ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

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Walking___終
日時: 2011/02/08 21:57
名前: 深山羊 (ID: /w7jENjD)

初めまして。深山羊みやまひつじと申します。
小説を書くのは何度目かでありますがこちらに投稿させていただくのは初めてなので色々と面倒を見てやってもらえるとうれしく思います。

小説を書くのは何度目かと言っておりますが至らぬ点は多々あると思いますのでよければご指摘など頂けるととても助かったり嬉しかったりします。
もちろん応援コメントも頂けると励みになります。

※本作品は完結しております。

〜本編をお読みになられる前に〜
当作品はグロテスクな表現や暴力的な表現を含みます。
ジャンルはサスペンス的なものとさせていただきます。
自己責任でお読みください。(実際そこまで描写が上手いとは言い難いので微妙なところですが(苦笑))

この物語完結しておりますが後味は微妙に良いものとは言い難いので続きもある程度作れはしますがその予定は当分ないのでその点も踏まえてご覧下さい。

では、不甲斐ないながらも私の物語をご覧ください。

目次

>>1 第0章

>>2 >>4 >>6-11第1章

>>14-18 第2章

>>19-21 第3章

>>22-23 最終章

>>24 ××章

>>25 あとがき

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Walking -第2章- ( No.16 )
日時: 2011/01/26 00:21
名前: 深山羊 (ID: /w7jENjD)

「おや、早いね」
 焼きトオモロコシを食べていた。どこで買ったんだよ。
「荷物取りに行くだけだったからな、これから届けなくちゃならない、一人で帰れるよな」
 こっちには目もくれず行きかう人を見ながら
「子供じゃあるまいし」
 生意気ぬかしよってからに。しかしながら俺より強い事実。
「見た目だけなら子供だ」
 皮肉っぽくそういうと食べ終えたトオモロコシを捨ててふむと考え
「それは良いことを聞いた。ちょっとロリコンをから狩ってくる」
 ちょっと何するつもりですか。
「イントネーションに違和感を感じたのは気のせいか?」
「気にするな」
 気のせいではないと言う訳ですね。
「何でもいいけど殺人犯を見つけることを忘れてないよな」
 正直何を考えているか分からない時がある。あぁと小さく息をつき
「大丈夫そっちもなんとかするさ」
「心当たりでもあんのか?」
 思いのほか手っ取り早く終わりそうだ。
「ぼちぼちといったところかな」
 どこから取り出したのか棒付きキャンディーを咥えながらシニカルに笑う
「早期決着になりそうだな」
「さてね」
 そういって立ち上がり背を向けた。
「どこ行くんですか」
 一応引きとめてみるが止まってもらっても困ることに気がつく
「お買いものだよ」
 またシニカルに笑って足取り軽く人ごみに入っていく。
「俺は地道に脚で稼ぎますよ」
 とりあえずは聞き込みか何か、駄目なら遺体現場を調べるか。
「じゃあ後で」
 人ごみの中から聞こえる声に溜息一つついてから「了解」と言って別方向へ歩き出した。


   ◆


 依頼を受けた日から二日目。完全に失念していたお遣いを思い出し急いでマスターに届けモノをする羽目に。
 足が無いと面倒だろうと言われてウルカから貰った(買ってもらった)バイクに跨りマスターの店へと向かう。
 朝からかったるいがしかたない、予定より数時間早い行動になっているがそれもまた一興。早起きは三文の徳ということだし。実際三文得したところで二束三文だが。
 三つ目の信号待ちをしていると視界の端にウルカを捕えた。朝から何をしているのかと行く先に目をやると行列のできたケーキ屋が目に入った。
 何人もの女性やたまに男の人が居たりとか、目を引くような顔をした女性も。最後尾に居る店員さんがボードを持ち立っている。朝からご苦労なことで……。
 ウルカも並ぶのだろうと考えていたら信号が青になっていたのでアクセルをひねりギアを上げクラッチを開きながらバイクを動かし目的地に急いだ。
 その後何回か交差点を曲がり奇妙な道を行く。
 どんどん人が減っていき最後には指で数えられる人数まで減ったところでバイクを止め目的地に到着。ヘルメットを取り店内に入る。入口の鐘が音を立てるのでマスターがこっちを向く。
「行って来てくれたのか?」
 マスターが小さく笑みを浮かべてカウンター席に紅茶を一杯。
「ほい」
 軽くカウンターに叩きつけるようにトンとマスターの前に置く。それを手にしてふたを開けて匂いで確認すると紅茶にミルクをそそぐ。
「飲んでけ」
 そういってマスターは背を向け、珈琲豆を奥にしまいに行ったようだ。一息ついてからミルクティーを口にする。
「甘い」
 ポツリとそう言ってもう一口。紅茶とミルクの絶妙なバランスで醸し出されるまろやかさ。さすがマスターというべきか。

Walking -第2章- ( No.17 )
日時: 2011/01/26 21:54
名前: 深山羊 (ID: /w7jENjD)

 ミルクティーに舌鼓しているとカランカランと入口の鐘が音を立てる。目だけ入口にやると
「あ。」
 自然に言葉が出た。
 入ってきたのはこの間の依頼人の男だった。
 向こうもこちらに気づき何やら慌ててこちらに歩いてくる。
「あの」
 男が切り出してきた。さて、何を言われるのか見物だ。
「申し訳ないんですが犯人の方はまだ」
 ウルカが見当ついてるとか言ってたが俺はしらないから
「いえ、実は依頼内容を変更してもらいたいのですが」
「えっと……。うわっ!」
 全く予想外の言葉に飲みかけのミルクティーをこぼしそうになった。なんとかギリギリこぼさずに済んだが
「詳しく聞かせていただいてもいいですか?」
「お願いします」
 さてさてどうなることか
「この間、偶然なんですが」
 男の表情は真剣そのもの、いったい何を言うのか
「はい」
 適当に相槌を挟む
「殺された彼女が街中を歩いていたんです」
 突拍子の無いこと言われましても
「はぁ」
「僕も言ってて滅茶苦茶だと思います。でも見たんです」
 可能性はないと言えない。というか場合によったらウルカが犯人じゃんそれ……。死人が町にね———ああ。
「もしかして」
 頭で線がつながった。ここに来て一番最初にした聞き込みで聞いた
「はい。数年前から伝播している噂の一つの」
「『黄泉帰り』ですね」
 読んで字のごとくとはこのことか
「はい。毎回毎回首が無くなった人間だけが黄泉から帰ってこれると噂の」
 ピンポイントの理由でのみ無くなった人間を街中で見かけるという。ということは依頼に関しては
「詰まるところ犯人じゃなく蘇ったその彼女を探してほしいと」
「大体はそれで」
 はっきりしない言い方だが間違いじゃないならそれでかまわんさ
「どうしましょうかね」
 多分ウルカなら二つ返事でいいというがめんどくさいのは俺だ。あえて少し考えるフリをする。
 それを見て男は札束をカウンターに叩きつけるように置いた。
「前回の前金は納めてもらっていいです。前金に加算する分として45万用意しました。それに成功報酬に前の65万と45万用意します」
 単純計算で
「合計で200万ってことでいいですか?」
「はい。依頼内容を犯人も見つけられたら見つけていただき優先して彼女を見つけていただければ」
 この男は馬鹿だ、大馬鹿者だ。女一人に200万って……。
 こういうやつが居るから儲かる人間もいるのは確かだが、俺みたいなのとか
「ようするに犯人と彼女を探し出して連れてこいって事ですね」
「概ねその通りです」
 ようやっと納得したのかドヤ顔で頷く。女が生きている可能性を見つけて浮足立ってやがる
 ばれないように一つ溜息をついて。
「僕の一存で変更していいモノじゃないので、一応電話してきて良いですか?」
 携帯を取り出す。
「よろしくお願いします」
 男は合格祈願をする学生の様な顔で頭を下げた。
「じゃあ少し失礼します」
 みっともないな。

Walking-第2章- ( No.18 )
日時: 2011/01/28 20:45
名前: 深山羊 (ID: /w7jENjD)


 店を出て少し曲がった薄暗い所で電話をかける。
 ワンコールが鳴り始めたあとすぐに
『モノクロの玩具の萌子ちゃんでぇーすっ☆あはっ☆いーっぱい可愛がってね☆』

 プツッン。ツーツー。ピッ。

 全く、またかけ間違えたじゃないか、そろそろ携帯変えようかな。あと気のせいか語尾に星が見えた気がする。
 手の中の開いたままの携帯が震え自己主張する。別にお前は悪くないがさすがに頭に来そうだ。
 通話ボタンを押す。
『なんで切るのさ』
 貴様と言う人間は……っ!
「自分の胸に聞け」
 たまには自覚しやがれ変態。
『この無い乳にかい?』
 …………。
「自分で言ってて悲しく無いの?」
 つい聞いてしまった。
『大きいと邪魔なだけだし』
 全く悔しさがこもって無いから本当なんだろうなぁ。
『というか小さくても僕のは感度がいいから』
 なんかどっと疲れる。今回の依頼が終わったらどっか旅行行こう。温泉旅館とか良いかも。
「そろそろ真面目にしてください」
 話を進める為に無理やり切る。
『モノクロんこわーい、ハート』
 ハートと自分の口で言うやつと初めて電話してる。
「口で言うとあざといですよ」
 予想以上にあざとさが染みでることにちょっとびっくり。
『あざといくらいがちょうどいい』
「開きなおらないでください」
『それはそうと、なにようだい?』
 本当にこの人は喧嘩を売るのが大好きな人らしい。
「本当に人が進めたいタイミングで話を進ませてくれませんよね」
『気のせいだ、気のせい』
 気のせいな訳ないでしょうが。
「もういいです。用件は」
 用件だけ手短に伝えると
『うん、構わないよ。というか丁度いいかもね』
 丁度いい?
「もしかして見つけたんですか?」
 仕事が早いというか運のいい奴というか。
『そう言う感度かな』
「日本語でお願いします」
 色々と可笑しいだろうが、あと感じを噛んだのか狙って言ったのかもはっきりしないじゃないか
『どこをどう取っても日本語だよ?』
 本気でどこがおかしいんだというような声色やめろ。
「発言が意味わからなさすぎるでしょうに」
 もっと日本人的な文法にして、というか文法じゃなくて日本語間違えるな
『良かったね、モノクロ君の脳内に僕のエッチなデータが一つ増えたよ』
 こいつの脳内に理性というデータとモラルを書き加える方がいい。
「そんな引き出しはありませんよ」
 残しておいて何の得があるんだか。そーだと思いだしたように切りだしてきた
『写メで送ろうか?』
 声音が高いというか口説くときに使うような声。
「記憶に止めるんでやめてくださいっ!」
 二度と友達を失うような
『もう!我がまま!』
 誰がだよっ!
「依頼内容の追加を承認していただいたという訳で切ります」
『待っ————ツーツー』
 いつもこんな感じで切ってる気がする。
 戻って彼に伝えようか。



 店に入る前に表情を整えて
「どうでしたか?」
 男が不安げな表情を見せる。
「いいそうです」
 それを聞くと安堵の表情を浮かべる。
「では、これが前金です」
 カウンターに札束を置き立ち上がり頭を深く下げて礼をしてから「よろしくお願いします」と残して店を出た。
 それを見ていなくなったのを確認してから溜息を吐く。
「ミルクティーがぬるくなったじゃないか」
 誰知らず一人ごちてぬるくなったミルクティーを一気に飲み干す。
 立ち去ろうとした時店内ではなくさっき出て言った男が戻ってきた。こっちに近づいてくる。
「あの、忘れていたんですが彼女の写真です」
 渡されたのは二人が笑顔で桜の木をバッグにしている写真で本当に幸せそうな笑顔をしている。眼の前の男とは比べ物にならないくらい生き生きとしているのを感じられ哀れみを感じつつも
「わかりました、あずからせていただきます」
 手に取った写真をポケットに入れて軽く頭を下げて男の横を通り過ぎて店を出てバイクにまたがる。
 ヘルメットをかぶりエンジンをかけてアクセルを回し徐々にクラッチを開けるとけたたましい音を立ててバイクが動き出す。
 探偵と言ったら微妙だが足で稼がないとな。

Walking -第3章- ( No.19 )
日時: 2011/01/29 18:36
名前: 深山羊 (ID: /w7jENjD)

 第3章
  -犯人と被害者-


「で、なにか成果はあったのかい?」
 シニカルな笑みを浮かべて笑うウルカ。
「目撃情報なら何点か……」
 屈辱だッ!なんだってこんなことに……ッ!
「ふぅん、へぇー、ほぉー」
 こ・い・つ!
「まぁモノクロ君にしては頑張ったんじゃあないの?」
「不甲斐ない……です」
 男の彼女の居場所を突き止めた上に犯人まで見つけたなんて言われたらこっちだってどうしようもないじゃねぇか……
「今回は運が無かったってことだよ、つぅーぎぃーはぁー、ガンバレ少年」
 日ごろからかってくるのを軽くあしらっているのを根に持っているのか?
「ハイ、ガンバリマス」
 もういいから帰って酒かっくらって寝たい。
 何時だと思ってんの、もう朝だよ朝。昨日の夜から呼ばれ来てみれば全裸待機のウルカに捕縛されて酒を飲まされたり服を着せかえられたり、訳が分からんのを通り過ぎた所でこの仕打ち。
「分かればいいんだよ」
 とりあえず服着ろ、あと顔が真っ赤だぞ見た目未成年。
「出来ればそろそろ解放してほしいんですけど」
「介抱?」
 酔っ払ってても人に喧嘩売るのが得意の様ですね、この野郎
「字が違いますよ」
「知ってるよぉ」
 へらへら笑って拘束されている俺の隣に座って肩に手をかけてポンポンと叩いてくる。
 全く意味がわからない。それに加えこの何もないのに拘束されている状況が訳分からん。何故か体が全く動かない。
「本当に眠いんで帰りたいんですけど」
 そう言うと手に持った酒瓶を無理やり口に突っ込まれ、ゴクゴクと酒が喉を通る。
「はぁ〜い。飲酒運転は事故の元って事で今日は僕ん家にお泊まりだぜっ!」
 自由気まますぎるでしょうがよ
「帰らないから布団かソファー貸してください、もう寝たいです」
「そぉーか、そぉーか」 
 立ち上がり俺も立たされる。そのまま引きずられるようにしてファンシーなドアの前に立たされる。
「初公開!僕の寝室でぇーっすぅ!」
 とーぅの掛け声で思いっきりドアを開け俺の背中を蹴る。
「ぐわっ!」
 受け身が取れないから顔面から床にたたきつけられ———てない。どうやらウルカが止めてくれたみたいだ。
 首だけを真正面に向けると
「…………」
 言葉が出なかった。
 なんというかそのアレだアレ。このベッドは無いな。うん。どこの貴族だよ、つーか貴族でももうちょっと慎ましいわ。
 とりあえず多分だけどシルクのレースに端にヒラヒラしたのが付いてるシーツやらなんやらに屋根みたいなのも付いてるし何より何故かベッドの上は人形だらけ。
 動物やらなんやらに何かは人型をしたのも。
「ひっ」
 ファンシーな人形たちの中に一つだけ日本人形が顔を覗かしていた。
 明らかにこっちを見てる気がするぞっ!怖っ!
「ドゥフフフ」
 明らかに可笑しい笑い声をしながらベッドまで吹き飛ばされる。その際横になったせいで日本人形が目の前にくる形になってしまい悲鳴を上げそう。
「イッツパーティーターイム!とぉーぅ!」
 有名怪盗の三代目よろしく飛んでベットに向かって来た。
「モーノクロちゃぁーん!」
「性別が逆でしょうが!」
 思わず突っ込んでしまうがすでに時遅しこのまではまずい、色々まずい。
 全力で体を動かそうとするが全然動かない、が首が動く。首を上手く使って体を反転させる。
「あっ」
「あっ」
 二人の声が重なった、この時こそ本当にすでに時遅し。ウルカの顔面が迷いなく日本人形と衝突。そのせいでウルカは多分気絶、日本人形は大破。
 そう思うと日本人形が可愛そうな気もする。俺の為にすまなかった、許してくれ。
 伸びてるウルカを横目に体が動くか確かめてみるとあっさり動いたが酒を飲んだ以上バイクの運転はマズイ。
 おとなしくリビングのソファーを借りて寝るとするか……。
 酒臭いリビングの窓を開けて夜風にじゃなくて朝の陽ざしを浴びてからソファーに倒れこむようにして寝る。
 何よりもだがウルカは酒癖が悪いみたいだ、もう二度と一緒に飲みたくない。

Walking -第3章- ( No.20 )
日時: 2011/01/30 20:45
名前: 深山羊 (ID: /w7jENjD)



 ◆


 目が覚めると見たことない天井だった。
 気のせいか体が動かない。もしかして
「おはようモノクロ君」
 嘲笑を含んだ声音と笑み。
「おはよう……ございます」
 一体何なんだ?
「どうにも昨日の記憶が無いんだ。君僕に何かした?」
 いいえ、したのは貴女からですよ。
「いえ、酒を飲んで倒れてたじゃないですか」
 出来るだけ厄介事を回避する方向で会話を進める
「そうか。やっぱりお酒は控えよう」
「なにか昔にやらかしたんですか?」
 ちょっと深刻な面持ちで
「お酒に酔った勢いで手当たり次第に男女関係なく目に入った二人をカップリングして無理やり色々させたりとかしてたらしい」
「もう絶対お酒飲まないでください」
 酒に弱すぎるだろ……。
「いや、ついついね」
 ついついで滅茶苦茶にされたらたまったもんじゃない
「そろそろ動きたいんで解放してください」
「ああ、ごめんごめん」
 そう言うと体に力が入るようになった。
「まあ何はともあれ、今日行きますか?」
 間を開けずに
「盗撮かい?」
 何故ナチュラルにその言葉が出るんだよ
「人を犯罪者に仕立て上げるな」
 つい油断するとこれだ。気が抜けないよ本当。
「今更人様の裸見ても興奮しないよねー。つーか何人も殺してるのにその程度で捕まったんじゃ面白くないしね」
 酔って無くても滅茶苦茶じゃねぇか。
「って、今人様の裸じゃ興奮しないってそれって」
 自分には興奮するってことだよな、ナルシストすぎる。
「安心して」
「何を?」
 嫌な予感しかしない
「君に関しては想像するだけで興奮するから」
「いっぺん死んでしまえ」
 心からそう思う。


  ◆


「ここです」
 借りてきた猫のようにおとなしいウルカ。
「じゃあさっさと終わらせてしまおう」
「もちのロンです」
 やる気はあるみたいだ、そうでなきゃ困る。
 何のために仕事が終わったら旅行しようと誘ったのかわからなくなるから。
「にしても普通のアパート———って訳にはいかないのな」
 どこをどう見ても完全に廃屋。ちょっとしたサバケーにはもってこいの広さだろう。
「急ごうモノクロ君」
 無駄に腕を引っ張るウルカ、なんか俺の方がやる気無くなってきた。
 この猫かぶりの年増おそらくめ。
「それもそうだな」
 特に警戒もせずに屋内に入ろうとした。
「あー。モノクロ君ストップストップ」
 急に足を止めたせいで前のめりにウルカと倒れそうに
「マズイなぁ」
 そうウルカが呟くと体が空中で静止した。
「またですか」
 溜息混じりに言う
「見てみたら分かるけどこの廊下モノフィラメントが張り巡らせてある」
「モノフィラメント?」
 聞きなれない単語に首をかしげる。
「簡単にいえばミクロの糸。いわゆるピアノ線って解釈でいいよ」
「なるほど」
 それは大変だ、うかつに通ると惨劇を招きかねない
「どうするつもりですか?」
 こっちを見てニタリと笑う。
「こうするんだよ」
 ウルカがちょいっと手を廊下に向ける。するとあろうことか糸を張り巡らせていた壁が一瞬で風化して消し去った。
「いつもながら壮大な能力ですよね」
「ふふん」
 自慢げに胸を張る。
 服の上からだと控えめな胸を張っている。
「まあ、なんでもいいですけどね」
 本当に恐ろしい能力だがこちらに敵意が向かなければ頼もしい怪物だ。
「じゃあ行くとしようか」
 上機嫌に歩くウルカ。その後ろを突いていく。そして、扉の前に立つ。
「全く手間取らせてくれちゃって」
 ドアノブを軽くまわして扉を開ける。
 ウルカの向こうの部屋の様子はいたって普通、というよりはファンシーな部屋だった。
「いらっしゃい」
 部屋の奥から女性の声が聞こえた。
「どーもどーも」
 ウルカは当然のように土足でズカズカと上がっていく。
 床を見ると靴を脱ぐ訳ではなさそうなので後ろをそのままついていく。
「結構前からつけてたよね」
 ようやく部屋の中の声の主の顔が目に入った。
「男の彼女?」
 男から預かっていた写真と全く一寸の狂いもなく同じ顔をしていた。
「ん?ああ、そうそう、そうなんだよ」
 あははと可愛らしい表情で笑う。とりあえず一つ目の依頼は完了したわけで
「萌子ちょっとその人見てて」
「どーしてだい?」
「依頼人呼ぶから」
「なーるほど、了解だよ」
 部屋を出て扉の前で携帯を開く。
 何べんかコールしてからつながった。
『もしもし』
 声のトーンが低いというか浮かない声だ。
「もしもし、一色ですが」
『どうしました?』
 どうしたかと聞いて言わりには浮かれた声をに聞こえる。
 一息ついてから
「貴方の彼女見つけましたよ」
 そう言うと間を開けずに
『本当ですかっ!?』
 大声で叫ぶものだから携帯を耳から放してしまう
「ええ」
『どこに居るんですか?』
 冷静さを取り戻したつもりだが声は正直でうわずっている。
「場所を言うんで良ければ依頼料を持ってきてもらえれば」
 言い終わる前に向こうから声が聞こえ
『わかりました!今すぐ行くんで場所の方を』
 せっかちと言うか……。いや探し人が見つかったのだから急ぐのも無理ないか。
「えっとですね———」
 目的地を言うと失礼します、と上擦った声で言われてすぐにきれた。
「ったく……」
 携帯を閉じてポケットに入れて部屋に戻る
 部屋の中ではウルカと女が談笑していた。
「何してるんだ」
 少しきつめの声で聞くと
「世間話だよ」
 軽く受け流されて
「そうだよ」
 ケラケラと女は笑い紅茶を啜る。
 なんだかなぁ……。
「とりあえず、依頼人が来ると思うので俺は外で待ってるよ」
 部屋をでて外の空気を吸う。ミクロの糸、モノフィラメントに気を付けて屋外に。
「はぁ……」
 溜息を付く。なんとか一息付けそうな結果が出そうだ、殺した犯人はすぐにでも見つかるだろう、殺された本人がこうして笑っていたのだから。
 ポケットが震えた。どうやら携帯に電話がかかってきたみたいで


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