ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

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朱色の戦場 —The Only Easy Day...—
日時: 2010/05/04 14:04
名前: JYU ◆j7ls9NGWQI (ID: w4zhaU6v)

立て直してみた。結構文章内容変えてます
例によって例のごとく軍事物ですが、出来るだけ分かりやすく、読みやすいようにしていこうと思いますのでご容赦願います
生半可な知識で書いてるんですけどね。いや、本当に
アドバイス等お願いいたします。分からないところがあったら気軽にどうぞ!
気軽に! フレンドリーに! ね!

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2.Bleaching!(3) ( No.7 )
日時: 2010/05/04 14:02
名前: JYU ◆j7ls9NGWQI (ID: w4zhaU6v)


 3.
 
 A1チームの面々は、アフガンの荒涼とした大地を歩いていた。SEAL隊員4名だけだ。レンジャー隊員はいない。彼らは他の地域を哨戒中である。耳を良く澄ますと、ヘリの飛んでいる音も聞こえてきた。恐らくだが、160th SOAR(第160特殊作戦航空連隊)だろう。この作戦に関して、かなりの規模の特殊部隊が動いている。化学兵器を、法などお構いなしの武装勢力が所持している疑いがあるというのだから、当然と言えば当然だ。
 もう別の地域では、デルタやS.A.Sが行動を開始しているかもしれない。彼らが到着する前、早朝にSEAL達は出発したので、顔合わせはしていなかった。
 ロシアは今のところ様子見をしているようだ。ロシア軍及び特殊部隊・スぺツナズに動きはないと、情報部は言っている。

「俺達、場違いじゃないか?」

 ジェレミーはSG552アサルトライフルを持ったまま、ジョシュアにそう漏らした。デルタ、S.A.S、レンジャー。どれも陸軍だが、彼らSEAL隊員だけは、海軍所属だった。
 SEALである以上、通常の部隊よりも遥かに高い作戦遂行能力を持っているものの、やはり水のあるところが彼らのホームだ。敵の船艇に爆弾を仕掛けたり、海から上陸し、ひっそりと破壊工作を行ったり。
 早い話が、陸地は専門とするところではないのだ。
 
「俺はそうは思っちゃいない。どこでもどんな任務でも、こなしてみせるのがSEALsだ」

 ジョシュアはいつもよりも引き締まった顔でそう言った。彼がSEAL隊員であることに対して持っている誇りはチームでも随一だ。普段は軽い雰囲気を漂わせているが、やる時はやる男だと誰もが知っている。

「楽に過ごした日は昨日まで(The Only Easy Day...Was Yesterday)、か」

 SEALsのモットーの一つだった。確かに昨日はちょっとした射撃訓練を行っただけで、命の危険など無かった。今日は違う。しかし明日になれば、「昨日は楽だった」と思うのだ。
 彼らはこのサイクルを幾度となく繰り返している。そうすることで、強靭な精神を養ってきた。
 もう体に染みついたその習慣は、最早呼吸と同意義である。
 班長のダニエルが地図を開き、大体の目星を付けた地点を再確認する。この辺りだ。彼らは双眼鏡で辺りを見回した。何もないが、武装勢力の偽装能力は侮れない。これまでずっと、アメリカの衛星監視を潜り抜けているのだから、見つけるのは歩兵等の地上戦力にしか出来ない仕事だ。

 世界的な武装組織であるタリバンなどの兵士が、どこかで待ち伏せをしているかもしれない。現に、フランス軍の偵察小隊やアメリカ第75レンジャー連隊員などが何度も被害にあい、死傷している。彼らの戦術は完成されたものであり、そこらの武器を持ったただのチンピラなどではないことは明らかだった。
 総じて、こうした非正規の武装組織は正規軍には無い戦術を持ち合わせている物だ。過去の歴史にもそれは現れている。
 1993年、ソマリアのモガディシュで行われ、独自の改造でバックブラストの問題を解消したRPG-7ロケットランチャーを利用した対空攻撃で軍用ヘリ、ブラックホーク2機が墜落、レンジャー・デルタの混成部隊に多大な被害をもたらした『ブラック・シーの戦い』。
 2005年、SEALsによるタリバン主要メンバー狙撃任務『レッドウィング作戦』でも、100名以上のタリバン兵に追い回される羽目になったSEAL隊員の救出に向かったヘリが撃ち落とされ、救出目標であった4名のSEAL隊員の内の3名含むSEAL隊員8名と、160th SOAR隊員8名が死亡。なお、この作戦の唯一の生存者であるマーカス・ラトレル二等兵曹は、後にこのことを本にして出版している。
 
 ここは、言わば彼らのホーム。地形を利用した戦術、正規軍には無い力が、彼らにはある。宗教、つまり信じるべき対象が存在する人間の強さは計り知れない。しかも彼らは狂った獣などではなく、知性を持ち、罠を作り、獰猛に敵を狩る冷酷なハンターなのだ。だからこそ性質が悪い。捕まったが最後、遺体を味方に回収される時には腸を抜かれ、皮を剥がれ、四肢をもぎ取られた状態になっているだろう。
 だが、遺体を回収出来ればまだ運が良い方だと言える。
 ジェレミーはそういう目に合うことに対しては、それほど恐怖していなかった。拷問は苦しいかもしれないが、死んだ時点ですでに意識はないのだ。自分の死体がどうなろうと知ったことではない。しかし、心配ならあった。アメリカの家族だ。彼には両親ともうすぐ20歳になる妹がいる。家族を悲しませたくない。
 それは生への執着を生み、人を強くする。
 
 歩く度に足元の地面はざくざくと音を立てる。アイヴァンは狙撃銃のスコープ越しに自分達以外の誰かを見た。

「あれは?」ジェレミーが言った。

「羊飼いだ」

 アイヴァンは一息ついて、狙撃銃を構えるのをやめた。羊を連れた髭の濃い男性が2人、自分たちのいる丘陵の下を歩いている。対して珍しくもない。よく見るとは言えないが、彼らの存在はそう不思議ではなかった。
 ダニエルはここから移動するよう隊員達に促した。武装勢力のキャンプをどうやって見つけるのか、方法は1つだ。

「虱潰しに探すしかない」

 彼らは再び歩みを進めることにした。補給に関しては問題ない。偵察ルートは決めてあるので、そのルートの途中途中でヘリが補給物資を投下してくれることになっている。
 もし敵勢力を見つけたら、可能ならば襲撃し、捕虜を取る。敵が多ければ支援を要請する。レンジャー隊員達がヘリで駆けつけ、現場に降下してくれるだろう。
 そして撃ち合いだ。
 ダニエルは小型無線機に向かって報告した。

「HQ。こちらアルファ1、エリア・ブラボークリア。エリア・チャーリーへ移動する。オーバー」

 ほどなくして、HQ(作戦本部)が応答した。

「了解アルファ1。エリア・チャーリーは頻繁に敵武装勢力との撃ち合いが起きている。策敵を怠るな。オーバー」

「こちらアルファ1、策敵を厳重に、了解。交信アウト」

 彼は振り向き、自分の部下に言った。「さあ、行くぞ」
 長い旅になりそうだ。この時ジェレミーやジョシュア達は、そう思っていた。

2.Bleaching!(4) ( No.8 )
日時: 2010/05/04 14:03
名前: JYU ◆j7ls9NGWQI (ID: w4zhaU6v)


 4.

 アメリカ最強の陸軍特殊部隊・デルタフォースの隊員であるジャック・ソマーズ一等軍曹は、着任して早々にヘリで偵察地点に赴けと言われた時、大して何も感じなかった。
 なんてことはない。よくあることだ。むしろ事は速い方が良い。愛用のHK-416アサルトライフルはこんな厳しい環境でもきっちり働き、敵を殺せる武器だ。武器と弾薬、最低限の食料があれば、自分たちは何処へでも行ける。自信があった。確信があった。
 ジャックは27歳だ。デルタとしては若めで、まだまだ成長の余地はあるとみられていたが、現状でも非常に高い技能を保有している。彼はニュージャージー州育ちの細身で筋肉質の男で、14歳ぐらいの頃は毎日喧嘩三昧のやり放題だった。
 だが、軍での生活が全てを変えた。まずレンジャー訓練に始まり、レンジャー隊員として軍歴を積み、そしてデルタに入った。その時のテストでは自分を含め、170名中24名しか残らなかった。
 まず悪さをするような性格ではなくなったし、何事にもどっしりと構えて対応できるようになった。彼を知る者は、口をそろえて「まるで別人になったようだ」と呟く。
 もう長い付き合いになる160th SOARのパイロットが操縦するヘリに乗り、ジャックの所属するA3チーム4名はアフガンの空へと飛び立った。離陸準備をしている間、隣ではS.A.Sがレンジャー隊指揮官と打ち合わせをしている。デルタはもうここに到着する前に済ませていたので、問題ない。
 ジャックはS.A.S隊員達に聞こえないように、小さい声で言う。

「さっさとしないと、俺達が先に見つけちまうぜ」

 同じ部隊員であるダーウィン・ジョルカエフ二等軍曹は、今の発言に対して一言だけ「ぼやくなよ」と言って、口を閉じた。
 ヘリの中で、ジャックはずっと銃を点検していた。HK-416のボルトの滑りは完ぺきだ。実戦でも弾詰まりを起こすことはそうないはずだ、と思った。
 拳銃——例によって、M92ベレッタだ——の様子を見るのも忘れない。いざという時に頼りになるのがこうしたサイドアームだ。弾倉交換の隙をカバーしてくれるし、室内戦闘ではアサルトライフルよりも取り回しが良い。弾は低威力の9mm弾なので、敵がボディアーマーを持っていた場合は身体に撃ちこんでも殺傷能力が無いが、頭に撃ちこめば問題ない。ダブルタップで2発、口の中へ弾丸を送り込む。簡単なことだ。
 
 アフガンの景色は、ジャックにとって見慣れたものだった。疎らに生えた草木、ごつごつとした起伏のある地形。それら全てが敵のフィールドであり、自分達のフィールドでもある。
 誇り高きデルタ隊員のライフルの射程に入った時点で、敵は残らず射殺される。射撃・狙撃に手榴弾、あらゆる手を尽くして敵を殺す。
 逃れる術など無い。食らいついたら離さない。それがデルタだ。彼らはいざとなったら噛みついてでも敵を殺すだろう。生き残るため、任務を遂行するために必要なことであれば、実行する。躊躇はない。
 そしてそれは、S.A.Sも、どの特殊部隊でも共通の認識だった。
 ヘリの開け放たれた搭乗口から吹きこんでくる、強烈な風を一身に受け、彼らはここに敵を殺しに来たのだ。





 5.

 先に行ってしまったデルタ隊員達16名を尻目に、S.A.S隊員16名・計4チームは地図で目標地点を確認し、任務内容の再確認を済ませていた。彼らはイギリス軍であり、アメリカ軍とは上手く情報伝達が出来ていなかった(作戦内容は上層部にしか届いていなかった上、それが届いたのは出発する直前だった)ため、現地でこうして任務を確認している。
 オースティン・ポスフォード曹長は、S.A.Sお馴染みのガスマスクを腰に付け、M249軽機関銃を持ったまま、隊長であるグレッグ・エディントン少尉の話を聞いていた。世界で最も厳しい訓練と選定を行うS.A.Sらしく、情報は脳に染み込み、離れない。何時如何なる時も任務を忘れない。恐慌状態に陥ることはまずない。
 160th SOARのパイロットはまだか、まだかと焦れていたが、知ったことではない。確実な任務遂行のために、きちんとした情報確認は必須だ。
 
「そろそろ、俺達も行くぞ」

 イギリス軍特殊部隊が、アメリカ軍のヘリに乗り込む。特別編成・任務達成のために用意された部隊『タスクフォース』でなければ見られない光景だ。
 彼らが出て行けば、まず任務は達成できる。
 問題はその際に出る被害だ。この任務を行うなら、無傷では済まないはずだった。そして実際に、そうなるだろうとオースティンは予想していた。古びたAK47を掲げ、信仰する神の名を叫んで弾丸を撃ち放つ敵と戦う——危険なことだ。敵の執念は特殊部隊にも匹敵する。
 もし死ぬとしたら、俺かもしれない。自分の持つM249は巨大で火力も大きく、目立つからだった。真っ先に狙われる。
 だがそうだとしても、彼らは任務をやめる気はなかった。ヘリのメインローターが回転数を上げる。砂塵が巻き上がり、彼らの姿は砂色の中へと消えて行く。数秒して、ヘリが上昇した時、彼らが見下ろす眼下に、「幸運を」とハンドサインを出すレンジャー達の姿があった。
 黄土色と青色の交錯する空中に、彼らの姿は確かに存在していた。

Re: 朱色の戦場 —The Only Easy Day...— ( No.9 )
日時: 2010/05/06 20:07
名前: 小説鑑定 (ID: m9ehVpjx)

小説鑑定にやってまいりました!!百合です!!!

○良いところ
 状況がよく分かる文章になっている。

○悪いところ
 行が空いていない文がいくつも固まってあって、見 ただけで疲れてしまう。
 もう少し行をこまめに空ける事!!!

3.The past ( No.10 )
日時: 2010/05/13 22:40
名前: JYU ◆j7ls9NGWQI (ID: 6LrLM1yF)


6.


 その時、目の前の彼の話を、私は黙って聞いていた。ふかふかのソファにゆったりと座り、葉巻を吸う貫録たっぷりの彼の姿に、幾分見惚れていたようにも思える。
 まるでその場の空気がそのまま感じられるような、巧妙な語り口に、私は圧倒されていた。彼自身が経験したことと、彼が友人から聞いた情報。
 もし、この本を手に取ったあなたからすれば、今の時点で彼が誰であるのかを把握できないだろう。しかし私はこの本を書くに当たって、あえてその辺りはぼかして書くことにした。
あなたが最後までこの物語を見届けた時、彼が誰であるかを明かそう。
 
「面白い話を聞かせてあげよう」

 彼は笑った。それが「彼自身の話」か、もしくは「彼の友人の話」なのかは、もちろん伏せておく。
 私にできるのは、彼とその戦友達の記憶を、出来る限りの精妙な描写で紡ぎ、あなた達を彼らの世界へ導くことだけだ。そして知ってもらいたい。そこに何があるのか、そしてそれを見て、あなたが何を思うのか?
 そこまでは私には分からないが、何かを感じ取ってくれることだろう。それだけは断言出来る。
 さて、この作戦に参加した部隊をおさらいしてみよう。米軍第75レンジャー連隊、デルタフォース、米海軍Nevy SEALs。そしてイギリス軍特殊部隊S.A.S。その中で、Navy SEALsはある有名な訓練を行うことで知られている。
 彼らSEALsチーム3の過去——それを少しだけ語ろうと思う。

3.The past(2) ( No.11 )
日時: 2010/05/17 23:12
名前: JYU ◆j7ls9NGWQI (ID: P.N6Ec6L)

 7.



 BUD/S。
 SEALs入隊訓練の一環である。
 
 多くの腕っぷしに自身のある若者達がここに集い、海水に浸り、徹底的にしごき上げられ、ある者は挫折し、ある者は強靭な忍耐力を持ってそれを乗り越える。乗り越えた者にのみ未来がある。訓練生と教官達は事あるごとに問答を繰り返す——「貴様ら、『2番』とは何だ!」「負けの1番であります!」——そして時には理不尽とも思えるほどの追及を受ける。
 ダニエル・オズバーンもまた、その犠牲者の内の1人にすぎない。
 
 2002年、まだ寒い冬の中、ダニエルは水浸しの半袖長ズボン、ついでに泥まみれのまま、腕立て伏せをしていた。彼だけではない。他の訓練生72名も一斉に訓練を行っている。ダニエルの隣の訓練生は水をかけられ、凍えそうになりながら腕立て伏せをしている。

「ふざけやがって。子犬みたいにブルブル震えてりゃ許されるとでも思ってるのか? 貴様は今手を抜いていた」

「サー」

「見逃すわけにはいかん。断固たる処置を取る」

 更に水の勢いを強くする。その訓練生は歯を食いしばり、苦しげな顔を地面に向けたまま腕立てを繰り返す。

(気の毒に)

 ダニエルは心の中でそう思った。この時、ダニエルは24歳だ。既に歩兵として軍歴を積んでいる、それなりに腕の立つ兵士だった。そんな彼でもつい音を上げそうになる。
 教官がこちらに目を向ける。どうやら次の標的は自分のようだった。全く、ここは「地獄」で、さしずめ教官は鬼だった。
 無言で頭から水をかけられる。急激に冷やされて、頭の中がガンガンと痛むような感覚を覚えた。だが、それで済むならまだ優しいということを、これから彼は身を持って知ることになる。
 脚を上に向け、自転車をこぐようにして動かす。この状態で水をかけられると、鼻に入って非常に辛かった。休みは殆ど与えられない。懸垂もさせられた。1時間以上ぶっ続けだ。腕がしびれるし、教官の目があるので、プレッシャーで心までも疲れて行く。
 まるでこんこん、とドアでもノックするかのように、腕を叩かれた。「本気出してるか? お嬢さんの二の腕みたいに柔らかいぞ」ダニエルは思った。教官はこちらを追い詰めようとしている。この状況下でも周りを見れる奴こそが評価されるのだと感じた。

「糞野郎! ママのところに帰って飯食いたいなら、訓練を今すぐ辞めてしまえ」

 YESともNOとも言えない。発言権はない。ただ一方的に叩き上げられる。そしてSEALsとして本当にふさわしい奴だけが生き残る。
 自分にはその素質がある、そのはずだとダニエルは考えた。この訓練で一番の敵は弱気だ。少しでも自信なさげにしているやつは叩きだされる。自信は少し過剰なぐらいでちょうど良い。
 かつ、何より大事なのは自分を一番に考えないことだ。常に仲間を気遣う。兵士は1人だけで戦うスーパーヒーローではないのだ。そして特殊部隊員は無敵ではない。逆に言えば、1人から2人に部隊員が増えるだけで、その任務遂行能力は飛躍的に上昇する。それは過去の歴史からも明らかだ。
 ダニエルは知っている。湾岸戦争の時、イギリスのS.A.S隊員8名が敵地に侵入し、本来の目的——スカッド・ミサイル発射機の破壊——こそ成しえなかったものの、200名以上のイラク兵をたった8名で死傷させた記録があることを。
 しかもスカッド・ミサイル発射機破壊を失敗したのはその地域のみで、S.A.Sが投入された他の地域は、数日の内にスカッド・ミサイルの発射がぱったりと止んでしまったという。
 普通の兵士より強く、速い特殊部隊員は少人数でもチームさえ組めれば、多数の一般兵を倒せるということだ。
 そう言う存在になる。ある将軍が言った言葉だ。「大抵の兵士は反戦を望んでいる。しかし、それでも戦い続ける理由がある」——ダニエルは祖国や家族を守るという理由があるから、戦い続けている。ここにいる者に限らず、兵士は大半がそうだ。
 特殊部隊員は常に「守るために攻める」戦いの最前線にいる。自分はそうなりたい。ダニエルの父親はNEST(核緊急支援隊)に居た。核の恐怖から国を守る重要な職務だ。一方で自分は銃を持って、戦おうと思った。父親と進む道は違えど、その方向性自体は似ていた。
 そう言うことを考えていると、いきなり顔面に冷水が飛んできた。

「言ってみろ、ダニエル。何を考えてる?」

 ダニエルは答えに窮した。冷水の勢いが強まった。





 8.

 自分の部屋の整理も、BUD/Sでは徹底される。少しでも靴が汚れていたり、部屋が乱れていれば容赦なく罰せられる。
 ダニエルと他数名は完璧だったが、その次の部屋で教官が激しく怒号を飛ばした。「ふざけるな! 糞野郎!」——3日目にして、このセリフを既に聞き飽きている。いやはや全く実に素晴らしい毎日だ! 普通に生活していればこんなセリフ、そうは聞かないだろう。しかしここは普通じゃない。
 教官はそうそう訓練生を殴りはしない。だが、厳しい罰を与える。何かある度に冷たい冬の海に身体を浸からせる。馬鹿みたいに重い丸太をそれぞれのチームで持ち、手を抜いている奴がいるチームには追加で更に長い時間、丸太を持たせる。
 この段階で、既に心の折れる者がいる。ダニエルは不思議だった。まだ序章だ、こんなことで諦めるなら、何故志願したのか? 彼は不幸か幸いか、精神が強靭だったので、リタイア組の気持ちが理解できなかった。
 とある場所に行ってヘルメットを置き、そこにあるベルを鳴らす。それがリタイアの合図だ。今日もまた、2人の訓練生がBUD/Sを去った。
 
 波の激しい海に、チームでボートを運用する訓練も行う。ダニエルのチームは実に優秀だった。メンバーに恵まれたこともあって、ダニエルは他の訓練生よりも幾分か楽をした部類に入るだろう。
 そしてまた、訓練で失敗をしたチームは罰を与えられる。優秀なチームは少しだけ休憩を与えられる。こうして順位を付け、競争意識を持たせる。チームの結束がより強くなるか、崩壊するか——もし壊れれば、SEALsの資格はない——それは訓練生しだいなのだ。
 ダニエルは諦めなかった。何せ、もうすぐ地獄の1週間が待っているのだから。彼と同期であるアンドレアス・ウォーベックその人も、この年のこのクラスにいた。
 彼らは、確かにそこで地獄を見ることになる。


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