二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
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- 学園アリス 絆
- 日時: 2013/07/06 15:18
- 名前: かりん (ID: wXpuLz/E)
こんにちは!学園アリスなつみかんファンのかりんです!
これから学園アリスの小説を書きたいと思います。
この物語は、蜜柑が母親・柚香との学園脱出に失敗したのち、
初校長が志貴の出した4つの条件をすべて飲み、
蜜柑がみんなと平和な学園生活を送っているという設定で始まります…。
- Re: 学園アリス いつか会えるその時まで ( No.31 )
- 日時: 2012/03/04 19:13
- 名前: かりん (ID: HT/LCIMm)
〜第七話 棗の決意〜
「どういう事だ、初校長!」
棗は両手の拳で机をたたき、どなった。目の前には、妖しげに笑う初校長。今、棗は本部に来ている。つい先ほどの志貴の言葉が棗の脳裏に焼き付いている。
『『今現在、広まっている盗みのアリスについての噂は、初校長が広めたものです。これは、初校長の佐倉蜜柑に対する嫌がらせです。』と、月とペルソナから緊急の連絡を受けました。』そう、志貴や他の教師たちの会話の一部始終を盗み聞いていたのは、棗だったのだ。
「なぜ、あいつから手を引かない?!」
「てめえ、あいつを、蜜柑をどうするつもりだ?!もう、あいつに手を出すな!」
棗はものすごい剣幕で初校長をまくし立てた。
が、しかし、初校長は至ってマイペースに答えた。
「私も、手を出したくないのは山々なんだがね。だが、彼女にはやってもらいたい仕事が山ほどあるんだ。だが、私は、契約によって彼女には手を出せなくなっている。だから、今回の策を思い付いた。あの時と同じように彼女を精神的に追い詰めれば、周りに危害が及ぶ前に彼女は必ず私の元にやってくるだろうからね。もう作戦の第二段階は整っている。今度は、ほかの生徒たちも巻き込んで少々手荒なことをするつもりだ。」
「ずいぶんと正直に言うもんだな。」
「ここにいるのは、私とお前のただ二人。お前が佐倉蜜柑の逃亡の手助けをしていた事実があっても、彼ら(志貴たち)にとってお前はただの一生徒。そのお前の言うことを誰が聞き入れる?もっとも、聞いているのがお前ひとりでないというなら話は別だが。この部屋とその周囲に葉には強力な結界が施してある。私とお前以外いないことはもう確認済みだ。」
棗はそれを聞くと、腸が煮えくり返る思いだった。教師にとっては、自分はただの一生徒であり、ただのガキにしか過ぎないのだ。自分一人の言うことなど耳には入れてもらえない。しかも、ここにいるのは自分と初校長の二人だけ。録音機器も持ってきていない以上、初校長の自白を証明するものは何一つ持っていないのだ。ただただ、相手を睨みつけることしかできない。悔しさでいっぱいだった。
「棗。お前が私のために、あの娘にさせようとしていた仕事を引き受けてくれるというのなら、あの娘、佐倉蜜柑からは手を引いてやってもいいが。」
はっとして顔を上げると、初校長が不気味に笑っている。
(なるほど…。小泉月をB組へ差し向けた時と同じ手口か…。)
あの時も初校長は自分に同じようなことを言ってきたのだ。
『お前が私のために動いてくれるというのなら、悪いようにはしない。』と。
あの時と同じように、嘘かもしれない。初校長の言うことなど到底信じられるはずもない。
それに…。
『棗…、もうあの時みたいに無茶しやんといてな…。』
『ウチには、何も隠さんといて…。』
あのクリスマスの夜、棗は蜜柑にそう言われていた。そして、自分は、もう無茶はしない、と誓っていた。
ここで初校長の提案を承諾するということは、蜜柑との約束を違えることになる。
何も言えないでいると、初校長はまた、話し出した。
「私が約束を破るとでも思っているんだろう?だが、今は、月やペルソナの力は、協約により学園内で使うことを禁止されている。だから、あの二人のアリスで佐倉蜜柑を傷つけることは不可能だ。お前が私の言う任務をこなしてくれるというのなら、私も肩の荷が下りる。そうすれば、あの娘には、決して手は出さない。」
棗は初校長の顔を見上げた。そして、ゆっくりと首を縦に振り、提案を承諾すると告げた。棗自身初校長の言うことを100%信じたわけではない。けれど、蜜柑から手を引かせる手段がこれしかないのなら、それにかけるしかない、とそう思ったのだ。
(蜜柑…。悪い…。)
蜜柑に嘘をつくという罪悪感を感じながらも、再び任務に明け暮れる日々が始まった。
- Re: 学園アリス 〜第一章 いつか逢えるその日まで〜 ( No.32 )
- 日時: 2013/07/06 15:53
- 名前: かりん (ID: wXpuLz/E)
〜第八話 発覚〜
『棗。お前が私のために、あの娘にさせようとしていた仕事を引き受けてくれるというのなら、あの娘、佐倉蜜柑からは手を引いてやってもいいが。』
(いいだろう、やってやろうじゃねーか。初校長!)
『なら、これで取引成立だな。』
(いいだろう、やってやろうじゃねーか。初校長!)
桜は、嫌な予感がした。今まで夢を見ていたのだ。棗が蜜柑の身の安全と引き換えに、初校長のために任務をすることを承諾するという嫌な夢を。
(まさか・・・?)
嫌な予感が心をよぎる。
桜のアリスは、予知夢と透視能力である。今見た夢が予知夢であることは十分あり得ることだ。桜は、一刻も早く予知夢であるか否かを確かめなければと思い、制服に着替え蜜柑や棗のいる中等部寮に向かった。しかし、中等部寮についてすぐ、桜は、棗は学園の用事で出かけていていないのだと聞かされた。帰ってくるのはいつも、午前0時を過ぎているのだという。ますます、不安が心によぎる。
そして、深夜———。
中等部寮の前で待ちぶせていると足音が聞こえてきた。
振り返るとそこには棗がいた。満身創痍で、顔色もよくない。
「なんでお前が…?」
本人は平静を装っているようだが、端から見ればいつ倒れてもおかしくない様子だ。
桜は、恐る恐る口を開いた。
「あなたに会いに来たのよ。今日変な夢を見たから、その真意を確かめるために。」
今の棗の状態を見れば、聞かずともわかりきっている。しかし、桜は続けた。
「夢の中であなたは初校長に脅されていたわ。『お前が私のために動くなら、佐倉蜜柑には手を出さない』、と。」
すると、とたんに棗の表情がこわばった。
「やっぱり、ただの夢じゃない、予知夢だったみたいね。」
「…ああ。」
棗は苦々しくうなずいた。
「どうして先生に言わないの?!あなたがこんなこと・してるって知ったら、悲しむのは蜜柑なのよ!!」
「分かってる。だが、蜜柑を守るにはこれしかない。俺の言葉だけじゃ、教師たち(あいつら)は信じてくれない。証拠がないんだ。」
「でもっ…!!!」
棗は、桜の言葉を一方的に遮り、寮に入ろうとするが…。
「………っ。」
突然よろめき倒れそうになる。
「棗くんっ!」
慌てて桜は駆け寄り、体内の「治癒のアリス」で治そうとするが、棗は乱暴にその手を振り払い行ってしまった。
その数週間後、棗の体調は日に日に悪化し、もはやクラスメイトや蜜柑にも隠しきれなくなっていた。クラスメイト達は皆、「だいじょうぶか?病院へ行ったらどうだ?」と口々に棗に言っていたし、蜜柑もまた、棗のことを心配していた。
「棗、あんた最近顔色悪いで。どないしたん。」
「別に何でもねーよ。」
「あんた、ウチになんか隠してない?」
「何も隠してねーよ。ただ、最近眠れないだけだ。」
「そう?なら、えーんやけど。」
蜜柑は、すぐにだまされてくれる。棗にはそれがありがたかった。
しかし、いつまでも隠し通せるものではない。棗は、ある日突然吐血し倒れてしまった。
そして、棗の状態を聞きに来た蜜柑は、ついに知ってしまったのだ。棗が自分のために任務をしていたことを。
「これは、彼から口止めされていたことなんです。」
担当医は、申し訳なさそうに蜜柑に言った。そして、さらに残酷な事実を蜜柑は聞かされる。
「棗君の命は、持ってあと3ヵ月です。」と。
蜜柑は、目の前が真っ暗になるのを感じた。そして、よろよろと立ちあがり、診察室を飛び出していった。
それを見た医師は、ほくそ笑んで電話をかける。
「もしもし、初校長ですか?成功しました。もうすぐ、佐倉蜜柑は、そちらに向かうでしょう。」
「ごくろうだった。」
すべては、仕組まれたことだったのだ。棗の体調を悪化させれば、必ず、蜜柑は初校長の元へと向かうに違いない。棗に任務をさせないために。それを見越して、初校長は棗に任務をさせていたのだ。もちろん、棗が余命3カ月だというのも真っ赤な嘘だ。果たして、蜜柑は初校長の思い通りになってしまうのだろうか?
- Re: 学園アリス 〜第一章 いつか逢えるその日まで〜 ( No.33 )
- 日時: 2013/07/06 15:49
- 名前: かりん (ID: wXpuLz/E)
〜第九話 蜜柑の決意〜
棗の病室…
「棗、あんたウチに内緒で任務してたんやって?みんな聞いたで!『ウチにもう隠し事せんといて』ってあれほど言ったやないか!」
「棗のアホ!大嫌い!」
(バタンッ!)
蜜柑は、泣きながら棗の病室から出て行った。
棗は、閉じられたドアを茫然と見つめていた。罪悪感で胸がいっぱいだった。もう二度と悲しむ顔はさせまいと、泣かせはしないと心に誓っていたというのに。
考えていると、首に下げていたネックレスがチャリ、と音を立てた。蜜柑のアリス石を下げていたのだ。1つはアリス石実習で作ったもの、もう1つはクリスマスに渡されたものだ。アリス石実習で作ったものは、蜜柑が『あまりにカケラ過ぎてけし粒みたい』と言っていたが、棗にとってはどちらも大切な宝物だ。クリスマスに渡されたものを見るとその時のことが頭によみがえる。蜜柑はその時言ったのだ。
「恋のアリス石交換伝説、これで完了!これで、ウチら将来、ずっと一緒に幸せになれるよ!ずっと…。」
それなのに、自分は蜜柑を幸せにするどころか傷つけている。
(オレは、あいつを悲しませることしかできないのか?)
棗は、悔しさで顔がゆがんだ。
一方、蜜柑は自室で一人、泣いていた。棗が自分に内緒で任務をしてい たこと、そのことに今の今まで気付けなかったことが、悔しくて悲しくてたまらなかった。
「どうしよう!このままやったら棗が死んでまう!」
だが、今更悔やんでも仕方がない。とにかく、棗を助ける方法を必死で考えた。しかし、今を変えても、棗がそう遠くないうちに死ぬことに変わりはない。棗に盗みのアリスを使うこともできない。なぜなら、棗のアリスを盗るということは、あのでまかせどおりに命を盗るということに他ならないから。どうしたって、過去を変えなければ、棗を救うことはできない。
(過去を変える…?)
蜜柑の心にある一つの考えが浮かんだ。しかし、それには多くの犠牲を払わなければならない。一瞬迷ったが、蜜柑はすぐにその迷いを振り払った。
(たとえそれで、二人の絆が切れてしまうとしても…、棗がどこかで生きててくれるんやったらウチはええ。)
蜜柑はそっと決意し、ある人物の元へと向かった。
- Re: 学園アリス 〜第一章 いつか逢えるその日まで〜 ( No.34 )
- 日時: 2013/07/06 15:40
- 名前: かりん (ID: wXpuLz/E)
〜第十話 決行〜
高等部寮・桜の部屋…
「やっぱりね。来ると思ってたわ。」
桜は蜜柑に言った。
蜜柑は、高等部寮の桜の部屋に来ていた。そして、開口一番、力を貸してほしいと頼んだのだった。
「棗くんの過去を変えたいんでしょう?でも、分かっているの?そんなことをしたら、傷つくのはあなた自身なのよ。それに、棗くんがそれを望んでいるとも思えない。」
「わかってる。けど、棗を救うには、それしかないんや。お願い、力貸して!」
「いつか、初校長を倒して会いに行ける日が来たとしても、また恋人同士になれるとは限らないのよ。」
「ウチは構わへん。棗がどこかで幸せに暮らしといてくれるんやったら、それでええ。」
『おじいさん、娘さん、蜜柑のこと、よろしくお願いします。』
『どうか…、お願い…。』
頭の中で、あの時の光景がよみがえる。柚香が、蜜柑をおじいさんに託した時の光景が。
あのとき、桜は偶然おじいさんの家にいたのだ。桜とおじいさんとは、血のつながりがあるわけではないが、家が近所なため、親に何か用事があるたびにおじいさんのもとに預けられていた。
そんな時だった。柚香が蜜柑を連れて現れたのは。当時3歳だった桜の記憶にもはっきりと刻みこまれている。
すがるような瞳。今、目の前にいる蜜柑の表情は、あの時の柚香の表情そのものなのだ。
「『あの時』とは違って、過去を変えられた棗くんは、あなたの記憶を持っていない。あなたのことを思い出す確率はゼロに等しいわ。それでも…、いいの?」
「かまわへん。」
決意の瞳。もう、何を言っても聞かないだろう。
桜は、深くため息をついた。
「わかったわ。なら、夜にしましょう。昼だと、目撃者が出て、後々面倒なことになるでしょうから。」
「うん、ありがとう!」
その日、深夜。棗の病室・・・。
「棗。朝はごめんな。絶対に助けるから、待ってて。」
蜜柑は棗の頬にそっと触れ、キスをする。そして、静かに部屋を出ていった。
「棗くんとのお別れは済んだ?」
病室のすぐ外にいた桜は、蜜柑に声をかけた。
蜜柑が黙ってコクンと頷くと、
「なら、早く行きましょう。もうすぐ見回りが来るわ。」と言った。
「うん。」
蜜柑と桜は、静かに、そして急いで、病院から出て行った。本来、この時間帯の面会は許可されていない。二人は、忍び込んだも同然なのだ。
二人が病室を出て行った後、棗が目を覚ました。
なぜか、手に温もりを感じる。
(誰かが握っていたのか?)
いやな胸騒ぎを覚え、棗は、窓の外を見た。そこには、大急ぎで病院から遠ざかろうとする二つの影。一人は、おかっぱ頭の女の子で、もう一人は、ツインテールの女の子。
(まさか…。)
棗はすぐに、腕に取り付けられた医療器具を乱暴に取り除き、部屋を出て二人の後を追った。
北の森・・・。
「心の準備は、いい?」
「うん、お願い。」
「じゃあ、いくわよ。」
桜は、鍵を取り出し、呪文を唱える。
「『星の力を秘めし鍵よ』
『真の姿をわれの前に示せ』
『契約の下、桜が命じる』
『封印解除(レリーズ)!!』」
唱えると、桜の足元に、金色に輝く太陽と月と星の魔方陣が現れ、鍵が杖に変わった。と、同時に、桜の姿は、黒い髪、黒い瞳の少女から、茶色い髪に、緑色の瞳の少女へと変わっていった。
桜は、蜜柑に魔方陣の上に乗るように指示を出し、一枚のカードを取り出して再び唱え始めた。
「『我を彼の時へ導け』
『戻(リターン)!!』」
すると、桜と蜜柑は、白く光る膜に包まれ、体が消えゆくのを感じた。
「蜜柑!」
あたりの景色が消えゆくのを感じていると、突然後ろから声が聞こえる。振り返ると、そこに立っていたのは、誰よりも愛しい人。
「棗!」
「お前、いったいどこに行く気だ?!」棗は、蜜柑の手を取り尋ねた。
「酷いこと言って、ごめんな。絶対に助けるから、未来で待ってて。」
「お、おい。何言って・・・。」
「おわっ・・・!」
見る見るうちに蜜柑の姿は消えていき、棗は突然突き飛ばされた。
「さよなら、棗。また、未来でな。」
それだけ言い終えると、蜜柑は桜とともに完全に消えてしまった。
「みかーーーん!!」
残された棗の叫びが、あたりに虚しく響き渡る。
- Re: 学園アリス 〜第一章 いつか逢えるその日まで〜 ( No.35 )
- 日時: 2013/07/06 15:34
- 名前: かりん (ID: wXpuLz/E)
〜第十一話 過去を変えろ〜
蜜柑と桜は、棗の産まれたその日その場所へと降り立った。
病室では、馨がまだ眠っているところだった。傍には、産まれたばかりの棗がスヤスヤと寝息を立てている。
蜜柑は桜に頷くと、棗にそっと近づき、あらかじめ作っておいた自分のアリス石を棗の体内に入れた。すると、それに驚いたのか、棗が目を覚ました。
「棗。ウチらは必ず初校長を倒して見せる。だから、それまでは、平和に幸せに暮らして。必ず、未来で会いに行くから。」
蜜柑は、棗にそう囁き離れた。
「次、行きましょうか。」
桜は、静かに言った。
「うん、お願い。次は、この一年後や。」
一年後、葵が産まれたその日その場所。
馨が寝ている頃合いを見計らい、棗の時と同様、蜜柑は、自分のアリス石を葵の体内に入れ、その場を去った。
そして今度は、馨が亡くなる日に降り立った。
馨が建物に入った後、ブレーキに細工しようと見知らぬ男が車に近づいてくる。
しかし…。
「ぐあっ!」
すかさず桜が空手で男を気絶させた。
「早く!」
2人は、用意しておいたロープで男を縛り、そのロープにメモをくくりつけ、その場を去った。
「な、なんやこれっ?!」
用事を済ませ、建物から出てきた馨は、驚いた。見知らぬ男が、自分の車の前で、ロープでぐるぐる巻きにされているのだ。見れば、男を縛っているロープにメモがくくりつけられている。そのメモを取り外して見てみると親友からだった。
馨先輩へ
この男は、先輩の車のブレーキに細工しようとしていました。
敵がすぐ近くまで迫っています。
すぐにこの町から離れてください。
柚香
馨は、あわてて男の記憶を読み取ろうとしたが、男は、どうやら結界のアリスの持ち主らしく、読み取ることができなかった。仕方なく、馨は、家に帰ることにした。一刻も早く、夫と子供たちを連れてこの町から離れなければならない。馨は、家に急いだ。
「ふうっ。どうやら、上手くいったみたいね。」
桜と蜜柑は、車の影から出て、ため息をついた。
「まったく、あれを書いたのが柚香さんじゃないってバレたら、どうするつもりだったの?」
そう、あのメモ書きを書いたのは、柚香ではない。蜜柑なのだ。偽物だとバレてしまうのではないかと、桜は気が気ではなかった。
「そんなん、ありえへんって。ちゃんとお母さんが書いたもん、鳴海先生や志貴さんに見せてもろて、その字を真似て書いたんやもん。それに、今のウチは、お母さんと同じ髪型やし顔もそっくりやから、万一、手紙から記憶読み取られても、ウチのことをお母さんやと勘違いするやろうしなぁ。」
確かに、蜜柑は、時廻りをする前に髪を下ろし、桜とともに私服に着替えていた。低かった身長も、今は、柚香と変わらないほどに高くなっている。端から見れは、彼女は、安積柚香と間違われてもおかしくはない。加えて、蜜柑は昔から他人の字を真似るのが得意だった。しかし…、柚香の筆跡確認まで行っていたとは…。本当に用意周到だ。
(それほどまでに、追いつめられていたというの?)
桜は胸が痛くなった。
「それよりも、最後の仕上げや。早く馨さんを追わな。」
蜜柑の言葉で、桜ははっと我に返り、桜と蜜柑は、馨を追跡した。
馨は家族とともに、別の町へと避難していた。住まいを見つけ、落ち着いたのを見届けてから、桜は唱える。
「『悪しき者から彼の者を守れ。』
『盾(シールド)!!』」
日向家全員の体に結界を張ったのだ。これで、命を狙われることがあろうとも、それで命を落とすことはない。
「この魔法は、私が造ったこの魔法玉にこめられた魔力で働いているから、あと20年は大丈夫だと思う。」
桜は、ボウリングの玉と同じくらいの大きさのピンク色の玉を取り出して言う。桜の説明によると、魔法玉は、アリス石と同じようなもので、込められた力を使い切ると、玉は消滅してしまうらしい。
「でも、蜜柑。あなたは本当にこれでよかったの?」
「うん、ありがとう。」
蜜柑は、目に涙をためて微笑んだ。
「帰りましょうか、私たちの時代に。」
蜜柑と桜は、時空間を移動し元の時代に戻った。移動している間、彼らをまもる結界に魔力を供給している魔法玉が、小さくなっていくのを感じながら。そして、蜜柑の胸で光る棗のアリス石が消え行くのを感じながら。過去を変えた以上、棗と蜜柑は出会っていないことになり、棗が蜜柑に渡したアリス石もなくなってしまったのだ。
北の森に戻り、棗の病室をのぞいてみると、そこには誰もいない。病室の名前のプレートも真っ白になっている。寮の彼の部屋も同じだった。蜜柑は成功したのだ。棗の過去を変えることに。
その夜、蜜柑は泣いた。涙が枯れるまで。
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