ダーク・ファンタジー小説

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転移後即日死した後輩君を魔女先輩は甦らせたい!?
日時: 2023/04/02 16:04
名前: 天麩羅 (ID: OHC2KpRN)

1話目〜25話目>>1-25部分を改稿しました
内容事態に大きな変更は無いので、読者様が再度お読み頂く必要は特にありません
新しい話は当分先になると思います

内容は概ねタイトル通りです
一応タイトル回収は出来たので、あとは魔女先輩が後輩君を甦らせたくてアレコレしながら異世界を旅する話になると思います

飽きっぽい作者はファジーの方でもう一作品掲載させて頂いております
なので、どちらかの更新、若しくは両方の更新が無い時は書き溜めに忙しくしているか、何か別の理由で筆が進まなくなっているとお考え下さい

あと、名前変えました(天麩羅→htk)
途中、打ち間違いでhtkのつもりがhtsになっていますが気にしないで下さい

12、13話についての補足ですが、途中出てくるモノクルの数値は適当です
後で変更する可能性が大いにありますので、気にせず読み飛ばしちゃって下さい

タイトル回収出来たので、ひとまずは一区切りとなります
作者はそろそろ他の小説を書きたくなってきたので、暫く更新は止まるかもしれません
また魔女先輩とその友人達を書きたい欲が湧いてきたら、いずれ書きます
何となく打ち切りっぽい終わり方ですが、今後この作品がどうなるかは作者にも分かりません

※ベリー様に当作の略称を付けて頂きました
『魔女甦』←まじょよみ、と読みます



以下、主要キャラ〜〜

・真島リン
魔女先輩。異世界の記憶を前世に持つ自称大魔女だが、その記憶は朧気。
決して厨二病では無い。

・天ヶ嶺開人
後輩君でリンの想い人。互いに想いを寄せる相手、リン先輩の目の前で……?
たぶん厨二病では無い。

・鳥居ひよ子
リンの親友にしてオヤジ女子。リン達を異世界へ見送り、研究者を目指す。
厨二病を超えたナニカ……?

・迦具土テツヲ
眼帯ヤンキーでひよ子とは幼馴染み。あらゆるオタク道を邁進する猛者。
厨二病と呼んではいけない。

・前垣沙梨亜
後輩女子。現代に続く祓魔衆の家筋出身だが、テツヲに想いを寄せている?
厨二病を恥とも思わないつもり。



以下、目次〜〜

1話目〜6話目、プロローグ〜序幕>>1-6
7話目〜15話目、1章〜第1幕>>7-15
16話目、>>16
17話目、>>17
18話目、>>18
19話目、>>19
20話目、>>20
21話目、>>21
22話目、>>22
23話目、>>23
24話目、>>24
25話目、>>25

Re: 魔女先輩は転移後即日死した後輩君を甦らせたい!? ( No.1 )
日時: 2023/03/23 16:54
名前: 天麩羅 (ID: F69kHN5O)

プロローグ〜〜序話ーー副題(未定)



 呆気なかった。
 向かいの恐怖が張り付いた表情を見て、ゆっくりと首を巡らせる。
 背後に気配を感じて、振り返った直後だ。
 重く叩きつけられる、側面からの一撃ーー。
 目端に何かを確認した瞬間、おれの意識は混濁した。
 視界がぐるぐると錐揉んだのを目線で追って、先程まで正面にしていた顔が驚きに目を丸くする。
 パラパラ漫画みたいだ。
 恐怖から驚愕、そして絶望へと変わっていくその表情ーー。
 ぐるぐると何度もその顔が映し出されて、徐々に顔色が塗り変えられていく。
 それを見てるだけなのは、正直ーー居た堪れない。
 あれーー?
 おれ、この人の為に異世界に来たんじゃ無かったっけーー?
 混濁する頭からどうにかひり出した思考だが、確かそうだった。
 この、現実では痛々しいまでに常人と一線を画する、人呼んで魔女先輩ーー。
 おれはその通称に良くない噂が込められていたのを知りつつも、だからこそ彼女に近付いた。
 そこに、野次馬根性にも似た軽薄な考えがあったのは否定出来ない。
 八波羅高校二年生にして校内一の異物であり、侮蔑と畏怖の対象ーー。
 矛盾する二つの意味を同時に含有する魔女先輩に、最初ーーおれは興味がそそられた。
 学校の屋上を不法占拠して日夜怪しい活動に邁進していた彼女は、校内非公認の闇サークルを設立した創立メンバーでもあった。
 ツバ付きの三角帽子を被り、ローブを身に付けた姿はまさに異世界の魔女ーー。
 さしずめ、そんな彼女に誘われたおれは興味本位のまま闇サークルの活動に加わり、それがいつの間にかーーただの好奇心とは別の感情を抱くようになっていた。
 いつからだったかは覚えてないーー。
 魔女先輩の使い魔もとい、ナイトを気取っていて心地良さを感じ始めたのはーー。
 怪しげな活動にのめり込んでいったおれは、闇サークルの目的ーー異世界転移という馬鹿げた話に乗った。
 奇怪な喚術陣やら、よく分からない成分のインクで描かれた奇妙な文字列は何の功を奏したのか、〝此処〟に来る直前ーー。
 学校の屋上でぐるりと円形に配された文字列は少なくとも、彼女の悲願を達成したとーー今なら言える。
 おれ他、複数名のサークル員達は始め、それが単なる転移じゃないかと疑った。
 学校の屋上から、見知らぬ場所へーー。
 これが事実ならそれだけでも十分な快挙だったが、その時はまだ、此処が異世界である保証はまったく無かった。
 それぞれが別行動で異世界らしいものを見付けてくるまでに小一時間ーー。
 おれは〝此処〟が少なくとも元居た世界とはまるで異なる場所であると、身を以って示す事となった。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


「こ……。
……後輩君?」
 そう、いつものように彼を呼んだつもり。
 本当は下の名前で呼んだ方が良いのか、でも今更改まってそう呼ぶのも違和感あるしーー。
 なんて考えてたのが最近の悩みだった。
 小さく呼び掛けた私の声に、視界から居なくなった彼からの反応は無い。
 喉から出た響きが空気を震わせていない事に気付いたのは、さっきまで居た後輩君が目の前から居なくなったーーその直後だった。
 普段なら、彼の姿を視線で追っていただろう。
 最近の私は少々ながら、これがーー少々どころではないぐらいに後輩君の姿を無意識の内に探していて、例えば朝早くから登校中の学生服の中を眺めていたりする。
 運良く中肉中背のやや寝癖がかった後ろ頭を見て、にっこり微笑んでいるぐらいには重症だ。
 それを数少ない同性の友人に見られて根掘り葉掘り聞かれるのが分かっていても、その時ばかりは忘れているのだから仕方無い。
 しかし今日は生憎と、別の事で頭がいっぱいだった。
 そう、校内非公認ながら異世界への様々なアプローチ及び、異なる世界への到達を目的とする我が〈ワルプルギスの集い〉にとって、本日は記念すべき日ーー。
 今日この日を以って、この現世をオサラバする日なのだ。
 だからーーいつにも増して背後への警戒が無さ過ぎたのは、計画で頭がいっぱいになっていたからに他ならない。
 脇を伝ってそのままもにゅーー。
 とでも擬音で表現される胸部の膨らみに手を伸ばしてきたのは、真後ろからの魔の手だった。
 耳元にはいつものように私を揶揄う、女子生徒の声ーー。
「今日も隙だらけだね〜?うへへ〜
いや〜、堪能堪能!」
「あなたねぇ……?」
 肘で後ろの顔を押しやった私は振り返る。
 茶髪の中に金のアクセントを塗した髪色の女子は油断のならない目付きで、人の胸を遠慮無く見詰めていた。
それと、その隣には見るからに凶悪そうな長身の男子生徒ーー。
「朝っぱらからイチャついてんじゃねェよ、真島ァ、、
この駄肉がァ」
 よもや言う人次第では、セクハラ発言だ。
 如何にもなヤンキー口調でいながら顔を背ける彼は、目の保養にすら値しないとでも言いたいのだろうかーー?
 見掛けに寄らず紳士な態度だが、ある一点だけはその風貌を大きく裏切っている。
 中二病ーー。
 それは中高生達にとって触れてはならない禁断の第一指定ワードであり、彼の右目にもそれを象徴する物体が存在感を放っていた。
 同好の志達がこよなく愛する、そうーー眼帯だ。
 しかし中二病ーーと彼を罵ってはいけない事は、我が校の生徒のみならず近隣の学生達でさえ知っている。
 そして、その最悪の不良と双璧を成す、八波羅の〈フィクサー〉にして〈気狂い女帝〉ことーー。
「うへへ〜、いや〜?
今日もイイ揉み心地でしたな!眼福眼福」
 そう言ったのは、数少ない同性の友人でありながらもその特権を存分に堪能するオヤジ女子だった。
 因みに私の胸部の膨らみがいつの間に彼女の占有になったのかは、私自身も知らないーー。
 オヤジ女子はニヤけた表情のまま、向こう一点を指差す。
「イイのかな〜、リン〜?
彼、行っちゃうよ?」
「え……?
べ……!?別に打ち合わせならお昼にでもすれば良いじゃない!?
……とは言ってもあとは最後確認だけだし?
出来る準備は全てしてきたつもりなのだわ!?」
 危うく素が出掛けたが、どうにかその場を取り繕った。
 普段から学生服に身を包んでいるのは世を忍ぶ仮の姿ーー。
 異世界の記憶を持ち、遥かな次元を隔てた遠き現代へ転生してきた魔女ーー。
 それが今生の名前である真島リンこと、不世出の大魔女たる私だった。



次話、>>2

Re: 魔女先輩は転移後即日死した後輩君を甦らせたい!? ( No.2 )
日時: 2023/03/23 16:57
名前: 天麩羅 (ID: F69kHN5O)

プロローグ〜〜序幕、1話ーー副題(未定)



 いつもと同じ、退屈な授業ーー。
 結局、後輩君に声を掛けなかった私は同じクラスのあの二人がいつの間にか居なくなったのを確認した。
 どうせまた、屋上でサボりだろう。
 異世界に転移する最後の日ぐらい、授業を受ければいいのにーー。
 そう思いつつの私は意外にも、今日この日までの出席数はコンプリートしていた。
 本日のお日柄は秋も深まる、二学期の半ば頃だ。
 文化祭も終え、紅葉も粗方散る季節だった。
 外来語の先生が耳に馴染まない言語をペラペラと流暢に喋っているのだがーー下らない。
 欠伸を噛み殺したような声が、他生徒達の口から聞こえてくるのは文化的な軋轢から生じた、せめてもの抵抗と見做すのは穿ち過ぎなのだろうかーー?
 幼少から慣れ親しんだ母国語に加え、いきなり中等部から外来語を学ぶ事に対しての違和感を感じてから、そのまま今日まできてしまっているのだろう。
 耳に馴染まない言語に慣れようと最初から聞き耳を立てていたかどうかーー。
 それが運命の分かれ道だった。
 何となく気取っている気がして、流暢に喋るのが鼻につくーー。
 そう思ってしまった私が授業についていけてないのも、ある意味必然だったのだろう。
 何せ、こちとら異世界の記憶を持つ身の上だ。
 異なる言語を覚えるのに幼少の頃は必死に聞き耳を立てていた。
 幼児の頭というのは学習能力の権化らしく、一度や二度聞いただけでこの世界の言葉を覚えられたりするが、ここにきてーー。
 これはもう数年前の話になるが外来語の授業だ。
 はっきり言って、少々やってられないとは私も常々感じていた。
 カルチャーギャップというやつだろう。
 こんなどうでも良い外来語を覚えたとしても、いざ本場で流暢な会話となると馬の耳に念仏に違いない。
 これはペンですーーなんて普通は言わない筈だし、きっとおノボリさんが本場で覚えたての言葉を使ってみたかったとしか思われないだろう。
 もしかしたら外来語でそれを言う機会はあるのかもしれないが、はっきり言って人生でそんな場面が訪れるのかは疑わしい。
 必然、小学生の頃までは100点だったテストの点数も見る見る下がっていった。
 それまでこなせていた課題が満足にこなせないと知るに至り、同時に勉学への熱意も喪われていくーー。
 そう、よくある話なのだ。
 そこに至るまで私はこの耳馴れない言語の世界に馴染もうと努力し、ある程度は自分でも満足のいく結果を打ち出していた。
 ところがーー中等部に入るなり、裏切りの連続だ。
 先に挙げた外来語の件もそうだし、小学生までの自由闊達とした関係性が上下を意識したものとなって、先輩後輩と呼び分けられるのが当たり前になっていくーー。
 大人になる為の準備だと、賢しげな大人達は言うのだろう。
 しかし私にとっては、異世界の記憶から続いての二度目なのだ。
 突然ハシゴを外されたような気がして、周囲に順応する気は無くなってしまった。
 半グレというやつなのだろう。
 別にあの二人のような不良では無いし、かといって周囲と仲良く同調出来る程大人でも無い。
 だから私は、記憶の中にある異世界を探求した。
 既に中等部もとっくに終え、高等部に入ってからの前世の記憶は曖昧なものとなりつつあったが、それでもーーある程度の成果を生み出す事は出来た。
 喚術陣と、異世界原語ーー。
 記憶の中の異なる世界とそっくり同じものかは分からなくても、数年の研鑽を経た私の研究成果はこの退屈な世界に新しい彩りを齎した。
 勿論、仲間内だけでの話だ。
 これを公表したら、頭のおかしい人として世間から後ろ指を指されるかもしれないとも思えたがーーこの世には、少々おかしな人達が山程居る。
 魔女を意識した三角帽子を校内で常に着用する私を始め、教室内を見渡せばーー何人か怪しい授業態度の生徒達が居た。
 所謂、オタクとカテゴライズされる人達だ。
 ヘッドホンで何かの曲を聴きながら黒板をノートに写す男子が居れば、ぐるぐる眼鏡で怪しげな文庫本を読み耽る女子生徒も居る。
 他所の高校の事はよく知らないのだが、少々変わった授業風景なのは間違いない。
 これには些か事情があって、我が八波羅の〈フィクサー〉ことーーあの友人が色々と陰で働きかけた影響が大きいともいわれていた。
 どんな手段を使ったのかは分からないのだが、相棒の眼帯ヤンキーが幅を利かせているのを背景に、犯罪スレスレの際どい交渉力を発揮したに違いない。
 つまり、私がこの八波羅高校を隠れ蓑にするのには都合の良い環境が出来上がっていたのだ。
 普段は何かと不必要なボディタッチの多い〈気狂い女帝〉でもあるのだが、それ以外の点に関しては私のみならず、彼女に感謝している生徒も多いだろう。
 そんな彼女を友人に持つ私は一介のオタクを装った現代の魔女として、校内に闇サークルを創設したのが去年ーー高校一年生の時の出来事だった。
 そして、時は現在に至り、今日ーー。
 一学期に勧誘した後輩君達の尽力もあって、本日異世界転移する。
 そんな計画を頭の中で思い浮かべている内に、お昼休みになった。



 屋上だ。
 ペントハウスを背にだらしなく背を凭れているのは、肩で制服の上着を着る二年生ーー。
 眼帯ヤンキーこと、近隣の不良達を震え上がらせる〈隻眼悪鬼〉ーー迦具土テツヲだろう。
 此処は元々先代のーーもはや死語と呼んでも良さそうな番長からテツヲが一年生の時に奪った場所らしく、生徒ばかりか彼の威名を恐れた教師達も近付いてこない。
 だから、闇のサークルの活動拠点としては打って付けの場所だといえる。
 既に昨日描いた喚術陣は屋上目いっぱいに布かれていて、その内側から円が幾つも連ねられた合間ーー円と円の間に、弧をなぞるように異世界原語が並んでいた。
 起動の時を待ち侘びる円陣ーー日差しで乾いたそのインクから、私は他方へと視線を向ける。
 屋上の端の方でシートが敷いてあるのは〈フィクサー〉にしてオヤジ女子こと、鳥居ひよ子の固有スペースだろう。
 今日持ち込んだ漫画らしいのが重ねられていて、開けっ放しの袋が既に三つーー散らかされている。
 けれども、当の本人は見当たらない。
 袋の中の菓子本体は既に空のようだから、近くのコンビニにでも補充に行ったのだろう。
 ちょうどお昼時だし、いつもと変わらない。
 私が屋上の扉を開けたのに気付いたのかどうか、テツヲの横顔はこちら側が眼帯で窺えなかった。
 後輩君達は、まだ来ていない。
 そう思った直後ーー。
 後ろから、階段を昇る足音が聴こえてくる。
 彼だ。
「あ、リン先輩!
おそようございます」
 礼儀正しく挨拶してくる後輩君に続き、後ろの女子生徒が続く。
「、、おそよーです
お菓子余ってます?」
小柄ながらに堂々とシートに直行したのは、後輩君と同じクラスのーー。
「中身は空ね……沙梨亜ちゃん」
「、、ちっ
使えねー先輩ですね、約1名」
 彼女が揶揄したのは此処に居ないもう一人、私の友人のひよ子だろう。
 一学年上の彼女を憚らない後輩女子、前垣沙梨亜ーー。
 後輩君と同じクラスで、ぱっと見はお淑やかそうにも見える女の子だった。
 サラサラとした髪の毛は艶やかに光を照り返してくる黒で、そこらの燻んだ黒とは格が違う。
 薄く目立たないように化粧をした顔は素材そのものが一級品だ。
 だから、時々口から出てくる毒がその容姿に相反してタマラナイーーらしかった。
 曰く、男子達の口からヒソヒソと聞こえてくる品評にして、校内の闇の番付けでもある。
 一学期の内に同級生の男子半数が撃沈したとも噂され、それは私と同じ二年生男子も例外では無い。
 さすがにその想いを告げた人数は誇張としても、女子の私から見てもたまにドキリとする女の子だった。
 それからーー。
「いよいよ今日ですね、先輩
緊張するなぁ」
「そ、そうね……。
ヒ、ヒラ……後輩君」
 ヒラト君、と呼ぼうとした。
 天ヶ嶺開人ーーそれが、ここ最近私を狂おしく悩ませる後輩君の本名だった。



次話、>>3

Re: 魔女先輩は転移後即日死した後輩君を甦らせたい!? ( No.3 )
日時: 2023/03/23 17:01
名前: 天麩羅 (ID: F69kHN5O)

プロローグ〜〜序幕、2話ーー副題(未定)



 ヒラト君、ひらと君、開人君ーー。
 頭の中が妄念で満たされた。
 私が後輩君を下の名前で呼べないのは、一重に悪しき慣習のせいに違いない。
 やれ先輩だ後輩だ、と横の繋がりだけで済んでいたものをわざわざ上下にまで及ぼして、まさに陰謀といっても言い過ぎでは無いだろう。
 ヒラト君ーー後輩君は若干浮いた寝癖を気にしたように頭を掻いて、やはり直らない事に思い至ったらしい。
 癖っ毛なのだろう。
 酷い日は何となく鳥の巣を思わせる頭を諦めて、昨日描いた喚術陣を見渡している。
「あはは、本格的ですね
かなり」
「ま……まあね?
……こんなナリでも生前は終期末の魔女の名を謳われし大魔女なのだから、当然なのだわ!」
 そう、私はこの世界に至る以前の前世では、魔女の名を冠するに相応しい程の術法を使い熟した大魔女なのは、先に述べた通りだ。
 勿論、単なる脳内設定では無い。
 本当は少し自分でも疑っていた時期があったが、この喚術陣の効力はここ数年の間にしっかりと確かめている。
 つまり、生まれた時からあった不可解な記憶が、ある程度現実と符号するかどうかの確認作業でもあったのだ。
 その証拠になるのが以前の実験で、それぞれ別の地点同士を繋いだ喚術陣が、互いに物体を飛ばせるかどうかの試みを試行してみた事があったのだがーー。
 それらの実験は全て一定の成功を納めた事を少なくとも、〈ワルプルギスの集い〉の面々は知っている。
 だから、彼らは本日ーー私と共に異世界へ転移するのだ。
 それぞれがそれぞれの理由でーー。
 私が思考に耽っていると、ペントハウスの壁際から声が聞こえてくる。
「、、起きて下さい
テツ先輩」
 爪先で眼帯ヤンキーを突ついているのは、沙梨亜ちゃんだ。
 彼女は手提げから弁当箱を二つ取り出し、それが当然であるかのように置いた。
 今の今まで寝ていた声が、ようやく反応する。
「アア、、?沙里亜かァ?
今日は何だァ?」
「、、卵焼きとひじき、それから朝早く丹精込めて作った唐揚げと彩りにプチトマトです
感謝して食べるがいいですよ?」
「アア、済まねェな、、」
 そう言ったテツヲは、ガツガツと弁当に手を付けた。
 朝から何も食べていないのだろう。
 会話の端々から聞こえてくる彼の家庭環境は少し聞いただけでも劣悪なものだからーーそれを知るとほっこりする事この上ない情景だ。
 決してリア充爆発しろ、だなんて思ってはいけないーー。
 何となくモヤモヤしてる私の肩を、後輩君が叩く。
「先輩、例のブツがここに」
「抜かりは無いわね?」
 そう問い掛けた私に差し出されたのは素っ気ない購買用の袋に包まれた、丸い形状の食べ物だ。
 後輩君はそれを恭しく差し出し、先の問いに応える。
「勿論です!
おれ達もお昼にしましょう」
 ナイト様を自認するだけあった。
 これは別にせっかくだから自分もーーというノリでこちらに付き合ってくれているだけで、まさか本気では無いのだろう。
 それでも彼はそっと手を差し伸べ、恭しく頭を下げてくる。
 せっかくだからと彼が購買で手に入れたメロンパンを片手に持ち、他方の手を差し出した。
 なんか、後輩君が私だけを見てくれているみたいでドキドキしてくる。
 勿論、そんな事は有り得ないと分かっていても、通算30歳超えの私をこうまで翻弄するのだからーー。
 はっきり言って将来が少し心配だ。
 ほわほわとリードされつつ私は、気付けばひよ子の固有スペースであるシートの上に座っていた。
 本人が居ないのだから、別に良いだろう。
 いつも忘れかけるが、そういえばーーと小銭を出し、後輩君に手渡す。
「はい……いつも悪いわね?」
「いえいえ、ご用命とあらばいつ如何なる時にでも
先輩の頼みですからね」
 そうなのだ。
 学校の一階は一年生ーーと何故か創業以来からの決まりがあるらしく、二年生の教室は当然のように二階だ。
 つまり、二階から買いに行って屋上に行くよりも、一階から直行出来る彼に行って貰った方が早い。
 ましてや競争率の高いメロンパンだ。
 私の足で二階から購買へ向かっても、買えるかどうかは五分々々だろう。
 二年生になってなかなかメロンパンを食べられなくなったといつだか不満を漏らしてからは、彼が買い出しに走るようになった。
 一学期の頃の出来事だ。
 後輩君はそつなく袋から牛乳を取り出し、こちらに差し出してくる。
「ありがとう
……褒めて仕すのだわ!」
「ははっ、有難き幸せ!」
 こうした言動にも反応してくれるあたり、付き合いは良いのだろう。
 にこやかに笑みを交わしつつ、お昼を頂いた。



「……ひよ子がまだ来ないけど、最後確認ね?
ここに布いた喚術陣はこれまでとは一線を画するものよ?
それでおさらいだけど……。
ちょうど満月の夜に相互転移の術式を刻んだにも関わらず、先月の実験では裏山頂上への物体の転移は起きなかったわ……」
「っつうことはつまり、、
オレのウルトラ仮面フィギュアは異世界に行った可能性が高ェってこったな?
イイじゃねェか!」
 嬉しそうに言ったのはテツヲだ。
 彼は見掛けに寄らずというべきかーーその厨二じみた眼帯にそぐわずというべきなのかはともかく、多岐なオタク道を邁進している。
 ゲームや漫画、アニメはいうに及ばず、人気ロボットのガソタンや実年齢がまだ達してない筈のRと付くジャンルのいかがわしいゲームやら、果ては戦国武将等々ーーさしもの私もレパートリーの多さには舌を捲く。
 その甲斐もあってかこの街で彼はオタクの血脈を護りし〈隻眼悪鬼〉との評判を轟かせ、その辺の不良との長き抗争に明け暮れたのは去年の話だ。
 今では底辺の陰気なオタク達も大手を振って商店街を出歩けるようになり、一部からは街の若き英雄とまで目される人物なのである。
 私も何を言っているのか分からなくなりそうだが、そういう人だ。
 だからこそ彼のウルトラ仮面フィギュアが先月の実験で異世界に紛失したのを気に病んでいたとも思えたが、実は違ったらしい。
「これでウルトラ仮面もいよいよ異世界進出だなァ!
、、今頃はガキ共のヒーローごっこが白熱してるに違ェねェぜ!
な!ヒラト」
「は、はい?
そうですね?テツヲさん」
 力関係が推し量れる遣り取りだ。
 とりあえず頷いてみせたは良いものの、ヒーローごっこが後輩君の琴線に触れなかった様子が何となく分かる。
 はーー!?
 もしかしてこれって以心伝心ーー!?
 私はいつの間にか熟年夫婦でしか成せないスキルを身に付けたのかも、とも思ったがーー。
「あ、でも小さい頃は戦隊ごっことかやりましたよ?
北条戦隊八幡ジャーとか懐かしいですよね!」
「おォ!あれ見てたのかァ!
いやァ、舞台が戦国時代をモチーフにしてるっつうのも異色なんだよなァ!?
それにも増して異例なのがそれまで固定化されてた戦隊カラーを破った、、」
「そうそう、8色ですよ!8色!
関東連合に対して甲越同盟が成立した時の絶望感ときたら、、
あれでそれまでスポットが当たらなかった茶色にも活躍の場が出来ましたからね」
「おォ!?そうだったそうだった!
、、茶色が両面作戦の上杉勢をたった一人で足止めするトコとか胸熱だったよなァ」
 私の勘違いを他所に、何やら熱く語り合っていた。
 なんか、悔しいーー!?
 キリキリと歯軋りしそうなのを堪えた私の耳に、後輩女子の声が響く。
「、、どーでも良いです
そんなことより先輩、早く確認を」
「え……?そ、そうね
それでなんだけど……」
 続けようとしたら背後に、なんか圧がかかってきた。
 正確には私越しの沙梨亜ちゃんに、だ。
「アアン!?沙梨亜、てめェ、、
八幡ジャーがどうでもイイたァ、随分な了見だなァ?」
「、、っち
これだからミーハーは嫌なんですよ?」
 何故か、さっきまで恋人一歩手前の趣きを醸していた二人が険悪だった。



次話、>>4

Re: 魔女先輩は転移後即日死した後輩君を甦らせたい!? ( No.4 )
日時: 2023/03/23 17:06
名前: 天麩羅 (ID: F69kHN5O)

プロローグ〜〜序幕、3話ーー副題(未定)



 後輩女子が、キリッと目線を上げる。
「、、良いですか?
そもそも戦隊ものは5色と相場が決まっているのに8色とは、あまりに人数が多過ぎます
ただでさえ色の格差が酷いシリーズもあるのに8色ですよ!?
白、黒はまだ分かりますが何ですか?茶色って、、?
他のカラーが八幡イエローだ八幡レッドだ名乗るのに、茶色だけ八幡茶色ですよ!?そのまんま茶色!舐めてやがりますよね!?
名乗りに統一感がありませんし、ファンの間では未だに茶色の相応しい名乗りを語るスレが某掲示板で建つ程です
、、知っていますか?
八幡茶色の名乗り案がその後、どういった経過を辿ったのかを、、」
 言葉数の多さに、周囲は無言だった。
 なんだかこの娘、少し怖くないーー?
 怒りの圧を放っていたテツヲも黙り込み、無言で沙梨亜ちゃんの発言を促している。
「、、さすがのテツ先輩でも知らないみたいですね
八幡茶色の名乗り案はその後、10年近くに渡って掲示板を紛糾させました
八幡ゴボウだ八幡コーラだ八幡シロップだと様々な案が生まれては消え、消えてはまた生まれました、、」
 聴き手を引き付ける才能でもあるのか、私達は彼女の声に聞き入っていた。
 何か思うところでもあるのか、物憂げに沙梨亜ちゃんは続ける。
「、、実を言うとわたしも某掲示板に書き込み、どうにかならないかと議論に加わったんです
、、ですが、結局力は及びませんでした、、」
「沙梨亜、おめェ、、」
 彼女の心情に触れたのだろう。
 ここまで詳しいのだから、生半可なファンではない。
 テツヲは済まなそうな顔をし、そっと顔を背けた。
 それに気付いてか気付かずにか、後輩女子は小さく呟く。
「、、八幡う〇こ
、、う〇こですよ!?う〇こ!分かります!?
どうにか掲示板の流れを変えようとしたわたしはその後も渾身の名乗り案、、
、、八幡アースを提唱し続けたんです!
でも、それでも時勢の流れは変えられませんでした、、
一度スレ民の頭にこびり付いた印象は変えようが無かったんですよ!?
八幡う〇こ、、最悪です、、」
 そう言って、彼女は膝から崩れ落ちた。
 何この茶番ーー。
 そう思ってはいけない。
 これが彼女達のオタク道であり、推しに対する一途な想いなのだからーー。
 頽れた沙梨亜ちゃんの肩に、テツヲはそっと手を置く。
「茶色は悪かねェ、、
一番悪ィのは半端な構想で見切り発車した制作スタッフだ、、」
「、、テツ先輩、うぅ、、」
 涙目の後輩女子に寄り添ったのは、眼帯ヤンキーだけでは無い。
 後輩君も二人の雰囲気を憚ってか邪魔しないようにーー。
 しかしながら、ボソリと零す。
「八幡アースか
なんか、良いですね」
「アア、最高だ、、
八幡アース、、
、、他の誰に呼ばれなくても、オレらだけはその名で呼び続けてやるんだ
八幡アース、、!
、、良いじゃねェかァ!?チクショウ、、」
 迂闊に近寄れる雰囲気では無かった。
 そこに易々と入っていった後輩君の対人スキルの高さに私は驚きながらも、そろそろかそろそろかと様子を窺う。
 もう一度言うが、決して茶番と言ってはいけない。
 たとえチャイムの音がもうすぐそこまで迫っていても、今この瞬間は此処でしか味わえないのだからーー。
 キーンコーンカーンコーンーー。
 生徒達を急かす音に、いつもならイラッとするが救われた思いだった。
 私は今になってーー時間に気付いたように言う。
「あら……もうこんな時間ね」
「はい、そうですね
行きましょうか、リン先輩」
 ナイト君が応じてくれたのにホッとしつつ、後ろを振り返る。
 既に謎のオタク結界は解かれ、元の空気に戻りつつあった。
 少し気まずそうにしながらも、沙梨亜ちゃんが口を開く。
「テツ先輩も天ヶ嶺君も、それから、、
、、リン先輩もありがとーです」
「え……?ええ、ど……どういたしまして?
それじゃまたあとでね?」
 何故かお礼を言われた。



 放課後ーー。
 最後の打ち合わせだ。
 結局、お昼は顔を出さなかったひよ子も居る。
「いや〜、昼間はごめんね〜?
私もちょっと思うところがあってね〜?
、、色々と考えてたんだ」
「そう……。
みんなにとっては最後だものね?
それとも、やっぱり気が変わったって言うなら……止める?」
 勿論、私は一人でも行くつもりだった。
 みんなが付いて来ないというなら、それは仕方無い。
 誰しもが生まれ育った世界を憎みながらも、心の何処かで常に想っている。
 私はそれをこの世界に生まれて感じたし、彼らだって私が想うようにこの世界を想っているのだろう。
 愛憎半ばにしながらも、常に意識のひとつ後ろ側に在るーー。
 生まれ故郷の世界とは私にとって、そういうものだった。
 彼らの気が変わったのならーー。
 そう問い掛けた私に、後輩君は首を振る。
「おれは行きますよ!
異世界へ行ってそれで、それで、、
、、とにかく行きますよ!」
 何か色々と野心が見えそうな気もする彼だが、それだって一緒に来てくれるなら嬉しい。
 テツヲも沙梨亜ちゃんも、後輩君の言に続く。
「愚問だなァ?真島ァ
、、オレの器はこんな狭い世界にゃ収まり切らねェ!」
「、、当然です
昼間はお陰様で吹っ切れましたからね
覚悟するがいーです!?異世界!」
 何をーー?
 とは、聞かなくても良い事だろう。
 女の子には、生まれ変わる瞬間が必ずある。
 彼女もどうやらそれを迎えたようで、後ろでそれを見守るのが年長者たる私の務めなのかもしれない。
 そして、最後の一人ーー。
 茶髪に金のアクセント部分を指先で弄っていたひよ子は、意を決したように口を開く。
「私はね〜?うん、、
、、みんなには悪いんだけど、こればっかりはね〜?
行けないかな〜、やっぱり、、」
 そう言い、申し訳無さそうに両手を合わせる。
「みんなごめん!
今はまだ、、」
「あれ?どうしてですか、、?ヒョコ先輩」
 一瞬呆気に取られていた後輩君が声を掛けた。
 普段は何かとひよ子を邪険に扱っている後輩女子も、同様の表情だ。
 彼女と同じ二学年の私とテツヲは、後輩達と違って然程驚いてはいない。
 ひよ子は少し申し訳無さそうにし、普段のおふざけは微塵も感じられなかった。
 髪を弄るのを止め、後輩君の問いに彼女は答える。
「考えたんだよね、異世界、、
、、私も行きたい
でも、それは今じゃない」
 オヤジ女子は今、普通の女子の顔に戻っていた。
 普段の彼女は私及び、他にも多数の女の子との触れ合いを求めるーーある意味危険思想の持ち主で、だからこそ〈気狂い女帝〉とも呼ばれていたのだが、それをここで前面に出してはこない。
 以前から、エルフにケモ耳と触れ合いたいという邪な願望を持ってはいたけれどもーー。
 そうした欲望を殴り捨て、彼女は言う。
「この喚術陣は確かに異世界に繋がってる可能性はあるし、繋がってる可能性を立証する為には、飛び込んでみるしかない、、
、、だったね?リン?」
「ええ……その通りなのだわ?
この喚術陣は先月のウルトラ仮面フィギュアが戻って来なかった時の術陣に、更に座標の検知に質量基準を設けた他、自動翻訳や人体の環境適応等様々な術式を組み込んだものなのよ?
だから……以前と比べあらゆるケースを想定したこれ以上無いぐらいの喚術陣である事は間違いないのだわ!」
 力説した。
 研究の過程を頷いたひよ子は分かっているし、他のみんなも何となくなりに理解はしている。
 その上で、彼女は言う。
「でも、絶対じゃない
、、絶対安全に目当ての異世界へ辿り着けるかは分からないし、私達が想定してないケースがあればそこで終了
、、そうだね?リン」
「ええ、その通り……。
……だからこその、最後確認ね?」
 私は再びみんなの顔を見渡すが、意思は変わらないらしい。
 行かないと言ったひよ子も、前言を翻す気は無さそうだった。
「……それじゃ、今夜決行よ!
今夜、満月の満ちる時間に……私達は異世界へ行くのだわ!」
 みんなが頷いたのを確認する。
 そして、少々寂しげなひよ子の顔を見た。
「……最後になるわね?ひよ子」
「うん、見送りには行くよ
、、最後にた〜っぷり堪能しないとね〜?うへへ〜」
 伸びてきた魔の手を私はピシャリとやった。



次話、>>5

Re: 魔女先輩は転移後即日死した後輩君を甦らせたい!? ( No.5 )
日時: 2023/03/23 17:12
名前: 天麩羅 (ID: F69kHN5O)

プロローグ〜〜序幕、終話ーー副題(未定)



 電灯の光を頼りに、私は最終確認を行う。
 それぞれの円陣の合間に描かれた文字列は、起動の時を待ち侘びたように塗料を照り返していた。
 今夜、もうすぐなのだ。
 今この時、この一瞬々々が最後になる。
 だから最終確認を入念に行うべく、私は早目に家を出てーー今現在に至る。
 内側の円から外側の円へーー。
 丸く連なった幾つもの円陣はそれぞれが一つの術式だ。
 起動すると内側から外側の円へ順に発動し、最終的に異世界へと転移する。
 それぞれの文字はそれぞれの円陣の上に刻まれていて、この異世界の文字が意味する効果は多岐に渡った。
 それを一つ一つ、入念に確認していく。
「……転移先も転移先での活動に纏わる術式も問題無さそうね
……抜かりは無い筈よ!たぶん……いいえ、絶対……!」
 でなければ困る。
 私が例えば予期せぬ事象に巻き込まれて死んだとしてもそれは私個人の末路だが、後輩君達はそうではないーー。
 そもそも彼らを唆したのは私だし、彼らの安全をある程度保証する責務があるのだ。
 転移した瞬間にいきなり死なせてしまっては、始末が悪過ぎる。
 気負い過ぎなのだろうかーー?
 私が考えを巡らせながら確認作業を続けていると、向こうから物音が聞こえてきた。
 ここ最近では、その足音の立て方一つで誰なのか分かってしまうーー。
「リン先輩、早いですね
また最終確認ですか?」
 後輩君だ。
 私は振り返らずに頷く。
「ええ……念には念を入れてね?
文字列の順序も問題無いし、発動する式の連結も間違いなく正確よ!
……あとは、そうね
こちらの想定外の事象が起きない事を祈るだけね……」
「はは、そうですね
おれにはまったく分からない分野なんで口の挟みようも無いんですけど、だから、、リン先輩はあとは楽にしてて下さい!
異世界で何かあったら自分が手足になりますんで!」
「ええ……その時は任せるのだわ!
頼りにしてるわよ、後輩君!」
 最終確認を終えた私はそう言って、彼の肩を軽く叩いた。



 それから間も無く、夜の屋上に〈ワルプルギスの集い〉の面々が集まった。
 5人だ。
 創業のメンバーは私を含め、テツヲとひよ子の3人ーー。
 それから一学期に新しく入ったのは後輩君こと、ヒラト君と沙梨亜ちゃんだった。
 この集まりの最後を見送りに来たひよ子は、然程深刻そうな表情もせずに言う。
「私、決めたんだ
研究者になって、いつかみんなに会いに行くよ!
何年経ってもね〜?」
「アア?大きく出やがったなァ!?
、、が、悪かねェ!」
 この二人は私達の中で最も付き合いが古いらしく、近隣を恐れさせる不良になる以前からの、幼馴染みらしい。
 普段はテツヲにべったりの沙梨亜ちゃんも、今は邪魔する気は無さそうだった。
 だが、ここにきてひよ子が試すようにヒソヒソと告げる。
「こんな奴だけどね〜?
君にはちょっと荷が重いかもね〜?うへへ〜」
「、、何の話です?
黙りやがらないと異世界に行く前にオトシマエ付けさせますよ?」
「ま〜、その内分かるかな〜?」
 沙梨亜ちゃんの耳元で何やら含ませつつ、彼女は余裕綽々だ。
 ひよ子と後輩女子は、相変わらず仲が悪い。
 これは彼女達の中心にテツヲという軸が居る事で成り立つ関係だからであり、そんな彼を挟めば対立しか生まれないのだろう。
 もっとも、それ以前に校内の綺麗ドコロには粗方ちょっかいを掛けてるひよ子が、何かしたのかもしれないがーー。
 沙梨亜ちゃんは嫌そうな顔をしながらも反論はせず、ぷいと顔を背けた。
 揶揄い甲斐の無さに若干顔を顰めたひよ子は、今度はこちらに素早く詰め寄る。
「うへへ〜、揉み納めだね〜?リン〜」
「はあ……あなたねぇ?」
 こんな時までオヤジっぷりを止めない女子は、私の胸部の感触をしっかりと掌に焼き付けるつもりらしかった。
 そして、その視線はそんな私の隣へと向けられる。
「後輩く〜ん?
実は私ってば意外と気が効くのを自認しててね〜?
リンのおっぱいはこれまで右側しか揉んでこなかったんだよね〜?うへへ〜」
 何を言ってるのだろうかーー?
 そういえばと思い当たりはしたが、それと今の状況が結び付かないーー。
 ひよ子は困惑する私に構わず、後輩君に告げる。
「つまり、リンの左胸はまだ初めてというわけですな!
分かったかな〜?後輩く〜ん?」
「んなっ!?」
 それまで視線を逸らしていた彼はやや固まって、思わず顔を向けてきた。
 だが、いたいけな少年心を弄んだオヤジ女子が、その直視を許さない。
 反射的に顔を向けてきた後輩君にすかさず、ひよ子の空いた指先が直行する。
「ヒョコちゃん超絶秘技、フィンガー目潰し〜!」
「ア痛っ!?」
 その目に、ピースの先端がぶち当たった。
 直前で目を閉じたと思うが、彼はその場で跪くーー。
 人をネタにいたいけな後輩君を弄ぶとは、やっぱりどこまでいってもオヤジ女子の〈気狂い女帝〉だ。
 私は呆れつつも、はっきりと言う。
「……もういい加減にしなさいよ!
まったく、こんな時まで……」
 いつまでも弄ってきそうな魔の手を退けて、夜空を見上げた。
 今がちょうど、満月の頃合いだろう。
「さて、と……。
それじゃ、喚術陣を起動するから血液を採取して……」
「あ、それね〜?
もうやっちゃった!」
 見ればポタポタと赤い雫を指先から垂らすひよ子の他方の手には、カッターが握られていた。
 喚術陣を起動させるのには人の体内にあるプラーナーー所謂、気のようなものを使うのが基本だが、その起動媒体に別のものを使う方法もある。
 それ即ちーー血液だ。
 彼女の唐突過ぎる行動に、変な声を上げたのは私だけでは無い。
「うへ……?」
「アアン、、?」
「、、え!?
いきなりやりやがったんです!?この女!?」
 異世界直行組はみんな一番内側の円陣にそれぞれ入っているから問題無いがーー。
 私達の呆気にとられた声に構わず、彼女は喚術陣の外側へと退がる。
「いきなり傷口から未知の感染症とか発症したら危ないからね〜?
リスクは可能な限り少なくしとくものだよ?諸君!」
 確かにそうだが、まだ別れの挨拶も済んでいない。
 先程の目潰しから復帰した後輩君が、辛うじて告げる。
「あ、ヒョコ先輩!
何から何までお世話に、、」
 そう言った彼及び、私達の足元の円陣は強く発光した。
 内側から外側の円陣へーー。
 次々と点滅を大きくしていく術陣に刻まれた術式は、その文字列をゆっくりと周回させ始める。
 向こうで軽く手を振るひよ子の顔は、目一杯明るそうに微笑みながらもーー目は潤んでいるように見えた。
 その表情を遮断するように円陣の一つ一つが宙を浮く帯へと変わり、私達の周囲の四方八方を取り巻いていく。
 最後に聞こえてきたのは、ひよ子の別れを告げる声だ。
「みんなっ!行っといで〜!
身体には気を付けるんだよ!?
食べられそうなキノコとか果物とかあっても、まずは他の動物が食べるか入念にチェックして、え〜と?それと、それから、、」
 何か伝えたい事が山ほどあるのに、それを伝え切れないもどかしさだけは何となくーー伝わってきた。
 私達を取り巻く術式の帯が、私にとって無二の友人の顔を遮る。
 そして、僅かな逡巡を最後に見せたひよ子が、大きな声で告げる。
「いつか行くからね〜!?私も!
、、絶対に!」
 それを聞いた私は皆同様、彼女が最後に見せた表情と同じ顔をしていたに違いない。
 取り巻く円陣の帯の向こう側に仲間を一人残してーー。
 私達は今日この日、異世界へと旅立った。



次話、>>6


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