二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
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- 東方 『神身伝』
- 日時: 2010/05/10 14:23
- 名前: お (ID: Gx2AelYh)
弾幕STG、東方プロジェクトの二次創作小説になります、かなりグダグダで、オリジナル設定にオリジナルキャラクター等が多数に登場するため、そういった物が苦手、もしくは受け入れられない方々は回覧を御控頂きますようお願い致します。
文章力、語学力、表現力に乏しいため、読んでいただく方に、かなりのご迷惑をおかけするかもしれませんが、それでも一生懸命に妄想し、一生懸命に製作していきたいと思っておりますので、どうぞよろしくお願い致します。
後、投稿方法等も曖昧にしか解っていないため、ページの区切り方等も不自然になったりする事もございますので、どうかご了承下さい。
そして、ご意見やご感想など頂けますと幸いに思います。
物語概要
とある青年、水上冬馬(みなかみとうま)はある日のバイトの帰り道に、不思議な狼に出会う。
その出会いが、彼を幻想の世界へ導くと同時に、壮大な戦いの渦へと巻き込んで行く。
現世と幻想、そして、もう一つの世界、全てが繋がる時、伝説は幕を開ける。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜目次〜〜〜〜〜〜〜〜〜
プロローグ
>>1
第一章 出会い
>>2>>3>>4>>5>>6>>7>>8>>9>>10
間行
>>12>>13
第二章 日常の終わり・非日常の始まり
>>14>>15>>16>>17>>18>>19
第三章 幻想郷
>>20>>21>>22>>23>>24>>25
- 章=第一章 出会い ( No.2 )
- 日時: 2010/05/07 14:20
- 名前: お⑨ (ID: a32fGRWE)
ピピ、ピピ、ピピピピピピピ
ガタン
「んん〜」
仕事を全うしようとがんばる目覚まし時計を、荒々しく叩いて止め、一人の青年がベッドから上半身を起こす。
短く黒い髪の毛の青年だ。
「はあ〜あ、もう朝か・・・・・・。」
大きな欠伸をしながら、寝癖のついた頭をボリボリと掻いて、開いているのかわからない程の眼でベットから立ち上がると背筋を伸ばしす。
青年の身長は180センチ程で、長い足に、少し小さめの顔、俗に言うモデル体系だ。
顔付きも綺麗で、その関係の仕事をしていると言っても納得が出来る容姿をしている。
「ん〜ん〜っとぁ。」
少は目が覚めたのか、先程より多少は開いた眼で洗面所に足を運び、顔を洗ったり髪を濡らして寝癖をなおしたりて、一通りの用事を済ませる。
「さてと、確か朝は何もなかったよな。」
洗面所から出てきた彼は、スッキリとしたような顔つきで、ベッドに隣接した壁に掛けてあるカレンダーに目を向ける。
カレンダーには、赤や青のペンで予定等が多数書かれている。
「22日は………よし、午前中は何もないな。」
自分の予想が的中した事と、午前中に用事が無いことの喜びからか、自然と口から「よし」の声がでる。
「夕方からはバイトだから………3時位まで時間があるな。
それ迄は職探しでもしますかな。」
今後の予定を簡単に決め、目の前にある冷蔵庫から牛乳を取出して口に流し込む。
そして、目の前のトースターに食パンを放り込み、タイマーをひねる。
チーン。
パンが焼き上がると、その場でマーガリンを塗り、洗い物が一切出ないようにするために、そのままそれを口に運ぶ。
簡単に食事を済ませると、小さなパソコンテーブルに腰を下ろし、早速パソコンのスイッチを入れる。
ブゥゥゥゥゥ、ブゥゥゥゥゥ
そのタイミングに合わせたかのように、充電器に繋いだまま放置されている携帯電話のバイブレーション機能が慌ただしく音を鳴らす。
「ん?午前中に電話?誰だよ。」
若干怪訝な顔を浮かべながら、携帯電話を開くとそこには「山下琴美」と名前が出ている。
「…………。」
数秒間の沈黙、その中で数回のバイブの音が、「早く出ろ」と言わんばかりに鳴り響く。
彼は、悩んだすえ受話器の『下ろす』ボタンに指を掛けて着信を拒否する。
「触らぬ疫病神に。」
ブゥゥゥゥゥ、ブゥゥゥゥゥ。
「……………。」
再度、携帯電話のバイブレーション機能が音を鳴らす「取ってくれるまで震えるんだから。」電話先の意志を、そのまま体現する携帯電話。
「はぁ〜。」
全力で『面倒臭い』と言う表情に出しながらため息をつくと、今度は受話器を上げるボタンを押して携帯を耳に運ぶ。
- 第一章 続 ( No.3 )
- 日時: 2010/05/07 14:21
- 名前: お⑨ (ID: a32fGRWE)
「もしもし、朝からなんだよ。」
電話の相手は相当気が知れた仲なのだろう、電話に出るなり面倒臭いの感情むき出しで言葉を放つ。
「あんらねぇ〜ヒック。
一回でぇぇ、電話にでらさいよ………ヒック。」
電話の向こう側からは、若干擦れたような女性の声が聞える。
その声には力は無く、どことなく気持ちよさそうでとろけた様な感じを思わせる。
要は酒に酔っているのだ。
「お前、また午前様か?いい加減にしとかねぇと彼氏に愛想尽かされるぞ。」
内容はともかく、子供を叱るように若干言葉を荒げて喋る。
「あぁ〜煩いなぁ、分かったから早く迎えに来てぇ。」
それに対して、逆に怒った様な感じに答える。
「い〜や〜だっ。
今日という今日は駄目だ。
少しは反省して家まで歩いて帰れ。」
彼の言動からも解るように、彼女がこういった状態に成るのは初めての事ではないようだ。
むしろ、頻繁に起きているような雰囲気すら感じる。
相変わらず叱り付けるような口調で電話に怒鳴る。
すると、さき迄は何かしら言い返してきていた電話の向こう側が無音になる。
不意に訪れる静寂に焦りを覚えたのは、叱り付けていた彼の方だ。
「お、おい?大丈夫か?お〜い、何とか言え。」
10秒、いやもっと短い間であったであろう沈黙。
しかし、彼に色々と想像させるには十二分な時間だった。
「おい!返事をしろって。」
さき迄とは打って変わって、焦りが交じった口調で電話に怒鳴る。
「………ヒック……ヒック。」
その声に反応してか、受話器の向こう側から小さな音で、肺が痙攣している時に出るような、しゃっくりにも似た独特の音が聞き取れた。
その音は、聞き様によっては泣いている様にも聞き取れる。
「な、泣いてるのか?」
受話器の向こう側から聞こえてくるその音に、彼は、さらに焦りを覚えるが、それは声に出さずに優しい口調で問いかける。
「・・・・・・・・は・・・・・・。」
「は?」
「吐きそう。」
「はあ、おま、ちょ。俺の良心と言う名の心を返せ、今すぐに弁償しろ。」
彼女の発言を聞いた瞬間に、彼の口から何かが爆発したように言葉が出てくる。
「うう〜。」
電話の向こう側からは、それを聞いているのか聞いていないのか分からないが、苦しむように唸る声が聞こえてくる。
「はあ〜、取り敢えずは迎えに行ってやる。
今、何処だ?」
若干疲れたようにため息をつくと、彼は仕方がないといった感じに迎えに行くことを決めた。
「・・・・・・うう〜、・・・・家の前にいるうう〜・・・・うええ。」
「んな!?」
迎えに行くために、居場所を聞いた彼女の口から出てきた意外な言葉に、彼は少しキョトンとしてからドタタタと走って家のドアを空ける。
幸いにも彼の住んで居る家はワンルームだ、故にドアを開けるまでには5秒も掛からない。
ドタン。
勢い良くドアを開け放ち、2階の廊下から身を乗り出してマンションの出入り口を見下ろす。
そこには、薄いピンクのグラデーションが掛かったロングスカートに、ジージャンを羽織った女性が、苦しそうに前かがみになりながら壁に手を付いているのが見えた。
「マジかよ。おい琴美、そこで吐くな、ちょっと待ってろ。」
電話の内容と、彼女の現状をみて、全てに置いて猶予が無いことを、即座に理解した彼は、猛ダッシュで階段を駆け下りて彼女の元に駆け寄る。
「うう〜、と〜ま〜、気持ち悪いいいい〜。」
腰まである黒くて長い髪の毛が、前のめりになってる彼女の顔に被さるように垂れていて、何処かのホラー映画に出てきそうな感じに成っていて少し怖い。
良く見ると、周りにはちらほら人が歩いていて、此方をチラチラと見ている。
それらの人たちは、怖いもので見たかのような表情を浮かべている。
「ああ〜、分かったから、取りあえず部屋に行くぞ、歩けるか?」
しかし、彼はそんな事はお構いなしといった感じに、彼女に話掛ける。
「うう〜むり〜。」
力無い返事が返ってくる。
彼はその返事が返って来る事が分かっていたのか、はたまた何時もこの状況になると毎回そうだからか分からないが、返事が返ってくるよりも早く彼女の前に背中を向けてしゃがみ込む。
彼女も、それを待っていたかの様にその背中に向かって倒れ込む。
彼はそのまま立ち上がり琴美をおんぶして、いそいそと階段に向かって歩いていく。
「うう〜、もっとゆっくり歩いてよ〜。」
そんな彼に対して、琴美が文句を言う。
「おんぶしてもらっといて、文句かよ。」
当然の返事を返すが、その返事に対して不服だったのか、琴美が黒味掛かった笑顔を浮かべて告げる。
「このまま、吐いてもいい?。」
「おま、解った、把握したからそれだけはやめろ。」
琴美発言に焦りながらも、歩の進め具合をゆっくり慎重な物にして彼は自室まで到着した。
- 第一章 続2 ( No.4 )
- 日時: 2010/05/08 14:23
- 名前: お⑨ (ID: NzSRvas.)
部屋に着いた彼は、琴美をベッドに座らせると、その足で台所に向かい、コップに水を注ぎ彼女に手渡す。
「ぷっはー。」
ただの水を、これ以上無いほど美味しそうに飲み干すと、コップを彼に手渡し、ベッドに仰向けに倒れこむ。
「はあ〜、おまえな〜、毎回毎回何で俺なんだよ。
彼氏に迎えに来てもらえよ。」
「良いじゃない、幼馴染なんだからケチケチしたこと言ってんじゃないわよ〜。」
琴美は悪びれることも無くそう告げると、大きく呼吸をしてから上半身を起こして、眠そうな瞳で睨み付ける様に彼をみる。
「それに、彼氏とは別れた。」
それを聞いた瞬間に、少しばつの悪そうな顔を浮かべ、おでこに手を当て聞こえない声で「それでか。」と呟く。
ベッドに座る彼女の前にしゃがみ込んで、顔をしたから見上げる。
「っで、今回は何が原因だ?」
「知らないわよ、いきなり『別れよう』って言われた。」
少し俯き、表情が見えないようにする彼女を見た彼は、目をそらして『仕方が無い』といった感じにため息を付き、ゆっくりと立ち上って彼女の頭に優しく手を乗せる。
琴美は可愛らしいルックスと、その明るく無邪気な性格で、異性からそれなりにモテるのだが、なぜか決まって3ヶ月から半年程で付き合った異性に『ふられて』しまう。
その度に自棄酒をしては、彼の家にお世話になっている。
勿論それ以外の場合でも、泥酔状態で家に転がり込んでくる、まるで自分の家のように。
彼は琴美の頭に乗せた手で彼女を優しく撫でる。
「仕方が無い、夕方からバイトだからそれまでだぞ?」
「・・・・・・・・解った。」
琴美はその言葉を理解したのか、そのままベッドに潜り込んでいった。
それを見てから、彼は再びパソコンの前に座り込み就職活動の続きをはじめる。
「ねえ、冬馬。」
彼のその背中に琴美が声を掛ける。
「んあ?なんだ?」
冬馬と呼ばれた青年は、振り向かないまま、その呼び掛けに返事をする。
「・・・・・ありがとう。」
サササ・・・・・。
琴美はそれだけ告げると再び蹲る様にして掛け布団を頭からかぶった。
冬馬は、その言葉に小さなため息だけ付くだけで、返事をすることなくパソコンの画面に視線を向けていた。
午前中の出来事から、それなりに時間が経っていた。
「よし、何件か面接の申請出せた。」
冬馬がパソコンの画面を見ながらそんな事を呟いていると、再び携帯のバイブが鳴る。
携帯を開くとそこには店長と書かれている。
バイトの時間では無いことを確認してから電話にでる。
「はい、お疲れ様です。どうしたんっすか?
え!一人休みで足りないから、今から出てくれ?
わ、解りました、今から向かいます。」
ッピ
携帯の受話器を落とし、ベッドに目を向けと、そこには寝息を立てている琴美がいた、起こそうと近づくと、その瞳からは一筋の涙が流れている。
それを見た冬馬は「ふぅ。」とため息を付いて「・・・・・・今日だけだからな。」そう呟く。
そして、出来るだけ物音を立てないように急いで着替え、出かける準備をする。
テーブルの上にあるメモ帳に走り書きで何かを書き込み、タンスの小さな引き出しから鍵を一つ取り出して、そのメモ帳と一緒にテーブルに置く。
バイト先は、住んでいるところから自転車で10分程の場所にある駅前の喫茶店だ。
近くの駅自体がそれなりに大きく、止まる電車の種類も多い為に栄えている。
だから、時間によってはたかが喫茶店と言えど、その忙しさはそれなりのものだった。
バイト先に到着すると、客席は殆ど埋まっていて、店内は活気が溢れていた。
これだけの客入りなら、フロアには店員が必ず4人以上は居るはずなのに、今は2人しか見えない。
状況は見るからに忙しそうなのだが、どの店員もそれを決して表情に出すことは無く、客に対する対応もとても丁寧だ。
だがそれは表面上だけで、裏ではもはや戦争になっている事は目に見えていた。
急いでスタッフルームに駆け込み、制服に着替えて店に出る。
すぐさま店長から呼び出され、コーヒーやサンドイッチを作る厨房へと入る。
- 第一章 続3 ( No.5 )
- 日時: 2010/05/08 14:26
- 名前: お⑨ (ID: NzSRvas.)
「悪いね、冬馬君。」
「いや、どうせ暇だったから良いですよ。
それより、何をすれば。」
店長の謝罪に対して、気を使われないような返事を簡単に返し、自分への指示を促す。
「じゃあ、外をお願い。」
「はい、解りました。」
早速仕事に取り掛かろうと厨房から出ようとした時に、店長から「バイト代はずむから」と声が聞こえたが、今は無視だ。
時間帯は午後の1時。
昼飯時だからだろう、客のテーブルにはサンドイッチやらスパゲティーやらが並んでいて、各々食事を取っている。
客の追加メニューや席への案内、お会計に片付け。
言うだけなら簡単に言えるし、それ程忙しいと思えるような仕事の内容ではない。
しかし、それも数が多くなってしまえば重労働になるのではないだろうか?
それらの仕事をこなしている内に時間は流れ、店内が落ち着きを取り戻したのは3時過ぎ頃だった。
殆どの客が昼食の休憩時間を利用してここに来ているため、忙しくなる時間帯もそれに比例する。
特に平日とも成ればそれは、そのまま客入りに影響を及ぼす。
客が帰った後のテーブルの片づけをある程度終わらせると、午前中からいたバイトのメンバーが、私服に着替えて「お疲れ様でした。」の声と共に店を出て行く
「おつかれー・・・・・はふ〜、ようやく落ち着いたなあ〜。」
独り言のように呟きながら、残りの洗い物に手を掛ける。
「助かったよ冬馬君、ほんとうにありがとう。」
そんな冬馬に店長が後ろから声を掛ける。
「いえいえ、困ったときはお互い様です。」
俺はこのバイトをそれなりの期間続けている。
その御陰で、店長や他のバイトのメンバーからも、それなりに頼りにされている。
そうなってくると、ただのバイトであってもそれなりに責任感という物が芽生えて来るもので、
それに答えようと自然と努力してしまう。
俺は、そんな今の自分を嫌いではない。
「あ、そうそう。冬馬君さ、もし君にその気が有るならなんだけど、うちで正式な社員として雇いたいと思ってるんだけど、どうかな?」
不意に店長の口から重要な言葉が、実に軽いノリで出てくる。
「っぶ、っえ?えぇ。ってか店長、そんな重要な話をさらっと言わないでくださいよ。」
驚きながらもしっかりとツッコミを入れる。
それに対して「あはは、ごめんごめん」といいながら、店長も苦笑いを浮かべる。
「っで?どうかな、この話。」
「あ、はい、勿論喜んで受けさせてもらいます。」
フリーターと言う、今の自分の不安定な立場にはまたとないチャンスだし、断る理由も無い。
「そうかそうか、じゃあ上に話しとくから明日にでも必要な物とか伝えるよ。
んで準備が整いしだい本社に一緒に行こう。」
「はい、よろしくお願いします。」
冬馬は深々と頭を下げる。
子供のように歓喜の声を上げたい気持ちを押さえながら、冷静に振る舞い洗い物の続きを始める。
それからは、忙しくなることはなく、閉店の時間までゆっくりと時間はながれていった。
「よしっと、おわり。」
床にモップをかけて、テーブルの上に上げていた椅子を全て下ろし、店内の片付けは全て終了した。
「ご苦労様、今日は本当に助かったよ。」
「いえいえ、じゃあ僕も上がりますね。」
「うん、お疲れさま。じゃあ、明日に詳しい話をするから宜しくね。」
「はい。」
元気に返事を返し、スタッフルームに入りそそくさと着替えを済ませ帰る準備をする、ふと携帯を見ると夜の9時を表示していた。
「さてさて、帰ってから直ぐに寝ないと。確か明日は朝からバイトだったからな。」
そんな事を言いながら、いそいそと店を出て自転車を走らせる。
「……琴美はかえったかな。」
帰りながら、琴美の事を思い出していた。
あの後ちゃんと帰れたかどうか電話で確認しようと思ったが、別段、急いで確認することも無いだろうと判断した冬馬は、取り出そうとした携帯電話を、再びポケットの中にしまい込んだ。
家を出る間際に書いたメモ帳には、『帰るなら、鍵はポストに入れといてくれ』と書いた。
鍵は置いて出てきたし合鍵は俺が持ってる、だからそんなに心配することもないだろうと思ったからだ。
考えるのを止めた冬馬は、自転車のペダルを力一杯踏み込み家路を急いだ。
- 第一章 続4 ( No.6 )
- 日時: 2010/05/07 14:25
- 名前: お⑨ (ID: a32fGRWE)
帰り道は、家に近づくにつれて静けさが増していく。
駅周辺は栄えてはいるが、少し外れてしまえば民家やマンションが並ぶ閑静な住宅街になる。
何時も通っている帰り道を、何時もより少し早い速度で自転車を走らせる。
日中などは、子供や買い物に行く人などでそれなりに人通りも多いのだが、夜の9時を回ってしまうと殆ど人影は無い。
そんな静けさの漂う中、帰り道の途中にある小さな公園に差し掛かったときだ。
ピシイ・・・・・・・・ドサ。
何かに亀裂が入るような聞きなれない音が鳴り響き、それと同時に何かが茂みの中に落ちるが目に入った。
「ん?なんだ」
キイイイ
「んん〜、思わず止まってしまったが触らぬ神になんとやらかなぁ〜。しかし……怪我人でも居たら……。ああああ、もうっ。」
暫く悩んだあげく、一様確認する事にした。
頭を掻きながら面倒臭そうに公園の入り口に向かう。彼は何だかんだ文句を口にはするが、基本的に自分の事以外を優先して行動してしまう。
言わば「お人好し」なのだ。
その公園は小さいと言っても滑り台やブランコなど遊具はしっかりと揃っていて、周りには背の高い木が、公園を囲むように生えている。
その木々が並ぶ場所には、何ヶ所か草木が高く生い茂った場所がある。
冬馬が公園の入り口に自転車を止めて中を見渡すと、その草木が生い茂っている一ヶ所で、淡い光がぼんやりと灯っているのが目に入った。
「何だ?」
正体不明の光を、少し警戒しながらもゆっくりと近づいて行き、生い茂る草木の裏側を覗き込んだ。
そこには、白銀と言っても差し支えが無い程に白く、光沢の有る綺麗な毛並みをした一匹の狼が倒れていた。
淡い光は、その狼から直接放たれていて、何か幻想的な物を思わせる。
「犬?いや狼犬?ハスキーか何か?でも大きいな、それに何で光ってんだ?」
ぶつくさ呟きながら考察していたが、一瞬にして思考が止まる。
よく見ると、狼は後ろ足から大量の出血をしていて、その綺麗な白い毛の一部が、真っ赤に染まっていたのだ。
「怪我?」
狼から出ている血は、横たわっている地面すら真っ赤に染めていた。
「おいおい、洒落になってないんじゃないか。」
傷を確認した彼の顔から血の気が引く。
狼の後ろ足は、右側が完全に根元から千切れていたのだ。
よく見れば見るほどにその出血の酷さが解ってくる、誰の目から見ても、このままでは命に関わる程の出血だ。
息はしているが、見るからに弱々しく、眠るように意識を失っている。
「ととと、取り敢えず、何か止血するもの。」
現状に焦りながらも、一番にやらなければ事を成すために、周りに目を向ける。
しかし周りには止血の役にたちそうな物は無い、それどころか、夜の人通りの少ない場所では助けすら求められない。
「……っく、仕方がない。」
悩みに悩んだ末、上着を脱ぎ中に着ているシャツを歯で裂いて、それを包帯の代わりにして、狼の足の根元を縛り止血した。
「ぐぅ………。」
不意に唸り声の様な声が聞こえる。
「ん?うわ。」
声のした方をみると、狼がいつの間にか意識を取り戻しこちらを見つめていたのだ。
『噛まれる、もしくわ食われる。』そんな思考が浮かんだ冬馬は、咄嗟に身構えてしまうが、狼の瞳からは不思議とそういった恐怖は感じなかった。
むしろ、その瞳は吸い込まれてしまうと思うぐらい綺麗で、その表情は優しさに満ちているようにさえみえた。
何故かは分からない。
だが、冬馬は暫くその瞳から視線を逸らす事が出来ずにいた。
そして、口を開く。
「大丈夫、絶対に助けるから。」
言葉なんて通じない。解っていても自然と口にしていた。
応急措置の続きに戻った冬馬は、最後に傷口を覆う様にして上着で狼の後ろ足を縛り応急措置を終えた。
「よ、よし、取り敢えず後は誰かに助けを。」
現状で出来ることをやった彼は、次に何処かの民家に助けを求めようと周りを見渡す。
「あ…が…とう。」
「ん?」
そんな彼の頭の中に、弱々しいが若い青年の声が確かに響いた。
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