二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
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- 【BLEACH】鬼事——onigoto——
- 日時: 2009/12/05 20:35
- 名前: 鬼姫 ◆GG1SfzBGbU (ID: naBKxD7x)
悲しい事に復活そうそう消去にあってしまったようで…
再び復活させますね^^;
内容などは変えませんのでこれからも読んでやって下さい!
新しく覗いてみてくれた方もこれからお暇なときに読んでみて下さい!!
- Re: 【BLEACH】鬼事——onigoto—— ( No.10 )
- 日時: 2009/12/05 20:43
- 名前: 鬼姫 ◆GG1SfzBGbU (ID: naBKxD7x)
【第五夜】———夕食の席にて———
なんとなく、その日の夕食は結局三人で隊舎の外のお店でとる事になった
市丸が適当に選んだ店に入ると座敷の席に座り
市丸・黒猫、吉良で向かい合う形になった
「別に何選んでもえぇからな、黒」
さっきの出来事などなかったように普通に接してくる市丸の態度が嬉しくて、黒猫は必要以上に嬉しそうに頷いた
黒猫がもちろん和食しかないメニューからどれを選ぼうか考え込んでいると市丸に話しかける一人の女性が現れた
「ギン、じゃない…市丸隊長!この子が前言ってた新入隊員の子?紹介するの遅いじゃないのよっ」
その女性は黒猫が顔を上げる前に市丸に話しかけながら黒猫に抱きついてきた
抱きついてきた女性のナイスバディーさに同じ女ながら少しだけ慌てる
そんな黒猫の様子を面白がるように市丸は女性に制止を求める事なく話しを続ける
「乱菊やん、こんばんは…隊舎の外でくらい名前で呼んでもえぇよ?ボクそういうのあんま気にせぇへんし———遅いて…だって来よったの今日の午後やで?紹介なんて普通明日になるやろ」
黒猫に抱きついてきたのは松本乱菊だった
抱きついたまま市丸の話を聞いていたがそれでも連絡くらいくれればいいのに、と内心むくれていた
「おい、松本…人の席に勝手に入るな」
乱菊の後ろから低いがどこかまだ幼い感じの男の声がした
その声に乱菊が振り向いたので少しだけ自由になった首を動かし、声の主を捜した
そこに居たのは銀髪の小柄な少年、日番谷冬獅朗
明らかに黒猫より低い身長ながらその態度のでかさは驚くものだった
「えー、知り合いなんだから別に良いじゃないですか隊長〜」
口を尖らせて反論する乱菊と眉間にしわを寄せている日番谷を見ているとまるでどちらが年上か分からなくなる
黒猫は目の前の少年が隊長という地位にある事に失礼ながら驚いてしまった
その視線に気づいたのか日番谷は黒猫に鋭い視線を向ける
「何だ…俺に何か言いたいことでもあんのか?」
その乱暴な口調に乱菊は黒猫を彼から庇うように再び抱き締めた
「ひどーい、隊長ってば初対面の女の子相手にそれはないでしょう!」
乱菊の言葉に日番谷はばつの悪そうな顔をすると、フイッと顔を背けて溜息を吐いた
黒猫に抱きついたまま乱菊は市丸に話しかける
「ねぇ、この子に席官あげたの?」
その言葉に黒猫はピクッと僅かに反応してしまった
市丸はそんな黒猫の様子に構う事なくゆるりと首を振った
「いやぁ、いくらなんでもすぐにはあげへんよ…ま、これからの功績次第やね」
「ふーん?確かあんたの所は三席が空いてたから絶対入れるだろうなー、と思ってたんだけど」
市丸の言葉に意外そうな表情を浮かべとりあえず納得したように頷いた乱菊の言葉は正鵠を得ていた
乱菊の意外な鋭さに黒猫は感心しながらも市丸の言葉に違和感を覚えていた
隠しているのだろうか、書類が通っていないから言わないだけか、さっきの言葉を忘れているのか
浮かんできたたくさんの疑問に頭を悩ませたまま、そのまま同じ席で夕食をとる事になった乱菊と日番谷と適当な会話を続ける
身の上話は自然と振ってこなかったので良かったがもしかしたら鋭い乱菊は何かあると気づいていたのかもしれない
「じゃあまたなぁー、乱菊、十番隊隊長さん」
「またねー、ギン、黒猫、吉良ー」
「さよならぁ」
市丸の暢気な声と乱菊の明るく澄んだ声が交差して、最後の方に黒猫の気の抜けるような声があたりに響いた
来た道を隊舎へと戻りながら市丸は機嫌よさそうに笑っていた
吉良もいつもの気難しそうな表情を少しだけ和らげている
黒猫だけがさっきの疑問を引き摺ったまま眉間にしわを寄せていた
「また明日なー、イヅル」
「おやすみなさい、市丸隊長、黒猫君」
私室の前につくと市丸は黒猫の背中を押しながらイヅルへ声をかけ部屋へ入った
「黒、先風呂入って来ぃ」
優しい市丸の言葉に甘える事にして黒猫は疲れと一緒に疑問を流すため風呂場へ行った
- Re: 【BLEACH】鬼事——onigoto—— ( No.11 )
- 日時: 2009/12/05 20:43
- 名前: 鬼姫 ◆GG1SfzBGbU (ID: naBKxD7x)
【第六夜】———寝る前に一言———
「ボクが風呂終わったらちょっと話あるから部屋で待っとき、黒」
悩みを疲れと一緒に無理矢理洗い流した黒猫が風呂から出てくると、頭にのせたタオルを髪を拭くようにぐしゃぐしゃにしながら市丸が一言そう告げた
話とは何だろうと不安と好奇心が混ざった表情で頷き、黒猫は市丸の部屋に入った
畳間の市丸の部屋は机があり、今は布団が敷かれているがそれ以外には何もないどこか寂しい部屋だった
失礼かと思ったがまだ初春の夜は肌寒く、髪もろくに乾かしていないせいで体が冷えはじめていたのでちょこんと市丸の布団の上に座り、部屋の主が入ってくればすぐ分かるように入口の襖の方を向いていた
誰もまだ寝ていないはずなのになぜか布団は温かかった
絶対にしっかりとした姿勢で市丸と対面しようと思っていたのに
いつの間にか黒猫は、市丸の布団の上で丸くなって寝入っていた
「黒、話ある言うたやろー。寝たらあかん」
からかうような市丸の言葉にゆっくりと目を開けると案の定目の前にあるのは市丸の笑顔
それを目にすると同時に自分が何を言われてここに来たのかを思い出し慌てて体を起して正座をした
「す、すいませんでしたっ」
ぶかぶかと頭を下げる黒猫を市丸は黙って見下ろしていた
何も反応がない市丸に、頭を下げている黒猫は不安になる
恐る恐る顔を上げると市丸と目が合った
「まだ、顔上げてえぇとは言ってないで」
首を傾げながら言われた言葉に慌てて頭を下げ直すと、堪え切れないというような市丸の笑い声を頭上で聞いた
「いや、ごめんな黒。もう顔上げてえぇで…反応があまりに素直やからつい遊んでしもうたわ」
黒猫の小さな肩をポンッと叩いて市丸は顔を上げる許可を出した
再び恐る恐る黒猫が顔を上げると申し訳なさそうに苦笑している市丸がいた
「あの…怒ってはないんですか」
おどおどした様子で尋ねると市丸は大きく首を振った
「全然大丈夫や、心配せんでえぇよ」
そう言って黒猫の頭を優しく撫でた
「で、本題の話しなんやけどな」
暫く二人で雑談をしていたのだが、漸くといったように市丸は膝を叩いて話しを本来のものに戻した
不安そうな黒猫の顔を見ながら笑顔で告げる
「さっき、ボクが乱菊に言うたのは冗談や。確かに黒には三席になってもらう、けどな—————黒は、黒番の三席や」
市丸の言葉に黒猫はホッと胸をなでおろした
最初に言われたあの事を忘れているわけではない事が分かったから
それに、黒番であることも黒猫にとっては都合が良かった
『黒番』————それは、裏の席官
表向きは空席や適当な人物を据え、実際の仕事はその者に任せる。要はあまり人目に晒したくない特に貴重だったり、優秀な人材を秘蔵っ子のような形で傍に置く事
その席官に黒猫は選ばれた
つまり、彼女は市丸にとって大事な人材であるという事
そう言われているようで素直に嬉しかった
「でもな、敵とかには普通に『三席の黒猫や』って名乗ってもえぇからな」
市丸の言葉に注意深く頷いた
そうすれば敵の心に混乱が生じ、隙が生まれる事があるから
「黒にこの話する前にあんなこと言うて悪かったな、帰ってくる間ずっと悩んどったやろ」
頭を掻きながら先程の話を再び謝った市丸は黒猫が帰ってくるまでずっと難しい顔をしていた事を分かっていた
その事に驚いて黒猫は思わず目を丸くする
まさか、理由まで悟られているとは思ってなかったから
「ボクだって隊長なんやから部下の思うとる事くらいは分かるんや、それに…黒の考えとる事は分かりやすい」
黒猫の表情を心外だ、という様な顔で見ながら市丸は理由を分かっていた理由を告げる
もう一つ理由を言おうとして、真剣そうな表情を思わず崩してしまった
自分の話を聞いている黒猫の表情がひどく真剣な顔をしていたから
それにうけてしまって、分かりやすいと言う声音は笑いに揺れていた
その笑いの理由が分からず困惑している黒猫に市丸は柔らかく声をかける
「じゃあ、もう今日は遅いみたいやから…さっさと寝よか」
静かに頷いて立ち上がる黒猫の背を押しながら襖を開けると手を振って見送り、その姿が部屋に消えるまで見つめていた
- Re: 【BLEACH】鬼事——onigoto—— ( No.12 )
- 日時: 2009/12/05 20:44
- 名前: 鬼姫 ◆GG1SfzBGbU (ID: naBKxD7x)
【第七夜】———雷夜———
市丸の部屋から出て、そのまま大人しく自分の部屋に戻り襖を開けて一瞬足が竦む
——————————何でこんなに暗いの?
灯りをつけずに市丸の部屋へ直行したので日が落ちて暗くなっている事には気づいていたがまさかここまでとは思っていなかった
「どうしよ…とりあえず灯り」
どうしても真っ暗な部屋の中に入る決心がつかず襖の前でおどおどしていたが、漸く諦めがついたように灯りを探す事にした
暗闇に恐る恐る手を伸ばし、襖のすぐ横にある壁についている灯りのスイッチに触れようとした
刹那、部屋全体が明るくなった
呆気にとられて棒立ちになっていると一拍程開けて響く轟音——————————雷だった
「ひっ…」
嫌いな雷に一人で遭遇したショックからかろくに悲鳴も出せぬまま床に座り込んでしまった
耳を澄ませばさっきは聞こえなかった雨音が聞こえる
口を両手で押さえて悲鳴を上げないようにしながら、市丸の部屋を振り返る
特にさっきの雷に驚いている様子はなく、黒猫の反応にも気づいていないようだった
「もう、無理ぃ」
情けない声を出して、大きな瞳に涙を浮かべる
何故、護廷十三隊に入って初めての夜に雷なのだろう
理不尽過ぎて泣きたくなる
このままでは今夜中は寝れないと判断し、自室に入ることも諦めた
そんな黒猫が勇気を振り絞って立ち上がり、向かった先とは…………?
「おー、随分でかい雷さんやなぁ…黒大丈夫やろか」
雷の音にピクリと反応して読んでいた書物から顔を上げる
敷いている布団の上に座り、黒猫を送り出した後は読書をして夜を過ごすつもりだった
雷の音に黒猫が怖がっていないかと不安がよぎる
強いようでいて、それはただの強がりである事を今日一日で分かってしまったから
一応様子を見に行こうかと思って書物を閉じると背後にしている入口の襖の方に人の気配を感じた
それがあの子のものである事が分かると市丸は笑みを浮かべて口を開いた
「こんな夜中にどちらさんですかー」
ふざけて言ったつもりなのだが何故か反応がない
抑えてはいるようだが僅かに怯えの気配を感じ取り、市丸は苦笑する
——————————ほんまに不器用な子やな
雷が恐いなら今すぐにでも襖を開けてこの胸に飛び込んでくればいいのに、自分の反応を気にしてかそうしたいのを抑えている黒猫が可愛らしかった
どうやら本当にこちらが動かなければ相手も反応しないようだったのでゆっくりと立ち上がり襖の前に立つ
「黒…どないした?」
ゆっくりを襖を開けると予想通り、そこに居たのは可愛い子猫
襖が開いて黒猫と市丸の間の壁がなくなると抑えが利かなくなったように黒猫は市丸に無言でぎゅっと抱きついた
市丸に抱きついてしまってから、黒猫は己の行動を後悔した
————————————迷惑だったらどうしよう
もしかしたらこれから仕事をするつもりだったのかもしれないし、寝るつもりだったかもしれないから
それを自分が起こしてしまったのだったら申し訳なくて仕方がない
嫌がる本心を抑え込んで、黒猫は腕の力を緩める
「い、いきなりすいませんでしたっ」
そういいながら目を瞑り、市丸の顔を見ないようにしながら腕を離す
その瞬間、一瞬だけ離れた市丸の温かさにまた連れ戻されていた
市丸は離れようとした黒猫の背中に腕を回し、優しく抱きしめていた
「雷、怖いんやろ?————無理せんでえぇから、ほれ、入りぃ」
からかうように黒猫が怯えている理由を当ててみせ、少しだけ体を離すと柔らかな笑みで見下ろして部屋の中へ導いた
市丸の行動に身を任せ、さっき出たはずの部屋にまた入ってしまう
連れていかれるまま布団の上に座ると、市丸を見上げる
黒猫の視線を受け止めた市丸は、何を勘違いしたのか首を傾げて問いかけた
「もう一式布団出したろか?」
その言葉に黒猫は思わず大きく首を横に振ってしまった
途中でハッと我に還り、かなり恥ずかしい反応をしてしまった事に気づいて顔を赤く染めて俯く
そんな黒猫の頭に大きな手を置きながら市丸は布団に入る
「素直で何よりや…早く黒も入りぃ、もう遅いから寝るで」
結局黒猫は恐いはずの雨の夜を市丸と一緒の布団という場所で、温かく幸せに過ごしたのだった
細い市丸の腕枕に落ち着き、布団に倒れて五分もしない間に黒猫は夢の中へと旅立っていた
後には、すっかり眠気の覚めた市丸だけが雨音の響く闇に残された
- Re: 【BLEACH】鬼事——onigoto—— ( No.13 )
- 日時: 2009/12/05 20:45
- 名前: 鬼姫 ◆GG1SfzBGbU (ID: naBKxD7x)
【第八夜】———記憶の中の少女———
降り続く大雨の中、真夜中に近くなっても十番隊隊首室にはまだ明かりがついていた
中にいるのは二人、日番谷と乱菊だ
昼間に乱菊がさぼって溜まった仕事を何故か文句を言いながらも日番谷は手伝っていた
机に頬杖をついて黙々と仕事を片付けながら日番谷は口を開く
「松本、さっき会ったあいつが本当に今期『ただ一人』の新入隊員か?」
その声音には明らかに疑いの色が浮かんでいて、それを察した乱菊は苦笑を浮かべて顔を上げ日番谷に目を向ける
「そーなんですよ、てっきりもっと真面目そうな子かと思ったのに意外とのんびりしてましたねぇ」
先程夕食をとりに行ったときに会った黒髪の少女を思い出す
あの背に流れる黒髪が美しかったのが印象に残っていた
それと、両で色の違う大きな猫のような瞳
そこまで考えて乱菊は思わずハッとしたように日番谷を見た、顔には満面の笑みが浮かんでいる
「隊長、あの子が気になるんですか?」
「下世話な事を考えるなよ」
乱菊のからかうような言葉をあっさりと打ち消して日番谷は仕事に戻った
少しつまらなそうな乱菊だったが、このままでは徹夜になると思い渋々仕事に戻った
雨はまだ降り続いている
市丸は自分の腕で眠る少女が気になってなかなか寝る事が出来ずにいた
降り続く雨音に時折響く雷に照らされる穏やかな寝顔に目を落としながら色々と思い出す
あの日の記憶を
——————————にしても、ようここまで来はったなぁ
あの日、狭い押入れの暗闇で一人怯えるように座っていた黒猫
隙間からその姿を覗いたとき、市丸は美しく光る大きな瞳に目を惹かれた
あの時黒猫も他の家族と一緒の場所へ送ってやらなかったのは単なる気まぐれ
どうしても、あの瞳を見つめると無情に射殺すことなど出来なかった
だが、少しでも気が違えば今の黒猫はここにはいない
しかも、確か黒猫の屋敷があったのは
北流魂街 80地区 『更木』
温かな光とは縁遠い場所へ追いやられた者達だった
あの後とりあえず藍染の手から逃がしはしたものの、その先生き残れるなどとは思ってもいなかった
——————————しかも、よりによって今期入隊って…相当凄いで
黒猫が三番隊へ来たのは偶然などではなく、本人の希望
本来希望など通る筈のない新入隊員が何故好きな隊に入隊出来たのか
それは、今期の入隊試験にあった
黒猫や市丸など多くの死神の出身である『真央霊術院』
そこでは護廷十三隊に入るための試験が毎期ごとに行われているのだが、数百年に一度とんでもない難題が出題される時がある
内容などは一切不明で、経験者が口を開く事も許されない
その試験は受かる者が大抵おらず、その期はどの隊も落胆の色を帯びる
しかし、その試験で合格すれば一番隊配属か配属希望を出す事が出来る
そして黒猫は、その試験に合格した過去少ない死神の一人であるという事だ
黒猫はそこで何故か一番隊配属より希望を選んだ
他の隊員や教員の勧めを無視して選んだのがこの三番隊である
——————————しかも、希望提出の時に迷いなく即答やったって言うからおもろいわ
更に黒猫は、第二希望には『十一番隊』と答えたという
あの日の臆病な子猫があんな猛者揃いの十一番隊への配属を第二希望にしたという話は市丸を正直驚かせた
そこまで思い返した時市丸は再びあの日の事を思い出す
こんな場所で生き残るのは難しいだろうから、せめてもの励みに、と己を追って死神になれと勧めた
家族の恨みを晴らすならば同じ場所まで来てみせろ、と
あの時の黒猫の表情を市丸は思い出せずにいた
家族の変わり果てた姿を見て恐怖していたのか、怯えていたのか
市丸に憎悪の瞳を向けていたのか
あるいは命だけは助かる事に安堵し、微笑を浮かべていたのか
まさか、本当に来れるとは思ってもいなかった
———————————やっぱ、ボクの事恨んどるんやろな…今でも
その恨みの刃を向けられた時、自分はどう反応するのだろうか
市丸自身もそれは分からなかった
黒猫に不安の眼差しを向けた時、少しだけ唸るように黒猫がぐずった
市丸はそれを落ちつかせるように背中を優しく叩く
暫くすると落ち着いたようで再び穏やかな寝顔に戻る
その表情を見つめていた市丸に黒猫は予想外の言葉をかけた
それは本人の意識はない寝言だったがギュッと市丸の着物の襟を掴むと薄く唇を開く
「ありがとう、狐さん……私をあの牢獄から出してくれて」
その言葉に市丸は驚いて思わず目を見開く
そんな事に気づかないまま寝息をたてる黒猫を見つめてその白い頬を撫でた
黒猫の言葉を聞いた途端、何故か無性に眠くなり瞼が落ちてくる
最後の意識を振り絞って黒猫の耳に囁きかけた
「ボクは、なぁんもしとらんで…黒」
- Re: 【BLEACH】鬼事——onigoto—— ( No.14 )
- 日時: 2009/12/05 20:46
- 名前: 鬼姫 ◆GG1SfzBGbU (ID: naBKxD7x)
【第九夜】———夢の痕———
ねぇ、苦しいよ…助けて
—————————知らない、私はお前なんて知らない
逃げ切れると思ってるの?
——————————何から?私は逃げようなんて思ってない
だって貴女は…
——————————やめて、私に名前なんてないのだから
さぁ、早く帰って来なさい…『———』
——————————誰?そんな名前の人、私は…
悲鳴を上げかけて世界が変わる
漆黒の世界が真っ赤に染まる
『背中』の痛みも消えて私の意識は澄んでいく
瞳を開ければそこにいたのは『貴方』
「ありがとう、狐さん……私をあの牢獄から出してくれて」
いつもならそこで終わるはずの夢が今日は違った
『貴方』は私に笑顔を向けて口を開いたんだ
「ボクは、なぁんもしとらんで…黒」
そう、私の名前は『黒』、『市丸黒猫』なんだ
黒猫はいつもよりも穏やかな心地で目が覚めた
多分、何故かいつも冷たいはずの布団が温かいから
そして、いつもの夢が少し違っていたから
——————————ん?何で…暖かいの?
スッと大きな瞳を開けて驚いた
瞳を開けて一番最初に目に入ったのは綺麗な銀髪
朝日に照らされてその髪は透けるようだった
そして、次に目に入るのはそれの持ち主
変わらない笑顔でこちらを見ている
どうやら自分が起きるまでその寝顔を見られていたらしい
「おはよ、黒」
笑っている口が開き、自分の名前を呼ぶ
その言葉に安堵して黒猫は微笑を浮かべる
「おはようございます、ギン隊長」
今更ながらこの状況が恥ずかしくて、黒猫は挨拶の後布団に潜ってしまった
「えー、何で逃げるんや?」
苦笑を浮かべながら市丸は黒猫に声をかける
その言葉に布団から顔半分を覗かせて黒猫は呟いた
「何か…恥ずかしいです」
その言葉に少しだけ、市丸は驚いたような顔をしてすぐに元の笑顔になる
「何ゆうてんねん、今更…ボクと黒の仲やないの」
さらりとそう言ってガバッと黒猫に抱きついてきた
その行動に驚いて黒猫は言葉を無くして目を見開く
目が合った市丸は心底面白そうな顔をして口角を上げる
「黒、暖かい」
暫く二人で温まっているとそろそろ起きなければならない時刻になっていた
布団から抜け出しながら市丸は黒猫に声をかける
「それじゃ、はよ着替えておいで」
その言葉に元気に頷きながら黒猫は襖へ向かう
市丸はその時、特に何も考えず口を開いた
黒猫の小さな背中に声をかける
「黒、『背中』どうなったん?」
その瞬間、襖にかかっていた黒猫の手が揺れた
雰囲気が途端に鋭くなる
——————————あかん、失敗してもうた
市丸の心情を察してか、振り向いた黒猫の表情は予想以上に穏やかだった
「あぁ、『アレ』は自分で何とかしましたよ」
少し早口にそう言って黒猫は素早く、逃げるように部屋を去った
「…どーしよ。やりづらくなってしもうたな」
市丸の独り言が部屋に虚しく響いた
——————————やっぱり、ギン隊長は知ってるんだ
早足で自室へ帰った黒猫は床に座り込みながら静かに息を吐いた
市丸の部屋を出てから、息を止めていた事にようやく気づく
そっと自分の背中に手を当てる
背筋が凍るような心地がしてサッと手を離した
これは誰にも見せてはいけないものだから
たとえあの人にでもこれだけは見せてはならない
でないと、軽蔑される
そんな恐怖が黒猫を襲い体を抱きしめる
暫くそうしていると廊下から足音が聞こえ、感じ慣れた気配が襖越しに立ち止まった
自分と背中合わせのような格好で相手は口を開く
「ごめんな、黒。さっきの言葉…聞かへんかったことにしといて」
「はい、分かりました」
相手の言葉に頷きながら答える
相手が打ち消した言葉にはもう意味がない
——————————あの事は忘れよう
そう思ったら、急に心が軽くなった
勢い良く立ち上がると襖を開けて姿を見せる
少し驚いた様子の市丸に大丈夫だと言うような笑顔を見せて
その表情に安心したように市丸も笑うと黒猫の頭にぽんっと手を乗せて口を開いた
「今日は、ボクもイヅルもちょっと忙しいんや。だから、黒の今日の仕事は社会見学…好きな隊見といで」
市丸の予想外な言葉に一瞬反応が遅れて、それでも次の瞬間黒猫には満面の笑みが浮かんでいた
「はい、分かりました」
元気良く頷いた黒猫
今日は一日探険隊だ
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