ダーク・ファンタジー小説
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- 【紫電スパイダー】
- 日時: 2014/02/20 22:57
- 名前: 紅蓮の流星 (ID: 1T0V/L.3)
- Re: 【紫電スパイダー】 ( No.5 )
- 日時: 2014/02/18 20:06
- 名前: 紅蓮の流星 (ID: GFkqvq5s)
一馬は首を横に振った。そして、聞いたことのない単語に怪訝な表情を浮かべる。
ザイツェフはそれを見ると、一度タバコを深く吹かしてから、また話を続けた。
「人に向けてイグニスを使ってはいけない、てのは常識だ。一馬、わかるな?」
一馬は無駄に反論せず、頷く。茶々を入れたり反発しないのは、ザイツェフの目が真剣だったからだ。
それに、危険だから人に向けて使ってはいけないという道理くらいは、一馬にだってわかる。本当の意味でその法律に反対するつもりはない。……ついついカッとなった時に、やってしまうだけで。
「だが法律なんて約束事だけで、そういった犯罪を減らせると思うか?」
ザイツェフの言葉に対し、どういうことだ、と疑問が沸く。現に効果があるからその法律は保たれ……それに、俺のように破るやつが現れたとしても、断罪者がいるじゃないか。そう考えた。
なぜ、そんなことを問い掛けるのか? わからないと訴える一馬の心中を見透かしたように、ザイツェフは更に続ける。
「法律が施行された当初は、意味を成していなかった。当時は断罪者ですら、形だけの組織に過ぎなかったって話だ」
一馬はアホみたいに口を開けて話を聞いている。本当は高校で習う内容なのだが、彼は中退したので知らなくても仕方ない。
「特殊能力の発動と使用に関する制限法案」、通称イグニス法が制定された当初、その法は名ばかりであった。イグニスによる犯罪は横行し、抑止力は抑止力として機能しない。——力のみが正義と呼べるような、暗黒の時代があったのだ。
「じゃあ、なんで今は至って平和なんだよ? 断罪者が強くなったとか?」
「それもあるだろうが、その前にひとつ」
ザイツェフは一馬の前で人差し指を立て。
「一馬、ここに刀があるとしよう。紛いなき名刀だ」
「おう」
「それを貰ったとしたら、どうしたい?」
「どうって、そりゃあ振ってみたいけど」
「……更に欲張るならば?」
「……何か斬ってみたい、とか?」
「そういうこと。つまり、イグニスは刀だ」
あれば使ってみたい。振るってみたい。——試してみたい。出来れば、何らかの相手に向かって。
武器もイグニスも、それは同じだ。だから、イグニスによる犯罪は横行したのだとザイツェフは言う。それはわからなくもないが。
「だけど、それがなんでイグニス犯罪の抑止に繋がるんだよ」
「原因がわかっているのなら、対処法は簡単だ。力を振るう場所が欲しいのなら、力を振るう場所を用意すればいい。存分に、遠慮なく、忌憚なく」
「だから、その力を振るう場所が無いって——」
言いかけて、一馬はザイツェフの思惑に気付く。
——もし、そんな場所があるとしたら?
ザイツェフはそう言っているのだ。
「……まさか、それが」
「そう、スペルビアだ」
——もし、そんな場所に行けるとしたら?
ザイツェフはそう示しているのだ。
一馬は口角を吊り上げ、ぶるりと身震いした。
3
ザイツェフが一馬を連れて訪れたのは「パンドラ」。セントラルシティの大通りから外れた暗い路地の一角、そこの階段を下っていった扉の向こうにある、小さなジャズバーだ。
金メッキのドアノブを捻り店の中に入ると、まず二人を出迎えたのは陽気なサックスの音色。酒の臭い。野郎共の喧騒。そして鼻の下に髭を湛える、スキンヘッドのバーテン。
「……らっしゃい、ザイツェフさん」
ザイツェフは何も言わず会釈、一馬もそれに合わせて、軽く頭を下げた。バーテンは何も言わず、じろりと頭の先から爪先まで品定めするように目を動かした。それからまたザイツェフに視線を戻す。
「……そちらの子は?」
「例のガキだ。連れてきた」
「てぇことは……今日は奥で?」
「ああ、頼むよ」
「はいよ。……もう、始まってますよ」
バーテンの声を聞き届けたザイツェフは既にバーの奥へと向かっており、片手を上げることで応答した。一馬も後からついてゆく。
「にしても、いいのかよ。スペルビアなんて」
「ダメに決まってるだろ。全書でもしっかり禁止だと言及されている」
「ダメなんじゃねぇかよ!」
「だが、実際は黙認されている。理由は……」
店の一番奥、扉の前でザイツェフが振り返る。そして顎で、自分で開けろと合図した。
「自分で、確かめろ」
——歓声。
扉を開けた瞬間に飛び込んできたのは、歓声。それから強い照明の光と、観客席からの熱気。
スタジアムだった。裏通りの地下にあるジャズバー、その奥の扉をくぐった先にあったものは、すり鉢状のスタジアムだった。
一馬は次に、スタジアムの中央に視線を奪われる。対峙しているのは二人の男。
筋骨隆々とした色黒い男が、スタジアムの大地を拳で強く打ち付ける。すると岩石の塔が次から次へと生えて伸び、もう片方の長身で細身な男に迫る。
長身の男は、細身に似合わぬ無骨で大きなハンマーを担いだまま、軽妙な動きでひらりひらりと迫る岩石を避ける。そしてハンマーを振り抜き、その軌道から幾本もの氷柱が現れ、飛ぶ。
正真正銘、イグニスを使った真剣勝負だ。
- Re: 【紫電スパイダー】 ( No.6 )
- 日時: 2014/02/19 15:50
- 名前: イエスタ・トゥモ郎 ◆4aFCtwumlE (ID: UcmONG3e)
初めましてイエスタ・トゥモ郎と申します。まあ実のところ紅蓮の流星さんの小説は拝見したことがあります。
その頃も凄い人だという認識はあったのですが、今回新たな紫電スパイダーを拝見させて改めてそのことを認識しました。
王道的な熱い展開を持ち前の文章力で表現されていて魅入ってしまいました。戦闘描写などとても参考になります。
またキャラも魅力的でいいと思います、一馬君カッコいいですしザイツェフさんも良い人で好感が持てます。
薄い感想で申し訳ありません。これからの更新もとても楽しみです。紫電スパイダーはもっと色々な人たちに知ってほしい小説です。頑張ってください。応援しています。
- Re: 【紫電スパイダー】 ( No.7 )
- 日時: 2014/02/19 17:51
- 名前: 紅蓮の流星 (ID: lm8tIa56)
イエスタ・トゥモ郎さん→
はじめまして紅蓮の流星といいます。
前回も今回も、読んでくださってありがとうございます。
紫電スパイダー、3度目のリメイクです。
今回は、出来る限り初代に近い形で
執筆できたらと思っています。
うれしいコメントをありがとうございます。
励みになります。
王道的な展開が大好きです。
戦闘描写は、作中の速度を気にかけながら書いています。
一馬もザイツェフも、より人間らしいキャラに
していけたらなあと思います。
コメントありがとうございます。
これからも、がんばらせていただきます。
- Re: 【紫電スパイダー】 ( No.8 )
- 日時: 2014/02/19 22:49
- 名前: 紅蓮の流星 (ID: GFkqvq5s)
筋骨隆々とした男が、大きく足元を踏み鳴らす。彼を中心とした周囲が隆起し、岩の壁が出来上がる。岩壁は飛来する氷柱を阻む。
岩壁はすぐに粉砕した。細身の男が振るうハンマーによって。風ごと引きずり回すような一撃が、凍てつく軌道を率いて大男に迫る。
細身の男を、岩石の拳が打ち抜いた。
細身の男がハンマーを振り下ろすより先に、大男の掌が地面を叩いていた。地面から生えた岩石の拳は相手の顎を見事に捉え、そのまま突き抜ける。
弧を描いて吹き飛ぶ。リング端の壁に叩き付けられる。ずり落ちる。手からハンマーが落ちる。細身の男は、立ち上がらない。
決着の瞬間だった。
『勝者、悟堂巌ッ!!』
アナウンスと同時に、スタジアムの空気が震えた。ある者は歓喜に沸き上がり、ある者は落胆に声を上げる。悲喜こもごもの歓声を、真ん中で一手に浴びるは筋骨隆々の色黒男、悟堂巌。
その光景に一馬は目を剥き、笑みを浮かべた。
ザイツェフが言うには、競馬、競輪、競艇に近いらしい。ただし競うのは馬でもなく2輪車でもなくボートでもなく、自分たち自身。そして競うのは速度ではなく、強さ。
観客は、闘技場で戦うどちらか一方、或いは誰かに金を賭ける。自分が金を賭けた奴が勝てば儲け、負ければ損失。
そして、戦うのは自ら名乗りを挙げた者達。これと同時に賭ける金額や物品を宣言し、負ければ失い、勝てば相手の賭けたものを総取り。
勝敗を決める方法は単純。力を、戦略を、武器を、イグニスを駆使して、相手を降参させるか、戦闘不能に追い込んだ方が勝者。この場合の戦闘不能には「死」も含まれる。
生死問わずのイカれた宴。——それがスペルビア。
現在では、表立つことが無いとはいえすっかりその規模を広げているスペルビア。もし本格的な取り締まりでもしようものなら、逆に断罪者が痛手を負いかねない。なにせ、そいつら全員が武闘派な上に数が多いときたもんだ。
それに、スペルビアのお陰で犯罪の……表面的な減少に繋がるならば、下手に藪蛇を突く必要もない。
だから断罪者はスペルビアを黙認している。
……とザイツェフは一馬に説明しようと思ったのだが、彼はスタジアムに向かって目をキラキラさせており、こっちの話を微塵も聞きそうにないのでやめた。
逆にやってる本人らは常に生命の危険が付きまとう訳だが、いくらここの荒くれ者どもと言えど、ガキ相手にそこまでムキにはなるまい。むしろ今の内に少し痛い目を見ておいた方が良い経験になるだろう。そう思って、一馬をここに連れてきた。
「なあザイツェフ、あれどうやったら俺も出られんの!?」
その本人が、これから散歩に出る犬の如く期待した眼差しでこちらを見てくる。見た目通り、いや見た目以上にガキだ。
「元気一杯に声を張り上げてみるとかどうだ?」
ほら、と指差す。ザイツェフが示す先には、勝利に酔いしれる巌の姿があった。巌は雄叫びを上げ、更なる挑戦者を求める。
「オラァ! どうした、俺に掛かってくる奴はいねぇえぇぇえぇのかあぁああぁあ!?」
それを見た一馬は、ひょいひょいと観客席を飛び越え一直線にスタジアムの中央へ。
「はい、はぁーい! 俺! 俺やりますっ!」
「あ? ガキ? しかも見ねぇ顔だな」
子犬のようにハイテンションな一馬に、巌は顔をしかめた。巌だけではない、場違いな子供の乱入に場内がざわめきを起こした。人が死ぬことさえあるこの場所は、文字通り「ガキが来るような所ではない」。
「お前、パンドラに来るのは初めてか」
「おうともさ」
「サムズアップすんじゃねえ。……スペルビアは?」
「内容はだいたいわかったけど、初めて!」
「……一応聞くけどよ、お前金持ってんの?」
「はえ?」
すっとんきょうな声を上げる一馬。
「だからぁ、金だよ! やるにしたって金なけりゃそれ以前の問題だろうが!」
「ああ、ちょっと待ってな」
財布を取りだし、
「——487円!」
一同総ズッコケ。
「ナメてんのかおまっ……親指くわえて『ダメ?』みたいな目で見つめてくるんじゃねえ! 男がやったって気持ち悪いだけだわ!」
つまらなさそうに唇を尖らせ小声でブーイングする一馬。
「いいじゃんか悟堂! やらせてみろよ!」
「天下の悟堂巌が、まさか素人のガキ相手に、怖いってこたないよなぁ!?」
「あああ!? 当たり前だろうが、ナメてんじゃねえぞ! いいぜ、やったろうじゃねぇか!」
「メチャメチャ単純だなアンタ!?」
先ほどから観客席の皆様が笑いを堪えていることに、一馬と巌は気付かない。ザイツェフなんかは腹を抱えてうずくまっていた。
だが、巌の宣言で会場は再び動揺と歓声に包まれる。それは、賭け金の宣言。
「悟堂巌、賭け金は100万円だ!」
どよめきの波。一馬も面を食らった。だが、すぐに破格な金額の理由に気付く。負ける訳がないと、巌は言外に言い切っているのだ。
それは至極当然の驕りだと、ザイツェフは思った。たかだか喧嘩に強い程度のガキと、スペルビア経験者——しかも、あの悟堂巌なのだから。
「……ほぉーう?」
だが世間知らずのガキは、ただ自分が見下されたという事実に憤る。口許がひきつり、額には分かりやすく青筋が浮かんでいた。
- Re: 【紫電スパイダー】 ( No.9 )
- 日時: 2014/02/20 20:00
- 名前: hikarshige (ID: emiPMG4Z)
おお紅蓮の流星さん。懐かしいですねー
紅蓮財閥っていうスレ覚えてますか?