ダーク・ファンタジー小説
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- ラストシャンバラ〔B〕 最後の楽園 11/24 更新
- 日時: 2013/11/24 12:43
- 名前: 風猫 ◆Z1iQc90X/A (ID: 68i0zNNK)
- 参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel6/index.cgi?mode=view&no=13737
プロローグ
船の外を見回すと、周りは漆黒と静寂に包まれている。今、私が居るのは、大宇宙ど真ん中。
とまぁ、船外を目視しただけでは、見渡す限りの大海原に投げ出された感じになるが、一応区分があってな。
今居る場所は、ガルガアース宇宙区という区分けをされている。
私はとあるパトロン(支援者)から情報を得てここに来たのだが。ガルガアースにある天体のどこか、か。
確かに、言葉としては間違っていないが。困ったな。
渡された探知機の反応からすると、ここで間違いないんようだ。
はぁ、ここだけは勘弁だったんだが。そんな心の声が、思わず不意をついて口からこぼれる。
「まさか、こんな所にあるとはなノヴァ……」
この区画周辺は、比較的気候が安定している惑星が多い。
だから高価で嵩張る防御シールドを装着せずに来たのだが。
どうやらそれが仇になったらしい。よりによって、一番ヤバイフレイム居住区にいやがるとは。
ブルーな気分になりうつむいていると、見事なバリトンボイスが、私の耳に届く。
「お嬢」
後ろを見ると、低い声に違わぬ立派な体躯の禿頭が目立つ男が目に入る。名をジギンド。
今年五十路(いそじ)を迎えた我がクルーの最年長だ。
年こそ取っているが、仲間に加わった時期はメンバー中一番最後だったりする。
だからなのか、空気が読めない。
「しかし、どうしますお嬢? 俺達の船じゃ、フレイア居住区に着艦なんて、とてもできませんぜ?」
ジギンドの言葉など聞かずとも、シールド無しの我が艦が、あそこに降りることなど不可能なのは、分かりきった話だ。
私は唇に手を当て、どうにかあそこに侵入し、ノヴァを手に入れる方法を思索する。正直、余り良い手は浮かばない。
律儀に空間跳躍しホームに戻り、燃料補給及びシールド装着を済ませ、ここに戻るというのは余りに非効率的だし。
フレイムへの観光船や物資輸送船を襲撃し略奪するというのも、やはり時間が掛かりすぎて、現実的ではない。
残るは最もやりたくない手だが、一番現実的な手段だ。
自分で言うのもなんだが。お嬢だのとクルーから親しまれる私は、名の売れた賞金首でもある。
クリミア・カルバートと言う名は、辺境の一般市民でも聞き覚えくらいはあるものだろう。
勿論、情報が流布されている地球軍連邦自治領内であれば、の話だがね。余り自慢できることでもないが、凄いことなのだよ。つまり自首したふりをして、居住区に入るのだ。実にスリリングではないか。
私が頭を垂れ、もう疲れたから投獄したい、とでも言えば尻尾の部下達など無視し、相手は私だけを連行するだろう。
何せ、私のクルー達をまともに相手るなど、愚の骨頂だと相手側も知っているはずだからな。
無論、私を連衡途中で殺すなどということも無いだろう。
いかに犯罪者と言えど、何の審判もなしに斬首では、国民から反感を買うことになる。
自治軍が宇宙船を飛ばすなどという行為、ばれないはずも無いから、隠すこともできない。
連邦の上様方は異常なほどに、国民のクーデターを恐れているのだ。
あれほどの力を占有していて、何を恐れることがあるんだと思うのだがな。
全く、肥大化しすぎた組織という物は、見ていて悲しいよ。幾つもの足枷があって、動きが鈍重だ。
私は周りを見回し、頭を掻きながら船橋内にいる部下達に言う。
「さてと、仕方ないな。自首するか」
とても捕まりに行くとは思えない、気軽な口調で。それに対して、異を唱える者はいなかった。
この連帯感は好きだ。私達は強い結束の鎖で繋がっているのだと、実感させてくれる。
「お嬢、帰りはどうなされるんで?」
流石に短い付き合いとはいえ、私の実力は認めているようで、ジギンドも噛み付いてはこない。
だが、どうにも自分のことを、少し子供扱いする癖が彼にはあるようで。
後先を考えないガキの心配でもするように、私に問いかける。
「どうとでもなるさ。ロートルはソファーにでも座ってふんぞり返ってな」
帰り道か。容易いことだよ。私達は海賊なのだから、政府の高級戦艦でも強奪すれば良いのさ。
私はジギンドにはにかみながらそう言う。そして、フレイア自治軍に打電するよう、クルーの一員に命じる。
「ノヴァ……待っていろ、我がラストシャンバラへの扉よ!」
END
___________________________
※上の参照URLは、ファジーで掲載している本作の別キャラクタ視点の物語です。
宜しかったら覗いてみてください^^
初めましての方は、初めまして! お久し振りの方はお久し振り!
何時も着て下さっている方は何時も有難うございます!
風猫と申します。
此度は、SF異能ファンタジー、ラストシャンバラを書かせてもらいます!
いつまで続くか分らないですが宜しくお願いします♪
<注意>
1.宣伝や雑談、中傷、荒しといった行為は行わないでください。
2.恐らく物凄く更新頻度は低いです。ご了承を。場合によっては一ヶ月以上あくこともあるかと。
3.突然、更新をやめる可能性があります。そこもご了承を。
更新を打ち切るときは宣伝し、ロックします。
4.感想や指摘、誤字脱字の報告などは大歓迎です^^
5.グロ描写が入ると思われます。
<お客様>
萌姫様
日向様
かの様
只今、3名様
<更新話>
ラストシャンバラ〔B〕 ——宇宙の楽園—— 第1章 楽園への鍵
第1話「ヴォルト・ジルという男に出会う」
Part1 >>6 Part2>>12 Part3 >>25 Part4 >>26 Part5 >>32 Part6 >>33 Part7 >>34 Part8 >>37 Part9 >>42
第2話「ゾディアーク・ディ・プリンセスナンバーズフイブルズ(ゾディアーク序列女性5位)」
Part1 >>44 part2 >>48
更新ごとに掲載
<その他>
>>27 モッチリ画伯絵 アルテミス・クルルシェルナ
>>29 モッチリ画伯絵 グロリアス・アックア
>>35 モッチリ画伯絵 ヘルシング・ラストヴォイド
貰い物や番外編、企画など
10/17 更新開始
- Re: ラストシャンバラ〔B〕 最後の楽園 3/6 更新! ( No.32 )
- 日時: 2013/04/13 12:40
- 名前: 風死 ◆Z1iQc90X/A (ID: 68i0zNNK)
ラストシャンバラ〔B〕 ——最後の楽園—— 第1章 楽園への鍵
第1話「ヴォルト・ジルという男に出会う」 Part5
星が光の線となって消えていく。
ダークマタ—という物質の発見により、このワープ技術は可能になった。
細かい仕組みは私は分からないが、何度経験しても凄まじいことだと思う。
光を凌駕する速度で、鉄の塊が移動するのだからな。
これがなければ、宇宙を旅するなど一生不可能だったはずだ。
ダークマターを発見し、その利用方法を開発した男は天才だと思うよ本当に。
しかし、外を見ていても風景はいつまでも星のシャワー。
いくらワープ機能を凄いと思っていても、変り映えしない世界をいつまでもみているのは辛い。
時間は2分にセットされていたか。
変わることない景色に辟易(へきえき)し私は船内を見回す。
2人とも普段喋るほうじゃないせいもあって、ダンマリだ。
さしたる話題もないまま、沈黙が過ぎる。
いや、先ほどビックニュースが入ったばかりのはずなんだが。
普通女3人集まれば、いくらクール系とか言ったって喧しくなるものであって。
静かで落ち着かない。
そう思っていたとき、アルテミスの声が静かな船内に響く。
「我が主」
言葉を切り出せないでいた最中(さなか)だ。
私は待ってましたとばかりに、アルテミスに続きを促す。
「どうした?」
アルテミスは軽く咳払いして話題を口にする。
「そういえば、フレイムはアッサーマンさんの故郷でしたよね? 彼には息子さんと別れた妻が居るって言ってましたが、息子さんの名前はなんでしたっけ?」
「ヴォルト・ジルだったかな? 急にどうしたんだアルテミス?」
わざとらしい話の切り出し方。
表情から察するに、どうやら何かを危惧(きぐ)しているらしい。
まぁ、彼女はアッサーマン氏が苦手であり、私を崇拝しているということから、大体の予測はつく。
「いえ、何となく聞いてみただけです。不本意ながら主は、アッサーマンさんに好意を持っているようですし」
やはりな。
まぁ、部下の言うことはなるべく聞くべきだとは思うが。
ここははっきり言わせて貰おう。
人の色恋に口出しするな、と。
「お前の本意とか関係ないだろう?」
「うっ、ぐ。大有りです! あんなダラしない男、貴女を伴侶(はんりょ)にするような器ではありません!」
ダラしないから何だってんだ。
それを補って有り余る能力と気配りの上手さが、彼にはあるじゃない
か。
そもそも、あれだけ有能なら少しくらい悪いところがあったほうが良いっての。
愛嬌だ愛嬌。
お前の説教はそれ完全に嫉妬だろ。
「まるで、母親だなオイ。言っておくが、私は餓鬼じゃないんだぞ?」
「そんなことは分かっています! 28歳の餓鬼なんて気持ち悪っガハッ」
「…………」
私の多少子供っぽい愚痴に、アルテミスは声を荒げる。
年齢のことはタブーだと昔にも言い聞かせたよなアルテミス。
それを口にしたら殴るぞとも私は言及した。
だから、殴って良いということで歯をくいしばれ。
横っ面を叩かれ奇声を上げ倒れこむ彼女を尻目に、カロリーナは微笑を浮かべる。
どうやら先ほどの寸劇がつぼに入ったらしい。
しかしアルテミスの奴ぐったりしたまま動かないんだが、強く殴りすぎただろうか。
少しの間、アルテミスを見詰めていると、カロリーナが声をかけてきた。
「2人とも仲が良いのはよろしいですが、そろそろ付きますわよ? 衝撃に備えて準備なさいませ」
どうやらもうすぐ、フレイム居住区着くようだ。
アルテミスもノロノロと起き上がり、衝撃緩衝用のシートベルトを着用する。
「分かったよ」
私が了承の言葉を口にした時にはすでに、戦艦は停止行動に入り周りの星達は線から点へと変化していって。
徐々に楕円から小さな点へと形を変えていく。
そして、高速で動いていた物が急停止したような衝撃。
思わず「うっ」と喘ぎ声をあげる。
そして、緩い動作で反射的に閉じた目を開いた。
カロリーナが溜息をつく。
恐らく何でこんなところに住もうとするのだろうと、思っているのだろう。
「真っ赤ですわね。恒星と見分けが付きませんわ。わざわざ、あんな惑星にまで居住する必要ありませんのに」
その先には眩く紅蓮の炎を撒き散らす天体フレイム。
あぁ、目的地まで到着したよ。
あとはノヴァをさらってしまえばことは終わりさ。
入船口(シップゲート)が何の敵意もなく、口を開いているじゃないか。
ウェルカムトゥフレイムって言ってるんだ。
まぁ、仕方ないことだよな。
通常シップゲートは船に銘打たれたコードで、こちらを識別しているんだから。
我々にとっては大したことのない軍勢だったが、おそらくは辺境の自然要塞惑星にあれ以上の戦力はないだろう。
シップゲートは通常軍部が管轄(かんかつ)している。
船の異変を感知する人の目などはないはずだ。
「いや、あの高熱地獄そのものが、セキュリティとして働いているのなら意味はあるんじゃないかな?」
カロリーナの疑問に、私は曖昧な口調で答えた。
実際ある程度以上高級なシールドがなければ近づけないのだから、防壁としての効果は相当なものと言って良いしな。
普通にシップゲートを抜けた負傷艦は、軍用船用駐車施設へと進んでいく。
どうやらオートで進むように設定されているらしい。
すべてのセキュリティを抜けて、船は自分の指定席らしい場所で止まった。
外に出ると、修理用具を持ったロボット達が成立している姿が見える。
どうやら船の様子を見て、修理をすべきと判断したようだ。
彼等を壊せば流石に異常事態発生の警報が居住区中に響き渡るだろう。
参ったなぁ。
ぜんぜん、困っってないけど。
私はカロリーナの名を呼ぶ。
「カロリーナ」
「分りましたわ。やれやれですの」
カロリーナは電機を操るアドンの持ち主だ。
それもそこらの電気使いではなく、最高クラスの応用力と最大級のエネルギー量を有する高次元のな。
所詮ロボット共など、単純な電気信号で動いているだけの木偶人形だ。
彼女にとっては容易く操ることができ、動作基準や周りの風景を誤認させるなど朝飯前ってことさ。
「船の修理頼みましたわよ」
「了解イタシマシタ」
チタン合金製の七頭身ロボット達は、見事に私達を兵隊さんだと誤認し軽々と通してくれた。
「さぁ、着いたぞフレイム居住区! 案外中は綺麗じゃないか!」
End
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第1話 Part6へ
- Re: ラストシャンバラ〔B〕 最後の楽園 4/8 更新! ( No.33 )
- 日時: 2013/05/01 19:10
- 名前: 風死 ◆Z1iQc90X/A (ID: 68i0zNNK)
ラストシャンバラ〔B〕 ——最後の楽園—— 第1章 楽園への鍵
第1話「ヴォルト・ジルという男に出会う」 Part6
地形探査装置の情報によるとどうやらフレイム居住区は、相当整備された機能的な都市らしい。
東西南北、そして中央巨大区で階級分けがなされ、さらに施設別に細分化されていく。
計算しつくされたデザインと、利便性を極限まで追求した都市機能。
これが意味していることは、私達が対象であるノヴァを発見するのが格段に容易くなるということ。
一通り、地理を確認した私達は、探査装置の情報をレーダーに転送する。
「さて、行くか」
「えぇ、さっさと終わらせてしまいましょう!」
そして移動を開始する意思を伝え合い、私達は走り出す。
「そうですね。ゾディアーク任命という大きな事情も出来ましたし。緩々とはしていられませんよ我が主」
走り出してすぐ、カロリーナの台詞を受け、アルテミスが急かすように言う。
まるで瑣事(さじ)に時間を割っている暇はないとでも言いたげだが。
正直、本音が駄々漏れだ。
「お前、絶対アッサーマン氏の故郷ってことでフレイム居住区を嫌ってるだろ?」
「別にそんなことはありません!」
何度も説明しているが彼女にとってアッサーマン氏と私が意中の関係になるのは、途轍(とてつ)もなく嫌なことらしい。
各面通りに受け取れば、普通に彼をふさわしくないと爪弾きしているだけなんだが。
私に対する崇拝からの嫉妬、或いは確立こそ低いがアルテミス自身が彼に恋慕の情を抱いているなんてことも有りかも知れん。
まぁ、とりあえず一々否定したりするところが年相応でかわいらしいということだけは言っておこう。
アルテミスって基本的にクールで頭固いから、からかいたくなるんだよ。
「しっかし、賑やかですわねぇ。何だか暇さえあったら、買い物くらいしたい気分ですわ」
一方、私達の会話にはまるで入る気がないカロリーナは、街で行われている祭りに参加したいと口にする。
戦艦ドッグを抜けるとその先は、相当なお祭り騒ぎ。
屋台や的屋、移動型の売買車など所狭しと溢れ返っていた。
昼間から酒を飲む者、買い物や遊びに興じる者など様々だが、規模から察するに都市全体を巻き込んだ大祭のようだ。
特に目を引くのは、上空を飛ぶ巨大な扁平型の船。
どうやらその船がイベントの目玉らしい。
市民達の多くが船をときおり羨望の眼差しで見ていることからも間違いないだろう。
選ばれた者しか直接乗り込むことはできないってところか。
「悪いがその暇はないから、我慢してくれカロリーナ」
「分かってますわよ。さっさと終らせましょう!」
一応、周りの状況を確認してから、私はカロリーナに無理だと告げる。
カロリーナはさして気分を害した様子も無く頷く。
我々は機械の眼を強引に欺(あざむ)くことにより、街区に到達したがそれも時間稼ぎに過ぎない。
いづれは対策機能が作動し、ロボット達も異変に気づくはずだ。
そうなってからは情報の伝達は速い。
すぐに我々はお尋ね者として顔が知れるようになるだろう。
いかにカロリーナの電気能力が強力でも、せいぜいあと20分かからないはず。
急いだほうが良いと、言外に私は2人に告げる。
その時。
「おっ、お客さん! 外来客かい!? どうだい、内自慢のカルパッチョはいかがかな!」
後ろからしゃがれた声。
私は振り返りもせず断った。
「遠慮しておく」
「そう言わずに!」
しかし、売り上げのノルマがあるのだろうか。
相手も食い下がってくる。
そのまま振りきることもできたが、時間的にはまだ多少の余裕があるので興味本位で、今行われている祭りが何なのか問う。
「……そう言えばこの騒ぎはなんだ?」
私の問いに男性は不思議そうな声音を上げるが、すぐに答えてくれた。
「おやっ、お客さん。サンファンカーニバル目的で来たんじゃないのかい?」
「サンファン!? なるほど通りで賑わってるわけだな」
「ちょっ、お客さん! 結局なにも買わねぇのかよぉ?」
サンファンカーニバルか。
通りで。
ガルガアース近辺の厳重種族が最もする崇拝する神サン・ファンを祭る5年に1度しか開かれぬ大祭。
地球軍連邦自治領内においても、最大級に敬愛される神の1つだ。
なるほど、こんなことを失念しているとは浮かれすぎだな。
後ろから聞こえる店主の愚痴は無視し、私達は走り出す。
疑問が氷解し動きが軽快になった気がする。
やはりどんな小さなことでも解明しておいたほうが、心はすっきりするものだな。
しばらくまっすぐ走っていると、レーダーの反応を見ていたアルテミスが一言。
「東区。そういえばアッサーマンさんの住居があるのは、東部とか言ってましたよね」
私ははっとなってレーダーの地図を注視する。
たしかに東区に入ったことが表記されていた。
まさかな。
アッサーマン氏の息子に会うなどということは。
ははっ、馬鹿か。
少女漫画じゃあるまいし、東区と1口に言ってもそれなりに広いじゃないか。
咳払いする私に被せるように、カロリーナがアルテミスをからかう。
「アルテミス、意識しすぎですわよ? むしろ貴女が彼を狙っているように見えてしまうのですけど?」
あぁ、実際それは私も危惧していたことだ。
お前にまで言われると、本気で意識しないといけなくなるから止めてくれ。
「ばっ馬鹿な!? 私はあんな奴、大嫌いだ!」
全力でアルテミスは否定しているが女は役者と言うし……油断はならん。
お前も雌だろとか突っ込みは認めない。
「大声で否定するなよ? 分りやすい」
アルテミスの本音を聞きだしたいと私は粘ることを選択する。
しかしアルテミスは素気ない顔で、話題をずらした。
「近いですね。あと、100mあるかないか……」
「逃げるなよぉ?」
「ふざけないでください! 主こそ本旨をお忘れでは!?」
アルテミスの計算は正しいようだ。
どうやらすでに対象を目視できるかもしれない位置に、我々はいるらしい。
最後にしぶとくアルテミスに問うが、結局厳しい声で振り切られ終わった。
舌打ちをし、主目的を完遂(かんすい)することに心血(しんけつ)を注ぐことを決める私。
付属のズーム機能を使う。
限界まで拡大したところで私は驚く。
いや、他の2人も。
「おいおい、冗談だろう? ノヴァが人の形を取っているなど……」
「この少女がノヴァかどうか私に図りかねますが、となりの少年、彼氏というべきか? でしょうか、誰かに似ているような」
「アッサーマン様にそっくりな顔立ちですわね」
拡大画像に記された情報。
それは私達に2つの驚愕をもたらした。
1つは今回のノヴァが人間型であること。
今まで幾つものノヴァを手に入れてきたが、一切生物型を取ったものは発見していない。
勿論、情報として聞いたことも。
今までも気になってはいたんだ。
なんで動くことのできないはずのノヴァが、移動しているんだってこと。
有りえないと否定していただけで。
まさか真っ向から否定したことが現実になるとはな。
そして、そのノヴァと常に寄り添うように写る少年。
アッサーマン氏そっくりじゃないか。
髪の色や目の色などからも、形質を受け継いでいる可能性は十分だ。
「全く、今日は退屈しないな」
不意に愚痴がこぼれる。
どうやら、疲れているらしい。
いつにもまして新しい出来事が多い、楽しい1日だよ全く。
End
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第1話 Part7へ
- Re: ラストシャンバラ〔B〕 最後の楽園 4/17 更新! ( No.34 )
- 日時: 2013/05/01 19:09
- 名前: 風死 ◆Z1iQc90X/A (ID: 68i0zNNK)
- 参照: 今回から1レスの文字数を減らしました
ラストシャンバラ〔B〕 ——最後の楽園—— 第1章 楽園への鍵
第1話「ヴォルト・ジルという男に出会う」 Part7
「どうしますか我が主?」
「どうしますって、どうしますもこうしますもないだろう?」
想定外の事態に戸惑うアルテミス。
そんな彼女に私は告げる。
想定害だろうがなんだろうが、結局私等海賊だぜ。
やるこたぁ同じだろうがってな。
アルテミスは溜息を1つつく。
そして、愚痴をこぼす。
「貴女に聞いた私が馬鹿でした」
「そういうことさ。では、私から行こう」
私はアルテミスの言を無視し走りだした。
そして、目標をすぐ補足する。
なぜアルテミス達を制止して、自分から行ったのかは明白だ。
アッサーマン氏の息子に興味があったから。
ただそれだけ。
時間的には存分にあるし、遊ぶことくらい許されるだろう。
「見付けた」
視界にノヴァとアッサーマン氏の息子そっくりな青年が映る。
青年の目は彼と同じ青で、髪の色はブロンズ。
中肉中背で物憂げな表情がアッサーマン氏とそっくりだ。
服装のセンスはヘヴィーメタル系で、彼と比べると落ち着きが足りないがそもそも半分も年を取っていないはずで、沈着さが足りずとも当然と言えるだろう。
一方、その青年に寄り添う少女は相当の美人だ。
横にまかれたツインテールと、夜の帳にも似た漆黒の髪が特徴的な活発な少女。
だが機械の間違いでなければ、間違えなく彼女はノヴァ。
生物ではない。
では、始めようか。
相当青年はノヴァにご執心だが、どういう行動をするかな。
私はアイドル候補を探すスカウトマンのように、青年達に歩み寄る。 ちなみに私の服は自分の意のままに、姿かたちを変えることが可能だ。
すぐさま王手アイドルグループスカウトマンの正装をよそおう。
ちなみに相当高くて、わりと故障しやすいのは難だ。
「そこの君! そこのツインテールの君だよ!」
「ほぇっ?」
ツインテールの少女は、突然の声に驚いて可愛い声で鳴く。
私は間髪いれずに続ける。
「そうそう、君だよ君! いやぁ、溌剌(はつらつ)とした笑顔、綺麗な肌に可愛らしい声! 私はまさに君のような存在を求めていたんだ。どうかな?」
「どっどうかな、とは?」
どうやら意外なことに、余りスカウトとか受けたことが無いのだろう。
少女の姿をしたノヴァは戸惑い、頬を赤らめた。
そこに青年が割ってはいる。
「ちょっと待てよ。あんた何者だ? ノヴァをどうする気だよ、しらばっくれるんなら1つ教えてやるぜ! この区にココルギネアのスカウトマンが来るとかありえないってな」
「へぇ、意外と警戒心が強いんだな。フレイム居住区の連中はかなり警戒心が緩いって、ある人から聞いたんだけどなぁ」
へぇ、そういうことか。
てっきり、女を取られたくないとかそんな感情で止めに入ったのかと。
成程。
この区は勧誘誘拐対策に有名会社の参入を、なるべくできないように制限しているんだな。
そしてこの青年はすぐにココルギネアの制服を見破った。
このフレイム居住区じゃ珍しいはずの、ともすればただのスーツにも見えるこの服装を。
さて君が食らいつくべきフレーズを私は出したが、青年よどういう反応をするかな。
見物だ。
「なぁ、あんたある人から聞いたって言ったな? 誰だ!?」
よし、正解だ。
戸惑うノヴァを心配させないように、抱き寄せているところも高得点だぞ。
「おい、答えろよ!」
青年が沈黙に耐えかね声を張り上げる。
フレイム居住区、ここには1つの宇宙記録があるのだ。
それは年間で他の星に移動する人間が最も少ないということ。
私は含み笑いをしながら唯一言。
「アッサーマン」
「親父……だと!?」
青年の目が大きく開かれる。
動揺がありありと伝わる驚きよう。
そして、こぼれる無意識の言葉。
「やっぱりか、君はヴォルト・ジルだな?」
End
___________________________
第1話 Part8へ
- Re: ラストシャンバラ〔B〕 最後の楽園 4/28 更新 ( No.35 )
- 日時: 2013/05/01 15:46
- 名前: 風死 ◆Z1iQc90X/A (ID: 68i0zNNK)
- 参照: http://www.kakiko.info/upload_bbs/index.php?mode=article&id=403
本レス参照URLはモッチリ様作ヘルシング氏です。
まだ、登場はしばらくかかるですが、渋いオッサンの魅力素敵!
- Re: ラストシャンバラ〔B〕 最後の楽園 4/28 更新 ( No.37 )
- 日時: 2013/08/14 21:35
- 名前: 風死 ◆Z1iQc90X/A (ID: 68i0zNNK)
ラストシャンバラ〔B〕 ——最後の楽園—— 第1章 楽園への鍵
第1話「ヴォルト・ジルという男に出会う」 Part8
「どういうことだ、何であんた俺の名前をっ!?」
瞳孔を全力で見開いて少年は怒声をあげる。
どうやら冷静を失ったようだな。
答えはすでに言っているはずだが。
「その発言は可笑しいだろう? 私は君の父親と仲が良いんだよ」
「あんなっ、あんな奴は父親じゃない!」
何の感情も伴(ともな)わない声で私は質問の答えを提示した。
どうやら随分息子さんには嫌われているみたいだよアッサーマン氏。
はぁ、正直、血統なんてのは否定するだけ空しいだけだと思うんだけどな。
分かりはするよ。
大量殺人鬼や社会のクズが親だって言ったら、そりゃぁ否定したくもなるさ。
面白そうに笑ってみせると、ついに彼女気取りのノヴァが口を開いた。
結局のところ1人の青年をからかっているだけにしか見えんからなぁ、今の私。
「ヴォルト!? なっ、何なんですか貴女!? いったい、私達に何のようなんですか!」
「あぁ、実際に用があるのはあんたの方なんだがな?」
「何で!?」
私に恐怖があるのだろうか。
随分と声は震えているが。
全く何と出来の良いアンドロイドだよ。
しかし、どうやら自分を普通の人間と認識しているコイツは、自らがどれほど重要な存在か気付いていないらしい。
1歩足を進める。
危険を悟ったのかヴォルト・ジルが喚くノヴァの手を強引に握って走り出す。
「ノヴァ、逃げるぞ!」
「ちょっ、ヴォルト!?」
戸惑うノヴァを無視し阿修羅のような形相を浮かべて、一目散に黄色い燐光を放つ円形の何かへと吸い込まれるように。
「ほぉ、テレポートマシン。まぁ、君達がどこに行こうが逃げ切ることなんてできないと思うがな」
どうやらその円形の正体はテレポートマシンだったらしい。
改めてこの居住区の技術は凄まじいなと感動を覚える。
やけに飛行車両やバイクといった車両類が少ないと思っていたが、交通事故を起こさないほどにテレポートマシンが設置されているからってことか。
最も。
私にはテレポートのアドンを保有しているし、この探索機が有る限りノヴァを逃すこともなく。
すでに積んでいるなど、考えたくも無いんだろうな。
それで良いんだよ。
人は認めたくない現実から目を背ける生き物なのだから。
アッサーマン氏の息子ということで期待していたが、実際こんなもんだよ。
むしろ上出来だったといえる。
さて、縁もたけなわ。
遅れてきたアルテミス達も到着したようだし。
次の接触で最後の試験と行こうか。
「我が主、ガルガアースに入ってから10分が経過しています。そろそろ遊ぶのも止めた方が良いでしょう!」
やれやれ、こちらの思惑に少しは合わせてくれよ。
いきなり説教ですか。
「我が主、ガルガアースに入ってから10分が経過しています。そろそろ遊ぶのも止めた方が良いでしょう!」
「分かってるさアルテミス、だがもう少し粘っても良いじゃないか?」
はぁ、ボスの駄々は聞くものだぞぉアルテミスぅ。
ほらさ、リーダーの気紛れを得ることができるのは、そういう空気読む奴だ。
私の我侭にちっとも分かっていないと不満げな表情を浮かべるアルテミス。
「そういうの分かってるって言いませんわよクリミア?」
当然のようにカロリーナからも突込みが入り。
もう私完全アウェーだが。
やっぱり、気になったことを無視するのは性に合わない。
「ははは、そうだな。訂正しよう、全然分かってない」
「…………」
「さてと、次の接触で終わりにするぞ」
2人とも、どうやら女ってのは何歳になっても恋する乙女らしいぞ。
こんなリーダーを持ったことを後悔してくれ。
まぁ、そんなこと言っても合理的なつもりだ。
最悪のことは予想して行動しているさ。
やっぱり、小組織のリーダーって最高だよな。
End
___________________________
第1話 Part9へ