ダーク・ファンタジー小説
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- engrave
- 日時: 2012/12/15 22:19
- 名前: 揶揄菟唖 ◆bTJCy2BVLc (ID: w1J4g9Hd)
▼△どの世界にも、ルールはある。△▼
はじめまして、揶揄菟唖(やゆうあ)と申します。
こちらの板は初めてドキドキです。どうかお手柔らかにお願いします。
+注意+
・素人です。上手くないデス。期待しないでください。
・誤字・感想・アドバイス、ずばずばお願いします。
・いつ更新が止まるかわかりません。いつだって私の小説は行き当たりばったりです。
・暴力、お子様には少しつらい表現があったりします。お気をつけて。
少しでも楽しんでいただけたなら、幸いです。
+目次+
▼>>1 ?>>2
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▼start+12.01
▽reference
100+12.05
- Re: engrave ( No.1 )
- 日時: 2012/12/04 20:44
- 名前: 揶揄菟唖 ◆bTJCy2BVLc (ID: w1J4g9Hd)
▼prologue
抗生物質、アグロピアスPF。通称、PF。
数年前世界を脅かした、アグロピアスの病のために作られた、ワクチンの中の物質。
それを見つけた科学者は、PFの力を見つけてしまった。
どの世界にもルールはある。それなのに、見つけてしまった。
PFは、世界を乱していく。ルールから外れた物質なのだ。
物質に、卵と遺伝子を含ませる。そうすると、子供ができる。
これは世界的な発見であり、同時に人が神の領域にたどり着いた瞬間だった。
世界中で、その栄光を称えた。
人の偉業に、世界中の人々が拍手を送った。
そしてPFは世界に浸透していく。根付いていく。
麻薬のごとく。
もう人々は手を汚してしまった。
罪の泥沼から抜け出すことはできない。
- Re: engrave ( No.2 )
- 日時: 2012/12/03 17:00
- 名前: 揶揄菟唖 ◆bTJCy2BVLc (ID: w1J4g9Hd)
+?+
月明かりが、目に痛い。
手を伸ばせば届きそうなくらい、月が近い。
思わず空に手を伸ばしてみる。届かない。当然のことだ。
黄色くて丸いそれに向って、手を開閉してみる。届かない。
掴んでしまったら、みんなが困るな。俺だけの物じゃないから。
夜がこれ以上暗くなってしまったら、困るもんな。
俺の掌の中では、きっと月は輝けない。
すべてを包む夜という時間に居るからこそ、月は輝いて見えるんだろうな。
「何してるの?」
夜風を裂くような鋭い声に、俺は振り返ることもしない。必要がないからだ。俺の背後に誰が立っているのか、俺は知っているから。
月に伸ばしていた手を引っ込めて、瓦に手を付く。
冷たい瓦は、俺の体温を奪っていく。
冬はそろそろ終わるというのに、まだ夜は寒い。さらに、屋根の上に居る俺たちには、容赦なく風が吹き付けていた。
俺の胸で、ゆるく締めた黒いネクタイが躍る。
「月によぉ、手が届くような気がしたんだよなぁ」
足音が近づいてきて、後ろに居た人物が俺の隣に座る。
きれいに切りそろえられた黒髪は、おかっぱによく似ているけど、そうじゃない。少しだけ斜めになっていて、おかっぱというのには雑すぎるからだ。
ファスナーを最後まで上げた緑色のジャージと、ズボン。黄色いスニーカー。
ズボンのポケットに両手を突っ込んで、寒そうに身を縮めていた。だから、下に居ろって言ったのに。
ジャージで口元が隠れているせいで、妙に無表情に見える。
「バカだな」
「おーう」
「認めるなよ」
じゃあ、認めなければ良かったのか。そうじゃないだろ。
認めなかったらきっともっと言い争いになっていたはずだ。
俺は自分が馬鹿だって、知っているから。
月に手が届くはずがない。そんなのは知っているはずだったのに。それなのに、やろうとした。
有り得ないのに。
俺の隣で、ジャージに包まれた腕が空に伸びる。
何回か空中で開閉して、やがて引込められた。
「……寒い」
口元のジャージを限界まで引っ張り上げて、その中に顔を埋める。
本当に。冷えてきたな。
というか、コイツもやったじゃないか。月に手が届くかどうか。それを突っ込もうと口を開きかけて、止めた。
月に照らされた道を歩く一人の女を、見つけたからだ。
急いで立ち上がって、その背中を見つめる。
間違いない。
居た。
学校の制服に身を包んで、長い髪を揺らして歩く女。
眠そうにしている隣の人間の背中を蹴り上げる。
そいつはめんどくさそうにジャージから顔を上げて、立ち上がった。
俺はスーツの襟を整えながら、口角を上げる。
「よっしゃ。やっと家に帰れるぜ」
- Re: engrave ( No.3 )
- 日時: 2012/12/03 17:01
- 名前: 揶揄菟唖 ◆bTJCy2BVLc (ID: w1J4g9Hd)
+1+
辺りはもう暗くなっていた。
街頭なんかついていない道を、急いで歩く。走ってもいいけど、それだと疲れるから。
夜中に本屋なんて行くもんじゃ無かった。月だけがぼんやりと道を照らして、私の影を伸ばしている。
帰らないと。アパートの大家さんに怒られてしまう。こんな時間まで高校生が出歩くもんじゃないよって。
だけど仕方がない。今日は時間が無かったから、今行くしかなかった。
本屋の袋を胸に抱えながら、道を進む。
寒いな。
首に巻いたマフラーを手で直す。
参考書を買った。さすがにテストが近づいてきて、まずいと思ったからだ。もっとちゃんと勉強をしないと。
この角を曲がれば、愛しの我が家が見える。
何も考えずに、角を曲がろうとした時だ。
「よぉ」
後ろから、声をかけられた。やけに落ち着いた声で、勿論聞いたことなんか無い。
私はどちらかというと人と関わるのは苦手で、男の人と喋るのだって得意じゃない。
だから、男の人の知り合いを数えれば、片手の指で足りる。
そんな私が夜中に道で声をかけられるなんて、有り得ない話だ。
「……人違いじゃないですか?」
後ろを振り返りながら、眉を顰める。
見ると、片手をあげたスーツ姿の男の人が立っていた。
短い黒髪。スーツは結構高そうなものなのに、雑に着ているせいで皺だらけだった。
前のボタンを外したシャツの色は、暗いせいでよく見えない。白じゃ無いみたいだけど。
ネクタイは、黒。多分。
男の人は、私に近づいてくる。私の顔をじっと見つめた。
人違いだろう。絶対にそうだ。
私がこの人に声をかけられる理由が、見つからない。
「いんや、合ってる。俺、あんたに用があるんだ」
「……え?」
私に用がある?人違いじゃない。それで用がある。
となると、もしかしたら危険な人かもしれない。私はこれでも女だし、よからぬことを考えているのかもしれない。
それなら、逃げないと。
顔も名前も知らない女の人に声を掛けるなんて、他にどんな理由があるっていうんだ。
犯罪関係だ。そうに決まっている。
男の人に気付かれないように、半歩身を引く。
音を立てないように、靴を地面で滑らせる。
「あっ! UFO!!」
「何っ!?」
男の後ろの空を指さして、全力で角を曲がった。
騙されてる。あの人、バカだ。絶対バカだ。あんな古典的な方法に騙されるなんて。
角を曲がれば、私の住むアパートまではすぐだから。
だから、平気だと思って居たのに。全力で走っていたら、人にぶつかってしまった。
本屋の袋を落としてしまって、体がよろける。
そんな私の腕を、私にぶつかられた人が掴む。
そのおかげで、転ばずに済んだ。
「ご、ごめんなさい! ありがとうございます!」
その人は、左手をポケットに突っ込んでいる、緑のジャージ姿の男の人だった。髪はおかっぱというのにはちょっと雑すぎるけど、切りそろえられている。
ファスナーを上まで上げているせいで、口元がジャージで覆われていた。
そして、驚くことに。
「……別に、平気」
さっきのスーツの人と、顔が全く同じだったのだ。
- Re: engrave ( No.4 )
- 日時: 2012/12/03 17:02
- 名前: 揶揄菟唖 ◆bTJCy2BVLc (ID: w1J4g9Hd)
+2+
「……え……」
急いで振り返る。
角を曲がってくるスーツ姿の男。私の腕を掴んでいるジャージ姿の男。
同じだ。全く顔が同じ。背も、声も。全部同じ。格好と性格が違うせいか、雰囲気は違うようには見えるけど。
ジャージ男の腕から逃れようと、腕を振る。
だけど離してはくれなかった。
捕まった。
まずい。
「UFOなんてなかったぞ」
怒っているように近づいてくるスーツ。私がきょとんとしている前で、そのスーツ男は腰を折って私に目線を合わせる。
目は深い茶色だ。目の周りを飾る睫は長くて、なかなかのイケメン。
髪がぼさぼさで、だらしない感じがする。
男の人は薄い唇を舌で舐める。
その姿に、心臓が震えた。何だか怖い。
後ずさると、今度はジャージ男の胸にぶつかった。
最悪だ。気が付くと、自分の右足で参考書を踏んでいた。
最悪。
大家さんの言うとおり、夜中に出歩くんじゃなかった。
後悔しても遅い。
「なぁ、俺たち、あんたに用が有るっつってんだろ」
目に涙の膜が張る。
もう、本当に怖い。夜道で、男の人に挟まれているなんて。しかも知らない人。
殺されるかもしれない。何をされるのか分からない。
なんでだ。なんで私がこんな目に。私は普通の女子高生なのに。
寒さなんて吹き飛んだ。今は早く逃げたくてたまらない。
私はぶんぶんと横に首を振る。
「私はっ、私は、貴方たちに用を作った覚えはありません!」
ぎゅっと目を瞑って、開く。
涙が出てきてしまった。頬を伝っていく熱い液体。
泣いちゃだめだ。この人たちに弱みを見せちゃいけない。そんなことは、分かっているのに。
それでも怖くてたまらないのだ。
何をされるんだろう。私はもう、家には帰れないのだろうか。
私の涙を見て、スーツ男が呆れたようなため息を吐いた。
なんで呆れられなきゃいけないんだ。女子高生を男二人がかりで抑え込んでいるアンタらの方にこそ、私はため息を吐きたい。
もっと人通りの多い道を選べばよかった。
突然、腕を引かれて軽くジャージ男に後ろから抱きしめられた。
いきなりの行動に、背筋が凍る。
コッチ系か。コッチ系なのか。暴力系じゃなくて、もしかして。
私の初めては、こんなところで。
「俺、あんたを傷つけたくないんだけど」
冷たい言葉とともに突きつけられたのは、鋭いナイフだった。顎の下に刃を当てられて、息が詰まる。
いやだ。動いたら、やられる。というか、刃先がちくりとしていたい。
最悪だ。本当に。
どんどん溢れてくる涙。鼻水も出てきそうだ。
声が上手く出せない。人にナイフを向けられたのは、初めてだから。
どう対処すればいいんだ。大声を出せばいいのか。そんなことできない。
私はもう行動できない。
「大人しく、ついて来てくれる?」
首を捻って、後ろの人に向かって弱弱しく頷くと、耳元で『良い子』なんて言われた。
ぜんぜん良くない。
- Re: engrave ( No.5 )
- 日時: 2012/12/03 17:47
- 名前: 揶揄菟唖 ◆bTJCy2BVLc (ID: w1J4g9Hd)
- 参照: http://朝内 真幸=ちょううち まさき
+3+
どこに連れて行かれるんだろう。
左右を男二人に囲まれた。右にスーツ、左にジャージ。
私はほぼ俯いた状態で、二人の歩調に合わせていた。何も話す気になれない。もう誘拐だ。これは誘拐なんだよ。
今は走って逃げるか。今ならまだに合うかもしれない。こういう時くらい走ろうか。
あの道に参考書を落としてきたから、きっと誰かが私がいないことに気がついてくれるはずだ。
「逃げるなんて馬鹿なこと考えるなよ」
私の思っていることがばれたのか、左に居たジャージが声をかけてきた。私は軽く笑って頷く。
何でばれたんだ。何で。もう逃げられない。
私はとぼとぼと道を歩く。
やがて、賑やか表通りに来た。車が行きかって、ビルの光がまぶしい。
その中で、一番色が派手なビルの階段を上るように促される。
ビルは黄色と青のストライプだった。何でこんな色にしたんだろうか。ビルを満足に見る暇も無く、私は階段を上り始める。
私の前をスーツが行って、後ろをジャージがついて来る。
外付け階段を上り、踊り場のところにある扉を開く。
簡素な扉だった。倉庫に入るような。スーツが扉の中に入って行く。
もう終わりだ。私の運命は決まった。ごめんなさい、大家さん。
今月の家賃を払うことができずに私は旅立ちます。
「さてと、まぁ、座れよ」
玄関で靴を脱いで、中に上がらせてもらう。
部屋の奥の観洋樹。そのそばの扉。奥があるようだから、広いみたいだ。
真ん中に長方形の机と、それを挟むようにしている赤いソファ。
私は電気をつけたスーツに促されて、片方のソファに座った。
スーツのシャツは、やっぱり白じゃなくて、淡い黄色だった。レモン色というのか。
私の右隣に、スーツが座る。向かい側にジャージが座った。
逃げられないようにされた。最悪だ。泣きそうになる。
だけどまたナイフを取り出されたら困る。
まったく同じ顔の二人は、私をじっと見つめていた。
そして、意を決したように口を開く。私だって緊張しているのに。これから私自身がどうなるのか。
私は言葉を待った。
やがて、ジャージが鋭い声で空気を震わせる。
「生きたいか?」
意味が分からない。今の状況に全く合っていない言葉に、私は戸惑った。
私に、生きたいか、なんて。そりゃあ、生きたいけど。
そんなこと、今関係あるのか?
私が答えずにいると、隣のスーツがため息を吐いて、拳銃を私の頭に突き付けてきた。
硬いその感触。
なんで。なんで私がこんな目に合わないといけないんだ。私が何をしたっていうんだ。
この人たちは、何が目的なんだ。
拳銃なんて、どこに持っていたんだ。なんで持っているんだ。
犯罪だぞ。
ぐるぐると疑問だけが回る頭の中に、二人の死神が囁きかける。
「「生きるか、死ぬか。選べ。朝内 真幸」」