ダーク・ファンタジー小説
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- crazy=justice【短編集・タイトル迷走中】
- 日時: 2021/02/19 15:58
- 名前: 美奈 (ID: cO3So8BN)
- 参照: https://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no=11127
クリックありがとうございます。
初めまして、美奈と言います。
いつもはコメディ・ライトで活動しているのですが、今回はダーク・ファンタジーに初挑戦してみようと思います。
ここで求められている感じのものになるかは分からないのですが...
とにかく後味も気味も気色も悪い短編を書いていくつもりです。
多分恋愛絡みが多めです。イカれてるかなこの人、って思われそうな話を気ままに書いていこうと思います。ちなみに只今タイトル迷走中です。2つ浮かんで、今はそのうちの1つにしています。
お読みいただけたら嬉しいです...!
※2020年9月より、「小説家になろう」さん・「カクヨム」さんでも同時掲載始めました(名義もタイトルも違います笑...中身は同じ)
<目次>
#1 熱情 >>1
#2 New World >>2
#3 Wanna be A子さん? >>3
#4 12番は特別なんです >>4
#5 fault >>5
#6 winner >>6
#7 聖愛 >>7
#8 正しく清く... >>8
#9 何もいらないよきっと>>9
#10 離婚式>>10
#11 カタチをください>>11
#12 仏滅の夜に祝杯を>>12
#13 su amigos>>13
#14 鯛から逃げたい>>14
#15 笑顔と絆創膏と>>15
#16 リアル人生ゲーム>>16
- Re: T.E.A.R.【短編集】 ( No.1 )
- 日時: 2020/07/06 17:27
- 名前: 美奈 (ID: cO3So8BN)
#1 熱情
僕には分からない。
なんで、彼女は変わってしまったのだろう。
純白のセーラー服を着ていた時は、とても輝く笑顔を見せていたのに。
今、目の前にいるグレーのカーディガンを羽織る君の眉間には皺が寄っていて、心なしか体が震えているように見える。
最初から僕にしておけば良かったんだ。
僕はもう、君の悲しむ姿を見たくないんだよ?
君にはグレーよりも、明るいピンクやオレンジ、白が似合うから。
男と別れると地味な服を着て、男ができると明るい服に変わる。
僕と一緒になれば、君はずっと、ずーーっと、よく似合う明るい服を着ていられるよ。
僕は君を傷つけない。あんな酷い男達のようにはならない。
僕達が高校で出会ってから今まで、君は4回恋をした。
でも、ある時は学業を優先され、ある時はスカウトされたばかりの芸能活動を優先され、ある時は海外に留学されて遠距離になり、先月は浮気されてたことが分かったんだよね。かわいそうに。僕なら、そんなことは絶対にしない。
え?「なんで理由を全て知ってるの」って?
そんなの、君が心配だからに決まってるじゃないか。理由を知れば、僕がどんな男であるべきかが分かる。だから今日も、僕はここにいる。
怖がらないで。もう君を泣かせない。さっきもカフェで女友達に愚痴って、浮気されてた、って言った所で泣いてたよね?...君がいたのはテラス席だったから、外からでも様子がよく分かったんだ。「新しい恋がしたい。でも今は周りに男がいない」って言ってたのも聞こえたよ。
灯台下暗しじゃないか。僕がいるのに。
…君だって、なんだかんだで僕を意識してるでしょう?
嘘だ。なんで首を横に振るの?
僕は君に25回告白している。意識できないはずがない。
それに、君は逃げるようにして引越しを繰り返すけど、心のどこかでは僕を待っているじゃないか。
「そんなわけない」なんて、急に叫ばないでよ。近所迷惑だ。
最初引っ越した先の番地は19。君と同じクラスだった時の、僕の出席番号。次に引っ越した先の最寄りの駅名は、僕のママの旧姓。その次に引っ越した先の郵便番号の下4桁は、僕の携帯番号の下4桁。そしてこれから君が帰るマンションの部屋番号307は、僕が高校受験した時の受験番号。まさに君と出会うために必要だった番号だ。
君はいつも、周りをキョロキョロして、僕を探していたね。だから僕は見つけてもらいやすいように、いつも同じ服を切ることにしたんだ。
赤いチェックシャツに、ジーンズに、ヤンキースのキャップに、丸眼鏡。特徴的で分かりやすいでしょう?
これだけの理由があるんだ。もし無意識に君がこうした行動をとっているなら、それはもう運命だ。
僕と君は、一緒になる運命なんだ。
「知らない」なんて、言わないで。「嫌だ」なんて、言わないで。
高校で僕がいじめられていたのを止めてくれた時から、ずっと好きです。
「学級委員だったから仕方なく?」そんなはずはないでしょう。
ねぇ、逃げないで。今度は僕が君を笑顔にする。だから振り向いて。
君は振り向いた。でも顔が涙で濡れている。僕の深い愛に、感動してくれたの?
「あんたのせいで笑顔が消えるの!あんたのせいでマトモな恋もできないの!どこまで来るのよ気持ち悪い!もう、いい加減やめて!」
えっ……。今の、い、今の言葉は、嘘だよね?君の言葉では、な、ないよね?
「私の言葉よ!!!」
あーあ。やっちゃったねぇ。
……君は今、決して言っちゃいけない言葉を言った。
「気持ち悪い」
それは小中高と、僕の人格を壊していった言葉だ。君からそんな言葉、聞きたくなかったのに。
僕は怒ったよ。もう怒った。怒った僕はね、止められないんだ。ママも手を焼いていたよ。
僕の26回目の告白を受け入れてくれなければ、僕は君を許さない。…待て、待つんだ。逃しはしない。早く言うことを聞け!止まれ!
よろける君に追いつく。…ふう、やっと捕まえた。
もう、離さない。
目が大きく見開かれて、口を開けるけど、何も言葉が出てこない君は、やっぱり綺麗だ。
でも、僕は怒っている。今は何も喋らせない。君の口を、僕の唇で塞いでしまおう。
僕の腕の中で、君はジタバタする。…あぁ、丸眼鏡が邪魔だなぁ。
もっともっと、乱れた姿を見せてくれないか。6年も待ったんだ。
君の全てを見せて。…今日からはもう、僕だけに。
さぁ、26回目の告白をしよう。返事を聞かせてくれ。
ー君のことが好きです。付き合ってくれますか?
- Re: T.E.A.R.【短編集】 ( No.2 )
- 日時: 2020/07/10 00:38
- 名前: 美奈 (ID: cO3So8BN)
#2 New World
あぁ、また始まった。
お腹が鳴る音は、世界で1番嫌い。
自分でコントロールしきれない煩わしさに、思わず腹を殴りたくなる。
”お前は生きているか”
この問いに自信を持って「いいえ」と答えられないのは、この空腹のせいなのだから。
君への想いはもう、届かない。そんなの分かってるんだよ。
でも何で満たしたらいいのかが、分からない。ずっとずっと、分からない。
だから本能のままに、手を伸ばしてしまう。…お腹が鳴っているんだもの。
これは…寂しさ?怒り?嫉妬?情けなさ?
何かは分からないけれど、とりあえず心も体も満たそうとして、吸い込まれるように食べ物が口に入っていく。あぁ、醜い。私の胃が、こんなにたくさん求めていたなんて。私は今、生きている。生きてしまっている。
食道を全て埋めるくらいまで押し込んで、やっと楽になる。隙間だらけのジクソーパズルのピースが、全てはまったような気持ちになる。
このまま消化されるのを待ってしまおうか。全てを取り込んでしまおうか。
太ったら、嫌なことも何もかも、その大きな体で受け入れられる気がしたから。
ーいいんじゃない?
ーいや、ダメだ。何やってるんだよ。さっさと吐き出せ
ーでも、楽になれる
ーおい、お前が楽になってどうする?もっと苦しめ。さっさと吐け
ー嫌だ。このまま太りたい
ーダメに決まってる。さぁ、吐け
ー嫌だってば
『…マナちゃん、ずっと側にいて?』
『今日も可愛いね、マナちゃん』
『膝枕してよ』
ーほら、みんなお前を待ってる。求めてる。だから、吐け。吐くんだ
嫌だ。いや、いやいやいやいやいやいや………っ!
君はもう私を求めないのに、客はこぞって私を求める。湿った「マナちゃん」という声が、耳の裏に張り付く。
もう辞めたい。全てを辞めたい。この嬉しい息詰まりの感覚の中で、目を閉じてしまいたい。
…でも、やっぱりそれはできない。
私は1人じゃないから。お母さんを守れるのは、私しかいないから。シングルマザーで病気がちのお母さんに、お金は稼げない。私が「マナちゃん」であることを辞めれば、生きていて欲しい人を失ってしまう。「マナちゃん」であるには、肥満は大敵だ。
食道の充足感を惜しみつつ、全てを吐き出す。…あぁ、またいつもの”声”に従ってしまった。吐くのをやめようとすると、必ず聞こえてくるんだ。
吐くことにも慣れたから、すぐに終わってしまう。食べることと吐くことは、生きているってことを嫌でも感じさせる。食べ物の匂い、食感、咀嚼の音。食道を逆流する感覚。全身が食べ物を感じてしまう。この感覚は、止められない。
ジクソーパズルがまた隙間だらけになった状態で、仕事に向かう。
客の湿った声は、隙間に気持ち悪く染み込んできた。
これを埋められるのは、食べ物と、君だけなんだよ。
仕事を終えて帰宅したら、お母さんが消えていた。
『ごめんね、びっくりしたでしょう。お母さんね、やるべきことをやって、新しい世界に行くことにしたの。でも私はずっと愛の味方。愛の力になりたいの。大好きだよ』
置き手紙を握り締め、ハッと思ってベランダに出て下を見たけれど、華奢な彼女の体はなかった。
自分だけ、ずるいな。…でも、お母さんだから許してあげる。
私も大好きだよ、お母さん。全てを理解してくれて、愛してくれた唯一の人だから。
気付いたら部屋を出ていた。なぜか、部屋から追い出されたような気がした。
鍵はもうないのに、足が勝手に動いていた。プログラミングされているみたいに。
律儀にインターホンを鳴らそうとする自分に笑ってしまった。客以外の前で笑ったのは、いつぶりだろう。…多分、君といた時以来だよ。
ドアは開いていた。おかしいな、几帳面な人なのに。
躊躇なく、部屋の中をずんずん進む。
ベッドに横たわる君を見つけた。電気が消された部屋の中、白かったはずのベッドがちょっと変色している。
君…ずるいよ。でも……ありがとう。
長らく触れられなかった君に近づいて、背中を抱き締める。やっと君に会えた。やっとまた、私のものになってくれる。
じんわりと温かくて、ちょっと鉄の臭いがするけれど、やっぱりここが落ち着く。食道を塞ぐ時よりも、ずっと満たされた感覚。ジクソーパズルの隙間が、あっという間に埋まっていく。
もう、無理しなくてもいいんだ。この世界に用はないのだから。
すごく、すごく楽になった。
お腹が鳴る音が聞こえる。この世界で1番嫌いな音。
でも今は、心地良いとさえ感じるの。
このままじっとしていれば、君を抱き締め続けていれば、私も新しい世界にたどり着けるはずだから。
大好きだよ、2人とも。
今なら、自信を持って答えられる。
”お前は生きているか”という問いに。