ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

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サクラサクラ
日時: 2011/10/28 21:56
名前: さゑ (ID: s3nHTWkq)
参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel2/index.cgi?mode=view&no=17698


「ひとぉぉお……つ。みぃぃ……っつ。」


ヒトカタ、ヒトカタ。

サクライロノ、ヒトカタ。

大事な大事な、オニンギョウ。

「わぁな……、櫻が作ったおにんぎょう、こーぉやってなぁ?きれぇぇぇに、飾って。飾って、飾って、飾って、飾って」

かわいい、かわいい。


—「ほら!綾!また、母さまに、お裁縫道具を借りてね?可愛いお人形を作ったんだよ?」
サクラが持ってる。可愛いヒトカタ。
私にちっとも似てないけれど、とっても可愛い、ヒトカタ。
桜色の、私の、大好きな、色の、ヒトカタ。
サクラの作る、可愛い、オニンギョウ。
「ありがとう、ありがとう、わぁ、おまえの作るひとかた、大好きなんじゃ、ずっと、ずっと、大事にする」

サクラ、サクラ、目の前にいたのにね。目の前に、いたのにね。
サクライロ。色褪せて、サクラ、見えない。

「サクラ……、サクラ……」

   誰 だ っ け

「櫻って……、誰だっけ。」


ざわ。ざわ。ざわ。ざわ。

「ヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒ、てるだ、てるだ、今日も、てるが来た、わぁの好きな、さくらせんべい、まだあるかな」








サクラ、サクラ、サクラ散ル。

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Re: サクラサクラ ( No.6 )
日時: 2011/10/29 12:21
名前: 優音 ◆XuYU1tsir. (ID: 4z3SNsbs)

あ、そうなんですか;
スミマセン;;

どんな絡み方をするのか、楽しみです♪

Re: サクラサクラ ( No.7 )
日時: 2011/10/29 18:26
名前: さゑ (ID: s3nHTWkq)
参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel2/index.cgi?mode

「今日も友達、明日も友達。私の私の私の大好き大好き、みんな、友達素敵。素敵」

薄暗い部屋には、錆びた裁縫鋏、折れて曲がった待ち針、そして、桜色の布。
溢れんばかりの、桜色の布を纏った、人形。
全部、全部、全部、おんなじ顔をしていて。
人形の目は、そこはかとなく、血の臭いを付きまとわせる。
柔らかな綿を腹いっぱいに詰め込んだ、最高の人形を作りしは、
ここ最近、田舎町から帝都をやってきた、一人のおのぼりさん。
名は、「櫻」とも言って。その櫻とやら、心に、「二人」を宿らせる。
彼女もまた、「飴」の味を、知るもの。
てるてるぼうずの「声」を、知るもの。
双子の死を弔う者。
幼馴染を、想う者。














「しかしなんだね、櫻さん、お前さんは、その冷酷な面とは裏腹に、裁縫上手の料理上手、カフェは人形まみれ、
しかも、こんなお上品なケーキまで作れるもんなぁ、どこの箱入り娘なの?早めに契ろうぜ女前!!
いつかお前さんと入る床の感覚をしたたかに綴った春本でも」

「お前の事情なんぞ知るか、卑しい豚めが。人形を望むのならつめてやろう。
ここで喰らうケーキの残骸を胃から穿り出して、人形と綿をつめてやろうか。
料理が望みならば、腐り果てた残飯を芋虫の体液で和えて、その聞き分けのない耳から流し込んでやろう」

帝都のどこかにあるかは定かではない。
愛らしい人形を店中に飾り立て、桜の香りを漂わせるカフェは、必ずこの大都会のどこかに在る。
一人の店主が切り盛りするその美しい店で出されるケーキは、嗚、誰もが舌を唸らせるほどの美味だという。
桜の塩漬けをふんだんに練りこんだ生地は、ふわふわと焼き上がり、甘いさくらんぼのシロップ漬けがのせられる。
少し前までは珍しかった西洋の焼き菓子。今では大分、帝都で流行りつつ、評判を上げている。
そんな、美味たる焼き菓子や、軽食を提供する、女店主の櫻は、この上ない料理上手、裁縫上手であるとか。
その上、麗人。そして、少々、性格に、難ありだとか……。

Re: サクラサクラ ( No.8 )
日時: 2011/10/29 18:54
名前: さゑ (ID: s3nHTWkq)
参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel2/index.cgi?mode

「相変わらずの毒舌……!貴様には人間の温かみが感じられん!俺の心が冷めていくぢゃないか!
辛いッ!嗚!辛いぞッ!そんな貴様の冷めた心を暖めるためには矢張り俺と同じ床に入れる他手立ては無いかッ!」
こちらは、ここ、カフェ・フンホンの常連である、枩葉と言う男。
気狂い同士の恋、獣と人の戦争、諸々、意味の分からぬ小説ばかりを、まだ若い右手を駆使し綴る奇人である。
この男も、少し前にやってきたおのぼりさんだとか。
こんな変態でも、仕事は以外とほいほいとやってのける。
カフェの焼き菓子に魅入られた男。カフェの紅茶と酒を、櫻が留守の間にブレンドして泥酔した大莫迦者。

「私はもともとこうだ、人様の店内で無法しているお前みたいな男はさっさと心もろとも心臓まで冷めてしまえば、
いっそ心地良いのだが、どうしてくれる、今度は珈琲と米酒を混ぜ込む気ぢゃあるまいな」
「おお!流石は未来の嫁!読みが鋭い!」
この店で、いずれ、殺傷事件が起こる事も読めた事である。
一体いつまで、この男はこの店で焼き菓子を喰うつもりなのだろうか、櫻は、今日も、輝く窓からの景色と、
桜色の衣をまとった人形を見つめながら、頭を痛める。

嗚、嗚、愉快な、愉快な、仲間達。

Re: サクラサクラ ( No.9 )
日時: 2011/10/30 17:45
名前: さゑ (ID: s3nHTWkq)
参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel2/index.cgi?mode

『しつこい。奴。いずれ、殺して、しまおうか』
櫻、櫻、櫻は、二人。
「そういう事を言うな、いずれ……、役に立つ時が来るんだろう」
『嗚、嗚、お前のせいで、あの湿気と腐臭でべとべとした地面を、雨愉通りを離れなければならなくなった。
あの飴をまた食べたいなあ。こんな西洋の焼き菓子なぞ美味くもないッ!
いいや、綾だ、綾に、綾綾綾綾綾綾綾綾綾綾綾綾綾。綾だ。
ごめんね、一人ぼっちにして、ごめんね、もうお人形を作ってやれなくて、ごめんね、あの時お前を守れなくて、
ごめんね、気狂いにしてしまって。
櫻は、お母さんに譲ってもらった裁縫道具を、たくさん持ってるんだ。こんな、友達もいるんだ。
綾、いつか、戻ってくるよ。人形のお風呂に入れてあげる。
てるのお菓子が懐かしいなあ。美味しかったなぁ。甘かったなあ』

昼下がりのカッフェの中。一人はもう一人と話す。
櫻は、体の中で、文句ばかりを垂れ流して。
櫻は、そんな櫻の機嫌を損ねないように。優しく、優しく、優しく。
美味しいお菓子を学んで、綺麗な人形の作り方を習った。
だのに、だのに、可笑しいね。
櫻はまだ、過去の事を拭いきれなくて。過去を知らない櫻に駄々を捏ねて。
自分は何にも出来なくて、あの頃とおんなじような、友人の顔にちっとも似ないお人形しか作れなくて。
お人形に着せる布も、桜色しか選べなくて。
てるのような、美味しい和菓子も、帝都で流行る小洒落た焼き菓子も作れなくて。
櫻はとってもみっともないね。
櫻はまだまだ、子供のまんま。
体を使うのは、すでに友達だけになったんだ。
何故だって?それは、櫻が櫻の友達じゃなくて。
過去の思い出を首輪にして、何でも言う事を聞くように、仕立て上げてしまったからさ。
櫻と櫻は友達。友達。

友達。友達。自らの体を動かすのは、もはや、自分では無い。

Re: サクラサクラ ( No.10 )
日時: 2011/10/30 19:35
名前: さゑ (ID: s3nHTWkq)
参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel2/index.cgi?mode

けらけらけらけら

友達笑う。友達笑う。 私泣く。

「私は今までお前を傷つけない為に……、色々な事をしてやったが。」
『この体は私のだよ。櫻、お前は私の友達。それでいい。」
「すでに、この体を使いこなしているのは私ぢゃないか。お前は一人では何も出来ない。」
『私は容れ物を友達であるお前に提供しているだけ!この体は変わらない、私の容れ物。』
「くくくくくくくく。よく言えた様ぢゃないか。帝都で生きてこられたのは誰のおかげ?
美味しい菓子を作れて、綺麗な人形を作れるのはどっち?
全て、お前のためにしてきた事だ。私が、お前のために。お前が私を望んだんだ。」

「もはや、お前は、この容れ物の中には要らん。
           失せろ」



  



「大丈夫か。櫻。櫻。私の大事な、友達」
布団は、寝汗で、びっちょりと濡れていた。まだ夜は明けていない。
黄昏時と、おんなじような、違うような、まだ、太陽の頭だけが、ちらちらと。輝いている。
『嗚、嗚、嗚、焼き菓子が作れて、人形が作れて、櫻、櫻、お前は私の友達だよな?』
「ああ、私はお前の友達だ、お前と私は、二人で一つ、お前がいなきゃ、壊れてしまう」
『悪い、悪い、夢を見た』

—まだ少し肌寒い。春の都会。大きめの建物が立ち並び、中々日が当たらない。
おかげで、早起きだけ、今は得意。
雨愉通りでは、お天道様が、爛々と輝き、この冷えた体を暖めてくれたけど。
今いずこ。
大分日が差し、灯りを付けなくても明るくなっていた。
少しばかり、きしきしと音を立てる床、少し力を加えたら、ばきっと穴が空きそうになる。
今は早朝四時ぐらい。さあ、仕込みの時間だ。
まだまだてるには追いつきそうにないけれど。
甘くて熱い、焼き菓子を焼こうか。


いつか、壊れるんだろうか



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