ダーク・ファンタジー小説

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太刀川探偵捕物帖
日時: 2022/01/25 11:16
名前: 緋月セト (ID: TZ3f2J7J)

19世紀末、ある事件が日本を震撼させた
人の手では絶対に不可能とされるその事件は、やがて警察関係者の間で『深淵事件』と称され、社会の闇へと沈められた
そして、2022年
事件は、二人の探偵の手によって再び動き出す

真相を深淵から引き摺り出す、碌でなし探偵と生真面目助手のサスペンスアクション、開幕!!

第0話:深淵事件は彼の領分
>>1.>>2.>>3.>>4
第壱話:国木田 えいと太刀川 迅

Re: 太刀川探偵捕物帖 ( No.1 )
日時: 2022/01/25 15:26
名前: 緋月セト (ID: TZ3f2J7J)

「しっかし……こりゃあ、随分と酷ェな」

 夕刻。
 黄昏時の路地裏に佇む中年刑事は、苦虫を噛み潰したような顔で言う。隣で、「うぷっ」と吐瀉物を押さえ込む声が聞こえると、中年刑事は横目で見る。
 彼の隣では、若々しい見た目の青年警官が、青ざめた顔で口元を押さえていた。
 青年警官は震える声で、中年刑事に問いかける。

「あ、あのッ、なんですか?これ」
「見りゃ分かるだろ、バラバラ死体だよ」
 
 青年の問いに答えると、我慢し切れなくなった彼は地面に両手を付き、胃の中を地面にぶち撒けた。
 胃液のツンとした臭いと死体の腐乱臭の相乗効果によって、現場は更に地獄絵図と化す。
 マトモな倫理観の人間なら、これが普通だろう。
 かと言って、中年刑事が異常と言う訳でもない。
 バラバラ死体は見慣れたとは言え、ここまで死体の損傷がひどいものとなると、刑事歴40年のベテラン刑事の彼と言えど、少しキツいものがある。

「(薄闇で正確に死体の象を捉えられねェってのが、せめてもの救いか……)」
「刑事!お待たせしました!」
「やっと来たか。ガイシャは見ての通りだ……って、この状況じゃあ分からんわな。とにかく、頼んだぜ」

 中年刑事が言うと、鑑識班はカメラや試験道具を持って、死体が散らばった現場に近づいていく。
 途中唸り声が聞こえるが、聞かない事にしよう。

Re: 太刀川探偵捕物帖 ( No.2 )
日時: 2022/01/25 11:03
名前: 緋月セト (ID: TZ3f2J7J)

 事の発端は、19世紀末に起こった一件の事件。
 それを皮切りに、地球の真東に浮かぶ極東の島国では、『異常』な事件が頻発するようになった。
 警察の出番は増えたが、死者数も相対的に増した。

「それが今や、現場検証だけになるとはな……」

 中年刑事はタバコに火を付けると、薄暗くなった空に紫煙を立ち昇らせる。その光景は不謹慎極まりないが、死者を弔う送り火のようにも見えた。

「タバコですか?」
「良いだろ?この臭いは、ずっと取れる事はねェ」
 
 この事件の死傷者のリストには、もちろん警察関係者も含まれている。
 そしてこの事実が、事件の捜査を難航させていた。
 警察官も巻き込んだ無差別殺人にしては、動機が不明過ぎる。尤も、突発的な物がほとんどだが。

「(更に難解なのは、今回の件も含め、全ての事件で殺害の手口が違うって事だ)」

 1件目は焼殺。
 被害者は、文字通り骨も残らないほど焼かれ、身元の判別に苦労した記憶がある。
 2件目は凍殺。
 これは詳細は知らないが、管轄の刑事曰く、「ガイシャは物言わぬ氷像に変わってた」らしい。
 3件目は刺殺。
 被害者は女性で、全身の穴と言う穴をナイフと思しき刃物で穿たれていたそうだ。
 4件目は強姦。
 被害者は3件目と同じく女性。性的暴行を加えられたのち、内臓破裂で死亡したと思われる。
 そして5件目は───見ての通りの惨殺だ。

Re: 太刀川探偵捕物帖 ( No.3 )
日時: 2022/01/25 11:15
名前: 緋月セト (ID: TZ3f2J7J)

 紅く染まったこの惨状を言葉で形容する事は、非常に難しい。被害者も、ある日こんな形で殺される事になろうとは、思ってもいなかっただろう。
 やがて、現場の鑑見を終えた鑑識班は、ぞろぞろと現場から引き上げていく。

「おぇぇ……ッ」
「……」

 現場には、壁に背中を預けて座る青年警官と、仏を見つめる中年警官がポツンと取り残されていた。

「いつまで吐いてんだてめーは」
「うぅ……、すみません……」

 青年警官の有様に、中年警事はため息をつく。
 ここに来た当時は熱意と希望に溢れていたのに、たった二ヶ月でここまでなろうとは。
 中年警官はタバコを咥え、思いっきり蒸す。

「で?てめーいつまで、そうしてるつもりだ?」

 そして、疼くまる太刀川の方に目を向ける。

「太刀川ァ、こうなる事は分かってたはずだ。俺たちも、いつこうなるか分かったもんじゃあねー」

 中年刑事はタバコを壁に押し付け、吸い殻を携帯灰皿の中に入れると、淡々と語り始める。
 それはまるで、息子を諭す父親のようだった。

「俺たち警察の仕事は、いち早く犯人を捕らえ、市民の皆さんに安心と安全を保証する事だ。だが、それをやるには、まずは自分の命がなきゃいけねェ」

 中年刑事は太刀川の腕を掴み、立ち上がらせる。
 そして、ある言葉を告げた。

「太刀川迅巡査。本日を以って、貴官を免職処分とする」


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