ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

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Cheap 最終話更新 12/7 堂々完結!!!!
日時: 2011/12/08 08:41
名前: 風猫(元:秋空&風  ◆jU80AwU6/. (ID: rR8PsEnv)
参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel2/index.cgi?mode=view&no=17301

       ________



             _________



                                  __________prologue




  あぁ……
  何で? 何で、俺と君は離れ離れになってしまったのだろう?
  君と俺は、愛し合っていた。 愛し合っていた筈なんだ。 
  君の匂いを君の温度を君の鳴らす音を……淡い唇を瞳を細い指を白い肌を長く綺麗な髪を…………


  愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛……愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛…………愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛
  愛してる! 全てを……俺の目に映るお前の全てを……全て統べて全てすべて全て!

  本当に本当に本当に、本気で愛して居たんだ。
  アイツに、お前は取られていないだろうか? 昔は、無邪気に川の辺や裏山をかけて鬼ごっこしたり虫取りしたりしたあいつ。

  お前は気付いていないかも知れないけど……あいつもお前を愛していたんだぜ?
  だから、俺は親父が転勤するって時、絶望したんだ。 俺の愛が途絶えた瞬間だと思ったんだ。
  永遠に、この俺達の生まれ育った街と別れるような感覚に襲われて……君の存在自体無くなってしまった様な気がして……
  抵抗したさ。 俺の愛は、こんな所で潰えるべきじゃ無いんだって……転勤の原因になった親父に殴りかかって……
  当時小学生の非力な俺じゃ逆に叩き伏せられて……

  あぁ、絶望したね。 絶望した……俺の世界から初恋の人が霧散して消えたんだ。
  そして、俺の幼稚園の頃からの相棒に俺の愛した女は奪われた。 
  奪われた。 奪われた。 奪われた。 あいつも彼女の事を愛して居たのは明確だった。
  確信めいた感覚が俺の中に有る。 いっつもアイツは、俺の横を虎視眈々と狙ってた。
  小学生の頃のクラスの連中も言ってた。 彼女は、可憐で優しくて儚くて皆の羨望の的だった。
  あいつは、彼女と逸早く親しい関係を作った俺に、ゴマを擦って……俺の愛を横取りしようと……


「だが、まぁ、そんな事はもう、どうでも良いんだ。 お前が、彼女を独占していられる時間ももう、終るんだ。 
なぁ……紅木咲レオ。 俺が、転校しなけりゃ永遠に愛を手に入れられなかった銀メダリスト」
  
  だが、もう、そんな事はどうでも良い。
  俺は、還って来た。 あいつ等の居る街に……親父は、こんな遠くに、行かせられないと五月蝿かったが構わない。
  俺は、是から生まれ故郷で一人暮らしをして……奪われた愛を取り戻す。
  もう、そいつと彼女が別れている可能性が有るだろうだって?
  あぁ……有るかもな? だが、俺は、この故郷から離れてもあいつ等と常にメールを送りあい相互連絡を取ってきた。
  分るさ……分るんだよ? 俺には……
  あの野郎の笑っている顔が、気に食わない!

                   〜The end〜


___________________________________________

初めましての方は、初めまして。
お久し振りの方は、お久し振り。
常連の方は何時も有難う御座います^^
此度は、短編小説を書こうと思い立ち立てさせて貰いました。
短編小説は書き慣れていないので何かと不備も有ると思いますが、暖かい眼で見てもらえれば幸いです。

=====お客様=====

朝倉疾風様
玖龍様
生死騎士様
黎様
夕凪旋風様
野宮詩織様
狒牙様


今の所、7名のお客様が着てくださりました!


======目次======
第一話「再開」              
>>6
第二話「偽りの平穏」           
>>7
第三話「迫り来る死」           
>>15
第四話「悪夢の空、地獄の大地」   
>>21
第五話「阿鼻叫喚」
Part1 >>26 Part2 >>31 Part3 >>36
第六話「失った命の意味」
>>42
第七話「戦うしか無い……」
>>45
第八話「迷走……迷走! 迷走する意思」
>>50
第九話「明日夢」
>>52
最終話「チープ」
>>53

キャラクタ紹介 >>8



=====注意事項=====
一、更新は速くはないと思います。
二、グロ描写が多く入ると思います。 苦手な方はリターン。
三、チェンメや荒し、宣伝などは出来れば止めて頂きたいです。


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Re: Cheap 第五話更新 Part1 9/10 コメ求む! ( No.27 )
日時: 2011/09/18 23:14
名前: 風猫(元:風  ◆jU80AwU6/. (ID: z8eW1f9u)

Cheap(チープ) 〜第五話「阿鼻叫喚」Part1

何これ?

何なのコレは————?


  建物が崩れている。 家が、崩落している。 衝撃でガス爆発でも起したのか煙が、至る所から上がっている。
  死。 死! 死死死死死死死死死死死死死死死死死死死! 死———————、おびただしい死の群れ。
  脳漿が漏れている物、体に大きな穴が開いている、内臓が散乱していて……グチャグチャで。
  血がドパ……ドパドパドパ……ドパドパドパドパドパドパ! ドパドパドパドパドパドパドパドパドパドパドパドパドパドパドパドパドパドパドパドパドパドパドパドパドパドパドパドパドパドパ! 死! 死死死死死死死死死死死死死死死死死死死  死体、死死死死死死死死死死死死死死死死死死! 圧死! 刺殺体! バラバラ死体!

  望んでいない。 何で、あたしの愛する街がこんな事になっているの? あたしが何か、悪い事をしたの?
  紅木咲レオが、死んだ時、恐怖を感じた。 それと同時に、彼が大切な存在だと思い知った気がする。
  あたしと春水の邪魔をする鬱陶しい奴。 そんな風に長い間、思い込ませていたのに…………
  居なくなった瞬間、彼の事ばかり考えて。 彼に助けられた自分が、彼に毒づきながらも笑顔を見せていた事を思い出して! 何人死んでいるの? 目の前に、あたしより小さい位の可愛いって言葉がお似合いなくらいな少年達。
  紅木咲レオ。 見知らぬ数人の人々。 老若男女問わず。 
  あぁ、巨大トンボに持ち上げられていたサラリーマンの中年さんが押された。
  ゴチャリ、歪な音が、耳朶に響く。 あぁ、あの高度からアスファルトに叩きつけられた。 死んだ。 彼も。
  嫌だ……

「こんなの嫌だよ……」
「誰が望む。 こんな光景を……誰がッッッ! 望む!?」

  意図せずしてあたしの口からは、弱音が零れていた。 今まで、必死に隠していた本心。 
  口にしたらその瞬間からこの現実を受け入れて何だか、自分が、生きてしまっていることに嫌悪しそうで……
絶望で、動けなくなってしまいそうで鎖していた言葉がポロリと発露した現実。
  嫌だ。 あたしは、春水とあたしの蜜月を邪魔する! 小うるさくさえずる黒薙ちゃんみたいな輩は大嫌いだけど。
  この町は、この町に住む人達は基本的に大好きだ。 嫌だ……嫌だ嫌嫌嫌嫌嫌————何で、こんなことに!?

「あぁ、カブトムシの奴も近付いてきてるなぁ……死ぬんならさ。 いっそ楽に————」

  ゴメン。 
  名前も知らない少年。 生きる為に全力でしがみつけとか言っておいて…あたしが、生きる気を失ってしまったようだよ。
  ゴメン、君の短い人生は……————? え? 痛い。 頬が、何かに叩かれたような衝撃音。 遅れてくる鈍痛。
  あぁ、殴られた。 パーで。 誰に? 決まってる。 今のこの状況であたしを殴るなんてことする人一人しかいない
  あぁ……まだ、まだ! 彼は、春水は、生きる覚悟を持っている! この絶望を逃げ延びて未来を掴もうとしている。
  あたしが、こんなじゃ駄目じゃないか!? カブトムシが確実に近付いている。
  既に、数匹の巨大昆虫が、あたし達に目をつけている様だ。 まだ、まだまだ走れる。
  嘗めるなよ……昆虫風情が、人間様を見下ろしてんじゃないわよ! そうだ。 活力を入れろ!
  無理矢理でも奮い立たせろ! 逃げ延びて生延びてこいつ等を殲滅して春水と愛を育んで! 明るい未来が待っている!
  あたしは、名も知らぬ少年を一段と強く抱き締めて走り出した。 春水と一緒に。

「お姉ちゃん!?」
「…………死なせない。 君は、あたしが護るから……君は、目を瞑って耳を塞いであたしに全力でしがみ付いて居て」

  生延びる。 一滴の希望も無い。 本当に? 今の時点で生きているのならそれで希望だ!
  殺されてしまった。 恐らくは、突然の襲来に浮き足立って何が何だか理解する事も出来ない内に。 行動も起せず。
  あたし達には、行動を起し事態の危険性を把握する余裕があった。 その時点で、周りに散乱する無残な死体達よりは救われてる。
  そうだ。 彼等のためにも……生延びて奴等を殲滅する義務が私にはある。 そんな気がする。
  突然抱き締められ奇声を上げる少年。 恐らくは、あたしの胸の感触が、顔の辺りかな? 柔らかい感触を感じているだろう。
  そして、実は赤面していたりして……そんな事を考える程度の余裕が有るのだ。
  生延びられる。 兎に角、この子にはこの視界に広がる阿鼻叫喚の地獄は、辛すぎる。
  精一杯に外界の情報を遮断する事を勧めて、あたし達は走り出す。 周囲を確認して危険が一番少ないルートを計測し。

「蟷螂の居る方を走り抜けるのは馬鹿な話よね!」
「上空にも注意しろ。 空も地獄だ!」

  正面には蟷螂が居た。 右側の通路には、蜻蛉が飛んでいるのが見える。 然し、左側には、脅威は見当たらない。
  あたし達は左折し走る。 その瞬間、体の構造上級に止る事の出来ないカブトムシが、正面にあった家々に衝突し薙倒す。
  室内に居た人間の体が、宙に投げ出されるのが視認できた。 
  恐らくは、外に出たくても外の状況を見てしまい出れなかったのだろう。 可愛そうに。
  どうやらカブトムシは、蟷螂と臨戦態勢に入ったようだ。 当面の危機は逃れたといって良いだろうか。
  いや、甘いか。 彼等だけが脅威とは限らない。 恐らくは、絶対に他にも化物昆虫どもは居る。
  春水の言う上空が危険なのも分る。 蜻蛉とか蜂とか、危険そうな虫は幾らでも居る。
  上下左右前後、全ての方向に注意を張り巡らせる。 体感時間が何時もの十倍にも感じられるのは嘘ではないだろう。
  ヤバイ、この緊張感何時まで続くの? 辛い……今すぐ、この子を投げ捨てて春水に慰めて貰いたいくらい。
  でも、この子を捨てるのも何とも後味が悪いではないか。 こんな時、自信の面倒見の良さと言うかお人好しが恨めしい。

「うわあぁぁぁぁぁ! 何なんだ一体!? 突然、蟻が巨大化しやがっ……ガペッ!」
「……突然!?」

  道成りに走っていると絶叫する声がそこら中から響き渡る。 まるでパニック映画のワンシーン。
  この悲鳴が心地よく感じられるような変態野郎なら気楽なのに。 凄絶な大殺戮。 
  あたし達は、いと小さき彼等に絶対的と言って良いほどの優位感を感じてさえ居たのではないか?
  ゆえに、容易く潰し命を奪い住処を追い遣ってきた。 
其れに対する恨みだとでも言うかのように目の前に居る人々を根こそぎ殺す。 怪物達。
  唯、本能に忠実なだけのはずの生物達に何か理由付けをするのは、あたしが所詮は常識的な人間だからだろうか。
  そんな事を考えて居ると何度目かの交差点に差し掛かった時、程近い場所から絶叫が上がる。
  高めの男性の声。 どうやら、巨大化した蟻の一撃で命を絶たれたらしい……
  命を絶たれたとか、逝去したとか衝天したとか死滅したとか……今まで、全然身近じゃなかったのに。
  非日常に憧れる少女を気取った事はあっても本気で憧れた事など無いのに……
  えっ、って言うかあの人……突然、巨大化したって……春水も反応しているし……
  どう言う事だ? あのカブトムシが現れてから不可解だ。 
  いや、そんな事は生延びてから考える事だろう! 今は、兎に角必死……



                        「蟻……一匹じゃ無い? 五……十…………十五!?」


  え? 何だ是……ガタッ……歯が恐怖でッ……極端に寒い冬のアレ何て言ったっけ歯軋り……? 違う!
  ガタッ……ガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタッッッッッ! ヤバイ、恐怖で脳内が真っ白だ。
  本当に、空間を認識する目と絶望の足音を知らせる耳だけが正常で……是、ゲームオーバー?
  あたしは、せり返ってくる吐瀉物の妙な苦味と酸味の有る味に咽びながら体の力を弛緩させ、少年を腕から落とした。
  律儀にあたしの言付けを守っていた少年は、ノロノロと耳から手をどけ目を開き……周りの地獄絵図を見詰る。
  その余りの現実離れした様に、彼は、立ち尽くし暫くして失禁してその場に崩れ落ちた。

「あっ……あはっ、蟻……? 蟻が、人を食べてる……巣に運び込もうとしている?」

  見たままの光景を少年はただただ、口にするしか出来ない。 
  体中を小刻みに震わせガチガチと歯を打ち鳴らし大粒の涙を浮かべている。
  当たり前だ。 こんなの、酷いよ。
  
「逃げるぞ! こっちだ!」
「あっ、この子……はっ!?」

  緊迫感より遥かに勝る絶望感。 今迄の人生の空虚さ。 人の命の儚さ。 ヤバイ。 死ぬ。 逃げ切れる?
  逃げ切れないなら楽に死ねば……あの大顎に噛み付かれたらあたしの胴なんて容易くちぎられるだろう。
  実際、通りには多くの人達の切断死体が散乱していた。 内臓も血液もこの鉄錆びた鼻につく臭気も……慣れたくないのに!
  思考が再び停止する。 回せよ頭の回転……周れよギア、何、潤滑油が無いみたいにギチギチと……
  瞬間、手を引かれた。 春水に思い切り。 子供の事はどうするのだとあたしは、訴える。
  然し、その瞬間迫り来ていた蟻に少年は殺されてしまった。
  酷い。 あんまりだ。 あんな若くて……未来ある子が……酷い。 あぁ、頭が麻痺してボキャブラリが減ってる。 情けない。
  あの子が死んであたしが生延びたのは唯の運。
  この距離の差。 逃げ切れるわけが無い。 あたしが、思考を停止させたから招いた結果。
  最後まで足掻く。 その意思が無かった結果。 

「どう言う事だよ……何で、助けるような素振りを……!?」

  パパ、ママ……そして、お姉ちゃん、金次……ゴメン。 あたし死ぬ。 死んだ……
  あれ? 何で……あたし生きてるんだ? 生きてる。 あれ? えっ……カブトムシ?
  あの雑木林で見た巨大な……蟷螂を打破して此処に来た。 何故、春水じゃないけど……あたし達を助けたように見える。

「春水君。 刹那ちゃん……助けに来た」

  カブトムシは……喋る物なの? 疑問……現実的じゃない疑問————……


⇒Parat2へ   

Re: Cheap 第五話更新 Part1 9/10 コメ求む! ( No.28 )
日時: 2011/09/19 00:43
名前: 朝倉疾風 (ID: mGOQ1xar)
参照: http://ameblo.jp/ix3x-luv/



グループの女の子たちが
ワイワイ言っているのを
聞いているだけです。笑

どうも、そういうのに疎い
ようなので……朝倉は…。

虫なんてもう……見たく
ないです。 怖いです。
撲滅運動をそろそろ開始
したいと思うのだけれど。

うひゃ〜グロっちいです〜。
蟻がどうして人を食べるんですか。
女王蟻の命令ですか?

しかもカブトムシ喋りました。
本当はいい人……虫なのかしら。

Re: Cheap 第五話更新 Part1 9/10 コメ求む! ( No.29 )
日時: 2011/09/20 21:16
名前: 風猫(元:風  ◆jU80AwU6/. (ID: z8eW1f9u)

朝倉疾風様へ

君だけだよ……最近来るの。 有り難いよ!
詰り、君はそのグループに居るのね。 疎外感有って辛いですよね(汗
無理矢理でも話しに入り込んで見ると言うのも話がこじれてしまうし……
所で朝倉様自身は恋愛に興味がお有りで? いや、君位の年で興味ないなんて無いと思うけれど(汗

撲滅運動ですか!?
そっそれはタンまです(汗
虫さん居なくなったら鳥さんとかが困るのです(汗
うーん、蟻には人間もセミの死骸とかと同じように見えるのでしょうね(汗

カブトムシは……どうなんだろうね?

Re: Cheap 第五話更新 Part1 9/10 コメ求む! ( No.31 )
日時: 2011/09/22 23:10
名前: 風猫(元:風  ◆jU80AwU6/. (ID: z8eW1f9u)

Cheap(チープ) 〜第五話「阿鼻叫喚」Part2

「春水君。 刹那ちゃん……助けに来た」

 カブトムシ喋った。 間違いなく今、あたし達の名前を口に出して助けるって言った。
  せっ説明を求む! 何を言っているかあたし自信も分らない! とにかく有りえないが、現実に……れれれれれっ?
  意味が……はひゃっ……はっ、わっけが!? 何でしゃべる。 カブトムシは声帯とかないからしゃべるとかできるはずがないのに!
  そもそも、声帯があったところで這いつくばった四速歩行じゃ構造の都合上、言葉をはっするのは、無理!
  無理! でも、現に……訳が分らない。 そもそも何で彼は、あたし等の名を知っているの?
  ふと、過去の残影があたしの脳内を巡る。 それは、あの初夏の思い出。 まだ、幼かったあたし達。
  春水君が、引っ越す前の……あたし達が過ごした小学生時代最後の夏。

             ————「そうだぁ、カブトムシさんに名前付けようよぅ! あたしは、ルチアって名前が良いなぁ」

  ルチアって名前にしたいって言った理由は覚えていない。 多分、その頃好きだった小説のキャラクタだった気がする。
  今だったら多分、アリアとか口走る気がする。 
  でも、そんな女っぽい名前却下って言われて廃案になったのは良い思い出。
  それで結局さ……「戒」、戒って名前になった! 多分、ある忍者物の漫画の主人公の名前。
  そう言えばPS2でもそんな名前のイケメン忍者が主人公なの有ったような。 
  あうあうあうあうあう……なんでこんな事を考えているんだあたし!?
  それで、あたし達は、彼に自己紹介した。 これも言い出したのはあたし。 


                   「あたしの名前は刹那っての! ほらほら、皆も戒に自己紹介!」————

  今にして思えばばかばかしい。 虫に人の言葉なんて通じないのに……とか、今となっては思い出したら恥ずかしくなる記憶。
  でも、でもさ……でもでもでもでも……でも、やっぱりさ。 あたし達の名前を知っているカブトムシとか彼しか……

「戒——————ッ?」

  あたしは、無意識にその名を口にした。
  ハッとなりあたしは、唇に手を当てる。 
  彼は、そんなほうけたあたしや春水を護るように身をていし頑強な体を盾にし続ける。
  人間の体など紙切れのように噛み千切るあの怪物蟻たち。 
  万力のような強力な顎の攻撃を物ともせず振り回し人の居ないと思われる場所に! あるいは迫り来る後続の蟻に投げつける。
  時には、自らの角で蟻を宙へと放り投げたり鋭い鉄すら軽く貫通させそうな足で踏みしだく。
  まさに蹂躙だ。 頼もしくも恐ろしい。 彼等が、巨大じゃなかったのは、彼らだけの世界になってしまうゆえ?

「あぁ、覚えていたくれた俺のこと。 助けに来たよ! 何でカブトムシなのに今まで生きているのかとか、この巨大な昆虫達は何なんだとか、色々な疑問があるだろうけど今は、聞かないでくれ! 生き残る事を優先するんだ!」
 
  無口に戦いつけるカブトムシの背中を見詰め、もしかしたら違ったのかなと不安になる。
  でも、だったら何で……あたし達を護ろうという組織が居てその組織は巨大昆虫で巨大昆虫に抵抗しているとか?
  厨二も良い所だ! そんな答えの出ない問答をあたしは続ける。 となりには、呆然とした春水。
  ひとしきり暴れ周り蟻どもを殲滅するとカブトムシは、正対した。 どうやら、先ほどのあたしの問い忘れていなかったらしい。
  どうやら、本当に戒らしい……正直、自分で言っておいて驚きだ。 聞きたい事が、山ほどある。
  でも、今は、確かにそれを聞いているほどの余裕はなさそうで、彼に従う方が良さそう。
  言い終えるより速く戒は、羽を広げた。 何をと怪訝に思ったが、どうやら自身の甲殻であたし達を護ると言うことらしい。
  どうやって、中に入ればいいのか……そもそもスペースは有るのか疑問に思ったが、どうやら、ご丁寧に昇降用の取っ手がある。
  人の手が加えられているのが丸分りだ。 酷い。 昆虫だって痛覚はある。 痛いだろうに……
  それと同時に理解する。 彼は、今までの唯、巨大な輩と違い人の手で直接改造された存在。
  そして、この巨大昆虫の件は恐らくこの巨大化した戒と連動している。
  生物テロでもやろうとしている奴がいるのだろうか? それとも実益ある実験の過程での失敗?
  今は、分らないけど考えない方が良さそうだ。
  ところで紅木咲レオを殺したカブトムシでは無いよね? 
  どうなのかな……
  あたし達が、戒の背中まで到達すると羽の部分が折りたたまれ薄暗く狭い空間へと変貌する。
  外の地獄を無防備に走るよりは余程良いけどね。 正直、思ったより臭いもないし……ってか、無臭だし。
  羽に寄りかかると柔らかいわけじゃないけど意外と心地良い。 それに、甲殻の隙間から陽光が漏れるから真っ暗闇でも無いしね。

「ねぇ、群青原君……どう思う? 戒だよ……有りえなくない!?」
「あぁ、有り得ない! だが、現実と思わざるを得ない。
俺は、めまいがすると同時に何年ぶりの再会を祝う気分だ。 レオが居ないのが……残念だ」

  あたしの言葉に、春水は、疲労の溜った、でも、嬉々とした声で答えた。 最後だけ少し寂しそうに……
  あぁ、紅木咲レオが、居たらどう言っているだろう。 切ない。
  勇気を出して聞いてみよう。 そう、決心する。 カブトムシの音感知器官は……毛です。
  うん、背中にも見事に生えてるわね。 いや、良い男とか思ったわけじゃ決して無いぞ! 無い……からな!
  気色悪い!

「ねぇ、戒?」
「ん?」

  反応した。 よし、聞こう。 春水は、沈黙してあたしが何を言うのか伺っている。 何よ? 別に悪い事言う気じゃ無いよ?

「紅木咲レオが、いないこと何で気にしないの?」

  あたしの言葉に対して沈黙。
  春水は、あたしの質問に「俺も聞こうと思っていた」と、一言。

「……そうだ、レオ君! レオ君は、どうしたんだ!?」
「とぼけるなよ!? お前の左前脚に血がこびり付いていた! あれは……あれは、あの赤い血は紅木咲レオの血だろう!」

  心底、疑問符を浮かべたようなどもった声。 低く響く威厳のある声の性か余計になせけない。
  あぁ、彼じゃない。 当然だよ。 彼が戒なら……紅木咲レオを殺す理由なんてあるはずがないもの!
  でも、それに対して間髪いれずに春水が、怒声を上げる。 今まで、紅木咲レオに関して何も語ろうとしなかった彼。
  心の底では猛々しいほどに怒っていたのね? あたしもその血痕は目撃したのだけど……あたしは、そう思いたくなかったのよ。
  だって、そう思ってしまったら少し戒を……殺したくなってしまう。 真相を待つ。

「…………違う。 この血は……いや、そうだ。 そうだ……これは、これは、レオ君の血!?
あぁ、俺は、あの禁忌の力に当てられ意識を失って……!」

  まるで記憶が混濁しているかのような不明瞭な感覚。 でも、彼は、次第に思い出したというような雰囲気で懺悔しだす。
  そ……んな? 無いよ。 えっ、そもそも禁忌の力とか……分らない。 何も……分らない。

「もう、良いよ……戒に罪は……無いと思う。 だから、その……ちょっと、暗いな? 眠たくなっちゃう」

  もう、これ以上辛い思いを今はしたく無い。 唯、今はそう思った。 
  眠い。 疲れた。 眠ることが出来るならそれでも良いのだけれど……この町を離れる事になるのなら……
  最後にこの町の姿を焼き付けたい。 昔とは、変ってしまった町だけどあたしの町なんだ。
  ボロボロのグチャグチャに倒壊して崩落して人の死体や巨大な昆虫たちが跋扈しているけど愛した場所なんだ……

「……甲殻の部分、実は、取っ手がある。 そこを引くと外の景色をみることができる」

  戒は、心底辛そうな憔悴した声で、自分の体に施された機能を教える。
  あぁ、本当に……体を弄り回されたのだな。 そう、思いながら取っ手を探し当てそれを開く。
  光が眩しい。 「んっ」と、小さくうめき声が漏れる。 下を見下ろすとやっぱり、残酷な地獄絵図が展開していた。
  彼は、その強固な鎧に物を言わせ相手を意にも介さずに通り抜ける。
  人間が居れば、その人間を護るために力を振るうけど助けられた人々は、助けて貰ったと認識する事はなくただただ、恐怖に茫然自失として倒れこむだけ。 当然だろう。 はたから見たら気紛れの連鎖に過ぎない。
  誰にも感謝はされずとも彼は、人がいれば人に肩入れする。 最も、その先は構ってくれないけど。
  
  戒は、あたし達を乗せて無言で走行を続ける。 あたし達も二人より沿いながらも会話が見付からない状況が続く。
  外を見るのも飽きたというか……疲れたので十分ぐらいしてからは外の様子も見なくなった。
  悲鳴や死の羽音が、何度も聞こえるが巨大な要塞の中に居るあたし達は気楽なものだ。
  大概は、この昆虫王の外壁により衝撃すら感じる事はないのだから。
 
「蟻! 巨大な蟻が何匹もッ!?
 こんな……蟻は蟻らしく平民が貴族にすりつぶされる様にしていれば良いのですわッ!」

  そんな時間が暫く経って。
  突然、聞きなれた声が聞こえて来た。 
  それは、かつてのクラスメイトだった黒薙さんの声。 病院送りになった彼女は、今だ入院中。
  そして、結果、取り残された。 巨大昆虫の大量出現に対しての非難と言うのかな? 逃走かしらのアナウンスは、既に何度も繰り返されているし……取り残されたという事で有っているだろう。 黒薙さんは、自力で何とか歩く程度の体力は戻っていたから残された。
  でも、何とかアナウンスを聞いて現実を受け入れ歩いて逃げ出した頃にはこの様と言う訳か。
  他人事ながらに憐れだな。 あぁ、良く見るとやっぱり美人だ。
  彼女の目の前には、数対の蟻。 戒と蟻達の距離は決して近くはない。 あぁ、あれは、助からないな。 黒薙さんの頬には、春水に殴られた傷跡が生々しく残されていた。 もう直ぐ、もっと痛ましい大きな傷を負って事切れる。

「ねぇ、あの子覚えてる?」
「あぁ、黒薙夢路ね? 覚えてる……俺達の邪魔した奴第一号だ。 でも、こんな死に方は憐れだな」

  フルネームで完璧に覚えている辺り彼らしいなぁ……
  見た所、黒薙さんは、何人かの老人や子供を引き連れている。 どうやら、老人たちを先導していたらしい。
  見掛け通りリーダー気質で意外とお節介なのかしら。 まぁ、死んでしまう人間なので考察も無意味かなぁ……

「お姉ちゃん! 僕、死んじゃうの!?」
「そんな弱気なことを簡単に言うのは止しなさい! 私が……私が、護るって言ったでしょう疾風!」

  無理だって……黒薙ちゃんの声を聞いてあたしは、憮然とした声でそう、口にしてしまった。
  結局その後、黒薙ちゃん達は、全員殺されてしまった。 
  最後に盾になるようにして一番走ることの出来る状態にある少年、疾風を護った姿は、賞賛に値した。
  その勇気ある行動のお陰で疾風君と言う少年だけは護られたのだから。

⇒Part3へ
  
  

  

Re: Cheap 第五話更新 Part2 9/20 コメ求む! ( No.32 )
日時: 2011/09/22 19:47
名前: 夕凪旋風 ◆PQzQy5g.72 (ID: aOQVtgWR)
参照: だぁっから、僕は神凪和乃なんだって! 別人じゃないよって!

初めまして。
トレモロさんの雑談スレで、ちょこちょこっと顔を覗かせている夕凪ですw
「死」とか「ドパドパ」という言葉を何度も繰り返される度ビクッとなる今日この頃。

描写が丁寧なだけに凄惨な状況を想像してしまいました。
大人の文章ってやつですかね。感嘆です。
あと、「チープ」というタイトルだったので、個人的にこう賭け事みたいな話を想像していたのですが(何故?)、
もう完全に不意をつかれました。
ちょろっと出てきた「チープ」という言葉の使い方に、「あぁ」とか一人で納得してましたよw 
こういうハラハラした話はたまりませんw
因みに僕はカブトムシよりクワガタ派ですn(ry

それでは更新頑張って下さい。


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