ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

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月の夜 -Moon Night-
日時: 2011/10/02 14:45
名前: 海底2m (ID: aadvXTau)

ベタな題名ですみません。心よりお詫び申し上げます。

注意事項は殆どありません。
*この小説、本当にシリアス・ダークに入れていいのか分かりません

ご協力よろしくお願いしますm_ _m


PS
複雑ファジーで「神々の戦争記」を執筆してます。
更新が週一程度の可能性があるのでご理解のほどを。



目次

プロローグ                                  >>1
第一章 第一話 「変わり果てた世界に生きること」
  Page.1 「運命」                             >>2
  Page.2 「ようこそ月の世界へ」                    >>3
  Page.3 「月市」                             >>4
  Page.4 「綺麗事並べられる時代はもう終わってんだよ」      >>5

Page:1 2 3



Re: 月の夜 -Moon Night- ( No.4 )
日時: 2011/10/01 03:19
名前: 海底2m (ID: Z/4jDFpK)

Page.3 「月市」

「相変わらず…大きいですね」
唯月はぼそっとつぶやく。別に聞かせるつもりはなかったのだが、それは水戸部の耳にも届いた。
「あぁ、最近はもうクレーターが手に取るようにわかるまでに至った。昼間でも月が光ってるしな」
水戸部はそういうと砂まみれの道路を歩いて渡った。
かなり大きな道だが、車は一台も通らない。それが朽ち果てた世界を象徴するようで、唯月は短くため息をついた。
人間、成す術ないな——
いくぞ、と声をかけられて、唯月は水戸部の後を追った。

「わー……」
唯月の開いた口がふさがらない。
それもそのはず、先ほどまで本当に「死んだ街」だったところが、煌々と電灯に照らされ、屋台は並び、
人々は笑いあい、おいしそうな肉の匂いと共に白煙が上がる。
「これが、月市だ」
「月……市…」
月の下で、人はなお「幸せ」を忘れていない。
それを代名しているかのような水戸部の言ったその言葉は、唯月の心に深く沈んだ。

月市は広場のようなところに広がっていた。
円形の広場の中央には、先ほど聞こえた鐘の音を発していたであろう釣鐘が、高い木組みの建物のてっぺんに配置され、
それを取り囲むようにして、様々な出店が光を放っている。
「電気は…?」
「ん?あぁ、昼間に太陽光発電で蓄電しておくんだ。何分この騒ぎだしな。
 ソーラーエネルギーの普及が進んでてよかったぜ」
猛威を振るう太陽は、こういう場で役に立っていたのだ。唯月は自然の力に大きく感動した。
「さてと、まずは住人登録だ」
「住人登録?」
水戸部は何かを探すように辺りを見回した。
「あぁ、この周辺に住んでる人間…少なくとも、この『月市に生活を支えられている人間』は、
 中央銀行ってとこに住人登録する必要がある。
 住人登録が済んだ奴は、IDが配られて、それが月市で物を売買したりするうえでの大前提となる、いわゆる身分証だ」
「はぁ……」
唯月が感心している間にも、水戸部はぐんぐん進んでいった。
途中、「おー水戸部!連れかい?」とか、「なに、息子?」などと話しかけられることがあったが、
水戸部が詳しく説明しないので唯月は軽く会釈するだけで通り過ぎた。

やがて、広場の隅っこに白いテントが張っているのを見つけると、水戸部は小走りになった。
テントの下では、スーツを着た若い男性が二人、事務テーブルを広げ座っている。
水戸部は迷わず、その二人に声をかけた。
「こいつ新入りなんだ。住人登録してやってくれ」
「かしこまりました」
男は一礼すると立ち上がり、テントの後ろに歩いて行った。
しばらくすると、若い男の代わりに初老のおじいちゃんが出てきた。

「うぃ?水戸のべっちゃんぢゃねぇげ。ガキんちょの登録さしに来たんだっべ?」
……水戸のべっちゃん…
と、唯月は心の中でつぶやいた。

Re: 月の夜 -Moon Night- ( No.5 )
日時: 2011/10/02 02:31
名前: 海底2m (ID: aadvXTau)

Page.4 「綺麗事並べられる時代はとうに終わってんだよ」

意味不明な東北弁を話す老人は、名を山口蘭三郎といった。
「まぁ、嘘の名前じゃけんね」
「おいおい!」
控えめに…と自分に言い聞かせてきた唯月だったが、我を忘れて突っ込んでしまった。
水戸部は全く、何も気にしていない様子だ。
「ところでおまさんどっから来たんだっぺが?」
蘭三郎は唯月に問いかけた。
「いえ、あの、ちょっと北の方から……」
「お前さん、もうちょい詳しく説明したらどうだ?」
昼間も簡潔に述べていたせいか、水戸部は咎めるような目つきでこちらを見下ろした。
「あの、茨城なんですけど…東京はどんなのかな〜?と思って上ってきたんです」
「あんの太陽の下を足でぇ?」
蘭三郎は目を丸くした。唯月は静かに首を縦に振る。
「んで、名は?」
「あぁ、確か……」
水戸部はそこまで答えかけて、眉間にしわを寄せてふと上を見上げた。

「…名前なんつーんだ、おまえさん?」
「いや、今ですか!」
あわてて叫んだ口を閉じて名前を言う。
「あの、黒部唯月です。あ、唯月は樹木の方じゃなくて、「唯」に「月」って書くんです。
 変わってますよね?」
「いや、蘭じいの方が一枚上手だな」
水戸部が鑑定するように言うと、蘭三郎は歯がほとんどない口を大きく開けて笑った。
「んま、さっさとしちまうかいな。おまさん、どこに住むんだぇ?」
「うちにしてくれ」
応えかねてたところを、水戸部は唯月より先に口を開いた。
驚いて水戸部を見上げると、水戸部は仏頂面して、蘭三郎を見つめていた。

「はいよ。でぇ、職業は?」
職業?と首をかしげると、水戸部は苦い顔をして頭をかいた。
「そういう問題もあったわけか。いい、とりあえず保留にしてくれ」
「わっぱが決めんと狙われるけん、気ぃつけぃな」
蘭三郎は小さな紙切れに何かをメモしながら言った。
狙われる、というのはどういう意味か。唯月は再び首をかしげた。
水戸部は、唯月が話についていけてないのを察したのか、説明しだした。
「職業ってのは月市に登録してるやつがやってる仕事のことだ。
 肉を獲る奴とかその肉を売る奴とか、それを調理してチキンにする奴とか自分で勝手に決められる。
 だが、何もしないで食うだけ食って寝てると、狙われるんだ。
 つまり、『役立たずだから出てけ』ってことだ」
「なるほど…で、水戸部さんは何の?」
「俺?俺はだなぁ…

                殺し屋」
唯月はポカンと口をあけっぱなしだった。
「殺し屋っつーても、出てけいうてるのに出てかん愚か者がおるきんに。月市のるーるで強制排除ができるけん」
蘭三郎がふぇっふぇっと笑った。
『強制排除』という重苦しい単語は、蘭三郎のその朗らかな笑顔には全くマッチしない。
「どういう…」
唯月はとうとう感情がこらえられなくなった」

「っ、どういうつもりですか!
 職に就いてないからって、それだけで人の命を!?」
「落ち着け。今じゃ月市が生活の柱で月市が法なんだ。
 それに、餌だけ食ってる家畜はうちはいらないしな」
「家畜って……!」
唯月は唇をかみしめた。
「綺麗事並べられる時代はとうに終わってんだよ。五月蠅いからもう黙っとけ」
蘭三郎は何も言わない。

Re: 月の夜 -Moon Night- ( No.6 )
日時: 2011/10/27 02:03
名前: 海底2m (ID: z0WGcjKs)

Page.5 「仕事だ」

「あっれ、水戸部。お連れさん?」
とある倉庫らしき建物の前を通り過ぎる時、興味深そうな声が隣からかかった。
水戸部と同じくらいの年の男がひょいと顔をのぞかせる。

「……俺の連れ」
水戸部はそっけなく言い放った。男はケケケと笑う。
「ははーん、新入りね。一応俺を紹介させてもらうよ。
 名前は芝沢英一。名前は芝沢英一。大事なことなので二度言いましたよ。ここで武器屋をやってる。
 あ、武器屋って別に武器売ってるわけじゃないぜ?
 他の人の武器の管理とか、手入れとか。私物の保管もやってる」

「…よろしくお願いします」
唯月は消え入りそうな声で呟くと少しだけ頭を下げた。
芝沢はまたケケケと笑う。

「お前、仕事はどうしたの?」
「俺の助手だ」
水戸部は言った。芝沢は目を大きくさせた後、ゲラゲラと大爆笑した。

「お前、助手って助ける手って書くんだぞ。
 こいつ今にもお前のこと殴り殺しそうな顔してんじゃん」
「余計なお世話です」
しれっと突っ込むと、唯月はそっぽを向いた。
確かに今なら水戸部を殴り殺せそうな気がする。

水戸部は口を開いた。
「なんにしろ、こいつにゃ色々叩き込まなきゃならねぇからな。
 まだ田舎からすっ飛んできて夢見てやがる」
「言われる筋合いありません」
「なんだこの頑固ジジイと反抗期少年みたいなやり取りは」

芝沢の爆笑に二人は同時に顔をしかめた。
「頑固ジジイって誰だ」
「反抗期少年って誰ですか」

同時に反駁した二人を見て、再び芝沢が腹を抱える。
と、

「!!」
「あ、どうした?」
水戸部は芝沢の問いを無視してポケットから携帯を取り出した。

「はい、もしもし」
水戸部はそのまま倉庫の裏に回ってしまった。残された二人は顔を見合わせる。

しばらくして水戸部が携帯をしまいながら戻ってきた。
「行くぞ」
「え」
唐突に腕を引っ掴まれ、強引に引っ張られた。

「あ、そういやお前名前は?」
「……黒部です」
今更かよ、と内心で毒づきながら名字だけ名乗ると、水戸部の腕に連れられて森の方に入っていった。

「こんなところに森が……」
「まぁな、都市緑化運動の産物だ」         、、
都市緑化運動とは、約100年前——ここが東京が首都だった頃の話だが、大都市に隣接する森をつくろうという運動である。
もちろん、そう簡単に進んだ話ではないのだが、100年も続くと別らしい。

「…ところでどこ行くんですか」
水戸部は拳を口に当て、少々渋ってから口を開いた。


「仕事だ」

Re: 月の夜 -Moon Night- ( No.7 )
日時: 2011/11/01 16:14
名前: 海底2m (ID: 0K2SG.Pl)


Page.6  「自分が良ければそれでいい」

「仕事ってまさか…」
先ほどの「人殺し」という単語が耳から離れないので、唯月は見上げるようにして水戸部を睨んだ。
「安心しろ、要求に応じない場合のみ、だ」

……その要求ッつーのが強制排除なんだろ

その心の中の呟きを口に出せるほど唯月は偉くなく、水戸部と親密ではない。

『ヴ———ッ』
突然バイブレーションの振動音が響き、水戸部が足を止めた。
携帯を取り出し、何やら画面を見つめている。

「どうしたんですか?」
「今回のターゲットの情報だ。うちのボスからメールが入った」
水戸部によると、月市には憲法があるらしく、それを犯した者には『施行令』に基づき裁きが行われる。
 ターゲットにはそれぞれの罪状に見合った裁きがなされ、それを施行するのが、
 水戸部もその一員である『施行人(人殺し)』である。

「あのなーお前さん。人殺し人殺しって言ってるけど最終手段だぞ?
 実際、人殺して裁きを受けて服役してるやつとかは大勢いる。
 しかし、『勤労の義務』を破る人間は退去を命ずることになってる。
 それができなきゃゴートゥーヘルだ」
「なんでそれだけなんですか?」

殺人者はよくてなぜに勤労の義務を負わない人間が退去しなければならないのか。
水戸部は笑った。

「だから夢見てるっつってんだ。
 人は殺しても月市に害はない。しかし働かないとうまく回らないだろ?」
「自分たちがよければそれでいいってんですか!」

その時、水戸部の目が変わった。

「他に何を配慮する必要がある」

水戸部の冷酷な眼差しを見て唯月はようやく知った。
この人は人殺しなんだということ。

そして、水戸部は再び歩みを進めた。

「自分が良ければそれでいい。それが月市『政府』のポリシーだ。
 もっとも、月市『住民』がこの思想を有することは反逆だ」
「……水戸部さんはどっち側ですか」

水戸部は足を止めた。
ゆっくりと振り返り、そしてほほ笑んだ。

「安心しろ、俺はどちら側でもない」

Re: 月の夜 -Moon Night- ( No.8 )
日時: 2011/11/03 01:18
名前: 海底2m (ID: 1LmsB5b0)

Page.7  「いかなる手段を用いても」


月市政府にとって『殺人者』は必要ではない。が、働きさえするのならば不要ではない。

だが『怠け者』はどうだ?働きもせず暢気に飲んで食って寝て。
そんな人間こそ月市には不要だ。

何をしても構わない。だが仕事はしろ。
働くことが月市住民にとっての最重要達成項目であり、裏を返せばそれさえすればなんでもできる。
もちろん『勤労の義務』以外の義務もきちんと存在する。



     月市憲法

第一章 月市
 第一条 月市は月市住民を保有する。
 第四条 月市は月市住民の健全なる生活を保障する。
 第五条 月市は住民登録した何人もを月市住民として認める。

第二章 権利と義務
 第六条 月市住民は、すべての基本的人権の享有を妨げられない。
 第七条 月市住民にはいかなる差別も存在しない。
 第十二条 月市住民は勤労の義務を有する。
 第十三条 月市住民は他の月市住民の安全保障の義務を有する。
 第十四条 月市住民は月市への服従の義務を有する。

第四章 施行令
 第二十五条 月市は、月市憲法を犯したすべての月市住民に対しての罰則の権利を有する。
 第二十六条 罰則は施行人により行われ、これを裁きと呼ぶものとする。
 第二十七条 裁きを受ける月市住民を罪人と呼ぶ。
 第二十八条 罪人は、自らの受ける裁きに対していかなる抵抗も許されない。
 第三十二条 裁きに抵抗する罪人に対して、施行人はその者の生命の剥奪が許される。
 第三十三条 裁きによって発生したいかなる損害も、月市政府は責任を負わないものとする。
 第三十四条 裁きの解除は許されない。
 
























 第三十五条 よって施行人は、いかなる手段を用いても罪人を確保する。


                      (『月市憲法』より一部抜粋)


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