ダーク・ファンタジー小説

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転移後即日死した後輩君を魔女先輩は甦らせたい!?
日時: 2023/04/02 16:04
名前: 天麩羅 (ID: OHC2KpRN)

1話目〜25話目>>1-25部分を改稿しました
内容事態に大きな変更は無いので、読者様が再度お読み頂く必要は特にありません
新しい話は当分先になると思います

内容は概ねタイトル通りです
一応タイトル回収は出来たので、あとは魔女先輩が後輩君を甦らせたくてアレコレしながら異世界を旅する話になると思います

飽きっぽい作者はファジーの方でもう一作品掲載させて頂いております
なので、どちらかの更新、若しくは両方の更新が無い時は書き溜めに忙しくしているか、何か別の理由で筆が進まなくなっているとお考え下さい

あと、名前変えました(天麩羅→htk)
途中、打ち間違いでhtkのつもりがhtsになっていますが気にしないで下さい

12、13話についての補足ですが、途中出てくるモノクルの数値は適当です
後で変更する可能性が大いにありますので、気にせず読み飛ばしちゃって下さい

タイトル回収出来たので、ひとまずは一区切りとなります
作者はそろそろ他の小説を書きたくなってきたので、暫く更新は止まるかもしれません
また魔女先輩とその友人達を書きたい欲が湧いてきたら、いずれ書きます
何となく打ち切りっぽい終わり方ですが、今後この作品がどうなるかは作者にも分かりません

※ベリー様に当作の略称を付けて頂きました
『魔女甦』←まじょよみ、と読みます



以下、主要キャラ〜〜

・真島リン
魔女先輩。異世界の記憶を前世に持つ自称大魔女だが、その記憶は朧気。
決して厨二病では無い。

・天ヶ嶺開人
後輩君でリンの想い人。互いに想いを寄せる相手、リン先輩の目の前で……?
たぶん厨二病では無い。

・鳥居ひよ子
リンの親友にしてオヤジ女子。リン達を異世界へ見送り、研究者を目指す。
厨二病を超えたナニカ……?

・迦具土テツヲ
眼帯ヤンキーでひよ子とは幼馴染み。あらゆるオタク道を邁進する猛者。
厨二病と呼んではいけない。

・前垣沙梨亜
後輩女子。現代に続く祓魔衆の家筋出身だが、テツヲに想いを寄せている?
厨二病を恥とも思わないつもり。



以下、目次〜〜

1話目〜6話目、プロローグ〜序幕>>1-6
7話目〜15話目、1章〜第1幕>>7-15
16話目、>>16
17話目、>>17
18話目、>>18
19話目、>>19
20話目、>>20
21話目、>>21
22話目、>>22
23話目、>>23
24話目、>>24
25話目、>>25

Re: 転移後即日死した後輩君を魔女先輩は甦らせたい!? ( No.16 )
日時: 2023/04/02 15:21
名前: htk (ID: OHC2KpRN)

1章〜〜第2幕、1話ーー副題(未定)



「よし、っと……。
こんなところね!」
 ペンを置いた私は大きく伸びをする。
 気付けば焚き火が燃やされ、拾ってきた枝がパチパチと鳴っていた。
 後輩君は何やら鍋をグツグツと沸かしているが、何を作るつもりなのだろうーー?
 そういえば既に宵闇が降りてきていたが、テツヲと沙梨亜ちゃんはまだ戻っていない。
 探索範囲を拡げ過ぎて何か、厄介な事態を持ち込んでこないといいのだがーー。
 不安だ
 日記とペンを仕舞った私は暖を取るべく焚き火へと近付く。
 それに目敏く気付いた後輩君が声をかけてくる。
「あ、リン先輩!
コーヒーって飲みます?それとも紅茶?」
 ティーバッグの入ってる袋と粉コーヒーの瓶を見せてきた。
 荷袋の積載量が豊富とはいえ、ひよ子は随分と色々仕込んだらしい。
 眠気を払うべく、私は瓶に詰まった茶色い粉末を示す。
「コーヒーね!砂糖多めのやつ……」
「あ、はい!
砂糖たっぷりですね、ミルクも?」
 頷いた。
 疲れた頭にこの飲み物は格別なのだ。
 決して砂糖の有無が精神年齢を表すとか、そういう俗説を信じてはいけない。
 彼はカップを二つーーそれぞれ、お湯を注いでいくが満たされた容器の色合いは違った。
 方や暖かみを感じさせる色なのに対し、もう一方は焚き火に照らされていなければ闇に溶け込んでしまいそうな色ーーブラックだ。
「意外ね……」
「え?そうですか?
おれはいつもこれですよ?
あ、でも寝起きとかは牛乳入れたりしますけどね」
「そ、そう……?大人ね」
 言ってしまった。
 決して大人とか子供とか、コーヒーの砂糖一つでは決まらない筈なのだ。
 案外、私の前で少し大人ぶっているのかとも考えたのだがーーどうにもそんな様子は無い。
 黒々とした液体に躊躇無く口をつけ、苦さで表情を歪める事も無かった。
 確かに、普段から飲み慣れているのだろう。
 方や私はミルクと甘さの拡がるコーヒーを口に含み、ゆっくりと味わう。
 甘味の中にほんのり蝕んでくる苦味はーー敗北の味わいだ。
 通算の年齢でいえば私の半分に満たない後輩君に負けてーーもとい、決して負けてはいない理由をどうにか探している。
 特に言い訳が思い付かずにいると、カップの半ば程を飲み干した後輩君が口を開いた。
「遅いですね、テツ先輩と前垣さん」
「そうね……。
でも、迷子になってるだけなのかもしれないのだわ?」
 二人の身を案じる反面ーーせいぜいが深く進み過ぎて、明るくなるまで一夜を明かす事にしたのかもしれないのだ。
 そういえばーー別行動を提案した沙梨亜ちゃんも案外、敢えてそれを狙っての事なのかもしれない。
 私は杞憂に終わりそうな二人の現在状況を頭から逐いやった。
 後輩君も似たような事を思い浮かべたのかは分からないが、話題を変えようとする。
「二人のことはさておき、今後の方針でも固めておきましょう!」
「そうね……。
差し詰め、物資が続いている間に拠点を築くか、それとも……」
「人の居そうな場所を見付ける、とかですかね?」
 彼の言に私は頷いた。
 実際問題、此処が私の前世と同じ異世界なら、一応ながら人ーー人類と呼べる者達は居る。
 けれども彼らは、私達と同じような見た目の同じような人種かというとーー確かにそういう人種も居たが、私の知る限りで主流では無い。
 記憶にあるだけでも数十種もの数多の人類と呼べる種が存在している筈だから、一概に友好関係を結べば良いーーという話でも無かった。
 後輩君は少し悩んだ末、慎重な判断を下す。
「どちらにしても、ある程度生活を持続出来るだけの拠点が必要ですかね
食料に水、生活用水の確保に雨風を凌げるだけの住居、と、、」
「最低限それらは必要なのだわ……!」
 いくら異世界に来たがっていたとはいえ、私もサバイバル生活をずっと続けたいわけでは無かった。
 どちらかというと元居た世界のーー窮屈で閉塞感のある社会に嫌気が差したのが、理由として大きい。
〈ワルプルギスの集い〉の面々は多かれ少なかれ多少はそういう空気感を共有していたのだから、特に後輩君も疑問は無いのだろう。
「そうなると、まずは水ですね
確か、あっちの方に山が見えましたから、どこかに渓流があると思います
これだけ木がある場所ですしね!
水源を見付けるのは簡単だと思いますよ!きっと」
「そうね……!
明日からは水源の確保をひとまずの指針として、あとは……」
 そこで言葉を切った。
 初め、何かと思い目を凝らすーー。
 木々の梢に挟まれた何かが、向こうからこちらを覗いているように思えた。
 あの二人が戻ってきたのだろうかーー?
 ちょうど、後輩君の背後の方だ。
 焚き火の火に照らし出された顔が、高い位置から見下ろしている。
 ドクン、とーー肌から伝わる感覚が警鐘を鳴らした。
 テツヲか、それとも沙梨亜ちゃんーー?
 頭が急速に見た情報を整理しようとするが、疲れた身体は重い腰を上げようとしない。
 気付けば、梢の間に浮かんだ顔はスルスルとこちらに近付いていた。
 物音もせず、しかしーー私の表情に違和感を感じたらしい彼は振り返る。
 この時ーー私は声を上げなくてはならなかった。
 何てーー?
 逃げて、でも、走って、でもーー何でも良かった筈だ。
 それとも私が後輩君に覆い被さり、すぐさま手を引いて駆け出せればーー。
 咄嗟にそう考えるには、元居た世界のぬるま湯に浸かり過ぎていたのだ。
 そう、元居た世界ーー。
 そして、此処は今生の私が生まれ育った世界とは別の世界だ。
 それを確信し、判断をするのがーー遅過ぎる。
 身を翻した後輩君と、その横から払われるように迫ったのはーー。
 それを目撃する瞬間、私の口はようやく言葉を捻り出す。
「こ……。
……後輩君?」
 いつものように、そう呼んだ。
 この瞬間ですら彼の本名で呼べなかったのは、或いは自制心を効かせ過ぎていたのかもしれない。
 だから肝心な時に手足が動かず、口でさえ思うようにままならないのだ。
 後輩君ーーヒラト君の姿が、目の前から消えた。



次話、>>17

Re: 転移後即日死した後輩君を魔女先輩は甦らせたい!? ( No.17 )
日時: 2023/04/02 15:23
名前: htk (ID: OHC2KpRN)

1章〜〜第2幕、2話ーー副題(未定)



 私の目の前で払われたのは、〝極細の円錐状の何か〟ーー。
 とにかく細いーー。
 針の先端に向かうように細まるそれは、一度払われると地面に突き立てられた。
 足だーー。
 というよりも、それは多数の節足というものなのだろう。
 ほとんど物音を立てない関節が剥き出しになったような生き物は、そのーー私の知る、よく似た生物の頭部に当たる部分から人型を生やしていた。
 蜘蛛だ。
 体高はその人体部分と併せると、2メートルを超えるだろう。
 元居た世界でいう蜘蛛の頭部に代わり、人型の腰から上を生やしたその生き物はーー何かの説話で聞いた事があった。
 名前は思い出せないが、そのーー蜘蛛人間はピタリと動きを止め、こちらを窺っているような気配だ。
 視線を逸らせないーー。
 その多数の節足の一つで払い飛ばされた後輩君を目で追おうとするが、その瞬間に死が待っているのだとーー本能で理解出来てしまう。
 彼が心配だった。
 すぐにでもこの場を駆け出して、安否を確認したいーー。
 でも、それでも首一つ巡らせられない状況と、自身の不甲斐無さに焦燥感が募る。
 蜘蛛人間はその上体ーー薄衣を纏った身体の頂上には、顔が乗っていた。
 まるでマネキンのようなその肌ーー。
 陶器にも似た質感の表情がピクリと動き、口が開かれる。
「セレモニアーナ、カ?
……ニシテハ、プラーナ、ガ少シ小サイナ?」
 聞き取りにくいが、何か言われた。
 話しかけられた事に軽く驚くが、セレモニアーナーー?
 その単語に引っ掛かりを覚えつつも、私は蜘蛛人間を注意深く見詰めた。
 どちらかというと女性的な表情は、また聞き取りにくい声で続ける。
「……貴様ガドノ、セレモニアーナ、ノ差シ金カ知ラヌガ、我ノ領域ヲ犯シタ事、贄ト成ル事デ償ワセテヤロウ……!」
 言われた事を理解するのに、時間が掛かった。
 振り上げられた節足の一つで、相手の意図を悟った私ーー。
 本能的に通力を巡らせた身体が咄嗟に跳び退り、無様に転げる。
 後輩君はーー?
 立ち上がりながら首を動かすが、その目端にまた、追撃の節足が掠めてきた。
 速いーー。
 通力循環によって私の身体能力は普段の倍以上になっている筈なのだが、それでも回避するのがやっとだ。
 どうしようーー?
 後輩君の安否を確認しなくてはならないのに、視線を逸らす事も出来無いなんてーー。
 私は自分でもらしくない大声を上げる。
「後輩君……!?無事よね……!?
無事なら返……」
 そこで声を止めた。
 意識を逸らしたのが不味かったのだろう。
 私は木の一つを目端にし、そこでーー思わず、しまったと気付く。
 前方は枝に阻まれるように遮られていて、背後からの攻撃を躱し切れない。
 手には何も持っていないから、咄嗟にーー手近に落ちていた枯れ枝で受け止める。
 だがーー後輩君を払い飛ばした節足の一撃だ。
 軽々と吹き飛ばされた私は、木々の一つにぶち当たった。
「……ッう!?」
 背中をぶつけ、息が詰まる。
 咳き込みそうになるのを抑え、音も無く近付いてくる節足を目にした。
 見上げると、蜘蛛人間の上体だ。
 この時に至ってーー私はせめて、杖を手元に置いておけば良かったと後悔する。
 まだ試してないが前世の記憶を辿れば、何かしらの術式による応戦は出来たかもしれないのだ。
 私を追い詰めた蜘蛛人間が言う。
「……セレモニアーナ、程デハ無クトモ、プラーナ、ヲ宿ス生キ物ハ貴重ダ……。
連レ帰リ、我ガ生存ノ糧トシテヤロウ……!」
 言われ、節足が今度こそーー。
 木々の枝先に動きを制限された私に、逃げ場は無かった。
 振り上げられた針のような先端がこちらを狙い、反射的に目を閉じる。
 死ぬーー。
 呆気なさ過ぎて、笑みが浮かんだ。
 異世界に来てやりたい事が沢山あった筈なのに、何も浮かんでこない。
 日頃は無駄に考え過ぎる頭が、今はーー真っ白だ。
 身動ぎも出来無いそこへ、他方から駆け足が聞こえてきたーー気がした。
 金属同士がぶつかるような物々しい音と、その声ーー。
「逃げて下さいっ!」
 私に痛みを齎す筈だった節足を弾いたのは、術式で再現されていた剣だった。
 軽装姿の腰に差してあったものだろう。
 森で目の前を歩いていたーーその後ろ姿だ。
「後輩、君……?」
「逃げて下さいっ!早く!?
此処はおれが何とかしますから、、!」
 僅かに振り返らせたこめかみから、血が流れているように見えた。
 彼に言われるがままーー糸に手繰られでもしたように、背を向ける。
 後輩君の無事を確認出来た安堵と、死を目前にした緊張がーー私をおかしくさせていたのだろう。
 振り返る事も出来ずに、死から逃れようとする一心だけでーーその場から逃げ出していた。



 彼はナイトだ。
 日頃の馬鹿げた遣り取りでそれを自認し、本来ーー通算で倍の年齢である私をドギマギとさせ、ふとそう思わせるように普段から振舞ってきた。
 困ってる時は必ず手を差し伸べてくれたし、いつ如何なる時でも私の味方をしてくれてーーこれで感謝の念を抱かなければ、それはただの性悪女に他ならない。
 そこに別の感情が含まれたって、何の不思議も無いだろうーー?
 私はそれをーー。
「はぁハァ……」
 側の樹木に手を付き、気忙しい息を繰り返した。
 嫌な汗が流れてくるーー。
 ただ走って息が上がっただけでは無い、別の汗がーー。
 どうしようも無い悪寒に襲われた私は、冷静になってきた頭で自分が何をしていたのかを悟った。
「後輩君を……。
見捨てたの……?」
 違うーー。
 何故なのかあの瞬間は何も考えられなくて、言われるがままにただ逃げてきた。
 そう、私は逃げ出したのだーー。
 ただ我が身可愛さのあまり、日頃から自分を慕ってくれた後輩君を置き去りにして、あの蜘蛛人間へ差し出してしまったのだ。
 嫌な汗が全身を伝い、吹き出してくるーー。
 両手で掻き抱いた自分の身体が震えている事に、ようやく気付いた。
 早く戻らないといけないーー。
 あの場に早く戻って、後輩君の無事を確かめて、それでーー。
 どうしたら良いのだろうーー?
 彼の無事を確認して、もしーー。
 そこまで浮かべて、それ以上は考えられなかった。
 思考が前後不覚を起こしたように溢れ返り、頭の中で流れる嫌な想像ーー。
 普段から、気付けばいつも目で追っていた相手なのだ。
 まだそんな様子も、そうした状況を見たわけでも無いのにーー頭にこびり付いて離れない。
 後輩君のこめかみから流れていた血の色で、視界が染まっていくーー。
 そう錯覚してしまう程に、この時の私は動揺していた。
 そして、この後に及んで未だにーーこの場所から駆け出せずに居た。



次話、>>18

Re: 転移後即日死した後輩君を魔女先輩は甦らせたい!? ( No.18 )
日時: 2023/04/02 15:25
名前: htk (ID: OHC2KpRN)

1章〜〜第2幕、3話ーー副題(未定)



 予想に反して、そこに後輩君の姿は無かった。
 代わりに、こちらを案じた声が掛かってくる。
「アアン?遅かったじゃねェかァ、、?」
「、、遅刻ですよ?
それと、やりかけだったので適当に具材と味付け足しておきました
世話が焼けやがりますね、まったく、、」
 適当に腰掛け、既にくつろぐ風のテツヲと沙梨亜ちゃんだ。
 私はそれに応じようと思ったが、言葉が出てこないーー。
 何と言おうか迷うのも束の間、怪訝そうな顔をした沙梨亜ちゃんが気付く。
「、、顔蒼いですよ?
リン先輩、どーしたんです?」
「アアン?
、、ヒラトはどうしたァ?」
 異変に気付いた様子のテツヲも、鍋を突いていた箸を止めた。
 私の予想に反して居ない後輩君の事を、早く伝えないとーー。
「……あ、こ……後輩君は……?」
 それだけだ。
 思ったように口が動かず喉も掠れていて、私らしくない。
 いつもならーー大魔女と抜かしつつアレコレ出てくる筈の言葉も思考も、何も湧いてこなかった。
 焚かれた火に照らされた地面に、そこだけポタポタとーー雨が零れ落ちる。
 私の足元だ。
 それを見て、テツヲは油断の無さそうな目付きで訊ねてくる。
「何かあったのかァ、、?真島ァ」
「、、です?リン先輩」
 器を手に取り鍋をよそろうとしてた沙梨亜ちゃんも、手の動きを止めたままだった。
 嗚咽が込み上げてくるのが、自分ではどうしようも無い。
「ぅわ……私が、ひっク……。
……ぅ私のせいで、こゥ……後輩く、後輩君が……?!
どうしよ、どうしよう……?!」
 呂律が上手く回らない。
 早く状況を説明しないとーーと焦れば焦る程、変な声と一緒に涙が零れ落ちてくる。
 二人は顔を見合わせ、表情を険しくさせた。



「、、っつうコトはアラクネみてェなそのモンスターに襲われ、ヒラトのヤツは連れ去られたっつうコトだなァ?」
「、、ですね
だいたい、まだ何も分かってねーのに泣きベソかくのは早過ぎますよ?先輩」
 たどたどしく状況を説明したら、二人にそう言われた。
 連れ去られたーーと言われれば、その通りかもしれない。
 確かに、辺りに争った形跡はほとんど無かったのだから、あの後ーー此処で後輩君の身に何かが起きたとは考えにくかった。
 五体満足とも思いにくいが、二人の言い分は十分に整合性が取れていてーー混乱した私よりも余程冷静に見えた。
 沙梨亜ちゃんの手に握られていた感触が、私の手から離れる。
「、、モタモタしてる場合じゃねーです
行きますよ?」
「だなァ、、
、、オメェらが戻って来たらと思ってたんだが、早い方が良いよなァ?」
「、、です
テツ先輩、急ぎましょう」
 二人の遣り取りがよく分からない。
 私が訊ね返す間も無いまま、テツヲは話を進める。
「、、こっから先、単独行動は厳禁だァ!沙梨亜ァ!
それと真島ァ、、オメェもだ!イイなァ?」
「え……そ、そうね……?
でも何を……?」
 訊き返した。
 一刻も早く後輩君の行方を追いたいのは、二人から十分伝わってくる。
 でも、それにしたって手掛かりらしいものが何一つ無いのに、急過ぎるだろう。
 まだ平静さを取り戻したとは言い難いが、今の私にもそれぐらいは分かるのだ。
 テツヲは訊ね返した私に手短く答える。
「道中話す、、!付いて来いやァ!?二人共!」
「、、ふぅ
カチコミなんて久し振りですね
天ヶ嶺君を追いますよ!」
 既に気迫十分のテツヲと沙梨亜ちゃんに、こちらの反応は遅れる。
「え……?ど、何処に向かうって言うの……?!
まだ何の手掛かりすら……」
 二人は私の戸惑いに応じず忙しく準備を進め、再びーー円形断崖を離れた。



「マーキングだなァ、、?ありゃァ」
「、、ですね、テツ先輩」
 懐中電灯を手に、沙梨亜ちゃんが向こうを示した。
 辺りは既に暗く、よくよく目を凝らさないと見えてこない。
 何か、ぬらぬらと光るものーー。
 そういえば、後輩君と探索した時に見付けた、あのベトベトらしいものが照らし出されていた。
 ライトが向けられた箇所は私と彼が見付けたものとは別だが、道中ーーよく見ると所々に同じようなものがある。
「、、そこです、リン先輩」
「あ、うん……?そう……?
よく見えるわね……?沙梨亜ちゃん」
「、、ええ
これでも現代の祓魔衆の家筋ですので、一応」
「……祓魔衆?
聞いた事も無いのだわ……?」
 私が首を傾げていると、テツヲが言葉を引き継ぐ。
「アア、よくあんだろァ?
伊賀とか甲賀、風魔のどれかぐらい聞いた事あるよなァ?真島も
、、沙梨亜ァ、っつうよりか前垣家っつうのは今じゃヤーさんとそんな変わんねェが、本家本元に秘伝の一つ二つ眠ってるっつう説が昔からあるらしくてなァ?」
「ええと……つまり、現代の忍者?」
 そう言うと、沙梨亜ちゃんが表情をキリッとさせてくる。
「、、ダサい呼び方です!
祓魔衆ですよ?祓魔衆!
二度と間違えないで下さい!分かりましたね?」
「あ……分かったのだわ?」
 彼女の何かに触れてしまったらしい。
 危うく踏み込んではいけないラインのようだが、今はそれよりもーー後輩君だ。
「ええと、つまり……あのベトベトは蜘蛛人間のマーキングと見て間違い無いわけね?」
「、、です
そのマーキングを辿れば、いずれ天ヶ嶺君の元へ辿り着けると思います」
 沙梨亜ちゃんの言に、こくりと頷いた。
 先程から駆け通しで、少々ーー息が上がっている。
 前の二人は息一つ切らしてないのに、それに加えてよく見通しの悪い森中を走れるものだ。
 昼間ならまだしもーー今現在はとっくに暗くなっていて、特に運動神経に自信があるわけでも無い私が付いていくのには、少々苦労した。
 通力循環で身体能力が倍になっているのにも関わらずーーやはり、元々の身体のデキからして違うのだろう。
 沙梨亜ちゃんの意外な出自には驚いたが、それにも増してーー異様なのはテツヲだ。
 邪魔な枝先があればバキバキと手折っていく猛獣さながらの疾走は、後ろの私達二人の進路を確保した上で尚ーー余裕があるように見えた。
 彼らを見ていると結局ーー一番の足手纏いは私だったのかもしれない。
 そうした思いが念頭に浮かんでくるのを沈めて、夜の森を駆ける。
 テツヲがこれ程荒々しく猛進してるのに、その途次ーーまったく生き物らしい生き物の気配が無いのも、彼の推測が当たっているからなのだろう。
 此処があの蜘蛛人間の縄張りだというなら、普通ーーそれを知る生き物達は下手に近付いて来ないに違いない。
 それを指摘したテツヲは普段の印象に反して、頭が悪くないのを私達は知っている。
 蜘蛛人間が言っていた言葉ーー。
 当の化け物本人もそれらしい事を話していたような気がするから、ベトベトを目印に後を追うのは間違いでは無いのだ。
 私は前を行く二人に頼もしさを感じ、先を急いだ。



次話、>>19

Re: 転移後即日死した後輩君を魔女先輩は甦らせたい!? ( No.19 )
日時: 2023/04/02 15:30
名前: htk (ID: OHC2KpRN)

1章〜〜第2幕、4話ーー副題(未定)



「、、彼処です
、、洞窟があります」
「……みたいね」
 沙梨亜ちゃんの言に、私は頷いた。
 暗くて分かりにくいが、あの蜘蛛人間のマーキングらしいベトベトを掻い潜り、進んで来た先には岩肌があった。
 洞窟があるのは、その岩肌沿いだ。
 さして高くもない岩壁の横穴から明かりが漏れているのを見て、私達は此処に辿り着いたのだ。
 懐中電灯を仕舞いながら、沙梨亜ちゃんが言う。
「、、中
明かりが点いてますね、、?
見てきましょうか?」
「いんやァ、ダメだァ!
オレが行く!」
 何故か、先陣争いが始まった。
 あの明かりが漏れる洞窟の先に、後輩君が連れ去られたのだろうかーー?
 先程単独行動を禁じた筈のテツヲは、一歩も譲る気は無いらしい。
 後輩女子の前に立ち塞がり、仁王立ちしていた。
 それを見た沙梨亜ちゃんは、やや残念そうに言う。
「、、この手は使いたくありませんが
、、わたしとリン先輩は全軍突入に賭けますから、票数2対1でテツ先輩の要求は却下です!」
「何だァ?
ちッ、、なら仕方ねェ」
 私が沙梨亜ちゃんの言に頷いたのを見て、テツヲは言った。
 彼としては自分一人で後輩君を救出するつもりだったようだが、相手は得体の知れないあの蜘蛛人間なのだ。
 先程は追い詰められた私だったが、今は手元に長杖を握っているしーー沙梨亜ちゃんもその脇に、短刀を二本差している。
 むしろこの場合、素手のテツヲの方が客観的に見れば戦力として劣ると見る向きもあるかもしれないがーー。
 それでも、彼の恵まれた身体能力と強さを何となくなりに知っている身としては、このヤンキーが私達の中で最も戦闘に向いているのは疑いようがない。
 後輩女子に却下され、不承々々身を翻したテツヲが言う。
「ココでモタついても始まらねェ、、
、、行くぞォ!?沙梨亜、真島ァ!」
 呼ばれた沙梨亜ちゃんと私は頷き、気勢を吐く眼帯ヤンキーの後に続いた。



 洞窟の中は思ったよりも広い。
 人二人が並んで歩ける程度の幅があり、天井には角灯が取り提げられている。
 何を燃料に灯りを灯しているのかは分からないが、管のようなものが洞窟の壁中に埋まっているらしくて、そこから光源が供給されているようだった。
 だから歩くのにそれ程困りもせず、私達3人は洞窟の奥へと順調に進んだ。
 中に入る前ーー外の木々の枝先には所々蜘蛛の巣が張り巡らされていたのだが、中はそうでも無いらしい。
 先頭を歩くテツヲが言う。
「相手は蜘蛛人間、つったなァ?真島ァ、、」
「ええ……そうね
通力循環で身体能力が向上した私でも、軽々と追い詰められるぐらいには運動能力が高いのだわ……?」
「あんましアテになんねェなァ?ソレ、、」
 言われてしまった。
 確かに平素の私は常人以下の運動能力しか持ち合わせていない。
 だが、だからといったって通力循環で体内のプラーナを循環させればーーきっと、オリンピックに出場出来るぐらいの身体能力にはなるのだ。
 それをアテにならないと言った眼帯ヤンキーが、突然ーー膝をつく。
「おゥ?何だァ、、?」
 見ればテツヲの足元の地面が大きく沈み、どうにもそこは伸縮しているように思えた。
 例えるなら、トランポリンだろうかーー?
 普通の地面からゴムのように沈む場所に踏み込んでしまったらしい。
 それを確かめようと爪先を伸ばした沙梨亜ちゃんが言う。
「、、蜘蛛の巣
、、ですね、地中に棲んでる種類の」
「だなァ、、?確か、ジグモっつったかァ?」
 そう言ったテツヲは足を引っこ抜き、その足を元居た地面へと戻した。
 ジグモーーというのを私は名前までは知らなかったが、確かにそういう種類が居たのは覚えている。
 見ると此処から先の洞窟内の通路は、どうにもこの筒型の巣で出来ているらしい。
 よく見ると土や埃が粘着したような雰囲気で、これまでの地面と比べると全体的に軽そうなのだ。
 それを腰に差した短刀で突き刺した沙梨亜ちゃんが言う。
「、、巣の真下
、、多分、空洞ですね?
どーします?」
「つまり……此処から先、より広い空間の中に筒状の巣が張り巡らされていると考えて良さそうなのね……?」
 広い空間内を張り巡らされた筒状の巣が、四方八方へ伸びている様子を私は思い浮かべた。
 つまり、私達は今ーーこちら側の地面との区別は付けにくいが、筒型の巣を前にしているのだと考えられる。
 そこの地面に擬した巣を突き破れば、おそらくそれなりに広い空間に出るのだろう。
 高さがそれ程あるとは思えないが、このまま筒状巣の中を進むのは危険なのだろうかーー?
「そうね……。
この巣の中を進んでも足が取られて、そこを襲撃されるかもしれないのだわ?」
「アア、動きにきィのは勘弁してェなァ、、?
よっしゃ、飛び降りるかァ!」
 テツヲが膝を屈伸させながら言った。
 沙梨亜ちゃんはやや逡巡したものの、筒状巣に刃先を当てる。
「、、なら
、、切りますよ?テツ先輩」
「よし、やれェ!」
 言われ、沙梨亜ちゃんは二本の短刀を交互にさせた。
 あまりにも鮮やかな、複数回の斬撃ーー。
 筒状巣に網目が刻まれたかと思うと、千切れた巣が向こう側でダラリと力無く項垂れた。
 地面に擬していた巣のあったところへ視線を落とすと、そこはーー。
「広いわね……かなり」
 予想通り、広大な空間が広がっていた。
 此処から先の本来の地面は急斜になっていて、無数の筒状巣があちこちで張り巡らされているのが分かる。
 時々、その筒型の巣内をもぞもぞと動いているのは、蜘蛛なのだろうかーー?
「一匹じゃねェなァ?
其処彼処の巣、全部かァ、、?
蜘蛛の巣一つにつき、一匹ってトコだなァ?」
「、、ちっ
、、そーだとすると、形勢良くないですよ?
全部で30、いえ、、4、50はあるように見えやがりますね、、」
 つまりーー見えている範囲でも、あの蜘蛛人間かそれに類する生き物が4、50匹は居ると考えられるのだ。
 けれどもーー私はだからといって引き退るわけにはいかない。
 一度逃げ出して、二度までもーーとあっては、これまでの想いが嘘になる。
「私は行くのだわ……!
後輩君を奪われたまま帰るなんて以ての外……!言語道断よ!?」
「同感だァ!真島ァ、、!
後輩一人護れねェで、先輩風吹かしてられるかァ!?」
 気勢を吐いたテツヲは、後輩女子に振る。
「テメェはどうすんだァ?沙梨亜ァ、、」
「、、ちっ
、、行かねーとは一言も言ってねーですよ!?
勘違いしないで下さい!」
 言った沙梨亜ちゃんの表情を見て、眼帯ヤンキーは笑った。
 私達三人は頷き合い、急斜面を跳び降りる。
 是が非でも、後輩君を救けるのだ。
 私は先を行く二人に続き、広い空間内へと着地した。



次話、>>20

Re: 転移後即日死した後輩君を魔女先輩は甦らせたい!? ( No.20 )
日時: 2023/04/02 15:34
名前: htk (ID: OHC2KpRN)

1章〜〜第2幕、5話ーー副題(未定)



 筒型の巣が張り巡らされた空洞ーー。
 先程まであった角灯は見当たらず、真っ暗闇に近い。
 飛び降りて来た横穴から漏れる光で、辛うじて見える程度だ。
 ほとんど輪郭でしか分からない沙梨亜ちゃんが、もぞもぞと動く。
「、、暗いです
、、懐中電灯、何処かに、、」
「……待って?沙梨亜ちゃん
試したい事があるのよ?」
 言った私は長杖を構え、体外に漂うプラーナへと干渉する。
 これは通力解放ーーと呼ばれる技法で、前世の記憶の中にあったものだ。
「光術式……ええと?異世界原語で……?
いえ、術式で翻訳されている筈なのだから、呼び方は何でも良い筈なのだわ……?
光よ……!」
 言うと杖の玉が埋め込まれた先端を、異世界原語を示す文字の連なりが取り巻いた。
 単一の円陣が宙で形勢され、私の真上に光球が浮かび上がる。
「出来たのだわ……!」
「おォ!?魔法かァ、、!?
、、凄ェじゃねェかァ!真島ァ!」
 テツヲが感心した声を上げると、沙梨亜ちゃんが続ける。
「、、今更驚きはしませんが
急ぎましょう」
 言いながら、荷袋を探る手を止めた。
 懐中電灯が切れても、これなら暗い空洞内を歩けるだろう。
 私が沙梨亜ちゃんに頷き、テツヲは前を歩く。
 明るくなった其処を見上げると、かなりの広さだ。
 張り巡らされた筒状巣は所々にある横穴へと繋がっていて、私達が降りてきたのはその一つらしかった。
 筒型の巣の中では何かが蠢いているらしく、真下から見上げていると時折、何かが巣内を移動しているのが分かる。
 二人の後ろを歩きながら、私は言う。
「不気味ね……。
後輩君は何処に居るのかしら……?」
「さてなァ、、?
、、手掛かりは特に無ェが、アレじゃねェのかァ?」
 前方を指差したテツヲーー。
 彼の示した先には、幾多の筒状巣が繋がるコロニーとも呼ぶべきーー大掛かりな巣が見えた。
 これまで見た筒型の巣と違い、円形に近い。
 これは、どう判断すれば良いのだろうーー?
「あの中に蜘蛛人間が居る……と考えても良いのかもしれないわ?」
「、、なら
、、私が行って見てきましょうか?」
 言った沙梨亜ちゃんが、一番低い位置にある筒状巣へ跳躍した。
 ぶらんーーとぶら下がった後輩女子は、伸縮性のある巣の表面をよじ登っていく。
 それを見て、テツヲも別の巣へ取り掛かる。
「よっしゃ、此処だなァ?」
 それなりに高さのあるそこへ垂直跳びした彼は、いきなり真上付近で着地したらしい。
 分かってはいたが、驚異的な脚力だ。
 此処からだと、眼帯ヤンキーの姿は見えない。
 置いてけぼりになった私に、沙梨亜ちゃんから声が掛かる。
「、、リン先輩
ロープ要ります?」
「いえ……何とかなると思うわ?たぶん……」
 言い、再び杖を構える。
「土術式……!
我が身をかの元へ運べ……!」
 異世界言語に訳された言葉が、術式となって長杖を取り巻いた。
 文字の羅列はぐるりと私の足元へ移動すると、途端に盛り上がる。
 そこにあった地面は徐々に高さを増していき、テツヲや沙梨亜ちゃんと同じ目線の位置で止まった。
 やや片目を上げたテツヲが言う。
「何でもアリだなァ、、?」
「そうね……どうにも此処はプラーナが濃いらしいのよ?
通力解放による外気への干渉に際して、ほとんど抵抗が無いのだわ……?
……元居た世界とはまるで別ね」
 以前、実験の過程で色々と試した時は、此処まで容易く術式を行使出来た事が無かったのだ。
 仮にもしーー元居た世界で同程度の術を起動させるのなら、相当に面倒な幾つもの術式の連なりを必要とする。
 それは単一の円陣というよりも術法陣というべきもので、その規模が大きくなればなる程、扱いが難しかった。
 だから、あちらの元居た世界ではほとんど実証出来なかったという経緯があったのだがーー今はこうして、前世の記憶を頼りに術式を行使出来る。
 私はその土術式によって盛り上がった地面から、筒状巣の上へ跳び乗った。
 あの大きな円形の巣は、目と鼻の先だ。
 だが、そこでーー。
「アアン?どうしたァ?沙梨亜ァ、、」
「、、わたし、高い所が
、、いえ、何でもありません
これぐらいなら、、」
 首を振った後輩女子は、恐る恐るーーおっかなびっくりといった様子で足を踏み出す。
 そういえばあの円形断崖でも震えていたから、本当に高い所が苦手なのだろう。
 見ていて少々危うい気がしたものの、私達は筒状巣の中心ーー円形巣の上へと移動した。



「、、突入です
、、準備は良いですか?」
 沙梨亜ちゃんが言った。
 二本の短刀を手に、いつでも足元の円形巣を切り刻める構えだ。
 この真下に、後輩君が居るのかもしれないーー。
ーーその可能性がある限り、行かないという選択肢は無かった。
 私は沙梨亜ちゃんにこくりと頷き、テツヲが催促する。
「よっしゃ、やれェ!沙梨亜ァ!」
「、、では
、、転げ落ちないで下さいね?二人共、、!」
 左右に短刀を手にした後輩女子が、先程のように交互の斬撃を繰り出した。
 網目のように刻まれたそこに、飛び降りられる程度の縦穴が出来上がる。
 先に飛び込むのは、テツヲだ。
「先陣は俺が貰ったァ!」
「行くのだわ……!沙梨亜ちゃんも大丈夫ね!?」
 言い、後輩女子がこくりと頷いたのを確認して、私も飛び込む。
 落下中耳に忍んできたのは、上で深呼吸する声だ。
「、、ふぅ
、、やれねーわけねーですよ!?」
 気勢を吐いた沙梨亜ちゃんも、意気込んで飛び込んでくる。
 着地際ーー足元から僅かに振動が伝わるが、飛んだり跳ねたりする感触では無い。
 地面だ。
 何処からか運ばれてきた土塊が詰められているらしく、予想とは違った。
 足場が安定しているなら、それは私達にとって好材料だろう。
 そして、私の光術式によって照らされた巣内はーー。
「、、繭
、、ですか?」
「みてェだなァ、、?」
 内部の円周沿いを見渡した二人が言った。
 養蚕で見るような、あの繭だ。
 ただ、その繭はそれなりに大きなもので、内部の壁際でずらりと並んでいた。
 あの蜘蛛人間の幼体が居る、と考えるのが妥当なのだろうかーー?
 他方、天井や横壁を見渡すと筒型の巣内へと続く横穴が幾つも点在している。
 筒状巣の中で蠢いていたものが何なのか未だに分からないが、そこへ繋がっていそうな幾つもの穴は警戒しておいた方が良いかもしれないーー。
 そうした考えを浮かべていると、上の方でカサカサと物音がした。
 案の定ーーというべきなのだろう。
 巣内を荒らす侵入者に、敵はようやく気付いたのだ。
 筒状巣へと繋がる幾つもの横穴ーー。
 そこには、顔、顔、顔ーー幾つもの人の顔がこちらを覗き込んでいた。



次話、>>21


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