ダーク・ファンタジー小説
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入力例)鳴(な)かぬなら 鳴(な)くまでまとう 不如帰(ホトトギス)
- 青、きみを繋いで。
- 日時: 2018/10/04 21:51
- 名前: 厳島やよい (ID: uLF5snsy)
そろそろ、飽きてきたので、はやく終わらせたい。
どうも、厳島やよいです。
@sousaku_okiba_様より
お題『青春と呼べるほど、綺麗じゃない』
流血・暴力描写など入ります。
物語の長さの割に矛盾点など多いかもです。
苦手な方はご注意ください。
◎2018夏大会にて、管理人賞をいただけました。◎
なんとか、完結まで持っていけたらと、思います。
○おもな登場人物○
有明恒平(ありあけ こうへい)……父方の叔父とふたり暮らし
須藤美佳(すどう みか)……中1の春に母とふたりで越してきた
紫水雨音(しすい あまね)……コウヘイの家のお隣さんで昔からの友達
嶋川颯真(しまかわ ふうま)……コウヘイの友達。密かにミカを好いている
天宮城麗華(うぶしろ れいか)……中学のとき、ミカをいじめていた
奥羽晃一(おうば こういち)……ミカの兄。 自殺した。享年16歳
■
このちいさなちいさな世界から色が消えてしまっても、ひとりぼっちでもね、きみがいるから、僕は……
- *5* ( No.8 )
- 日時: 2017/10/06 00:10
- 名前: 厳島やよい (ID: Kot0lCt/)
- 参照: なんだか眠れなくて。
木の陰のほうから聞こえてきた声にも、すぐ反応できなかった。
「君を呼んでるんだ、朱鳥中学の生徒さんだよね」
後ろから強めに肩を掴まれたので振り向くと、闇の中に、僕よりも背の高く若い、見知らぬ男が立っていた。スーツ姿ではないが、整った格好をしている。暗がりが邪魔をしてはっきりとは見えないものの、顔もそれなりに綺麗ではあるなと感じた。
この学ランを、うちの学校の制服なのだと知っているあたり、もしかして。
「ああ、すみません。もしかして、ミカのお父さん、ですか」
こんな時なのだから、可能性くらいはあるだろう。ミカたちと話していたときの元気が嘘のように、平坦で小さな声しか出てこないのをおかしく感じたのだけど、今はそんなことより早く家へ帰りたい。おじさんが待っているのだから。
「いいや。私には娘も息子もいない」
「それじゃあ────」
「彼女と母親の知り合いなんだけどね、どうやら方向音痴がはたらいてしまっているようで、さっきからここを抜け出せないんだ。もうこんな時間だし、患者さんたちはそろそろ夕食の時間なんだろう? もう諦めて帰ろうと思ってね」
「……はあ」
「ふたりはどうだった? 美佳ちゃんの具合も」
なんだか無理矢理に会話を誘導されている感覚があるし、疑問点なんかもぷつぷつ浮かび上がってくる。でもやっぱり僕は早く家に帰りたいのだ。適当に済ませてこの男と別れるためなら、少しくらい付き合ってやってもいいだろう。
「ミカは歩けるくらいには回復してますよ。少しの間、方目が不自由にはなるようですけど、怪我を含めても不便は一時的なものですし、大丈夫です」
「そーかそーか、それは良かった良かった」
「きちんと道に沿って歩いていれば中に入れますから、困ったことがあるならスタッフさんに聞けばいいと思います。面会時間もまだ終わりではないし、ちょっと顔を出すだけでも行ってみたらどうですか」
「いやあ、それはちょっと出来ないかなあ」
「…………なら、僕についてくれば出口までなら送っていけますから、一緒にいきましょう。急ぎ足になってしまいますが」
下手に女を演じているみたいな話し方や、未だに生やさしく肩を掴んだまま離してくれない彼の手に、ねばついた嫌悪感をおぼえる。
案の定、出口へ向かって歩きだそうとしたら再びその手に力を込められ、僕は不自由の身となってしまった。
「やだねえ、つれない。しょうがないから種明かしをするよ。実は君がここにやって来てから、ずっと後を付けていたんだ。須藤美佳さんの病室を、出入りしていたよねえ。有明恒平くん」
「そうですけど、それがどうかしたんですか」
こうしている間にも、時間が無駄になっていく。僕の表情筋はこんな人間相手に笑顔を保ち続けられるほどタフじゃない。何故嘘などついたのかと聞きたくなるのをこらえたものの、思わず苛立ちを滲ませてしまった言葉に乾いた笑い声をこぼされたので、とうとう自分の表情も崩れていった。
「悲惨な交通事故に巻き込まれた罪のない女子中学生には同い年のボーイフレンドがいて、その彼は被害者のために……。画像も音声もこっちは持ってるんだよ、俺相手にあまりイライラしないほうがいい」
「そういうことか」
前言撤回だ。
確か数十分前に、心ないなどと言うつもりはないと、勝手に語った記憶があるけれど、無かったことにさせていただく。とりあえずこいつは死んでしまえばいい。今すぐに。
「数日前にも、あの子の友達らしい生徒たちを何人も見ている。制服姿もいたし、そこに混じってジャージや私服の子なんかもね。勿論きみと同じように、彼らともコンタクトをとろうと試みたさ。だけど、全員、はずれだ」
「当たり前でしょう。朱鳥中学自体、それほど馬鹿じゃありませんから」
綺麗だと思っていたはずの彼の顔が、歪んで見える。ただの錯覚なのか、その薄っぺらい皮膚が本当に美しくない形を作り出しているのかはわからない。そんなこと、知りたくもない。
「たとえあの子達が馬鹿でなかったとしても、きみは間違いなく馬鹿だよ。べらべら喋ってくれちゃってさあ、あははは」
やばいなと思った。涙をこらえていた時よりずっと明るくて強い危険信号が点滅している。
「恒平くん、良いことを教えてあげる。今回の事故は、運送会社の正社員である25歳の男が持病の発作を起こしたことが引き金だったろう? アレはねえ、彼の持病を知っておきながら過労を強いた、屑な上司のお陰なんだよ」
「そんなの……よくあることじゃないか」
そう、よくある。そういう話はよくあると思う。
声が震えるのは気のせいだ。呼吸が、手が脚が、震えているのも気のせいだ。
「よくあること? その屑な上司の名前を聞いても、同じ考えでいられるかな。ウブシロ、ショウスケ……。わかるだろう、恒平くんなら、これが誰のことなのか」
「ウブ……シロ……天宮城? まさか」
思い当たる人物といえば一人しかいない。嫌でも青ざめていく僕の顔を見て、彼はにやにやと笑う。
「俺にはもうひとつ隠していたことがある。きみ以外にもあと一人だけ、馬鹿がいたってことだ」
そんな珍しい苗字、この辺りじゃあいつの家しかいない。つい最近、ミカを仲間はずれにしているんじゃないかって噂を聞いた、
「天宮城麗華ちゃんだよ」
あの蒸し暑い体育館で挙がった名前。
「いんやあ、あの子も変に健気っつうか、なんつうか。そこの噴水の前で泣いていたところをつかまえてさ。ジュースを買ってあげて、話を聞いてみたら、もう」
「テメェ……」
馬鹿にしやがって、とまでは言えなかった。そんなことを口走れば、彼と同類なのだと認めることになるし、後でどうなるか大体の想像もつく。今にも飛び出していきそうな暴言たちを抑えていたら、知らないうちに拳に力が入っていたようで、伸びかけの爪が手のひらに食い込んで痛かった。
「喧嘩したまま会えなくなったから、ひとりでこっそり見舞いにきてみたらあの様だったってね。しかし本当に、単なるガキの喧嘩か? 俺の言わんとすることがわかるだろう」
ああ、まったく、この、ジジイは。
「娘のほうは、まだこの事件の真相を知らない。どうせあの会社のことだから、バレたところで大金を積んで揉み消すか、せいぜい父親だけが解雇になるくらいだろうな。
でも麗華ちゃんはどうだ。何も悪くないお友達を、親子揃って立て続けに傷つけたということを知るかもしれない。そうなれば、家族の中では、彼女だけがそれを知っていることになる。少なくとも、最初のうちはね」
「でも、それよりも先に僕が知ってしまった」
「そういうことだ。さあ、君はどうする? 俺たちよりも前に、彼女に真相を伝えることができる。その上で彼女を追い詰めることができる。ほかにもいろーんな選択肢があるよ。選り取りみどりだ。でも、証拠を持ってないけどねえ」
ここまで来たところで、ようやく気がついた。今もなお笑い続けるこいつは唆そうとしている。まだ中学2年生の、14歳の僕を。
怒りがただの恐怖に変わった。この人はおかしい。たぶん、いや、絶対に狂っている。その結論に達したと同時に、僕は彼の重い手を振り切って、無我夢中で走り出した。逃げろ、にげろ、逃げろ逃げろ、逃げろ。こんな奴に人生をぶち壊されてたまるものか!
きっといつか、家も見つかってしまう。僕のところも、ミカのところも、天宮城麗華のところも。どうしよう。あいつは、僕が麗華を殺すか、そうなるように仕向けるか、レイプでもする未来を望んでいるのだろうか。彼が生きるためにしても、個人的な趣味の悪い遊びにしても、恐ろしさのあまりに吐き気もしない。
バスに乗ることさえ忘れて、走り、走り、走り続けて家に帰っていた。この場所へ帰ろうと必死だったことを、何故か僕の家の前で仁王立ちしていた私服姿の雨音に抱きついてから、やっと思い出した。
「どどど、どうしたんだコウヘイ」
「あま、ね、雨音、あーちゃん」
繰り返して止まないこの荒い呼吸も、あの瞬間から噴き出した嫌な汗と共に、異常に速まったままの心臓も、感じてくれる人がいる。僕はまだ生きているんだ。
懐かしくて、いつも通りで、良い匂いがする。ばさばさとまとわりついてくる、彼女の結った長い髪も変わらない。
「おぉい、気持ちわりぃし、てか今更あーちゃんって」
「大丈夫って言って、僕はちゃんと生きてる? 雨音もおばさんもおじさんも、良典さんも生きてる?」
まるで小さな子供に……9歳の有明恒平に戻ってしまったかのような言動に、若干引き気味だった雨音が状態を理解してくれたのか、泣き出す僕を宥めはじめた。
背中をそっと叩くリズムも、大丈夫、大丈夫、と繰り返す声も、優しく脳に響いていく。
「生きてるよ。コウヘイも、あーちゃんも、母さんも父さんも、良典さんも。生きてるよ」
青い色だけが霞むこの世界で、この家にやってきてから僕は、今までに何度か、こんな風に突然歯止めがきかなくなっていた。そして、それを治めて心を正してくれたのは、いつも雨音だった。偶然なのだろうか。それとも、彼女は彼女なりに、意識的にも無意識的にも、なにか感じ取っているのだろうか。
思えば、雨音はいつも、ピンクや黄色やオレンジなんかの、青以外の服を着ていることが多い。今だって、白いパーカーの下には、鮮やかなオレンジ色のTシャツが覗いていた。わずかな記憶だけれど、少なくとも知り合ったばかりのころの雨音は青がよく似合っていたし、本人も好きだと言っていた。それなのに。僕は、彼女の青まで奪ってしまったんだ。消えてしまったあの色は、一体どこにいくっていうんだ。
僕は心なんか病んでない。こんなに普通で、元気で、死にたくも、人を殺したくもない思春期の男の子で、ああ、ごめんね母さん、あなたを傷つけるつもりじゃないんだ。
ぼやける視界の向こうに見えた彼女に許しを乞う。そうしたらその影も見えなくなって、乱れていた呼吸も鼓動も、さっきまでのことなんて夢だったかのように、落ち着いていった。
「良典さんが心配してたから、待ってたんだ。何か軽くでも、食べてくか?」
タイミングなんてわかってる、という風に、雨音も僕を宥めるのをやめる。そういえば、隣の家──彼女の住む一軒家は、今日もまだ人のいる気配がない。対して有明家は、リビングの窓からだけ薄灯りを漏らしていた。共働きというのも大変なんだなと思いながら、僕は小さく頷いた。
紫水、と刻まれた表札には、おしゃれにクローバーなんかも添えられていて、ご丁寧にSHISUIと読み方まで振ってある。僕らは、その芸能人みたいな苗字の前を通りすぎて、特に話すこともなく家の中へ入っていった。
「ごめん、すぐ食べられそうなの、袋のラーメンくらいしかないや」
「いいよ」
「醤油と塩、どっちがいい?」
「…………しょーゆ」
「わかった。卵とサラダチキン、余ってるから入れる」
「うん」
会話の合間に棚や冷蔵庫を開け閉めする音が飛び交っていく。卵もうまく割れないくせに、姉みたいにキッチンになんか立って。そんなことを思いながら鞄をおろして横になり、絨毯の床に転がっていた大きなクッションに顔をうずめた。
なんとなく、今はミカのことを考えたくない。それでも、これから彼女との関係性についてをどうしようかという頭の中での静かな議論は、やめようと思えずにいた。きちんと嘘をついたことを告白し、記憶が元通りによみがえるまでは他人として接するか、それとも、このまま恋人同士になってしまうか。普通に考えれば前者を採るべきではあるけれど、しばらくは様子を見たほうがいいような気がしてきた。また幽体離脱をしてしまったらこんな脳内会議も無駄になるし、もしかしたら、恋人としての僕の存在が、あの状態の彼女をどこかで支えてくれる一部分になるかもしれない。嘘なんだごめんねと、すぐにでも言ってしまえば僕は楽になるけど、あの子はさらに苦しくなる。そんな状態で放置されていたら、冗談抜きで消えていってしまいそうだった。
お湯の沸く音に紛れて、雨音が何やら携帯電話で文字を打ち込んでいるような音が聞こえる。ちなみに僕は、そんな便利なものを持っていはいない。
「良典さんに伝えといた。このあと風呂入ってしばらくしたら寝るってさ。泊まりはダメだって言われたけどな」
「…………そう」
「もうそんな歳なんだなぁ、うちら」
気遣いや遠慮の意味もあるんだろうけど、雨音の言いたいことは、そういう意味じゃない。
「子供に戻りたいって、思う?」
だから僕は問いかける。
「ときどきね。学校も部活も大人も、くそくらえ」
「優等生でエースなのに、そんなこと」
「どこがだよ」
けっ、と彼女は誰にでもなく嘲笑を浮かべた。
バドミントン部の部長で、成績優秀。黙って微笑んでいれば普通にかわいい女の子なのにと思うくらい、雨音はいつからか、女の子らしさとは無縁の言葉遣いをよくするようになった。それが彼女なりの、周囲への意思表明なのかは定かではない。
「恒平にだけ言うけど、部長なんか今すぐ辞めたいくらいだ。でもそんなことをすれば、わたしはいくら嫌とはいえ、せっかくの今の立ち位置をあっという間に失っちまう。ただのつまらない良い子ぶりっこになる」
「否定も肯定もできないや」
「恒平は帰宅部で正解だったよ」
おいで。食卓へ、出来上がったラーメンを置いた彼女に呼ばれた。
僕はもちろん起き上がって、雨音のところに向かう。ほぐされたサラダチキンも、ふわふわな溶き卵も、少し硬めにしてくれた麺も、何だかとても美味しかった。夢中でお腹を満たす僕を、向かいの席で優しい目をして眺める雨音がいたことに、気がつきはしなかった。
「こんな生き方しかできない自分が、あーちゃんは大っ嫌いだよ」
「ん、なんは言っあ?」
「30になってもお互い独り身だったら、嫁にもらってね」
「え……?」
「もういい、とっとと食って帰れ」
どういう意味、ていうかなんで今そんなことを言うの。聞くよりも前に、彼女は席を外して、さっきまで僕が抱き枕にしていた巨大クッションに身を沈めてしまった。そういえば、あれって裏返したら、何かのキャラクターの顔が描いてあるんだっけ。
「なあに、ほんとは僕に泊まってってほしいの?」
「ふん」
なんだかご機嫌を損ねてしまったらしい。これ以上彼女に構って殴られでもして、さらに麺が伸びていく未来を思うと、僕の機嫌も悪くなりそうだ。大人しく言う通りにしておこう。ずるずずずるるーーー、とわざとらしく音を立てて、一気にどんぶりの中味を減らしていく。
子供をやめてしまったこの人には、女心という面倒な特典でもついてしまったのだろうか。いや、よく考えなくても僕たち、まだ子供じゃん。さっきから何言ってんだ。
まだ残っているはちみつレモンの存在を思い出したけれど、スープも残さず飲み干し、きちんとご馳走さまの挨拶をしてから僕は立ち上がった。
「じゃあ、帰るよ。ありがとう」
丁度雨音の足元のほうに放ってあった鞄を肩にかけながら、廊下のほうへと向かう。当然のように返事はなく、僕も、おやすみを言ったら玄関に行ってしまおうと思った。思ったの、だけど。
「いつか」
すぐに沈黙と一体化してしまうくらい小さな声が、鼓膜を揺らした。聞こえないふりをして、そのまま帰ってしまえばよかったのに。
「いつか、最後のお泊まり会、しようね。いつもみたいに、皆でポテトサラダ作って、寝る前にはここで映画を観て……」
その声が震えていることに、僕は気がついてしまった。
「雨音」
「なんか、あったんでしょう。わかるよ。もう5年は経つんだから」
「…………何言ってるの、僕は大丈夫だよ。おやすみ」
だから、逃げてしまいたくて。どんな顔で、何処にむかって差し出されたのかもわからない手を、はね除けてしまったのか。
スニーカーのかかとも踏み潰したまま、慌てて外に飛び出していた。
「ごめん、ごめんね、ごめんね」
我が家にもあの子の家にも、今の僕は戻れない。
立っていることもままならなくて、崩れ落ちるように、両の手を地についていた。このまま音もなく消えてしまえればいいのにと思った。あぁ、寒い、空気が冷たい、寒いよ。僕は生きてるんだ。ナイフも持てない、空へ足を踏み外すこともできない、ましてや天井に吊るした縄で首をへし折るなんてなおさらできない。冷たいアスファルトの上に、行き場のない空っぽな謝罪の言葉が投げ出されている。死ぬ勇気も、真っ当に生きる覚悟も、人を苦しめる正義も持たない僕はきっと誰より醜いです。汚いです。子供を唆すあの死神よりも。雨音も、美佳だっておかしい。こんな奴から離れないなんて。こんな僕を拒絶してくれないなんて。────いや、違うじゃないか。
おかしいのは、僕だ。
- *6* ( No.9 )
- 日時: 2017/10/14 05:10
- 名前: 厳島やよい (ID: xV3zxjLd)
つう、と頬へ、指でなぞられる感覚が走った。
その指はこわれ物にでも触れるように、僕の顎へ、耳たぶへと伸びていき、いつのまにか輪郭をしっかりと確かめるように手のひらで支えられた。
「泣いてるよ」
ミカの透き通る声に目蓋をひらく。僕の頬にも、ミカの頬にも涙の痕はない。残っているのは、彼女と僕の熱だけだ。
「泣いてないよ」
「違うの。コウヘイの心が、泣いてるの」
思考も感覚も麻痺させる、陽の光と暖かい空気。ああ、ふたりで海に来たんだっけ。電車を乗り継いで。
足下で、濁った波が何度も何度も、絶え間なく砕けている。この音が子守唄にでもなっていたのかもしれない。短く永い瞬間で、僕は夢を見ていた。
「そうなのかもね。3年前のこととか、思い出してたから」
「3年前って、いち、さん、にぃ……だから中2? わたしが事故に遭ったときのこと?」
「それだけじゃない」
「え?」
彼女の手のひらが離れていく。それがまるで、彼女自身が離れていくみたいに思えて、苦しくなる。でも、僕はそれを覚悟でこの子に寄り添うことを決めたはずだ。今さら何を恐れる必要がある。
「……頑張ったよ、ミカは。半年近く学校に来られなかったのに、今はもう、こんなに」
普通になってしまったね。
白昼夢が吐き出す、細く黒い蔓を、振り切ることができない。僕はこの子に病んでいてほしかったのだろうか。そうなのだとしたらやっぱり最低だ。醜いままだ。
言えなかったことがあるんだと、左目に当てたままの脱脂綿を僕によく見えるように剥がされた記憶は、痛いくらいこの胸に残りつづけている。一瞬でも息を飲んでしまった僕に、その意味をどう汲み取ったのかミカが悲しそうな顔をしたことも、義眼でもはめこんでいるのかと思ったことも。「気持ち悪いよね、わたしのこと、嫌いになったよね」「なんで?綺麗なのに」あの時の会話だって。それを聞いていたミカの母さんが、あのあと変な時間差を作って泣き出したことだって。
ギプスも包帯も取れて、もう自由に歩くことだって当たり前になったというのに、その瞳は生涯もとの色には戻らない。僕は勝手にそれを美しく思い、勝手に囚われ傷ついている。僕の前以外では今後一生、コンプレックスに思い続けるんだろうとミカには言われた。
「コウヘイどうしたの、酔いが回ってきた? 何を言ってるのかよくわからないもん」
「吐き気なんてないよ。話の脈絡もあるじゃないか」
「あるようには思えないんだけど」
変だな、ちゃんと繋がりはあるのに。
言おうとして開きかけた口を、そっと閉じた。
「ね、アイスでも食べない?」
目をそらした彼女のせっかくの提案を、僕の無駄な発言で叩き潰すような真似はしたくない。そうだねって頷けば、ミカはきっと笑ってくれる。ほら、大好きな笑顔だ。
あの日の願いはこんなに簡単に叶ってしまった。心の古傷に隙間なく収まって、彼女は僕のものになったし、僕だって彼女のもの。もう望むものはない。強いて言うなら彼女の過去の記憶は混乱したままであってほしい。
海岸線を亀になった気分でゆっくり歩いていたら、案外早くコンビニに着いた。半周近く進んでいる腕時計の分針は見ないふりだ。
「ミカ、バニラとコーヒーとホワイトサワーだったらどれが一番好き?」
「えー? 個人的には抹茶がいいんだけどなんでよお」
言い出しっぺはミカだというのに、アイスのコーナーを漁る僕に背を向け、彼女は店のBGMに合わせてその歌詞を口ずさみながら隣の棚の駄菓子たちに目移りしていた。理由はそういうことかもしれない。
「パピコ、ふたりで食べようかと思って」
「そっかあ、じゃあ好きなの買って食べちゃいなよお」
「そんなの無理です」
「そう? わたしは2人分食べられちゃうよ」
「すごいね、きみは」
彼女は特筆するほどのアイスマニアというわけではないけれど、家に遊びに行くと4回にいっぺんくらいはガリガリ君なんかをくわえていたりする。それ、何味?と聞くと普通に答えてくれて、食べる?と聞き返される。そんな話になったときの3回にいっぺんは、お言葉に甘えてご馳走になる。ちなみに僕がおもてなしする側のときは、3回にいっぺんくらいはじゃがりこを開封して、ミカと大体半分ずつ分けあう。でも別に僕もじゃがりこオタクなわけじゃない。
こんなことを考えていたら、僕もアイスよりお菓子が食べたくなってきてしまった。まあいいか、いつも通りでも、ふたりで潮風に当たるだけで違った美味しさを発見できるかもしれない。なんて思って、回れ右の号令を足元にかけたその時だった。
あるじゃん。抹茶味のアイス。
「じゃあ、おいしそうなのを見つけたので僕が奢っちゃいます。ミカに拒否権はありません」
「へえ?」
ちっぽけなサプライズもどきでもしようと思った。
突然の一方的な僕の言葉に振り向いた彼女は、マーブルチョコが錠剤のシートみたいにいっぱい入った銀色の輪をカシャカシャ鳴らしながら、その穴から僕を見つめている。どこぞの幼稚園児か。
「わかったら右手をあげて元気に返事すること」
からかいたくなるのも無理はない。ばかにしないでよっ、と怒られるんじゃないかと思っていたのに、本当に元気よく輪っかを持った右手をあげてお返事がかえってきた。とりあえずそのチョコも、欲しいんなら買ってあげるから買わないのなら棚に戻「んーいらない」あっそう。
ミカに奢るアイスはガリガリ君でもパピコでもなくなった。僕の分はなんちゃって白くまくんだ。もしそっちを嫌がられたときのことも考えて。
その約数十秒後。レジでシールを貼っていただいた商品を、スプーンと一緒に差し出したら。
「えっ、うおぉハーゲン?! そんな、そーいう意味で言ったわけじゃないのに」
第一声はやっぱりこれだ。僕のお財布の中身はそんなに貧相だと思われているんだろうか。そして、そーいう意味で選ばれたんだとでも思っているんだろうか。もしこれが雨音なら、まあ万に、いや、千にひとつくらいはそうだったかもしれないけど。
「僕だって意味も理由もなく買ってあげたかったのに」
というのが正直なところで。
「わかったよう。ありがと、コウヘイ」
「どういたしまして」
一瞬の沈黙ののち、両手でおそるおそる受け取ってくれた彼女は、近くにあったごく小さな飲食スペースに置いてある椅子に座ると、これまた丁寧に蓋を剥がし始める。一方で向かいの席に座った僕は、適当に白くまの透明なふたを開けた。
正確にはもうなっているんだけど、数日後には僕らも晴れて華の高校2年生となる。ただし帰宅部で。
地元の冴えない公立校とはいえ人数がそこそこ多いので、今年はさすがに同じ組にはなれないだろうし、進路のこともうるさくなるから、こうして本当の意味でのんびりできる日々もこの休みが終わったらしばらくお預けだろう。そう思うと今この時がいとおしい。ずっと春休みが終わらなければ良いのに。
「わあああ、はーげ、はーげ…………んだー! お抹茶だ!!」
「区切り方がちょっと危ないかな」
小さな木のスプーンを口にくわえ、ミカがまさにうっとりといった様子で、今にもこぼれ落ちていきそうな頬に手を添えている。よかった。こんなに喜んでくれて。
「コウヘイ、ほんとにありがとう。最近お母さんが全然買ってきてくれなくって、久々なんだ」
「そんなに食べたかったなら、自分で買えばよかったのに」
「いやあ、ちょっと事情がさ」
「そう」
思えばこの旅も、数字にしてみれば、特にアルバイトもしていないごく普通の高校生にはちょっぴり厳しい線まで届いている。悪いことを言ってしまったかな。
細やかなお詫びのしるしに、彼女の好きなさくらんぼをあげた。彼女はまた喜んで食べてくれた。
普通の春休み。普通の僕たち。そして、普通の高校2年生になる僕たち。僕はこのまま、老いて死ぬまで普通の皮を被りつづけていられるのかな。いつか母さんみたいに、誰かを殺してしまったりなんてしないよね。
「コウヘイ?」
しない、よね……。
うつむく僕の顔を覗きこんできた心配そうな表情を見て、ひたいに汗が滲んでいることに気がついた。思い出したくなかった顔たちが、記憶が次々に、脳裏にちらついていく。うーあぁ、消えろ消えろ!
「あ、暑いね、まだ暖房なんかつけてるのかな」
「んー、確かに少しねえ」
苦しいごまかしだなと、言ったあとで悔やんだけれど、気にするまでもなくミカは僕の嘘に気がついていなかった。…………運が、良かったのだろうか。
喉の奥で渦を立てる黒いものは、甘ったるい氷といっしょに嚥下した。あの夜といい今日といい、甘いものに助けられる。こんなに小さくてはたらきの悪い脳みそだから糖分が足りないんだ、なんてブーイングが頭の中で聞こえているのは思い過ごしかな。すべてはきみが悪いのに。自分に反吐が出そうになりながらもミカより少し早くアイスを完食した。
再び腕時計に目をやると、タイタニックごっこをしたときから大体1時間が経過している。どんだけのろまなんだ、僕たちは。
「もうそろそろバス停のほうに戻り始めないといけないかな」
「そうだねえ……っくしゅん!」
「あれ、ミカって花粉症あったっけ」
「ないよお。鼻水も出ないし、だれかが噂してたんじゃない? たとえばほら、雨音ちゃんとかー」
へらっ、と笑いながらミカは言った。どうしてここで雨音が出てくるんだよ。
「ならいいんだけどさ、もうその話し方やめたら?」
彼女の後半の台詞はことごとく無視した。別に理由はない。
「ええーっ、ちょっと気に入ってたのに。でも確かに馬鹿っぽいね」
「普通に似合わないよ」
「レイカが時々する話し方の真似なんだけど」
「ああそう、レイカ……れいか?」
真面目に聞き間違いかと思った。
こんなタイミングであの人の名前が挙がったんだから。
「え、もしかしてもう忘れちゃったの? あの子も学校同じなのに。天宮城麗華っていうお金持ちっぽい名前の子、いたじゃない。去年は確かB組で」
呆然とする僕を前に、純粋な笑顔で彼女は話す。
そうか、何もわかっていないんだっけ。あの人が卑怯な方法でミカを傷つけていたことも、あの人の父親が遠くからこんな状況を作り出してしまったことも、そんなことを知って自己中心的に自己満足的に薄っぺらな謝罪をしようとしたことも。
「中学のとき、なんでだか知らないけど、クラスの人たちはあの子のこと避けてたよね。コウヘイもそうじゃなかった? 良い子なのに、どうして? あのときお見舞いに来てくれて、喧嘩したの、謝ってくれたし、覚えてないんだけどごめんって言っても笑って許してくれたし」
「ちょっと」
我慢してきたのに。あの夜、あの男から逃げたとき、絶対思い通りになんかならないって決めたのに。固い決意が簡単に溶けてしまいそうじゃないか。やめてよ。
「退院してから初めて学校に行ったとき、教室に入ったら一番におはようって声をかけてくれたこと、今でも覚えてるよ」
「ミカっ」
目の前に流れる映像とは時間差があって、机を叩いたような音が聞こえた。
あれ、僕、怒ってる。叫んだわけでもないのに、頭の奥が熱いわけでもないのによく分かる。
こんなに小さいのに低い声が出たのは、生まれて初めてかもしれない。
見上げてくるミカの目は、揺らいでいた。変わってしまった色の左目には、僕の醜い表情がはっきりと映っていた。
「なんで、そんな顔するの、コウヘイ」
「きみは何もわかってないんだ」
「レイカがわたしをいじめてたってこと? そんなの知ってるよ。皆が何を話してるのかなんて、わかっちゃうよ。それくらいわたしにだって」
「なら、どうして」
「わたしが覚えてないんだから、わたしにとってそれは、本当に存在しないことになるんだよ」
「意味がわからない」
「それに、その存在しないことについて、あの子は誠心誠意謝ってくれた。贖罪だなんて偉そうなことは言えないけど、ちゃんと行動で示してわたしをサポートしてくれた。逃げずに。これ以上あの子に、何を求めれば良いって言うの?」
「意味がわからないって。過去は変わんないんだ」
「変わっちゃうんだよ……わかって」
その直後。ぽろぽろと音を立てて、彼女の睫毛の先からいくつもの雫がこぼれ始めた。
これが"喧嘩"なんだ。誰よりも静かで狭い。こんな場所でも、僕ら以外には誰にも知られることのない、流行りの歌ばっかりのBGMでかき消されるような。
ミカが泣いている。僕がミカを泣かせている。僕が、ミカを、傷付けている。
腰が抜けてしまった。ギィと椅子が情けないため息をついて、この全体重を受け止める。
僕だってやっていることは同じだ。人のことなんて言えやしなかった。
「確かにレイカは、ずるいことをしたよ……。でも、それを言い訳に、コウヘイたちまでそのずるいことを真似するの? そんなことしたって意味なんかないんだよ。復讐なんて、恨む気持ちなんて何もいいことは生み出してくれないんだ。馬鹿みたいじゃない」
「え、まさかミカ、お前、」
「──────だめ」
音もなく彼女は右手を伸ばし、その細い指先で僕の唇をそっと押さえた。このわずかな力に抗ったら噛み砕けてしまえるんじゃないかと思うくらい頼りない女の子の指は、ひどく震えていた。
「ぜんぶぜんぶ、ほんとなのに。それじゃまるで、嘘つきみたいじゃない」
え。いつ。
何が、誰が。
「愛したかっただけなんだよ、みんな」
みんな?
みんなを?
みんなが?
みんなは?
指が離れる。はなれていく。
やめてよ。僕、話しちゃいそうだ。ぜんぶを嘘にしてしまいそうだ。
「ごめん」
床に突然穴が開いて、この身体が一直線に落ちていくみたいな感覚がした。そして、離れていった彼女の手に、必死にすがりついていた。
「ごめん、ごめん、ごめん、駄目なのは僕だ、ごめん、無責任で、馬鹿で」
「コウヘイはきっと、悪くない」
「ずるいこと、したから」
「わたしが言ってるのはそのことじゃないよ」
そのことって、じゃあ僕は何に対して謝ってるんだ。存在しないことがらにでも頭を下げていると?
まさか、こんなに早く、この日が来てしまったなんて。彼女のほうから真実を否定されてしまったなんて。ミカは泣きながら微笑んだ。これでよかったの、きみは?
コンビニの片隅で、ふたり揃って泣き出している。それだけでもおかしいというのに、僕らの抱えるものは、もっとずっとおかしい。
やっぱり、きみは僕の世界にいちゃいけないんだよ。
「行こう、コウヘイ」
ミカは急に立ち上がると、べとつく空の容器たちを乱暴にごみ箱へ放り投げた。
「え?」
「いいから」
そして僕の手をとって、なぜかすぐ後ろに立っていた店員の隣をすり抜けていく。汚ならしいハエでも見つけたみたいな彼の目と、僕の目が一瞬だけぴったり合ってしまって、余計に悲しくなった。
予定より大幅に遅れてしまった帰り道のバスでも、電車でも、僕たちはほとんど言葉を交わすことなく過ごしていた。それなのにミカは、ずっと僕の手を握ったまま、離してくれなかった。
中途半端に人の多い電車に乗っているのに、今度はまったく酔いそうにない。でこぼこな海岸線に並ぶクレーンを見ていても、隣の道路で並んで走る車を見ていても。さっきのことがなければ、長年悩まされてきた乗り物酔いが治ったと、手放しで喜べたのにな。
ドアに寄りかかって僕と同じ景色を見る彼女の目は赤く、僕よりも遠くを見ているように思えた。
「誰があんな噂流したの?」
だから、周囲のざわめきや電車の音にすぐ溶けていくような囁く彼女の声もしばらく彼女の声だと認識できず、辺りをきょろきょろ見回してしまった。
「事故が起きたのは、麗華のお父さんのせいだって」
「え?」
外を向いていた視線が、僕たちで繋いだ手の上に落とされる。
僕はなんとなくミカの髪に、空いているほうの手のひらで触れた。
「どこでそんなこと聞いたのかな。みんなが麗華の悪口を言ってるとき、たまにだけど、そんな話題が出たの。コウヘイは知らない?」
もう、何とも思わなくなってしまった。
「知ってるっちゃ知ってるけど、誰がそんな情報を持ち込んできたのかはわからないな」
「そう。なら、いいや」
きっと最初にそのことを知ったのは僕。でも、あいつの思い通りにはならず、それを誰かに言うことだってなかったはずだ。ミカの母さんにはもちろんのこと、雨音にさえ話していない。だから当時は、あの男が本当に文字かなにかに起こしたのだろう、程度にしか考えず、それでこんな様になったのだから自業自得だと思っていた。
だけど。
彼の仕業なら、どうしてその時、情報源も一緒に流れてこなかったのだろう。週刊誌なんかの言っていることを信じたくない、という気持ちがあったなら尚更、もっと信頼できるソースを提示するだろうし、そうすれば確実に天宮城麗華を追い詰められたのに。何か、あまり派手に広めたくない理由でもあったのか。
ミカに聞かれて、ようやく疑問が浮上した。そんなこと、もうどうでもいい、というように彼女はまた外の風景を眺めているのに。
「あの人、平和に過ごせてるといいね」
「うん」
「もし、クラス一緒になったら、仲良くしなよ」
「言われなくてもそうする」
- *7* ( No.10 )
- 日時: 2017/10/17 02:40
- 名前: 厳島やよい (ID: q4IWVUNW)
- 参照: お抹茶のハーゲンダッツ、私も買おうかな。
■◇■
ねえ。いい加減あんた、邪魔だからさ。自主退部してよ。
確か、そういう台詞だったと思う。あの日彼女には、相談があると呼び出されたはずなのに、どうしてこうなってしまったんだろう。
校舎裏。給水タンクや、フェンスに囲われて金属の箱が並んでいるのが周りに見えた。この場所は見事な死角だ。見ようとしても、上から──普段は立ち入り禁止のベランダから、しかも半分乗り出す形でないと、たぶん2人ともはちゃんと見えないんじゃないか。
思ったよりも強い力で彼女の手に押されたもので、わたしの視界はあっけなく真っ青な空に切り替わり、アスファルトの上に倒れ込んでしまった。日陰で地面は驚くほど冷たいけれど、空気は湿って軽く息苦しいくらいには熱を持っているし、目に映る空だって異様に明るくて眩しい。
何が、起こった。
「麗華、どうしたの? ドッキリ? らしくないよ」
寝転がったまま、立ち上がることができない。へへへへ、と上ずった笑い声が喉から漏れてくる。
「ふざけてんじゃねえよ。こっちは至って正気なんだけど」
「わたしも正気なんだけどな」
すると舌打ちの音とともに、彼女がゆっくり近づいてきた。
遠くから野球部とバレー部のかけ声が混ざりあってこだましてくる。だれの助けもこない。
「あたしがレギュラー取るのにどれだけ必死だったか、知ってるくせに。あの頃あたし、風邪でずーっと休んでいていなかったのに、どうしてあんたは大会メンバー発表で断らなかったんだって言ってるの。わかる?」
「そんなの、断ったのに先生が出ろってしつこいんだもの、しょうがないじゃない」
「黙れ」
「わっ」
腿のあたりに突然衝撃が走ったと思ったら、麗華は、制服ごとわたしの脚を、ごてごてに飾ってあるスニーカーで思いきり踏みつけていた。言え黙れって、この矛盾はなんなんだ。さすがにもうドッキリだとは考えられない。いつも美人だと囃されている彼女の目も表情も、世界で一番汚く見えた。
ラメの入った金色の靴紐が揺れている。この人も、小学校のときの同級生とおなじ人種なんだろうな。
「いちいち何なの? そうやってぶりっこしちゃってさ。先生や先輩の言うことはちゃあんと聞くのに、あたしたちには冷たいよねぇ」
「麗華やめてよ、痛いな」
「そのお陰であたしたちは何度も不利益被ってるし、すっげえムカついてるの。そんなこともわかんない?」
「ごめんね、でも、だからってこんなことしないでよ」
「うるーっさい」
もはや聞き耳を持とうだなんて心は残っていないようだ。それどころか、彼女はさっきから執拗に、太ももばかり踏みつけて。ああ、そっか、スカートは黒いからいいけど、シャツは白いし肌には傷がつくもんね。すぐばれちゃうもんね。
「あたしはあんたなんかよりずっと可愛いし、成績だって良いし、運動神経だって良いし、人気者なのに」
「いぎっぎぎぐ」
まったくもって逆恨みじゃないか。そう言い返したくても、わざとなのかどうなのか、段々と腰やお腹を蹴られていく痛みに、変な声しか出せなくなってしまって。
「伊予先輩が好きだったのはあんたのことだし、先輩とペア組める中体前の最後のチャンスは横取りしたし、ほんと最ッ低ッ、クソが、いなくなれば、いいんだ!」
痛みから逃れようと精一杯の抵抗で背を向けたのに、彼女は吐き捨てた言葉と同時に思いきりその背中へ体重をかけて、わたしを蹴り飛ばす。黒い足跡がくっきり残るくらいに。
制服の汚れを見た誰かに気づかれるかもしれないだなんて、冷静に考えられなくなるほど、彼女の身勝手な感情は暴走しているようだった。擦れて血の滲む腕をほうりだし、情けなく咳き込むわたしを見下ろして、少なくとも春には優しかったはずの麗華がいくつもいくつも綺麗じゃない言葉を投げつけてくるんだもの。
もう、どうにでもなれと思った。それで気が済むのなら、殴るなり蹴るなり好きにすればいい。この部活だってすぐにでも辞めてやる。
「ひとの努力を馬鹿にしてんのか」
「ヘラヘラ笑ってあたしらのご機嫌とりして、かと思えば良いとこは全部持ってっちゃって。気持ちわりぃんだよ」
「×ねブス、はははっははははあああ」
瞼を開いていることさえ億劫だ。
ねえ、お母さん。わたしもお兄ちゃんも、何処にいたって何をしたって、もうこういう目に遭う運命なんだよ。ごめんね、お金を無駄にしてしまったね。お兄ちゃん、あなたがわたしたちを残してまで死ぬ道を選んだ理由が、今ようやくわかった気がするよ。お父さんもお母さんも絶対に開けてくれなかった棺に向かって、ひどいこと言っちゃったね。どうか許してください。
彼は、最後の瞬間まで笑っていた。なら、わたしも、見習わなくっちゃなあ。
「わかったよ、麗華。退部するから。でも、ちょっとだけ時間をちょうだいね。わたしも自然な形で辞めたいし」
「……え?」
あんまり素直に応じたものだから、わたしを傷つける口実が無くなって、悲しくなってしまったのだろう。間抜けな声を出してわたしを見る彼女の顔はやっぱり間抜けだった。
「実はねわたし、少し前まで兄がいたの。でも、兄はあなたみたいな人のせいで自殺したんだ。飛び降り自殺。ひどいでしょう。麗華がひどい人にならないように、わたし、タイミングを考えて辞めるからさー。安心して待ってて」
言葉を連ねるごとに、真っ赤だった彼女の頬が白くなり、ついには青ざめていくのが面白いくらいにわかる。
小学生のとき、お兄ちゃんの死を聞きつけてそれをクラスメートの前で言いふらした男子にも、彼に暴言を吐かれいじめを傍観していた担任の先生にも、特になんとも思ってこなかったけど。わたしは、怒っていいんだ。
「なんて顔してんの。気持ち悪いよ。あんた、何かおかしいんじゃない?」
「わたしはあなたを許さないから、それだけは覚えていてよ」
わたしは多分、笑っていた。これは呪いだ。麗華にとって重たい重たい呪いだ。もしものときには目の前で死んでやるって、お前が殺したことにするぞって意思表示なんだから。常に皆の1番でありつづけたいこの人には、ぴったりのおまじないだと思う。
「…………もういい」
そう言って、わたしを睨んだ。道端に吐かれた痰を踏んでしまったみたいな顔で。
強がらなくたっていいのに。本当は恐怖にまみれているだけで、彼女は彼女の理想像と、引き立て役としていつでもそばに付いていてくれるわたし達に依存していて、ちょいとつつけば、きっとすぐバラバラに壊れるんだ。
きびすを返して昇降口のほうへ駆け戻っていく麗華を、地面に寝転がりながら見送り続ける。決して振り返りはしない彼女が、見えなくなるまで、ずっと。やがて、膝丈なんて当然のごとく守っていない短いスカートが翻り、角を曲がって影も形もなくなっていった。今日は午後練習がないから、きっと教室に鞄を取りにいったら、すぐ帰るんだろう。
久しぶりにやってきた沈黙に耳を傾ける。起き上がる気にはなれなかった。むしろ大の字になって目を閉じた。
「わあー、死にたっ」
だんだんと少なくなってきた蝉の鳴き声が、近くの公園のほうから聞こえた。
自然にこぼれてきたその言葉は、今は独り暮らしのお父さんに聞かれたら速攻で頬骨を犠牲にしてしまいそうな、素敵じゃないもの。別にほんとうに死にたいわけでもないのに出てくる不思議。死にたい。少なくともお兄ちゃんなら多分わかる。
そうやって、生きている実感をこの身にびしびし感じている最中だった。
「美佳に死なれちゃったら悲しいなぁ」
タンクの陰のほうから聞き覚えのある声がして、同時にその主がわたしに姿を見せた。両手をズボンのポケットになんか突っ込んじゃって歩くクラスメートの彼は、普段の彼とはちょっと違うように感じる。
「……もしかしなくても、見てた?」
「なんのことかな」
「白々しい」
「そーんな顔しないでよ」
けっけっけ、と彼は笑いながら、わたしの腕を引っ張って身体を起こした。もしかして、理不尽な暴力をふるう順番待ちでも律儀にしていたのかな。生憎、恨みを買うようなことをした覚えは微塵もないけど。
立ち上がり、スカートの汚れをはたいたけれど、なかなか薄くなってくれない。心が沈みそう。
今になって腕の小さな擦り傷が痛んでくる。いつも教室で見せる笑顔や柔らかい態度が別物みたいな彼はかなり不気味で、触れられた部分から全身に広がるように鳥肌が立った。
「一部始終を見てましたって顔に書いてあるようなあなたに、どうしてわたしが好意的に接しなくちゃいけないわけ?」
「自分を罵り蹴ってくる相手に対して笑って従順な言葉を返すようなきみに、どうして僕が普通に接しなくちゃいけないわけ? 美佳ってマゾなの?」
「へ?」
マゾってなんだ。個人的にはあまり美しそうな単語ではない気がするけど。
「あー、知らない? ならいいよ、きみだと目覚めちゃいそうだから」
「そういう台詞は数年後に黒歴史になるって、誰かが言ってたよ」
「じゃあその誰かには×××って言っといて」
汚い。
本当に、どうしちゃったっていうんだ。わたしに合わせてこんなことをしているというのが本当なら、須藤美佳はそろそろやばい。それなら麗華にフクロにされなかったとしても、まじで部活やめたほうがいいよ。言ってしまうなら、お兄ちゃんの自殺と両親の離婚と人間関係のストレスとかがまるごと一気にどばって来てる。どばって。相当キてる。やばい。好きこのんでそんなわたしの鏡になっているこの人も、やっぱりやばい。
「それで、きみは何の用でわたしをストーカーしてたの? もう痛いのは嫌なんだけど」
敵意と嫌悪がむき出しになる。今まで教室でヘラヘラ笑って取り繕ってきたわたしはいなくなってしまった。
やっぱり駄目だなあ。こっちに来てから、要領が悪いなりにも、まともに平穏に、使えるものは全部使って生きてやろうってくらい物凄く必死に計算し尽くして頑張ったのに。これじゃあ元通りだ。麗華より先に、わたしが壊れてしまっているじゃない。
「痛めつけようとしてるなんて、ひとことも言ってないじゃん。馬鹿な人達から逃げるために、遥々富士山のほうからやって来てくれたっていうのにさ」
もう彼の話は半ば聞いていなかったのに。わざとらしく自らの髪に指を絡ませている、その指先へとやっていた視線が、次のひとことで一点へ定められなくなった。
「ねえ? 奥羽美佳ちゃん」
「…………そ、そんなこと、どこでっ!」
目が回る。ぐるるる。
「ちょっとそちらのほうに、頼れる情報網があってね。そうそう、あとネットでお兄さんの名前、検索させてもらったから」
何年前だったっけ。まだあの町に住んでいた頃、数時間だけテレビで流れていたニュース。家が潰れてしまうんじゃないかと怖くなるくらいの大雨が降っていた日に見た、あの事件のニュース。わたしと同い年の男の子が、父親を手にかけた母親に殺されそうになっていたのに、奇跡的に生きてたって。
彼の名も、彼の両親の名も、青白い画面は教えてくれなかった。ただ、その年齢だけは頭に残っていた。あのあと彼がどうなったのか知りたくて、新聞の中や、ネットを何度も探したけれど、あの子はどこにもいなかった。あの子は大人達から守られていた。
未成年だからって言うのなら、まだ高校生になったばかりのお兄ちゃんのことだって守ってくれればよかったのに、社会はわたしたちの苦しみを美味しいところだけ食い荒らし、カイロみたいにぽーいと使い捨て、そのくせお兄ちゃんの名前は永遠に、インターネットに残るようにしたんだ。ひどい。
お母さんならともかく、わたしがあの人の名前を検索バーになんか打ち込めるとでも思ったのかな。だからわざとこんなことを言うのかな。
「あれはいじめっ子側の判断のほうが正常だと思うなあ。そりゃあ僕だって、教室であんな奇行を繰り返すようなやつがいたら排除したくなっちゃう」
「お兄ちゃんを異常者みたいに言わないで」
「それは失礼。他人に話す気はないから」
ふざけた口調の彼が、すっと冷えるように普通に戻った。同時に眩暈も治まっていく。
「大体あなたは、何しにきたの? わたしが暴力をふるわれているのを見たかっただけなら、顔なんか見せないで帰ればよかったじゃない」
「まあまあ、落ち着きなって」
身振りも交えてわたしを宥める彼は、気がつけばいつも通りの様子になっている。再び距離を詰めてくるので思わず後ずさってしまったけど、差し出してきた手に握られていたものを見て、もうそんな必要はないと判断した。
ポケットティッシュと、数枚の絆創膏。
そういえば、男の子にしては珍しくこういうものを持ち歩いているから、女子力高いねとかってくだらないことを、麗華たちに褒められていたっけ。
先ほどとは打って変わって、優しくわたしの手を取り傷の具合を見る彼は、乾きかけて黒ずんできた血を拭き取ると、有無をいわさず絆創膏を貼り付けていった。こんなにあちこち汚れてしまったから、保健室に行こうにも足が向く気分じゃないことを、察してくれたんだろう。
「とりあえず、今はこれくらいで我慢して。家に傷薬とかある?」
「一応は」
「じゃあ、帰ったら水でよーく流して、それ塗って、お風呂上がりにまた塗り直すことだ。おーけー?」
「う、うん」
「じゃ、鞄取ってくるから待ってて」
「え? あぁはい」
返事も待たず、紙くずをポケットに押し込んで、その場を去られてしまった。わたしは立ち尽くすことしかできない。
調子が、くるいそうだ。あまりの変わりように混乱する。どちらかの彼が偽者なのか、あるいはどちらも"彼"なのか。わからない。あんなの初めてで、わからない。昔のことやさっきの麗華のこともあるし、正確には初めてと言えないんだろうけど、何というか、あの子たちとは違う。あの子達より明らかに危うくて、けれども確かな意志みたいな、そういうものを秘めているように思える。そういう意味では誰よりも強いんじゃないのかな。
「お待たせ」
そんなことを考えながら乱れていた髪を結いなおしていたら、3分もかからずに、わたしの鞄を提げた彼は戻ってきた。でも、彼の背中ももう片方の手も空いている。
「えっと、ありがとう」
「いーえ」
受け取って、背中に残っているであろう靴跡を隠すように背負っ……そうか、だから持ってきてくれたんだ。
「あのさ、優しいんだかおかしいんだか、訳がわからない」
「ええ? そっくりそのままその台詞を返したいよ」
「んー」
これは困った。もうちょっと言葉を変えるべきかな。
「颯真くんはさ」
文字を繋げていく途中で、久々に彼の名前を呼んだなと気付く。
「どうして今、わたしにここまでしてくれてるのかな」
「…………うーん」
今度はちゃんと正しい意味で笑えている。大丈夫。
何と答えてくれるのか、少し楽しみで心だけ彼のほうへ乗り出した。表現を選んでくれているらしく、目を逸らされる沈黙が続く。いーち、にーい、さーん、しーい、ごー、ろーく、しーち、はーち、きゅーう、じゅーう。間延びしてこちらまで力が抜けそうになる掛け声が、体育館のほうから聞こえてきた。
そんなに悩まなくてもいいのに。わたしはありのままの答えを聞きたいだけなのだから。
もう一度、いちからじゅうまでのカウントがされる。それに上乗せするように、音階の概念を無くしてしまったらしいトランペットさんの掠れた音がぷひょーと響いてきて、同時に、また指先に髪の毛を巻き付けながら、颯真くんはやっとその口を開いてくれた。
「そーだねー、好きだからかなあ」
生暖かい濁った風が、わたしたち目掛けて容赦なくぶち当たった。気分が悪くなってくる。
その言葉がどういう意味かなんて聞けなかった。いや、聞かなかった。
「ごめん、やっぱりあなたはおかしいよ」
笑いかたを見れば一目瞭然だから。
彼を切り捨てることを、わたしは選ぶ。人形になってしまったんじゃないかと思うくらいにあの笑みで固まったまま、特に傷ついたような顔もされなかったから、これでいいと思って、わたしは颯真くんに背を向け裏門のほうへゆっくり歩き始めた。
…………これで、いいんだ。
暗い色のアスファルトに目を落とす。その一面に、唐突に、今いちばん会いたい人の顔が見えた。ここに来てから、お母さん以外でわたしが唯一普通でいられる存在。場所。もしかしたら走れば追い付けるかもしれない。少し迷って、やめた。会いたい気持ちを押し込めはしなかったけど、彼への思いは無かったことにしたくなった。しばらくの間だけでも。きっと、こんな願いは叶えられないだろうけどな。
誰もいない家に帰って、洗面所で汚れたセーラー服を念入りに石鹸でこする。ごしごし、ごしごし、ごしごしごしって。いくら洗っても、また柔軟剤の香りを纏ってくれても、綺麗になる気がしない。
- Re: 青、きみを繋いで。 ( No.11 )
- 日時: 2017/10/21 17:43
- 名前: 小夜 鳴子 ◆1zvsspphqY (ID: hd6VT0IS)
嘘つき、と呼んだあの空は、どこへ行ったの。
そもそも誰が嘘つきだった。君か。私か。それともぼくか。
そんなこんなで出口はもう無い。青い、日々。
こんばんは。上の文章は、この小説の雰囲気、題名から、私が勝手に作り出したものです。お気になさらず!(いい小説を読むとすぐこういうものを思いついてしまう私)
体調不良により、感想が遅れてしまいました。申し訳ない。
初めてこの「青きみ」という題名を掲示板で見たとき、名前の感じから「なんか**さんぽいな〜(?)」と思い、タッチしてみると、ビンゴでした。立花さんのときもそうだったので、自分が恐ろしいです。
やっぱり、文章って癖が出るんですね。今回も、やよいさんらしい、素敵なお話、綺麗な文章だと思いました。
さてはて。
「題名に無闇矢鱈に青をつければいいってもんじゃない」という考えなしの発言をしてしまった私ですが、やよいさんの題名は本当にいいと思います。途中まで「青って何が関係してるのかな?」と思っていましたが、>>05の方で出てきたので、なるほど、となりました。色をキーにするのはやよいさんの十八番ですね。(お前が言うか笑)
文章も、映像がぶわーーーーっと(語彙力)浮かび上がってくるような描写で、惹き込まれました。幻想的で、素敵だと思います。本当に好きです。だから語彙力。
私、とある本を読んでから、小説を読んだときに「これは食べ物でいうと何だろう」と考えることがあります。最近、やりすぎて読んでいる最中に味がし始めることもあります(!?)。やよいさんの小説は、飴、ですね。小説によって違うのですが、これはブルーベリーなんかでしょうか。読み進めていく中で、甘くてまあるい飴を、舌の上で転がして溶かしてゆくような心地がしていました。
ストーリーについてもお話しておきます。陽キャの立ち位置にいるけれど、どことなく馴染めず、不安を感じている女の子と、暗い過去があり(女の子も色々ありそうですが)、陰キャとしてクラスの片隅にいる男の子。いいです。こういう2人だけの世界って、いいですよね。私は2人を見守る窒素になりたい。
胸騒ぎ、という小説特有のフラグの利用の仕方もとてもよかったです。何となく某デイズを思い出したことは秘密です(笑)コウヘイが引き止めたことで災難は防げたかな、とホッとしていたところであらまあ。次から過去編に入っていったので、私は心配で心配でたまりませんでした。
個人的に、雨音ちゃんがとても気になりますね。口調とかすっごい好みだし、主人公の心の深いところで支えている女の子は健気で素晴らしいと思います。恋、してるのかな。こういうポジションの女の子は……言わないでおきます。
颯真くんは、何かチェシャ猫風味がしますね。ヒロインを外側から揺さぶってくる感じ。怪しいとは思っていましたが、まさかここで2人が繋がってくるとは思いませんでした。登場人物全体が、こうやって繋がっていくんですね。
物語を作るのが上手い人は、こういう人物の構成がしっかりと出来ているのがすごいと思います。視点を変えながら、物語を繋げてゆく。歯車を合わせてゆく。そうして、丸い円みたいな関係図が出来上がる、と。まだ完結まではいっていませんが、素晴らしいと思いました。
はっ、とさせられるような台詞もあったりして、とても楽しめました。続きも楽しみにしています。
失礼致しました。
- Re: 青、きみを繋いで。 ( No.12 )
- 日時: 2017/10/22 07:08
- 名前: 厳島やよい (ID: 8ni6z6qB)
> 小夜 鳴子 さま
素敵な文章、ありがとうございます(^^) もしかしたら親記事にて紹介させていただくかもしれません。
体調のほうは良くなりましたでしょうか。風邪は万病の元といいますし、休めるのであればゆっくり休んで治してくださいね。
厳島やよい、というペンネームは恐らく1年ほど前に思いつきまして、当時は別の作品執筆時に使う予定で保温しておりました。……が、ここでは私はあくまでも厳島なので、名前ばらしをされない為にもこれ以上は話さないでおきます。名前で読むかどうか決められるって、時には嫌なものですし。
ちなみに、恥ずかしながら宮島には行ったことがありません。笑
私は大抵書きながら考えていくので、いろいろと余計なオプションが付いてしまい、少々どころかめちゃくちゃ読みにくかったかなーと反省しています。小夜さまより前に(というか初めて)、ある方から感想をいただいたとき、それを痛感しておりますゆえ……(^^;
色をキーにするのは大好きなので、十八番、なんて言っていただけて嬉しいです。直接色が見えない小説という形だからこそ、色にこだわってしまうのかも。「題名に〜」の件、本当に気にしてませんよ笑 なるほど、となっていただけて良かったです。
ブルーベリー飴、とても甘そうですね。共感覚というやつでしょうか。
コウヘイとミカの纏う雰囲気は完全に私の好みで書いたので、嬉しくて震えてます!断じて寒いからではないです! これからも是非、見守り続けてやってください!
類は友を呼ぶ。コウヘイも言っていますが、彼らは本当に似た者同士。ミカもコウヘイも、雨音も颯真も麗華も、抱えるものにうっすらと共通点があって、互いにひかれ合ってしまっている。雨音にとっては、颯真に似ているだなんてふざけんじゃねえって感じでしょうけど。少なくともコウヘイとミカはぴったり合わさっているから、この宿命から逃れることはできないのだよふっふっふ。5人にはどんどん事態を悪化させてほしいなあと思っていたりいなかったり。 雨音は次の更新で早速再登場します。お楽しみに。
中学生に限らず、世間というのは本当に狭くって、やんなっちゃいます。そんな不満などを写し取りこの作品にぶつけているので、この物語がうまく進んでいるのだとしたら、それは私自身のウデがあるからというわけではないのです。……たぶんきっと。
言われてみれば、チェシャ猫風味しますね、颯真。サイコパス!笑 彼は昔の友人をモデルとして書いている人物です。密かにイッちゃってる、なんてわけではなく、至って普通の人間だけれども。
颯真も後々登場しますので、よろしくお願いします。
某デイズ、というのがちょっとわからないのですが、歌かアニメのことかな?
たくさん褒めていただけて、やよいさんのもちべーしょんはモチモチ上がりました。餅。
コメントありがとうございました(*´∀`)