ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

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朱色の戦場 —The Only Easy Day...—
日時: 2010/05/04 14:04
名前: JYU ◆j7ls9NGWQI (ID: w4zhaU6v)

立て直してみた。結構文章内容変えてます
例によって例のごとく軍事物ですが、出来るだけ分かりやすく、読みやすいようにしていこうと思いますのでご容赦願います
生半可な知識で書いてるんですけどね。いや、本当に
アドバイス等お願いいたします。分からないところがあったら気軽にどうぞ!
気軽に! フレンドリーに! ね!

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1.Hard Landing(1) ( No.2 )
日時: 2010/05/05 19:53
名前: JYU ◆j7ls9NGWQI (ID: Sc1bIduz)

 1.

 輸送ヘリの中で、ジェレミー・デイビス一等准尉は「In the navy」を口ずさんでいた。一昔前にヒットした曲だ。彼は無類のレトロミュージック好きだった。
 アメリカ海軍特殊部隊、Navy SEALsのチーム3(SEALs内における中東地域担当チーム)所属の彼ら8名に課せられた任務はごく単純かつ重要な物だ。彼らはこれから主な活動地域である中東に向かう。それはアメリカ一般家庭のとある家族が親戚を招いて開くパーティーのようなものである。それなりの頻度、それなりの刺激。しかし、慣れ切ってしまった彼らは、最早緊張すらしない。
 ただ、今回は若干事情が違った。中東、アフガニスタン。その国内に潜伏しているテロリストグループに動きがあったことを、現地に居たアメリカ軍第75レンジャー連隊と米海兵隊が掴んだ。何かしらの搬入作業を行っているらしい痕跡が発見された。もしそれが危険な爆発物であったり、細菌兵器や毒ガスの類ならば、すぐにそれらを押収しなければならない。もちろん血生臭いことになるのは確かだろうが、それが彼らの任務だ。
 とはいえ、彼らSEAL隊員8名の仕事はあくまで偵察であり、事実確認と周辺地域の細かな記録が目的である。派手なドンパチを起こす気は毛頭なかった。だがいざというときに弾丸の撃ち合いよりも神経を使うのが偵察である。当然好きになれるはずもない。
 現に、ジェレミーの隣の席に座っているジョシュア・ウェンライト二等軍曹は1人で毒づいている。その呟きに反応する物は、誰もいなかった。8人を2チームに分けて、4人で行動する。ジェレミーとジョシュアは一緒の班だ。班長はダニエル・オズバーン大尉。ジェレミーと親しいアイヴァン・アトウォーター曹長も彼と一緒の班、A(アルファ)1だ。
 「おい」ジョシュアが言った。「もう着いちまうのか?」ダニエルが口を閉ざしたまま外を見てみろと手で示した。風景を見て、ジョシュアはため息をついた。
 
「ジェレミー、見ろよ。カイバル峠だ」

 アイヴァンとジェレミーは本当に仲が良い。階級を飛び越え、彼らはお互いを名前で呼び合う。他にもそう言う者はいたし、元々SEALsと同じ特殊部隊である、アメリカ陸軍のデルタフォースなどでは階級を軽視することも多い。
 だから、ダニエルは一々そういったことに目くじらを立てるようなことはしなかった。ダニエル・オズバーンは部下からの評価が高い人物だ。大尉として相応の経験と度量があり、これまでに困難な救出作戦などにも従事している。
 そして当然だが、彼らはSEALsとして誇りを持って仕事に臨んでいる。地獄とも言える訓練——BUD/SというSEALs入隊訓練の一環などだ——を潜り抜けている。そういったことは人に自信をつける。自信があると、他のことに対して寛容になる。
 ダニエルもそうだった。実力からくる自信は他人への気遣いが出来る余裕を生んでくれる。
 もう1つの班、A2所属隊員であり、班長のアンドレアス・ウォーベック大尉に、アンソニー・ウェッジウッド二等准尉が何やら質問をしていた。

「着陸だ」

 機長が言った。
 着いていきなり偵察開始というわけではなく、市街地の外れに降下した後、近くの簡易基地に駐留しているアメリカ軍、つまり第75レンジャー連隊と一旦合流し、情報と装備の整理の後、任務を開始する。
 煙草の箱1つの高度をスレスレで飛ばすほどの技術を持った機長が、驚くほど静かに、そっと舗装もされてない地面へとヘリを降下させた。後部ハッチが開き、SEAL隊員達はアフガニスタンの大地を踏みしめた。もう何度目かになる者もいる。彼らは選りすぐられたプロフェッショナルであり、任務成功に絶大な自信を持っていた。
 着陸してすぐに、現地に駐留している第75レンジャー連隊の隊員が歩み寄ってきた。その中には中佐級の人物もいる。ジェイムズ・シュライフ中佐はダニエルと握手をし、一言「ようこそ」と言った。

「お会いできて光栄です、中佐」

「ああ。ここでは海軍も陸軍もない。特に今の状況では」

 近代になって、所謂「裏の世界」に出回る銃火器などが増加し、それに比例するかのようにテロリストや過激な民兵が増えている。それは確固たるデータにも表れていることだ。
 ここ、アフガニスタンだけでなく、イラクなどに駐留するアメリカ兵の戦死者も増えており、最早内部でいがみ合いをしているような余裕もない。ジェイムズは他の隊員と共に、テントへとSEAL隊員達を案内した。これは陸軍・海軍の共同戦線である。

「そう広くはないが」

「十分です」

 ダニエルは装備類の整理を始めた。まず銃だ。他の隊員達も揃ってテントの中で装備を広げた。
 メインアームに、まずSIG SG552-1アサルトライフル。銃床が折りたたみ式になっており、銃のサイズをある程度変えることが出来るため、遠距離の目標にはそのまま、室内における接近戦闘、つまりCQBの距離においては折りたたんでコンパクトにし、取り回しを良くすることが出来る。
 これは殆どの隊員が持ってきている。

1.Hard Landing(2) ( No.3 )
日時: 2010/05/04 17:20
名前: JYU ◆j7ls9NGWQI (ID: z.UTFamx)

 次にSOPMOD-1 M4A1カービン。堅実な性能を誇るM4カービンに様々なアクセサリー(分かりやすく言えば、レーザーサイトやグレネードランチャーなどだ)を装着することのできるM1913ピカティニー・レイルを4面に装着したRASを搭載した特殊部隊仕様のカービン銃である。
 加えて、分隊支援火器であるM240軽機関銃だ。莫大な装弾数を持ち、継続して火力を行使できる。

 偵察任務ということで、狙撃銃も各チームに1丁ずつ。SR-25と、シャイタックM200。特にシャイタックはほとんど異常とも言える性能で、この狙撃銃がどれほど凄まじい物であるか、熟練の特殊部隊員でもそれを一言で言い表すことはできない。

 ただ、分かりやすくこの銃の力を示すとしたら、2000m以上もの距離を狙撃可能かつ、弾丸はその距離ですら超音速を保ったまま、目標を撃ち貫く、ということが第一に挙げられるだろう。第二に、軽装甲のトラック程度なら、装甲・エンジンをまとめて一撃で撃ち抜くことすら可能という威力が挙げられる。
 付属品として、気象データトラッカー、目標の距離や方位を測定できるレーザーレンジファインダー、驚くことに、最も効果的であると推測される弾道のデータを計算し、射手へ提供出来る弾道計算ソフトウェアがある。これらを使えば、3500m級の狙撃すら可能だろう。
 しかも暗闇でも暗視スコープにより狙撃可能、赤外線式ではないので敵にもバレない。サプレッサー(発砲音と発射光を抑えるための筒状の物。銃口に取りつける)を付ければマズルフラッシュすらほとんどない。敵は全く気付かないうちに死んでいく。
 この銃がどれほど驚異的であるか、例え軍事知識の無い一般人であっても想像に難くないだろう。他愛のない会話を交わしている平凡な時間、周囲に誰もいないのに、突然自分と喋っていた人間の頭が砕け散り、その時既に照準は自分へと移っている。
 そして射手は、慌てふためく敵の命を容易く刈り取る。SR-25はセミオート式で速射が可能な上、精度も非常に良好。こちらも優れた狙撃銃だ。 

 屋内戦闘用にと持ってきたMP5SD6サブマシンガンもある。長く使われてきた傑作サブマシンガン、MP5にサイレンサーを付け、さらに改良を重ねたモデルだ。
 ただしこれはジェレミー、ダニエル、アンソニーしか持ってきていない。最近のアサルトライフルやカービンはサブマシンガンのように屋内戦闘にも活かせる仕様となっているため、必要ないと考えたのだろう。
 一応、規定の装備は満たしているので、それ以上の装備については度を過ぎない限り個人個人の自由だ。
 そして現地にも良い物が置いてあった。SG552と同じように状況に応じて対応が出来る傑作銃、SCARアサルトライフル。テントの中に入ってきたレンジャー隊員が得意げに「必要ですか?」と聞いてきた。ジェレミーは「考えておく」と答えた。

1.Hard Landing(3) ( No.4 )
日時: 2010/05/04 13:55
名前: JYU ◆j7ls9NGWQI (ID: w4zhaU6v)

 サイド・アーム(予備武器)としてベレッタM92拳銃のElite IAモデルやP226拳銃。ボディアーマーはIOTVを改良したもの。他にもフラッシュバン(閃光手榴弾)、M67破片手榴弾、暗視・サーマルスコープ……フル装備だ。もし戦闘になった場合に備えての用心だった。彼らがアーマーの上から着るミリタリー・ベストはライフルの弾倉を12個以上仕舞うことすらできる。
 1つの弾倉に30発と考えて、30×12=360発分の弾丸を1人が保持できるということだ。
 SCARアサルトライフルを持ったまま、レンジャー隊員であるスコット・バーグマン一等軍曹は愛想のいい笑顔を浮かべていた。

「名前は?」ジェレミーがスコットに尋ねた。「スコット・バーグマン一等軍曹であります、准尉」

 少し間を置いてから、スコットが切り出した。

「目標の1つはこの廃工場です。事前に構造を確認しておくといいでしょう」

 この国の西側にぽつんとある、それなりに大きい工場だ。周りには工場で働いていた人が寝泊まりしていたであろう宿舎があり、市街地も近い。車で20分ぐらいで着くだろう。
 寝床も隠れ場所も完備と来たものだ。まさにテロリストのための場所と言える。ジェレミーはジョシュアがまたため息をつくのを見た。入り組んだ工場ほど制圧しにくい場所はない。
 目標はこの1つだけではないということも、また彼らの頭を悩ませた。

「もう1つ……この地域ですね。テロリストはキャンプを転々と移動しながら活動しています。精確な位置は掴めませんでしたが」

 マジックで塗りつぶされている地図上の範囲は、少なく見積もって数百km。キャンプを張れそうもない山岳地帯などを無視すればかなり絞れるだろうが、それでも広い。数日ごとに補給を受けながら探していくしかないだろう。
 
「そこからは俺たちの仕事か」

「ええ」

 ダニエルはスコットに礼を言って、地図に自分なりの偵察ルートのプランを書いてから、「ジェイムズ中佐に渡してくれ」と言った。アンドレアスがそれを引きとめ、「俺たちのルートをまだ書きこんでいないぞ」と言い、スコットの手から地図を奪ってルートを書き、再度彼に渡した。
 去り際に、スコットはSEAL隊員達に射撃訓練を勧めた。簡単なターゲットぐらいなら置いてあるらしい。有難い申し出だと思い、ダニエルはそれを承諾した。目標の1つ、廃工場へはアンドレアスのチームと第75レンジャー連隊の一部チームが明日突入する。一方でダニエル達A1チームは、先んじてテロリストの移動キャンプを探す旅に出る。アンドレアス達のチームが合流するのは廃工場制圧が済んでからだ。
 
 実のところ、今作戦に際してタスクフォース(特定の任務のために特別編成された部隊)が動くこととなっている。その中には米陸軍最強特殊部隊デルタと、イギリス最強の特殊部隊、S.A.Sも組み込まれている。明日には、総勢30人ほどがこの地域に到着予定だ。
 SEAL隊員は強靭な肉体と恐るべき忍耐力、洞察力を兼ね備えている兵士ばかりだが、広大なアフガニスタンの中から、8人だけで隠れつつ移動する敵を探し当てることは困難である。今回の任務は迅速さが要求されるのだ。
 レンジャー連隊も一部を捜索部隊に割いているが、彼らはアメリカ海兵隊(主に特殊海兵連隊が動く)と共に市街地の保安、敵対勢力の鎮圧を行うのが主目的であり、それほどは人数を割けない。そこで少数精鋭の特殊部隊を使おうと言うわけだ。
 これからの大仕事に向けて、まずは射撃技能の保持に努めることにした。1日何もしないだけで、技能と体力はずいぶん衰えてしまう。

 彼らは射撃場に向かった。といっても、粗末な物だ。基地の幅を取ってしまうので、的は300m先に置くのが限界だった。
 ジェレミーは味の無くなったガムを噛みながら、M4カービン銃を撃った。もちろん実弾だ。
 甲高い音を立てて金属製の的に穴を開ける5.56mmの弾丸。これが彼らの世界で最も基本的な光景である。
 引き金を淡々と引いているように見えるが、その裏で弾丸を狙い通りに飛ばすための適切な撃ち方を実行しているのだ。
 A1チームの狙撃手を担当するのはアイヴァンだ。貴重なシャイタックM200を使い、的を穴ぼこだらけにしていく。ボルトアクション式ライフルであるこの銃は、素早い次弾装填には熟練が必要なのだが、彼は2秒とかからず弾丸の装填を完了させる。
 A2チーム狙撃手はエリック・ダウディ一等准尉。彼も凄腕であることはジェレミーの目からは明らかだった。SR-25の性能こそあれど、全て的のど真ん中を捉えている。
 全てが安定していた。コンディションには問題ない。
 ジェレミーは明日の任務のことを一旦忘れて、M4からSG552にライフルを持ち替えた。

 ————————
 
 A2チームのクリス・ストルージク曹長は任務に向けて早めに睡眠をとることを決めたアンドレアス達の指示に従い、寝床についた。
 専用の寝床を提供してもらえるような余裕もないので、周りにはレンジャー隊員や海兵隊の連中もいる。海兵隊員は御得意の「深夜の猥談」を繰り広げているところだった。おおよそ、未成年に聞かせるような内容ではないように思える。レンジャー隊員達はそれを聞いて忍び笑いを漏らす。彼らもまだ若者だ。
 SEAL隊員達は一方で落ち着いていた。寝付くまでの間、ちょくちょく「この作戦はどうだ」とか「どの辺に敵がいると思う?」だとか、そういった実直かつ対して実りのない会話を繰り返す。クリスは両方にうんざりしていた。静かに寝かせてくれと叫びたかったが、やめた。
 その内、海兵隊員の2人がレーザーサイトを持ちだした。可視光を使用したもので、暗視ゴーグルを使わなくても見える。寝転んだ姿勢のまま、レーザーを刃に見立てて、まるで「スター・ウォーズ」のライトセーバーを振り回すような動作で鍔迫り合いを演じて見せた。また笑い声が大きくなる。
 クリスはいつも自分が虚しい方向に物事を考えることを直そうとしていたが、そう簡単に性根は変わらない。今笑っている彼らも戦争となれば人を殺し、殺される存在であると、そう考えたくもないのに、考えてしまう。
 やがて自分にさえもうんざりしながら、彼は深い眠りに落ちた。任務は明日。不思議と、緊張はしなかった。  

2.Bleaching!(1) ( No.5 )
日時: 2010/05/14 21:06
名前: JYU ◆j7ls9NGWQI (ID: Vl6H7UjX)

 2.

 アンドレアス達A2班は、第75レンジャー連隊員10名と共にCH-47輸送ヘリコプターに乗り込み、目標の5km南に着陸してから目標までの行軍を開始した。
 彼らはここから工場まで数十キロの装備を背負って徒歩で向かわなければならなかった。ヘリで行けば接近がバレてしまうので、制圧が困難になる。
 レンジャー達は隠密任務に関してはSEAL隊員達に劣る。なので、彼らは工場を外から包囲して、万が一の時の備えとして待機することになる。
 そのために狙撃手が3名、レンジャー隊員の中に居た。今回狙撃は彼らに任せるので、本来は狙撃銃を握るはずのエリック・ダウディはSG552アサルトライフルを握っている。
 クリス・ストルージクはSG552を腰に提げたまま歩いていた。目標まで1kmということで、彼らは警戒を強めている。敵の観測手がこちらを見張っている可能性もあるからだ。クリスはアンソニー・ウェッジウッドが石に躓きそうになるのを見たが、特に笑わなかった。他の者は気づかなかった。
 周り一面は荒野だが、遠くを見渡せば街が見える。小奇麗な石造りの建物が目についた。
 クリスが丘を超えると、工場が既に見えていた。だが、その工場の手前に宿舎がある。それをまず制圧するべきだろうと思った。
 
 アンドレアスが言った。「狙撃手を1名ここに残せ」レンジャー隊員の1人が「Hooah」と、アメリカ軍独特のスラングで答えた。
 その隊員がその場に狙撃銃と観測用器具を広げ始め、他の者は移動を開始した。本来は観測手が狙撃手と同伴だが、今回はいない。
 
 アンドレアスは工場の宿舎の500mほど手前で、宿舎を包囲するように狙撃手を配置した。
 突入要員はSEAL隊員4名。こちらの存在がバレたと同時にレンジャー隊員も突入し、内部を制圧する。気づかれないのが一番だが、サプレッサーを付けた銃器でも、それなりの音を立てる。まず無理と言っていい。ナイフや格闘で殺すなら別だが、一瞬でやる必要がある。
 玄関にSEAL隊員が張り付く。左側にアンドレアスとアンソニー、右にクリスとエリック。木製の古いドアの隙間にファイバースコープカメラを突っ込む。

「クリア。突入」

 カメラを抜き、アンドレアスが逆手で静かにドアを開ける。まずクリスが突入した。既にSG552アサルトライフルは折りたたんでコンパクトにしてある。次々に流れるような動作で侵入する。
 奥へ進むと、右手に食堂が見えた。声が聞こえる。ドアはないため、姿を見られないように食堂の入口で立ち止まった。カメラを地面に這わせ、敵の数を確認。4名。談笑している。
 一種の緊張が走った。殺害せずに先に進むことはできない。
 喋るわけにはいかなかった。ハンドサインで食堂内に敵が4名いること、それらを音もなく殺すことをアンドレアスはクリス達に命じた。クリスはライフルを握る手に力を込める。辛く長い、地獄のような訓練を潜り抜けてここまできた彼らには、苦労して得た戦闘法と、生き延びるための肉体が備わっている。
 教官に冷水をぶっかけられながら死に物狂いで走り回ったあの日々は、この瞬間のためにあるのだ。アンドレアスが再びハンドサインでカウントダウンを始める。スリー・カウント。
 3,2,1——

「始末しろ」

 食堂の机を盾に出来るように突入する。アンドレアスが一瞬の内に敵の1人の頭を吹き飛ばした。続いて突入するクリスは敵の胸に2発、頭に1発の模範的な射殺方法を実行。応射しようとしてきた敵を黙らせるかのように、エリック、アンソニーが続けざまに弾丸を叩きこんだ。
 敵には一言も喋らせていない。完璧だった。クリスは特殊部隊員用ヘルメットを被った頭から流れる汗を拭った。後始末もしておかなくてはならない。倒れ込んだ敵の死体の頭に2発ずつ撃ちこむ。死んだふりをさせないためだ。確実に無力化しなければならない。
 彼らは弾倉を変えた。外した弾倉の中にもまだ弾丸は余っているので、そのままポケットに入れる。タクティカルリロード。これによって、弾薬の無駄をなくし、かつ常にベストの装弾数で敵に対応できる。
 
「食堂制圧。テロリスト4名を射殺」

「移動しろ」

「了解、移動」

 右に階段がある。左側の部屋は事務室かもしれない。再びカメラで調べる。人はいない。階段を登る。2階は寝室がズラッと並んでいるはずだ。最も注意すべき場所である。
 銃声に気付かれている事も考えられるので、慎重に進む。口径の小さいサブマシンガンであるMP5の消音能力は優秀だが、ライフルであるSIGなどは、2階にいる敵に銃声が届いてもおかしくないはずだ。

「1階A階段確保、移動」

 クリスが先頭になり、階段の安全を確保する。

「了解」

 アンソニーが言った。

「ライトクリア」

「レフト、クリア」

 クリスとアンソニーの報告を受け、アンドレアスが言った。

「オールクリア。左から攻めろ」

 狙撃手から通信が入った。「工場で動きあり」。早急に済ませる必要がある。アンドレアスが全てのドアをカメラで調べていく。すぐに攻撃はしない。さっきは下の階だったからサプレッサー付きの銃声はテロリストの耳に届かなかったようだが——もしくは聞こえていて、中で警戒しているのか——。ここでは聞こえる。一発の発砲で全ての秩序が瓦解した壮絶な撃ち合いになるかもしれない。
 クリスがレンジャー隊員に無線で「1階、直進したところにある階段で待機」と命じた。しばらくして、下で物音がした。レンジャー隊員が侵入したのだろう。クリスが1階を覗くと、まだ20歳ぐらいの若い兵士が彼にウインクして見せた。
 アンドレアスは敵のいる部屋と人数を示した。初撃で出来るだけ多くの敵を仕留めたい。どうせバレるのなら、とばかりに彼はチャージを使用したドアブリーチを隊員に命じた。専用の爆薬を用いてドアなどを爆破し、中に居る敵に衝撃と爆風を与えながら強行突入する方法だ。狭い宿舎の部屋なら、爆発で数人、もしくは全員を巻き込める。
 敵のいる部屋全てのドアにチャージを仕掛ける。レンジャー隊員を階段のところまで進ませた。

2.Bleaching!(2) ( No.6 )
日時: 2010/05/04 14:01
名前: JYU ◆j7ls9NGWQI (ID: w4zhaU6v)

「チャージ爆破」

「了解」

 次の瞬間、耳朶を打つような爆音が宿舎に響いた。敵のうめき声が混じっている。

「行け、行け、行け!」

 素早く動いて、仕留められる限りの敵を仕留める。レンジャー隊員もSEAL4人だけではカバーできない分の部屋に弾丸をばら撒いた。
 派手な銃撃戦を演じる義理はない。一方的な蹂躙、一方的な殺戮。特殊部隊の鉄則だ。結局敵は弾丸1つ撃たずに全滅した。当初危惧されていた撃ち合いは全くない。

「宿舎制圧!」

 アンドレアスが言った。

「了解、宿舎制圧!」

 クリスが答える。これでこちらは問題ないだろう。ここを先に制圧したのは、狙撃手を活かすためだ。宿舎は工場への絶好の狙撃ポイントとなる。3人の内1人の狙撃手を呼び寄せ、窓から工場を狙うようにアンドレアスは言った。これで1人が高い丘の上から、1人が宿舎の窓、1人が工場敷地内にあるキャットウォークの上から、という布陣が出来上がる。
 そしてレンジャー隊員の包囲網とSEAL隊員の突入だ。正規の訓練を受けたわけではないテロリストと彼らでは錬度が根本から違う。
 まず、彼らは外へ出た。レンジャー8名とSEALs4名の特殊編成。工場に向かうと、すぐにその全貌が見えてくる。複雑に絡み合うキャットウォーク、視界を覆い隠すタンクの数々、まさに根城という表現がふさわしい。
 
「ヴィクター2、撃てるか? 12時、下方だ」

 アンドレアスは敵を発見し、それを狙撃手、コールサイン・ヴィクター2に伝えた。

「ヴィクター2、了解。捉えた」

 レンジャー隊狙撃手の1人が答えた。不敵にそう答え、にやりと笑うと弾道の計算を始める。適切と思われる照準を行い、後は引き金を引く。サプレッサーを装着したSR-25スナイパーライフルが小さく吠えた。頭蓋の砕ける音が響く。目の前でこちらの侵攻を阻んでいた見張りの1人が今、この世から消え去った。
 
「良い腕だ、ヴィクター2」

「光栄です」

「よし、行こう」

 大人数でいると人目につきやすい。この場に居るテロリストは数十名と考えて良いだろう。つまり、ここは本命というわけではない。ただ、何かしらの手掛かりは得られるかもしれない。今は少しでも何かが欲しい。
 まずは有利な射撃位置を確保する。外部のキャットウォークを渡って内部へ侵入すれば2階の位置から撃てるため、敵の状態を把握しやすくなる。一方で正面突入し、確実な制圧を行う部隊も必要だ。
 正面突入を行う部隊には、SEALのアンソニーと、SCARアサルトライフルを装備した1人、室内戦用にSPAS15ショットガンを持つ1人、M240軽機関銃を持った分隊支援火器の運用隊員が1人、計3名のレンジャー。
 キルゾーンを形成し、十字砲火を浴びせるために右翼からもSCARで武装したレンジャー3人を突入させる。その他のSEAL隊員はキャットウォークを渡って2階から侵入する。クリスは「コーナーショット」にサプレッサー付きのアサルトピストルを装着した。
 コーナーショット。角から銃だけを突きだし、カメラで敵を確認。銃を取り付けた先端部だけを敵に向かって曲げ、身を曝さずに先制攻撃を仕掛けることの出来る特殊部隊仕様の装備だ。クリスがこれを実戦で使うのは初めてだった。
 「そいつを使うのか?」エリックがクリスにそう言った。「ああ」と短く答えて、クリスはキャットウォークをそっと上がって行った。基本的に彼はポイントマンを務める。隊長であるアンドレアスは後方だ。指揮をする者が一番先に倒れると、戦闘は一気に不利になる。
 レンジャー3人は工場右側の非常口に張り付いた。「配置完了」、その通信が入ると同時に、アンソニーもポジションについていた。中東を吹き廻る砂混じりの風が頬を撫でる。彼らにとって、それは一種の戦友に等しい。

「3班、行け」

 クリス達のチームがキャットウォーク上を移動する。こんなところで時間を食っては居られない。片づけて、すぐに本命の捜索任務に移行したいとクリスは思っていた。
 2階から内部へと続く入り口に張り付く。コーナーショットのカメラをちらりと覗かせ、内部を見た。ざっと16名。
 やれないことはない。「楽勝」だ。今被っている、ABS樹脂で出来たシールズ隊員用軽量ヘルメットを頭にぐっと押し付けるように被りなおす。それは彼のおまじないのような物で、それをすると幾分落ち着いた。
 射点に着いた。引き金はいつでも引ける。撃てば、戦闘だ。血沸き肉躍る、元来そう言う物だ。せめてこの時ぐらい、人間としての本性を現し、全てを剥き出しにして暴れ回るがいい。そう、戦闘とはそういう物なのだ。
 彼らは合図し合い、射撃のタイミングを合わせる。呼吸音、心臓の鼓動が明確に耳の中を駆け巡る。数秒後には、耳の中を流れるそれが銃声に変わる。
 
「全兵装使用許可、やれ」

 クリスは指に力を込めた。それは敵への宣戦布告に等しい。そしてそうした以上、ただでは済まないはずだった。
 誰か一人ぐらいは捕虜に取っても良いかもしれないが、余裕がなければ全滅させる。
 やってしまえ。
 彼は覚悟を決めて、初弾を放った。それは、彼が実戦で放った何百発目かの弾丸だった。


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