ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

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奇怪譚座談会 ——『古書肆・千刻堂』
日時: 2010/12/17 00:33
名前: L.A.Bustle ◆zdZJw9S3Zc (ID: nYs2x9iq)

☆前書き☆
 どうも、実ははじめましてじゃないけどはじめまして。L.A.Bustle(ラ・バストル)と言います。
 何だか作って止めて作って止めてを何度も繰り返してるので、前の名前だと若干書きづらくなって名前変えました。先頭にSが付く奴です。ハイ。

 今回は今まで書いてきた長編物を諦め、ショートショート調の怪談話を、時折幕間話を挟みながら繋ぐ形式にしたいと思います。要は短編集ってことでして。
 途方も無い話になりそうですが、最終目標はきちんと決まってるので、とりあえず見てってくれると嬉しい。

 ただし、ネットモラルやマナーをきちんと守り、読者様に迷惑のかかる行為(荒らし、過度の雑談、喧嘩、誹謗中傷etc…)は慎みませう。
 また、本作中の話の展開及びキャラクター、団体等の名称、本作に登場する化物や憑物の容姿や名前は霊感ゼロのスレ主の妄想や参考にした書物に基づくフィクションです。その為、色々とネタが被っていても偶然の一致として考えていただれば、と思います。
 更に、物語の雰囲気を保持するため、難読漢字や当て字、難解表現については敢えて何も説明を加えておりません。予めご了承くださいませ。
 尚、受験シーズン真っ只中のため、更新は亀に近いかと思われます。短編集なので幾らかは早いかと思われますが、これも予めご了承くださいませ。

 では、何やら前置きが長くなってしまいました。
 色々と準備でき次第順次更新していくので、まあのんびりと長い目で見てやってください。

——Written by/L.A.Bustle

☆お知らせ☆
・『零/座談前説』の『三』の一番最後の台詞、及び描写を少々変更しました。(12/16)
・『三/八十年蝉』の最後の辺りの語りにて時期の誤りがありましたので修正・及び変更しました。(12/17)

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Re: 奇怪譚座談会 ——『古書肆・千刻堂』 ( No.1 )
日時: 2010/12/11 01:52
名前: L.A.Bustle ◆zdZJw9S3Zc (ID: nYs2x9iq)
参照: 長く無謀な挑戦は、此処から始まった。

零/座談前説

 真夏の盛り。
 騒々しい熊蝉の声も止み、蚊がうろつき始める夕。
 その夕の明るさが残る午後七時、静かな冷たさが蚊帳と蚊取り線香の煙を揺らしてふうわりと入って来る。
 私が用意した舞台は、つい先程ようやく完成した。
 青々しい榊の飾られた神棚や飾られていた模造刀や掛け軸などなど、動き出しそうなものや動いたら困るものを全て片付け、部屋の四隅に盛塩がされた、殺伐とした空気の漂う畳敷きの仏間。その八畳半ほどの空間の中心には、中にそれぞれ二十五本ずつ蝋燭を入れて青紙を張った行灯が四つと、魔除けの効果があるらしいと言う香を入れた炉がやはり四つ置かれ、そこから九枚の座布団と一脚の足の短い椅子が半径約一メートルくらいの車座となって置かれている。
 また、神棚に一番近い場所に敷かれた座布団の傍らにはまだ電源の入っていないテープレコーダー、その真正面に敷かれた座布団の傍らには分厚い洋綴じの筆記帳とペンケース。その他にも飴玉等のお菓子や大仰なスリーウェイバッグ、更には何やら曰く在りげに鍵が掛けられお札が何十も貼ってある寄木細工の箱、美しい表装の施された巻物なども個々の座布団や椅子の上に置かれている。
 恰も今まで此処で談笑していた者達が途中で退室しそのまま消えてしまったような、そんな静かで終焉の雰囲気を漂わせる部屋だが、これは飽く迄この酔狂が始まるまでの嵐の前の静けさ。
 本当の終焉はこの静けさの向こう側にある。

 今日の午後十時半から行なわれる酔狂、「奇怪譚座談会」。
 通称「百物語」。
 ぶっちゃけて言うなら「百物語」という方が文献に基づく正式名称であり、その名の通り、総計して実に百話の怪談や奇譚、因縁話を幾人かで順繰りに語り継ぐというもの。
 多くの場合は青紙を張った行灯の中に灯心百本を入れ、一話終るごとにその灯心を吹き消していく。そして百話目を語り終え、最後の灯心が消されると、世にも恐ろしい怪があるらしい……と、多くの文献は伝える。しかし、その辺りは「何事も在らず」という文献もあって意見は真っ二つだ。
 また座談の舞台に関しては、江戸時代の仮名草子『御伽婢子』に伝統的なやり方が載っているが、「三間を用い、一番奥に灯心と鏡を置く」とか「参加者は蒼い服を着る」とか「参加者の集まる部屋とその隣の部屋は真っ暗」とか「語り終えた者は中座し、三間の一番奥にある蝋燭を消し、自分の顔を鏡で見て帰って来る」とか、色々面倒が多い。
 こんな仰々しい舞台は用意できない。無論。
 私以外の参加者は勿論、私の家もかなり大きいが三間続きの和室はないし、火の元から人が離れるのは実に危険なことなので、今回はかなり略した舞台装置しか設定していない。本式の略式の接点は青紙行灯と危険物の撤去と百本の灯心を順に吹き消す、そのくらい。
 しかも盛塩だの香炉だのの魔除けグッズの他にも、事前事後の御祓いを徹底させたり障子戸の穴を塞いだりお札を貼ったり、その辺にあった稲荷神社の若い兄ちゃん宮司の指示に従い、過剰な程の防御を重ねている。
 ——まあ、本物の妖怪が出てきて家の中をひっちゃかめっちゃかにされても困るし。
 
 そんな訳で。
 準備を終えて一息を吐いた私は、開け放していた障子を閉めて螺子止め錠を掛け、蚊帳と蚊取り線香を仕舞って押入れに叩き込み、参加者が来るまで部屋の扉につっかえ棒を咬ませて厳重に封印する。そのままどたどたと隣の自室に入り込み、朝から敷きっ放しの布団へ勢いよくダイブした。
 そのまま薄いブランケットを被り、布団の隙間から目覚まし時計を三時間後にセットして、目を閉じる。
 そう、眠くなる前に一応言っておくが、百物語を語りきるには仮眠と言うものが最重要である。
 理由は至極簡単。仮令一人の参加者が五分で語ったとしても百話語れば五百分、時間にして八時間は起きなければならない。学生の頃ならそう言う無理も利くだろうが、生憎座談会の参加者は高校生の二人を除き皆二十歳以上、徹夜なんぞしたら今後の社会生活に差し支える。
 単純計算でいくと、今からなら寝ても三時間は寝られる。
 一分でも一秒でも寝ることに越したことはない。

Re: 奇怪譚座談会 ——『古書肆・千刻堂』 ( No.2 )
日時: 2010/12/11 03:16
名前: L.A.Bustle ◆zdZJw9S3Zc (ID: nYs2x9iq)
参照: 礼拝は神道式です。(Wikiより)

 …………チリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリ…………
 耳元で激しく掻き鳴らされる、五年前から変わらず騒がしい目覚まし時計を拳で叩いて止め、私はもそもそと布団から起き出す。参加者が集まるのはこれから三十分ほど後の話、最終準備もあるし面倒だったので布団はそのまま敷きっ放しにしようと思ったが、思い直して敷布団と掛け布団共々三つ折りにし、押入れの上段にぶちまけておいた。
 風もなく蒸し暑い部屋を抜け、つっかえ棒の封印を外して隣の和室へ入る。

 室温自体は自室と殆ど変わらないはずなのに、空気は何処かひんやりとした雰囲気を纏っている。
 そこに僅かな圧迫感を覚えつつも、私は簡単に着流しの襟を正して撤去した神棚のある場所辺りに正座し、今はない神棚に納まっている産土神に気休めの願を掛けた。
 ……まあ、気休めと言っても願掛けは最初から最後まできちんとすることにしている。手を抜いたりしたら後が怖い。

 最初に一揖、二礼、二拍手。
 ——無礼な事を致しますが、どうかお怒りになりませんように。
 ——口の端に上がった祟りや呪いが、他の人達にも及びませんように。
 ——そしてこの真夏の酔狂を、酔狂として終らせてください。
 ————産土神よ、私達に加護をお与えください。
 願を掛け終わり、合掌を解いて一礼、一揖。

 その時。
 ぎしりと心臓が痛く軋み、微かな殺気めいた気配が背を刺す。それは私の真後ろまで来たところで恰も見えない何かに弾かれるように慌てて姿を消したが、私はその一瞬だけで全身冷や汗塗れ、呼吸も自然に止めてしまっていた。それに、先程の僅かだか研ぎ澄まされた針より鋭い気配の余韻が全身を戒めており、姿勢が一糸も崩せない。
 それでも深い溜息を吐き、物理的には無い神棚からそっぽを向くと、何とかその緊迫感からも逃れられた。
 全く、始まる三十分前からこんな調子じゃ、百話目を迎えたときが思いやられる。
 まあ良い。とりあえず危難は去った。
 暫し戸を閉めて空気の流れを読み、静まっていたそれがそれとなくざわめき始めた頃、私は用意していたマッチを擦ってそれを小さな仏壇用の蝋燭に移して種火を作り、四つ固めた行灯の周りを更に囲むように置いた四つの炉に火を入れる。途端に何とも言えぬ抹香臭いにおいが漂い、それに伴って、波が引くようにざわめきも消えていった。
 どうやらかなり除霊効果が強いようだが、十分置いておけば煙と共に薄れるだろう。そうであってくれないと困る。それに、この辺りの呼吸をあのチャラい兄ちゃんが間違えるとは思っていない。思ってたらキリがないし。

 あの人懐っこそうな神主の顔を思い出し、炉から立つ煙にやや閉口しつつ、待つこと十五分。
 参加者が徐々に集まり始め、表がガヤガヤと慌しい雰囲気を纏い始めたところで、私は火種として燭台に残していた蝋燭で、四つの行灯の中に二十五本ずつ入った百匁蝋燭に火をつける。灯心に火が灯るたびに、じゅ、と侘しい音が微かに響き、また蝋燭の柔らかな橙色の光は行灯に貼られた青紙を通る内に不気味な黝さを帯びる。
 百本全てにつけ終わったとき、部屋は隅々まで黝く染まった。
 私はずいぶん短くなった仏壇用の白い蝋燭に残った火種を吹き消し、無遠慮な声と足音を廊下の向こうから聞きつつ、自分に割り当てた席——神棚に一番近い席から時計回りに三番目の座布団に行灯を蹴倒さないよう注意して歩み寄り、座布団の上に置かれたブリキの箱を横に退けて正座する。
 最後にもう一度服装を正してふと部屋と廊下とを別つ襖の方へ目を向けると、丁度そこがガラリと音を立てて開いた。

Re: 奇怪譚座談会 ——『古書肆・千刻堂』 ( No.3 )
日時: 2010/12/16 00:34
名前: L.A.Bustle ◆zdZJw9S3Zc (ID: nYs2x9iq)
参照: 猫の容姿は『人工憑霊蠱猫』より「蠱猫」をモデルにしています。


 今回の座談会の参加者は、主催補佐である私を含め十名。
 私の同僚である桜庭、桐峰、萩原、藤堂、座談会主催者であり私の勤める本屋の店主である菊間とその細君である桔梗、菊間の友人杉下、近所に住む高校生の蓮如と椎木、そして私、榎本である。皆怪談や奇談と言った不可解なものや催し物には犬のように飛びついてくる好奇心の塊のような者達だ。
 普段の皆は催し物の会場でもきゃあきゃあと黄色い声を上げて平然としているところだが、今回は事前の御祓いを異常なまでに徹底した上この異常なまでの過剰防衛がある。誰も喋ろうとしない。そして一体全体この中の何人が本当に御祓いをしたかは知らないが、部屋に入ろうとしたメンバーの内、桜庭はただ一人、ひくりと肩を震わせて立ち止まってしまった。

 青い光の中でもそうと分かるほどに蒼褪めた顔で立ちすくむ桜庭に、萩原の飄々とした声が掛かる。
 「ん、どしたそこ? 早く入れよ」
 「いや……その、入ろうとしたら凄い頭痛がしてな……」
 入れないんだよ、と桜庭。
 そうなのか、と問う萩原に桜庭は黙って頷き、やはり氷漬けになったかのように固まったまま。救済を求めるような視線は一気に私へと集まり、私はわざと大仰に腕を組んで彼を睨んでみせる。顔を引き攣らせて半歩ほど後ずさる彼の姿は正に蛇に睨まれた蛙、何となく滑稽だが、同時にとても辛そうだ。

 だが、私は敢えて強い口調で責めた。
 「だから御祓いに行けとあれほど念を押したんじゃないか」
 「いや、憑かれ易い体質だから一応行ったんだけどな、俺。なんていうか、お前んチの門をくぐった直後くらいからこんな調子だぜ。左肩が痛いし重い」
 桜庭の返答。思ったままを口に出す。
 「何? 可笑しいな、門の周りにいる奴等は叩けば落ちるんだが」
 「何て言うんだろうな……憑いてるっていうより、しがみ付かれてるって感じか」
 そう言って頻りに彼は左肩と首の辺りを押さえている。
 私は席を立って車座になっている皆の背後を通り抜け、皆が家の門をくぐるときにくっ付けてきた、百物語の最中に些細な怪を齎すザコ——三つ頭の鷽や四つ翼の鷹や双頭の蛇、派手派手しい模様の蝶、十本足の蜘蛛などを軽く肩を突いて祓い落としながら桜庭の元へ向かう。
 彼の肩には七本の尻尾を持つ白猫が首に爪を立てて鎮座していた。
 なるほど落ちないはずだと私は勝手に自己完結させ、微かに燐光を放つ「それ」の喉元を撫でて少し懐かせてからひょいと首根っこを掴み、そのまま床に降ろす。
 床に降ろされた白い雌猫はぺたりとその場に尻をつき、七本の尻尾を別々に振りつつ、何やら物寂しそうに私を円らな碧い瞳で見上げる。私は「おお、肩が軽くなった」と感動する桜庭を部屋に通して所定の位置に座らせ、暫し猫を見つめ返してみた。するとどうやら彼女には害が無いらしいので、彼女自身に憑いていたザコを突いて剥がして、中へ引き入れる。
 どこか笑んだように見えたのは、恐らく目の錯覚ではないだろう。

 再び遠回りに歩く私の後ろを、猫はとたとたと足音を立てながらついて来る。しかし、猫自身は私以外の人間には見えないため、後ろを通られた人間は「何!?」と大袈裟に声を上げて後ろを振り向いた。そこに何も無いだけに余計に恐怖は倍増、まだ始まる前だというのに、辺りには痛いほどの静けさが漂う。

 みゃおぅ。

 猫が一声、可愛らしい声で鳴き、胡坐を掻いて座る私の肩の上に飛び乗って頬を擦り付けてくる。私はそれを可愛いと思えるのだが、姿の見えない者はただ慄くばかり、「何か聞こえなかったか?」と問う桜庭の声も幾分震え、おうとかああとか返す皆の顔もひくひくと引き攣っている。大丈夫かこいつ等。
 私はがちがちに緊張の糸を張り詰めている皆に向け、ゆるりと声を上げてみせた。
 「安心しろよ、足音も鳴き声もさっき桜庭の肩にしがみ付いてた憑物で、私の家に居付いている猫のものだ。憑物になるとどうしても封に弾かれてしまうが、憑かれても肩が少々重くなるだけで実質害はないから。ただ、少々人懐っこいようだから話している最中に歩き回るかも知れんな」
 「い、厭なこと言うなよ! 俺に憑いてたモノが部屋をうろつきまわってるってことだろ、それ!?」
 桜庭の引き攣った声。他の皆は虚勢を張るので精一杯らしく、笑いとも怒りとも怯えともつかぬ奇妙な表情で私を見ている。始まる前からこんなことで時間を食うとは思っていなかったため、私は極僅かずつだが確実に短くなっていく蝋燭を危惧しつつ、肩の上の猫に少々視線を送る。
 みゃあ、とまた一声。その瞬間、私の右隣に座っていた藤堂が凄まじいジト目で私を睨みつけ、暫しの沈黙の後、「あんたに憑いてる」と鋭い刃のような的確且つバッサリとした言葉を放った。途端に素っ頓狂な顔をして私に視線を集めた皆へ、私は黙って肯定の頷きを返す。
 「一度憑いた人間にはしつこいようだね」
 「それって」
 「皆まで言うな桜庭、この子は招き猫みたいなもんだぞ、何かいい事があるかもしれんだろ?」
 そこまで言ってやれ解決……と思いきや、藤堂が余計な口を挟んだ。
 「それでモノホンの妖怪を連れて来たりして。だってあんた拝み屋じゃない」
 関係ないと思うんだが。寧ろお前のほうが良く引き寄せてるじゃないか。
 もう言い返すのも面倒だったので、私は藤堂の肩に止まって羽を開いたり閉じたりしている三つ目の蜻蛉を叩いて落とそうとしてみるが、落ちなかったので思いっきり横から肩をどついてみる。蜻蛉がへろへろと飛び去ると同時、藤堂は「何するのよ!」ときつく眉を顰めて私の脇腹を肘で突いてきた。
 もろ急所に入った。
 撲り方が甘かったからまだしも、私は体が軟弱なことを念頭に入れてほしい。
 痛い脇腹を押さえつつ、私は皆へ声を掛ける。
 「とりあえず——何か怪があっても私が何とかするから。早く始めよう。蝋燭は十時間しか持たないんだ」
 「結局は現実主義なんだな。ま、何某か怪があったときに頼りに出来るのはエノさんだけだ、頼りにしてるよ」
 少々尊大な口調で言う菊間の声を無視し、私は突き放すように、声を張り上げた。


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