ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
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- レベル能力者
- 日時: 2011/06/02 19:18
- 名前: 比奈 (ID: KNtP0BV.)
こんばんは、はじめまして、比奈です、
こないだは挫折したんで今度はしないように頑張ります。
- Re: レベル能力者 ( No.8 )
- 日時: 2011/06/05 19:41
- 名前: 比奈 (ID: KNtP0BV.)
沈黙を破り、先に口を開いたのは爽汰だった。
「…………俺は、やだ」
「は?」
唐突に言われた言葉に心で思ったことが口に出る。
「争い事なんて絶対に起こらない世界にしたい」
「そんな世界に本当に出来ると思っているのか?」
突然、氷のように冷えた声がした。
それと同時に爽汰からぐぁっという声が漏れた。
爽汰はその場に倒れ込んだが、意識はあるようで顔が“ある方向”へと向いた。
そのある方向には如何にも冷血漢そうな男が立っていた。
黒い髪に黒いコートに黒いズボン、黒い靴と全身が黒ずくめといった格好をしていた。
ただ————その男の瞳だけは紅かった。
「“紅狼”……! なんであんたが此処に……、まさかそこの、」
パァン。
銃声だった。
男の手にはいつの間にか手に小型の銃が握りしめられていた。
「煩い、喋るな。俺はお前みたいな綺麗事しか吐かない偽善者が大嫌いなんだ」
異論は認めない、と彼の眼はそう物語っていた。
流石に爽汰も怖気づいたようで押し黙った。
「……で? キミは誰なの? 随分と偉そうだけど」
なんとなく上から目線が気に食わなかったのでギロリと睨む。
そんな俺の様子に驚いたのか一瞬だけ目を見開いた。
だがそれも本当に一瞬ですぐに元に戻り、
「……偉そう? 誰に口を訊いてると思ってるんだか。俺からみたら君のが余程偉そうだけどな」
下から虫のような弱い声で「やめろ、“紅狼”に盾つくな……」と聞こえたが聞き流し、
「まぁキミが誰だろうと関係ないけどね。ただ上から目線でうざいって思っただけだから気にしなくて結構だよ」
- Re: レベル能力者 ( No.9 )
- 日時: 2011/06/07 19:40
- 名前: 比奈 (ID: KNtP0BV.)
俺からしたらその言葉は事実の述べただけなのだが、男はなにが面白かったのか俯いてくつくつと笑いだした。
「…………なにが可笑しいのが簡潔に三十文字以内で述べなよ」
「くくく……いや、なんでもない。ちょっと君が他の人より変わってるなと思っただけだ」
「変わってる?」
怪訝そうに眉を顰めると、
「あぁ、違うな。別に嫌味とか悪い意味じゃない。良い意味で……君は他のクズ野郎とは違って偽善者じゃないらしい。あくまで俺の主観だがな」
「キミも偽善者が嫌いなタイプか。俺もだよ」
そういうと少しだけ口の端が吊りあがり、
「そうか。君とは色々と気が合いそうだ。俺と来い。命令だ」
来いというのはこれから一緒に衣食住と共にするという意味だろう。
俺は迷わず答えを出した。
「やめておこうかな。俺は何人かで行動したりするのが苦手なんだ。それに命令も嫌いだしね」
大袈裟に肩を竦めると————向こうの顔色が変わった。
さっきとは違う、野獣の雰囲気。
獲物を狙うようなその姿はまるで、
“狼”そのものだった。
「……君はそこに人が見えるか?」
男、いや、狼は人差指で無残にも血みどろになっている人を指した。
「言い忘れてたね。俺の視力は左右Aだよ」
皮肉っぽく言う。
「俺は“命令”をしたんだ。頼み事ではない。そこに死んでいる愚か者と一緒になりたくなければ今すぐに俺と来い」
「まだ死にたくないな。俺は出来れば二十歳で死にたいんだ」
「死ぬ年齢にこだわりなどあるものか。言い逃れなんて見苦しいぞ」
「ああ、日本語を間違えた。俺は二十歳じゃなきゃ————“死ねない”んだ」
- Re: レベル能力者 ( No.10 )
- 日時: 2011/06/08 20:36
- 名前: 比奈 (ID: KNtP0BV.)
二度目の沈黙。
狼は無表情に俺の眼を見据え、爽汰は微妙でなにを考えているか解らない。
二度目の沈黙を先に制したのは、腹話術なのかと思うほど小さく口を動かした狼だった。
「…………“死ねない”とは?」
最もだった。
爽汰もそうそう、それ! と言いたげな表情で俺に視線を送って来る。
さっきから爽汰が微妙な顔をしていたのはそのせいだったらしい。
「意味の通りだよ。死ねないんだ。……俺が……、」
すっと右手を首に当て、ぎゅ、と拳をつくる。
「何故死ねないのだ? ……なんてな。答えが判りきってるのに訊くなんてことはしない。そんなことは愚かな者がすることだからな」
が————、と続け、
「君は手放すには惜しい人材だ。拉致してでも連れていく」
狼はさっきと同じ小型の銃を俺の首元に突き当てる。
「“紅狼”! やめろ!」
ずっと黙っていた爽汰が口を開き声を張り上げた。
狼はそれを一瞥し興味無さそうに「黙れ」と、たったの二文字で切り捨てた。
たったの二文字だったがその言葉には怒気が含まれており、気の弱い人間なら倒れてしまうほどの威力だった。
「はいそこストップ」
この張りつめた雰囲気には似合わない気の抜けた声がした。
声の持ち主は狼の後ろに鞭を持って立っていた。
(う、わ。……)
三秒間だった。
三秒間の間、言葉を失った。
何故ならそこに立っていたのは————絶世の美女だったからだ。
茶髪のウェーブを腰まで垂らし、整った顔に一際存在感を醸しだすオッドアイの瞳にスタイルは抜群と、どこを取っても最高の美女だった。
「……美樹か。何故君がここに?」
狼が少し焦ったような顔をしながら眼を彷徨わせる。
「アンタ在る場所に俺在り、が俺の座右の銘だしね。大体あんな大爆発を起こすような馬鹿は俺の知ってるなかではアンタだけ」
- Re: レベル能力者 ( No.11 )
- 日時: 2011/06/09 19:47
- 名前: 比奈 (ID: KNtP0BV.)
ニヤリと美女は黒く笑った。
……なんでかな、後ろに般若が見える。
「何故だ? 何故そこまでして俺を追う?」
「愚問だね。無論アンタを調教したいだけだよ。だけど……ま、今日はこのガキ二匹を逃がしてくれればそれで許してやんよ?」
ガキ二匹とは俺達のことなんだろう。
聞き間違えか単位が違っている気がした。
「……しょうがないな。美樹と殺り合う気は今はない。この場はひとまず引こう」
コートを翻し、背を向け反対側へと歩きだした。
するとなにかを思い出したようにくるりと振り返り、
「言い忘れていたな。俺は神城黒夜だ。黒夜で良い。君は?」
「白色真白。宜しくしないでね」
ニコリと嫌味っぽく愛想笑いを浮かべる。
刹那、美女と黒夜の表情が凍った。
「ぇ、白色真白って…………君が、…………」
「白色……真白? ……まっさか」
上から黒夜、美女の順で言葉が紡がれた。
(二人共……様子が、いや、雰囲気……感じ? なにかが違う。……変わった)
「…………白色真白がいるというだけでも収穫か……。うむ、そうか。では真白。今度会うときには既に————時は満ち、朽ち堕ちるだろう」
一瞬だけ寂しげな表情を魅せた。
その言葉の意味を訊こうと思ったが、黒夜はくるりと背を向け反対側へと歩いていた。
「アンタタイヘンだねーえ。なんでよりにもよって……ね」
美女は同意を求めるように爽汰に視線を向ける。
爽汰は話を振られたことに吃驚したのか「はひゅ!」と声が裏返っていた。
「ふふ。かっわうーぃ。……あ。俺の名前は理想郷嫁。警察やってる」
「警察?」
俺と爽汰の声が見事に被った。
これは当然の反応だ。
一昔前とは違い、この日本という名の無法地帯はもうなにをしても許されるご時世に変貌していたのだ。
勿論今では“まともな人間”なんているはずない。
ましてや警察なんて最もいない存在だ。
「あは。なんで警察なんてこの世界にいんだよって思ったしょー。……さて問題です」
しし、と無邪気な少年のように笑い、
「なんで俺は警察なのに“此処”にいんでしょーっか。八文字ピッタリのシンメトリーで答えましょー」
- Re: レベル能力者 ( No.12 )
- 日時: 2011/06/13 19:06
- 名前: 比奈 (ID: KNtP0BV.)
————まただ。
この人は何度も雰囲気を変える。
空気が読めるとかそういうのではなくて、なんか、また別の。
さっきまでとはまた違う空気を吸い、
「黒夜を捕まえに来たんでしょ?」
「……うん、まあ。そうなんだけどねー。んじゃーヒント。俺は少年のような好奇心の持ち主です。きりっ」
掛けている眼鏡の横をくいっと持ち上げる。
「…………“能力者だからです”」
ぽつりと爽汰が呟くように言った。
「え?」
「噂で聞いたことあんだよ。この辺に超絶美人な自称警察がいるってさあ。凄く、強いらしいって結構有名だし。それにまともな警察だったら売られてるか、カラダ汚されてるか、殺されてるかだろ。それなのに生きてこの場にいるってことはその自称警察も能力者だってこった」
得意げにフッとドヤ顔を決めた。
正直うざくてアッパーをかましそうになる衝動をなんとかして抑える。
……危なっ、あともうちょっとで無意識に足が滑るとこだった。
郷嫁は小さくわお、と漏らし、
「やー俺ってそこまで有名だったんだねー。軽く凄くね? これで暫くは自慢のネタに困らないな。でも美人ではないよ?」
ここ重要ね、と可愛くウィンクを決める。
ずきゅんと爽汰から音が聞こえて来たので見ると、心無しか頬が少しだけ赤に染まっていた。
俺が見ているのに気付くと慌てて「えっと! あの、違うから!」と訂正してきた。
……訂正もなにも、なにも俺は言ってないんだけど。
郷嫁が腕時計を見、「あっ」と短く声をあげると、
「んじゃー俺は今からまた見周り言って来っわー。じゃねー」
郷嫁は確かに笑いながら手を振ってくれた。
————だが、最後に俺の横を通り過ぎるときに言った。
爽汰にも聞こえない程の小声で、
「もうこれ以上俺に関わんないで。————面倒事には巻き込まれたくないよ。……特に“白色”の名を持つ者とは」
その言葉には色々な感情が込められているような気がした。
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