ダーク・ファンタジー小説

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ストラグル 紅月の種
日時: 2017/05/14 21:32
名前: 狂yuki (ID: bmJ5BkM0)
参照: http://www.kakiko.info/upload_bbs3/index.php?mode=image&file=512.jpg

1990年、フランス。
この国もまた、セラフィムと呼ばれる宇宙生命体に侵略された国のひとつである。

クローリー・レイン。
cardinal armee campus(カーディナル アーミー キャンパス)、つまり日本で言うところのSFSの、成績優秀者リストに常に名前が載っている優等生。
尻軽でさえなければ文句なしの男だ。

アニエス・フランソワ。此方も、文句なしの優等生。クローリーの恋人だ。

二人は何不自由なく、むしろ楽しそうに恋愛と学習を両立していた。

授業が一通り終わり、寮まで帰る間に二人は色々なことを話す。
「アニエスは『美夜子と霧人』の小説、読んだかい?」
「ううん、まだ読んでないの。最近、教官免許取得の方が忙しくって」
「ああ、そうか。そろそろだもんな。12月だっけ?」
「うん。12月。聖夜の25日」
「受かるかなぁ?ヒッヒッヒ」
「まだ10月よ。時間あるんだし、あたしなら大丈夫」
「はぇー相変わらずのポジティブ。美夜子とは正反対だぜ」
「......美夜子っていうその、女の子は、ネガティブなの?」
「ああ。つーか、自分からアタックしないタイプ。な?正反対だろ?」
「そうね、あたしは............って、何ですってぇぇえぇええぇえぇぇええ!?」
「ひいぃ怖い!女のマジな怒りはマジで怖い!」

続く

Re: ストラグル 紅月の種 ( No.1 )
日時: 2017/05/15 10:13
名前: 狂yuki (ID: a0p/ia.h)

「よぉクローリー、今日も元気にナンパしてこいよ~」
整備兵のヤコブが言う。
「今日もって何ですか、今日もって!」
「ハハハ、まあそれはいいだろ。お前はいつも通りでいいってことだ!」
今度は整備兵のルイスが言う。それにクローリーは呆然とする。いつも通りという言葉に。
「......へ?」
「クローリー。お前の乗る機体はいつも傷がない。俺達はこんな荒れた世界で、
メシアを綺麗に保つことしか出来ない無能だけどよ、でもお前みたいな奴がいてくれると、俺達はそれだけでやってける。
お前がいつか世界を元に戻してくれるって、俺達、割と本気で信じてるんだぜ?俺達、世界を救う救世主のために頑張ってると思うと、へこたれてらんねえんだよ。
妻も娘も、愛する家族は皆セラフィムに殺されちまった。俺達はセラフィムが憎くて憎くてしょうがねえんだ。けど、俺達は戦えるような身じゃねえ。移民だからな、貰える仕事はこんくらいだ。
だから、お前がセラフィムを、な」
ヤコブとルイスは元々セラフィムが侵略してくるまでは、ラサで商いをやっていた。
だが、セラフィムの侵略により、家族も住む場所も失い、軍に親戚の人間がいるというフランスに逃げ込んできたのだ。

続く

Re: ストラグル 紅月の種 ( No.2 )
日時: 2017/05/17 09:37
名前: 狂yuki (ID: 9RGzBqtH)

いつも通り訓練を終え、寮に戻ったクローリー達は、そこでフランス軍のラーガン元帥とフランス政府ドミニク大統領の演説生中継を観ていた。
「.......従って、移民達が我々の士気を下げているのです。現実問題、フランス国民の貧困問題などは彼等に起因しているのですから、これらは早急に対応せねばならないのは自明です。
中東、南米、挑戦状半島、フィリピン諸島周辺...これらの地域から逃げて我々の国へやって来て、そこから更にカレー海峡を渡ってイギリスへ行く者もいます。
それ故にカレー海峡は封鎖せざるを得なくなった。また一部はドイツへも流れている。それ故にドイツから対応を急かされている現状があるのです。
国内でも犯罪を犯し、我がフランスは無法地帯と化しています。
移民のために、ヨーロッパは分裂しようとしているのです。
今の我々は、日本、アメリカ、ロシアを友とし、イギリス、ドイツ、イタリアに背いているのです。
これでは世界の主要国が団結してセラフィムに対抗することなど到底不可能です。
不法移民を祖国に返す。これこそが我々、革新独立党の掲げるネオ・インデペンデンスプランの中核なのです!」
テレビ越しでも分かる、聴衆の熱気。移民の蛮行を理由にナショナリズムを煽るドミニク大統領の演説は、成功したようだ。
同級生のハロルドが言う。
「何かやべぇな。最近のフランスといいドイツといいアメリカといい。移民政策が厳しすぎやしないか」
確かにそうだ。
もしこれからその勢いが強まれば、ヤコブとルイスは祖国に強制送還されるかもしれない。
だが、彼等はあそこに戻っても職はおろか、戻る場所すらないのだ。

護るべきものがあるのに、それを護るには未熟すぎる。そんな自分とは違う、
彼等は護るべきものなど全て失ったはずなのに、自分達よりも強く生きているじゃないか
と、クローリーは思った。
続く

Re: ストラグル 紅月の種 ( No.3 )
日時: 2017/05/21 00:25
名前: 狂yuki (ID: bmJ5BkM0)

マークス・ライラック。
彼の研究室には誰も立ち入らない。

かなり、いやとても怖がられている。

研究室に近づいただけで、中から出て来て
「何をしている!ここに来るな!!」
と叫び、
誰も寄せ付けようとしないからだ。

数年前から、ずっと。
それまでは、誰にでも優しい、まるで皆の父親のような教授だったのに。

マッドサイエンティストのようになってしまった。
たまに娘のキョウコ・ライラックがやって来るが、それすらも拒絶している。

今は、恐らくモップのような何かで完全に部屋にバリケードを作り、
食事と入浴以外は極力研究室に籠るようにしているらしい。


クローリーが丁度、そのマークス博士の研究室の近くを通る。
アニエスが向こうからやって来る。
無言で手を振り合う。声を出したら見つかるからだ。

ゴトン

そこで、音がした。とんでもなく嫌な予感。
クローリーの後ろから、急いでやって来たレーン教授が、手に持っていたペットボトルを落としたのだ。

だが

......

マークス博士が部屋から出て来る様子はない。
「......」
アニエスもマークス博士の部屋の前にやって来る。
更にはレーン教授もそこに加わり、様子を伺う。
が、
いつものようにモップはかけられているものの、中の様子は全く分からない。

続く

Re: ストラグル 紅月の種 ( No.4 )
日時: 2017/05/22 11:40
名前: 狂yuki (ID: lQjP23yG)

中を覗く。

モップが倒れる。

おかしい。マークス博士が、何もしてないのに倒れるようなモップの置き方なんてするわけがない。

すると次の瞬間、アニエスは扉に手をかけていた。

レーン教授が叫ぶ。
「うわ!おいやめろ!潰されるぞ!」
負けじとアニエスが反論する。
「博士......いえ、先生が、危ない気がするんです!このままじゃ...!」

ガチャ

何とドアは簡単に開いた。鍵がかかっていないのだ。

一同はそして、部屋の中の様子を見て絶句する。

マークス・ライラック博士が、倒れていたのだ。

すると医学項目担当のレーン教授がすかさずマークス博士の手袋を奪う。
「教授、何を!?」
「ちょっと嫌な予感がする。こいつは当たってる」

そして、

「......!これは...ヒ素中毒...?」

ヒ素中毒。耳を疑った。

「そうだな...自殺か、他殺か。どちらも有り得る」
レーン教授が解説を続ける。
「爪に白い模様が浮き出てる、だから死因は多分ヒ素だ。だが、
だとしたらこれまで、自殺するためにこの部屋に籠っていたのか?」

有り得ない。
だとしたら、何故わざわざ爪に痕跡が残るヒ素を?
しかも、鍵は開いていたし、モップだっていつ倒れてもおかしくない状態だった。
死ぬまであれほど周りを警戒していたのに、明らかに死後の彼の部屋はそれまでと違い過ぎていた。
更に、アニエスが妙なものを見つける。
「あ、...これ...」
それは、マークス・ライラックと、妻のマリア・ライラックと、娘のキョウコ・ライラックの家族写真だった。
そこに写るマークス博士は本当に楽しそうな顔をしていた。
とても研究室に近づいた人間を威嚇するような恐ろしいマッドサイエンティストには見えなかった。

人は変わると言うけれど、それでもおかしい。やはり、こんなに変わるというのはおかしすぎる。

そこでクローリーはふと思った。
マークスは、禁忌の研究をしていて、それで組織か何かに目をつけられていた。だから、
自分達が彼に関わって殺される可能性を考慮して、研究室を密封していたのではないかと。
だとすれば、キョウコにまであんなに怒っていた理由がよく分かる。

「......そうか、やっぱり、博士は...」
「?どうしたのクローリー?」

「アニエス。博士がこの研究室で何を研究していたか。それを調べよう。レーン教授、御協力願えますか」
レーン教授とアニエスは思わず顔を見合わせた。


そして、研究室の捜索が始まった。
部屋の中には沢山の資料があり、ひとまずそれらを分別することから始まった。
「工学Iはこっち、...あれ、兵器学IIがないぞ」
「こっちにある、間違えてたよすまん」
「あ、そっちでしたか、はい」

だが、
研究内容に関する資料のようなものは一向に見つからない。
教科書やそれをもとにした上級クラス用のレジュメばかり。
「......く、無いか」
「あ、待って!」
「アニエス?どうした」
「これ...」
そう言ってアニエスが差し出してきたのは、謎のメモだ。

『私は命を狙われている。どう立ち回っても恐らく12月までには殺されているだろう。だから、ここに遺言として私の最後の言葉を記す。
 私はメシアに搭載可能なとあるシステムについて研究している。
そのシステムを搭載した試験機は大破し、パイロットも死亡してしまった。つまり実験は失敗した。
だが、それだけでは終われない。のちに人類の希望となる筈であるこのシステムを、少しの犠牲も払わずに闇に葬ってしまうのは絶対に許されないことだ。
私は例えこの魂が滅びようとも、私の育てたメシアが愛する妻を殺めたセラフィムを殲滅するその日までは、絶対に諦めない。
私の意思・正義を告ぐ人間が、私の研究を完成させてほしい。
私の研究を危険視していたのは日本だ。だから資料は日本軍が取って行った筈だ。
元々私はドイツの人間。だから、ドイツの問題でフランスをこれ以上傷つけたくはない。
だが、そのためにもう少し、私の我が儘を聞いてほしい。せめて、最後に、私の願いを...』
それがマークス博士の遺言だった。

「......何だ、俺達の知らないところで何が起こってる」
クローリーは歯軋りをした。無理もない。

「マークス博士の研究って、何?正義って何?」
マークスは最早何も答えられない。死人として残された三人を不本意にも翻弄するだけ。

続く


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