ダーク・ファンタジー小説
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- crazy=justice【短編集・タイトル迷走中】
- 日時: 2021/02/19 15:58
- 名前: 美奈 (ID: cO3So8BN)
- 参照: https://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no=11127
クリックありがとうございます。
初めまして、美奈と言います。
いつもはコメディ・ライトで活動しているのですが、今回はダーク・ファンタジーに初挑戦してみようと思います。
ここで求められている感じのものになるかは分からないのですが...
とにかく後味も気味も気色も悪い短編を書いていくつもりです。
多分恋愛絡みが多めです。イカれてるかなこの人、って思われそうな話を気ままに書いていこうと思います。ちなみに只今タイトル迷走中です。2つ浮かんで、今はそのうちの1つにしています。
お読みいただけたら嬉しいです...!
※2020年9月より、「小説家になろう」さん・「カクヨム」さんでも同時掲載始めました(名義もタイトルも違います笑...中身は同じ)
<目次>
#1 熱情 >>1
#2 New World >>2
#3 Wanna be A子さん? >>3
#4 12番は特別なんです >>4
#5 fault >>5
#6 winner >>6
#7 聖愛 >>7
#8 正しく清く... >>8
#9 何もいらないよきっと>>9
#10 離婚式>>10
#11 カタチをください>>11
#12 仏滅の夜に祝杯を>>12
#13 su amigos>>13
#14 鯛から逃げたい>>14
#15 笑顔と絆創膏と>>15
#16 リアル人生ゲーム>>16
- Re: T.E.A.R.【短編集】 ( No.3 )
- 日時: 2020/07/15 17:34
- 名前: 美奈 (ID: cO3So8BN)
#3 Wanna be A子さん?
出会いは突然に、って多分こういうことを言うのかもしれない。
「だっ!」
深夜にコンビニで買い物をして帰ろうとしたら、車の歯止めにつまずいた。車は止まっていなくて、そのまま前にコケて。袋の中身が派手に散らばってしまった。
…漫画かよ。夜でよかった。人も少ないし、失態は見られてないはずだ。さっさと中身をしまって帰ろう。
そう思ってから中身を探そうとしたのに、散らばったはずの物がなくなっていた。…盗られた?
「どこで転んでんの」
頭から低い声が降ってきて、見上げると超怪しい人がいた。深夜にマスクでメガネしてる男性に声かけられるのめっちゃ怖い。しかも私、コケたままだから無防備この上ない。…ヤバいじゃん。
「…っ!!!」
運動音痴の自分には信じられない速さで起き上がって、そのまま家へとダッシュした。でも何せ足が遅い。家が遠くに感じられる。
「ねぇ、待ってよ!これ忘れてっから!」
さっきの人はもう、私のすぐ後ろにいて。「ほい」と、私がさっき買った袋を手渡した。わすかな重みを感じて、あぁ、中身を集めて入れてくれたんだな、と悟る。
なんだ、良い人だったのか。
「ありがとう、ございます…」
「今2時だよ?女の子が1人で出歩くなんて、危ない危ない。家どこ?」
えっと、家…家はですね……え、待って、家?!
いくら良い人でも、この時間に出会った人だ。しかも顔全然見えないし。安易に教えたらまずい。私の油断に漬け込んで、家に上がり込まれて、そこできっと犯罪が…っていう想像が一瞬で頭を支配する。
黙っていたら、その人はあっけなく質問を諦めて、スタスタと歩いて行った。ついて行きたいわけじゃないのに、足は追いかける形になってしまっている。
「え、なんでついてくんの」
「いや、あの、ここ…」
まさか。マンションが一緒だったなんて。しかもその人が開けているポストを確認したら、私の真上に住んでいる人だった。
「なーんだ、住人さんだったんだ。俺、この前ここに越してきたばかりで。よろしくです」
彼も私も互いに名乗ることはなく、お礼と挨拶だけをして別れた。
私は職業柄、帰りがどうしても遅くなる。だからコンビニに行くのは、大抵2時になる。
彼もそうだったみたいだ。出会った日から、私は彼と遭遇する機会が増えた。
それから、歳の近い私たちが互いの家を行き来して仲良くなるのは、割とあっという間のことだった。
「璃子」
「ん?」
「あのさ…俺、璃子のこと好きだよ」
「え?」
私の思考回路が一瞬フリーズする。違う絵が脳に映し出される。
「ねぇ璃子、今何か別のこと考えてたでしょ!」
「え…バレた?」
「何考えてたの?」
「考えてたっていうか…イメージが、浮かんでて」
「イメージ?」
「…電車の、中吊り広告……」
彼は1人でお腹を抱えて笑った。
「まじか!よりによってそこ?!もうほんと、意外なとこ突いてくるよね…まぁ、でも分かるよ、璃子の気持ちは。けど俺の気持ちは、変わらない。もう決まってんだ」
目を伏せる私に、彼は囁いた。
「ねぇ璃子。俺のA子さんになってくんない?」
ー若手のカメレオン俳優、檜山省吾が一般女性のA子さんと熱愛か。
私は”A子さん”になった。璃子ではなく、”A子さん”に。
私は週刊誌に、勝手に名前を付けられた。
でもそれはもう、3年も前の話。
「俺のA子さんになってくんない?」
今思えば、なんて陳腐な告白の言葉だったのだろう、と思う。そんな言葉に頷いて、彼の女になった自分を情けないとすら思う。
元々テレビもネットも見ない私は、何も知らなかった。省吾の出演作品はもちろん、彼の噂についてだって、何も。
彼が稀代のプレイボーイだなんて、知らなかった。
多分私はアルファベットの最初のAではなくて、Jくらいの立ち位置だったのではないかと思う。きっと私はJ子さん。
通勤電車の中吊り広告に、派手な見出しを見つけた。夏の特別号の、トップニュース。
『檜山省吾、一般女性A子さんと熱愛か?ー1年半の極秘通い愛に迫る』
”A子さん”なんて、世の中には腐るほどいる。アルファベットは使い回しの証。
この「通い愛」の女は、私の後に使い回されているんだ。
そんなことを思って、新たな”A子さん”を勝手に哀れむ。嫉妬と区別しがたい、うねるような感情を抱えて。
なぜ、固有名詞を捨てなければならないのだろう。
省吾にとって私は、一体何だったのだろう。
「通い愛」の女に問いたい。
あなたは本当に、”A子さん”になりたいの?
- Re: T.E.A.R.【短編集】 ( No.4 )
- 日時: 2020/07/25 17:37
- 名前: 美奈 (ID: cO3So8BN)
#4 12番は特別なんです
ー名前はなんだ
「…しーくんです」
ー本名を聞いているんだが
「だから、しーくんです」
ーなんてこった…まぁいい。君がここに来るまでの経緯を話してくれないか
「そんなことより、何で、何で僕はこんな所にいるんですか。戻らなきゃ、早く戻らなきゃ…僕の月なのに」
ーどこに戻るつもりだ
「ユリカ様の所に決まってる。僕の月なんだ。僕がユリカ様の所にいなければっ」
ーなぁ、いい加減目を覚ませ。ユリカ様はお前のことなど何とも思っていない
「うるさい!ユリカ様は、ユリカ様はどこなんだっ!僕は選ばれたんだ!ユリカ様にお会いしないと、ぼ、僕は…!」
ー選ばれた?おいおい、笑わせてくれるな。おふざけはそこまでだ。佐伯ユリカはお前を含めた50人の男を誘拐して、5年間も自分の屋敷に幽閉していたんだぞ。立派な犯罪者だ。しかも、お前は50分の1に過ぎなかったんだよ。お前の他にも、佐伯に男がいたことは分かっているだろ?
「分かっていますよ。けど、僕達は特別だから。それに、僕達は誘拐なんてされていない。導かれたんです。ユリカ様に僕らは見出され、自分の意思と神の意思に従ってユリカ様の元へ」
ーお前…思った以上にイカれてるな。いいか?佐伯ユリカは前代未聞の誘拐犯だ。一度に50人の愛人を作ったとんでもねぇ女だ。瞬く間に誘拐されて閉じ込められたから、お前らの親が血眼になって探してたんだ。お前の家族は、分からないが…
「ふっ。ふふっ、ふはははっ」
ーあ?何が面白えんだ
「刑事さん、あなたは何も分かってない。…まぁそりゃそうか、あなた方は負けたんですもんね。選ばれていないんだから。悔しさを隠して、僕に強く当たっているんでしょう?見てて情けないですよ」
ーは?なわけねぇだろうが。何度も言うが、お前は50人のうちの1人に過ぎないんだ。俺は妻に1人の男として選ばれてるぞ
「違うってば。あなたの奥さんじゃあ話にならない。世界の全てはユリカ様です。僕達は35億人の男の中から選ばれたんですよ。35億から、ユリカ様によって、50が選ばれた。こんな名誉なことが他にありますか」
ーチッ。お前、人の嫁をバカにしやがって…はぁ…通じねぇな、ったく。てかお前、何で名前がしーくんなんだよ
「僕は12番目だから。50人の中でもさらに特別なんです」
ー特別?
「ええ。十二支だって、数ある動物の中から12種類が選ばれたんでしょう?それと同じですよ」
ーどう特別なんだよ?
「僕達はユリカ様に、50音のあ、から、ん、までの名前を授かった。僕は12番目だから、しーくん。あっくんから、んーくんまでいるんですよ。そして12番までに入ると、その人達は1ヶ月間、ユリカ様の部屋で過ごすことが許されるんです。12月は僕の月。僕がユリカ様のすぐそばにいられる月。だから、帰らなくちゃ」
ーお前の帰る場所は、ユリカ様の所じゃない。佐伯ユリカは姿を消した。だから、佐伯によって薬で眠らされていたお前達が見つかったんだ
「……!!そ、そんなはずはない!ゆ、ユリカ様が消えるわけなんて、そんなはず…」
ーあのなぁ、考えてみろ。本気でお前を特別扱いしたいなら、ユリカ様はなぜお前の月に失踪したんだ?俺がユリカ様ならそんなことはしない。失踪するにしても、お前だけは連れて行くさ。…つまり、だ。お前は捨てられたんだ、ユリカ様に。もう特別でもなんでもない。お前ら50人は一斉に捨てられた。十二支だって、最後のイノシシは滑り込んだだけだ。結局お前も、ギリギリのラインだったんじゃねーか?
「そ、そんなバカな…。刑事さん、あまりに酷いこと言うなら、僕も黙っていませんよ?ユリカ様にはきっと、僕を連れて行けない事情があったんだ。必ず帰ってきて、ごめんねしーくんって言って、僕と一緒に過ごしてくれる」
<ドアが開き、刑事が呼び出される>
ーおい。ユリカ様、見つかったってよ
「…え?!え?!ゆ、ユリカ様!僕のユリカ様!会わせてください!無事ですか?!」
ーあぁ、無事だ。…スペインのマフィアとの逢瀬を捕まったらしい。スペイン人の彼氏がいたってことだな。いいか?お前じゃなくて、ユリカ様はマフィアの男を選んだんだ。そりゃそうだよな、幽閉してたヒモより、財力のある犯罪者の方が当然魅力的だ。…お前は確実に、捨てられたんだよ
「…………そ、そそそ、そんな!な、なんで、だって、ぼ、僕は、はぁ、はぁ、僕は、ユリカ様と両想い、でっ!想いあってて、だ、だから僕は、その、選ばれてて!じゅ、12番目は特別で!捨てる、なんて、そ、そんな、はずは、はぁ、はぁ……か、返せ!し、しーくんのユリカ様、しーくんだけのユリカ様!しーくんだけの月!選ばれししーくんの!しーくんの月!しーくんのユリカ様!しーくんはユリカ様!ユリカ様はしーくん!ゆ、ユリカ様をっ、返せ…返せ。返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せkae…」
ーマジかよ、パニック起こしやがった…いい加減本名言えよ、おい。お前…名前はなんだ
(最初に戻る)
- Re: T.E.A.R.【短編集】 ( No.5 )
- 日時: 2020/08/04 16:51
- 名前: 美奈 (ID: cO3So8BN)
#5 fault
玄関の扉を開けた瞬間、空気を切り裂く音がした。
数コンマ遅れて、頬の痛みに気づく。
齢80に近い老体に、まだこれだけの力が残っていたと知って恨めしくなる。
「どこ行ってたんだ、この人騒がせが!...なんだ?その目は!」
私は黙って、目の前の有名な老人を睨みつけた。
「……美亜!心配したんだよ!…ケガはなさそうだな、無事で良かった…とにかく中に入って」
不服そうな義父をたしなめて、夫は私を屋敷に招き入れた。
とりあえず入浴してご飯を食べた所で、息つく暇も無く、義父による説教が始まった。もう睨むのはやめて、とりあえずか弱そうな雰囲気を出しておくのが得策だろうか。
「ったく、迷惑かけやがって。何がしたいんだお前は!」
「ごめんなさい…」
「ふざけるなってんだ、ったく」
「あの、わ、私から、警察に連絡を入れておきます…」
義父は途端にキョトンとした。
「は?警察?」
「あ、あの、捜索願があったら、無事だったことを報告しなければと…」
「捜索願?んなもん出すわけないだろう!なんでわざわざ警察を呼んで、大事にしなきゃならない?なぁ!大切な選挙前に、元総理の息子の妻が失踪?そんなニュースを流したら、息子の当選はどうなる?!支援者様はどうなる?!俺の評価はどうなる?!お前はそれも考えられないのか!この馬鹿野郎!」
ごめんなさい、と口を動かすけれど、もちろん反省なんて1ミリもしてない。というか、反省しなきゃいけない意味が分からない。
感情のままに怒る義父。何も言えずに立ち尽くす夫。この家の男は、ろくでなしばかりだ。
この男どもの身の回りの世話をしてやってるのに、それには目もくれない。家政婦を雇わずに奉仕する嫁を、人間として見ていない。二言目にはいつもいつも選挙選挙選挙。元総理元総理。息子息子息子。頭は良いのかもしれないけど、肩書きと評価に取り憑かれて、世間にぶんぶんと振り回されている姿は、みっともないことこの上ない。
…でも。
でも、頑張ってしまったんだ。いつかは報われると思って。いつかはちゃんと見てくれると思って。
ただ、頑張りの限界に達する方が先だった。義父は罪を犯し、夫は父を責めなかった。そんな中で頑張れという方が無理な話だ。
だから逃げたのに。逃げたら心配くらいしてくれると思っていたのに。ありがたみを分かってくれると信じていたのに。わずかな希望を持っていたのに。帰ってもこのザマなのか。
逃げても、ちゃんとは探してくれないのか。警察にすら、世間体を恐れて話せないのか。
私の中で、何か糸がぷつっと切れたような感覚があった。
夫は義父の集中砲火が終わるまでずっと黙っていた。この役立たず。
寝室に入ると人が変わったように優しくなるのも、ただただ気味が悪い。だけど目の前の男は反省の弁を絶えず口にして、私との距離を否応なしに詰めてくる。
まるで、俺の愛が欲しかったでしょ?とでも言うように。
「美亜…ごめんな。3日間も逃げ出すってことは、何か辛いことがあったんだよな。俺、気づいてあげられなくてごめん。今日はちゃんと聞くから。寝ないで聞くから、全部」
声を聞くだけで虫唾が走る。
何が辛いのかも分からないの?
今日”は”って、今日しか聞いてくれないの?
…本当に、なーんにも分からないんだね。そんな頭脳で当選できる世の中は、やっぱりおかしいよ。そんなんで国民感情、理解できるの?
ねぇ。いい加減にしてよ。
愛した人なら、気づいてくれても良いんじゃないの?
今、あなたの腕の中にいるのが、美亜じゃないってことくらい。
バカがつくほど鈍感なのね。さすが元総理の息子。
もうこれは、逃げた方が正解だ。あの子の選択は、間違ってなかった。
『ごめん、美紗。…私、もう限界だよ』
双子の美亜は、私にそう言った。
何もかもが辛いって。
元総理の義父が、自分に不貞を働くこと。夫はそれを知りながら、イメージダウンを恐れてそれを無視すること。口を開けば選挙と支援者の話しかしないこと。後継ぎができないせいで、些細なことでも責められるようになったこと。
声音や表情だけで、どれだけ耐えていたのか、どれだけ辛かったのか、手に取るように分かった。双子だから。
必死に引き止める私に「ごめん。本当にごめん。でももう、楽になりたいの」と切羽詰まった顔で訴えて、美亜は1人樹海に入っていった。もう美亜を追いかけることは、できなかった。
心の中で、目の前の男に語りかける。
あなたは一体、誰を愛していたの?
…でももう、そんなことを聞くのにも疲れた。心から美亜に同情する。
よく頑張ったね、美亜。
今度は私が頑張るね。
この偽りの愛を、全て壊すために。私が責任を取るから、安心して。
”夫”が寝たのを確認してから、私はウイスキーのボトルを持って”義父”の部屋へと歩いていった。
- Re: T.E.A.R.【短編集】 ( No.6 )
- 日時: 2020/08/31 17:14
- 名前: 美奈 (ID: cO3So8BN)
#6 winner
「なぁ、もうお前ブスになったよなぁ。飽きた。別れよ」
噂通りだった。本当に半年経ったら、ブスって言い始めるんだ。
「え、そんな…。麗央くん、待ってよそれは」
「無理。最初は可愛いんだけど、飽きるんだよね。…ほら、俺みたいに最初から顔が整いすぎてる人間にしては、どの女もどっか物足りないっつーか」
こんな言葉を吐いても、麗央くんだから許される。どこ歩いてもスカウトされる麗央くんは、そこらへんの俳優の何倍もかっこいい。本人は「芸能界なんかで俺は利用されたくねぇ」なんて言って、全く興味がないのだけど。
「わ、私、もっと可愛くなるように努力するからっ。どうしたら麗央くんの好みに近づけるの…?」
麗央くんは私の必死の言葉を聞くと、自分の髪の毛を急にくしゃくしゃし始めた。明るい茶色の短髪が一瞬で乱れる。でも、その乱れた姿が彼の魅力を一層引き出す。
「はぁーっ、もう。努力して可愛くなるより、元々可愛い方が価値あると思うんだよね。俺モテるから、また可愛いと思った女の子を新しく探せばいいんだし。女の変化とか努力とかさぁ、見てて褒めなきゃいけないのマジだるいし疲れんだよ」
世界中の女を敵に回すような発言をして、麗央くんは私にスマホで写真を見せてきた。
画面には、女の子とのツーショットがずらり。
「ほれ。これぜーんぶ、俺の元カノ。前のスマホには6人いたし、昨日数えたらさ、お前含めて18人いたんだよね。今度はどんな子と付き合おうかなぁ」
麗央くんにとって今の私は、「別れよう」と言っても素直に聞き入れてくれない、ただウザいだけの女。興味など欠片もない女。
だからこうやって、わざと私に嫌われるようなことをしている。もう面倒だから。さっさと終わらせたいから。私が「麗央くん、元カノとの写真全部取ってあるんだね…酷い!」って言って、部屋から飛び出すのを待っている。
でもね、私は嬉しい。
頭イカれてない?って聞かれたら、イカれてます。って答えられるよ。
思考歪んでない?って聞かれたら、歪んでます。って真顔で言うと思う。
懐かしいな…高校生の時。
言葉で告白するなんて、そんな勇気は1ミリもなかった。でももう、遠くから見ているだけじゃ、どうにもできないくらいに気持ちだけが溢れていった。そんな資格ない、なんて思いながら、でもチャレンジしなきゃ後悔するよ!とも思いながら、私は当時のクラスメイトの告白を断って、手紙を書いた。震える手で、靴箱に滑り込ませた。
一度話しただけの、クラスも学年も違う人だった。
固唾を飲んで柱の陰から見つめていた。
彼は私の手紙を見つけて、その場で封を切って読んだ。
数秒後には、破られていた。
「麗央、帰ろうぜ!...あ!それラブレターじゃね?!破っちゃったの?!」
「だってさぁ〜今時キモくない?手紙とか。しかもこの子1回だけ話したけど、すげーブス。俺の好みじゃないわ。無理無理」
「うわぁバッサリ。もうほんっと麗央は厳しいよなぁ〜」
ブス。その言葉は、思春期の私に重く深く響いた。私の存在全てが、否定された気がした。
でも麗央くんにとって「ブス」は口癖で。付き合えても、半年経つとブス呼ばわりして勝手に別れを告げられる。そんな噂を聞きつけるのに、そう時間はかからなかった。
「麗央先輩は神レベルでイケメンだけど、女子の扱いはあんまりだよ。あんたは同級生に告られるくらいには普通に可愛いんだし、自信持ちなよ。それから、あんたのために忠告しとくけど、麗央先輩は諦めな。自分が傷つくだけだよ」
親友の言葉は嬉しかった。そしてきっと、正しかった。でも、どうしても、どうしても、諦めきれなかった。
私こそが、麗央くんのそばにいたい。ずっとずっと隣にいたい。そう思った。
私は麗央くんの高校時代の元カノ6人を観察して、タイプを何となく掴んだ。
麗央くんが高校を卒業してから、私はずっと麗央くんの隣にいる。半年経つとブスと言い始める癖は、ちっとも変わっていない。
ある時、私は閃いた。
ブスと言われるたびに整形して、髪色・髪型・メイク・名前も変えれば、十分別人になれるんだって。
変身した私に麗央くんは毎回新鮮な目を向けて、私を可愛いと言ってくれる。愛してくれる。半年だけで捨てられてきた多くの女に、私は勝ったんだ。
今麗央くんのスマホに写っている女は、全て私。麗央くんは高校時代と違うスマホを持っているから、このアルバムにいる「彼女」は私だけ。私以外の女と、付き合わせてなどいない。
もうかれこれ、麗央くんと6年付き合ってることになるのかな。
だから、麗央くんがこうして写真を取っておいてくれるのが、私はすごく嬉しい。私にしか分からない、私達の軌跡。
今度付き合ったら、「19人目」か。
私はまた変身する。今度はどんな女の子になろうかな。
「れ、麗央くん、元カノとの写真全部取ってあるんだね…酷い!」
お決まりのセリフを吐いて、涙も見せて、麗央くんの部屋を飛び出した。
じゃあな、ブス、と麗央くんは歪んだ笑みを向ける。
部屋を後にした私は、笑みを抑えられない。
あぁ、早く変身したい。またすぐに、愛されたい。
麗央くんの前で流した涙と、笑みがぐちゃぐちゃになる。もう嬉しいのか、悲しいのかなんて分からない。もう私はそんな次元になんかいなくて、ただ1つのものだけを、一心不乱に求めている。
整形を重ねて強くなる顔の痛みは、髪色を変えすぎて頭皮にかかる負担は、様々なメイクの結果荒れていく肌は、名前を変える度に揺らぐ私のアイデンティティは、このままで愛し続けてくれないことの心の痛みは、変化し過ぎて友人に避けられる苦しみは、変化し過ぎて段々と、でも確実に歪んでいく私自身は、麗央くんの愛で全て帳消しになるから。
私にとって、麗央くんこそが、全て。
待っててね、麗央くん。
ずっと一緒にいようね、麗央くん。
- Re: crazy=justice【短編集・タイトル迷走中】 ( No.7 )
- 日時: 2020/09/13 23:40
- 名前: 美奈 (ID: cO3So8BN)
#7 聖愛
なぜ私が、夫から離婚を告げられたのか。
理由は、不倫ではありません。性格の不一致でもなければ、喧嘩でもありません。
この理由には、どんな名前を付ければ良いのでしょうか?
あえて名付けるのなら、これは”聖愛”ではないか、と思います。私は聖愛故に、別れを告げられたのです。
私はただ、愛を注いだだけなのです。溢れんばかりの愛を。ただただ、心から愛しているということを、蓮に伝えただけなのです。
私は青春時代、大学のミスコンテストでグランプリになったり、ファッション雑誌の読者モデルに選ばれたりしていました。今のようにSNSがあれば、私のフォロワーは結構な数いたのではないか、と思います。娘は父に似ると言いますが、父は町1番の美男でした。アルバムで見た父に、恋をしそうになりました。
夫は慎重に選びました。父のように、息を飲むほど美しい子どもが欲しかったから。夫は私と同じ大学のミスターコンテストで、準グランプリになった人でした。彼はグランプリ発表の場で、私にアプローチをかけてきました。今まで「変な虫」がつきがちだった私ですが、夫はその中でもマトモだと思いました。彼は私と違ってグランプリではなかったけれど、告白されて嫌な気はしなかったし、当時ミスターコンでグランプリになった人には彼女がいたので、私は夫と付き合い、就職して少しした頃に結婚しました。
夫のことは愛していたと思います。彼も美男でしたから。結婚までこぎつけて、とても嬉しかったのです。
ただ、赤ちゃんができたと分かってから、私は変わってしまったのでしょうか。
息子だと分かり、息子ならば元グランプリの私に似ると分かり、私に似るならあの父に似ると分かり、私は1人舞い上がりました。そして遺伝子の半分は、元準グランプリの夫。美男じゃないわけがなかったのです。
しかし蓮が生まれたばかりの時は、流石に美男とは思いませんでした。あどけなさすぎる顔は美しさとは程遠くて、子育てに嫌気が差した時もありました。けれど、彼はきっといつか美少年に育つ。そう信じ続けて、子育てを乗り越えました。中学生くらいになるまでは本当に長かった。蓮が大人びてくるのを、今か今かと待っていました。
そして、ついにその時がやってきました。蓮は筋肉質になり、背が180cmを超えて、顎の輪郭がシャープになり、精悍な顔立ちに変化しました。
その顔は、若き日の父にそっくりで。それはもう…生き写しかと思うほどに。
私は父に、本気で恋することができなかった。父はもう、老いていたから。初老の美しい男性ではあったけれど、アルバムに残されたような輝きはもう、なかったから。そして何より、母から父を奪ってはいけないと、思ったから。
でも、蓮は違います。蓮を育てたのは私です。私の努力で蓮はここまで健康に、そして美しく育ってきたのです。美しくて若い蓮が今、私の目の前にいる。私は蓮を手に入れるためだけに、出産してもなお若作りに励んできたのです。父を奪いそうになったあの罪悪感に、苛まれることもありません。
蓮はとっても良い子でした。彼女ができた時には、ヒヤリとしましたが。
でも、焦った私が「ママと彼女、どっちが大事?」と聞いたら、表情を変えて即座に「ママ」って答えてくれたのが本当に嬉しくて。蓮はママを選んで、彼女を捨ててくれた。そう、それで良いの。蓮の隣にいるべきはママよ。
それ以来、蓮は学校からまっすぐ帰ってきて、私と過ごしてくれました。蓮の手は大きく、背中は厚みがあって温かく、唇はとても柔らかかった。夫より何倍も胸がときめきました。随分と低くなった声で「ママ、綺麗だよ」って言ってくれる蓮が、本当に、本当に愛おしくて。
老いていく夫よりも、大人になっていく蓮の方が魅力的なのは当たり前です。そして、彼が私よりも老いることは決してない。落胆せずに済むのです。こんなに素晴らしいことがあるでしょうか?蓮は私の人生における、最大の成功です。
夫は先週突然、離婚届を私に突きつけてきました。
「俺はもう、用無しなんだろう?蓮さえいれば、良いんだろう?...でも親権は俺だからな」
そんな、離婚だなんて、と口では言いつつ、私は笑みが零れそうになりました。危ない危ない。もしかしたら多少は笑みが零れていたかもしれません。
あぁ、やっと気づいてくれたのね、と。夫なんてもう、とっくにいらなかった。蓮を孕むことができたその瞬間から、とっくに。
私は聖愛を蓮に捧げることに必死だったから、すぐにサインしました。あっけない結婚生活の終止符でした。
蓮はまだ、完全に離婚したことを知りません。明日、きちんと伝えようと思います。
明日は待ちに待った、希望に満ちた日。私は今からワクワクしています。
なぜなら、蓮の18歳の誕生日だからです。
愛する彼に、私はとっておきのプレゼントを用意しています。
「綺麗なママが、俺は世界で1番好き。俺はママを愛してる」
私の目を真っ直ぐ見てそう言ってくれる蓮は、もう寝てしまいました。…ふふっ、まだ子どもですね。可愛い。
夫と使っていた寝室は、今日から私と蓮のものになります。
寝顔さえも美しい蓮の枕元に、プレゼントを置いておきました。
ーそれは、私との婚姻届。
旧姓に戻った私と、元夫の姓を持つ蓮が結婚すれば良いのです。そうすれば、より完全な形で永遠の愛を誓える。
男の子は、18歳になれば結婚ができます。正真正銘、私のものです。私の男です。
もうママとは呼ばず、下の名前で呼んで欲しい。もっと本気で、愛して欲しい。そんな多少の乙女心も、結婚すれば許されるのではないでしょうか。
これは決して、”性愛”ではない。”聖愛”なのです。
親が子どもに全ての愛を注ぐ。それは、当然ですよね?そしてそれはまさに、聖なる愛です。純粋な、穢れのない、神聖な愛です。
これは18年間彼を育て続けた、私自身へのご褒美でもあるのです。
これのどこがおかしいのでしょうか?どうして非難されねばならないのでしょうか?
どうして私を異常者扱いするのでしょうか?全く意味が分かりません。
だって、私のお腹から生まれてきたんだもの。共に生きるのは、当たり前ではないですか。