ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
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- 殺人ゲーム
- 日時: 2010/03/17 12:41
- 名前: (*´・ω・) 薫 ◆csrKrKYmRA (ID: fgNCgvNG)
- 参照: http://sukittekotosa.blog.shinobi.jp/
初めまして、日高薫と申します(*´・ω・)
森ガイやブログなどで多く小説を書かせていただいているものです。
ようやく脱ゆとりではありますが、まだまだ至らない点が多くございます。
何卒よろしくお願いいたします(´・ω・`)
大まかなあらすじ
神力という特殊な魔法を使える「神力者」と、
そうでない普通の「ヒト」。
世界の人間はだいたいこの二種類に別れていて、
神力を悪用して殺人を犯す組織、
神力者を憎んでいるヒトによる殺人組織、
そんな殺人組織を食い止めるための正義の組織などが、
政府を築いていた。
この話は正義の組織「聖騎士」のとある班員たちの、
生と死に向かい合う話しです。
注意書
・カオス!カヲス!
・組織的なものがよく分からず、私自身混乱していますが・・・見逃してくださいorz
それでも全然おk!見てやんよ!という、
心の優しい方は是非お読み下さい!
- 第一話 始動 2/2 ( No.2 )
- 日時: 2010/03/17 12:44
- 名前: (*´・ω・) 薫 ◆csrKrKYmRA (ID: fgNCgvNG)
- 参照: http://sukittekotosa.blog.shinobi.jp/
「ほう。やはりお前は意思が強いな」
「だって、俺ですから」
答えにはなっていないが、それが轟の個性だ。
「じゃあ駿河。お前の夢は何だ?」
「え、ボクですか?」
そうだなぁと、虫も殺せぬような優しい笑みを浮かべながら考える光輝は、
初めてみただけだと、男か女か分からないかもしれない。
考えた末に光輝が口にした夢は、彼らしいものだった。
「ボクは、女神様と共に生きていくだけでいいです」
光輝の女神に対する忠誠心は、人一倍強い。
なぜそこまで女神を敬っているかは謎に包まれたままだ。
「でも、1つだけ言うならば」
そう言った光輝の笑みが、一気に残酷になった。
奏馬はそれを見て、思わず身震いする。
「闇を、この世界から消す事です」
その言葉を聞いた瞬間、光輝の隣に立っていたルイが、底冷えするような鋭い目を光輝に向けた。
そして光輝のワイシャツの襟を掴み、低い声で唸るように言う。
「もう一回言ってみろ」
「何回も言ってやるよ、闇をこの世から消すのがボクの夢」
動じる様子も無く、さっきと変わらぬ笑みを浮かべながら、光輝が言い返した。
それがルイの逆鱗に触れたのか、短気な彼は怒鳴る。
「ふざけるな!!闇を消すという事は人間を消すという事に等しいんだぞ!!」
「ふぅん。ボクはいいよ。女神様さえいれば」
「貴様・・・!!!」
凍てつく様な声で言い争いをする2人には、流石の轟も首をすくめる。
気弱な奏馬なんて、手も足もでないぐらいだ。
そんな中、龍宮が呆れたように低い声で言う。
「やめろ2人とも。喧嘩をしていいだなんて誰も言ってないぞ」
しぶしぶ、ルイが光輝の襟から手を放す。
光輝は嘲笑うかのように鼻で笑った。
はっきり言って、奏馬たちD班が昇進できなかったのは他でもない、この2人が問題だ。
任務がある度に喧嘩をして、失敗に導く。
光輝もルイも、個別で動いていればD班の誇りといっていいほど強いのに。
2人を並べれば、誇りというより、どちらかというと埃に近い。
「・・・で?五十嵐。お前の夢は?」
「魔王と影、スペードを潰す事」
冷たい憎悪。
漆黒の瞳に、冷徹な炎が宿った。
ルイの過去は明らかになっていないが、少なくとも今彼が口にした3つは関わっているようだ。
「あぁ怖い。物騒だね、闇は」
光輝がわざとらしく首をすくめる。
だが、もう光輝などルイの眼中にはないようだ。
一瞬、龍宮がルイを哀れむような表情を見せた。
ルイはそれを見逃さなかったが、他の3人は気づかない。
「・・・そうか。だが影とスペードはお前だけで倒すんじゃない。
みんなで倒すんだ。いいな」
「・・・・・・」
龍宮が真剣な顔つきで言うと、ルイはむっつりとそっぽを向いてしまった。
気を取り直すように、龍宮は目にかかった前髪をはらう。
「矢吹、お前の夢は?」
聞かれるとは思っていた。だが、まだ考えがまとまっていない。
奏馬は迷いながら言った。
「えっと・・・ちょっと待ってください」
失踪した双子の兄を探す事。
同じく失踪した、元D班のリーダー、砂原馨二を探す事。
いや、それとは別にある。
夢と言えるかどうかは分からない。
だが、今の自分たちには、達成しなければならない事がある——
意を決したように、奏馬は言った。
「・・・とりあえず、D班全員仲良くなりたいです・・・」
「ハハハ、それはご尤も」
龍宮は愛想よく笑い、奏馬の肩に手を乗せた。
- 第2話 蠢く闇 1/2 ( No.3 )
- 日時: 2010/03/17 12:48
- 名前: (*´・ω・) 薫 ◆csrKrKYmRA (ID: fgNCgvNG)
- 参照: http://sukittekotosa.blog.shinobi.jp/
「申し訳ありません!!」
血塗れになった一人の少年が、3段ほど上にある玉座に腰をかけている男に土下座をしていた。
その顔は必死で、目には恐怖と畏怖が映し出されている。
玉座の上の男は手足を組み、少年を冷たく見下ろす。
「全て、全て俺のミスなんです!!
部下達は皆、新入りだったもので情報をスペードに流してしまって・・・!!」
苦痛に歪んだその顔を、少年は上げた。
だが、その目線に男の姿はない。
「死に際の言葉はそれだけか」
「な・・・?!」
少年のすぐ隣に、男は立っていた。
そして美しい剣の刃が、少年の首筋につきたてられている。
男から禍々しい殺気が伝わってくる。
その殺気だけで、少年は目がくらんだ。
男は、端整な顔に不適な笑みを浮かべた。
少年の背筋に、冷たい汗が流れる。
「・・・昴、様・・・」
少年の口からこぼれたのは、頼りない声だった。
昴と呼ばれた男は、かすれた冷たい声で言った。
「貴様のような弱い人間に用は無い。
———消えろ」
昴が最後の一言を発した時、もう少年はヒトの形をしていなかった。
彼が握っていた刃から黒い煙のようなものが流出し、少年を取り巻く。
そして瞬時のうちに、身体が粉砕されたのだ。
赤い霧が、昴の黒いズボンにも吹きかかる。
恐ろしく整ったその顔にも、真紅の滴が付く。
彼こそ、殺人組織影のボス、天道昴。
冷酷な性格で、目的の為なら手段を選ばない。
黒い髪や目に加え、すらりとしたそのファッションも黒で統一されている。
昴は銀色についた血を、目を細めて見つめた。
口元に、残酷な笑みがこぼれる。
「鋭、鋼、朱門」
剣を握ったまま、昴は部下を呼んだ。
さっと、一瞬のうちに3人の少年が昴の背後に現れ、跪く。
「はっ」
「この死体、囚人の餌にでもしておけ。
それと今日スペードに流れた情報の件。
情報を盗んだスペードの連中を全員とっ捕まえて俺の前に連れて来い」
昴は部下の方を一度も振り返らないまま、命じた。
3人のうちの一人———不良のような格好をしている少年が、顔を上げる。
「その囚人って、全員スか?」
「ロゼだけでいい」
「うっす」
「スペードの奴が抵抗した場合は?」
不良の隣にいた白衣姿の少年が、淡々と言葉をつむいだ。
昴は即答する。
「決まっているだろ、消せ」
「了解」
昴は玉座への道を、コツコツと歩いた。
粉砕された少年の脳髄が、ぷちぷちと音を立てて踏み潰される。
黙って命令を聞いていた温厚そうな少年が、不良の隣で顔をしかめた。
ピタリと昴の足が止まる。
予想外の展開に、3人の周りの空気が凍りついた。
「分かったらもう行け」
それだけだった。
3人は妙な安心感を抱き、「はっ」ともう一度跪き、姿を消した。
彼らと共に、ぐちゃぐちゃになっていた死体も消えた。
玉座に腰をかけ、昴はまた目の前に血のついた剣を示した。
狂鬼のような笑みをうかべ、昴は真紅の雫をぺろりとなめた。
部下など、ただの手駒。
その手駒がミスをするなんて、唯の足手纏いに過ぎない。
だから消す。
残忍なその考えを持った男、天道昴。
大きな帝国と化した政府組織「影」の頂点に立つ者。
彼が操る“影”に、光はなかった。
- 第2話 蠢く闇 2/2 ( No.4 )
- 日時: 2010/03/17 12:49
- 名前: (*´・ω・) 薫 ◆csrKrKYmRA (ID: fgNCgvNG)
- 参照: http://sukittekotosa.blog.shinobi.jp/
「よくやった、2人とも」
人のよさそうな笑みを浮かべた眼帯の少年が、部下に言った。
その少年が如月架音。
反神力組織、スペードのボスだ。
白銀の髪に黒い眼帯。左目は魅入られるような美しい青い瞳。
褒められた二人の部下の一人が、笑った。
「いえ、そんな・・・」
「そんなに謙虚になることはない。
玖玲、雷時。お前らみたいに神力者を大量虐殺できるのは、そういないぞ」
「ハハ、そりゃどうも」
金髪に緑の瞳をもった、欧米の血を引く少年は、頭をかいた。
一緒にいた黒髪を後ろで結んだ少年も、フフと笑う。
和やかな空気が漂っていた、そのとき。
「か、架音様!!!」
物凄い勢いで、身長の小さい少年が飛び込んできた。
見た目は女のようだ。だがそのよく響く声が、少年だと告げている。
のえる
「聖歌?どうした?」
聖歌と呼ばれた少年に続き、顔の半分以上を黒い前髪で隠している少年も入ってきた。
「不律も・・・何があった?」
聖歌の息は上がっていて、相当急いできたようだ。
不律は平然そうに、聖歌の隣に立っている。
架音の問いに、聖歌は取り乱しながら言った。
「今日任務をしていた傭兵隊が、何者かによって殺されました・・・!!」
「何・・・?!」
架音が立ち上がる。
血相が変わっていた。
「・・・一人は、両足が根元から切られていて・・・
一人は、め・・・目玉、を・・・くりぬかれて、心臓を抉られていて・・・!!」
聖歌は蒼い顔で言葉を詰まらせながら話した。
彼の目から、ぽろぽろと涙がこぼれている。
架音は震えながら話す聖歌を見て、哀れむように首を振った。
そして優しく、言った。
「もう、いいよ・・・。よく報告してくれたな、聖歌・・・」
「・・・申し訳、ありません・・・」
「誤る事はない。お前はゆっくり休んでな。
不律、他に分かったことはあるか?」
不律はふと架音のほうを見ると、目線をそらしていった。
「・・・首筋に、影実行特殊部隊Zの紋章が」
「何、Zの紋章・・・?」
殺人組織、影の仕業だ。
スペードに対しての挑発だろう。
神力を持たず、科学と武器なしにして戦う事のできない、スペードへの。
「クソ、化け物どもが・・・!!」
架音が毒づく。
誰よりも神力者を憎み、恨み、破壊しようとしている少年、如月架音。
彼は過去に背負った闇により、神力者を滅そうと思っていた。
「死体の数は?」
訊いたのはハーフの少年——雷時だ。
不律は彼の質問には答えようとしない。
カッとなった雷時が不律に詰め寄ろうとするが、それを髪を結んだ少年に止められる。
その黒髪の少年を、玖玲といった。
我慢できないというように、雷時が玖玲を見る。
玖玲は首を振った。やめておけ、と。
すると一同の背後から、奇妙な金属の音がした。
スッと振り返ると、人ではない歪な生き物が、立っている。
1つの身体に二つの頭。
人に似せた皮膚を張った顔、瞳の無い、白い目。
腕は途中で皮膚の原料が切れたのか、途中で鋼がむき出しになっている。
架音が作った、人造人間だった。
左の頭が「龍牙」で右の頭が「王牙」という。
「死者の数は、全部で13です」
王牙が言った。
その機械的な声に感情は無い。
彼らに心のプログラムは作られていないのだ。
「確認しましたが全員死亡。いずれもZ隊にやられたようです」
今度は銀髪の龍牙が話す。
それを聞いた架音は、低い声で唸るように言った。
「・・・分かった、ご苦労。
みんな、もう任務に戻っていいぞ。ボクが・・・行ってくる。
龍牙、王牙。案内してくれるか?」
龍牙と王牙は頷いた。
雷時と玖玲はまた神力者を狩るために、
聖歌と不律は見回りに、
そして架音は双子の機械とともに仲間の最期を見届けるために、その場をさった。
スペードが抱く神力者に対しての憎悪が、一層、強まった。
- 第3話 特訓 1/2 ( No.5 )
- 日時: 2010/03/17 12:50
- 名前: (*´・ω・) 薫 ◆csrKrKYmRA (ID: fgNCgvNG)
- 参照: http://sukittekotosa.blog.shinobi.jp/
鬱蒼とした森林。
昇格したばかりの聖騎士D班は、迫っている敵を捕らえる任務を行っていた。
だが2人の敵は、奏馬の3倍ほど強い。一筋縄では行かない相手だ。
D班の四人は全員、ゴーグルのようなものを目に付けている。
「轟後ろ!!!」
木の上を飛び回る轟の後ろに、全身黒ずくめの敵が迫ってきていた。
奏馬は下から声をかけるが、轟は歯軋りをしながら唸る。
「分かってる!!!」
轟の雷神力は、狙いを定めないと必ず外れる。
それどころか、下手をすれば仲間に危害が及ぶのだ。
彼が方向音痴だということもあり、今神力を使うのは非情に危険である。
「クソ、他の2人はいねぇのかよ!!」
敵が投げてくる毒針を交わしながら、轟は怒鳴った。
光輝とルイは、もう1人の敵を追跡中だ。
今彼を助けられるのは、奏馬だけ。
しかし奏馬のもっている神力は、現在の状況ではとても役に立たないものだった。
奏馬の神力は、コピー神力。
相手や仲間の神力をコピーし、一定の時間自分の力として使うことができる。
それは便利な事のほうが多いが、今のようなときには無能だ。
それもそのはず。
敵は神力をもたない、ただの人間。
轟の雷をコピーしたとしても、雷神力を使い慣れていない奏馬が、動き回る敵に攻撃を食らわせることはできない。
奏馬は何も出来ない自分に腹が立つ。
助けを求めるように頭に浮かべたのは、失踪した元D班メンバー、砂原馨二の姿だった。
***
馨二がいたころのD班は、聖騎士一の優秀な班だった。
問題児のルイと光輝も、馨二の前なら多少おとなしかったと思う。
轟と馨二が仲がよく、奏馬も、1つ先輩であった彼に随分優しくしてもらっていた。
驚異的なリーダーシップ。
きれのよい頭脳。
的確な判断。
全てを、成功に導いていた馨二。
炎神力をもっていた馨二は、次期聖騎士所長と謳われていた。
そんな彼は、今から約2年半前に突然失踪した。
理由は、未だに不明。
馨二の寮には争った跡もなく、拉致をされたわけではなかったようだ。
彼が聖騎士を出て行くような理由も、どこにもない。
馨二と過ごした最後の日を、現D班のメンバーは全員覚えている。
赤みを帯びた髪をした砂原馨二は、消灯時間直前に、ミーティングを開いた。
あの時も、光輝とルイが火花を散らしていた。
尤も、今と違って暴力は振るっていないが。
「光輝、ルイ。大事な話なんだ。聞いてくれるか」
説得力のある、硬い声だった。
ただならぬ雰囲気に、光輝とルイがぴたりと言い争いを止める。
「ありがとう。轟、奏馬、お前らも聞いてくれ。
・・・なぁ、俺な・・・
・・・俺、この班が大好きなんだ」
真剣な顔で言われたので、一瞬、4人が固まった。
だが直後、轟がぷっと吹き出す。
「ハハハ、なに言ってんだァ?馨二。
急に気持ちわりぃなぁ」
「そ、そうだよ・・・。ビックリさせんなよ馨二、まるでいなくなっちまうような・・・」
轟に続き、奏馬もほっと胸をなでおろしていった。
光輝も、いつもとは違う馨二に苦笑する。
ルイはそっぽを向いて、聞いて損した、というような顔を浮かべていた。
馨二は慌てたように顔を赤らめ、しどろもどろになって言う。
「い、いや、特に深い意味はないんだ。
ただ・・・あの、えっと・・・」
「どうしたの?馨二。何か今日変だよ?」
「フン、いつもの事だろう」
「お、お前に言われたくないね、ルイ」
光輝に便乗して馨二にまで挑発をかけたルイに、馨二は反論する。
だがまた、馨二は覚束ない言葉で話し始めた。
「ただ、俺は・・・
最近、物騒な事件が多いだろ?影の事件とか、また動きだしたスペードの事件とか・・・。
だけど俺、何があってもこの班のリーダーでいたいんだ。
誰も欠けることの無いD班でいたい。
たとえ、もう二度と“五龍”と呼ばれなくなったとしても、だ」
五龍——それは、当時のD班の呼び名だ。
古代中国の五行思想にならったもので、今から考えると、誰が最初にこのあだ名を付け始めたかは分からない。
それぞれ奏馬が青龍、馨二が赤龍、轟が黄龍、光輝が白龍、ルイが黒龍と呼ばれた。
ちなみに、五龍と同じような意味合いで、四龍という組み合わせもある。
D班は四龍と呼ばれていないが、四龍は黄龍が欠けているらしい。
D班中で黄龍——つまり轟が欠ける事は、絶対に有り得ない。
みんな、当時のD班のことを、畏怖と敬意を込めて五龍と呼んだ。
今では考えられないが、D班はチームワークの手本といえるチームだったのだ。
・・・それなのに。
次の日、馨二は忽然と姿を消していた。
昨晩の言葉に、どんな意味が込められていたのだろうか?
『例え“五龍”と呼ばれなくなったとしても』
彼が言ったその言葉が、奏馬や轟、ルイや光輝——以前五龍と呼ばれた少年達は、気がかりだった。
- 第3話 特訓 2/3 ( No.6 )
- 日時: 2010/03/17 12:51
- 名前: (*´・ω・) 薫 ◆csrKrKYmRA (ID: fgNCgvNG)
- 参照: http://sukittekotosa.blog.shinobi.jp/
「奏馬!!!」
突如上からかかってきた声に、奏馬は現実に引き戻された。
頭に残る馨二の声と顔を払うように首を振り、奏馬は木を見上げる。
「俺にいい考えがある!!俺の神力、コピーしろ!!」
「えっ?!」
「いいから早く!!」
苛立ちをぶつけられながら、奏馬は仕方なしに轟に手の平を向ける。
そして一瞬目をつぶり意識を集中させ、神力を発する。
ビリビリした刺激的な雷神力が、奏馬の手の平に溶け込むように流れ込んでくる。
神力と同時に、轟の思念が伝わってきた。
過度な自信。
それは不安を押し流すような、不自然なものだった。
自分の弱みを自分でも分かりたくなくて、自らに嘘をついているような、そんな感じだ。
俺は強い、俺は強い、俺は強い——
何か、必死に自分を言い聞かせているような気が、奏馬にはした。
「敵の気をそらせろ!!その間に俺が——」
「ちょっと待てよ!!」
奏馬はあせる。
轟は何を仕出かすか分からないし、それ以前に自己中心なところがある。
今だってそうだ。
奏馬の体質と雷神力は、相性がよくない。
短時間雷を使っただけで、すぐばててしまうのだ。
「俺と雷の相性がよくないの、お前だって知ってるだろ!!!」
「っせぇな!!!今はそんなこと言ってらんねぇんだよ、カス!!」
「ンなこと言われたって——」
「お前は俺の言う事聞いてりゃいいんだよ!!さっさとしろ!!」
轟が怒鳴り散らす。
奏馬は怒りを呑み込んで、その代わりに心の中で罵った。
D班の昇格遅れは、ルイや光輝のせいだけじゃない。
絶対に、絶対に轟のせいでもある——と。
黒い覆面の男に、奏馬は狙いを定めた。
素早く動き回る敵——クソ、ずれる・・・。
男は次々と木々に飛び移り、前へ前へと進んでいく。
木々に飛び移る・・・
奏馬はハッとした。
木々に飛び移ってしまうのならば、行く手を阻めばいいんだ。
男が進む方向のうんと先の木に向かって、奏馬は雷を落とした。
轟ほどの破壊力はないが、木を折るには丁度よかったようだ。
木は音を立てて折れ、ずどんと下に落下する。
予想もしなかったできごとに、男は足を止めた。
「グッジョブ奏馬!!」
轟が笑みを浮かべて親指を突きたてた。
奏馬も親指でサインを返す。
そして今まで集中していた轟が、男を睨んだ。
「フン、諦めろ!!もうてめぇは袋の鼠だ!!」
勝ち誇ったような言葉を吐き捨て、轟は雷剣と呼ばれる特殊な剣の召喚呪文を唱えた。
「雷神の契約の元、ここに雷剣を召喚する!!」
轟が構えていた両手に、剣が現れ、握られた。
雷剣の正式名は、「雷神龍剣」。
グレートソードの形をしたその剣の柄には、雷神の化身と呼ばれる雷龍の模様が刻まれている。
剣の長さは轟の背丈と同じ、いや、彼の身長より少し高いぐらい。
とにかく大きな両手剣だった。
プロの職人がその剣を使うとしても、命中率はかなり低い。
だが、刃から迸る雷を上手く利用し、轟は巧みに剣を操ることができるのだ。
その巨大な両手剣を、轟は片手で持った。
そして刃先を男に向け、轟は不適に笑った。
これで終わりだ——
そう言いかけた瞬間。
物凄い勢いで、轟の視界を黒い影が横切った。
続いて白い影が横切る。
——なんだ?
一瞬考えたが、轟と奏馬は悟る。
黒い影と白い影。
この条件に当てはまるのは、大抵は彼らだ。
ルイと、光輝。
目で影を追ってみると、予想通り。
問題児の2人だ。
両者ともに至るところから血を流し、肩で呼吸をしている。
しかも戦っているのは敵とではない。
互いに、互いを傷つけ合っている。
ルイが憎しみと苦しみが混ざった表情で、光輝を睨んでいた。
光輝は天使のような微笑で、しかし堕天使のような容姿でルイを見つめる。
———また、だ。
また2人が、神力を争っている。
ただの喧嘩ではないように見える。大げさに言えば、殺し合いだ。
「ふざけてんじゃ・・・」
轟が耐え切れないように苛立った表情で2人の間に入ろうとする。
が。
「・・・!!」
轟と奏馬の首筋に、冷く硬いものが突きつけられた。
ヒヤリとしたその感覚は、寒気を催した。
奏馬たちが追っていた敵は轟の首に、
光輝たちが追っていた敵は奏馬の首に、
銃を突きつけていたのだ。
予想もしなかった逆転。
奏馬は頭の中が真っ白になり、ただただそこに立ち尽くしているのみだった。
轟は舌打ちをして、雷剣を木につき立てる。
任務失敗だ。
「おい奏馬」
ため息雑じりの轟の声が、虚を醸し出しているような奏馬の耳に響く。
「さっさとバーチャルオフにしろ、時間の無駄だ」
奏馬はその言葉にはっとした。
そしてゴーグルの端についているスイッチを押す。
みるみる内に、周りの木々が剥がれ落ちる様に消えていった。
鬱蒼とした緑も、蒸し暑い臭いも、全てが消えた。
景色は聖騎士のバーチャルトレーニングルームに戻る。
いつもの、見慣れた風景だ。
ゴーグルを外す轟と離れたところで争いを続けるルイと光輝も、見慣れている。
馨二がいなくなってからの光輝とルイの仲は、余計に悪化した。
互いを尊重する事をしようとしない。
ルイは光に、光輝は闇に復讐を誓い、潰そうとする。
所長である龍宮が2人をいくら叱っても、深い溝が埋まる事はなかった。
深々と、奏馬はため息をつく。
元々奏馬はリーダー体質ではないのに、龍宮にリーダーを命じられた。
リーダーっていうのは、どこまでも真面目で几帳面なS班の鷹梁 錬とか、
みんなからの信頼や尊敬をうけているF班の白井剣とか、
そういう人がやるべき事であると、奏馬はしみじみ思う。
そんな奏馬の鬱な思いを煽るかのように、男の怒鳴り声が、スピーカーから降り注いだ。
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