ダーク・ファンタジー小説

■漢字にルビが振れるようになりました!使用方法は漢字のよみがなを半角かっこで括るだけ。
 入力例)鳴(な)かぬなら 鳴(な)くまでまとう 不如帰(ホトトギス)

人畜無害な短編集
日時: 2020/08/27 23:27
名前: 神崎慎也 ◆bb6OCCHf8E (ID: .BPVflqJ)

 これらは人畜無害な短編集です。
 基本的に投稿されるお話は全て独立した作品です。



もくじ(Index)
>>0 スレッドの紹介
>>1-3 「幸せの景色」
>>4 「自撮り防止機能」
>>5-9「霊感」
>>10「悪夢」
>>11「魅惑の肉汁うどん」

Re: 人畜無害な短編集 ( No.4 )
日時: 2020/08/18 18:00
名前: 神崎慎也 ◆bb6OCCHf8E (ID: .BPVflqJ)

タイトル「自撮り防止機能」


 リサイクルショップ。主に中古の商品を取り扱うお店だ。電化製品や家具なんかの他にも何やら用途が良く分からない商品が並んでいるのが一部の客の心を鷲掴みにしているという側面も持つ。
 大学2年生である伊藤 煉(いとう れん)もその一人。
 彼は決して授業をサボっている訳ではなく、午前中の早い時間に授業が終了したため来店しているのだ。
 しかし別に授業が早く終わらない日は来ないという訳でもなく、週に1回は必ずこの店に顔を出している常連だった。  
 特に目的の品がある訳ではない。寧ろ、目的の品が無くてもふらっと立ち寄ってしまえるのがリサイクルショップの利点だと考えていた。
 彼がいつものように商品を眺めているとき、あるものが目に留まった。
 「(これって、結構掘り出しものじゃないのか!?)」
 それはレトロなデザインのカメラだった。銀色の金属部分と木材を思わせる茶色の対比が絶妙にマッチしている。そして安い。税込みで1200円。
 煉はたまらずそのカメラを手に取っていた。
 なんだか軽そうな見た目とは裏腹にズシリと重い。
 アンティークのフィルムカメラなのかと色々弄っていると充電式のバッテリーが出てきた。
 見た目に反して性能は新しいものらしい。あまりの安さにワケアリ商品を疑ったが、特に欠陥は見つからなかった。
 何気なくカメラが置かれていた商品棚を見ると、一眼レフカメラ!と大胆に記載している張り紙が張ってあった。しかし、煉が気になったのはその下に書かれた一文
 『※自撮り防止機能付き』。
 「(なんだこれ?自撮り防止機能?)」
 良く分からなかったが自撮りには元々興味が無かったので自分は関係ないとてきとうに片付けた。
 何よりもデザインと性能のギャップに完全に虜になった彼はこのカメラを購入することにした。
 念のためレジの女性に聞いてみることにした。
 「すみません。この自撮り防止機能ってなんなんですか?」
 「はぁ……。ごめんなさい、商品の事は詳しくは把握していなくて、分からないんです……。」
 「ああいえ、大丈夫っすよ。」
 まあ、分からなくても無理はないかとてきとうに返事をして店を出た。
 スマホの時計を確認すると13時を示していた。
 取りあえず腹が減った。目に入った定食屋に行くことにする。
 今が平日の昼間だからなのか定食屋は比較的空いていた。
 生姜焼き定食を注文し、待っている間にカメラを取り出してみた。
 電源ボタンを押すと小型の液晶が光り出す。どうやら充電は意外とあるらしい。
 そうこうしている間にテーブルに運ばれてきた生姜焼き定食にピントを合わせ、試しに一枚撮ってみた。
 ちゃんとしたカメラで写真を撮るのは実は初めてだったのだが画質もきれいで文句なしの性能だ。
 「(帰りにちょっと公園でも寄って行こうかな)」
 煉は昼食にガッつきながらそんなことを考えた。

 
 歩いて10分もかからない自然公園にやって来た。
 此処は砂場やジャングルジムなどが置かれているタイプの公園ではなく、舗装された森林の中を歩ける散歩コースや見晴らしのいい原っぱなどが広がっていた。
 こういう公園の方が被写体探しには向いている。
 カメラを取り出し、全体の風景を撮ってみた。緑色の草木が綺麗に映し出されている。
 その後も煉は昆虫や鳥、石垣や親子の遊んでいる姿など色々なものを撮った。
 しばらく撮影していた煉だったが一息つくために一度ベンチに座り今まで撮った写真を見返していた。そこで彼は思い出した。
 「(そういえば、自撮り防止機能って結局どうやって設定するんだろう。)」
 設定画面を色々操作してもそれらしい画面は出てこない。
 「(もしかして、自撮りをしないと設定できないとかなのか?)」
 そう思った煉は試しに自撮りしてみることにした。
 自分にカメラのレンズを向けて、シャッターのボタンを押した直後、

 

 ベンチから彼の姿は消えた。
 そして、
 
 地面に落下したカメラだけが残された。
  
 【end】

 
  
 

Re: 人畜無害な短編集 ( No.5 )
日時: 2020/08/22 00:06
名前: 神崎慎也 ◆bb6OCCHf8E (ID: .BPVflqJ)

タイトル「霊感」



 今日は髪の毛を引っ張られて殴られた。
 泥だらけの少年は校庭の芝生に仰向けになりながら右手で赤く腫れあがった頬を撫でていると何やら声が聞こえてくる。
 「かわいそう」
 「かわいそうに」
 「かわいそうだなあ」
 のろのろと起き上がり声のする方へ視線を向けると、着物をきた男女数名がこちらを見ながらブツブツと呟いていた。
 「誰のせいでこんな目にあってると思ってんだよ……!」
 少年は決して大きな声ではないが力の籠った声で着物の男女の会話を遮る。
 服に着いた泥や汚れを払いながらその場を後にしようとする少年を着物の男女は最後まで蔑むような目で見送るのだった。
 おそらくさっきの男女も他の人には見えないのだろう。そもそも、こんな真夏のクソ暑い中、着物を着ている男女が校庭にいるはずがないのだ。
 現に先ほど少年をボコボコにした同級生のイジメっ子3人組にしても、誰一人として着物の男女に気づいた者はいなかった。
 だとすれば、あれは人ならざる者。つまり、幽霊と呼ばれるものの類という認識で間違いないだろう。
 少年自身、いつからそんなものが見えるようになったのかはハッキリと覚えていない。
 一つ言えるのは、小学5年に上がった現在でもそれらを見る力は消えていないという事だ。この力のせいで少年は学校や同級生から理不尽な扱いを受けてきた。
 自分以外には見えない存在というのは厄介で、少年がどれだけ主張しても嘘つき呼ばわりを余儀なくされてきた。友達はおろか少年はイジメの恰好の的となっていた。
 家路についている今でもこちらを見てくる髪の長い女や蟻んこサイズのオジサンとすれ違ったが無視を貫いた。少年はもうウンザリしているのだった。
 少年は真っすぐ家には帰らず近くの公園に立ち寄った。
 なんとなく、ボコボコにされた直後に家に帰りたくなかった。自分が今どんな顔をしているのか。少なくとも明るい表情を保てる自信はなかった。
 夕暮れの強烈なオレンジ色に照らされる遊具。小さい子供たちはみんな家に帰ったのか、公園は無人だった。
 とりあえずブランコに腰かけることにする。人は何故暗い気持ちになるとブランコに乗ってしまうのだろう。ドラマや漫画で見るような哀愁がそこには満ちていた。
 少年は俯きながら今日あったことを思い出す。
 あれは体育の授業の時間、今日はドッジボールをやった。少年にパスが回ってきたとき確かに相手に投げ返したが少年は腰のあたりを狙ったはずだった。
 しかし、少年が投げた球の軌道は不自然にねじ曲がりイジメっ子3人組の一人の顔面に命中したのだった。名前は確か小林だったか。
 実は少年には見えていた。投げる直前でボールを横取りした小さな女の子がそのまま相手のコートへ走りイジメっ子の顔面に思い切りぶつけ舌を出して無邪気に笑う姿を。
 だが、言うまでもなくそれは少年にしか見えない存在。当然周りには少年がイジメっ子の顔面を狙ったとしか思われないのである。
 結果、少年は放課後に校舎裏に呼ばれ髪の毛を引っ張られてボコボコにされたのである。
 自分で思い出しておいてなんだが、より一層暗い気持ちに包まれていた。
 そこに。
 「君!そんなところで何をしてるんだい??」
 ビクゥ!!と突然声をかけられ肩を震わせる少年は声の方を見る。
 それはセーラー服に身を包んだ女だった。中学生なのか高校生なのかは小学生である少年には区別がつかない。肩にかかるくらいの黒髪は夕焼けに照られ透き通った印象を与える。顔立ちは割と整っていて少なくとも悪い印象を与える要素は見つからない。
 彼女はソプラノの声でハキハキとした喋り方だった。
 「もうすぐ日が暮れるというのに、ひとりぼっちで何をやっているんだい??」
 「別に、お姉ちゃんに関係ないでしょ。」
 流石に怒られるかと思ったが、彼女の表情はパァー!っと明るくなっていった。
 「おぉー!これが噂のツンデレというやつですかな!?でもね君、私は心配してあげているんだよ??」
 「それはどうも。でも自分の心配した方が良いと思うよ。オレなんかと話してたら、お姉ちゃんもイジメの標的になると思うし。」
 「君、もしかして虐められてるの!?」
 思わず口が滑ってしまった。あまり自分が虐められていることを人に知られたくなかったのだが。
 馬鹿にされるか、あるいは分かりやすく正論で慰められるのかと考えていたが、突如少年の思考は遮られた。
 理由は単純
 彼女が少年の元に駆け寄りギュッっと腕を回して抱きしめられたからだ。
 「えっちょっ。なにして、」
 困惑する少年を無視して彼女は声を震わせて叫ぶ。
 「づらがっだねえぇぇぇ〜!ワダジが味方になっであげるからあぁぁぁ〜!」
 その言葉は涙と嗚咽にまみれて聞き取りにくかったが少年の為に本気で号泣してくれているというのは分かった。
 今までも優しい人は確かにいたが、自分の為に号泣するような人は居なかった。
 「(ああ。甘い良い香りがする。温かい。)」
 少年は初めて人の温もりというものに触れた。
 しばらく泣きじゃくったあと彼女は少年の両肩に手をトン!と置いて顔を凝視する。
 「何かあったら、またここにおいで!私は君の味方だからさ!」
 「ありがとう。」
 「ところで君、名前は??」
 「僕の名前は結城 空。」
 「ゆうき そらくんね!私は美島 咲!サキって呼んで!君の事も空君って呼ばせてもらうね??じゃあ、空君。また会おうさらば!」
 そういうと彼女は駆け足でその場を去っていく。
 「うつくしま、さき。」
 少年は誰も居ない公園で一人彼女の名前を呟いていた。心なしか体が軽くなったように感じた少年は勢いよくブランコから立ち上がり家路につくことにした。

Re: 人畜無害な短編集 ( No.6 )
日時: 2020/08/22 00:13
名前: 神崎慎也 ◆bb6OCCHf8E (ID: .BPVflqJ)

 昼休みのチャイムが鳴った。
 給食を終えクラスメイト達は各々と体育館や図書室などへ遊びに行く中、少年だけは窓際の席から一歩も動く事なく外をボーッと眺めていた。
 ひとりぼっちの休み時間には慣れていた。というか、寧ろこっちの方が正常という感覚ですらあった。今まで友達になろうと近づいてきた人は多かったが、最終的には少年に怯えて離れていった。
 何度かそういう事を繰り返しているうちに噂が広がり結果的にクラス中の生徒に避けられているという訳である。
 昼休みも残り10分弱となった。
 少年はトイレに行こうと席を離れ、廊下に出た。学校の廊下は窓が付いており中庭を見ることが出来る。しかし、少年はこの中庭にいい思い出が無い。大抵見えるとしたら中庭が多いからだ。
 そう分かっていたが何気なく中庭に視線を移した時、少年は思わず立ち止まってしまった。
 視線の先には中庭から窓越しにこちらの廊下を凝視している女がいた。白っぽいドレスのようなヒラヒラした服を身に纏い、髪は長すぎて女の顔を覆い隠してしまっているため表情を見ることはできないが、邪悪なオーラを漂わせているのは表情を見なくても分かる。
 しかし、少年が立ち止まった理由は邪悪なオーラを感じたからではなく。
 「(あの右手に持ってるものって、包丁か……?)」
 髪の長い女は中華包丁を握りしめていた。あんなに派手な見た目なのに廊下を歩く他の生徒には誰一人認識されていない。つまり不審者ではないとすると、やはり。
 少年はあの女が何を見ているのかが気になった。女が見ている方向へ少年もゆっくりと視線を向けるとそこには。
 少年を目の敵にしているイジメっ子3人組の一人である小林が数メートル先を歩いていた。そして長髪の女は小林の歩くスピードに合わせってゆっくりと首を動かしている。
 「(小林、まずい!?)」
 ゾワリと少年の中に嫌な予感が雪崩のように流れ込んできた。そしてその予感を逆に察知するように次の瞬間、女は包丁を持ったまま右手を振り上げてそのまま走り出した。
 小林に狙いを定めながら。
 「……ッ!!」
 少年は思わず走り出していた。狙いは女ではなく小林。もはや突進する勢いで廊下を全力で駆ける。
 小林の方は全力で向かってくる少年に気づくと目を丸くして声を絞り出す。
 「ゆ、結城!?ちょっ、あぶねぇ!」
 そのまま少年が小林に全体重をかけて突き飛ばした直後。
 バリィーン!!という硝子の割れる音が響いた。
 少年がゆっくりと目を開けると自分が小林に覆いかぶさるような体勢になっているのが分かった。
 女は何処へ行った?恐る恐ると言った様子で少年は窓ガラスの方へ首だけを動かす。ガラスは大きな穴を中心に葉脈のようにヒビが入って割れていたが女の姿はない。
 ホッと胸をなでおろす少年はそこで気づいた。小林の様子がおかしいことに。
 「こ、小林……!?」
 よく見ると小林の額には赤黒い痣が出来ており彼自身も苦痛に耐えるような表情を見せながら時折「うぅ……」と低く唸る。
 小林は少年に突き飛ばされた衝撃で廊下に頭部を強打していたのだ。
 「「「きゃぁあああああああああああああああ!!」」」
 頭が真っ白になっていた少年の思考を切り裂くような生徒たちの悲鳴がワンテンポ遅れて廊下に響き始める。それが引き金となるように、辺りは混乱に包まれていた。
 悲鳴を上げる生徒の他にも、ただ呆然と立ち尽くす生徒や職員室へ走る生徒がいた。
 どれくらい時間が経ったのだろう。先生がやって来たようだ。
 「ガラスには触るな!結城!一体これはどういう事だ!!」
 先生は小林に覆いかぶさるような姿勢のまま固まっていた少年の腕を掴み引きはがすと小林に意識があるのか心臓は動いているのかなどを確認し始める。
 その間も先生は少年に対して吠えるように何かを言い聞かせていたようだが少年にはその声はノイズがかかったように上手く聞き取れていなかった。
 何よりも目の前に広がった惨状に頭の整理が追い付かず、とにかくガクガクと震えることしか出来なかった。
 そこで少年は何やら冷たい視線のようなものを感じ顔を上げると、廊下の隅に先ほどの長髪の女が見えた。女は中華包丁の峰部分に舌を這わせながら目を細めて嘲笑しているようだった。

Re: 人畜無害な短編集 ( No.7 )
日時: 2020/08/22 00:17
名前: 神崎慎也 ◆bb6OCCHf8E (ID: .BPVflqJ)

 「この度は、本当に申し訳ございませんでした!」
 母親の声が校長室に鳴り響いていた。
 隣で深々と頭を下げる母親の姿を見ていた少年だったが、すぐに後頭部を掴まれ少年も強引に頭を下げさせられた。
 あの一件はどう考えても長髪の女が悪い。少年は長髪の女から自分をイジメてくる小林を庇おうとしたのだ。しかし、そもそも長髪の女など少年以外には見えない。だとすれば、周囲の生徒や小林本人にはどう映るのか。
 少年が小林を突き飛ばし、小林が窓に頭をぶつけてケガを負った。少年が一方的にケガを負わせた罪人としか見られないのである。
 「もういいです。謝られたところで、息子のケガの治りが早くなるなんてことないですから。」
 親子に頭を下げられても尚、怒りを隠しきれずに震えたような声で言い捨てるのは小林の母親だった。
 彼女はイスに座ったままこちらに目を合わせようとはしない。特に少年に対しては空気の扱いと同然だ。
 「ただまあ、お宅の息子さんについては母親であるあなたの躾が不十分だったのが原因なんでしょうけど?」
 「息子にはきちんと言い聞かせます!ホントに、申し訳ありません!」
 少年の母親はもう泣きそうになりながら声を絞り上げて頭を下げ続ける。今までも霊に悪戯をされて少年の立場が悪くなることはたくさんあった。でも、こんなのは初めてだ。
 少年は全ては霊のせいだ弁明したい気持ちを奥歯で噛みしめて母親の隣で頭を下げた。
 結局、少年の母親が用意した菓子折りには一切手を付けず小林の母親は校長室を後にした。
 「今回の件を心に深く刻んで家に帰ってからもしっかりと話し合ってください。」
 先ほどまでのやり取りを苦い顔をしながら聞いていた校長が重々しく言い放つ。
 「はい……。本当にご迷惑をおかけしました!申し訳ありませんでした!」
 重苦しい空気が漂う校長室でただ母親の必死の謝罪だけが響いていた。

Re: 人畜無害な短編集 ( No.8 )
日時: 2020/08/22 00:21
名前: 神崎慎也 ◆bb6OCCHf8E (ID: .BPVflqJ)

 夕暮れのオレンジ色に染まる遊具の中で少年はブランコに揺られていた。
 あの一件以降、少年の立場はますます悪くなっていた。学校だけではなく親までも少年を見る目が冷ややかになった。少年を取り囲む環境そのものが牙を剥いているような感覚だった。
 「(なんで、オレだけこんな目に合わなきゃいけないんだ……!)」
 少年の目からは涙がこぼれていた。
 生きている限りこれからも理不尽な扱いを受けることになるだろう。そのたびに周りの人間にもたくさん迷惑をかけるかも知れない。あの件以上の事が起こるかも知れない。
 だったら、もう生きている意味すらないんじゃないだろうか。これ以上生きることに本当に意味があるのだろうか。
 少年の頭の中はそんなマイナスの感情で溢れて行った。だが、それはすぐにかき消された。
 「おっ!この前の空君じゃないか!!また一人で俯いているのかい!?」
 声が聞こえた。その声はソプラノでハキハキとした喋り方だった。
 少年は声のする方へ勢いよく振り向いた。
 そこには、セーラー服を着た女子生徒の姿があった。名前は確か咲だったか。
 少年はこぼれていた涙を急いで拭うと平然を装った。
 「久しぶりだね。咲さん。」
 「おー!覚えててくれたんだ私の名前!もちろん君の名前も憶えているよ?空君だよね!?」
 「うん。正解。」
 少年の返答にやったー!と分かりやすく喜びながら隣のブランコに腰かける咲。
 「空君は一人で何をやっていたのかな!?」
 「別に。咲さんこそ何か用?」
 「あぁー。空君にさん付けされるのなんか慣れないなー!咲でいいよ!?私たち友達だもん!」
 友達。その言葉は今の少年の心にはかなり響いた。まだ、自分の味方をしてくれる人がいる。周りは敵だけではなかった。
 少年の目からは涙がこぼれていた。
 少年の顔を見た咲は少し慌てた様子で言う。
 「空君泣いているのかい!?一体、何があったというの!?」
 気が付くと少年は咲と呼ばれる女子生徒にすべてを打ち明けていた。自分が霊感を持っているという事。その力のせいで理不尽な扱いを受けてきたという事。あの一件で信頼を失ってしまったという事。
 少年の言葉は嗚咽に阻まれ上手く伝わったのか不安だった。だが、優しく頷きながら話を最後まで聞いた咲はゆっくりと歩み寄りそれから。
 ギュっと抱きしめてくれた。
 この前のときと同じ温もり。でも今泣きじゃくっているのは彼女ではなく少年の方だった。
 「うん。辛かったね。でも、もう大丈夫だよ。」
 咲は小さな声で、でも優しさを込めた穏やかな声で少年に囁く。いつものハキハキとした喋り方からは想像もつかないくらい優しい声だった。
 咲は少年の肩に回していた腕を解くと少年の目の前に立ちいつものハキハキとした声で言う。
 「そうだ!明日地区のお祭りがあるでしょ?空君一緒に行かない!?」
 「えっ……。」
 少年は口籠る。
 地区の祭りという事は勿論学校のクラスメイト達もたくさん来ることだろう。少年は同級生たちと顔を合わせたくなかった。
 それも、お祭りなんかに少年が参加している所を見られたら、最悪そこでトラブルが起きかねない。
 しかし、目を輝かせてこちらを見てくる咲の誘いを断るのはなんとも心苦しかった。しかも咲は少年の唯一の味方だ。
 少年は葛藤の末。
 「分かった。行くよ、お祭り。」
 それを聞いた咲はパァー!と笑顔になると無邪気にピョンピョンと小さく飛び跳ねて喜びを表現する。
 「やった!じゃあ、明日の夜の19時にここで会お!約束だからね!?」
 「うん。分かったよ。」
 約束を交わすと咲は満足げに頷き、手を振りながら公園を後にした。

 そんな訳で待ち合わせである。19時の公園はすっかり日が沈み辺りは紺色に包まれていた。
 咲の姿はまだない。ブランコに乗る気も起きなかったので、てきとうに公園の入り口で立つことにした。
 因みに母親にはクラスメイトと祭りに行ってくると説明した。母親ははじめ驚いたような表情を見せたが「分かったわ。」とだけ言い、それ以上は追求してこなかった。
 祭りの会場はこの公園から少し歩いたところにある神社だったが、時折鳴らされる太鼓の音がこちらまで響いていた。
 その太鼓の音を聞きながら祭りの雰囲気を感じ取っているとカランコロンという下駄の足音が聞こえてきた。
 咲だった。
 彼女は水色を基調とした浴衣に下駄という如何にも祭りを楽しみに来ましたという装いだった。
 「おまたせ!」
 「浴衣、似合ってる。」
 「おぉ!空君に褒められた良かった〜!んじゃ、行こっか!」
 そういうと咲は少年の手を引いて歩きはじめる。
 他にも浴衣を着たカップルや家族連れが同じ道を歩いていた。十中八九彼らも祭りが目的なのだろう。進むにつれて人は多くなっていき、徐々に少年と同年代に見える男女も加わっていくのが分かる。
 少年は少しだけ顔を俯かせた。その行為にどれだけの意味があるのかは分からないが、とにかく少年としては祭りに来ている事をクラスメイトに知られたくなかった。しかも今は咲と一緒だ。なにか妙な誤解をされても困るし、最悪咲に迷惑をかけることになるかもしれない。
 そんな少年の思考を打ち砕くように咲が話しかけてくる。
 「ほらみて!お祭りの明かりが見えてきたよ!賑わってるみたいだねぇ〜」
 その声に誘われるように少年は顔を上げてみる。神社まではもう目と鼻の先といった距離まで近づいていた。
 公園にいたときも聞こえていた太鼓の音がより一層大きく響く。
 懐かしい。小学1年の頃に来た時とあまり雰囲気が変わっていないような気がする。それが何となく嬉しかった。 
 神社の階段を登ると目の前には沢山の屋台と行き交う人々が広がった。焼いた食べ物のにおい、屋台の装飾、浴衣を着ている人々といったもの全体が祭りを演出しているようだった。
 「わー!結構混んでるねー!さすがお祭りって感じ!」
 「オレあんまり人混み得意じゃないんだよね。」
 「それは大変だ!じゃあ、」 
 そういうと咲は少年の右手を軽く握った。
 「手を繋いでいれば大丈夫って事だよね!よーしまずは林檎飴を買おう!」
 そういうと少年は再び咲に引っ張られるように歩き出した。
 最初は林檎飴で満足していた彼女だったが、気づいたら彼女の手はタコ焼きや焼きそばなどの食べ物で溢れかえっていた。
 「そんなに食べて大丈夫なの?」
 「ぜーんぜん平気!ほらほら空君も食べなよ!」
 グイグイと食べ物を口に突っ込まれる少年。やれやれといった様子で何気なく視線を移したその時。
 そこで少年は見かけてしまう。祭りで燥いでいるクラスメイトの姿を。
 「さ、咲……。やっぱオレここ恐いかも。」
 「んー?あちゃー、そういうことか〜。よし!私に任せて!」
 そういうと咲は少年の手を引きながらとある屋台へ走った。ちょっと待っててねと屋台の近くで待たされた少年は、数分後に咲が買ってきたものを見て思わず唖然とした。
 「じゃーん!お面!これ付けてたら顔見られないから大丈夫でしょ!?」
 それは何のキャラクターか分からない可愛らしい狐の面だった。これを付ければ顔が見えないのは確かにそうだが逆に目立つんじゃないだろうか。そこまで考えた少年だったが。
 「ぷっ。ははははは!」
 少年は思わず笑ってしまった。自分が抱えている深刻な悩みを咲はいとも簡単に面白おかしく解決してしまう。咲の前では自分の抱えている問題もちっぽけなものに見えてくる。
 「咲。ありがとね?」
 「おぉー!空君がやっと笑った!私も腕を上げたな〜!!」
 そんな会話をしているとき、上空からドォーン!という大きな音が鳴った。
 「あっ。咲、見て花火だ!」
 「わぁー!やったやったあー!」
 咲は空を見上げて子供のように無邪気にはしゃぐ。そんな咲の横顔を見ながら少年はこの人に出会えて本当に良かったと思う。
 正直、咲については知らないことの方が多い。どこの学校に通っているのか。そもそも中学生なのか高校生なのかもイマイチ分かっていない。
 分かっているのは咲は少年の味方になってくれている唯一の人であるという事。
 そしてそれさえ分かっていれば後は知らなくてもいい。少年はそう思うようにしていた。
 花火大会が幕を閉じたところで祭りも終了の時間になった。
 少年と咲は大勢の客に紛れながら家路についていた。しばらく歩くと待ち合わせ場所に使ったいつもの公園の入り口に着いた。この時点では大勢いた客の殆どとは離れていた。
 「いやぁ楽しかったね空君!私、今日の事忘れないと思う!」
 「オレも忘れない。今日は誘ってくれてありがと。」
 「どういたしまして〜。あっじゃあ明日は私たちだけで花火大会しようよ!近所の河川敷でさ!」
 「いいね。やろう!じゃあ明日の夕方もここで待ち合わせようか。」
 「さんせー!じゃあ明日の15時にここで!今日はホントに楽しかったよ!じゃあね〜!」
 咲の後ろ姿を見送った後、少年も家に向かって歩み始める。心がざわついているのが分かる。どうやら自分はワクワクしているらしい。こんな気持ちは久しぶりだった。


Page:1 2 3



小説をトップへ上げる
題名 *必須


名前 *必須


作家プロフィールURL (登録はこちら


パスワード *必須
(記事編集時に使用)

本文(最大 7000 文字まで)*必須

現在、0文字入力(半角/全角/スペースも1文字にカウントします)


名前とパスワードを記憶する
※記憶したものと異なるPCを使用した際には、名前とパスワードは呼び出しされません。