ。
事は全て「団体責任」とされ、ルイは奏馬の部屋に、光輝は轟の部屋に住みつくことになった。

光と闇は、何時の時代になっても争い、貶めあう。
それは自然なことで、仕方がないんだと、奏馬は自分に言い聞かせた。

ルイが奏馬の部屋に来てから、生活の半分が困難になり、半分が楽になった。
困難になったのは、部屋の窓を気軽に開けられなくなったことだ。

光に極端に弱い「神力体質」をもつルイは、
こうしてシャワーに入っている間も、シャワー室の電気を消しながら入っている。
真っ暗な中でシャワーを浴びているのだ。
一応奏馬の部屋なので、秋の後半から春の前半にかけてまでは
雨戸を開けて生活をすることが許されているが、
夏の時期に入ってくれば雨戸は完全に閉められる。

つまり、昼間でも光が入ってこなくなるのだ。

その閉め切った部屋に自然な風が吹く事もなく、
奏馬は窒息死しそうになりながら夏を乗り過ごしている。

便利になったのは、クーラーが必要なくなったことと、料理の手間が省けた事だ。
ルイは奏馬に少し気を使っているのか、黙って色々な事をしてくれる。

夏に奏馬が窒息死しそうになっていると、彼の闇神力で冷気を吹かせてくれる。
無論、気分のよい風ではないが。

そして訓練が遅くなり、食堂が閉められる時がある。
聖騎士は8時までに食事を済ませておかなければ、炊事を自ら行わなければならなくなるのだ。
そんな時、ルイは何も言わずに台所に立ち、1人分の料理を作ってくれる。
メニューは日よって違うが、最近ではモヤシの炒め物を作ってくれた。

無言で置かれた炒め物を地味にほおばった奏馬は、その美味に泣きそうになった。
折角作ったのに、ルイは食べないのか、と聞くと、
俺はモヤシが嫌いだからお前に作ったんだ、と、顔を赤らめながら言った。

奏馬は思い出し笑いをしながら、二段ベッドの一段目にダイブした。
どっと溜まった疲れは、全てこのベッドが打ち消してくれる。
自分はベッドが大好きだと、改めて実感する。

ふと顔を上げると、電池切れで止まった目覚まし時計の隣にある、
2つの写真立てに目が行った。

一つ目は、奏馬と双子の兄の勝馬、それと血の繋がっていない兄の天馬が写っていた。
唯一の、兄弟全員で撮った写真だ。
両親が病気で亡くなる直前に、自宅の前で撮ったこの写真は、
奏馬にとってかけがえのない思い出の1つでもある。

当時6歳だった奏馬と勝馬は無邪気に肩を組み合い、じゃれあっている。
対照的に5歳離れている義理の兄天馬は、腕を組んで仏頂面をそっぽ向かせていた。
両親は再婚で、父と前母の間に天馬が産まれた。

天馬は同じ聖騎士にいる。
最上級のクラスで、班をまとめる優秀なリーダーとして知られているのだ。
だが血が繋がっていないからか、天馬は奏馬や勝馬に冷たかった。

暑中見舞いは勿論の事、兄弟なら必要最低限ではあろう年賀状さえも来ない。
双子の弟たちが高熱を出しているときも放って、
両親が死んだあとも2人を孤児院に届け、自分ひとりで聖騎士に入ってしまった。

一方勝馬は、数年前に突然姿を消している。
孤児院にあずけられた奏馬と勝馬は、友達も作らずにずっと2人で過ごしていた。
なのである日突然、奏馬だけが神力を授かったときは、2人でパニックに陥った。

両親の仕事が聖騎士絡みであった都合上、
奏馬は勝馬を置いてでも聖騎士に行かなければならなかった。
泣く泣く、奏馬は勝馬と別れたが、休暇にはいつも勝馬のいる孤児院に遊びに行っていた。

だがあるとき、孤児院から連絡があったのだ。
勝馬が、突然失踪した、と———・・・。

ガチャと、シャワー室が開いた音がした。
ルイは黒いジャージに着替え、黒いスポーツタオルを首から下げて出てきた。
濡れた髪は、蛍光灯に照らされ漆黒が強調されている。

ルイはその明かりに目を眩しそうにして、コップに水を入れた。
それを一口飲むと、ベッドに横たわる奏馬の方を見る。

「背伸びしすぎだ」

ぼそりと呟いたルイの言葉に、奏馬は驚いて身を起こした。

「・・・え?」
「砂原の代わりを務めようとし過ぎだ、お前は」

奏馬は唖然とした。
本当に驚いたのだ。
ルイが自分から口を開くのは勿論のこと、彼は滅多に助言などしない。

しばらく何も言えないでいると、ルイはベランダの窓を開けた。

「自分のやり方でやればいい」

聞こえるか聞こえないかぐらいの声でそう呟くと、ルイは外の闇に消えていった。
砂原馨二がD班から消えてから、確かに奏馬は背伸びをしていた。
馨二が完璧だったからか、自分もリーダーである限り完璧でなくてはと、無理をしてきたのだ。
だが元々リーダー体質ではない奏馬に襲ってきたのは、失敗ばかりだった。

対神力をもつルイと光輝に、自己中心的な轟。
そして何も出来ない自分。

実際に任務をする時は、馨二がいない分助っ人を1人入れるのだが、
その助っ人も、リーダーである奏馬が指示をしないと的確に動けない。
奏馬は全て自分にかかっていることに、強烈なプレッシャーを覚えているのだ。

やる気はいつも空周りするだけで、失敗する。
そのことで、ずっと悩んでいた。

自分はどうやったら、馨二のようなリーダーになれるのか・・・と。

ルイの言葉は、そんな悩みの中にいた奏馬の心に、深く、深く溶け込んだ。

人にあわせる必要は無い。
自分の考えで動けばいい。
自分の、自分だけの考えで。

単独行動ばかりしているルイだからこそ分かる、
独自の意見なのかもしれない。
問題ばかり起こす彼だが、感謝も沢山していた。

ルイはベランダにある木製の椅子に腰をかけ、
睨みつけるように月を見ている。
そのルイの背後に小さくありがとうと呟き、奏馬はベッドに座りなおした。
兄弟3人で写っている写真の隣に置いてある、もう一枚の写真。

それは、D班を結成した直後に龍宮が撮った、馨二がいたころの写真だった。

5人がぎりぎり入っている、顔のアップ写真。
割り込むように、奏馬の頭を上から押さえている轟。
迷惑そうに、それを見上げる奏馬。
2人を見て、呆れたように微笑む光輝。
写真に写りたがらないルイの首を後ろから押さえ、無理矢理固定している馨二。
さも楽しそうに首の根元を押さえる馨二を、横目で睨むルイ。

この写真を撮った時は、まだ11歳だった。
凄く、すごく平和だった——・・・。
五龍と呼ばれていたのも、この頃からだ。

ほほえましい思い出と、ルイから貰った言葉を胸に、奏馬は布団を被った。

第4話 異変は突然 2/4 ( No.9 )
日時: 2010/03/17 12:59
名前: (*´・ω・) 薫 ◆csrKrKYmRA (ID: fgNCgvNG)
参照: http://sukittekotosa.blog.shinobi.jp/


———・・・矢吹

低い声が聞こえる・・・気がする。
気のせいだろうか。

・・・矢吹

名前を呼ばれている?
どうせ空耳だろう。

矢吹

もう、寝てるときに呼ぶなよ・・・

「・・・いい加減にしろ、矢吹」

せきを切ったように発された言葉に、奏馬は飛び起きた。
どうやら、寝ぼけていたようだ。
さっきから名前を呼んでいたのは他でもないルイで、
呆れたような顔で、奏馬を起こしていた。

彼はもう着替えていた。
黒いTシャツに黒いジャケット。
黒いズボンのポケットには、銀の鎖の付いた財布が無造作に突っ込まれている。

「あぁ・・・おはよ、ゴメン俺、寝過ごしてた?」

頼りないヘナヘナした言葉を口にすると、ルイは言った。

「いや。所長が緊急ミーティングを開くらしい」
「今から?!」
「あぁ」
「ちょ、俺まだ寝癖も直してない・・・」

跳ね上がった髪を撫で、奏馬は泣き声で言った。
ルイはため息混じりに言う。

「ミーティングは5:30から、A塔指令本部で行うらしい。時間厳守だそうだ」
「5:30?!って・・・今何時だよ?」

生憎、奏馬は時間の止まった目覚まし時計しかもっていない。
ルイはやはり黒い携帯をチラッと見て、即答した。

「5時ちょっと過ぎだ」
「5時・・・?!」

奏馬がいつも起きているのは7時ぐらいだ。
ルイは6:30ぐらいに起きている。

何でこんなに早いんだろう——と思うと同時に、
嫌な予感が頭をよぎった。
奏馬はその予感を、言葉を選びながら口にする。

「・・・そんな早く、ということは・・・」
「それだけの緊急事態だ、ってこと」

明るい第三者の声が、奏馬の言葉を遮った。
ぎょっとしてルイと奏馬が部屋の入り口の方に視線をやると、
金に近い栗色の髪を頭の高いところで結った、少年が立っていた。
ポニーテールに和服を着ているその少年は、無邪気に笑った。

「よっ」
「つ・・・剣先輩・・・!!」

F班のリーダー、白井剣だ。
馨二が最も尊敬していた存在で、正直で勇敢、芯のある優しさが、皆に慕われている。

「何で急に?」
「いや、特に用はないんだけどな。元気かなーと思って」
「それで人の話を盗み聞きか。悪趣味め」

うんざりしたようなルイの毒づき。
ルイだけが、剣を嫌っていた。

「またまた、ルイの奴・・・。可愛くないなぁ」

剣は苦笑した。
ルイは鼻であしらい、剣を押しのけて部屋を出て行ってしまった。

「さ、奏馬。俺達もそろそろ行くか?
あと少しでミーティング始まるしな」
「そそ、そうですね・・・」

とは言ったものの、髪の毛の寝癖が直らない。
その上まだパジャマだ。

「あ、ちょっと待って下さい、スミマセン・・・」
「いいよ、気にすんなって」

剣は気前良く言うと、部屋に入ってソファに腰をかけた。

「へぇ、良く整った部屋じゃん。掃除はどっちがしてんの?」
「日替わりでやってます、昨日はルイ」
「おっ、ルイも掃除するようになったんだなぁ」
「へ?」
「寮がお前と別だった時は、必要最低限のスペースしかなかったじゃんか」
「そ、そうなんですか?!」
「そうなんですかってお前・・・知らなかったのか?」

奏馬は驚きを隠せず、目を白黒させて言った。

「あ、だってアイツ、埃あると怒るし、脱いだ靴下そのままにしてると怒るし、電球に埃溜まってると怒るし、コンセントタコ足にしてても怒るし、何より物をだしっぱにしてると、超キレるんですよ・・・」

鏡の前で寝癖を直しながら、奏馬は呟いた。
ルイは短気だ。ちょっとやそっとのことで、結構怒る。
最初の内は予想外で、ロボットのように固まっていた奏馬だったが、最近ではルイの怒鳴りも慣れっこだ。

すると剣は意味ありげにニヤリと笑った。
そして指をクィッと動かす。

彼の神力、水神力が発動した。
動かされた指から水が迸り、奏馬の頭にかかる。
不思議な事に、奏馬の散々跳ね上がっていた髪が、一瞬にして直ったのだ。

「うわ・・・!!」
「あ、所長には内緒な」
「あ、ありがとうございます!」
「いいっていいって」

剣は人懐っこい笑みを浮かべ、すぐ、さっきの含み笑いに変えた。

「さてはルイの奴、奏馬に気遣ってるんだな?」
「えぇえ?!」

いつものあのルイの態度からは、そんなこと想像もつかない。
剣はうなずきながら、言った。

「絶対そうだ。アイツ、ああ見えて結構優しかったりするんだ」
「あ・・・」

過去に頬張ったモヤシのことを、奏馬は思い出す。
確かに、アイツは優しい。

「な?思い当たる節あるだろ?」
「はい、あります・・・」
「でもアイツに『優しいよなー、ルイ』とか言うとさー・・・」
「真っ赤な顔して殴ってきません?」
「そうそう!!」

ツンデレという奴だろうか。
ルイは褒められるのが苦手だ。

声を立てて一しきり笑うと、剣が時計に目をやって、言った。

「おっ、そろそろ行く時間だな。もう行けるか?」
「あ、はい。スミマセン、待ってもらっちゃって」
「ううん、全然平気」

そう言って剣は、笑った。

第4話 異変は突然 3/4 ( No.10 )
日時: 2010/03/17 12:57
名前: (*´・ω・) 薫 ◆csrKrKYmRA (ID: fgNCgvNG)
参照: http://sukittekotosa.blog.shinobi.jp/


ミーティングルームに行くと、もう既に奏馬以外のD班メンバーは集合していた。
剣に礼を言い、慌ててそちらに行くと、轟が珍しげに奏馬を見る。

「奏馬?お前今日寝癖ねぇな?」

ギクりとはしたが、奏馬はぶんぶんと首を振って、否定した。

「いやいやいやいや、そんなことないよ」
「ホントかぁ?何かしたんじゃねぇの?」
「ううん!何にも」
「ぜってー何か隠してるだろ?」
「いや、何にも隠してないって」
「俺様に嘘ついていいと思ってんのか、あぁ?」
「え?!え・・・えぇっと・・・」

ヤバイ、轟にたて付いちゃったよ・・・
何かに助けを求めようとした瞬間、凛とした声が響いた。

「静かにしろ」

大勢の組織員が集まったミーティングルームの台の上に、龍宮が立っていた。
その周りには、さっぱりとした性格の医療隊長の天美慧月、のんびりとした白衣姿の実験隊長、魅霧博人、そして黒いマントとフードに身を包む、執行隊長の彪眼琥珀の姿があった。

一瞬、彪眼から鋭い殺気が溢れてきたような気がした。
だがその予感は、龍宮の言葉にかき消される。

「朝早くからよく集まってくれた。ご苦労。
今回お前達に集まってもらったのは他でもない。
上級クラスの者は知ってるとは思うが、重大なことだ」

ただならぬ緊張感に、今まで喋っていた者もピタリと固まった。
生唾を飲み込み、奏馬はじっと龍宮を見る。
今回ばかりは問題児、光輝とルイ、轟も黙って龍宮をみていた。

「いいか、冷静に聞け。

———・・・殺人組織影と、反神力組織スペードが動き出した」

息を呑むような声が、至るところから上がる。
ルイと光輝は冷静で、ただ轟だけがマジかよと呟いた。
たちまち広がったざわめきに、龍宮はまた声を張り上げた。

「落ち着け!!落ち着いて行動する事が、奴らを倒す鍵だ!!」

龍宮の声は、不思議にも圧倒感がある。
ざわめきは囁きと化し、やがて消えた。

「本隊に上がってる者は、各地で起こるであろう任務に向かってもらう。
だが本隊だけでは人数不足だ。
本隊以下の者も、これからは任務に参加してもらおう。
本隊の者は、誰であろうがランクA,Sの任務を与える。
本隊以下の者はランクA以下の任務だ。意義・質問等あるものは挙手」

誰からも手は挙がらず、ただ唖然とするだけの沈黙が流れた。
ランクS・・・それは、大人でもこなすのが困難だといわれる任務のことだ。
とてもではないが、昇格して1日も経たないようなD班がやるものではない。

「はいはーい、質問!」

場違いな声が、奏馬の背後からする。
轟だ・・・。

「何だ鳴澤」
「俺らがSやっちゃっていいんスか?」
「構わん。お前らの強さは私達が引き立ててやる」
「まぁもともと強いですけどね」

拍子の抜けた言葉に、緊迫していた空気が少し緩む。
それが轟の凄いところだと、奏馬は思った。

「所長、俺からも質問なんですが」

静かな声が、龍宮に向けられる。
S班の鷹梁 錬だ。
艶やかな黒髪に清楚で真面目そうな顔立ちは、彼の象徴とも言える。

「具体的に、影やスペードはどのように動き始めてるんですか?」

龍宮は少し沈黙を置いた後、唸ってから言う。

「詳しい事はまだ分からないが、先日スペードが影の一部を襲い、影がスペードの一部を虐殺するという事件があった。これは近いうちに行動を起こすという合図だ。次期に関係のない人々が巻き込まれ、最後には我が聖騎士も大きな被害を受けるだろう」

聖騎士では、歴史の授業に影、スペード、そして聖騎士の歴史も取り入れている。
小学校のとき、奏馬も影、スペードの大量虐殺は習っていた。
2つの悪逆組織の殺戮は後を絶たなかったが、
最近になって治まっていたのだった。
それが、また始動し始める。

「奴らがまた動き始めたのは、恐らく今まで組織的な変化があったからだろう。
現に、2つの組織は以前とボスが変わっている。
影は前ボスを殺した天道昴がボスとなり、 
スペードは前ボスが病で倒れ、その息子、如月架音がボスになった。
いずれも16,7歳の少年だが、もっている力は私と同等だ。
心してかかるように」

「了解」

少年達は、声を揃えて言った。

龍宮は聖騎士最強の男。
生まれながらに全神力をもち、赤子のころから聖騎士にいる。
普段一切力は使わないので、弱いと思われがちだが、
内に秘めているパワーは最強なのだ。
そんな龍宮と同等の力をもつ少年が、この世にはいるらしい。

龍宮は辺りを見回し、質問がないことを確認してから言った。

「緊急ミーティングは以上だ。ご苦労。
今後は予定通りに動いてくれ。
班別のミーティングも忘れないように、以上」

終わりの言葉が発せられると、一同はバラバラと自分達の寮に戻り始めた。
光輝とルイ、轟が、奏馬を見つめる。

「ミーティング何時からにする?」

轟の問いかけに、奏馬は携帯をチラリと見てから言った。

「んー、そうだな、じゃぁ6時からで」
「ん、了解」

そして彼らも、バラバラと寮に戻る。
誰もいなくなったミーティングルームで、奏馬は伸びをした。

第5話 異変は突然 4/4 ( No.11 )
日時: 2010/03/17 12:58
名前: (*´・ω・) 薫 ◆csrKrKYmRA (ID: fgNCgvNG)
参照: http://sukittekotosa.blog.shinobi.jp/


朝っぱらから疲れるな・・・

「「ほーんと、疲れるねぇ」」

揃ったその台詞に、奏馬はギョッとする。
ま、まさか・・・

ゆっくり振り返る。
視界に入ってきたのは・・・

「「っはよーござーっす、大将の弟さーん」」

最上級クラス、ケルベロスの副長である双子。
空翔(くうと)と樂翔(がくと)だ。
ケルベロスの大将は、奏馬の義理の兄である天馬。
空翔と樂翔は、天馬を慕っていて、しょっちゅう奏馬にも声をかけてくるのだ。

「く、空翔さん・・・樂翔さん・・・」
「元気にしてたー?」
「あ、はい、一応・・・」
「昇格したんだってねぇ、おめでとー」
「あ、ありがとうございます・・・」

空翔と樂翔は一卵性双生児で、どっちがどちらかよく分からない。
だがいつも空翔は赤の、樂翔は黒のペンダントをかけている為、一応判断はつくようになっている。
樂翔のほうが笑い、奏馬の身長までかがむ。

「ねーねー、大将には最近会ってんの?」
「えっ?」
「話しとか、してる?」
「あ、いや・・・会いません、ね・・・」

奏馬はしどろもどろになって答える。
天馬は奏馬を見ても何も言わないし、ひどい時は神力で嫌がらせしてくる時もある。
彼のもっている氷神力にやられ、
食べていたトーストが一瞬にして凍った時は、奏馬も別の意味で固まってしまった。

天馬の美貌は、母譲りのようだ。
淡い藍と紫がまざったような、美しい色合いの長めの髪。
その色と同じ、冷静な瞳。
身長は高く、肩幅も広い。
同じ父親から生まれたはずなのに、奏馬と天馬の間にある溝は深かった。

「大将、言ってたぜ?」

空翔が嘲笑するようにいい、樂翔と合わさって咳払いをした。

「「・・・フン、あの両親から生まれた子だ、劣ってて当然だろう」」
「ってね」

空翔と樂翔がクスクスと笑った。
奏馬は居心地が悪くなる。
天馬は、2人目の母親・・・つまり、奏馬と勝馬の実母が大嫌いなのだ。

「んじゃ、俺達もそろそろミーティングあるから、行くな」
「あ、はい」
「大将に、何か言っておく事ある?」
「え?兄さんに・・・ですか?
じゃぁ・・・えと、ご無沙汰してます、お元気で、ぐらいで」

瓜二つの双子は笑った。
空翔は樂翔の右肩に左腕を置き、よっかかる。

「ん、わぁったよ、言っておく」
「「じゃーな」」
「あ、はい、さようなら」

空翔と樂翔がいなくなり、奏馬は1人思った。

天馬兄さんって、どんな人なんだろう・・・と。


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