二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
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- 夏目友人帳 —分かち合うのは—
- 日時: 2012/05/03 18:43
- 名前: フウ ◆vauozlQS2w (ID: 4djK7y3u)
ほとんどの皆様にははじめまして! 大昔にここで小説を書かせて頂いてました、フウと申します。今回は夏目の二次にチャレンジです!
○アテンション
・この小説は、フウが別の投稿サイトでアップしていたブツであります。
・オリキャラ、オリ妖が相当でしゃばります。
・文章が長い割には展開が遅いです。
・最初は投稿スピード速いですが段々と落ちていきます。
・超間接的にではありますが、他作品とのコラボがあります。コラボ元を知っていなくても全く問題ありませんが、「クロスオーバーなんて見てられっか!」という方はご遠慮ください。
・荒らし、中傷などはおやめ下さい。辛口の作品評価は大歓迎です。
ではでは、御了承された方々はどうぞ。
オリキャラ紹介 >>17
第一話 >>01 >>02 >>03 >>04
第二話 >>05 >>06 >>07 >>08
閑話 >>12
第三話 >>13 >>14 >>15 >>16 >>18 >>24 >>25
- Re: 夏目友人帳 —分かち合うのは— ( No.2 )
- 日時: 2012/04/05 13:16
- 名前: フウ ◆vauozlQS2w (ID: 4djK7y3u)
「じゃ、おれら北本の家で勉強してっから。お前も気が向いたら来いよー」
「ああ。もし行くときは電話するよ」
「来るなら早めになー。カルピスでも入れておくからな」
手を振り合って、夏目は帰るべき家へと歩を進める。
その屋根の下に、血の繋がった家族は一人もいない。屋根の下どころか、この空の下に身寄りはどこにもいない。天涯孤独とはよく言ったものだ。
そのせいで親戚筋を転々とした時期もあったが、今自分を引き取ってくれているのは心優しい藤原夫妻。あたたかい、大切な人達。
あの人たちに迷惑をかけないためにも、
「夏目様」
一瞬。足が止まったが、何事もなかったかのようにまた歩き出す。この距離だと、こいつと話す声が二人にも聞こえてしまう。もう少し人気のない所まで行かなければ。
「お待ち下さりませ、夏目様。話を聞いて下さりませ」
か細い声に似合わずのしのしと重い足取りが後ろに続く。聞こえよがしにため息をつき早足で距離を離せば、「あぁああぁあ」という嘆きの声と共に慌てて足音が近づいてくる。
振り返らずとも分かる。西村にも北本にも、そしてその他大勢の人達に見えも聞こえもしない背後のそれは、妖怪である。
幼い頃からそれらに追われてきた夏目であったが、この町へ来てからは別の意味で付け回されることも多くなってきた。この妖が自分の名を知って訪ねてきたことから、その目的が何なのかおおよその目星はついている。
数分ほど、引き離しては追いつき、また引き離しては追いつきを繰り返した。相手が自分の名を呼ぶ声にひいひいという息遣いが聞こえ始めた頃、ようやく夏目は立ち止まる。
「悪いな。でも、人目がつく所でお前達とは話せないんだ」
振り向くと、相手は自分よりかなり背の高い妖であるのに気付いた。ぱっと見た限り、七福神の恵比寿に似ている。でっぷりした顔に糸目、丸く突き出した太鼓腹などはまんまである。しかしどこか霞んでいる千草色の着物を着ているせいか、煌びやかさとかいう類は一切ない。それどころか脂汗がずるずると頬を這っている辺り、どっちかといえばむさ苦しい。
「そ、そうでございましたか。とんだ御無礼を……」
自分よりも背丈がある者が指をこねくり回しているのを見るのは、何となく嫌だ。なんともまあ気弱そうな妖である。
「で。一応聞くが、何の用だ?」
最近は何かと妖の間の面倒事に巻き込まれることも多いので探りを入れてみると、びくりと相手の体が震えた。
「あ、あ、あのお。わたくしは、わたくしめは、
…………友人帳に……」
「ああ。名を取り返しに来たのか」
鞄から深緑色の帳簿を取り出すと、指いじりがぴたりと止まる。どうやら当たりらしい。
「待ってろ。今すぐ——……」
友人帳をのぞきこんだ時だった。
黒い巨大な影が自分をすっぽりと覆い、胸がざわつくのを感じて上を見上げる。
そこに蒼天の空はなく、闇に浮かぶ三つの瞳孔がにやりと歪む。
- Re: 夏目友人帳 —分かち合うのは— ( No.3 )
- 日時: 2012/04/05 13:18
- 名前: フウ ◆vauozlQS2w (ID: 4djK7y3u)
「あッ、グ……!」
巨体が突如夏目にのしかかり、耐えきれずに後ろ様に倒れるとぶくりとした指が首を掴む。頭を打ち付け視界がちかちかと瞬く中、えびすもどきはくつくつと笑いをこぼす。
「おお、おお。それが友人帳。何とまあ強力な妖気の割にはみすぼらしい」
背筋を這うようなおどろおどろしい声音。白く濁った両目が食い入るように夏目を見据える。しかし横に割れた額からのぞく三つ目の瞳だけは、今なお握りしめている友人帳を凝視していた。
殴りつけようとして、できなかった。両の腕はえびすもどきが乗っかっているせいで身震いすら起こせず、それは足も同様だった。夏目の細面に焦りが走る。
「よこせ。友人帳を。よこせ、よこせ。よこせよこせよこせよこせよこせ」
えびすもどきが「よこせ」を連呼する度に、犬歯が木の幹をへし折る時のような音を立てながら伸びていく。もはや弱腰気味だった挙動はどこにもない。
遂にはあごの先まで達した牙は不気味に白かった。助けを呼ぼうにも首を押さえられているせいでとぎれとぎれ漏れるのは言葉にもならないうめき声のみ。身をよじろうとするたび、叫ぼうとするたびに、えびすもどきはさも楽しそうに嗤う。
がぱあ、と。人の頭も飲み込めそうなほど大きく開かれた口は、血のように紅い。
「うっ、わあぁああーーーーーー!!」
めりっ、と軋む音がした。
首が見えないくらい膨れた顔の側面に、コンバースの右足がめり込む。
呆気にとられて丸くなった三つの目は、自分のものと同じ形をしているような気がした。
「どおおおぉおおおおおおおぉおおりゃああぁああぁあああああああ!!!」
脂肪の塊にも見える巨大な体が、豪速球の如く横ざまに吹き飛ぶ。飛び蹴りの姿勢のまま夏目の眼前を通過し、右足を伸ばし切り地面を滑りながら着地したその誰かはとりあえず女の子だ。右耳より上で結んである長髪が遅れて落下する。
えびすもどきは家の垣根に激突して、何が何やらわからず呆けた表情をしている。それを威圧するように女の子はゆらりと立ち上がった。何とか上半身を起こした夏目の目の前に立つその子の太ももが陽光を受けて白く光る。
「おーおー。こんな真っ昼間から何してんだこの三つ目メタボリック」
腕を組み、睨みつけられたのかえびすもどきは僅かに怯んだ。しかしそれも数瞬のみで、見開かれた三つの眼球に怒りが燃える。
「おっ、……おのれえぇええ小娘!! 生かして返、」
あっという間に懐に潜った女の子に、えびすもどきは為す術がなかったに違いない。下から突き上げる一撃を顎に喰らい、身を反らして頭から落下。聞いてる方が痛そうな呻きを上げるえびすもどきを、見下すように睥睨しながら女の子は怒鳴り上げる。
「そっくりそのまま返してやるわ!! 生かして返してほしいならとっとと失せな下っ腹デブ!!」
ひいぃいいいぃいと漏らした悲鳴がえびすもどきの答えだった。修羅じゃ夜叉じゃと叫びながらよたよた逃げ出す背中にもう一度女の子が怒声を浴びせると、驚くあまり着物の裾を踏んで盛大に転んだ。しかしもみくちゃになりながらも立ち上がり、右に左にふらつきながらだんだんと小さくなっていく。
- Re: 夏目友人帳 —分かち合うのは— ( No.4 )
- 日時: 2012/04/05 13:19
- 名前: フウ ◆vauozlQS2w (ID: 4djK7y3u)
その背中が完全に見えなくなるまで、女の子は腕を組んで仁王立ちをしていた。……やがて肩の力が息を吐くとともに抜け、「くう〜〜〜〜」と言いながら思いっきり伸びをする。
「あ、……あの」
恐る恐る声をかける夏目に振りかえった女の子は、得意満面の笑みを浮かべていた。満点の答案用紙を親に見せに行く時の子供のような。目元はきりっとしていて大人っぽさを感じる分不釣り合いのようであり、逆にそれが魅力になっているようにも思えた。
「いやー、デブの割にヤバげだったね今の。大丈夫? 立てるかい?」
そう言いながら笑顔と共に手を差し伸べてくる。ためらったが、自分に向けられている無邪気な笑みをとりあえず信じることにした。
引っ張り上げられ改めて目の前の少女と向き合うと、そこまで歳は違わないように思えた。大目に見ても大学生ぐらいだろうし、もしかしたら自分と同い年かもしれない。どちらにせよ、ここらでは全く見た事のない顔だ。
「あ、あの。さっきはどうも、ありがとう……」
礼を言いながら、……今さらのように気付く。
この人。
妖が見える上に、素手で追い払う程の力を————?
もちろんこの時、夏目の頭には自分にもそれ相応の力があるという事実は忘却の彼方にあったのだが。
「気にしない気にしない。怪我がないみたいでよかったよ」
夏目の全身をくまなく見まわしたのち、あけっぴろげに笑う女の子。……苦手ではないが、このタイプはとっつきにくい。次は何を話せばいいのだろう。
ふとした拍子に、女の子の視線が手にとっている友人帳の背表紙に注がれる。興味深そうな目つきに気付いた瞬間、反射的にそれを背中に隠した。
「えっと……。これは、」
「へー。それが友人帳かあ」
刀ですっぱり斬られた気分だった。
あまりにもあっさり振り下ろされたせいで、一体何が起こったのか分からない。
少女の言葉の真意を理解するより前に、続く言葉の一太刀が夏目を裂く。
「ってことは、君が夏目貴志くん?」
うっわ、すごい偶然。たまたま通りかかって助けたのが君だったとは。
驚きと思いがけない出会いを面白がっている少女の笑顔に黒い影が差しているように見えてしまう。顔が強張り暑さのせいではない汗が流れ落ちる。指が白くなるほど強く友人帳を握りしめた。
人で、友人帳のことを知っている者はほとんどいない。
なのになぜ、見知らぬこの子が友人帳のことを口にするんだ?
まるでこれが何なのか知っているような口ぶりで————?
「夏目くん? どしたの、貧血でも起こしたー?」
そして、なぜおれの名を?
「……あ、そっか。出会い頭に赤の他人にこんなん聞かれても気味悪いよね」
やーすまんすまん。頭を掻きながら苦笑を零す。
「まっ、まず結論から言っちゃうとさ」
柔らかい表情の中に、鋭利なものをそっと忍ばせたような表情で、少女は言った。
「その友人帳の中にさ、欲しい名があるんだ。悪いんだけど売ってくれない?」
- Re: 夏目友人帳 —分かち合うのは— ( No.5 )
- 日時: 2012/04/06 13:57
- 名前: フウ ◆vauozlQS2w (ID: 4djK7y3u)
第二話
開いた口が塞がらない。
「あー、タダでとは言わないよ。いい値で買うからさ。ね?」
落雷を受けたかのような夏目の顔容は、段々と嫌悪と怯えが入り混じったものに変わっていく。それを見て取った少女の方も、伝え方がいけなかったことに気付き慌てて言い直そうとする。しかし今の夏目には、少女のその微妙な表情の陰りが悪意あるものとしか映らなかった。
背を向け、脱兎の如く駆けだす。なぜ自分の名と、友人帳のことを知っているのかは後から考えればいい。とにかく、早くこの女の子から離れなければ。
「ええ!? ちょ、待って夏、」
「とうっ」
ゴチッと鈍い音。少女の「うぎゃ!」の悲鳴と共に、転倒したのか砂袋を落とした時のような音も続く。
「だぁーれがお前のようなきな臭い者に名を渡すか、阿呆め。そもそもこれ以上友人帳が薄くなってはたまらんわ」
「せ、先生!?」
のたうちまわる少女の近くにちょこんと座っているのは、やたら頭のデカい不気味な猫だった。どことなく招き猫に似ている容姿なのは、実際長い年月の間招き猫に封じられていたからである。
「全く。帰りが遅いと塔子が心配していたから見に来てやったら、こんな垢抜けた小娘に救われたばかりか名までせびられおって。もう少し警戒心を持たんか夏目!」
たしたしと地面を叩くこの猫も、実は妖。本来斑と名乗る自称高貴なあやかしものだそうだが、普段はこのように依代となった招き猫の姿をとっている。彼(?)とは、自分の用心棒をしてもらう代わりに死後友人帳を譲る約束をしているのだが、……今はほとんど飼い猫のようなポジションに立っている感も否めない。
だから、
「今日は珍しく用心棒っぽいな、ニャンコ先生」
「阿呆! お前が不用心すぎるからだぞ!」
「む、おおおおぉおお……。なんか白い物体があぁあ……」
「ああ、悪い。大丈夫だった、」
引っ張り上げてやろうと手を伸ばして、……そのまま固まった。
額を抑えている少女の右腕。
肘から手首の先までの肉が、ざっくりと割れていた。
少女も腕から伝う生温かい液体が頬に落ちて気付いたのか、傷をさも不思議そうな面持ちで見つめる。
そして少女の目と彼女を凝視する夏目の目とが合い、
「「うっ、わ——————!!」」
さっきの妖の牙か————!
- Re: 夏目友人帳 —分かち合うのは— ( No.6 )
- 日時: 2012/04/06 18:28
- 名前: フウ ◆vauozlQS2w (ID: 4djK7y3u)
「くっそー、あんのえびすもどきめー……。こんなことならもう一発腹にでもキメときゃよかった……」
悔しそうに歯噛みする少女の隣に座る夏目は、彼女以上に血の気がない様子で引きつった表情をしていた。
とりあえず持っていたハンドタオルで止血をして、今は近くの野原に二人と一匹で腰を下ろしている。先生との散歩でよく訪れる場所だ。
少女は最初盛大に叫んだ割には、夏目が指をもつれさせながら取り出したタオルでてきぱきと処置をしていた。「あーあー、やっちまったなー」とカラカラ笑いながら腕を縛っている横で、夏目がどんなに卒倒しそうな顔をしていたか、少女は知らないだろう。同様に、彼も腕に抱いていた先生をどんなにきつく締め上げていたか知らないのだが。
「……引っかかれた時気付かなかったのか?」
「ぜーんぜん。アドレナリン爆発してたからかなー? 見るまで分からなかったよ」
怪我した方の手を顔の前で振って、案の定「いでっ」と呻いて腕を抑える。唇を噛み締めて上を向くときの顔が可笑しくて、思わず吹きだした。
「おっ。やっと笑ったね」
え、と呟けば、白い歯を見せてニシシと笑う少女。気恥ずかしくなって目をそらす。やはりうだるように熱いのには変わらないが、木陰の中にいるので時折入ってくる風は涼しい。少女は正面に視線を戻し、髪をなびかせるそよ風に猫のように目を細める。
無言の時が流れたが、なぜかそれは気まずい沈黙ではなく、むしろどこかのんびりとした時間だった。木の葉が揺れる音は風鈴の音色のように涼やかであるし、木漏れ日は穏やかであたたかい。このままであればいいのにと心の端で思うが、話し出さなければ終わりも来ない。
「……悪かった。勝手に逃げようとして」
少女に向き直り、気の強そうなイメージを与えるややつり上がった両の目を正視する。
「だが、友人帳に書かれている名はそう易々と渡せるものじゃない。ちゃんと説明してくれないか」
短い間があく。その間、少女も夏目の双眸をじっと見返した。
首を縦に振る。
「そうだね。……私こそごめん。ちゃんと順序立てて説明すればよかったね」
垢抜けた態度の一切は消え、代わりに真摯な眼差しが夏目を射る。吸い込まれそうな錯覚を覚える黒い瞳に自分の姿が鮮明に映る。
話が終わるまでこの目はそらせないだろうと、直感的に理解した。
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