二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
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- 薄桜鬼×緋色の欠片
- 日時: 2012/09/26 13:48
- 名前: さくら (ID: cPNADBfY)
はい。
初めましてな方もそいうでない方もこんにちは。
またさくらが何か始めたで。と思っている方もいると思いますが
薄桜鬼、緋色の欠片好きの方には読んで頂きたいです
二つの有名な乙女ゲームですね
遊び感覚で書いていくので「なんやねん、これ」な心構えで読んでもらえると嬉しいです←ここ重要
二つの時代がコラボする感じです
あたたかい目で見守ってやって下さい
それではのんびり屋のさくらがお送りします^^
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- Re: 薄桜鬼×緋色の欠片 ( No.32 )
- 日時: 2013/01/18 18:46
- 名前: さくら (ID: cPNADBfY)
土方に呼び止められた三人は再び腰を下ろした。四人だけとなった広間はやけに広く感じられる。
土方は三人を見据えた。その視線が敵意を含んでいることを拓磨と真弘は感じ取った。静寂が漂うなか、土方は口火を切った。
「お前たちは一体何者だ?」
決して気を許さないその鋭い眼光は珠紀をはじめ、拓磨、真弘を射抜いた。
「混乱したらまずいと思って皆の前では聞かずにおいたが…お前たちまだ何か隠しているだろう。話せ」
三人は互いに顔を見合わせた。その顔には疑念や不安が入り混じった複雑な表情だった。土方は三人の回答を辛抱強く待っていると、意を決したのか拓磨が前に向き直る。
「信じてもらえるかわかりませんけど、俺達…正確には俺とこっちの真弘先輩は人間じゃない」
「人間じゃない…?」
こくりと頷くと拓磨は続けた。
「俺達は守護者と言って、姫と封印を護る役目を担った人間なんです」
「姫…?封印…?そう言や確かそいつのことを姫と呼んでいたな」
珠紀の次に真弘へと視線を投げて、土方は眉根を寄せた。
先ほど不審者が庭で暴れていたとき、拓磨と真弘が駆けつけて珠紀を姫と呼んでいたことを思い出す。不審に思いながらもあの場で問いただすこともできずにいたのだ。
「そ。姫ってのはこっちの珠紀のことだ。姫は玉依姫の血を継ぐ巫女のことで、俺達は先祖代々その姫と姫が納める封印を護って来た」
「待て。たまよりひめ?封印って何のことだ。お前達は一体…」
頭を抑えて混乱し始めた土方は待ったをかけた。その反応を見て、拓磨は説明を付け加える。
「昔、絶大な力を手にした鬼を封印した刀。鬼斬丸と呼ばれる刀を封印したんです」
「そしてそれを封印したのは玉依姫神。その封印を手伝ったのが俺達守護者の先祖である妖怪ってわけだ。わかったろ?」
拓磨に続けて真弘が言葉を補足した。
だが、それでも何一つ理解できない土方は不信感からこの話が嘘ではないかと疑念を抱き始めた。
「作り話…と思っても無理はありません。私達もはじめは自分たちの役目を受け入れられなかったくらいですから」
弱々しく微笑む珠紀のその顔は、今までもこんな風に説明しても誰も信じてもらえなかった度に傷つき、心無い人間であれば正体を知って冷たく扱われてきた、そんな物悲しさが伝わってきた。
思い返せばそう信じざるを得ない現象が起こっていた。
不審者を撃退するために、札をとって呪術を使った珠紀。風を纏い刀のように振り回した真弘の技。素早い動きで相手に拳を見舞った拓磨の豪腕。今思えばそれは人のなせる業ではない。
彼らの話を信じてみてもよいのではないだろうか、と土方は思った。
「…ひとまず、お前達が人間ではない血が流れていることはわかった…」
「え、マジかよ。こんなにあっさり信じてくれんのか?」
「ただし、全部が全部信じたわけじゃねぇ。これからおいおい俺の目で確かめていく」
「何だそれ」
真弘が肩を落として唇を尖らせた。
「話はこれで終わりだ。千鶴」
「はい」
いつからそこに居たのか、千鶴は広間と廊下を仕切る襖を静かに開けると、土方の傍まで膝行する。
その様子を見て宇賀谷家に仕える美鶴を思い出させたのは言うまでもない。
洗練された千鶴の所作に見入っている三人とは違い、土方はそんなものを気にする様子もなく、小姓である彼女に用件を伝える。
「東の方に確か空き部屋が三つ並んであったはずだ。そこにこいつらを案内してやってくれ。お前達はもう退がっていいぞ」
「皆さん、こちらへ」
千鶴が立ち上がると入ってきた入り口とは別の襖を開けて先導する。それに続いて三人は千鶴の後をついて退出した。
「…とんだ拾い物をしたもんだ」
静寂な広間に土方の呟きはよく響いた。
まだあの三人に聞きたいことは山ほどあった。なぜここにやってきたのか。彼らの血とはなんなのか。封印されている刀をなぜ護っているのか。
だがどれも喉の奥でつかえて上手く問えなかった。嘘を話しているようには見えないのだが、 “飛びすぎた”話で全くついていけなかったのが正直なところだ。
「ま、人ならざる者ならうちにもいるがな…増えたところで何も変わらねぇだろ…」
「こちらがお三方のお部屋になります」
千鶴に案内されたのは敷地内の片隅、広間からだいぶ離れた部屋だった。小さくはあるが、人一人が生活するには十分な広さだった。
「ここがお一人ずつのお部屋になります。何か不便があったら遠慮なく言って下さい」
「ありがとう、千鶴ちゃん」
千鶴はどこに布団があって風呂場や厠の場所を説明した。そうして何を気に留めたのか急に押し黙った。
「どうしたの?千鶴ちゃん」
「あ…皆さんのお着物はどうなるのかな、って思って…」
「そう言えば…」
三人を一瞥して千鶴は小首を傾げた。三人も同様に首を傾げる。気付いたらここに来たわけで、着替えの服すら持っていない。明日から何を着て過ごせばいいかその場の者は誰もわからなかった。
隊士や幹部が余分な着物を持っているとも思えない。貸してもらえる可能性も低い。着物はその人の身丈に合うものが一番だ。真弘はともかく拓磨は長身だ。採寸して着物を見繕わなければならない。
「そうだ!」
と、突然千鶴が声を上げた。
「あの人に頼めばどうにかなるかも」
「あの人?」
三人はまたも首を傾げた。
- Re: 薄桜鬼×緋色の欠片 ( No.33 )
- 日時: 2013/01/18 20:09
- 名前: さくら (ID: cPNADBfY)
土方に外出の許可を取りに行った千鶴はそのあとすぐに文をしたためた。そしてその文を送ってしばらくすると返事が返ってきた。
「良かった。あ、でもここのお店私わからない…」
千鶴の行動を見舞っていた珠紀、拓磨、真弘は千鶴の部屋にいた。
千鶴が何か手を打ってくれていることはわかるのだが、一体何を始めようとしているのかがわからない。
「お店?これからどこかに行くの?」
「うん。皆の着物をあつらえてくれそうな人がいて、今その人にお願いしたら近くの呉服屋に皆で来てって返事があったんだけど…」
「けど?どうしたんだよ」
胡坐を掻いていた真弘は首を傾げた。
「私、お店の場所が分からないんです」
参ったな、と千鶴が思案していると廊下から一つ足音が近づいて来た。
足音は千鶴の部屋の前で止まったかと思うと、すっと障子を開けた。
「よ、千鶴。どっか出掛けるらしいな。土方さんが京の地理に疎いお前が外出したいって言ってきたからおかしいって首ひねってたぞ。何かあったのか?」
「原田さん。はい、あの実は…」
千鶴は腰を上げると原田に事情を説明した。ふんふんと相槌を打つ原田を何となく見ていた珠紀はふと視線を上げた原田と目が合って動転した。
自分の身の上を確保してくれた人だ。礼を言うべきか否か悩んでいると、そんな珠紀の気を察したのか原田が優しく微笑した。
「なるほどな。あの譲ちゃんに頼んだわけか。場所はどこだ?」
「ここなんですけど…」
千鶴が返ってきた文を原田に見せると、彼は頷いて目尻を下げた。
「ここなら俺も知ってるところだ。連れて行こうか?」
「いいんですか?ありがとうございます!」
何が解決したのかよく分からないが話はまとまたらしい。
「今からどこに行く気なんだか。な、拓磨。拓磨?」
隣で同じく胡坐を掻いていた拓磨の返事が無いことに真弘は不審に思って顔を上げた。
自分より長身のため当然座高も高い。見上げるかたちで後輩を見やると何故か険しい顔をしている。
「どうした?」
「先輩…ここ…この敷地内に入ってからずっと気になってたんすけど…何か感じませんか?」
「何かって?敵か?」
「…わかんないっす。でも、あまり良いものじゃない…」
拓磨に言われて神経を集中して周囲の気を探るが、怪しいものは感じない。
「何も感じないぞ?気のせいじゃねぇのか?」
「…だといいっすけど」
「お前さっき闘ったから気が立ってんじゃねぇのか?ま、無理もねぇよ。何せ俺等はタイムスリップしたんだ。ちょっと疲れてんだろ」
真弘に宥められ、拓磨はそのまま押し黙った。気疲れから余計な神経を使っているだけなのだろうか。
拓磨が眉根を寄せて思案していると珠紀の声に気付くのが遅れた。
「もう!拓磨ったら!ほら行くよ」
「行くって?」
腕を捕まれた拓磨は何のことだと珠紀の言葉を反芻した。
「着物。買いに行くんだって」
時刻は昼前。優しく澄んだ日差しは温かく、高く抜けるような青空が季節は秋を知らせている。
原田を先頭に千鶴と珠紀が並んで歩き、その後ろを拓磨と真弘がついていく。
町に出れば往来は人の活気で溢れていた。魚屋や八百屋、雑貨等商品を売る声や、人々の声が雑踏に混じって祭のようだった。
「ちっさ…」
真弘は思わず顔を綻ばせた。花籠を持つ花売り娘や、籠を肩に走り抜けていく男の身長。誰を見ても身長は一五〇から一六〇センチほどだ。
当然長身の原田、拓磨が歩いていると目立ってしまう。加えて三人はこの時代にそぐわない格好をしているおかげで余計痛い視線を浴びることになった。
「何か、視線が痛いね」
「ま、俺達はこの時代の人間じゃないしな」
「この視線を浴びながら俺達昨日一日外で過ごしたんだからな」
珠紀が人々の視線に耐えかねて二人にそっと耳打ちした。
「まぁ今のお前達の格好は珍しいからな。特にその短髪。髷を結ってなければ囚人とみなされるのが今の時代だ」
「えっマジかよ!」
「先輩囚人っすね」
「お前もな!」
急に髪をそそくさと隠す真弘に、拓磨が茶化す。
そんなやりとりを見つめていた千鶴と目が合った。
「俺の顔に何かついてるのか?」
「えっ。いえっその…」
真弘が小首を傾げると千鶴は慌てて視線を逸らした。
「そう言や自己紹介がまだだったよな。俺様は鴉取真弘様だ!」
「鬼崎拓磨」
「あ、雪村千鶴です」
朝餉の後にあらかたの面々と自己紹介は済ませたが、千鶴は朝餉の片付けに追われていたため、広間に顔出しできなかったのだ。
「俺にそんな熱い視線を送ってくれるとは、もしかして俺に気があるのか!何だ、そうなのか!照れずに仲良くしようぜ!」
「先輩、それ何ていうか知ってますか?自意識過剰ですよ」
「その子もビビッてんじゃないすか」
千鶴の肩に腕を回して、まるで弟子を得た師匠のように明るく接する真弘に千鶴は戸惑いを隠せない。
「先輩、きっと千鶴ちゃんが身長小さいからちょっと嬉しいんだね」
「お前もそう思うか」
千鶴は僅かながらも真弘と並べば身長が低い。真弘はこれまでコンプレックスである低身長をからかわれてきたのだが、こちらの時代は真弘の身長が平均身長らしい。少し舞い上がっているのがよくわかる。
「賑やかな奴等だな。ほら、着いたぞ」
そうこうしている内にいつの間にか目的に到着していた。
店が立ち並ぶその中のひとつ。のれんが下がっている店の前で原田は立ち止まった。
「ここは?」
「ここは田中屋。呉服屋さんで、ここで知人が着物をみつくろってくれるの。今その人がこのお店で待ってくれてると思うんだけど…」
千鶴が中に入ろうとするより早く、のれんが巻きあ上がった。
「いらっしゃい!千鶴ちゃん!!嬉しいわっ。私を頼ってくれて———ってあら。こちらがそのお三方?」
のれんをくぐって現れたのは煌びやかな着物に身を包んだ少女だった。
- Re: 薄桜鬼×緋色の欠片 ( No.34 )
- 日時: 2013/01/18 21:12
- 名前: さくら (ID: cPNADBfY)
店から飛び出すように現れた少女は珠紀達を見て、目を丸くした。
「まぁ…変わった方々ね。あ、失礼しました。私はお千。ここの店の主人とは知り合いで、千鶴ちゃんとはお友達です」
優雅な所作で一礼するその姿を見ただけで、良い育ちをしていることがわかった。
「そちらの殿方は…以前私と千鶴ちゃんを会わせてくださった原田さん、ですね」
「あぁ。この間は有難うな」
「こちらこそ」
二人だけの会話が終わるとお千は珠紀達に向き直った。
「今日は貴方達の採寸を行ってから着物を選んでくださいね」
お千がそう言ってにこやかに微笑んだかと思うと、拓磨と真弘に視線を移して一瞬目を細めた。
「さ、立ち話はなんですから中に入ってください」
お千に促され一同は店の中に入る。そこには土間に板間の質素な店だったが、広い店だった。人の良さそうな笑みを浮かべる店主らしき男が板台から立ち上がった。横に控えている数人の男女はここで働いている者らしい。皆同じ羽織を着ていた。
壁には所狭しと箪笥が並べられ、反物も並べられていた。
板間にもあつらえた着物が飾られ、見上げれば天井にも着物を吊るしている。
初めて見る光景に驚く三人をお千が板間に上がるように促した。
「さ、お三方。まずは採寸から始めましょう」
お千の声で控えていた男女が奥の部屋の襖を開けた。
「殿方はこちらへ」
「姫君はこちらへ」
珠紀達は恐る恐る別れて部屋に入った。
三人を見送った千鶴達はしばらくの間待機することになる。原田は土間に腰掛け、感嘆の溜息をこぼした。
「こんな立派な店を無償で貸しきるたぁ、千姫さんには驚きっぱなしだな」
「こんな高そうなお店で…お、御代の方は…」
「ふふっ。そんなこと気にしなくていいのよ、千鶴ちゃん。私この店の主人とは古い付き合いなの。このくらいの頼みごとどうってことないわ」
古い付き合いと言うものの、お千はまだ若く見える。一体この店とどういった関係かはわからないが、取りあえずその件に関して触れないことにした。
「ところで…文にも書いてあったけど…あの人達、本当に未来から来たの?」
「うん…私も詳しくは知らないんだけど…」
「あぁ、そうか。千鶴はあのとき片付けしてくれてたんだったな。あの三人、元居た時代で知り合いの姿が見えなくなったから探している途中で、眩暈がして気がついたらここにいたらしい。ま、どこまでが本当の話かわからねぇけどな」
原田の説明を聞いて千鶴とお千は目を瞬いた。
「一体どれくら先の未来から来たのかしら」
「あいつ等がいうには百四十年」
「百四十年!?それは…また…」
驚きを隠せないお千は目を見開いた。そんな話が本当にあるのだろうか。
そうこうしていると三人の採寸が済んだらしい。奥の部屋から三人が出て来た。
その時千鶴は拓磨に視線を向けた。拓磨も千鶴の視線に気が付き、ふと目を瞬く。
「さ、次は着物を選びましょう!あぁ何がいいかしら!楽しくなってきたわ!あ、殿方はこっちに」
本人よりお千が楽しんでいるようにも見えるが、店の主人は珠紀の前に様々な反物を並べ始めた。
「わぁ…綺麗な色」
「でもこいつは男装だろ?袴も持ってきてくれ、主人」
主人は頷くとすぐに袴と長着を持ってきた。その辺りの配慮もお千が先に手を回してくれたのかもしれない。主人は女である珠紀のために男装の着物を用意してくれたのだ。それも全く男の長着ではなく少し愛らしい装いの長着を手配していたことに原田は内心驚く。
千鶴とともに珠紀は着物選びに取り掛かる。
それを確認したお千は拓磨と真弘が入った部屋に入った。
その部屋にも沢山の長着や袴。そうして襦袢や帯まで揃えてあった。
「さて、と。着物を選んでもらう前に…」
お千は二人の前に座った。部屋には三人意外誰もいない。
「驚きました。まさかこんなにも色濃く異形の血を継いでいる方々がいたなんて」
「…!!」
お千の言葉に耳を疑った拓磨と真弘は姿を見破られたことに驚いた。
「どうぞお座りください。混乱されているとは思いますが、安心して下さい。この時代には異形の血が流れている人は稀ですが、確かに存在します。例えば…」
お千はうっそりと言葉を続けた。
「私や、千鶴ちゃん…とか」
「何!?お前、一体…」
真弘は目を剥いた。現代では異形の血族は自分達だけだと思っていた。まさか幕末にそんな人がいるなど知りもしなかった。自分達の先祖ならまだしも、こんな京都に異端の者がいるなど予想していなかったのだ。
「自己紹介を改めて。私は鈴鹿御前の血をひく鬼。そちらの方も鬼の眷属とお見受けします」
「わかるのか!」
「同属の血が流れていれば。鬼は古代、一つの一族でした。時代が流れるにつれ、血族はちりじりになり各所で一族の血を細々と受け継いできた。貴方に流れる鬼の血は相当古のものとお見受けします。そちらの方も…鳥…いえ鴉の血をひいているようですね。あなたも相当古いご先祖をお持ちのようですね」
お千に言い当てられはったりではないことに気が付く。
「お前さっき、あの子も異形だって…」
「千鶴ちゃんですか?はい。彼女も鬼の血をひいています。それも大きな血族の血です。彼女自身鬼であることはおそらく知りません。訳あって彼女は人間に育てられたので…」
「だから…」
拓磨は合点がいった。千鶴と出会って目が合うたび、互いに何かを感じ取っていたのだ。千鶴が拓磨に視線を送っていたのはそういう訳だった。血が叫ぶ本能がお互いを同属だと確認していたのかも知れない。
「教えてください。なぜ貴方達のような方がその血を受け継いだのか」
お千の凛とした声が部屋に響いた。
- Re: 薄桜鬼×緋色の欠片 ( No.35 )
- 日時: 2013/01/29 20:42
- 名前: さくら (ID: hRUsQYie)
「…なるほど…その玉依姫を守護するために…」
一通りの話を聞いたお千は真摯に頷いた。
拓磨と真弘は包み隠さず話してはみたが、一抹の不安があった。
今日初めて会った少女にこんな信憑性の低い話をそう易々と理解できたのだろうか。否、信じてもらえたのだろうか。
二人が黙ってお千の反応を待っていると、彼女は顔を上げて微笑んだ。
「大丈夫です。私はあなた方に疑念など抱いていません。むしろ同胞がいて嬉しいくらいです。同族が近くに居ると安心しますしね」
その笑みは本物だった。作り笑いや、無理やりにつくろったものではない。それをみて拓磨と真弘は胸を撫で下ろした。
人とは違う身である二人にとって身の内を話すことにはどうしても抵抗と不安が付きまとってしまう。
話して信じてもらえなければそれは自分を否定されたことと同じ。
だが、お千は違った。同胞というのも事実なのだろう。
「私もはっきりとは記憶していないのですが…その村には古くから妖の血をひく者がいるとは聞いたことがあります…」
「本当か!?」
「ってそりゃぁそうだろうよ。この時代にも俺達の先祖がいるだろうし…」
よく考えれば自分達の先祖は古から続くものだ。この時代にも当然先祖となる守護者がいることになる。
「その村のことについて調べてみます。何か元の時代に帰る手がかりが見つかるかも知れませんしね」
「あぁ、よろしく頼んだ」
頷く真弘を見ると、険しい表情をしていた。気になって拓磨が首をかしげる。
「先輩?」
「いや…今更思ったんだけどよ。俺達はアレを封印した。いや、壊した…けどこの時代は…?」
「…まだ封印だけで破壊していない———」
「アレとは、“鬼斬丸”のことですか?」
お千に一通り話したため二人が何を話しているのかわかった。
守護者と玉依姫を血で縛った元凶。この世を脅かす不吉の刀がまだこの時代では健在することになる。
それを思うと拓磨は居てもたってもいられなくなった。
「こうしていられないっ」
「待てって。この時代にも玉依姫も守護者もいる。世界がまだ平和ってことはちゃんと封印されてるってことだろ。そう焦るなよ」
「そうですね。けれど急いで私も調べることにします。あちらの近くには風間もいますし…」
お千の目が細められる。二人は首を傾げた。
「かざま?誰だ?そいつ」
「話しておく必要がありますね。風間はここにも京洛しています。いずれ会うことになるかもしれません」
居住まいを正してお千は先ほどとは打って変わって厳しい表情に一転した。
「風間家は東に住む鬼の血族です。そしてその棟梁が風間千影。あなた方の村のそう遠くない場所に確か里を構えていたはずです」
「俺達の他にもそんなにいるのか」
「細々とですが、確かに受け継がれています。風間千影は少々厄介な男で…鬼としての血も濃く、力も絶大…奴と接触する際は十分に気を付けて下さい」
お千の真剣な眼差しはいかにその鬼が危険人物であるかを物語っていた。
しかし、二人はふっとはにかんだ。
「心配いらねぇよ!どんなに強かろうが俺様に勝る奴なんて存在しない!」
「先輩、あとで痛い目みないうちにその口上撤回した方が身のためじゃ…」
「うっせぇぞ拓磨!俺様に敵はいないんだ!!鬼だろうが何だろうがどんとこいだ!!」
会話をしたことで僅かながら二人の性格が垣間見え、お千は微笑んだ。
この人たちは強い。力だけではなく心も。どこかそう確信したお千は安心した。
「せんぱーい。たくまー。まだー?」
隣の部屋から急かすような珠紀の声に三人は本懐を思い出した。
「あっ。いけない!本来の目的を忘れるところでしたね。さ、お好きな着物を選んで下さい」
部屋を埋め尽くすほどずらりと並べれらた着物を指差してお千は二人を促す。
二人は着物選びに取り掛かった。選び終えればそのままそれを着用して帰ることになっている。お千はそっと部屋を後にした。
そして奥の部屋へと進み、誰も居ないことを確認してからそっと口を開いた。
「君菊」
「ここに」
どこから現れたのか、忍装束をまとった妖艶な女性が音も無く現れた。
お千に傅くその女性は口を開いた。
「あの者達は…」
「大丈夫よ。彼らも同族だった。私は彼らの力になりたいわ。君菊」
「はい」
「至急、調べてほしいことがあるの。頼めるかしら」
「もー遅いよ、二人とも!」
「悪い、悪い。ちょっと拓磨が優柔不断でよ」
「うわ、責任転嫁かよ」
部屋から現れた拓磨と真弘は着物に着替えていた。拓磨は髪の色に映える鴨頭草の重ね着を。真弘は黄菊の重ね着で季節を意識した色合いだ。
一方珠紀は莟菊の橙色に淡い梅色を重ねた袴姿だ。
髪も頭の低い位置に一つに束ね、一見男に見える。
「似合ってるな。その着物」
「そうかな?拓磨も綺麗な色の着物だね」
拓磨が優しい笑みを浮かべて珠紀に寄る。二人の雰囲気が違うことに気がついた原田は目を細めた。その空気の違いに気付いているのはおそらく原田だけだろう。傍で千鶴は真弘に絡まれていてそれに気付く予知もない。
「なるほどな」
「皆、お着物は決まったかしら?あら、いいわね!素敵よ」
三人を一瞥してお千は満足したように頷いた。
「でも、本当にもらっていいの?お金私達持ってないんだけど…」
「大丈夫よ。そのあたりは一切心配しないで。それよりいい着物が見つかって良かったわ」
会心の笑みを浮かべるお千は本当に親切心からの行為のようだった。
お千と店の主人に礼を言って暇を乞う一行を外まで見送っていたお千は拓磨と真弘の耳元でそっと囁いた。
「また何かわかったら何らかの方法で連絡するわ。何かあったらいつでも頼って下さいね」
一行を見送っていたお千は姿が見えなくなった後、小さく呟いた。
「何も起こらなければいいけど…」
その声は風に掻き消されていった。
- Re: 薄桜鬼×緋色の欠片 ( No.36 )
- 日時: 2013/01/31 00:12
- 名前: さくら (ID: hRUsQYie)
風が木々を揺らし、梢の音だけが聞こえる。
静かな昼下がり。夏が終わりを告げ、季節は秋を知らせる済んだ日差しは部屋に優しく降り注ぐ。
ざわざわと森の音がすぐ近くで聞こえた。
森だけでなく空気も同調して騒いでいるようにも聞こえる。否、森全体、連なる山々が騒いでいる。
「嫌な風だ…」
秋の木漏れ日とは打って変わって不穏に凪ぐ風に拓魅は、開けていた障子を静かに閉めた。
ちらりと視線を落とせば床に就く少女がいる。
さきほど体調を崩したばかりで、その回数は日に日に増えているようだった。その度に彼が介抱し、彼女を慮っていた。
「…また…“贄”が必要か」
彼女が倒れるたび、それと同時に“贄”が必要になっていた。
拓魅が少女を見つめてつぶやくと、少女の瞼が動いた。
「拓魅…?」
「ここにいる。どうした?」
少女が視線をさ迷わせる。拓魅は腰を下ろして少女の視界に入るように背中を折った。
「…森が…妖が騒いでいます…落ち着かない様子で…私の胸を撫で回します」
「あぁ。つらくはないか?」
「まだ、大丈夫です。こうして横になっていれば負担はありません」
まだ。という少女の言葉に拓魅は眉根を寄せた。
森が騒いでいる原因は妖が騒いでいるせいだ。その空気が社の周りの森全体を包み込み、不穏な空気を漂わせている。
「アレの…鬼斬丸の封印が弱くなっているんですね…」
「…」
拓魅は答えなかった。だが少女は拓魅が答えなくともわかっていた。妖が騒ぐ理由を。
「封印が弱まれば鬼斬丸の力はまず妖や神をも侵し始めます。こうしてはいられません…」
体を起こそうと細い腕を突く少女に拓魅は無言で待ったをかけた。
彼女が何をしようとしているのかわかっていたからだ。
「ならん。少しは休め。お前は体が弱いんだ。もう少し自分を大切にしろといつも言って———」
少女は何が可笑しいのかくすくすと笑った。拓魅が不服そうに口をつぐんで少女を見つめる。
「貴方は少し心配しすぎよ。いつも言っているでしょ?もっと私を信じてって」
「それとこれとは別だ」
「別じゃありません。一緒です」
「いいや違う」
「いいえ同じです」
しばらく二人の視線がぶつかり合う。一歩も譲らない互いの視線は頑なに相手を見つめかえした。
そして暫くの後、拓魅が大きな溜息をついた。
「…全く。昔から強情だな、お前は」
「ありがとう、拓魅。私は結局最後には折れてくれる拓魅が好きよ」
「わかってるくせに」
どう彼女を説得しても聞き入れてくれないことは昔から知っている。
これと決めたら誰にも一歩も譲らないその頑固さにはいつも悩みの種だった。
だが、今回は譲れない。
「いいか、封印の強化には俺が向かう。お前はここにいて、大人しく養生するんだ。わかったか?」
「あらあら駄目よ、拓魅。せっかくの美男が眉間にシワなんて寄せて…」
「人の話を聞けっ!璞玉(あらたま)!」
話を逸らそうとする璞玉に拓魅は一喝する。外見からわかるように拓魅の方が年上だ。だがその年上が年下である璞玉に良いように扱われていれば黙っているわけにもいかない。
拓魅は大きく息を吸って璞玉に向き直る。
「姫。俺はお前が大切だ。己の命よりも大事だ。だから頼むから、大人しくしてれ」
その目には慈愛と悲哀が混ざった複雑な色が映っていた。
璞玉は微笑して、そっと白い手を拓魅のそれに重ねる。
「ごめんなさい。私は貴方に心配させてばかりね」
小さな手は優しく大きくて骨ばった拓魅の手を撫でる。
「…わかったわ。今日は大人しくする」
「そうしてくれると助かる」
渋々引き下がった璞玉にほっと安堵する。頑固である彼女を説得するには気力を使う。拓魅が立ち上がろうとする手を璞玉が引き止めた。
「拓魅」
「ん…」
細い腕で拓魅にしがみつくように彼女は抱きついた。
「つらい思いをさせてばかりでごめんなさい」
「構うな。俺はどうってことない。それにこの状況を打開するために姫をお呼びしたんだ…まだまだこれからだろう?」
少女は小さく頷いてその腕を解いた。拓魅はそっと璞玉の頭を撫でて、再び立ち上がる。
「行って来る」
「はい…」
拓魅の背を見送った後も璞玉はしばらく動かなかった。
「因果など…なければ良いのだがな…」
拓魅は境内に出て、ざわめく風にそう呟いた。
赤い髪を揺らし、拓魅は頭を振って目を細める。その目には光さえも映さない堅固な色があった。
「さぁ…贄を捧げに行こうか」
「何だこれは」
不満と怒りが滲んだその声音は配下である天霧に投げられた。
主人の機嫌取りに慣れていた天霧は淡々と答える。
「おそらく封印を施されているものと思われます」
「ならその封印とやらを解け」
「封印はいくつか点在し、全てを解くことができませんでした」
「話にならん」
興味が失せたとばかりに手にしていた刀の一振を床に投げ捨てる。
天霧はそれを何も言わずに拾い上げ、再び主人の前に膝を折る。
「ですがあの社の結界を破って手に入れた代物です。持っていれば何か力になるとは思いませんか?」
「鞘から抜けぬ刀をどう扱えというのだ。興が失せた」
先ほどから何度も抜刀しようと試みているが、その刀はびくともしないのだった。
「噂を聞いてどんな刀かと思えば、ただの古刀だったとはな。とんだ手間だった」
風間はふっと薄い唇から溜息を零した。
京都の一角。そこを根城にしている旅館には風間達以外に客はいない。
「何か理由があるのやも知れません」
「ふん…」
強靭な力を秘めた秘刀があると聞いて取ってきたものだが、鞘から抜けないとなればそれは刀として扱えるものではない。
期待した分落胆は大きかった。
そんな二人を少し離れたところで見ていた青年が風間と同じ赤い目を細めた。
「お前ならこれの原因が何かわかるか?」
灰色の袖口の小さな衣服に身を包んだ一風変わった青年に風間が半ば冗談で問うた。答えられないとわかっていたから、風間は無理な質問をしたのだ。
だが青年の口から思いがけない言葉が返ってきた。
「知っているさ。何せその刀を守護していたのはこの俺だ」
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