ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

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魔人ラプソディ
日時: 2012/04/10 14:15
名前: sora ◆vcRbhehpKE (ID: k5KQofO8)
参照: http://ameblo.jp/gureryu/

始まりましたね、新学期。
桜の花びらが妙に映えて見えます。

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Re: 魔人ラプソディ ( No.15 )
日時: 2012/02/05 19:21
名前: sora ◆vcRbhehpKE (ID: Rl.Tjeyz)

 何? なんなの? 
わけわからない。今何が起きたの? 手品?
え? 何、こ、れ。
あ、やばい。悲鳴出ないわ。

「ねえ、【魔人】って知ってる?」

 え? なに? まじ…?
え…あ…麻雀? 知ってる。でもやったことはない。
でも、あの麻雀漫画は好きだ。ずっと連載続いてるやつ。前に立ち読みしたと思う。
で、麻雀がどうかしたの?
麻雀なら知ってるから、ここから帰して。

「あれ…声出ない? まあいいや。
 とにかく俺だって、【魔人】なんて少し前までは漫画とかの中だけの話だと思ってたよ」

 え、漫画? うん、私も好きだ。
結構いろんな種類の漫画が好きだ。ジャンプの漫画だったり、少女マンガだったりとか。
あ、でもあまり難しいのは読んでるとあたまこんがらがってきてしまうからパス。
ところで、ねえ、ここから出してよ。早く。

「だからホントに見たときはびびったね、マジで!
 どっからどー見ても化け物なんだもん!」

 え…あ、化け物?
あ…確かにそうだね。
今目の前に居るあなたは、どこからどう見たって化け物だ。
怖いからさ、早く逃がしてよお願い。

「そんで、【契約】がうんたらって。
 望みを叶えることが出来る【能力】をやるから、足の親指をくれときたもんだ」

 けー…やく?
のーりょくってなに。足の親指? 嫌だ、あげない。なくなったら困る。痛い。
それより逃がして。早く出してよ。

「そしたら、これだよ!
 最っ高だよ! 人間を食べれる体になっちまった!
 もうたまんねぇ! バッカみてぇにうめーの!
 最初に彼女食った時なんて、旨過ぎて幸せ過ぎてどっか狂っちまうかと思ったね!
 アイツの肉はやわらかくて、口の中でとろけるようで!
 骨は丁度良い硬さで、内臓は独特の噛み応えがあってさ!
 脳ミソは啜った瞬間にすげーキモチイイ気分になって!
 血を最後の一滴まで飲んだ瞬間は最高に幸せだった!
 ……あ…っべー…マジやっべ。思い出したらたまんなくなってきたわ」

 やだ。
何言ってるのか、わからない。怖い。
やだやだやだやだやだ。
見ないで。寄らないで。どっかいって、お願いだから。
やだ、いやだいやだいやだ。

「……やだ…」
「ん……?」

 ———あ。声、出る。
っていうことは、悲鳴、出せる。よね?
 思いっきり息を吸う。
お願い、誰か聞いて。誰かに聞こえて。助けてくれれば、誰でもいいから。
思いっきり悲鳴をあげようとし、た、r

「ぅっ……ぐ、えっ」

 え。あ、やば。
化け物に、首を思いっきり掴まれた。
首ぐきっていった。え…ちょっと、これ、や、ば。
 力が物凄い上に、勢いよく掴まれたから悲鳴は中断。
体の奥、たぶん胃のほうから何かすっぱいものが喉元へせりあがってくるのを感じた。
体が、変に痙攣した。
悲鳴の代わりに、かひゅっ、と情けない空気の音が私の口から出た。
もしかしたら、こいつの爪で喉に穴が開いたりしていないだろうか。
目尻から涙が出そうになる。
 少しぼんやりした視界の中で、目の前に化け物がいる。
グロテスクな指は私の首を掴んだままだ。化け物の指は熱い。
目の前の化け物の口元は弓なりにゆがんでいる。
びっしりと並んだ鋭い牙の隙間からは、ふしゅうふしゅうと息が漏れている。
目は見開かれ、血走ってつりあがっている。
薄暗い中で、獣みたいにぎらぎらと、獲物を狩るみたいな瞳だ。
それらの所為で、まるで悪魔のような、邪悪な笑みという形容詞が、その顔にぴったりと当てはまっていた。

「ば……け、もの」

 やっとの思いで出せた声はかすれていた。
必死になってもそれしか言えない私を嘲笑うかのように、化け物の口の端がさらに歪む。

「ああ、大当たり。俺はあの日人間を捨てた。【魔人】と契約して、化け物になったんだ」

 ぎちぎちと、化け物の牙同士がこすれて不快な音を鳴らす。
よだれが一筋描いて口の端から流れて床に落ちていくのを見た。

「だから、人としてやっちゃいけない事だってやって良いんだ」

 その言葉は私に、こいつは心から化け物だと思わせた。
狂ってて、きっともう歯止めなど利かせることは出来ないのだろう。
で、今、その化け物の興味はほかでもない私に向いている。
 今はっきりとわかった。きっとこれから、私は食べられてしまうのだろう。
けれど最早、怖いとかっていう実感も沸かない。
ただ漠然と、ああ私はこれから死ぬんだなって思った。



   ♪



 現在時刻は午後七時二十一分。現在地はビルの屋上。
向かいのマンションまでの距離は、だいたい十メートル。
 思いっきり屋上の床を蹴る。
体が宙に放り出されて、真正面から夜風がのしかかる。
 目指すは、今回の標的が居る、十七階の六号室。
勢いに身を任せ、僕はその窓に向かって一直線に突っ込んでいった。




Re: 魔人ラプソディ ( No.16 )
日時: 2012/02/05 20:30
名前: 朝倉疾風 (ID: yqB.sJMY)
参照: http://ameblo.jp/asakura-3-hayate/



処女捧げちまえヨ!←


なんていうか、あれです。
やっぱり特殊な力が絡んでるものでしたな!
魔人、契約、そしてグロテスクな腕、化物。
うひひひひひ←
朝倉が化け物のようになってしまうヨ←


なんかテンション高いんですけれど。
あの、困惑して焦燥して恐怖心から声が出せなくて
グルグルグルグルなってて必死で頭の中で整理
しようとしている感じが好きです。


都市伝説が絡んでくるのですね。
足の親指云々だなんて、指切りげんまんを思い出しました。
その魔人が親指を集めながら、能力を周りに広めていったら
怖いですねぇ。 恐ろしいですねぇ。


そして、十七階の六号室の人、逃げて。
何かくるから。 逃げて。

Re: 魔人ラプソディ ( No.17 )
日時: 2012/02/06 18:30
名前: sora ◆vcRbhehpKE (ID: Rl.Tjeyz)

朝倉疾風s⇒
ダメです(笑)

やっぱり特殊な力が絡んでいるものでした。ごめんなさい。
魔人っていったら、ちょっとグロい外見なイメージがあります。
やめてください、怖いです。

本当に混乱したときって、たぶんこうなると思います。
必死でこれが日常なんだと思い込もうと無理やりがんばる。
で、それさえ限界を振り切ってしまうと、今度は変に冷静になって
目の前のことをそのまま受け止めるしか出来なくなりそう。

怖いですね。日本化け物ふぃーばー。ひーはー!
足の指フェチとか、コアにもほどがある魔人さんのようです。
でも実際にいるのかしら。

実は、その誰かとは、彼のことなのです。
ふふふ。

Re: 魔人ラプソディ ( No.18 )
日時: 2012/02/17 14:26
名前: sora ◆vcRbhehpKE (ID: Rl.Tjeyz)

 私の背後で突如巻き起こったその音が、窓ガラスの割れた音だと気づくまでに数秒かかった。
きらきらと、細かく部屋の明かりを反射するガラス片の雨に紛れて、
すたん、と、勢いの割りに簡潔で素っ気無い音を立てて、人影が私の横に舞い降りた。
 それは決して、白馬の王子様などではない。
 人影の容姿は黄色い紐ネクタイに真っ黒なブレザー。長すぎず短すぎない黒髪。

「あ……」

 黒い人影は、素人目から見ても鋭い蹴りを化け物の顎に叩き込む。
下方からの打撃は、相手が十代半ばであろう男性を基にした
化け物であるにもかかわらず化け物の体を宙に浮かせる。
 天井に突っ込んだ化け物の頭部は、電球を破砕して部屋を一気に暗くした。
今度は電球の破片が降り注ぐ。
 少年の攻撃はそれだけにとどまらない。
顎を蹴り上げられがら空きになった腹部に、少年の次の蹴りが叩き込まれた。
派手な音を立てて、吹っ飛ばされた化け物は壁にたたきつけられた。
月明かりだけが、床に散らばったガラスを照らしている。
まるで、いつぞや図鑑で見た星雲か銀河に似てると思った。

 目の前に、星雲の中に佇んでいるのは黒い少年。
私のクラスメイトであり、あの時教室で手帳を読んでいた黒髪の少年だった。

 なぜ、この少年がここにいるのか。
今回ばかりは、どうでもいいでは済まされない。
 開いた口がふさがらないって、きっとこういうことを言うのだろう。
 少年が、こっちを向いた。
 意外そう、というか驚いたように目を見開かれた。驚いてるのはこっちだ。
というか、こいつこんな表情も出来るのか。
いつも教室では、ずっと無表情だったように思うから少し意外だ。

「……ぅあぁー…い、ってぇ」

 金髪の化け物が呻いた。
部屋の奥には月明かりが届いていない。
だから詳しいことは分からないが、無駄に間延びした化け物の声は、
彼がほぼダメージを負っていないことを容易に予測させた。

「これから食べようって時に、突然なんだよ……? びっくりしたぞ、いやマジで」

 ふざけるな。びっくりしたのはこっちだ、全く。

「っつーか、なんだよお前? ここ十七階だぜ?
 しかもこの体ちょっとやそっとじゃビクともしねーのによ、その体のどこにそんな力があるってんだ?
 お前、どー見たって俺より身長小さいのに」

 化け物は黒い少年に問いかけるが、少年は無言を貫く。あまりに無反応過ぎて、話を聞いているかも甚だ怪しい。
もしかして、さっきの、この少年が驚いた顔は相当にレアだったんじゃないだろうかとさえ思う。
 ただ、そういえば確かにそうだ。この華奢な体のどこにそんな力があるというのか。
怪物を二度蹴り飛ばしたり、突如窓から飛び込んできたり。
 目で問いかけても、少年はやはり取り合おうとしない。何か言えよ無愛想。
 化け物も、訊いても無駄だと判断したのだろう。並んだ牙の間からため息の音を聞いた。
そして、みしりと、化け物の足元の床が軋む。
つまり化け物が少年に向かって大きく踏み込んだ音だった。
 まずい。幾らなんでもただの少年が、化け物に勝てるはずが無い。

「しゃーない。お前も喰われ、ろ?」



 宙に舞ったのは、化け物の両腕だった。



 また開いた口がふさがっていないのを自覚した。
吹き出す血でアーチを描きながら、化け物の両腕はそれぞれ、部屋の隅と窓際に落下した。
どむっ、と落下する音が妙に重かったのが印象に残った。
 化け物の目は見開かれている。化け物の牙と牙の隙間が中途半端に開いていた。
バランスを崩したのか化け物は、少年の目の前で膝から落ちた。
 つまりどういうことなのか、全く理解できない。
 答えを求めるように少年の方を見た。
 少年の袖からすらりと伸びていた白く細い手が、真っ黒に染まっていると気付いた。
真っ黒で無骨なかたちをして、指先が鋭く尖っている。

「……テメェ、俺と同じか!?」

 少年を睨み付け、化け物が悪態をつくように吐き捨てた。
 同じ?
つまり、どういうこと?
分からないことに分からないことが積み重なっていく。
 少年は何も言わない。
ただ化け物を見下ろしている。
 化け物は歯噛みしている。
口の端から空気が漏れ出す音が、さっきより獰猛になっているように感じた。
 そしてその口の端が、歪んだ。
 ぐちゅり。
 化け物の膝元から気味の悪い音がしたから見る。
すると、先程刎ね飛ばされたはずの両腕が、ちゃんと切断面から生えていた。
 私が驚いて小さな悲鳴を上げ、化け物は少年につかみかかる。

 そして、今度は化け物の両腕だけでなく両足までもが斬りおとされた。

 巨大な黒い折り紙を鋭角に切ったような刃が四本床に刺さっていた。
 それ以降、化け物の表情は見えなかった。
手も無い足も無い、まるでだるまになった化け物の頭を、少年が黒い手でわしづかみにしたから。
化け物は、頭を掴まれたまま絶叫していた。
この世のものとは思えない、怒気と狂気と焦燥と恐怖をミックスしたような嫌な音だった。
少年に掴まれた化け物の頭部がみしみしと音を上げる度に、強くなっていく雑音。
 やがてそれは、少年が化け物の頭を握り潰すことで、ぷつりとあっけなく途絶えてしまった。
水風船を割ったみたいに血が振り撒かれて、ぼちゃぼちゃと何かが落ちる水っぽい音がした。
それ以降のことは、覚えていない。



Re: 魔人ラプソディ ( No.19 )
日時: 2012/02/07 20:53
名前: sora ◆vcRbhehpKE (ID: Rl.Tjeyz)

 最近このあたりで起こっている連続殺人事件は、ついに十六人目の被害者を迎えた。
被害者は近くの高校の三年生。髪の色は金髪、身長は百八十センチメートル前後。
自宅マンションの十七階で、頭部を粉砕され、四肢を切断された状態で見つかったという。
窓ガラスが割れる音を聞いて近隣住人が通報、その後警察が押しかけたときには、既に犯人の姿はなかった。
現場に残されたものは、遺体と大量の血痕、椅子と縄。散乱したガラス片。
それから、猟奇的な内容が書き記されていた手帳。
人肉はどの部位がおいしいとか、どんな人間の肉がおいしい、とか。
被害者、金髪の高校生が生前から愛用していた、そんなことが書かれている手帳。
それだけだった。
 結論として、金髪の高校生は今回の連続殺人事件の被害者であり、犯人ではない。
これは僕の勝手な推測だが、
彼は人間を食べるのが大好きすぎて、食べた人間を残したことは一度しかなかったのではないか。
その一度というのは、一昨日殺されたこの学校の女子高生、早川ユキリの死体だ。
きっと彼は、僕が頭部を潰した早川ユキリの遺体をたまたま見つけて、食べようとしてやめたのだと思う。
死体になっていて、不味くて食べれなかったからからなのかは知らないけれど。
金髪の彼を犯人だとするならばおそらく、同じく最近この付近で多発していた連続『失踪』事件の方だろう。
なぜなら、死体がないのだから。
被害者は金髪の高校生によって、食べられてしまったのだから。
 そして連続『殺人』事件の犯人である僕は、
迂闊にも昨日、その犯行現場をクラスメイトの美鏡アヤネに目撃されてしまった。
彼女は、標的……つまり金髪の高校生の頭部が潰されると同時に気絶した。
無理もない。疲れていたのだろうし、何よりあの光景は目に良くない。
僕もよく最初のころは吐き気を催していたものだ。
 そして今日、帰りのホームルームが終わるなり美鏡アヤネに屋上に呼び出された僕は、
これから彼女からの事情聴取を受けるところだ。

「昨日の事について、色々訊きたいのだけれど」

 相も変わらずゴシックロリータの黒衣に身を包んだ少女は、僕の前で腕を組んで仁王立ちしている。
ただし、いつも着けているヘッドフォンは今日は着けていないようだ。
昨日の騒動で壊されてしまったのだろう、と判断。代わりに包帯が巻かれていた。

「ねえ……昨日から思っているのだけれど、少しくらいは喋ったらどうかしら」

 一理あるとは思う。
けれど僕にはそれが出来ないのだ。
つまり、喋ることが出来ない。
 だから、僕は彼女に手帳を手渡した。
普通の人が読んだら、たぶん引くような内容が書かれた、僕の手帳を。

「これを読めってこと?」

 僕はうなずいた。
少女は手帳を手に取り、無言でページをめくり始める。
 その手帳の中には、こんなことが書かれている。
 まずは一ページ目。
【魔人】という存在が、実在するということ。
【魔人】は基本的に【魔界】に住んでいるということ。
けれど、時折【魔人】は【魔界】からこの世界、つまり人間界にやってくることがあるということ。
そして人間界にやってきた【魔人】は、人間に【契約】を持ちかけるということ。
その【契約】とは、
『魔人は、契約する人間が望む【力】を与える代わりに、契約する人間の所有物を貰う』
というものであること。
そして僕は、【魔人】との【契約】によって【力】を得た人間を殺しているということ。
 二ページ目以降は、今までに殺した人間の名前と特徴が書かれている。
これから殺す予定の人間の名前もだ。

「……ふうん、なるほどね」

 美鏡アヤネは手帳のページを捲りながら呟いた。
傍から見ればお嬢様が上品に読書しているようにも見える。
けれど実際は、殺人の記録を殺人鬼の前で読んでいるのだ。
多少歪んだ行為に見えなくもない、気がする。

「話題になっている連続殺人事件の被害者全員のプロフィールに、わけのわからない事が綴られた手帳。
 普通の人がこれを読んだら、きっと引いてしまうでしょうね。
 だって悪質な中二病の、連続殺人犯の手帳にしか見えないもの」

 全くそのとおりだとは思うし、その自覚もある。
だから今までは決して、この手帳を他人に見せるような真似はしなかった。
けれど、君は。

「私は昨日、その現場を居合わせて、そして結果的にあなたに命を助けられてしまった。
 否定しようにも実際に見てしまったのだから、私はこれに書かれた内容を信じるしかない。
 だけど、仮に私が警察にこの手帳を見せたところで、きっと相手にされないでしょうね。
 【魔人】だの、【契約】だのなんて」

 美鏡アヤネはそこまで言ったところで、それに、と付け加えて、

「せっかく面白そうな人を見つけたのだから、手放すのはもったいないもの」

 彼女は手帳を僕に手渡した。そして、僕の目を見据える。
彼女の目は、猫みたいなアーモンド形をしていて、瞳は大きくて黒く濡れていた。

「これは私の憶測だけれど、きっとあなたも昨日の化け物と同じ、契約した人間なのでしょう?
 喋れないのは、代償にあなたの『声』を持っていかれたからじゃない?」

 そう言って、彼女は身を翻した。
踵を返して屋上の扉へ向かっていく。扉を開ける前に彼女は一度だけこちらを向いて、微笑んだ。

「これから、楽しくなりそうね。楽しい事と、面白い人は好きよ」

 僕は、これからいったい何が楽しくなるのか把握できないまま、彼女が楽しそうに
階下に向かっていくのを見送ることしか出来なかった。
 面白い人は好き、ね。
自覚して言ったのか、そうじゃないのかは知らない。
けれど皮肉だと思った。
自分で自分が人間か化け物かもわからないっていうのに、そんな事言うなんて。
 とりあえず、その憶測は間違ってるよ、と心の中で指摘しておいた。
もう階段を下りていってしまった、美鏡アヤネに対して。




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