ダーク・ファンタジー小説
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- engrave
- 日時: 2012/12/15 22:19
- 名前: 揶揄菟唖 ◆bTJCy2BVLc (ID: w1J4g9Hd)
▼△どの世界にも、ルールはある。△▼
はじめまして、揶揄菟唖(やゆうあ)と申します。
こちらの板は初めてドキドキです。どうかお手柔らかにお願いします。
+注意+
・素人です。上手くないデス。期待しないでください。
・誤字・感想・アドバイス、ずばずばお願いします。
・いつ更新が止まるかわかりません。いつだって私の小説は行き当たりばったりです。
・暴力、お子様には少しつらい表現があったりします。お気をつけて。
少しでも楽しんでいただけたなら、幸いです。
+目次+
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▼start+12.01
▽reference
100+12.05
- Re: engrave ( No.11 )
- 日時: 2012/12/06 21:01
- 名前: 揶揄菟唖 ◆bTJCy2BVLc (ID: w1J4g9Hd)
- 参照: http://幹 光=みき ひかる 高城 直里=たかしろ すぐり
+9+
「今日からお前は、俺たちの目の届くところに居てもらう」
ようやく帰れると思って体の力を抜いていた朝内 真幸は、黛の言葉に硬直した。
それも当然だ。こんな突拍子もない、根拠もない、信じられなくても仕方がない話を聞かされて、頭の中は大パニックのはずだ。それなのに、立て続けに知らない男の身の回りに居ろと言われたのだから。
口応えをしようとする朝内 真幸の唇に、高城は指を出した。
突然口を閉じさせられた朝内 真幸は、目をぱちくりさせた。高城は、ゆっくりと指を折る。
「仕方ないだろ。あんたは【被害者】なんだから。あっちだってあんたを狙っているかもしれない」
「……っ!」
アッチ、というのは当然【加害者】の方だ。それを瞬時に理解できないほど、朝内 真幸の脳みそはガラクタじゃ無いらしい。
高城はそれを確認した後、腕を組む。
黛と高城を不安そうに見つめる朝内 真幸の瞳が、涙で濡れていく。
やがて顔を覆って、本格的に泣き始めてしまった。
こうなってしまえば、もう何も言うことは無い。一人にするのがいいだろう。高城は、女の扱いが苦手なのでその場を立った。
黛は朝内 真幸のためにコーヒーを入れるみたいで、キッチンに向っていく。高城はそんな黛の背を見届けつつ、部屋の奥の扉の中へと姿を消した。
突然、自分の存在が重複しているなんて言われてしまえば、疑うか騒ぐか笑うかだ。それのどれでもなく、朝内 真幸は泣くことを選択した。
泣けば、事態が変わる訳じゃない。状況が整理されるわけでも無い。それなのに、涙を流す理由が高城には理解ができなかった。
扉の中は短い廊下があって、そして二つの扉で部屋を分けている。その片方の自室に高城は入った。
ベッドに倒れこみながら、朝内 真幸の今後を考える。
朝内 真幸が信じてくれてよかった。
信じなくて、これを作り話だといって現実逃避をすることも、朝内 真幸には出来たはずだった。
それをされなくて、本当によかった。現実から目を背けたいのは、高城だって同じだからだ。
高城は、枕に顔面を押し付ける。
PF。レプリカ。
この世界は変わってしまった。
人間は、一人でいい。その人の存在できる器は、一つしかないというのに。それを理解していない。
難しい事を考えるのは苦手なので、早急に頭を振ってその話題を消去する。
朝内 真幸には、生き残ってもらわなければならない。
だって朝内 真幸は、生きることを選択したのだから。
「……俺は俺」
口に出してみる。
そう、自分は自分。仕事をすればいい。排除をすればいい。片方を消せばいい。それでいい。何も考えなくていい。
それでいい。
頭がフワフワするのには変わりが無い。何だか体が熱い。
息が苦しくなってきたので、枕から顔を離す。
新鮮な空気を肺に送った時、デスクの上に置いてあった携帯が鳴った。
腕を伸ばしながらそれを取ると、ディスプレイには【幹 光】という名前が表示されていた。
迷うことなくそれに答える。
「……光さん」
『なんか元気ないじゃない? どうかしたの?』
「別に何でもないけど。で? 何?」
通話先で、光が楽しそうに煙草を口に咥えている姿が容易に浮かぶ。
光は平均的な女性の物より、少しだけ低い声で高城に話を続ける。
『直里君、見つけたのよ。すぐに来て』
- Re: engrave ( No.12 )
- 日時: 2012/12/07 19:59
- 名前: 揶揄菟唖 ◆bTJCy2BVLc (ID: w1J4g9Hd)
- 参照: http://黛 一鷹=まゆずみ いちたか
+10+
すぐに体を起こした高城は、電子音を一定に吐き出す携帯をポケットに突っ込み、代わりに折りたたみナイフを取り出す。デスクの上に無造作に置いてあった、今取り出したものより長くて丈夫な物を代わりに入れる。同じく近くにあった鍵を取り、ヘルメットを掴む。
ドアをやや乱暴にあけて、朝内 真幸と黛が居るオフィスに戻った。
突然現れた高城にコーヒーを啜っていた黛が怪訝そうな顔をして、朝内 真幸は赤い鼻をスンと鳴らした。
「高城? なんだ、なんか用事でも、」
「光さんに呼ばれた」
先ほどまで話していた女の名前を口にすると、黛がコーヒーカップを机の上に叩きつけた。
中身が机の上に散乱して、淡い青い色のカーペットにたれる。
びくりと肩を震わせた朝内 真幸は、何が起こったのか理解ができないようで目を丸くしている。
高城はそんなのには構わないで鍵を手の中でいじりながら、黄色いスニーカーに足を突っ込んだ。黛はそんな高城に近寄り、そして胸ぐらを掴む。
自分と全く同じ顔をした黛が、ものすごく不機嫌そうな表情を浮かべている。
高城は黛の手を振り払う。
ドアを少し開けた時黛が恐ろしく冷たい声を出したのを、確かに聞いた。
「……お前だけか」
「あぁ」
当然のように嘯き、ドアを閉める。
黛は自分の言葉を信じるだろうか。柄にでもなくそんなことを考えながら階段を降りる。
隣に位置した駐車場の中から自分のバイクに歩み寄って、それに跨った。
ヘルメットを被り、先ほど光に言われたところへと向かう。
辺りは完全に日が落ちて月が上った夜だ。人通りも少なくなって来た道を、高城は滑走する。
銀に光るバイクは、夜の街を走る車を追い越してぐんぐんと進んでいく。
ヘルメットの中で、かすかに高城は黛の表情が気になっていた。
黛はきっと今頃、朝内 真幸に罵声を浴びせているのだろう。イライラすると、モノと人にあたるのがアイツの特徴だから。
高城は嘘を吐いたことへの罪悪感を振り切るために、スピードを上げる。
やがて、微かに香る塩の匂いが鼻を擽った。
たどり着いたのは、夜空を映す海が見える岬だった。
バイクを止めてヘルメットを外して、倉庫の壁に背を預けていた女のところまでバイクを押す。
女は高城が来たのを見つけると、背を離してコートのポケットにスマートフォンを入れる。
薄く化粧をした女が、高城に電話を寄越した幹 光。ハニーブラウンに染めた髪は、残念ながら夜に飲み込まれていて見えない。
高城の姿を見て、光は首を傾げる。
「あれ? 直里君一人?」
「なんだよ。不満なわけ?」
自分の後ろを見ながらいかにも不満そうに呟く光に、高城は眉間の皺を深くする。
ヘルメットをバイクのハンドルに掛ける。無意識にポケットに両手を突っ込んで、夜の海辺は寒いことを実感する。
吐く息は白い。光はだが、堂々としていた。それもそのはずで、光は完ぺきに厚着をしている。
「うん。不満も不満大不満。だってあたし、一鷹君の方が好きだもん」
自分よりも年上のはずの光が頬を膨らませて駄々をこねるのを、高城は妙な気分で眺めた。
頭の後ろを掻きつつも、光が変だということを再確認。
「……俺も黛も同じ顔じゃねーか」
「双子でも違う人間なんでしょ? そう見られるのが嫌いだって言ったのは、直里君と一鷹君だ。その通り、キミたちは違う人間だし、やっぱりあたしは一鷹君の方が好きだ」
「…………」
ニコニコと笑いながら言葉を真剣に紡ぐ光の相手はやはり疲れる。
言葉を返したくないとでもいうかのように、高城はそれ以上何も言わなかった。
- Re: engrave ( No.13 )
- 日時: 2012/12/08 12:04
- 名前: 多寡ユウ (ID: At5GTol/)
コメント大丈夫でしょうか。
とっても面白いです!黛くんと、高城くんカッコイイです!
おかっぱの黛くん。少し張り切って頑張ってみます!
- Re: engrave ( No.14 )
- 日時: 2012/12/08 13:13
- 名前: 揶揄菟唖 ◆bTJCy2BVLc (ID: w1J4g9Hd)
おおおおいらっしゃいませ!!
御世話になっております!!
よろしくお願いします!
あ、それとおかっぱでジャージなのは黛君じゃなくて高城君です(´・ω・`)
ややこしくてごめんなさい(´・ω・`)
- Re: engrave ( No.15 )
- 日時: 2012/12/08 15:30
- 名前: 揶揄菟唖 ◆bTJCy2BVLc (ID: w1J4g9Hd)
+11+
「黛さん……?」
朝内 真幸は、不機嫌そうにカーペットに付いたコーヒーのシミを取っている黛を見つめていた。
先ほど、高城が部屋を出て行ってしまった。
聴いた事の無い女性名を高城が言った途端空気が張り詰めて、高城が逃げるように姿を消した後から一言も黛は発していない。
けれど、背中を見ていると分かる。
恐ろしく不機嫌だ。
男の人がこんなに怒っている姿を間近で見たことのない朝内 真幸は、縫い付けられたかのようにカップを持って硬直していた。
黛が出してくれたコーヒー。
苦くもなく、甘くもなく、おいしいそれをたたきつけてしまうなんて。もったいない。
黛は高城と違って親近感がわきやすくて、少しは話しやすいかと思っていたが、間違いだったのだろうか。
朝内 真幸は、びくびくしながら黛を見つめ続ける。
「……役立たずが……」
手に持っていた雑巾を握りしめて、ゴミ箱に放り投げる黛。
その声は凄く低くて、不機嫌さがにじみ出ている。
身を小さくしながら、カップを握る手に力を込める。
怖い。逃げだしたい。
そう思った矢先、黛が肩の力をふっと抜いて振り返った。黛の周りの雰囲気は多少柔らかくなっていて、朝内 真幸は背筋の力を少しだけ抜く。
黛はどかりと朝内 真幸の隣に座って、緩みきっているネクタイをさらに緩めて外す。テーブルの上にそれを放って、黛は長く息を吐いた。
「あの、黛さん……」
今なら話しかけても良いだろうか。軽く確認をしながらカップを置く。
さっきから立て続けに起こる意味不明な出来事に、朝内 真幸は吹っ切れそうだった。
自分のレプリカが居ること。アグロピアスの病の唯一の対策であるPFがそれを実現できる物質であること。
信じられないことではある。まだ目で見ないと確証はできない。今は信じてみよう。
怖いもの見たさだった。本当に心から信じているわけでは無い。
そんな、夢みたいな話。そんなのは物語の中だけで十分だと思っている。そうであってほしい。
自分は普通の人間であると。これからも普通の日常を過ごすことができると。
「んぁ? ……悪いな。俺、アイツのああいうところはどうにも好きになれないんだ」
「ああいうところ?」
「勝手に決めるところだよ。俺の意見とか全然耳貸さないの。何を意地張ってるのか知らないけどさ」
普通に会話できるようになったことに安心して、冷めてしまったコーヒーを飲んだ。冷めてしまっていてもあまり変わらない味は、やはり舌触りが優しくておいしい。こんなコーヒーが入れられるなんて、黛は実は器用なのかもしれない。
だらけきったスーツからは全くそんなことは想像できないが。
淡いピンク色に変わっているワイシャツの前のボタンは、相変わらず上まで閉めていない。
「双子って仲が良いイメージですけど、やっぱりそうでもないんですね」
謎だらけの二人の深い部分を見たような気がして、朝内 真幸の体から緊張が消えた。