ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

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偽りの中の輪舞曲 
日時: 2011/05/22 01:16
名前: 遮犬 (ID: KnqGOOT/)
参照: http://www.youtube.com/watch?v=L0gYBduknLI&feature=player_embedded

クリックありがとうございまするw遮犬ですw
またお前かとか言わないで、どうかw

毎回完結出さずに何ボンボン作品出してやがるという感じで申し訳ございません;
どんどん物語書いていきますぜw連続投稿とかしちゃいますぜw出来る限り、ですがw
それと、グロ描写もありますのでお気をつけて><;無理な方は読まれないほうがよろしいかと…。

なので普通にコンビニにある雑誌のように適当に手で取って読んでみてくださいという感じで作りました!
もち、他作品の方にも力を入れますので!応援宜しくお願いいたします!


〜立ち読みお客様一同〜
Nekopanchiさん
狂音さんこと夜坂さん
樹梨さん
月兎さん
紅蓮の流星さん
夜兎さん


イメージソング「ワールドエンド・ダンスホール」(参照にて)

〜目次〜
プロローグ…>>1
第1話:存在してはならない人種
♯1…>>11 ♯2…>>12 ♯3…>>13 ♯4…>>14 
第2話:望む日常、怪しき依頼 
♯1…>>15 ♯2…>>16 ♯3…>>20 ♯4…>>24
第3話:神の子、罪の子、禍神の子
♯1…>>25 ♯2…>>26 ♯3…>>27 ♯4…>>28
第4話:不完全な神、禍々しき神
♯1…>>29 ♯2…>>30 ♯3…>>33

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Re: 偽りの中の輪舞曲 ( No.24 )
日時: 2010/11/17 17:08
名前: 遮犬 (ID: pD1ETejM)

「どういうことですか!?」

冬音が真っ先に流都へと問う。
その問いはもちろん、流都のこの街の人間が全て実験体となる、という言葉にだった。

「説明は後でする! ごめんけど、早く準備をしてくれ!」

流都の言葉に間違いはないと思った冬音と夏喜は急いでその言葉に頷きで返し、用意をし始める。
流都もノートパソコン、銃に、無線など、様々なものを出来るだけカバンに詰め込んだ。




三人が持ち前の(クローンの奴から盗んだ)車で移動最中、先ほどの説明を流都は離し始めた。
運転しているのは運動能力・戦闘能力と、ともに高い冬音が運転していた。ただし不安げな顔で。

「この街に遺伝子をバラまくんだ」

そう、指をさしたのは現在向かっている街である新実にいみ市であった。

「わかってるけど……それがどうかしたの?」

夏喜が訝しげに流都の顔を見ながら聞く。
流都はゆっくりと頷いて言葉で返した。

「それが問題なんだ。この街にバラまくのが」

夏喜が「どうして?」と、聞く前に流都は続きを話しだす。

「いいかい? ここには、病院と刑務所が二つ並んで建っているんだ」

言いながら流都はマーカーで地図に印をつけ始めた。

「そして……ここ」

次にマーカーで印を入れたのは、街はずれだが病院近くの第3研究所というところだった。

「ここはもう、活動してはいないと聞くけど違うね」

「どうしてそういいきれるの?」

夏喜の返しは正論であった。
だが流都の確信は揺らがない。

「この研究所、調べたところによると生態などを調べている研究所みたいなんだ。

生態の研究所って、ウイルスとかも円満しやすいから本当ならもっと外部に置くべき」

ここまで流都がいうと夏喜は驚いた顔をしてその続きを言う。

「じゃあ……こんなに近いっていうことは、病院と研究所は繋がってる?」

「そういうことになるな」

だんだんと研究所が見えてくる。自分たちの目的は、無論研究所だった。
時刻は既に夕方の時期まできており、辺りは薄暗くなっていた。
そんな中に一つはずれに建つ研究所はかなり不気味に思えた。

「恐らく、遺伝子をバラまいて、研究所にその人間たちが行く。

実験として使える奴は研究所。使えない奴は刑務所という風に割り振ってるんだろうな」

聞くだけでヘドの出る話だった。
つまりはこの街で遺伝子をバラまかれては、大量の新たな"何か"が科学者から生まれる。
またそれが生まれたことで世界は凶変する。
そんな悪循環の始まりともいえた。

「殺人遺伝子何かじゃなく、これはれっきとした科学者の実験なんだ」

流都がそう言い放った後に、車が止まる。

「ついたよ?」

冬音が小さな声で流都と夏喜を促した。
そして二人は降りようとした時

「待って!」

いきなりの冬音からの静止命令に二人は動きを止める。

「どうしたの? 冬音姉さん」

冬音はさっきまでとは異なり、妙に真剣な顔をして目の前を凝視する。
その目の先にはあの不気味な研究所が建っている。
エンジンをもう一度かけ直し、冬音の目は黒から黄色へと変わっていた。
目の色が変わる、これは能力を発動している状態をさしていた。

つまりは、この近くに何かがいるということを知り、それが敵とみなしたために色が変わったのだ。
流都と夏喜はこのことを知っていたために、息を呑み、この場は冬音に任せることにした。

「二人共、捕まってて」

冷血なようにも捉えられる言い方はまるで別人のようだった。

冬音はハンドルを握り、アクセルを思い切りよく踏んだ。
勢いよく加速していく中、流都と夏喜はどこかにしがみついて何とか耐えていた。

「……囲まれてる」

冬音がボソリと告げた。
流都は窓の外を見る。すると先ほどの黒服の男らしきものが自分たちを取り囲んでいた。

「これはこれは……」

流都は呟きながら、銃を引き抜いた。
夏喜もそれに合わせて黒い手袋をはめる。

「暴れても……いい?」

冬音は流都の顔を見て言った。
それに流都は微笑み返し、さらには悪戯っぽい感じで言った。


「うん。暴れて、舞って、派手にここをぶっ潰そうか。冬音姉さん、夏喜」

「はい」「うん!」

二人の声が同時に重なる。そして冬音はアクセルをもう一度大きく踏み、黒服の波の中を突撃していく。

黒服たちはまるで生きていないかのように流都たちの車に撥ね飛ばされる。
まるで、命がないかのように。

「やっぱりこいつら……クローンか」

流都がため息混じりに呟く。

「掴まってて」

冬音はそう一言告げると、いきなりハンドルを曲げ、アクセルを飛ばす。
見事にスリップしたかのように無常な回転となる。
回転したまま、黒服の波を押し分ける。

そうしている内に、研究所の前にまで着く。

「はぁ……吐きそうだったよ……」

流都は苦しみながらも研究所を見て静かに笑う。


「ビンゴってわけだ」


流都の後に冬音、夏喜も続いて車から降り、研究所に入る。


その中に、何が待ち受けているかも知らずに。

Re: 偽りの中の輪舞曲 ( No.25 )
日時: 2010/11/20 16:37
名前: 遮犬 ◆ZdfFLHq5Yk (ID: pD1ETejM)

研究所内には難なく入れた。
明かりもまばらだが、ついている。
ということはこの研究所は機能はしているという確証だった。

建物内は明かりこそついているが、消えかけのような状態なので薄暗い。
入り口からすぐ傍にカウンターがある。
どうやらそこは元受付場だったようだ。
受付場の奥のほうにはロビーがあった。何台も椅子やら机が置かれている。
受付で仕事をしていた者達が使っていたものだろう。
壁は既にひび割れがひどく、ものすごく煙や砂の匂いがして何だか荒野にいるような気分である。
ここはもう使える状態ではないと分かりに分かる元受付場の姿だった。

「先が二つに分かれてるな……」

明かりがまばらにつく通路側を見ると扉が二つあった。
明かりが少しでもついていないところは瓦礫のようなもので塞がれており、いけないようになっている。
つまりはこの内の二つの中のどちらかを選んで行かなくてはならない。

「ちょっと待ってて」

流都はおもむろにノートパソコンを取り出す。
だが、案の定圏外のようでインターネットは使えなかった。

「ま、そうだろうな……」

流都はそう呟くと、ここに来る前に調べておいたここの元々の地図を頭に残していたのを思い出す。
これも神の頭脳といわれる遺伝子を持つおかげか、記憶を鮮明に覚えておくことが出来る。
その能力を使って地図の情景を浮かびあげる。その知識が正しければ……

「こっちだ」

右の扉を指でさし示した。
流都の言葉を頷きで返し、冬音は右側の扉を思い切り
——持っていた大太刀で切り裂いた。

いとも簡単に扉は真っ二つになる。
これはもし敵が待ち構えていたらを予測しての行為であった。
無事、異常はないことを確認すると流都たちはそのまま右側の扉の中へ入り、まばらに続く乏しい明かりがついた薄暗い通路を走っていった。




「カッカッカッカッ……! 予想通りじゃわいっ!」

不気味な笑い声と共に、目の前の流都たちが写っているモニターをまじまじと見る老人。
その老人は先ほど流都たちの元に依頼しにきたあの老人であった。
横には、黒いサングラスのせいで表情がわからない先ほどの黒服の黒人男もいた。

「デルメス! こやつ等がこの付近まで来るのもそう遅くはなかろうて。準備しておけ!」

黒服の男にそう告げた老人。
デルメスと呼ばれた黒服の男は黙ってその場を立ち去っていった。

「カカカ……お前達はもう、ワシのモノ同然じゃ……!」

一人、薄暗いモニターだらけの部屋で不気味な笑い声で老人は笑っていた。




一方、その頃。
とある一つの喫茶店にて、少年はいた。
右肩には肩当てをしており、黒髪の少年は目の前に置かれたコーヒーを飲む。
周りは少々賑やかで、人が席の4割は占めていた。
カウンター席で一人寂しくコーヒーを飲む少年。
騒々しい周りの人の声に混ざるテレビのニュース。

『——昨夜、研究所がまた一つ破壊されるというテロに遭いました』

そのニュースを見ている店のマスターは「ふむぅ……」と、言いながら誰に言うわけでもなく

「世の中物騒なもんだねぇ……全く」

他人事のような物言いをしつつ、コップを磨く仕事に戻る。
黒髪の少年はそのマスターの言葉に惹かれてか、ニュースを見る。

『——こういった研究所破壊テロの捜査は行われ続けていますが、現在は何も証拠がでず——』

そして、少年はふっと笑った。

コーヒーがまだカップに半分ほどまで入っているというのに立ち上がり、金をおもむろに取り出す。

「ちょ、ちょっと、お客さん。これじゃ多すぎだよ」

どうみてもその額は多く、コーヒーを追加で10杯は飲めるほどの料金だった。
だが、無言で少年は店から出て行く。
気持ちいいほどの青空と日の光に当たりながら、呟く。

「今日もまた一つ、この世の条理に飲み込まれる。
  
     それはまた、今日もゆっくりと、飲み込まれる」

右目が赤、左目が青の特殊な目を持つ者。それは禍神まがかみと呼ばれる者を総称してそう言う。
ただ、その禍神は全くおらず、その目を持つ者は"最凶"と呼ばれるほどの者らしい。


『今朝の研究所テロはなんと、禍神の少年ということが判明いたしました!』


先ほどのニュースからその報告が驚きの言葉と共に発せられる。
それにマスターは驚いて拭いていたグラスを落とした。当然、割れて粉々になった。
だが、そんなことも気にせず、ただ先ほど出て行った不可思議な少年が通った道を見つめた。


「さ、さっきの……!!」


この少年の目は右目が赤、左目が青。つまりは、禍神だったのだ。


「さて、次のターゲットはどこかな……?」

少年は、笑いながらそう呟いた。

Re: 偽りの中の輪舞曲 ( No.26 )
日時: 2010/11/21 01:51
名前: 遮犬 ◆ZdfFLHq5Yk (ID: pD1ETejM)

少年の目は生まれつきだった。
生まれた当初、不気味な子だといって捨てられた。
孤児として孤児院に拾われた。それは優しき一人のシスターのおかげだった。
そのシスターは年老いており、高齢だったが現役で活動し、悩める孤児たちのために孤児院を開いていた。
少年は道端に捨てられていた。まだ幼い3歳ほどのことだった。
シスターは笑顔で近づき、目を見ても何も言わず、ただ孤児院へと連れ帰った。

だが、孤児院で待っていたのは少年の過酷な運命だった。
禍神ということで拾ってくれたシスター以外は皆反感を持っていた。
拾ってくれたシスターが一番その中では権限を持っていたので、誰もはむかうことが出来なかった。
そのかわりに嫌がらせを少年に嫌というほどしたのだった。
それを見て周りの孤児も真似し始め、行う。
そのたびにシスターが怒ってくれたのだが、とうとうそれも敵わなくなる。

シスターが死んだのである。高齢だということもあり、やむをえないだろう。
去り際に少年はいた。そしてシスターは少年にある言葉を残したのだ。

「自分が……誇れるような生き方をしなさい。なりたいものになりなさい。人を愛せる人になりなさい。
それが、人間っていうものだから。神様は必ず、傍で——」

意味深な言葉と共に、シスターは少年をおいてこの世を去った。
悲しんだのは、自分を含め他にこのシスターを拾ってもらった子だけ。
他同業者のシスターは皆、悲しむどころか笑っていた。

シスターが死んでから3年後、少年は9歳にまでなっていた。
知能はものすごい才能を秘めており、常人のレベルではない頭脳を持っていた。
シスターが亡くなった事で周りの者からの嫌がらせもエスカレートしていた。
だが、少年は耐えた。シスターの最後の言葉の意味を考えながら。
シスターの言葉の意味がいまいち理解できなかったのである。
どれだけ頭をこらしても勉強とはまるでわけが違った。
そしてそのまま月日が流れる。少年の生甲斐は既にそのシスターの言葉の意味を探るだけとなった。
少年は13歳になり、様々なことを身につけたある日のこと。
シスターたちはあることを計画する。
それは、禍神の子を殺すことであった。
神に仕える子が、禍々しい神に刃向かう者を総称する禍神を育てていては神へ対する侮辱だと。

そして、ついに計画が実行される時がきた。
少年が寝ている間に、殺そうというものである。
つまりは寝込みを襲うのだった。シスターは計10名ほどいた。
それぞれにナイフやら物騒なものを持ち、他の子供にばれないように。

「ふふ……禍神の子なんて、死ねばいいのよ……!!」

一人のシスターが喉下を突き刺そうとした瞬間。


「誰?」


ピタリと、ナイフを止める。
いや、止めなければいけないような気がした。止めなければ、自分の首が逆にはねていたような気がした。
ゆっくりと少年は目を開けた。
暗闇に映る、赤と青の目。

「ひっ……!」

恐ろしく、不気味に見えた。
そんな禍々しい目でシスターを見つめながら、少年は笑う。
鳥肌がたつ瞬間が分かる。寒気すらも感じる。
状況は少年が殺されかけているというのに、少年は笑っていた。
そして、こう言い放つ。

「ダメだよ……。夜は、静かにしとかなきゃ……」

少年はゆっくりと立ち上がる。
シスターたちは身動きがとれなかった。逃げたくても、逃げれなかった。
そして、一番最初に少年を殺そうとしていたシスターに異変が起きる。

「うぐっ……!」

肉が裂ける音。皮膚を貫く音が部屋中をうごめいた。
少年の手刀がシスターの腹に突き刺さっていたのである。

「ごめんね……? 許してくれるでしょ? だってさ……」

少年は、さらに不気味な笑顔を浮かべる。
シスターたちは逃げたくてたまらなかった。だが、足が竦み、逃げれない。
今更ながらシスターたちはこんなことするのではなかったと、心から後悔した。

ゆっくりと手を貫いた腹から抜く。
そして、少年は不気味に言う。


「アンタたちも、それぐらい僕にひどいことをしたんだから」




少年の部屋は血まみれだった。
白い綺麗な壁が全て血によって真っ赤に染められていた。
周りにはいくつものシスターの死体。
その真ん中に、少年は立っていた。そして、あることを思いつく。
——まだ自分にひどいことをした同年代がいるじゃないか

少年は殺しまわった。静かな夜を徘徊する殺人鬼と化していた。
——もういっそ、みんな殺そう。あ、でもシスターの死んだ時に一緒に悲しんだ子は助けてやろう。

手と服を真っ赤に染め上げて、その子たちの元へと行く。
だが、格好が格好だったためか、その子たちはみんな泣き叫んだ。

「叫ばないでよ……。生かしてあげるっていってるんだからさ」

けれどもその子たちは泣く。
そして少年は、笑う。

「仕方ないなぁ……じゃあ、死のっか」




全員殺した後に、その屋敷を燃やした。
これでいいんだ、そう思った。そうしなければ自分がいずれかは死んでいたから。
こんな場所、あのシスターがいなければ何もない。

「どうやら僕にはすごい力があるみたいだ……」

少年は、自分の真っ赤に染められた姿を見て、微笑み、そして笑い声をあげる。
だが、一つ自分には思うものがある。
それは、あの老人シスターの最後の言葉。
あの意味がまだ分からない。
不愉快だった。そのことを思い出して笑い声をやめる。
そして、あることに意外なことに答えが出る。

「そうだ……答えが分からないなら、世界の真実を見ればいいんじゃないか。
世界の真実にあるもの、それがきっと答えなんだ」

少年はそして決意する。
真っ赤に燃える館を後ろ背に。


「僕は、ノア……。禍神のノアだ……」

月光に光る少年の姿は、美しさもあるがそれだけではなかった。
最凶とうたわれるに違いない一つの存在としてそこにいるように
真っ赤に、真っ赤に、少年の姿を彩っていた。

Re: 偽りの中の輪舞曲 ( No.27 )
日時: 2010/12/27 17:30
名前: 遮犬 ◆ZdfFLHq5Yk (ID: S19LK/VD)

「また二手か……」

薄暗い通路を幾多の如く走り去った後、またしても二手にと道は分かれていた。
この二手の道が訪れるたびに自分の力を使わなければならないのかと思うと流都は思わずため息を漏らす。

「大丈夫? 流都」

冬音が心配そうに流都の様子を伺う。

「あぁ、大丈夫だよ姉さん」

冬音を安心させるかのように穏やかな口調で告げた後、静かに神経を集中させ、力を発動した。
鮮明に脳裏へと地図の情景が浮かび上がる。
そこで自分達のいる場所を把握、奥へと繋がる道は左の方の扉のようだが——

「ん……?」

「どうかしたの?」

夏喜が首を傾げて目を閉じて集中している流都へと話しかける。

「いや……左で間違いないみたいなんだけど、右に不自然な通路がある」

不自然な通路。それは地図上で行き止まりのはずの右通路途中にある違和感が感じられる空間のことだった。
何故このようなところに空間を空ける必要があったのか? 

「……これは、怪しいな」

考えられた答えが見つかったように笑みを浮かべると流都は目を開けた。

「僕は右側通路に行く。二人は左側通路に行ってくれないか?」

その流都の言葉に動揺する二人。

「一番戦闘において危険なのは流都お兄ちゃんじゃない!」

夏喜の言葉は分かる。だがしかし、ここは"自分の頭脳"でしかいけないと流都は確信していたのだ。

「頼む。俺は大丈夫だから。確かめたいこともあるんだ、必ず戻る」

その流都の目は迷い無き目であった。
姉と妹はこの流都という少年のこの目が苦手だった。
この目は、決意の目。その心を曲げることは流都のプライドというものに関わるものでもあったからだった。

「……分かったけど、本当に戻ってきてね? 流都」

冬音が心配そうに言う。
その言葉に流都は優しい笑みを浮かべて「大丈夫だよ」と答えた。

「なら行こう、冬音お姉ちゃん」

「うん……」

冬音はまだ心配そうな顔をしていたが、夏喜に促されると共に左側の通路へと走り去って行った。

二人が完全に姿が見えなくなることを確認すると、流都はおもむろに銃を取り出し——天井に向けて撃った。
いや、正確に言えば天井ではない。天井の上にある"小型カメラ"にだった。

「悪趣味だよね……。人を観察して、いい気になってるネズミ共」

取り出した小型めの銃を元の場所へと仕舞い、代わりに後ろ腰につけてあった大きめの銃を構える。

「今からがゲームスタート、だな」

不気味に笑った流都は右側の扉を銃を何発か発射してこじ開けると、薄明かりの通路を通っていった。




「あの小僧ッ! ワシの策に気付きおったか!?」

薄暗い明かりで照らされるモニターだらけの部屋で老人は一人喚いていた。
息を荒くして、しばし沈黙が経つと深呼吸して再び椅子に座りなおした。

「まあ良い……こちらには最凶のクローンともいわれたデルメスがおる……」

そうして、ワイングラスへと赤い血のようなワインを酌む。
一口、ワイングラスに口をつけて飲む。

「ふふ……今宵は面白いことになりそうだ——」

その時だった。
何かが、後ろにいる気配を感じた。
恐ろしい殺気を、巨大な殺気を後ろの方で感じ取ったのだ。

「な、何者だっ!」

後ろをすぐさま振り返る。だが、そこには誰もいない。
薄暗い部屋を照らす薄暗い電球が点滅し始める。

「誰かいるのかっ!?」

老人がいくら叫んでも声は薄暗い部屋に響くばかり。
モニターだらけの部屋は何の音も無く、無音であった。

「い、一体なんだというのだ……!」

そうして、モニターの方へと再び振り返ろうとした時だった。


「——最後の祝杯は飲み終えたか?」


「——な」

何を言う暇もなく、老人の頭はモニター目掛けて跳ね飛んでいた。
鮮血が薄暗い部屋を彩る。
老人が最期に見た顔。

それは目がお互い異なる——禍神たる少年の狂気に満ちた笑みだった。

「お、ま、え、は——!」

跳ね飛んだ老人の頭は一つずつ言葉を喋り出す。

「禍神の——! ノ、アああああッ!!」

「ゴチャゴチャと、うるさいんだよ……」

ノアは老人の顔をものすごい勢いで踏み潰す。
それを続けている内に老人は声を出すおろか、既に頭という原型すらもとどめてはいなかった。

「さぁてと……ドブネズミは、まだいるだろう? なあ——神の子たちよ」

ノアはモニターに映っている三兄弟を見て、笑みを零した。

Re: 偽りの中の輪舞曲 とんでもなく久しぶりですねw ( No.28 )
日時: 2011/01/04 23:37
名前: 遮犬 ◆ZdfFLHq5Yk (ID: zWHuaqmK)

ひたすら小刻みにリズムを刻みながら水音が跳ねる。
薄暗く、目の前があまり見えない不安定な状態の中を冬音と夏喜は走っていた。
——流都に何もありませんように。そう願いながら。

「ッ! 待って、夏喜」

冬音がいきなり静止の合図を送る。そして近くにある古ぼけた柱へと手招きしてきた。
それに頷いて従い、夏喜は冬音の隠れる柱へとあまり音を立てずに移動する。
ボンヤリとした薄暗さの中、冬音の目が光る。
その色は黒猫のような黄色を放っていた。
目の色の変化は中の遺伝子が突然変異を起こし、その副作用として起こる一環のものである。
冬音、流都、夏喜の三人は神の遺伝子を持っているとされ、その遺伝子の副作用は他と非ではない。
元々が一つの固体たる神であったがうえに三つに分類された状態では副作用の方が強い。
完全な神ではなく、これでは不完全な神が三人いるということになるのである。

その中でも冬音は戦闘能力に対する副作用が強く、それにより戦闘に関連するあらゆるものの遺伝子を急激に倍増することができる。
この能力は戦闘能力だけではなく、人の気配を感知する能力などにも長けている。
今現在、冬音が指摘しているのはまさにそれであり、気配がだんだん強まってきているのであった。
目の前にあるドアがいつ開くのかを心待ちに、だが息を潜めて二人は柱に身を隠している。

「……くる」

冬音の言葉通り、その刹那ドアがゆっくりと開かれる。
古ぼけたドアみたいでそれに似合う奇妙な音と共にドアは開かれていく。
ゆっくり、ゆっくり、その音は次第に止んでゆき、そして——

「っ! 伏せて!」

冬音の掛け声で冬音と夏喜は同時にその場で伏せる。
するとその上を鋭い一線が走る。それは真っ直ぐに弧を描き、当たったものを鋭く切っていく。
綺麗にスパン、という音がしたかと思ったその直後のことだった。

「目標、確認。これより消滅を開始する」

冬音と夏喜の目の前にいたのはいつかの黒服だった。
黒服は手を大きくかざし、その巨大な手を手刀として二人に襲いかかろうとしたが、冬音が目にも止まらぬ速さで太刀を抜く。
瞬間的速さで斬撃が黒服の手刀を切り裂く——が、その手は人間の手ではなかった。

「な……ッ!」

肉体のように見えて、普通の人間の手ではない。
気持ち悪いと思うほどに変色を繰り返し、また脈打ちをものすごい速さで繰り返したと思いきや瞬間再生をしたのだ。

「瞬間再生能力……ッ!」

夏喜が噛み締めるようにそういうと、自分も黒い手袋をもう一度ちゃんとつけなおす。
それを確認すると目の色がだんだんと変わっていく。色は澄んだ青色の瞳であった。
夏喜はそのまま駆け出し、黒服の隙をついて右手を振りかざす。

「外が再生なら——"中から壊してやるよっ!"」

その瞬間、黒服の腹部辺りが膨張して一気にはじけた。
肉片が辺りに四散し、飛び散る。中からひねり潰したかのような有様であった。
——だが、しかし。

「え……!」

黒服は即座に再生を繰り返し、すぐに元の状態に戻る。
そして夏喜の体を大きな両手で掴みあげると壁にたたきつけるかのようにしていとも簡単に放り投げた。
その投げた勢いのままに夏喜は壁へと大きくぶち当たる。

「はぁぁぁぁっ!!」

「……っ!?」

冬音が次に太刀を振りかざし、連続で黒服を切り刻んでいく。
何回も大きく斬りながら、もう一つ大きな大剣を取り出し、その二つの剣をものの見事に使いこなし、相手にたたきつける。
冬音の小柄な体からは想像も出来ないほどの怪力。そして目つき、そして殺気を冬音は放っていた。
黒服はたたきつけられた衝撃に、斬撃によってしばらくは動かなかったがすぐに再生を開始しようとする——が。

「させないっ!!」

冬音は更なる連撃をこれでもかというほどに黒服に叩き込む。
再生のする暇がないほどに斬撃は次々と黒服を切り刻み、斬り捨てた。
だが、それも束の間。黒服は動きが一瞬で速くなったかと思えば、冬音の腹を手の平が捉えていた。

「ぐっ……!」

そのまま手のひらは冬音を無惨にも吹き飛ばしていく。
間一髪で剣をその手の平をかざしている腕に斬りつけ、威力と命中度を下げたがそれだけでもかなりの衝撃が走った。
壁にダイレクトに当てられ、目眩をしたがすぐさま立ち上がり、血反吐を吐く。

「後……どれだけ倒せば、倒れる?」

冬音は両手に太刀、大剣と構えて黒服へと向かっていった。




流都はようやく不思議に思った空間スペースの元へと来た。
どうやらこの空間スペースは様々なところから侵入できるようであり、このルートのほかにもあるようだ。
このルートで死体やら実験台やらを送っているのかと思うと腹が立って仕方が無い。

一見普通の壁に見える空間ルームへと繋がる場所なのだが、周りを厳重に調べればたやすいことだった。

「ここか……」

四角いプレートがいくつもあり、薄暗さによって全く分からないようになっているが流都の遺伝子による力には敵わない。
目を赤色に染め、見たものを分析する。それが何なのかというものを著間的能力で当てることが出来るのだ。
直感的能力とは、脳内で考えるということよりも直感で解く能力であり、解き方は分からないが答えは分かるというものだ。
ただし流都の場合は物質などに対してのみなので道はどちらかというものに対しては効果がないのであった。
その能力を使い、薄暗い色が識別できずに小さな明かりのみで同じような地面のプレートを見分ける。
それによって言い当てたものを蹴ったり銃で撃ったりしてみると思ったとおりに底が抜けた。

「よし……」

ゆっくりとさらに薄暗い下り階段を下りていく。
ライトを片手に、そしてもう一方に大きめの銃を持って静かに歩いていく。

下りきった先には古ぼけた扉があった。
どうやらここが例の空間スペースに通じるものであると見て間違いなさそうである。
ゆっくりとドアノブを手に取り、回して行く。
そして、見えた先にはボンヤリと薄暗い光がいくつも反射しているように見えた。
まだ通路よりかはマシなほうである。そのボンヤリとした光の正体は多数のモニターであった。

「ビンゴ、のようだな」

流都はニヤリと笑うと室内へと入っていく。だが、その途中で見かけた椅子に不自然な腰掛け方をする人物の姿。

「……誰だ?」

その不自然な人物は——首から上がなかった。
よく探してみると近くの地面に頭の中身がグチャグチャにつぶれたかのような何とも惨いものがあった。
誰かがこの"人だったモノ"の頭か何かを踏み潰したりしたのだろう。
部屋の中は血生臭い匂いで充満していることに気付いた。
——胸クソが悪い。
嗚咽までも誘ってくるその匂いから早く逃げたい気持ちがあったが確かめたいことがあった。
ゆっくりとモニターの方に近づいていくたびに分かったのだが、この死んでいる人物は店に訪れた老人であった。
着ている服や、何から何まで顔がなくても一致していた。
——このじいさんはクローンのはず。黒服の方が人間だったんじゃなかったのか?
クローンならば何らかの抵抗は出来たはず。それがいかなる敵としてでも。
しかし、争った形跡がないのである。
だが、それよりも流都は一番気になることがあった。


「……一体誰が老人を殺したんだ?」


黒服、が考えられたが多分それは違うだろう。もちろん、冬音や夏喜何かは論外である。
あの老人の性格からして信用できないものを自分の近くに置くはずがない。それに動機もない。
さらに言うとこの殺し方は、普通じゃない。
首を跳ねた時点で死亡は確定しているというのに頭をここまで血の海に変えるほどにまでやる者。
そんな残忍なことをやる者がこの施設の中に潜んでいるということだった。
少し抵抗感があったが首なしの老人の体温を調べる。
体温はまだ温かい。となると流都が来る少し前に殺したということになる。

「……気になるな。何かが」

流都はモニター近くのキーボードのような機械を容易に扱い、ものすごいスピードで何やら打ち込んでいった。



——鬼ごっこをしようか

——少し、時間をあげよう

——それまでに、君たちが望むものを見つけられなかったら


「僕が、殺しにいくからね」


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