二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

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【ボカロ】月花の姫歌【コメ募集><】
日時: 2012/02/18 20:07
名前: 奏 (ID: z070pZ.J)
参照: http://www.youtube.com/watch?v=m0_gHHcLV6M

こんにちは、奏と申します(・ω・*)

二次小説が紙と映像にわかれる前、
悪ノシリーズの小説を書いていたんですが・・・覚えてる方・・・いないよなぁ((


というわけで、自分が大好きだった『月下ノ姫歌』という曲を
今回は書いていこうと思います。
(小説タイトルの「ノ」がひらがなになっているのは仕様です)


原曲は上のURLです。
ニコ動での本家はもう消えてしまっています。

そして、今回の小説ではササキさんという方のPVを参考にさせていただきます。

※最初はPVを参考にさせていただいているので「映像」のほうで書いていましたが
 元々は音楽なのでこちらに移しました。


基本的にぶっつけで書いていきます。よろしくお願いしますm(__)m

【原曲】
「月花ノ姫歌」
作詞 リョータイ
作曲 秦野P
唄  鏡音レン

【参考PV】
>>1

■ 登場人物 ■

* 漣/レン

お面をつけた神の子。
他と姿が異なっており蔑まれている。
周りの人の気持ちに鈍感ではあるが、心優しい少年。


* 柚葉/ユズノハ

迷子になり漣と知り合った少女。人間。
純粋で真っ直ぐな心を持っている。
漣のことが好き。通称「柚/ユズ」


* 神様(菱月/ヒシツキ)

漣の親であり、師である存在。
漣の話し相手となっている。
過去に大きな罪を背負っている。


* 神の子

漣と同じように生まれてきた存在だが、姿形は漣と異なる。
(本来はこちらの姿が正しい)
周りと違う漣を馬鹿にしている。


* 耶凪/ヤナギ

神の子の1人。
他と違って心優しく真面目。
漣のことをいつも気にかけている。


* 老人

紙芝居の老人であり柚葉の祖父。
たまに子供たちに玩具を作ってあげることもある。
(物語の中では現在亡くなっている)


* 蔦葉/ツタノハ

柚葉の曾祖母。心優しく明るい女性。
神様と愛しあってしまった。
漣の母親でもある。



漣(レン)以外のキャラはボカロではありません。


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Re: 【ボカロ】月花の姫歌【コメ募集><】 ( No.93 )
日時: 2012/03/31 13:11
名前: 奏 (ID: A6qXPnRR)


>>92 神無月飛鳥s

うおぉ!?分かりますよ!
来てくださってありがとうございます(´Ⅴ`*)

なるほど、レン廃ですかww
自分もレン好きですww

いえいえ、書くことがまとまらなくて
今は結構ぐちゃぐちゃになってるので、文章力は皆無ですw

オリキャラについて確認しておきました、了解です!
こちらも、オリ妖怪は駄目って書いてなくて
紛らわしくて申し訳ありませんでした;;

Re: 【ボカロ】月花の姫歌【コメ募集><】 ( No.94 )
日時: 2012/03/31 15:28
名前: 奏 (ID: A6qXPnRR)



「・・・え?」

「・・・信じない?もう10年以上経ってるからね。
 
 私も最初は疑っていたけどね、気配は完全にあの子だ。」

神様の話によると、

神様が蔦葉の墓から立ち去ろうとしたときに柚葉が訪れ、

早朝にも関わらず、自分の祖父と蔦葉の眠る墓に向けて手を合わせた後、

水をかけながらの掃除を始めたらしい。

神様は柚葉に気づかれないように、すぐに物陰に身を潜めたために言葉を交わすことはなかったが、

あの百合の香りの混じる気配は、明らかに柚葉だったという。

「でも、柚ちゃんは他の人の所に・・・。」

「行ったとしても、ここに足を運ぶことはあるんじゃないかい?
 
 あそこには、大事な柚葉の祖父が眠っているんだから、墓参りにも来るだろう。

 それに、柚葉の実家だってある。訪れても不思議じゃないさ。」

「・・・・・・・・・。」

漣は驚きのあまり言葉を発することができなかった。

その隣にちょこんと座る耶凪も、目を見開いた。

「・・・教えるべきではなかったかな・・・?」

「ソ、ソンナコトナイ!」

耶凪が慌てるように否定する。

「神様、柚葉ヲ見タノハ墓ノ所ダヨネ!?」

「え、あぁ、そうだけど・・・。」

神様がそれを言い終える前に、耶凪は社の階段から飛び降りた。

振り返ることもせず、あっという間にその小さな影は竹林の中に姿を消した。

「ちょ・・・耶凪っ!!」

置いていかれた漣は、ちらりと神様の方を向いた。

神様は、少し驚いたような表情を見せたが、

すぐにまた穏やかな微笑みを浮かべた。

「・・・い、いいんですか?」

「何がだい?」

「・・・だって、耶凪は多分、柚ちゃんに会いに行ったんですよ・・・?」

「ま、予想はしていたけどね。

 耶凪、ここ数年ずーっと暗かったし。」

「・・・でも、柚ちゃんに会うことは・・・。」

“いけないことだ”

そう口にしたとき、神様はゆっくり立ち上がって

仕方ないな、という風に笑って言った。

「ねぇ漣。」

「は、はい。」

「耶凪のこと、迎えに行って来てくれる?」

「え・・・で、でもっ。」

耶凪を迎えに行くということは、耶凪についていくこと、

つまり柚葉に会うに行くことと同じだ。

神様はそんなこと気にしていないように笑いながら背を向ける。

「急にあんなに活発に動き出すなんて・・・

 何をするか分からないからさ、耶凪のこと、頼んでもいいかい?」

「・・・・・・・・・はい。」

漣は、ほんの少しの罪悪感に苛まれながらも、

最近はほとんど足を運ばない、竹林を抜けた先へ足を進めた。

もう10年以上会っていない柚葉。

初めて柚葉に会ったあのときから、別れるまでの期間とほとんど同じ。

知らぬ間にそんなにも年月が経ち、

一生自体がとてつもなく長い漣たちにとっては

たった10年前のことを記憶するなど容易いことなのだが、

人間である柚葉が、その当時のことを明確に覚えているかなど自信はない。

「・・・もうあれから10年ってことは・・・26歳。

 あ、でももうすぐ27歳ってところなのかな。」

そんなことをぶつぶつと呟く。

正直、柚葉に会うのが少しだけ怖い。

一番に考えるのは、柚葉が自分のことを覚えていなかったら、ということ。

そして次に頭の中を巡るのは、

再び柚葉の姿を見て、また離れられなくなるのではないか、ということ。

「・・・今柚ちゃんには“家庭”ってものがあるんだよね・・・。

 多分きっと、そこに僕の入る隙なんてないし・・・。

 やっぱりここは、会わないでおくべきなんだろうな。」

色々な考えを巡らせて、色々な考えを呟いて歩いているうちに、

墓の近くまで来ることができた。

しばらく時間が経っていたが、まだ辺りは薄暗く、太陽はその光を見せない。

そのせいか人通りも全くなかった。

「・・・・・・耶凪。」

なるべく小声で、すぐ目の前の茂みに身を潜める小さな影に声をかける。

「・・・ア、漣・・・。」

漣が来ることを予想していたのか、

急に声をかけられたことにも、耶凪は驚きを見せなかった。

「アレ。」

耶凪が指を差す。

その先には、一人の女性が墓に花を供えているのが見えた。

耶凪がこそこそと話す内容によると、

耶凪がこの場所に辿り着いたとき、ちょうど掃除が終了したという。

ふわりと漂う百合の香り。

懐かしい、柚葉の気配。

「・・・・・・あれ、本当に柚ちゃん?」

「多分・・・手首、見テミテ。」

漣は少しだけ身を乗り出して、目を閉じ手を合わせる女性を見た。

黒髪を綺麗に結い上げ、手を合わせる女性。

白い手には、ところどころ皸のようなものができている。

そして、手首に巻きついているもの。

赤紫色の紐。

そして、そこに括りつけられた小さな鈴。

「・・・あれって・・・。」

柚葉が耶凪を呼び出すときに使っていた、あの鈴だった。


Re: 【ボカロ】月花の姫歌【コメ募集><】 ( No.95 )
日時: 2012/04/06 22:18
名前: 奏 (ID: 0L0ONGC.)


茂みの中からしばらくその光景を眺めていると

不意に耶凪が、ぽつりと漣の名を呼んだ。

「・・・漣・・・?大丈夫?」

「え?」

漣の手の甲に、ぽとりと雫が落ちた。

温かい雫。

気づくと、ぽろぽろと涙が溢れてきていた。

「え・・・あ、あれ・・・?」

耶凪にも、漣本人にも、涙が出ている理由など分からない。

10年以上ぶりの再会に対しての嬉しさからなのか、

それとも、再会したにもかかわらず何も出来ない自分に対する悔しさなのか。

乱暴に着物の裾でその涙を拭き取る。

そのとき、

綺麗になった墓に向かって手を合わせていた柚葉が、

落ち着いた声で墓に、いや、祖父に語りかけ始めた。

声は昔より大分落ち着き、大人っぽくなっている。

「・・・おじいちゃん、お父さん、ごめんね、なかなかお墓参りに来れなくて。

 これからもあんまり来れないけど、ちゃんと、掃除しに来るからね。

 それと、私、元気でやってるよ。

 最初は嫁ぐことも無理やりだったから不安しかなかったけど、今はもうそれにも慣れちゃったし。

 それなりに幸せに過ごしてるから、心配しないでね。」

柚葉は立ち上がり、今日まで供えてあった萎れかけの花と掃除に使った道具を抱える。

「・・・・・・久しぶりだな・・・ここに来るのも。
 
 お父さんが死んじゃったって聞いて、慌てて帰ってきたとき以来かな・・・。」

柚葉の父は、どうやら柚葉が嫁いで間もないうちに亡くなってしまったらしい。

漣も耶凪も、恐らく神様も、それは知らなかっただろう。

「・・・漣、柚葉ノアト、ツケテミヨウ。」

「え、な、なんで?」

「ソシタラ、柚葉ノ家分カルデショ。」

「・・・・・・でも・・・それを知ったって僕は・・・。

 あれ、そういえば耶凪は、なんでここに来たの?

 柚ちゃんに会うためじゃなかったの?」

「・・・会ウツモリナンカ最初カラナカッタヨ。」

「え?」

「会ッチャイケナイコトハ分カッテルシ、

 漣モキット、柚葉ニ会ワナインダロウナッテ思ッテタカラ。

 ・・・デモ、何モシナイワケニハイカナイ。」

漣から目を逸らした耶凪は、

なるべく音を立てないように茂みを掻き分けて進んでいった。

漣も慌ててその後を追いかける。

「・・・でも耶凪、もし柚ちゃんが僕のこと覚えてなかったら、

 そんなことしてもただ無駄になるだけだと思うんだけど・・・。」

「・・・忘レル?柚葉ガ、漣ノコトヲ?」

「・・・・・・・・・うん。」

耶凪は茂みを掻き分ける手を止めて、くすっと笑った。

「・・・見テミナヨ。」

漣の方を向いた耶凪は、どことなく楽しそうで、

これまでずっとぼんやりと過ごしていたとは思えない。

漣は耶凪に促されるままに、耶凪より前のほうに出る。

どこかへ歩を進めていたはずの柚葉は、

なぜかピタリと止まっていた。

どこか遠くの方を、ただぼんやりと見つめている。

「・・・・・・漣くん、どうしてるかな・・・。」

透きとおった声が、静かな空間に響いた。



「・・・ネ、忘レテナンカナイデショ。」

「・・・・・・。」

「オット・・・マタ泣イタリシナイデネ。」

見透かしたようにくすくすと耶凪は笑う。

漣は言葉を失った。

柚葉は、寂しげな表情をして、またゆっくりと歩き始めた。

「・・・行クヨ、漣。」

茂みから飛び出した耶凪は、

漣自身の決断を待っているようだった。

無理やり連れて行こうという気は全くないらしい。

漣は、耶凪を迎えに行くように頼まれていたこともすっかり忘れ、

風に揺れる、結い上げられた綺麗な黒髪を求めて

茂みを飛び出した。


Re: 【ボカロ】月花の姫歌【コメ募集><】 ( No.96 )
日時: 2012/04/13 22:37
名前: 奏 (ID: pzhIgNqi)



それから一時間ほど経過しただろうか。

少しずつ日は昇り始め、辺りは明るくなっていた。

景色はすっかり、見慣れないものになっている。

「・・・まだ朝早かったなぁ・・・。

 もう少しゆっくり出てきても良かったかも。」

柚葉は何度か独り言を呟いていた。

その後ろを、気づかれないように漣と耶凪がついていく。

「ねぇ、耶凪・・・いつまでついていくの?」

「柚葉ノ家マデ。」

「・・・すっごい遠いところだったらどうするの?」

「ソノ時ハソノ時。」

相変わらず、こういうときの耶凪の計画性のなさは安定だ。

それでもこうして楽しそうにしている耶凪を見ると、

怒る気にも呆れる気にもならない。

気づくと周りにはほとんど家らしきものが見当たらなかった。

あるのは、ぽつりと孤立した小さな家。

柚葉は足を止め、その家に向かって行った。

「・・・一旦隠レヨウ。」

「うん。」

二人は物陰に身を潜める。

柚葉が家の戸に手をかけようとしたとき、

突然その戸がガラガラと音を立てて開いた。

「・・・っと、驚いた・・・柚葉か。」

「あ、睦月さん。おはようございます。」

「おはようございますって・・・全く、朝早くからどこに行っていたんだい?

 あの子たち、君がいないーってさっきまで騒いでたんだから・・・。

 出掛けるなら置手紙くらい残しておいてくれよ。」

「すいません、ちょっとお墓参りに。

 ・・・ん?置手紙ならちゃんと残して行きましたよ?玄関に。」

「・・・お、おや?そうだったかな?」

家の中から出てきた、優しそうな男性は

焦るように後頭部を擦りながら、再び家の中に入って行った。

かと思うと、一枚の小さな紙を片手に

また外に出てくる。

「・・・ふふっ、ありましたね。」

「そうだね・・・すまない。」

「いえいえ。」

クスクスと笑う柚葉と、照れくさそうに微笑む男性。

その二人の姿は、誰がどう見ても・・・。

「・・・アノ人・・・。」

「たぶん、柚ちゃんの旦那さん。」

「・・・ヘー・・・。」

耶凪は既に何を言ったらいいのか分からなくなっているようだ。

漣は、こんなことになってはいるんだろうな、と覚悟はしていたつもりだったが、

居心地の悪さから、無意識のうちに柚葉たちから視線を逸らしていた。

「お母さん!」

家の中から、突然小さな少女が飛び出してきた。

見た目4、5歳といったところだろう。

背に、彼女よりも小さな子どもをおぶっていた。

「あぁ、ごめんね華葉。」

「おや?月弥はいつの間に眠ってしまったんだ?」

「・・・なんか、お母さんがいなくて泣き疲れたみたい。」

「そう・・・ごめんね、すぐに朝ごはん準備するから。」

4人の人影は、

しばらくして全て家の中へ入って行った。

「・・・・・・漣?」

耶凪が漣の方を振り返ると、

漣は家とは真逆の方向を向き、

ちょこんと小さく座りながら目を静かに閉じていた。

「・・・ネ、漣ッテバ。」

「・・・・・・え、あ、あぁ、ごめん、何?」

「・・・イヤ・・・。」

いくら二人のことを覚えているといっても、

今の柚葉に、家族がいるということに変わりはない。

恐らく、「睦月」と呼ばれていたのが柚葉が嫁いだ先の男性。

そして、「華葉」「月弥」と呼ばれていたのが二人の間に生まれた子どもだろう。

今の柚葉には今の柚葉の幸せがある。

それを邪魔する権利など、きっと誰にもないのだ。

改めてそれを目の当たりにした漣は、

受け入れた素振りをしながらも、心の奥底では拒否し続けた。

耶凪は、漣の着物を掴んだ。

「・・・・・・ゴメン。」

「なんで謝るの?」

「ソレハ・・・・・・。」

耶凪は答えに戸惑っていた。

今回のことに関しては、悪い人など一人もいない。

ここ数年退屈を満喫していた耶凪だ。

柚葉を見つけたことで、体が勝手に動くような気持ちを味わってもおかしくない。

漣は小さくくすっと笑った。

「・・・?」

「いいよ、謝らなくて。分かってたことだから。」

漣は、耶凪の小さな手を握った。

「・・・帰ろう。」

「・・・・・・ウン。」





それからしばらく柚葉の姿を見かけることはなかったが、

1年に何度かは足を運んでいることが分かった。

・・・それでも、今までの待ち合わせ場所に留まるわけではなかった。

それから5年ほど経った。

再び待ち合わせ場所に向かうようになった漣は、

たとえいつもの独り言の主であった柚葉がいなくても、

しばらくはその場でぼうっと景色を眺めることにしていた。

一方の柚葉は、もう30歳を超えている頃だろう。

そんなことを日々考えていると、

その出来事は訪れた。

いつものように待ち合わせ場所に赴くと、

いつか見た、綺麗に結い上げられた黒髪を持つその女性が、

大きな岩に腰を下ろし、一人空を眺めていたのだ。

「・・・・・・・・・え?」

さぁっと爽やかな風が吹き抜ける中、

その女性の手首に巻かれた鈴が、チリン、と鳴った。


Re: 【ボカロ】月花の姫歌【コメ募集><】 ( No.97 )
日時: 2012/04/19 21:16
名前: 奏 (ID: Z6SnwTyI)


小さく疑問だけを表す言葉をぽつりと呟く。

それが聞こえていたのかいないのかは定かではないが、

柚葉がゆっくりと漣の方を振り向こうとする。

「・・・!」

慌てて漣は、昔のように陰に隠れて息を潜めた。

どうしてここにいるんだろう。

そんな言葉を何度も何度も頭の中で廻らせながら。

陰から、気づかれないように顔を覗かせて柚葉の方を見やると、

柚葉は穏やかに微笑みながら静かに遠くの方を見つめていた。

この場から出て行って、柚葉と再び言葉を交わすことができたらどんなにいいだろう。

いや、むしろこの場から立ち去り、その未練を断ち切ることが出来たらどんなにいいだろう。

それでも、漣にはどちらの行動もとることができなかった。

その場に座り込みながら、ただじっと動かずにいた。



それから数分。

百合の花の気配は止むことなく、柚葉もそこから立ち去る気配はなかった。

流石にこのままというわけにもいかないので、

気づかれないように社に戻ろうかどうしようか迷いながら

少しだけ腰を浮かせたそのとき、

いつか聞いたことのある、涼しげな男性の声が響いた。

「柚葉、ここにいたんだね。」

「あ、睦月さん。・・・あの子たちはどうされたんですか?」

「あぁ・・・君のお母さんに随分懐いてしまったようでね。

 しばらく離れてくれなさそうだったから、お願いしてきたんだ。」

「ふふ、そうですか。」

「・・・困らせてしまったかな、君のお母さんのこと・・・。」

「まさか、むしろ喜んでいると思いますよ。

 ・・・私もなかなかこっちに帰ってこれないから・・・。」

やってきたのは、睦月という名の、柚葉の夫である男性。

漣はその姿を見ると、浮かせた腰をまた地に下ろした。

睦月は、優しげな表情を浮かべて、微笑む柚葉に尋ねた。

「それで君は・・・ここで何をしていたんだい?」

「え?・・・あぁ・・・えっと、ちょっと昔のことを思い出してました。」

「昔のこと?」

「・・・ええ。私がすごくすごく小さくて、普通の子なら無邪気に遊び回るような・・・

 それくらい幼い頃のこと、なんですけど・・・。」

「なんだい、それは。」

「・・・私近所に仲のいい子がいなくて、遊ぶ相手がいなくてつまらなかったんです。

 そんなとき、ここで、とある男の子と会って・・・何年も何年も、私と一緒に遊んでくれたんです。」

睦月は、不思議そうに首を傾げ、重ねて尋ねる。

「その子はどこに?」

「さぁ・・・私が嫁ぐときに見送ってくれて・・・それが最後でしたから、
 
 今何をしてるかは分からないし、どこにいるかも分かりません。

 でも、ここに来たら、いつかまたひょっこり顔を出してくれるんじゃないかな・・・って。」

漣はびくりと肩を震わせた。

柚葉は完全に、漣のことを覚えている。

そして今でも・・・心のどこかで待っててくれている。

そう思うと、どうしても未練が断ち切れずにいた。

「君の話すことは面白いね。・・・その子はどんな子だったんだい?」

「・・・えっと・・・物静かで、不思議な雰囲気を持つ男の子でした。

 何もかも見透かされてるようだったけど、全然そんなことなくて鈍感で・・・。

 それでも・・・すごく、すごく優しい男の子でした。」

「・・・・・・なんだか、君が他の男の話をすると、少し妬いてしまうな。」

「ふふ、止めてくださいよ。」

柚葉は困ったように笑っていた。

その微笑みがどういう意味を持つのかは分からない。

ただ、今柚葉が愛するべきなのは、漣ではなく、睦月だ。

「さて、一度戻ろうかな。

 君も、早く中に入らないと風邪をひいてしまうよ?」

「はい。」

睦月はにこりと笑い、そのままその場を立ち去った。

柚葉はゆっくり立ち上がり、竹林のほうに顔を向けると、

数歩、その薄暗い竹林に足を踏み入れる。

「・・・やっぱり、駄目だね。」

ぽつりと呟き、柚葉は傍に咲いていた花を竹林の入り口に置くと、

今まで座っていた岩の所まで引き返した。

立ち去ろうとし、躊躇い、立ち止まる。

「・・・漣くん、もしいたら、聞いて。

 私、漣くんのことも、耶凪ちゃんのことも、忘れたことないよ。

 今は別の家族があるけど・・・今でも、ずっと、漣くんのこと大好きだから。

 ・・・だから、また会えるって信じてる。

 ・・・あ・・・会わなきゃお面返せないんだった・・・。」

最後にしまった、というような顔をし、

小さくくすりと笑った柚葉は、そのまま踵を返して立ち去っていった。

誰もいなくなったその場所で、漣は陰から飛び出す。

そっと横たわるその花を手に取った。

白い花弁の上に、ぽたりと雫が落ちる。

「・・・・・・・・・っ・・・僕だって、会いたいよ・・・。」

柚葉は漣が見ていることなど何も知らない。

自分の行動が一方通行であることに、もどかしさを感じた。






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