ダーク・ファンタジー小説
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- No_signal
- 日時: 2023/03/07 20:31
- 名前: 叶汰 (ID: 5R9KQYNH)
こんにちはこんばんは叶汰です!
今回は初めてのシリアス多めギャグ多めのお話です!
序章「与えられし何とかの」>>1
人物>>2
アンティキティラの展望台編
第1話「キラー」>>3
第2話「賢者の刺客」>>4
第3話「完璧主義者」>>5
第4話「願い」>>6
第5話「黎明」>>7
第6話「花束の代わりに」>>8
第7話「凱旋」>>9
第8話「ただいま」>>10
第9話「復活祭」>>11
第10話「捨て駒」>>12
第11話「むかしむかし」>>13
第12話「」>>
第13話「」>>
- Re: No_signal ( No.10 )
- 日時: 2023/03/04 22:51
- 名前: 叶汰 (ID: 5R9KQYNH)
第8話「ただいま」
電車に揺られること4時間、あたりは街灯一つも見当たらない真っ暗闇。
車内はついにハルトたちのみとなってしまった。
「0時46分、か」
時間帯的には夢の中なので、ハルトとアイナ以外は爆睡状態だった。
もうかれこれ1時間は沈黙が続いており、気まずい空気が漂っていた。
スマホを触る指すらも、ついには動きを止めてしまった。
「...」
「...」
「...ねえ、」
「なんだ」
「...なんでもない」
せっかく続いたと思った会話も、一瞬で途切れてしまった。
アイナは何もない外の景色を車窓越しに眺めていた。
「...先輩」
「なに」
「なんであんたは俺らの敵討ちに着いてきた」
少しの沈黙があったあと、車窓から目線を外した。
「...仲間のためとか、後輩のためとか、そんなテンプレみたいなこと言えないよ。ただ、私の好きなようにしたかっただけ。私にできることじゃなくてしたいことをするだけ」
「あんたらしいな」
「それってどういう意味よ」
「深い意味なんてねえよ、ただ先輩だったら言うだろうなっていう長年付き合ってきた経験」
「...ふふ、ハルトって興味なさそうでちゃんと見てるよね」
よく分からない微笑みを浮かべ、ハルトは再びスマホに目を落とした。
実際興味がないものにはとことん興味はない、だが気づかぬうちに見てしまうものがあるのだろう。
「起きろお前ら、着くぞ」
「...んぇ?もう?」
「もうじゃねえお前ら普通の睡眠時間取ってんじゃねえ」
時刻は6時を回ったところ。
すっかり外は明るくなり、朝日が昇っていた。
「5年ぶりだな、ここも」
辺り一面の田園風景で、5年前から姿を変えていなかった。
懐かしいような、よく分からない感情が喉の奥でつっかえてもどかしい気分になった。
「...歩くぞ」
「うわぁ...お兄さまおぶってください」
「は!?嫌だね!クリス!」
「なんで僕なんだよ!あの距離歩くこと忘れようとしてたのに、思い出させないでよ!おんぶっていう地獄も付け加えないでよキツいわ!!」
なぜそんなに嫌がっているかというと、ハルトの家は最寄り駅から5時間かかる。
その苦労をコルニアとアイナ以外は知っているので、地獄でしかない。
しかしここは田舎中の田舎。タクシーやバスなど、2時間に一本通っているか通っていないかである。
「...歩くか」
「くっそ」
「なんでみんな暗い顔してるの?」
あれから5時間。正確には5時間26分だが。
ようやくヴァースタイン家に到着し、完全に疲れはてていた。
「おかしいだろ...なんであんなに歩くんだよ...俺ん家おかしいだろ...」
「仕方ないですわよ...これだけ大きな家建てるには敷地が必要なんですから...」
「だからって、山の上に造るとか...アホなの...?」
この言われようである。
外観は5年前と変わらずで、無駄なサイズ以外は特に言うことはない。
「ただいまー...って、母さんたち居ないんだった」
なんだか寂しい気持ちになって、忘れかけていた鼻を突き刺すような悲しみが溢れだしそうになった。
どれだけ離れようが居なくなろうが、家族は家族。一生このまま埋まらない心の穴を抱えて生きていくのだ。
「...うし、やるか」
こんなところで立ち止まっていてもどうにもならないから。
無駄に広いリビングで、犯人探しをどうやってするかの会議を始めた。
「というわけでだ、父さんと母さんを殺害したときの凶器らしきものは見当たらなかった。...あるわけないか」
「ねえ、この資料とか警察からもらってきたの?」
「そうだ。で、死因は心臓の破裂」
「うわグロ...」
外傷がほとんどなく、その上内部からの破裂となると、術式によるものだと思われる。
とはいえ、警察が動けない事件に素人が犯人探しなど、無謀なことだと思う。
「この破裂具合から見るに、血液操作系の術式でしょうね。それも他人の血液が操れるとなると、世界でも五本指に入るか、あるいはもっと少ないかもしれません」
司法解剖の写真を、平然と見るサラに対し驚きが隠せないコルニアは思わず訊いてしまった。
「な、なんでそんなに平然と見られるの?」
「今まで育ててくれた両親ですもの。このぐらい、大したことはありませんわ」
「...」
思わず黙ってしまった。彼女の大人な考えに。
少しの沈黙が漂ったので、ハルトが咳払いをして話を続けた。
「んん...!血液操作系の術式で間違いないと思われるが、"引き出し"には該当データがなかった」
"引き出し"とは、リアルタイム型自動検索図書館の通称だ。
この"引き出し"は撤退したヴァースタイン家率いる魔術専門特別強襲部隊ガーベラの前身であるディーヴァトリニティの大賢者ユーラムが遺した、方舟だ。
400年間、色々な場所で保管されてきたが、最終的に200年前にヴァースタイン家が秘密裏に保管されるようになった。
「ぶっちゃけ追跡術式も使えないとなると、これ詰んだんじゃないの?」
「...」
「おいハルト黙らないでくれ、本当にこれで終わりかよ」
「...終わっちまったぞおい!」
「まだ終わっとらん!」
長い栗色の髪に、黒の眼帯をした少女。
「え、誰」
「わしはムーナ・プロアディス、人は大賢者ユーラムと呼ぶ!」
- Re: No_signal ( No.11 )
- 日時: 2023/03/06 09:55
- 名前: 叶汰 (ID: mwHMOji8)
第9話「復活祭」
「...は?」
「だ、だから!わしは大賢者ユーラムじゃ!」
目の前の見た目10歳程度の少女は、伝説とまで言われた大賢者ユーラムの名を名乗っていた。
「えーっと...お家はどこかな?」
「わしの家などもう残っておらぬ!というかここが家じゃ!」
「じゃあユーラムなら証拠を見せろ」
ハルトがやや乱暴な口調で言うと、ユーラムを名乗る少女は自信満々に胸を張った。
「いいじゃろう!アルヴァフォートル!」
術式詠唱をした瞬間、真っ黒な穴が少女の横に出現した。
そこに腕を突っ込むと、自分の身の丈の倍はある槍が出てきた。
「ウヴァルファランの槍、どうじゃ!」
ウヴァルファランの槍とは、三大神器の内の一つであり、使用できるのは大賢者ユーラムだけとされている。
ユーラムの死後、槍の行方は400年間分からないままだった。
「なっ...!?」
「ばっちり本物じゃぞ?自動追尾まで当時のままじゃ」
「それで?なんで今ユーラムが居るんだ?幽霊か?」
「幽霊とは失礼じゃな!わしの魂は引き出しのシステムの一部となっていたのだが、お主が引き出しを使う順序を間違えたせいで、わしの魂は引き剥がされた。そこで精霊の体を拝借して、今に至るというわけじゃ」
「なるほど全くわからん」
「分からないんだ...」
「まあ要はわしが蘇った話じゃ」
ユーラムはコップに注いだココアを飲み干すと、話を続けた。
「まあ今は精霊として魂が定着しておる。じゃが、わしの体がまだどこかで封印されてるはずじゃ。そこでお主らに提案じゃ。お主らの目的の手伝いをする、その代わりにわしの目的も手伝ってもらう。これでwin-winじゃろ?」
今のままでは犯人探しはかなり難しい。
「...分かった。協力してくれ」
ハルトが返事を出すと、ユーラムは笑った。
「よし!これで契約は完了じゃな」
「契約って...まあ、これから頼む」
「...この術式...」
「なにか知っているのか?」
「これ、人間ができるような術式じゃないぞ」
ユーラムの突然の発言に、一同騒然とした。
人間ができるような術式じゃない、じゃあ一体誰が。
「どういうことだよ...」
「デトラクロム、こいつは厳密に言えば血液操作系ではない。金属操作系の術式じゃ」
「でも金属操作系なら、僕だって使えるけど」
「デトラクロムは禁忌術式で、使えるのは400年前の人間か、あるいは人智を超えた何か...いずれにせよ、現代に使用できる人間は存在しないってことじゃ」
となると、犯人は人間ではない何かということになる。
「だが厄介なのはそいつの痕跡らしきものが無いのじゃ。本来であれば追跡術式が反応するのだが、全くと言っていいほど反応を示さん」
「ここまできて手詰まりか...」
「いや、そうとも限らないわよ」
アイナが口を開き、いきなり術式詠唱を始めた。
「...コントロール・タイプアンノウン」
「なっ...!バカ!あんたここ俺ん家だから!」
「大丈夫大丈夫、ちょっと試したぐらいで禁忌の存在がここに来るわけ____」
ドゴォン!!という轟音とともに家の壁が壊れた。
土埃が去って、その姿が露になった。
頭部のない、黒い体。その右腕には、釘のようなもので無理矢理固定された刃物。
まさかアイナの発言がフラグになるとは思わず、本人も唖然としてしまっている。
「何をぼーっとしとる!とっとと戦え!」
「お、おう!コントロール・タイプボム!」
爆発音とともに、ソレは爆炎に包まれたが、傷一つついていなかった。
耐久力はしっかりと見た目に伴っているようだ。
「伏せろ!ミラージュサテライト!」
ユーラムの放った一撃は、ソレの腹部に大きな風穴を空けるほどの威力を誇っていた。
ソレは形状崩壊しないまま、倒れて動かなくなった。
「...なあ、こいつどうするんだ?」
「しばらく地下室で保管する。何か手がかりがあるかもしれんからな」
そのままユーラムは表情一つ変えずに、地下室に運んでいった。
「えっと、ユーラムさん。僕らが戦ったさっきのやつって...」
「使徒、いわゆる天使じゃ」
「天使?あれが?」
恐らくコルニアの想像しているのは、絵画などに登場する天使だろう。
「天使、といっても厳密に言えば天使ではない。やつらは模造品、いわゆるコピーじゃ」
「コピー...ってことは人が作ったということですの?」
「そうじゃ。わしが作った、それが何者かに利用されているというのが今分かった」
「作ったって...なんで作ったの?」
アイナの質問に、一瞬躊躇ったが、ユーラムは答えた。
「...元々は人間に危害を加える予定で作っていない。儀式のための駒だったのだが、わしが死んでからは不要になった。だから封印したのだが、」
「今回みたいに使われたってことですか?」
「そうみたいじゃな。筋組織が剥き出しになっていたり、武器が無理矢理固定されていたり、頭がなかったり、悪趣味極まりない」
ユーラムは少し悲しい顔をした。
自分の作ったモノが、悪意のある者に利用されたとなると、心底腹が立った。
「...」
ハルトは今までの話を聴きながら、タブレット端末で先ほどの使徒の写真を眺めていた。
そこには、何かの家紋のようなものが彫られていた。
「これ...」
「どうしたんだハルト」
「...これだ」
ユークリウス家の家紋と一致した。
なぜ彫られていたのか、想像は一瞬でついた。
「ユークリウス家に利用された、ってとこかな」
「ユークリウス家って、王族の家系でしょ?なんで...」
「...これはあくまでわしの憶測じゃが、ユークリウス家は黙示録を実行しようとしてるかもしれん」
雨が降り始めた。
- Re: No_signal ( No.12 )
- 日時: 2023/03/06 22:06
- 名前: 叶汰 (ID: 5R9KQYNH)
第10話「捨て駒」
「アポカリプス...?」
「ああ。全ての使徒の魂をあるべき場所へ還したとき、贄となる者の支配欲求が高まると発動される。全ての形ある生き物は魂が一体となり、神にもっとも近い新たな生命体となる。...ハル坊、お主の先祖の提唱したアポカリプスだ」
「俺の、先祖...」
「レオニオ・ヴァースタイン、わしの戦友と言ったところだ。...まあ、今話すことではないな」
ユーラムは苦笑し、資料を閉じた。
閉じたときの風圧で、髪が少しだけふわりとなり、甘い香りが鼻腔を刺した。
「今日はもう遅い。寝るとしよう」
5年ぶりの自室。5年ぶりのベッド。
部屋は意外にも埃を被っておらず、綺麗な状態だった。
(母さんが掃除してくれてたのか)
ここに来てもまだ、親を失った喪失感は拭いきれていなかったようだ。
ハルトは疲弊しきった体をベッドに飛び込ませ、スマホを眺めた。
その時、3回ノックの音が聴こえ、思わず体が飛び上がってしまう。
返事を待たずに、ドアは開いた。
「ハルト」
「せ、先輩」
寝間着姿のアイナが入ってきて、上体を起こす。
洗髪料の匂いとか、アイナ自身の匂いとかが混ざって、ハルトの思考を掻き回していく。
「どうしたんだよ、いきなり」
「なんでも。寝れなかったから来た」
「別にメッセ送りゃいいだろ...」
「直接話したかったの」
なんの躊躇いもなく、ベッドに座る。
「クリスたちは?」
「あっちもコルニアと一緒。いい感じ」
「へぇー...」
「訊いておいてその反応はないんじゃない?」
「言ってろ。あいつらがイチャイチャしすぎて付き合ってる疑惑まで出てんだ、巻き込まれてたまるかよ」
あのいちゃつき具合で付き合っていないなど、おかしな話だが、残念なことに彼らは付き合っていない。
「...ねえ、」
「なんだ」
「一緒に寝ない?」
「なんでさ」
「なんでも。...知らない場所で寝るの慣れてなくてさ、だから一緒に寝てほしい」
アイナは昔から知らない場所に行くのが怖かった。だけどそのことを、弱いと悟られたくなかったから気の強い人間を演じていた。本当はか弱い普通の人間なのだ。
ハルトはそれを知っていた。というかハルトしか知らない。
「...わーったよ。今日だけだからな」
「...あんがと」
小さく礼をすると、背中合わせの形で寝転がった。
ホワイトノイズさえ聴こえるぐらい夜は静かで、不思議な気持ちになった。
「ハルト」
「ん」
「こっち向いてよ」
ハルトはすでに眠く、思考が淀んで事の善し悪しもよく理解できなかった。だから躊躇なく向いた。
すると目の前にはアイナの整った顔があった。
ハルトは一瞬で目が覚め、顔が熱くなっていくのを実感した。
「な、なななな...」
「...私が寝るまで、私が安心するまで、抱き締めて」
その真っ直ぐな瞳に、震える艶やかな震える唇に、ハルトは先ほどまでの羞恥を忘れるほどアイナの孤独を解った。
怖い。ただそれだけだけど、独りが怖い。夜が怖い。色んな怖いのかけあわせだった。
「...」
ハルトは黙って抱き締めた。強く、離れないように。
柔らかな感触や、アイナの体温が直に伝わる。
「大丈夫だ、俺が傍に居てやるから。安心して寝とけ」
「あり、がとう...」
次第にアイナは意識を深い眠りへと落とし、静かに寝息を立てて寝た。
ハルトも意識が混濁とし始め、アイナが眠ったあとに寝た。
翌朝、ハルトは全てを忘れたかのように動揺した。
「やべえ俺なんで先輩と寝てんだ!?そしてなんで先輩を抱き締めて寝てたんだ!?手とか出してないよな...」
幸いにもアイナはまだ目を閉じているので抜け出せそうだ。
足をベッドの外に出そうと試みたが、足が絡まって抜け出せなくなっていた。
「...」
一周回って冷静になってしまう自分に対して恐怖すら抱いてしまう。
部屋のドアが開き、ハルトは諦めた。
「お兄さま!気持ちのよい朝ですわ、よ...」
サラの顔から笑みが消えていき、たちまち目に光が宿らなくなった。
しかし悟りを開いたハルトは冷静であった。
「んぅ...もう朝ぁ...?って、えぇぇぇぇぇぇ!!!???」
鳥のさえずりが聴こえる、8時5分の朝に一発パチンと乾いた音が鳴り響いた。
「...ハルト、その腫れどうしたんだ?」
「察しろ女たらし」
「今までで一番酷いな!?」
朝の食卓からこの騒がしさである。
とはいえ昨日の豪雨から一変、爽やかな晴れ模様で、気分もいい。
「ハル坊、朝食を食べ終わったあと、ちょっと来てもらえるか?」
「ん?ああ、いいけど」
ユーラムから呼び出されるとは、何かあるのだろうか。
返事をしつつ、コーヒーを体に流し込む。脳を強制的に起こされたような感じで、実に不愉快極まりない。これを好んで飲む大人たちの気が知れない。
「ユーラム、来たぞ」
「おうハル坊。待っとったぞ」
ユーラムにソファーに座るように促され、ユーラムの前の席に座る。
自分の家なのに、なんだか違う人の家のような気がして、不思議な感覚だ。
「お主の先祖について話そうかと思っての。レオニオ・ヴァースタインだ」
二度目のその名前に、同じ名字で知らない名前というのが、ハルトにとっておかしな感覚だった。
「レオニオはわしの後輩だった。しかしヴァースタインという名字のせいで、周りからは忌み嫌われ、やつは孤立しとった」
「ヴァースタイン家は嫌われてたのか」
「んぃや...まあ嫌われてたようなもんか。レオニオの父親がまあ生粋のクズでな、女を抱いては乗り換えの繰り返しだった。偶然避妊をせずに抱いた女が居ての。そこで生まれたのがレオニオじゃった。レオニオの父親はレオニオを殺そうとしたが、レオニオには不死鳥の灰という呪縛で半不死身じゃった。要は父親の性格とレオニオの呪縛で、周りから避けられていた」
聞いただけではかなりの波乱があったみたいだ。
窓から日光のカーテンが注がれる。
「レオニオの呪縛を見た父親は、幾度も死なないレオニオを殺そうとした。半不死身と言っても、痛覚はあるし、血だって流れる」
「なんで殺そうとしたんだ」
「さあな。それはレオニオから聞いた話にはなかったからの」
首を横に振りながら、ユーラムは答えた。
「レオニオは腐った自分の父親を見てディーヴァトリニティを立ち上げた。わしも誘われて加入してしまった。あやつは年下で、わしを先輩呼ばわりするもんだからな。あやつの方が地位は上だが、いつまでも敬語で話すので後輩と呼ぶようになった。そしてそれは周りから戦友と呼ばれるようになって、それでもあやつはわしを先輩と呼んだ」
ユーラムの瞳が微かに揺れた気がした。
寂しさなどが混ざった、悲しい揺らぎだ。
「...ユーラム、お前に寂しい思いなんてさせない。俺だって失ってきたものはたくさんあるから、だから一緒に戦おう」
「...全く、どこかのアホと似たな。お主は立派な男になりそうじゃ」
- Re: No_signal ( No.13 )
- 日時: 2023/03/07 20:30
- 名前: 叶汰 (ID: 5R9KQYNH)
第11話「むかしむかし」
「えっと...ムーナ・プロアディスさん、ですよね?」
白髪の少年はわしに訊いた。
なぜわしの名を知っているのかは知らないが、質問にはしっかりと返す。
「そうじゃが、お主は誰じゃ?」
「えと、僕はレオニオ・ヴァースタインと言います」
レオニオと名乗った少年は笑顔で手を出した。
握手、の意味があるのだろうがわしはそれを払った。
「悪いが、まだ用を聞いていないのでな。その手は払わせてもらった」
「ああ...僕は魔術専門特別強襲部隊ディーヴァトリニティの代表をやらせてもらっている者で...そこで僕はあなたの噂を聞いてここに来たのです。単刀直入に言うと、ディーヴァトリニティに入ってほしいんです」
真っ直ぐな瞳だが、その奥には緊張や恐怖などが混じっていて、それは純粋な震えだった。
所詮は噂だが、わしはレオニオの頼みを断れなかった。
真っ直ぐで、曲がることを知らない瞳だったから。
「...分かった。だからそんなに震えないでくれ」
「え、震えてました!?」
「そりゃ生まれたての小鹿みたいな震え方だったが?」
反応が面白くて、ついつい弄ってしまった。
「先輩!」
「おうよ!ドラゴフレア!」
時は経ち半年後。いつの間にかレオニオはわしのことを先輩と呼ぶようになった。
わしとレオニオのコンビネーションは、誰にも再現のできない最強だった。
「流石です先輩!」
「当たり前じゃ後輩!さあさあ!大賢者ユーラム様を崇めたまえ!」
そしてわしもレオニオのことを後輩と呼ぶようになった。
わしのことを国は三銃士の一人である、大賢者としての称号を与えた。
一方でレオニオは三銃士の剣豪としての称号が与えられた。
それでもレオニオは、わしに対して先輩呼びと敬語をやめなかった。
「僕、いつかこの組織が全ての人類が苦しまなくて済む平和な世界を創るっていう願いを込めて作ったんです」
ある夜突然、レオニオは告白した。
語るレオニオは、どこかに悲しさを宿していた。
「なんで、そんなことを目指そうとしたのじゃ?」
「...僕の父親は腐りきった人でした」
そしてレオニオは語ってくれた。
父親が最低なこと、自分を殺そうとしたこと、自分は一つの誤りで生まれたこと。そして、自分が呪われていること。
そんな理由で嫌われる世の中を変えたいと思った。
「...」
「...嫌われることは慣れてるけど、そのターゲットが僕だけならって話で、他の人だったら嫌だっていう矛盾なんです」
「わしは嫌われる感覚が分からん。分かり合えるのは、同じ境遇の人間だけじゃ。だが、何年お主と一緒におると思っているのだ。お主の孤独ぐらい、わしが埋めて見せる」
笑うわしを見て、レオニオは泣き出してしまう。
その涙は悲壮ではない。歓喜だ。
「うぐっ...ひっ...僕は、頼ってもいいんですか?」
「もう十分お主は人を頼っておる。そしてわしらが頼る」
「僕は、誰かを好きになってもいいんですか?」
「なぜそんなことを訊く?お主はとっくに、仲間を好きになっておるだろ」
そんな彼は今までで溜め込んできた物を全て吐き出したせいで、一つ大人になれた。
「これなんですか?」
「ふっふっふ...使徒じゃ!これでラブアンドピース計画は完遂目前じゃぞ!」
「おお!これでガーベラの目標も達成できそうですね!」
レオニオの望んだ世界を創る手助けとして、使徒を作った。
使徒で儀式を行い、この世の愚かな争いを止めるために。
「でもなんだか不思議です。僕らが世界平和へ導くなんて」
「そうじゃな...じゃが、それが現実なのだ」
レオニオの望んだ世界を、自らの手で創るということに、今になって違和感を覚え始めてしまったのだ。
「チョコかバニラ、どっちがいいですか?」
「バニラ」
わしが感傷に浸っているところで、レオニオはアイスクリームを持ってきた。
白いアイスは、冷たくて甘く、それでいて儚かった。
「今年でガーベラ解散から90年か...」
90年経っても、レオニオは呪縛の影響で、わしは術式の影響で見た目が変わらず不老不死となっていた。
それどころか、わしは死ねても、レオニオは死ぬことが叶わない。
「...なあレオニオ」
「?どうしたんです?先輩」
「わしらはガーベラとしての目標が達成された。そしてガーベラもなくなった。...もう、いいんじゃないか?」
レオニオは俯いた。
「...僕はいいんです。僕はいつか誰かがこの呪縛を解いてくれて、それで殺してくれると思うから」
「わしは死ねる。お主は死ねない。...そんなの、不平等だろ!!いいか、わしはお主の先輩で相棒じゃ!お主より先に楽になってたまるか!!」
わしは初めて怒鳴った。この男に、いや、人生で初めて。
レオニオは目を見開いて、唖然としていた。
「お主の、お主の呪縛を解いてお主を殺してやる!お主を知らない人間より、お主をよく知っているわしが殺した方がいい!知らない人間に殺させてたまるか!」
この日は一度に二回人生で初めてを味わった。
二回目は人生で初めて泣いた。
「...もし、僕が生まれ変わったら、僕が寂しくならないように何か遺してください」
「っ...!ああ!お主が寂しささえ忘れる、最高の図書館を!わしの魂の入った図書館を遺しといてやる!お主の傍に、ずっと...ずっと居てやれる図書館だ!」
遠い遠い、400年前の話。
- Re: No_signal ( No.14 )
- 日時: 2024/01/21 11:33
- 名前: 叶汰 (ID: F35/ckfZ)
第12話「水槽」
「...」
「...?どうしたハルト、そんな浮かない顔して」
「ぇ...?いや、なんでもない」
クリスから見たハルトは、なんだか雰囲気がおかしかった。この表現が正しいのかどうか分からないが、なんだか塩らしい。というよりただ静かだ。
「ハルト、大丈夫?私ができることなら」
「いいよ、大丈夫。ちょっと外走ってくるよ」
「え?外は雨が...行っちゃった」
「ハル坊は今は止めん方がいい。あやつがああなったのは、わしの話しすぎのせいじゃろうが」
外はかなりの雨が降っており、上着はびしょびしょで、前髪から水が滴っていた。
地面に打ち付けられる雨の音がうるさく、ハルトにとっては外界からの刺激が音だけに絞られ、思考がよく働いた。
ユーラムから聞いた話、レオニオとの91年間。
「レオニオ、ヴァースタイン...」
不死身の体を手にしてしまったがゆえに、父親がクズだったがゆえに、自分が呪われているがゆえに、他人から否定され、他人から嫌われ。
「何やってんだよ、俺」
急に我に帰り、雨の中走るなんて何をしているのだろうと思った。
あれだけの壮大なハナシを聞いたあとだと、思考がおかしくなる。
「...」
「...」
「ちょっ!ハルト、雨降ってたのに傘も差さなかったのか!?」
「...」
ハルトは返答せずに、下を向いていた。
クリスが近づこうとしたとき、ハルトは突然術式詠唱を始めた。
「...プロヴィデンスバレット」
ハルトの周りが蒼い炎に包まれ、彼の瞳には何も映っていなかった。
クリスは咄嗟に反応し、距離を取る。
「どうしたんだハルト!」
「...ふふっ」
ハルトは虚ろな目をしながら、急に笑い出した。
その姿は、操られているかのような挙動だった。
「流石だよ、クリス・ガルフェナンド。今のに反応できるなんて、君はすごいな」
「っ...!?お前は誰だ...!?」
口調が違う。それに術式も違う。
「僕は彼の体に棲みついた悪魔、みたいなものだ。名前は...アザゼル、そう呼んでくれ」
「なんでハルトの体を乗っ取った...?」
「乗っ取った、というより彼とは前世からの契約がそのまま引き継がれている。だが彼は記憶を深層心理に封じ込め、僕が悪者扱いされているんだ」
ハルトの声と、アザゼルの口調のせいで思考が掻き回される。
前世、契約、それらの言葉が渦を巻いてクリスの思考をさらに蝕んでいく。
「なんで、君を殺そうとしてるのか?簡単さ、僕と彼との目的を達成するためさ」
質問しようとしていたことを読まれ、淡々と返される。
「そんなこと、ハルトは望んでっ...!」
「望んでるんだよ、ハルト・ヴァースタインじゃなく、エルマー・フォーストンは」
「何を言って...ハルトを返せ!」
クリスは怒鳴るが、虚ろな目で笑っていた。
「ふふふ...君がそんなに言うなら、今日のところは退こう。チャーオ♪」
「...」
知っている天井。
どうやらここは自室のようだ。外は明るく、雨も降っていない。
「7月、28日...」
雨の日に意識を失ってから、4日経っていたようだ。
なんの記憶もない。ただ、誰かに守られていたような感覚だけがしっかりと脳に焼き付いていた。
部屋を見回しても、誰かが居る気配がない。
「やあ、お目覚めかい?」
「っ!?」
突然隣から声が聴こえ、声にならない絶叫をしながら体を分かりやすく揺らした。
声のする方を見ると、自分と同い年ぐらいの少女がイスに座っていた。
色白の肌に、後ろでまとめた長い緑の髪。ワイシャツにネクタイで、開いた胸元から見える黒子が色気を出していた。
「そんなに驚かないでくれ。僕は君の中の怪物、名前はアザゼルだ」
「なんでお前が俺の体から出てきた...?」
「君の体からは出ていない。ここは精神世界。君は僕に操られて、僕が一気に残りのマナを全て溶かしたから、君は意識を失っている」
ハルトのマナの量は元から多くなく、平均的なマナの量よりも少ないのだ。
それにプロヴィデンスバレットという、準1級術式を使用すれば、それだけ体にかかる負担は大きい。
「さてと、ここからは質問コーナーとしよう」
「どういうことだ...」
「そのままの意味さ。君に対して敵意はないんだ、マナ切れを起こしたことの謝罪の意味も込めてさ」
彼女はニコニコ笑ったまま。
「...なぜ俺の体に棲みついているんだ」
「それは僕と君が前世で契約したからだよ。たとえ今君が望んでいなかったとしても、前の君は来世でも一緒になることを誓った」
その事実に、ハルトはただ驚くことしかできなかった。
目の前の少女は、ただ笑う。嘲笑う。
「どうだい?これが僕らの運命なのさ。たとえそれが今の君が望まない事実だとしても、前の君はそうした。そして僕は今もこうやって生きて、君も僕に生かされてる。win-winだと思うのだが」
「なにが、だよ。なにがwin-winだよ!お前のせいで、俺はどうしてこんなに辛い体験をしなきゃならねえんだよ!」
「あまり騒がないでくれ...。っと、時間だ。悪いが今日はここまでにしよう」
すると徐々に視界に靄がかかっていき、
「ま、待てっ!」
ベッドから上体を起こし、両手は空を掻いたまま静止していた。
下の階から声が聞こえ、安堵した。