ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

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奇怪譚座談会 ——『古書肆・千刻堂』
日時: 2010/12/17 00:33
名前: L.A.Bustle ◆zdZJw9S3Zc (ID: nYs2x9iq)

☆前書き☆
 どうも、実ははじめましてじゃないけどはじめまして。L.A.Bustle(ラ・バストル)と言います。
 何だか作って止めて作って止めてを何度も繰り返してるので、前の名前だと若干書きづらくなって名前変えました。先頭にSが付く奴です。ハイ。

 今回は今まで書いてきた長編物を諦め、ショートショート調の怪談話を、時折幕間話を挟みながら繋ぐ形式にしたいと思います。要は短編集ってことでして。
 途方も無い話になりそうですが、最終目標はきちんと決まってるので、とりあえず見てってくれると嬉しい。

 ただし、ネットモラルやマナーをきちんと守り、読者様に迷惑のかかる行為(荒らし、過度の雑談、喧嘩、誹謗中傷etc…)は慎みませう。
 また、本作中の話の展開及びキャラクター、団体等の名称、本作に登場する化物や憑物の容姿や名前は霊感ゼロのスレ主の妄想や参考にした書物に基づくフィクションです。その為、色々とネタが被っていても偶然の一致として考えていただれば、と思います。
 更に、物語の雰囲気を保持するため、難読漢字や当て字、難解表現については敢えて何も説明を加えておりません。予めご了承くださいませ。
 尚、受験シーズン真っ只中のため、更新は亀に近いかと思われます。短編集なので幾らかは早いかと思われますが、これも予めご了承くださいませ。

 では、何やら前置きが長くなってしまいました。
 色々と準備でき次第順次更新していくので、まあのんびりと長い目で見てやってください。

——Written by/L.A.Bustle

☆お知らせ☆
・『零/座談前説』の『三』の一番最後の台詞、及び描写を少々変更しました。(12/16)
・『三/八十年蝉』の最後の辺りの語りにて時期の誤りがありましたので修正・及び変更しました。(12/17)

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Re: 奇怪譚座談会 ——『古書肆・千刻堂』 ( No.4 )
日時: 2010/12/12 14:31
名前: L.A.Bustle ◆zdZJw9S3Zc (ID: nYs2x9iq)
参照: 一話でさえ分割とか有り得ん……

一/血抜き大蛇  (語り部:榎本敬一)

 店長とか萩原には前にも何度か話したから、此処が御霊封じの土地だってことは多分知っているだろう。
 そうそう、怨念を持って死んだ人間の霊を慰める土地なんだ。此処は元々責め問い場だったし、仕置き場もすぐ近くにあるからな、責め殺された人間や濡れ衣を着せられて斬首された人間の恨みが積もっている所なんだよ。それに、まあ随分昔のことになるが、此処は元々蹈鞴場……嗚呼、蹈鞴って言うのは足踏み式のふいご、蹈鞴場は製鉄所のことだ。
 兎に角それがあった場所だから、砂鉄や燃料を得るために伐採され、殺された森の生き者達の怨念も凝り固まっている。特に蛇や狼は怨念が強いなあ、蛇は執念の象徴だし、狼は家族を殺された怨念がある。
 ……おや、不気味な顔をしてからに。
 やぁすまんね、初っ端から少々不気味な話になってしまった。そろそろ本題に入るとしようか。
 でまあ、ここはそういう土地だから、ザコがうようよ……
 嗚呼、ザコって言うのはな、蝶とか蛇とか鳥とか、要するに小動物の魂の幾つかが集まって形を成している霊、それか簡単な御祓いで落とせる憑物のことだ。雑な魂と書いてザコと読んでいる。丁度、さっきの桜庭に憑いた猫や君達がくっ付けて来た鳥や蛇や蝶のことさ。ふっふっふ。
 さて。皆が十分恐怖に浸ったところで、話を元に戻すとしよう。
 この土地にはまあザコがうようよしているんだ。そいつらはさっき藤堂にやったみたいに思いっきりド突けば落ちる奴等なんだが、さっきも話したとおり色んな魂が幾つも集まって出来ている。しかしね、たかがザコと言ってもされどザコ。十も二十も魂が集まって形を成せば、私達拝み屋が全力で祓っても祓えなくなるんだな、これが。
 そう、私は今から六年くらい前、まだ親父が拝み屋としてピンシャンしていた——それじゃ親父に失礼だな、まだ健在だ。まあ、そういう頃に「祓えないザコ」と遭遇したことがある。
 その時の奇談が本日最初のお話というわけだ。まあ、聞いてくれ。

Re: 奇怪譚座談会 ——『古書肆・千刻堂』 ( No.5 )
日時: 2010/12/12 14:44
名前: L.A.Bustle ◆zdZJw9S3Zc (ID: nYs2x9iq)
参照: 拝み屋やイタコのお仕事については資料不足につき妄想です。

 事の発端は、知り合いの拝み屋が親父に泣きついて来たことから。
 そうそう、此処は土地柄上憑かれる人間が多かったから拝み屋の数も相当だったんだが、当時親父はそんな数多の拝み屋の中でも屈指の力を持っていてね、他の拝み屋が祓いきれなかった憑物を良く頼まれる存在だったんだ。その泣きついて来た拝み屋もお稲荷様の祟りを解くほどの力を持っていたんだが、無理だったらしい。
 で、「お前さんが祓いきらんとは一体何じゃ」と言う事で親父が出向いた。……ん、私か? おう、その頃から拝み屋修業してたからな、無論ついて行ったに決まってるじゃないか。親父からは「不用意について来たら死ぬぞ」とは脅されたがね。まあ、その頃の私は無鉄砲だったんだよ、二十歳なりたてだったし。
 それでまあ、行ったんだ。憑かれた人間のいる所にね。「何じゃコリャ、本当に人間が住んでるのか」と親父がぼやくほどの荒れに荒れ切った荒家で、崩れそうな釣り橋の向こう側にあった。何でも第二次世界大戦の頃に出兵を拒否して村八分に遭った家らしくて、当時でも堂々と街中に出られるような家じゃなかったらしい。
 その人は橘さんという女の人なんだが、対面した瞬間、見習いの私でも分かった。
 まだ未熟だったから正体はとんと分からなかったが、兎に角何か物凄い力を持った奴が憑いていたよ。親父に至っては対面した瞬間、鬼のような形相をして、橘さんが何か言う前に「祓いましょう、このままじゃ貴方も倅も危ない」と。橘さんは兎も角何で私が? とその時は思ったな。
 まあ私が後でどうなったかはおいおい話すとして、親父は普段は滅多に見せない慌てた調子で家中の扉という扉、隙間という隙間を全部即席の護符で埋めて、最初は親父一人で橘さんの額に手を当てて呪を唱えていたんだが、その内「敬一、来い! 俺一人で太刀打ち出来るもんじゃねえ!」とまあ家がぐらつくんじゃないか、と思うくらいの声で怒鳴ってね。
 俺が傍に行くと、親父はいきなり懐から肥後守を出して私の腕を切った。いきなり息子の腕を切ったわけだから「何するんだよ!」と当然憤慨したがね、親父はそんなのお構いなしに切れて血が出ている私の腕を右手で引っ掴んで、左手で橘さんの額に手を当てて、また呪を唱え始める。
 暫くは「畜生、莫迦親父!」なんて思って親父を睨みつけながら事の次第を見守っていたんだが、その内に気分が悪くなってきてね。まだ蝉が全盛だというのにガタガタ震えるほどの悪寒が走って、その癖身体の表面は炎で炙られているように熱い。しかも心臓と頭は割れるように痛くなるし吐き気がしてくる。その上段々気が遠くなってくる。
 そうだな……風邪をこじらせたときの辛さと言えば分かりやすいかな。そう言うときって声も出ないほど辛いだろう? 私も丁度そんな感覚で、親父に「ヤバイ、死ぬ」とか何とか言ったきり何も言えなくなった。だが親父は私の腕を掴んで私と橘さんの様子を交互に見るだけで何もしやしない。
 それから数分後かな、親父がいきなり手を放して、倒れた私の背を叩き始めた。多分親父の感覚的には猫を撫でるような感じだったのかもしれないが、ただでさえ吐き気の酷いときにそんな事をされたらもう目も当てられない。おうさ、吐いたよ。だが「仕事の前は絶対に何も食べるな」といわれていたから胃の中に戻せるものなんかあるわけない。
 普通ならそうだろう。だが違った。
 ……血を吐いたんだよ。
 しかも普通なら人が死んでもおかしくない量だ。その上何故か妙に獣臭いんだ。
 私はもう気が狂うか死ぬ思いで親父を見たんだが、親父は何故か安心顔で私の背を摩るばかり。その後も私は畳六畳分くらいが真っ赤になるほどの血を吐いてしまったんだが、頭が痛いのを除けば不思議と何ともない。その後、畳にぶちまかれた血を和紙で拭いた親父は続けて橘さんの御祓いをしていた。
 心配? ふんっ、そんなものされるか! 仕事中の親父は鬼だよ。それ以上かもしれん。
 嗚呼、血を拭いた和紙は跡形もなく燃やして、その灰は護符と一緒に桐箱に入れて、山奥深い祠に納めていたな。
 その後祠にも簡単な御祓いをして、まあ憑物落としは終ったんだが。

 そうそう。
 私は憑物落としが終った直後に熱を出してぶっ倒れて、親父に肩を貸されて家に戻ってからも熱が下がらずに二週間ほど寝込んでしまった。その時親父はちょっとやつれた顔で「あの憑物の毒気に当てられたな」とか何とか言って看病しながら、あの前代未聞の憑物落としの真相を話してくれたよ。
 橘さんに憑いていたのはね、十とか二十とか生易しいもんじゃあない、千二千、若しかしたら三千以上の蛇の魂が凝り固まったザコだった。しかもそれぞれが怨念を抱えていて、しかも橘さんの家柄は村八分の家系だったから余計怨念が強固に結びついてね、生易しい御祓いじゃとても落ちそうに無かったらしい。
 ——嗚呼。蛇の化物は怨念が凝り固まると生じる化生と言われているからな、それが何百何千も凝り固まるとザコじゃすまなくなる。今日萩原が連れてきたザコは二匹くらいしか集まっていなかったから少し突けば簡単に落とせたが、三千となると話が違うよ。親父も毒気に当てられて体調を崩したくらいだ。
 それで、まあ、余りに怨念が強固だったから、私を媒体に使って物凄く強引に「血抜き」をしたというんだ。親父曰く「化生の大蛇から血を出来る限り絞り取って力を弱めた」と。理屈は何となく分からなくもないが、それにしたって訳の分からないことをよくするもんだと思ったね。しかも実の息子を媒体に使って。
 ん、何だい桐峰。……何、君の母君も同じ事をされたのか! そりゃ凄いな。嗚呼そういえば、確か君は東北の生まれだから、母君と言えばイタコだろう? やっぱり。イタコは霊媒師って奴で霊降ろしが本職だからな、若しかしたらそう言うことをしてたかもなァ。多分祖母殿も同じことをされただろうし、君がイタコであったなら同じことをされていたんじゃないかな?
 あ、そうだ。イタコで何となく思い出した。
 その大蛇、祓われた後暫くは八岐大蛇を祀る祠に納められてたんだが、居心地悪そうにしていたから親父が封印を解いたんだよ。私と親父で身体を張って血抜きして毒気を抜いたから害は無いんだがね、その大蛇、何処にいると思う?
 ——私の家の周りだよ。ふっふっふっふっふ。
 さあ、皆が恐怖に慄いたところで、私の話はお仕舞いだ。次の人どうぞ。

Re: 奇怪譚座談会 ——『古書肆・千刻堂』 ( No.6 )
日時: 2010/12/14 00:07
名前: L.A.Bustle ◆zdZJw9S3Zc (ID: nYs2x9iq)
参照: 序盤はいろいろ迷走としてますm(_ _)m

二/多色マント  (語り部:椎木 翔)
 なんだか最初から凄く怖い話を聞かされたから、用意してた怪談が話しにくくなっちゃったじゃないっすかァ。俺も霊感持ちっすけど、そんな、拝み屋さんにゃ敵いませんよ。そんな笑わないでくださいよ拝み屋さん。
 まあいいっす。何番煎じかも分かんないっすけど、一応学校で本当にあった話なんで、話します。

 そう……今から二年位前っすね。
 俺の通ってる学校の一階の一番窓際にあるトイレなんすけどね。
 って、ちょ、何すか。トイレってだけで皆露骨にイヤそうな顔しないでくださいよォ。確かに何となく不潔で臭そうなイメージっすけど、学校のトイレは綺麗にしてるんすから、そんなムチャクチャ聞きたく無さそうな顔しないでくださいって。嗚呼っ、お、拝み屋さんまでそんな顔を!
 あの、トイレが鬼門にあったら危ないとは確かに聞きますけど、もちろんありませんからね。だけど、初っ端から物凄い話になるんですが、ホントにシャレにならないから聞いてください。ホント、話して広めて薄めないとマジで人死にが出そうな勢いで危ないんです。お願いなんで話だけでも聞いてください。マジで呪いが掛かってるっていうか、出るんです。その、使用禁止になってるソレに、アレ、お化けが。
 ……何だか凄く時間取られちゃいましたね。やっと話せる。
 で、そのトイレなんすけど、一時期「赤マント青マント」って言って、都市伝説みたいな風に有名になったお化けがあるじゃないっすか。あれが出るんすよ。いや、これは作り話でも何でもなくて、本物ですよ! 当たり前じゃないすか!
 えーと、んっぅん。

 赤ァいマントはいらんかェ……青ォいマントはいらんかェ……紫ィのマントはいらんかェ……

 っていう声がね、どこからともなくしてくるんです。トイレに入って扉を閉めて鍵かけて、五秒くらい経ったら。吃驚して出ようとしても鍵はさび付いたみたいにギシギシ音を立てるだけで開かないし、しかもガチャガチャやって奮闘してるうちに物凄い金縛りに遭うんすよ。チャック全開だろうが下半身全裸だろうが何だろうがお構いなし、指も視線も動かせない。
 で、びくびくしながら金縛りを解こうとすると、また「赤ァいマントはいらんかェ……青ォいマントはいらんかェ……紫ィのマントはいらんかェ……」って、しわがれた男の人の声で聞いてくる。中に入った人は厭でもマントの色を答えなきゃいけないんすよ。口だけは金縛りが何もないって言うのがいじらしいっていうか。
 で、都市伝説を信じるなら、赤も青も紫もヤバいって言うじゃないッすか。「赤」って答えたら全身切り裂かれて血塗れ、「青」って答えたら全身から血を抜かれて真っ青、「紫」って答えたら両方。どれも厭っすよ、どっちみち死ぬじゃないっすか。まあその時は友達が入ってたんすけど、どう答えて良いか分からなくてずっと返答に窮してましたしね。
 ただ、こういう時って「黄色」とか「白」とか「黒」とか、別の色を答えたらいいって言いますよね。まあ、言ったら別の世界に引きずり込まれるとか言う噂もありますけど、流石にそりゃねーだろ、ってことになって、友達もそれに賛成して、「黒いマントなら欲しい」と。なんだか勝ち誇ったように言って、それが強がりの最後でした。
 学校中に木霊するんじゃないかってくらい大きな、鼓膜が破れそうなくらい大きな友人の物凄い悲鳴がドア越しに聞えてきて、俺が「どうした!?」って言う暇もなく、直ぐにシーンとなった。そんで、鍵が掛かってるから抉じ開けようとしたら、友達がガッチリ掛けてたはずの鍵が何故か開いてた。
 そして中から出てきたのは、全身真黒焦げになった友達だった。熱さなんか全然感じなかったのに、友達の体はぶすぶす煙を上げて焦げ臭い。しかももっと驚いたのは、全身炭になるまで焼かれてたのに、まだ息があったんすよ。声を掛けたら微かに動くし、声も上げてた。もう伝説とかお構いなしっすよ、慌てて救急車呼んで、友達は右手と左手の指二本と左足を失くすことになったけど、命だけは繋ぎとめました。
 だけど、問題はその後なんすよ。

Re: 奇怪譚座談会 ——『古書肆・千刻堂』 ( No.7 )
日時: 2010/12/14 00:12
名前: L.A.Bustle ◆zdZJw9S3Zc (ID: nYs2x9iq)
参照: マントの怪が出る理由は妄s(ry

 「テメーの友達が命を取り留めたんならオレが入ったって安心だ」なんていって、クラス全員での猛反対を振り切って、学年でも随一のヤンキー、っていうか無謀な命知らずがそのトイレに入ったんすよ。
 そしたらね、暫く経って、やっぱり聞こえてくる。

 赤ァいマントはいらんかェ……青ォいマントはいらんかェ……紫ィのマントはいらんかェ……

 ヤンキーは暫く無事に出られる色を考え込んでたようだけど、やがて「オレンジ色だ、オレンジ色のマントが欲しい!」って自信満々に答えました。クラス全員、先生も含めて見守る中、五秒くらい様子を見ていた彼は「ほら、やっぱりオレにだって何もねえじゃねえか」って言う途中で、断末魔の絶叫を上げたんです。
 長い長い断末魔でした。
 十秒くらい続いたと思うけど、実際はもっと短かったかも。友人の時とは比べ物にならない程苦しそうで、時々何かを吐くような声もしていました。女子生徒はヤンキーが何か咳き込み始めたところで逃げましたね。男子や先生も絶叫が掠れた呻き声になると次々に逃げ出していって、結局ドアの前に立ち続けていたのは俺だけ。
 何分か後だったと思うんすけどね。
 呻き声も断末魔も、ドアの向こうの声が皆止んでから、扉は自然と開きました。
 ヤンキーは助けを求めるような悲しそうで苦しそうな表情で目を見開いて、血じゃない、橙色の液体と変なミミズみたいな生き物を吐いて倒れていました。ソレ見た先生は……ああ、女の先生だったんすけど、もう腰抜かして戦いて動けもしない。俺はそいつに飛び付いてまだ微かに息があったのを見て、救急車を呼びに職員室まで走りました。
 一時はホントに心肺停止の大騒ぎになったし何ヶ月も死線彷徨い続けたけど、イヤ、彼モノスゴク身体が丈夫だったんすよね。あの後からげっそり痩せて、少し足を引き摺って歩くようになっちまったけど、それでも三ヶ月くらいで笑って帰ってきました。その後からヤンキーとは友達になって、まあ今も友達なんすけど。トイレの中で何があったのかも彼から聞きましたし。
 え、俺!?
 いやいやいやいや、入ってないっすよ! 俺そんなに無謀なチャレンジャーじゃない。
 ん、ああ。あの時ヤンキーが吐いた液体の正体は未だに不明っすね。変な生き物の正体も。何しろ救急車が到着する前には、水が蒸発するみたいにどっちも消えてなくなっちゃいましたから。この辺りに関してはヤンキーも「ワケワカラン、何でこんなもんがオレの身体から出てきたんだよキモチワリィ」と、後日談。
 今すか?
 今は一応神主さんに御祓いしてもらって、内側からガッチリ鍵を掛けて絶対使用禁止になってます。だってねえ、その中に入ったのが皆ああいうメに遭うってことが分かっちゃったじゃないすか。最近はトイレごと閉鎖してしまおうって動きが強いみたいっすけど、流石にそれをやるとちょっとアレだし、ってことでまだ個室しか封鎖されてない。まあ今はそれで特に害も無いし、また同じ怪があるまでは多分この調子だと思いますよ。大丈夫ッすよネ、拝み屋さん。ああ良かった。
 そうそう、このトイレ、当然だけど何か曰くがあるらしいっす。主任の先生から聞きましたよ。
 学校は百年くらい前に建てられたものなんすけど、それよりもっともっと昔、学校の敷地のちょうどトイレがある辺りに絹布問屋さんの布置き場があったそうなんすね。で、今から二百年位前に押し込みに遭ったそうなんすよ。しかもその押し込みってのが悪趣味で、その時着てた着物の色で殺し方を変えたとか。例えば赤なら切り裂き、青なら血抜き、黒なら焼き焦がし、黄色なら皮剥ぎ、柄物なら柄の色で組み合わせたりとか。悪趣味にも程があるっすよ、ホント。
 そうやって潰された問屋の空き地は怨霊を畏れて御祓いされたあと暫く空き地になってたんすけど、百年前に今の学校の校長先生の曾曾爺さんが買い取って学校を建てたと。で、その時土地に染み付いて祓い切れなかった怨念がトイレって言うまあ、不浄の水場に集ったんじゃないかって言う話です。
 なんだか歯切れの悪い話になっちゃいましたけど、これでお仕舞いっす。次の人誰かどうぞー。

Re: 奇怪譚座談会 ——『古書肆・千刻堂』 ( No.8 )
日時: 2010/12/17 00:31
名前: L.A.Bustle ◆zdZJw9S3Zc (ID: nYs2x9iq)
参照: 霍乱=暑気あたりのこと。

三/八十年蝉  (語り部:菊間 桔梗)
 一話、二話とちょっとおどろおどろしいお話が良く続いておりますねえ。残念ながら、私にはあまり霊感と言うものが御座いませんのでねぇ、先の御二人のような迫力のあるお話と言うものはお話できません。ですから、今からお話致します奇談は、先にも後にも続く怖ァいお話のお口直しとしてどうぞ。
 良ければ御静聴頂きたく存じます。

 皆様知ってのとおり、私は元々御秡如という珍しい姓で御座いまして、五年程前に今の夫の家、菊間家へと嫁いだので御座います。すると、菊間家という所は察するところどうも不思議な家柄でして、「巫蠱」という、虫の魂を術を使って使役する家柄にありまする。故にか、家の周りには奇妙なものが定期的に湧くので御座います。
 例えば揚羽蝶でありますと、三年に一度美しい青い羽を持った揚羽蝶が何処からか飛んで来て、一年私の近くに居座った後土に還って行きます。また蛇でありますと、十年に一度銀色の鱗を持つ大蛇が土の中より五匹程出で、二年ほど主人の傍に居りますれば、再び土の中へ戻ってゆくのです。
 このように定期的に湧く虫や蛇や蜥蜴は居るだけで損得を齎さないものが大多数で御座いますが、何処より湧くものか、家に悪しき力が溜まり、家人が体調を崩し始めると何処からか出で、悪しき気を祓った後消えてゆく虫も御座います。
 その虫は、私は「御祓い蝉」などと申しておりますが、主人は「八十年蝉」などと呼んでおりまして、呼び名の通り八十年に一度出るか出ないかと言うとても珍しい蝉の怪に御座います。主人の言う所、八十年とは「とても長い」という意味も込められているようでして、どうやらこの蝉の怪に限っては出方が不定期であるように思います。悪しき気が溜まることで出ずる虫で御座いますから、溜まり方が違えば出方が違うのも自然の理で御座いましょう。
 この八十年蝉がどうしたと仰りたい方もいらっしゃいましょう。……そうです。最近、八十年蝉を見たので御座いますよ。

 つい一週間前、暑い暑い真夏の真昼で御座いました。
 その日、私は何ともありませんでしたが、主人は霍乱を起こして前々より崩していた体調を更に崩してしまい、朝よりずっと床で横になっておりました。それが余りに辛そうでしたので、私はお医者様を呼んだので御座いますが、霍乱は落ち着いても体調が一向に良くならないので御座います。それどころか益々主人は気分を悪くするばかり、お医者様も匙を投げてしまい、私も当惑して右往左往とするばかりです。結局お医者様にはお帰りいただきました。
 首を傾げて帰って行くお医者様をお見送りし、主人の部屋へ戻ってきたその時で御座います。
 じゃあじゃあと鳴き騒ぐ蝉達の声の中に、一際目立つ鳴き声がいたしました。それは、ぎぃぃ……ぎぃぃ……と、寂しく木が軋むような、まるでこげらが鳴くよう声でありまして、私も主人もこの真昼にこげらが鳴くものかと思い、蚊帳の外をふと見たので御座います。そして、蚊帳にぽつんと止まって羽を震わせていた、その蝉を見つけたので御座います。
 一言で言えばミンミンゼミのような形で御座いました。黒光りする地に薄緑色の線が幾本も入っておりまして、羽は向こうの青空を透かし真っ青であります。ですが、体はクマゼミより一回りも大きく、殊更目に付いたのは、やはり力強い十本の足と閉じ切れていない六枚の羽でしょう。その時、初めて私は主人の口より八十年蝉の名を聞いたので御座います。
 「八十年蝉は一生の内に二回見られるか見られないかという程の珍しい虫の怪なれば、決まって主人やその縁続きの人間が悪しき気によって倒れたる時に現れ、悪しき気を祓い、三日か四日ほどで死んでしまう」との事でございます。
 主人は見ての通り、嘘のように元気になりましたが、蝉は蚊帳に止まって寂しく鳴き続け、三日ほど経った後、確かにお縁側に落ちて死んでおりました。その死骸は主人が拾って暫し箱に入れて御座いましたが、翌日には何故か砂のようにぼろぼろに崩れてしまい、また更に一日経った後にそれも消えてしまいまして、今私の手元にはありません。
 ですがまた蚊帳に止まって鳴いていたときに撮った写真が幾つか御座いますので、後々お見せいたしましょう。
 今見せても構いませんか? では写真は順繰り回しますので、皆さんのお話の合間に見て回してくださいね。
 それでは、先のお二方より随分短くなってしまいましたが、私の話はこれでお仕舞いに御座います。次の方どうぞ。


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