ダーク・ファンタジー小説

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太刀川探偵捕物帖
日時: 2022/01/25 11:16
名前: 緋月セト (ID: TZ3f2J7J)

19世紀末、ある事件が日本を震撼させた
人の手では絶対に不可能とされるその事件は、やがて警察関係者の間で『深淵事件』と称され、社会の闇へと沈められた
そして、2022年
事件は、二人の探偵の手によって再び動き出す

真相を深淵から引き摺り出す、碌でなし探偵と生真面目助手のサスペンスアクション、開幕!!

第0話:深淵事件は彼の領分
>>1.>>2.>>3.>>4
第壱話:国木田 えいと太刀川 迅

Re: 太刀川探偵捕物帖 ( No.4 )
日時: 2022/01/25 11:18
名前: 緋月セト (ID: TZ3f2J7J)

 『鬼の呉島』と呼ばれた警官人生で、部下に終ぞ告げることはなかった最も『残酷な言葉』を。
 呆然とする迅を尻目に、中年刑事・呉島は続ける。

「いつか、俺たち警察はこの事件への介入権を失くすだろう。結果、この事件は闇に消し去られる。他の誰でもねェー、『国家権力』によってだ」

 呉島の言葉に、迅は目を見開く。
 この事件の捜査が打ち切られると言うことは、犯人にとって好都合この上ない状況になる。流石に現行犯は逃れられないだろうが、逆に現行犯で捕らえられない限り、殺し放題と言う事になる。

「太刀川、探偵を始めろ。人間オモテに出てる事件じゃあねェー、深淵ウラに沈んだ事件専門のだ」

 呉島は言う
 その顔に似つかわしい、荘厳な表情で。

「『運命』って言葉を信じる訳じゃあねーが、『何か』に取り憑かれたやつは、それに向かってただ突っ走る事しか出来ねェ。てめーは、ソイツを救ってやれ」

 そう言って、呉島は現場から去って行った。



 ───その数日後、呉島は死んだ。
 死体には数多の傷跡が残されていたが、警視庁は捜査を打ち切り。彼の予想通り、この事件は『深淵事件』として、国家権力によって闇に沈められた。
 そして、呉島警部の殺害から10年後───

「所長、行きますよ」
「分かってるよ」

 とある二人の探偵によって、事件は再び動き出す。

「さぁ、真実を引き上げる時だ」

Re: 太刀川探偵捕物帖 ( No.5 )
日時: 2022/01/26 16:54
名前: 緋月セト (ID: TZ3f2J7J)

 『深淵』は、日常のすぐ隣を歩いている。
 そしてそれは、いついかなる時代でも、人々が予期せぬ瞬間に牙を剥く。
 当時は捜査に力を入れていた警察も、時が経つにつれて軽視するようになって行き、やがて『深淵事件』と名付けて文字通り闇に沈めて行った。
 だが、警察にとっては『止むを得ず』の判断も、犯人にとっては餌やりに過ぎない。
 しかし、市民の安全を確保するためには、どんな事件でも解決する必要がある。

 事件の真相を、深淵から引き上げる。それが僕たち『探偵』のなすべき事だ。
      記述:太刀川探偵事務所所長 太刀川迅

◇◇◇

─S県・倉川町─

 穏やかな昼下がり。
 少女は、一人で街中を歩いていた。

「ここが倉川町……」

 彼女の名前は国木田影くにきだえい
 国木田流を名乗る武術家の娘であり、同時に国木田流抜刀術の免許皆伝。妥協を許さない完璧主義者であると同時に、一度夢を語ると止まらない理想主義者。
 先月高校を卒業し、新生活を送る為に首都にある実家を出て、この倉川町にやって来た。

「やっぱり東京とは違うなぁ〜」

 周囲の風景と、写真を交互に照らし合わせながら、影は住宅街を進んで行く。
 川倉町北東部にある『太刀川探偵事務所』。
 そこが、影が今向かっている場所だ。
 先月送られて来た封筒には、事務所の場所を移した写真と電話番号、そして所長の名刺が入っていた。照らし合わせて行けば、自然と着くと思っていたが……

Re: 太刀川探偵捕物帖 ( No.6 )
日時: 2022/01/26 17:13
名前: 緋月セト (ID: TZ3f2J7J)

 まさか、ここまで難儀するとは思っていなかった。
 『なんとでもなる』と思っていたが、その考えが如何に甘い物だったかを痛感させられる。……こうなるなら、使用人の一人は連れて来るべきだったか。
 
「(って!駄目よ落ち着きなさい国木田影!)」

 そんな雑念を振り払うように、影は頭を横に振る。

「(家を出る時、お母様にも言ったじゃない……)」

 『私は一人で生きて行く、故に手解きは無用』
 家を出て行く時、影はそう言って出て行ったのだ。国木田の姓を名乗ってはいるものの、ほとんど絶縁したと言っても過言ではない。
 絶縁した以上、こうなる事は覚悟していた筈だ。
 家を頼る事は、なにより影のプライドが許さなかった。

「確か、ここの角を右に曲がれば良いんだよね?」

 スマホの地図と写真を頼りに、十字路を右に曲がる。
 そして暫く歩くと、ようやく目的地が見えて来た。
 川倉町北東部にある三階建てのビル、一階の喫茶店の上に、『太刀川探偵事務所』は構えられていた。

「ここが、私の就職先……」

 そして、新しい住まいになる場所。
 一応、所有者兼事務所の所長には、このビルでの在住許可の承諾は得てある。
 一階の喫茶店の従業員に挨拶を済ませ、階段を登る。
 これから先、どんな経験が待っているのだろう?

「おはようございます!太刀川探偵事務所に就職しました、国木田影です!本日よりお世話になります!」

 影は期待を胸に、勢いよくドアを開けた───

Re: 太刀川探偵捕物帖 ( No.7 )
日時: 2022/01/27 09:14
名前: 緋月セト (ID: TZ3f2J7J)

「信じられない!浮気調査を依頼したんですよ!?」
「!?」

 刹那、扉の奥から響き渡る怒号。
 それも、今入ろうとした事務所の方からだ。

「いやぁ……その、ね?僕も最善は尽くしましたよ。ただ、相手が予想以上に……」
「言い訳は結構です!」
「え!?ちょっと待って───」

 静止の声に耳を貸さず、依頼者と思しき女性は肩を怒らせながら扉を出ると、階段を降りて行く。
 影の隣を通る途中、僅かに甘い香水の香りが漂う。影は女性を薄目で見るが、彼女は影の視線に気付かず、そのままビルから去って行く。
 女性を見送った影は、再び扉の方に目を向けた。

「あのー、ここで合ってますよね?」

 そして、おそるおそる問いかける。
 ソファに座る男は、意気消沈しているのか返事は返さないが、サムズアップで答える。安堵すると同時に、『本当に大丈夫なのか?』と言う不安も生じる。
 ここが太刀川探偵事務所で合っているなら、おそらくあの男が、所長である太刀川迅で間違いない。
 だが、影の興味は全く別の方に引き寄せられていた。

「(まるで本の中みたい……)」

 無機質な外装にそぐわない、探偵小説の一場面からそのまま切り抜いたような、シックな内装。
 手入れも行き届いているのか、埃一つ見当たらない。
 部屋自体も広く、子供が退屈しないように遊ぶスペースまで設けられていた。これも全て、人がいないことを良い事に床にダレてる所長の気遣いなのだろう。

Re: 太刀川探偵捕物帖 ( No.8 )
日時: 2022/02/28 20:16
名前: 緋月セト (ID: ObLAiJYQ)

「もう駄目だ……お終いだぁ……」
「(この人がやってるとは到底思えないけど……)」

 何かを呟きながら絶望する男を見つめながら、影は内心でため息を吐く。
 ここが太刀川探偵事務所で合っているなら、あの男が所長で間違いないだろう。中肉中背で、背広を羽織った理知的な顔付きの男。
 シックな内装に相応しい外見だからこそ、目の前で行われている奇行がより際立っていた。
 正直放っておきたいが、挨拶をしなければならない以上、そうする訳にもいかない。

「あの……」

 すると、先ほどまで燻っていた男が起き上がり、服装を正しながら何処かへ向かう。
 そして数分もしないうちに、二人分のカップを持って来てはテーブルに置き、先ほどまでのダレっぷりが嘘のようにソファに座り直す。

「失礼失礼、見苦しい姿を見せたね」

 その仕草は、探偵事務所所長のそれだった。

「初めまして、そしてようこそ太刀川探偵事務所へ。僕はここの所長をしている者だ」

 お手本をなぞったような挨拶。
 男は軽く自己紹介すると、影の方を見る。

「国木田影さん……だっけ?立ち話するってのも何だから、ここ座りなよ。お茶でも飲んでさ」
「はぁ……」

 男・太刀川迅は柔和な笑みを浮かべ、影は突然の展開について行けず、言われるがままに座る。


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