ダーク・ファンタジー小説
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- Stories of Andalsia 頼まれ屋アリア
- 日時: 2017/09/30 15:51
- 名前: 流沢藍蓮 (ID: GfAStKpr)
- 参照: http://www.kakiko.info/upload_bbs3/index.php?mode=image&file=590.png
※ 貼ってあるURLは世界地図です。
参考にでも、ご覧ください。
。。。☆
今か昔かそれとも未来か!? 時も場所もわからぬ世界に。不思議な不思議な「店」がある。
その名も「頼まれ屋アリア」と——。
『願い、叶えます! アリア&ヴェルゼ』
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依頼ノート
・一番目の依頼 王都までお使いを >>1-2
・Another Request 死霊術師は月に嗤う >>3
・二番目の依頼 『風の司』を探しています >>4-7
・三番目の依頼 暴動発生!? 冷やせよ頭 >>9-10
・四番目の依頼 働きますから私に居場所を >>11-13
・五番目の依頼 魔道具って知ってるかい? >>14-
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どーも、藍蓮です。前から構想だけあった話を、形にしてしまいました。
私がこれまでカキコで書いてきた作品は、完結作品、更新止まって久しい作品、複ファの短編集含め、合計で6つ。この作品で7つ目になります。藍蓮はいくつ作品を書いたら気が済むのか。しかも頭の中には、「カラミティ・ハーツ」の続編案までありますし……。うわあ!
今回は、特にこれといった目的の定まっていない、ある「店」の話です。「夜明けの演者」と世界観は一緒ですが、こちらの方が二年ほど時代をさかのぼっております。
この作品は、主人公たちが「店」に持ち込まれる様々な依頼を解決していく話です。ですので、皆さまからも「依頼」内容のリクエストを受け付けております。内容がそこそこ進んで話が理解できるようになりましたら、良かったらアイデアをくださいな。
ではでは。
メインメンバーが少なすぎるので、今回はキャラクター紹介をします。
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アリア・ティレイト(17)
リノールにある「店」、基本どんな依頼でも受け付けるなんでも屋、『頼まれ屋アリア』の若き女店主。全属性魔法使いだからこそ、そんな真似ができる。
明るく素直で直情傾向だが、しっかり者で面倒見が良い一面も。
炎のような赤い髪と、明るい赤の瞳が特徴。
弟に対しては過度な心配症。
家事も裁縫も得意な、家庭的な女の子。
『アリア』では主に、接客担当。
ヴェルゼ・ティレイト(15)
アリアの二つ下の弟。死霊術師兼血の魔導士。
クールでダークな皮肉屋さんで、ひねくれ者。基本的な能力は高く、万事そつなくこなす。
たいそうな強がりかつ自己犠牲的で、「自分なんてどうでもいい」とどこかで思っている節があり、よく大怪我をして帰ってくる。
死霊や血液を利用した「裏の依頼」も、姉に内緒で行っているらしい……。
笛の名手で、故郷から持って来た『エルナスの笛』を奏で、死者や怨念を鎮める。
髪も瞳も衣装も漆黒。マントを羽織っている。
武器は黒曜石でできた大鎌。死神みたいな印象を与える。
『アリア』では主に、会計を担当。
頭がいいし、頭の回転も速い。
ソーティア・レイ(15)
白い髪に赤い瞳と、通常は目に見えない魔法素(マナ)を読み取る力を持つ異種族、「イデュールの民」の少女。「頼まれ屋アリア」に居場所を探して流れついた。今は立派な店のメンバー。
物質に残った「魔法の記憶」を読み取り「直前に放たれた魔法」を完全再現できるが本人は魔力が少ないため、連発は不可能。そもそも魔導士ですらない。
内気なように見えて芯が強く、逆境にめげない力強さを持つ。口調はいつも敬語調。
故郷を異種族を嫌う人々に焼き払われ、今は帰る場所がこの「店」しかない。
『アリア』では接客も会計も担当。どれも平均的にできるので、アリア達から便利使いされている。
目立つ白い髪を隠すため、普段は「あの人からもらった」純白のフード付きローブを被っている。
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*注意事項
・荒らし、宣伝はお控えください。遠慮なく削除依頼出しますよ?
・一つの「依頼」が進行中の時は、完了するまでコメントをお控えいただけると嬉しいです。目次を作る関係上、そうして下さると非常に助かります。
・更新は不定期ですが、3〜5日に一話くらいは更新していきたいです。
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2017/9/1 本編開始
- 頼まれ屋アリア 1-a いらっしゃい、お婆さん ( No.1 )
- 日時: 2017/09/29 00:55
- 名前: 流沢藍蓮 (ID: GfAStKpr)
新シリーズ、開幕!
同じ世界の話なので、魔法の仕組みや国、神々などは「夜明けの演者」と同じです。
いずれ設定集載せます。
この作品は、明るいところはしっかりと明るいです。
全体的に、のんびりした雰囲気ですハイ。
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今か昔かそれとも未来か!? 時も場所もわからぬ世界に。不思議な不思議な「店」がある。
その名も「頼まれ屋アリア」と——。
『願い、叶えます! アリア&ヴェルゼ』
その木造の「店」には。「開店」の板の横に、上のようなことが書かれていた。
。。。☆
1番目の依頼 王都までお使いを
a いらっしゃい、お婆さん
。。。☆
ここは、アンディルーヴ魔道王国の片田舎、平凡なるリノールの町——。
カランコロン。ドアベルが鳴る。今日も『頼まれ屋アリア』の一日が始まる。
「はいは〜い、ただいま!」
パタパタと足音を立てて接客カウンターに立つは、赤い髪が特徴的な少女。この「店」の店主、全属性魔法使いアリア・ティレイトである。
「やぁ、アリアちゃん。いつもごひいきにねぇ」
やってきた客は腰の曲がったおばあさん。その顔を見て、アリアは花が咲いたかのように微笑んだ。
「あら、ファナさん! 今日は、何の御用かしら?」
どうやらアリアとこのおばあさんは、旧知の間柄らしい。
ファナと呼ばれたおばあさんは、しわがれた声で言った。
「王都に行ってほしいんだよ。わしの孫娘がのぅ、今度結婚するんじゃけど、この町にあるのじゃたいしたアクセサリーなんてないし……。お金は後から払うし、行けないかのぅ?」
本当はわしが行きたいのじゃが、年寄りだしそこまで歩けんわ、と彼女は言った。
アリアは笑って、快くうなずいた。
「でも、あたしが選んじゃっていの? お孫さんの外見とかは?」
「アリアちゃんの美的センスなら大丈夫じゃろう。まぁ、参考までに。孫娘のエリルは翡翠みたいな緑の髪に、綺麗な水色の瞳をしちょるよ」
青や緑系のアクセサリーの、似合いそうな子だ。
アリアは腰に手を当てて、宣言する。
「頼まれ屋アリア、依頼、承りました!」
契約成立だ。
「ファナさんのおうちはあたしが知ってるし、用が終わったら届けに行くね! ただし、依頼料は、品物の代金に、あたしたちの働いた分のお金も上乗せされるから、割高になるわよ?」
「アリアちゃんくらいしか婆さんのこんなしょぼい頼みを聞いてくれる人がいないんじゃい。だから別にいいんじゃよ」
「了解よ! じゃ、待っててね!」
「頼みましたぞ〜!」
扉を閉め、手を振って。彼女は店から出ていった。
それを確認した後、アリアは後ろに声をかけた。
「ヴェルゼ!」
「聞いてる」
カウンターの後ろ——様々な木箱や道具であふれかえっている区画から、漆黒の少年が現れた。
人ぞ知る『頼まれ屋アリア』の第二の住人、アリアの弟ヴェルゼである。
「何か用か?」
「あたしの依頼について行ってよ!」
「だが断る」
「何でっ!?」
アリアの驚いたような顔に、彼は冷静に返した。
「お使いくらい、一人で行けるだろう。オレは留守番で構わん」
「え〜? でも、ヴェルゼ、一人で残すのは心配……」
「オレはもう十五だぞ? 姉貴に心配されるような歳か?」
その、不敵にさえ見える横顔は確かに安心できる。
それに馬鹿なアリアが頭のいいヴェルゼを説得するのは、難しいことだし。
アリアはふうっと溜め息をついた。
「はーい、はい。一人で行くわよ。ヴェルゼがついてきても、アクセサリーなんてわからないでしょ?」
「武器ならわかるんだがな」
「ハイハイ。一人で行くわ」
あきらめたように投げやりに言って。アリアは店の外へ出る。
春が始まったばかりの空気は。まだ少し肌寒い。
彼女は、店の外壁にかかっている「開店」の木製のプレートを、裏返して「仕事中 閉店」にした。これでしばらく他の客が来なくなる。
その仕事を終え、空を見上げた。
まだ早いツバメの夫婦が、霞色の天を飛んでいく。
アリアはしばらくその様に見入った後、店兼住居へと戻った。
。。。☆
「そう言えばヴェルゼ、何か欲しいものとかある?」
その夜。店の奥で夕飯を作りながらもアリアは弟に訊ねた。
ヴェルゼは少し首をかしげると、いいや、特に必要ないと答えた。
いや、実際に必要なものはないわけでもないが、それは王都ではそろえられないものなのだ。
その答えを聞いて、アリアはうなずいた。
「じゃ、あたしが適当にお菓子とか買っていくね」
そうなるとアリアは必然的に、自分の欲しいものばかり買うことになる。
ヴェルゼはハァと溜め息をついた。
「2000ルーヴだ」
言って、財布を差し出した。
「アクセサリー代含めて2000ルーヴだ。それ以上使ったら赤字になるが?」
「ふっかければいいじゃん」
「どこの悪徳業者だ?」
ヴェルゼは呆れたように首を振った。
「オレが会計やっているんだから、口を挟むくらいなら自分でやってくれ」
「あ、ごめん、あたし、計算苦手……」
「ならば2000ルーヴ。それ以上の出費は認めないぞオレは」
「……りょーかい」
アリアはヴェルゼから財布を受け取った。
その頭は今、沢山の妄想に膨らんでいることだろう。
それでも料理は完璧にこなすのが、アリアがアリアたる所以である。
。。。☆
「おまちどお」
しばらくして。アリアがいくつかの皿を持って、ヴェルゼのいる机にやってきた。
スープ皿からはほこほこと温かそうな湯気が上がり、まだ肌寒い季節にはちょうど良かった。
「「いただきます」」
掬ったスープは。じんわりと温かく胃を満たす。
アリアは明日、行ってしまう。彼女が行ったら料理はヴェルゼが作らなければならない。ヴェルゼは料理は苦手ではなかったが、やはり姉と囲む食卓が一番だと思った。
やがて食べ終わり、二人して皿を片づける。
皿洗いはいつもアリアがやるので、やることのなくなったヴェルゼは部屋へと戻る。
窓から見える空は、美しい漆黒をしていた。
鼻歌を歌いながらも、アリアは皿を洗う。
家事に慣れた手はテンポよく、次々と皿の汚れを落としていく。
皿を洗いながらも、アリアは依頼のことについて思いを馳せていた。
(あんなアクセサリーや、こんなアクセサリー。あまったらお菓子とか買って)
今日も平和に、日々は過ぎゆく。
これが、『頼まれ屋アリア』の毎日だった。
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ハイどーも、藍蓮です。新シリーズをお送りします。
この物語は、特にこれといった最終目的はないので、のんびりゆっくり書かせていただきます。
とりあえずのプロローグはこんな感じですね。なんだかみんな、幸せそう。
次の話は。お茶でも飲みながらのんびりと、お待ちください。
- 頼まれ屋アリア 1-b ネックレス大騒動 ( No.2 )
- 日時: 2017/09/29 01:02
- 名前: 流沢藍蓮 (ID: GfAStKpr)
内容が明るいから、シリダクじゃなくてコメライに書け?
いや、今さらですし! 後にもちろん、お約束のシリアスも入りますからね……。
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b ネックレス大騒動
「じゃぁ、行ってきまーす!」
翌朝。そう明るく元気に言って、アリアは王都へと出発していった。
この町リノールから王都までは、一日と半分かかる。単純計算、アリアは三日間店を離れることになるが……。これはまだ軽い方だ。
しかも当人は、あまり行けない王都に行けるということで、浮かれていて。
「……本来の目的を忘れるなよ」
「わかってるって! あたし、そこまで馬鹿じゃないし!」
「……行ってらっしゃい」
相変わらずのヴェルゼに見送られ、アリアは出発した。
。。。☆
いつもの道は、平坦で。
いつもの道は、つまらない。
こういうときヴェルゼがいれば、楽しい話し相手になるのかなとアリアは思ったが、生憎と彼はその場にいない。
(一緒に行ってくれたってよかったんじゃない? 薄情ヴェルゼ!)
そんなふうにすねてみたって。この長い距離は変わらない。
(さっさと行って、王都に着こうか)
ただそれだけを考えて、足を速めた。
。。。☆
その日は街道の途中にある宿で眠った。
アリアは思った。
そう言えば、ヴェルゼと離れるのも久しぶりだな、と。
アリアは知らない。
何の意図があって、ヴェルゼがあえてついて行かなかったのか。
彼は正論を駆使して姉をやりこめた。
しかしその裏に隠された意図があるなんて、純粋なアリアにはわからない。
『頼まれ屋アリア』には、二つの顔がある。
一つは、アリア&ヴェルゼの経営する「表」の顔。
もう一つは、ヴェルゼだけでひっそりと経営する「裏」の顔。
今現在、アリアがいない時。
アリアがいないからこそ開店する「裏」の店で。
既に依頼は始まっているということを——。
。。。☆
それから半日。歩き続けてアリアは王都にたどりつく。
前にも行ったことはあるけれど、久々に見る王都はやはり美しくきらびやかで。
この国はアンディルーヴ魔道王国。魔法の栄える国。だから。
夜は色とりどりの魔法の照明が美しいのだが……。生憎と今は昼。残念である。
「えーと、青系統か緑系統のアクセサリー……」
お婆さんに言われたことを思い出しながらも、手持ちのお金と格闘しながらも。アリアは立ち並ぶ宝飾店を物色した。
すると、声をかけられた。
「お嬢さん。アクセサリーをお探しかい?」
声をかけてきたのは、目の前の宝飾店の人だった。アリアはうなずいた。
「友達の結婚祝いに買うものを探しています。青か緑がいいです」
宝飾店の人はうなずいた。しばらくして、青玉石と緑柱石をあしらったネックレスを彼女の前に差し出した。頭の中にあるエリル像とに会いそうだが、一見それなりに高そうだ。
アリアは恐る恐るその人に尋ねた。
「……あの〜、お値段はいかほど?」
「2000ルーヴ……と言いたいところだが、(アリアの表情が石になった)まけてやろう。(アリアの表情が安堵したようになった)1800ルーヴだ(アリアの表情が再び固まった)」
その答えにアリアは泣きそうになった。
折角王都まで来たのに、所持金が200ルーヴしか残らないなんて!
しかし彼女はアリア。『頼まれ屋アリア』の店主だ。その名と誇りに賭けて、この素晴らしく似合いそうなアクセサリーを、断るわけにはいかなかった。
アリアはしょんぼりして、小銀貨を二枚出した。
小銀貨は一枚で1000ルーヴ。二枚出して、アリアはおつりをもらった。
「毎度ありー!」
残ったお金を見て。あと1000ルーヴはほしかったのにと思ったが、ヴェルゼの経済観念はしっかりしているし、アリアが口を挟むことでもないのだろう。
アリアは残ったお金と格闘しながらも、楽しめるだけ、王都を楽しんだ。
。。。☆
結局、アリアが買ったのは。
・依頼の装飾品(1800ルーヴ)
・王都定番のお菓子(50ルーヴ)
・王都にしかない特殊な薬草数種(100ルーヴ)
・食べ歩き(50ルーヴ)
となった。
これを見ると、アリアは100ルーヴ分しか遊べていないことになるが……。(宝飾品が高すぎた)目的は果たせたし。後からもっと多くのお金をもらえるし!
(でも、次に王都に行けるのはいつの話よ……)
ポジティブ思考のアリアだが、今回ばかりはネガティブになってしまうのも仕方のないことだろう。
「もっとまけとけばよかった!」
ヴェルゼがいればもっとお得にお買い物できたのかもしれないと、悔しがるアリアであった。
まあ、何はともあれ。
「帰ろっか」
今から歩けばあの宿に着くころには夜になってしまうけれど。
「依頼、達成よ」
買ったアクセサリーを壊さないよう大事に運びながらも。
アリアは夕暮の王都を出て、行きに泊まった宿ヘ向かった。
。。。☆
「ただいまー!」
その翌日の夜。店に帰りついたアリアは、元気よく扉を開けて店に入ってきた。
「予想よりも早いな。寄り道しなかったのか」
出迎えるは、相変わらずのヴェルゼ。彼は、椅子に座って本を読んでいるところだった。
アリアはヴェルゼに文句を言った。
「あんたが2000ルーヴしかくれなかったから、あたし、あまりものを買えなかったのよ」
「妥当な判断だな」
「ええ〜?」
文句を言うアリアに。
「で? 買った品物は? 見せろ」
「見せてもヴェルゼじゃアクセサリーはわからないんじゃない?」
「宝石というものには霊が宿ることがある。悪しきものが宿っていないかの鑑定だ」
言って、彼は手を差し出した。
ヴェルゼは死霊術師だ。死霊を呼び出して死者の声を聞いたり、悪しき霊を祓ったりする。彼はいつも首から笛を提げているが、その笛を奏で死者の魂を鎮めることもできる。そんなことをやっているがゆえに彼は「霊」というものに対しては、優れた感覚を持つ。
アリアは鞄を開け、例のものを取り出した。
その途端、カッと見開かれる彼の瞳。
「触るなッ!」
一閃。いつの間にか彼の手元にあった漆黒の大鎌が、そのネックレスを粉々に打ち砕いた。
そしてそこから何かもやのようなものが立ち上り、天井へと吸い込まれていった。
「え? え、何よ?」
アリアの驚いたような声。
ヴェルゼは油断なく大鎌を構えていたが、やがてそれを下ろして一言。
「あれには悪しきものが宿っていた」
と言った。
「それを売った人は気がつかなかったのかもしれないがな……。こんなものを結婚祝いになんか送ったら、嫁さんは三年以内に死ぬね」
「……そんな、まずいものだったの?」
「直接触れていないか?」
「……触れたけど」
「……わかった。三日は一人で出かけるな。絶対だぞ」
「依頼は? せっかく買ったのに、壊しちゃったから……」
「今度はオレも行く」
ヴェルゼはフッと微笑んだ。
「馬鹿みたいだな。最初からこうしていれば、こうはならなかったものを」
「でもヴェルゼ、一人で行けって……」
「こうなったからには仕方がない。それに、姉貴には若干、死霊の呪いがついているみたいだからな」
「……それって、そんなにやばいやつだったの?」
「ああ、そうさ」
破壊されたネックレスを、彼は冷たい目で見ながらも、低く呟いた。
「見えたのは一瞬だったがな……。遠い昔、実の親に閉じ込められてそのまま命を絶った貴族の令嬢の、宝物だったネックレスだ」
。。。☆
その後。アリアはヴェルゼとともに再度王都に向かい、彼の「鑑定」によって無難なアクセサリーを選び無事に帰途についた。そしてその足でお婆さんの家に向かい、アクセサリーを届けて大いに喜ばれて報酬の3500ルーヴをもらって、依頼は完了した。
アリアは「閉店」の札を裏返して、「開店」にする。
『頼まれ屋アリア 願い、叶えます! アリア&ヴェルゼ』
次は一体、どんな客が来ることだろう。
〈一番目の依頼 達成!〉
。。。☆ 。。。☆ 。。。☆ 。。。☆ 。。。☆ 。。。☆ 。。。☆
内容が「カラミティ・ハーツ」みたいに暗くないので、サクサク書けてうれしい藍蓮です。
「頼まれ屋アリア」一番目の依頼、お送りします。
この物語は、こんな感じで話が進んでいきます。アリア&ヴェルゼが、二人して、持ち込まれる様々な依頼をこなしていくという……。
次の依頼は一体何なのか?
の〜んびりと、お待ち下さい。
- Another Request 死霊術師は月に嗤う ( No.3 )
- 日時: 2017/09/29 01:09
- 名前: 流沢藍蓮 (ID: GfAStKpr)
ヴェルゼ編。
少しシリアス入ります。
アリアが店を留守にしている間、店では何があったのか——。
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Another Request 死霊術師は月に嗤う
。。★
夜。アリアのいなくなった店の前。ヴェルゼが店番を務める店の前。
訪れる客があった。
カランコロン。ドアベルが鳴る。
ヴェルゼは読んでいた本から顔を上げ、相手を一瞥して声を投げた。
「何の用だ」
やってきたのは若い男。無論ヴェルゼよりも年上だろう。
その男は彼に言った。
「死者復か……」
「断る」
にべもなく男の言葉を両断するヴェルゼ。
「オレは死霊術師だ。確かに死者復活もできるがな? それをするには、自分の寿命を五年も死神に捧げねばならんのだぞ。見も知らぬ他人に自分の命をくれてやるつもりはない。他をあたれ」
それだけ言うと彼は再び本に目を落とした。
完全に、話す気はないらしい。
男はあわてて言った。
「じゃあ! 死者復活とまでは言わないから! 死んだ彼女ともう一回話させて下さいお願いします!」
それを聞いてヴェルゼは溜め息をついた。
「まあ、それくらいならできないことはないがな……」
彼はしばし考えて、答えを出す。
「いいだろう。ヴェルゼ・ティレイト、『裏』の依頼、承った」
彼は読みかけていた本にしおりを挟み、立ち上がった。
「その人の遺品とかは持っているか?」
「はい、持っています!」
「なら、ついてこい。店で死霊術は使えない」
言って店の奥まで歩いて行って、そこから大きな黒い鞄を取り出し、漆黒の大鎌を背負ってから店を出た。
夜の空を見上げる。月の光が美しい。
——こういった日は、うまくいく。
口元に笑みを浮かべ、ヴェルゼは歩き出す。
。。★
店の裏手に少し行くと、寂(さ)びた小さな墓場がある。
店の裏手にこんなものがある理由は簡単。墓場の近くにちょうどいい空き家があったから、それを改築して使っているためだ。新しい家を建てる余裕なんて町に来たばかりの当時はなかったから。しかもその空き家というのが大層曰くつきだったらしいが、死霊術師のヴェルゼが見た限りでは何ともなかったので、それを利用して今に至る。
それに墓場というのは、『裏』の依頼に最適な所だった。
墓場には霊が集まりやすいから。そこで魂呼びをすればあまり待たなくても来てくれる。
ヴェルゼは持ってきた鞄からいくつかの道具を広げた。
「術を行うには、こちらが知らなければならないことがある」
墓場の雰囲気にびくびくしている男に、全く動じずヴェルゼは問いかける。
「あんたの名前は。その人の名前は。あんたとその人の関係は」
男は不安げに辺りを見回しながらも、答えた。
「ぼ、僕はフィル。彼女はアリス。恋人同士です!」
「恋人か。名字は?」
「そんな御大層なもの、持っている身分でもないので! 彼女も同じです」
「金は? 払えるのか? 払えないなら即刻お引き取り願いたいが」
「兄さんが商業で大成功したので!」
「兄頼りか」
「…………僕自身は、母さんのブローチしか、金目のものは」
「まあいい。その兄にツケる。……嘘を言ったら、破滅することを覚悟しておけよ?」
「嘘じゃないですよ!」
「理解した」
これで話は終わりだとばかりに、彼は手を振った。
「で? 遺品は。あと、彼女の死因は?」
「遺品はこれです。死因は事故死……。馬車に轢かれて死んだんです」
ヴェルゼは渡された、血の付着した赤いスカートの切れ端を手に取った。
「やってみる」
並べられた骨やら革やらの隣にその切れ端を置いた。
そして、奏でる。
胸に提げた、銀色の笛を。
言葉なんて要らない。名前を聞いても、その名を直接口にするわけではない。
彼の故郷、笛作りの町エルナスには。音で言葉を奏でる『笛言葉』なるものがあった。エルナスの者の限られた一部はそれをマスターし、「伝えたい人にしか届かない」「伝えたい人に対しては、相手がどんなに離れていても、たとえ相手が冥界にいても、その音色を届けられる」という奇跡の笛を奏で、互いの連絡用に使っていた。
しかし独特のパターンで奏でられる『笛言葉』は非常に難しく、エルナスの町でさえ、「聞く」ことはできても「奏でる」ことができる者はまれだ。
その『笛言葉』を、エルナスの町で唯一完全にマスターした神童ヴェルゼは今、その技量を完全に開放し、死者の魂を呼ぶ——。
〈——フィルの恋人アリスよアリス。我は呼ばん、我は呼ばん。
彼(か)の者の悲しみの声に応え、今ひとたび、姿を現わせ。
我は使い。生死の使い。死神に認められし死霊術師。境界線上に在る者ぞ——〉
『笛言葉』を知らぬ者にはただの音楽にしか聞こえないメロディーが。夜を渡って冥界に届く——。
。。★
やがて。
「アリス!」
「フィル……?」
呼び出された美しい女性が。
その顔に驚きを浮かべた。
彼女はフィルに冷たく言い放った。
「帰って」
「何だって?」
「あたしは死んだの。せっかく眠っていたところなのに、勝手に起こさないで頂戴」
フィルは愕然とした。彼女は自分に会いたがっていなかったのか。
アリスの霊は不機嫌そうに言った。
「そういう独りよがりな所が嫌い。私があなたを愛していたですって? 馬鹿も休み休み言いなさい。あなたの一方的な方想いに付き合わされた、私の気持ちがわかって?」
「い、いや、誤解だ、アリス!」
「あなたなんて、死んでしまえばいいのに。死後も私に付きまとって。最悪な男だわ」
その様を見て、ヴェルゼはさりげなく呟いた。
「……一つ、言い忘れていたな」
彼は、天使でも聖人でもない。
あえて、隠していたことがある。
「一度死んで、その後に呼び出された死者は……性格が、壊れていることが、あるんだ」
「なんだって——?」
諦めろと彼は言い、そっと死神の大鎌に手を掛ける。
「生前は愛があったのだろうが……。今の彼女は、呼び出されて壊れて、お前を憎んでいる。死者を呼び出すのが簡単なことだと思ったか? 自分がリスクを負う可能性を考えなかったのか? だとしたら、甘いな。ああ、蜂蜜のように甘い思考に拍手喝采だ。死者を呼ぶ、すでに死した者を呼ぶとは——こういうことなんだ、蜂蜜頭のフィルさんよ?」
最後は半ばからかうように言って、彼は手にした大鎌を構えた。
「な、彼女に何をする!」
「破壊するんだ。当然だろう?」
その口元には、嘲るような皮肉な笑み。
「壊れた死霊は周囲に被害をもたらす。だからオレが、破壊する」
「破壊されたら、彼女は——」
「完全にいなくなる。魂ごとすっかり。冥界での転生の輪廻にも組み込まれなくなり、人の思い出にしか残らなくなり——やがては思い出すらも消えて、完全に消滅するだろう」
「そ、そんな残酷なこと——!」
「そう仕向けたのは、あんただろうが」
目線の先には、恨み言を叫び続ける奇怪な死霊の女。
ヴェルゼは腕を確かめるように、大鎌を何回かぶんぶんと振った。
「あんたは依頼をした。オレはそれを果たした。結局はそういうことだ。その依頼の結末がどういう風に終わったって、オレは知らないぜ?」
言って死霊のもとに駆け出そうとした彼の前。
フィルはあわてて立ちはだかった。
「や、やめてくれぇ! 好きな人なんだぁ!」
「 死 に た い の か 」
その瞳が、地獄の輝きを宿して黒く光った。
男は恐怖して、思わず尻もちをついた。
「これはオレの依頼なんだ。オレの好きに終わらせて何が悪い。部外者が下手に関われば——命を落としたって、文句は言えないぞ」
そう、言い残し。
彼は、駆けた。
その漆黒の大鎌が。
死霊の魂を刈り取った。
。。★
「……ふう」
すべて終わり、彼は道具を片づけながら店へと戻る。
後ろにしっかりと、声を掛けるのも忘れない。
「結果がどうであろうと、依頼は依頼だ。後から代金をいただくから、そのつもりで」
呆然とした風の男を残し。彼は店へと帰還する。
その漆黒の衣装の右腕からは。彼のものである血液がべっとりと付着していた。
彼は内心で舌打ちした。
(くそっ、あの死霊め。死の間際に、とんだ大技を……)
雑魚だと侮っていたがそんなわけがなかった。
彼女は死の間際、彼の心臓に向かって魂で作られた剣を突き刺そうとしたのだ。
とっさに右腕で受けたから生きてはいたものの……。自らの魂を武器とするあの技は、傷の治りが遅いことに定評がある。
普通の人間はそんな真似をしない。できない。そこまで強い意志力がない。
(油断大敵、か)
それを一つ教訓として。彼は淡々と傷の手当てをした。
月が綺麗な日は、うまくいく。
何が? それはどんでん返しが。
美しい月は心を狂わせる。人も死霊も動物も。
ヴェルゼ・ティレイトは気まぐれだ。時に皮肉で、時に悪意で。
依頼者の運命を狂わせる。依頼者の願いを捻じ曲げる。
(『裏』の依頼を頼むってことは、覚悟が必要なんだぜ?)
不器用に傷の手当てをしながらも。
死霊術師は月に嗤った。
〈Velze Side 1 fin……〉
。。★ 。。★ 。。★ 。。★ 。。★ 。。★ 。。★ 。。★
アリアがいない間のヴェルゼ編。
彼の醸し出す独特の暗い雰囲気を、感じていただけたら幸いです。
アリアが陽とするならヴェルゼは陰。
対照的な二人が紡ぎだす物語は、一体どこへたどり着くのか——。
次は「表」に戻ります。
の〜んびりと、お待ちください。
- 頼まれ屋アリア 2−a ハゲ商人からのお願い ( No.4 )
- 日時: 2017/09/29 00:47
- 名前: 流沢藍蓮 (ID: GfAStKpr)
……ま、毎日更新できるなんて、言ってないんだからねっ!
こんにちは、藍蓮です。
一日ぶりに更新……。
ちなみに物語の中の依頼は、二週間に一回来ます。
今は三月の三週目。次の依頼が来るのは四月の一週目です。
なぜそういった時間設定をしているのかは……話を最後までお読みいただければ、わかるはず。
それではどうぞ。
今回は短めですぅ。
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今か昔かそれとも未来か!? 時も場所もわからぬ世界に。不思議な不思議な「店」がある。
その名も「頼まれ屋アリア」と——。
『願い、叶えます! アリア&ヴェルゼ』
その木造の「店」には。「開店」の板の横に、上のようなことが書かれていた。
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2番目の依頼 『風の司』を探しています
a ハゲ商人からのお願い
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カランコロン。ドアベルが鳴る。今日も『頼まれ屋アリア』の一日が始まる。
「ようこそ。今日は何の御用かしら?」
今回は前回みたいにドタバタせず、最初からカウンターに着いてアリアが問うた。
ちなみにヴェルゼは相変わらず、店の奥で帳簿管理や読書などをしている。
やってきたのはどこかの商人のようだった。服装などから、それなりに成功しているところだとわかる。その、少し太ったハゲ頭の商人の男は、遠慮がちに切り出した。
「え〜と、ここ、何でも引き受けてらっしゃるんですよね?」
「物によるけど」
「じゃあ、『風の司』を……引き受けて下さいませんかね?」
「……『風の司』って、何?」
その言葉を聞いて、背後でヴェルゼが盛大な溜め息をついたのを感じた。
アリアは内心ですねた。
(あたし、ヴェルゼみたいに頭良くないから!)
商人は、こりゃしまったと額を打った。
「あっしの説明不足なようで。我々はこれから船を使って南の島国エルドキアまで行くのですが、いつも連れている風の魔導士が具合悪くて行けないそうでして。で、海というのは荒れますからなぁ。彼女に代わって船を先導してくれる魔法使いを、探しておったのですよ。それをあっしらは『風の司』と呼んでおりまして」
要は、風の魔導士に船を導いてくれということらしい。
「一応聞きますが、そちらは風の魔法、使えるんで?」
「あたしは全属性魔導士よ。風だけでなく、水も操れるわ」
「そりゃあ助かります。あ、でも行きだけでいいですよ。あっしらはしばらくエルドキアに滞在するんで。帰りの船代も出しまっせ。料金は現地、エルドキアにて」
「了解。ところで、訊いていい?」
「何でございましょう?」
アリアはちらりと後ろを見た。
「その船、あたし以外にもう一人乗せられる?」
その言葉に、ヴェルゼが軽く身じろぎをしたのがわかった。
商人は首をかしげる。
「お連れ様がいらっしゃるんで?」
「看板にもあったでしょ、アリア&ヴェルゼって。ヴェルゼはあたしの弟。いつも奥で会計やってるけれど……。ヴェルゼー? 出てきなさいよ」
「……オレにもついてこいと?」
アリアが奥に声を投げれば。面倒くさそうに漆黒の死霊術師が現れた。
アリアはうなずく。
「そう。まず、海にたどり着くだけでも時間かかるんだから! 王都までなら大したことないけど、今回は割と長いのよ? あたし、馬鹿だから。ヴェルゼいないと不安なの」
「……口で言うほど馬鹿ではないだろうが」
呟きながらも。ヴェルゼは商人に手を差し出した。
「ヴェルゼ・ティレイトだ。良かったら貴船に乗せていただきたいのだが、よろしいだろうか? 風の魔法こそ使えないが、戦闘では率先して前へ出よう」
商人はその15歳らしからぬ物言いに若干気後れしつつも、その手を握った。
「ティレイト姉弟、乗船を歓迎いたします!」
「頼まれ屋アリア、依頼、承りました!」
新しい旅が始まる。
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この依頼は、大体三話構成を予定しております。長くなるか短くなるかは、藍蓮次第ですけれどね。
まあ、こんな感じで、アリアたちは依頼をこなしていきます。
平凡とか、陳腐とか、展開が平坦でつまらないとか……言わないで下さいよ?
こっちはメインの話ではないので、更新は遅めです。
ゆった〜りと、お待ちください。