ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
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- なかなかどうして、世界は歪なものである。
- 日時: 2011/10/12 04:06
- 名前: すずか (ID: gKVa1CPc)
- 参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel1/index.cgi?mode=view&no=25449
タイトルはどこまでもフィーリングなのだ。
覚えてる人がいなくなった頃合いを見計らってしれっと舞い戻ってみた。
どこまでも見切り発車でやってのける。完結を一度ぐらいしてみたいものです。
※ある登場人物は、自分が大好きなゲームキャラをモデルにしています。知っている人なら一発でわかるかと
※参照URLはコメディ・ライト板にて書いてる小説です。コメディ直球ど真ん中です。
中二病フルスロットル全開
参照3桁突破アリガトーゴザイマス
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- 10 ( No.10 )
- 日時: 2011/09/19 01:10
- 名前: すずか (ID: GSdZuDdd)
「龍人なんて、死ぬまで関わりなんてないと思ってたのです」
ベルの言葉に、イルは深く同意した。
龍人。龍と人の間に生まれた者の血を引く系列の中で、通例の儀式を行った者のみがそう称されると言われている。儀式の真相は、未だ定かではない。普段は人の目を誤魔化すため、人間の姿であるとされている。しかし、それはあくまで見た目だけなのだ。
圧倒的な破壊力。龍人が持っている力は、それに尽きる。凄まじい身体能力に加え、全属性の高等魔術を自由に使いこなす彼らにとっては、一個小隊程度は小石ほどの存在である。
そんな脅威の存在である彼等だが、血が薄まっていっているということもあり、現代で龍人が発見されたという情報は1つもない。イルも、龍人は昔話に登場するだけのものだと、てっきり思い込んでいた。しかし、龍人の血というのはそうそう簡単に薄まるものではなかったらしい。
「相手としても、龍殺しの弓があると分かってのこのことやって来るとは思えない。騒乱に紛れて奪い壊してしまおうとでも考えているのだろう」
「壊すって、龍殺しの弓は龍人にも効くんですか?それで弓を?」
「いや、効くとかそういう問題ではなく、長年の恨みつらみを晴らしたいという魂胆らしい。まあ、先祖である龍を狩ったそのものとも言えるからな。他にも理由はありそうだが、今までの文献ではそれぐらいしか情報がない」
シンはかなり知識を蓄えているのだろう。龍殺しの弓を扱える者として、責任を感じているらしい。
「だがまあ、警戒は怠るべきではないが、こちらからは動きようがない。それに、いくら破壊の導き手とされていようが突然殺戮を始めることはないだろう。こちらが龍殺しの弓をちらつかせないぶんには、向こうも動きようがないだろうから、しばらくは様子見だな」
「了解しました」
ベルが敬礼をするのを見て、慌ててそれに倣う。珍しく、シンが薄く微笑んだ。しかし、それは自嘲の笑みでもあった。
「おそらくこれは、俺がいたから引き起こしてしまった問題なんだろうな。この国を、お前達を巻き込んでしまって本当にすまない。何があっても、この国は必ず守る」
その発言に、イルは少し距離を置かれていることを感じた。だが、ためらいがちに、イルは言葉を紡ぐ。
「隊長個人の問題では、ありません」
「ん?」
「この国が小さいながらも、近隣国から舐められず対等に見られているのは隊長がいるからです。この国には、隊長が不可欠なんです。ですから、隊長が抱えている問題は国の問題でもあり、俺の問題でもあります」
シンは一瞬、目を見開いて黙りこくってしまった。それから、再び軽く微笑んだ。今度は、嘲笑ではなく、苦笑だった。
「お前は、俺を美化しすぎだ」
「憧れの人というものは、美化してしまうものなんです」
ベルはそのやりとりに、クスクスと笑いを漏らした。
- 11 ( No.11 )
- 日時: 2011/09/21 23:07
- 名前: すずか (ID: B9tAUYch)
シンの言う通り、それ以降龍殺しの弓絡みのいざこざは全く起こらず、平穏な毎日が続いていた。
そんな中、イルは再びショータの元へと訪れようとしている。龍人の件もあり、イルはますます鍛錬を行うようになっていた。
ショータの家は情報屋を営んでいる。情報屋では、他国の動きや城下町での大きな事件といった情報の仕入れ、個人の依頼の受け付けと解決いった、言わば何でも屋である。依頼も情報販売も安価であり、城下町では割と名が知れている。
情報屋の扉を叩く。パタパタと中から音がして、扉が開けられた。
「はいはい……あれ、イル君。久しぶりー」
「おう、久しぶり。ショータはいるか?」
扉を開けた人物は、ショータと全く同じ顔をしていた。しかし、ショータとは違う点が2つ。1つ、ショータならば見ることができないような柔和な笑顔をうかべている点。2つ、右目の瞳孔が真っ白である点。彼が、ショータの双子の弟のウィルである。
「ごめんねー、今ショータいないんだよ。依頼で他国へ行く貿易商人さんの護衛を仕っちゃってさ」
「あ、そうか……。そりゃ、いっつも暇ってわけじゃないよな」
「変なとこ抜けてるよね、イル君は。まあ入ってよ、僕は暇だよ」
来る前に予定を擦り合わせておけばよかったと、後悔する。ウィルはクスクスと笑いながら、イルを招き入れた。ウィルの歩き方は特徴的だ。ひょこひょこと、左足を軸にして右足を引きずるように歩く。ウィルは右足が不自由なのである。
どさりとソファーに座りこんでから、ウィルは右手を前にかざす。ウィルの周囲の空気がざわりと湧き立ち、遠くにある木製の古びた椅子が浮き上がって飛んだ。そのままふわふわと移動し、イルの手前へと着地した。
「かけてかけて」
「サンキュ。相変わらず便利な魔法だよ、それ」
「ほんとにねー。魔術師でよかったよ」
へらへらと笑いながら、右手の人差指をクルクル回す。ウィルは、風属性を操る魔術師として、エレム国で屈指の実力を誇る。ショータの弟の名に恥じない戦闘力を持っているが、いかんせん不自由な身体のパーツが多いため、あまり表には出てこない。
「で、ショータに何の様なの?」
「いや、鍛錬の相手を頼もうと思ったんだ。忙しいならしょうがない」
シンには到底敵わないが、イルの実力は小隊長の中でもトップとされている。稽古をつけようにも、自分よりも力のある相手は地位が高すぎて稽古をしてもらう時間が合わず、結局イルは本気を出せずじまいであった。
「うーん、僕が相手に……なれないなあ」
「俺は隊長じゃないからな……」
「あの人が人間じゃないだけじゃない?」
剣術と魔術は相性が悪く、あまり稽古としては意味がない。遠距離である魔術が圧倒的に有利なのだ。シンが稽古の際、魔法を剣で捌いている光景を見たが、あれは力量として反則ではないかとイルは思っている。
- 12 ( No.12 )
- 日時: 2011/09/22 21:50
- 名前: すずか (ID: B9tAUYch)
「せっかく来たのに申し訳ないね。せめてお茶ぐらいは飲んで行ってよ」
「あ、気にするなよ。立たなくて良いぞ」
「大丈夫大丈夫、こっちは13年間これなんだからもう慣れっこだよ」
立つのを止めようとするのを振り切り、やかんを取り出し机に置く。灰皿に火種を入れ、マッチで火を付けるのと同時にやかんが宙に浮いた。思わずイルは苦笑する。
「……何かさ、それはそれで良いと思うんだがな、」
「ん?」
「もっと他に使うべき場所があるんじゃね?」
「いーのいーの」
相も変わらずニコニコ笑いながら、ウィルはひらひらと手を振る。
「わざわざ出向いて使う必要はないって。面倒くさいもん」
「魔術協会が泣くぞ?」
「泣かしておけばいーの。どうしてもって時は行ってあげてるんだから」
少しおどけながらそう言うウィルに、イルはそれもそうかと納得した。
そこでやかんから湯気が噴出したので、ウィルが2人分の茶を注ぐ。イルが礼を言いながら受け取ると、あまり嗅いだ事のない匂いが漂った。
「不思議な匂いだな、これ。他国の茶か?」
「うん、サカエ兄が好きなんだ」
「へえ。そういえば、サカエさんは今日はいないのか?」
「いるよ?奥で昼寝してる」
ウィルは兄と呼んでいるが、サカエがこの双子と血が繋がっていない事は、一目見ればすぐに分かる。双子は黒髪に薄い茶色の瞳だが、サカエは髪の色は金に近い茶色、そして紅い瞳。エレム国では見ない瞳の色なので、綺麗な顔立ちをしているのも相まって、人目を引く。
興味があったのでイルは若干失礼か、と思いながらも質問をしてしまった。
「今更聞いていいのか分からないんだけどさ」
「サカエ兄との関係?」
「あ、ああ」
「だろうと思ったよ。何か気まずそうだったもん」
へらっと笑って質問を受け入れ、答えを口にした。
「まあ普通に俺らを拾って育ててくれたんだけどね」
「ちょっと待て、お前らって18だよな?サカエさんってまだ20ちょいじゃないのか?」
「ん?サカエ兄は38だよ」
「はあ!?」
思わず大声を出してしまい、ウィルが咄嗟に耳を塞いだ。その大勢のまま話を続ける。
「言ってなかったっけ。サカエ兄は物凄い若く見えるんだよね」
「いや、それでも38って……本当かよ。絶対見えねー」
「だろうねー。一発でそれっぽい年齢推測したのシンさんぐらいだよ。あの人本当に人間なの?」
「……多分人間だろ」
サカエとシンは友好がある。時折シンもここに訪れ、サカエと軽く会話をすることがあるらしい。
- 13 ( No.13 )
- 日時: 2011/09/24 21:18
- 名前: すずか (ID: lYj7ms9H)
「シンさんは本当に凄いと思うよ。流石国王直属軍隊長だね」
「だろ?」
「何でイル君が得意げなのさ?」
「俺が世界で一番尊敬している方だからな」
憧れのシンが褒められ、イルは鼻高々である。
ふと気になって、イルはサカエについて尋ねてみた。
「ウィル、今はお前とショータがここを切り盛りしてるけど、その前はサカエさんがここを切り盛りしてたのか? サカエさんが仕事してるところ、見たことないんだが」
「いや、それまではここに住んでなかった。旅人的な感じだったのかなー、今思えば。色んな国を転々としてた」
「へえ」
生まれも育ちもエレム国のイルとしては、そのような生活は全く想像できなかった。他国に行ったことも、小隊長として公務で行った経験を除くと皆無である。
「お前、ここに来て何年だったっけ」
「もうすぐ5年かな」
「拾われたのは?」
「5,6歳だったと思うよ。懐かしいね」
ウィルが少し目を細める。その向かいで、イルは不審に思った点があった。
サカエとは何度か会っているが、彼は闘いも魔法もからっきしだと本人から聞いた。そんな人物が、まだ年端もいかない子どもを2人連れて何故無事でいれたのだろうか。
「なあ、ウィル」
「あ、ちょっと待って」
疑問を投げかけようとすると、ピクリと肩を震わせたウィルが片手でイルの言葉を遮り、窓の方を向く。イルも釣られて視線を動かすと、コツコツと窓を叩く緑色の小さな狐がいた。ウィルが使役する風の使い魔である。ウィルは、ウィンと名付けていた。
「ごめんイル、窓開けてやってくれない?」
イルが窓を開けるとウィンは中に飛び込み、ちょこんとウィルの前に鎮座した。
「どこに行かせてたんだ?」
「ショータの付添い。いつも誰かが遠出する時は連れて行かせてる」
『イルもいたのか』
ショータの声が、ウィンから発された。ウィンの特殊能力の1つに、声の振動を風に乗せて遠距離でも会話をさせるというものがある。ただし、どちらの居場所もウィンが把握していないと会話ができない。
「ショータ、どうしたの?何があった?」
『かなり酷い情報が入った。丁度良い、イル、エレム国軍代表として今から言う情報を買え』
ショータが買え、と推すものは全て半端ではない情報であることをイルは知っているので、二つ返事で了承する。
「分かった、買おう。後で請求しろ」
『話が早くて助かる。イル、聞いたら直ぐに報告しに戻れ』
そう喚起し、ショータは信じられない情報をイルに与えた。
『ジャンド国が滅亡した。龍人が原因だ』
- 14 ( No.14 )
- 日時: 2011/10/12 04:04
- 名前: すずか (ID: gKVa1CPc)
詳しい情報は城に戻ってから伝える、とショータが言うのでイルはウィンを連れ、全速力でシンとベルの居る直属軍指揮室へと急いだ。
「ジャンド国が?」
『ええ、俺の目の前で潰れたので確かです』
ショータの報告を受け、シンは顔を険しくした。ベルは真剣な表情で、羊皮紙に何やら書き殴っている。
ジャンド国は、近場ということもありエレム国とは親交が深い。そこが滅亡したとなれば、エレム国が無関係でいられるわけがない。
「目の前、というのはどういうことだ、ショータ」
『商人の護衛の依頼でジャンド国に来ていたのですが、取引が終わりさあ帰ろうとした瞬間、目の前の通りを龍の姿をした炎が通り抜けていきました。勿論通りにいた人は全員、焼け焦げて酷い有様です』
その光景を想像した瞬間、イルは吐き気がした。きっと、現実世界とは思えないようなものだったのだろう。
『そのままその炎は城を包み込んで、そこからは炎による殺戮でした。意思があるかのように国中を動き回って、燃えていない建物は一軒もないような状態です。国民も、おそらく8割以上は既に命はないかと』
「それが龍人の仕業だと、何故分かったんだ?」
イルの疑問には、シンが答えた。
「魔術と龍は属性的に非常に相性が悪く、龍が関連するような魔法は、魔術師には使えない。だから、その魔法が使えるのは、どちらの属性も素質として生まれた時から兼ね備えている龍人だけだ」
『流石に知識が豊富ですね』
「ショータ、龍人の姿は見たか?」
『炎を操る少女がいました。おそらく彼女が龍人かと』
「少女!?」
思わず、イルは素っ頓狂な声を出してしまった。
「外見の詳細は?」
『後ろからしか見ていないので目鼻立ちは分かりません。長い青髪、白めの肌、くすんだこげ茶の羽織りもの、同じ色の丈の短いローブ、そして黒いブーツ。俺が確認できたのはこれだけです」』
「青髪ですか。この辺りには青髪の民族はいないので適合は容易ですね」
ベルが自分に向けて確認をするように言葉を発する。その間も、羊皮紙にペンを走らせる手は止めない。
「ショータ、依頼主達はどうなった?」
『とっくに火の餌食です。すみません、火が回ってきたのでそろそろ切ります』
「分かった、気をつけて戻って来い」
ウィンが窓が飛び出して行った後、シンは椅子に座りこみ、消沈したように目を伏せた。
「挑発行動か」
「そうとしか思えませんね。他にメリットがないです」
トントンと書き殴りの羊皮紙をまとめながら、ベルが同意した。
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