二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
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- 【ボカロ】月花の姫歌【コメ募集><】
- 日時: 2012/02/18 20:07
- 名前: 奏 (ID: z070pZ.J)
- 参照: http://www.youtube.com/watch?v=m0_gHHcLV6M
こんにちは、奏と申します(・ω・*)
二次小説が紙と映像にわかれる前、
悪ノシリーズの小説を書いていたんですが・・・覚えてる方・・・いないよなぁ((
というわけで、自分が大好きだった『月下ノ姫歌』という曲を
今回は書いていこうと思います。
(小説タイトルの「ノ」がひらがなになっているのは仕様です)
原曲は上のURLです。
ニコ動での本家はもう消えてしまっています。
そして、今回の小説ではササキさんという方のPVを参考にさせていただきます。
※最初はPVを参考にさせていただいているので「映像」のほうで書いていましたが
元々は音楽なのでこちらに移しました。
基本的にぶっつけで書いていきます。よろしくお願いしますm(__)m
【原曲】
「月花ノ姫歌」
作詞 リョータイ
作曲 秦野P
唄 鏡音レン
【参考PV】
>>1
■ 登場人物 ■
* 漣/レン
お面をつけた神の子。
他と姿が異なっており蔑まれている。
周りの人の気持ちに鈍感ではあるが、心優しい少年。
* 柚葉/ユズノハ
迷子になり漣と知り合った少女。人間。
純粋で真っ直ぐな心を持っている。
漣のことが好き。通称「柚/ユズ」
* 神様(菱月/ヒシツキ)
漣の親であり、師である存在。
漣の話し相手となっている。
過去に大きな罪を背負っている。
* 神の子
漣と同じように生まれてきた存在だが、姿形は漣と異なる。
(本来はこちらの姿が正しい)
周りと違う漣を馬鹿にしている。
* 耶凪/ヤナギ
神の子の1人。
他と違って心優しく真面目。
漣のことをいつも気にかけている。
* 老人
紙芝居の老人であり柚葉の祖父。
たまに子供たちに玩具を作ってあげることもある。
(物語の中では現在亡くなっている)
* 蔦葉/ツタノハ
柚葉の曾祖母。心優しく明るい女性。
神様と愛しあってしまった。
漣の母親でもある。
漣(レン)以外のキャラはボカロではありません。
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- Re: 【ボカロ】月花の姫歌【コメ募集><】 ( No.83 )
- 日時: 2012/03/12 09:59
- 名前: 奏 (ID: 4Pm8XsSm)
「漣・・・・・・一緒ニ行ク?」
「・・・いや、耶凪が行くときは耶凪に任せる。」
漣が言うと、耶凪は不安そうな顔で俯いた。
そんな耶凪を見て、神様は安心させるような声色で声をかける。
「耶凪。行っておいで。」
「・・・デモ・・・スゴク嫌ナ予感ガスル。」
「大丈夫。」
神様にそう言われて、耶凪はゆっくりゆっくり竹林の中に姿を消した。
それから約二時間と少し経って、
戻ってきた耶凪は、出て行くときより一層表情が暗く、
目の周りを赤くしていた。
「・・・おかえ・・・耶凪・・・?」
「タ、タダイマ。」
なんでも、耶凪が柚葉と実際話した時間は1時間程度らしい。
それからはずっと、川で一人、心を落ち着かせていたという。
「・・・それで、何かあったの?」
「・・・・・・・・・。」
そのとき、社の中から神様が現れた。
「おや、耶凪、おかえり。」
耶凪は何も答えることなく、辛そうな表情のまま会釈した。
「・・・その様子だと・・・どうやら私が思っていたことが起こったようだね。」
「神様・・・知ッテタノ・・・?
柚葉ガアンナコト言イ出スッテ・・・。」
「柚葉がそう言い出すかどうかは分からなかったけどね。
・・・ただ、蔦葉もなんだよ。
蔦葉も、今の柚葉と同じくらいの年齢のとき・・・。」
神様はそこまで言って口を閉じた。
すぐ傍に漣がいるからだ。
漣だけが、わけのわからなそうな顔で二人を眺めている。
「・・・・・・アノネ、漣。」
「何?」
「ソノ・・・今日、柚葉ニ聞イタコトナンダケド・・・。」
「うん。」
耶凪は、明らかに口を開きたくないというような顔で
漣から目を背けた。
それでも、自らを奮い立たせるように
頬を一度ぱしんと叩き、大きく頷く。
「・・・アノネ、柚葉ガ・・・ソノ・・・
他ノ、人間ノ男ノ所ニ・・・嫁グコトニナッタ・・・ッテ・・・。」
半端ですが一度切ります。
- Re: 【ボカロ】月花の姫歌【コメ募集><】 ( No.84 )
- 日時: 2012/03/14 21:50
- 名前: 奏 (ID: hKAKjiZ3)
時間は少し前に遡る。
「柚葉・・・?」
「・・・・・・あ・・・耶凪ちゃん?」
待ち合わせ場所に来ると、柚葉は振り返ることもせず、
ただ頭を少し下げながら岩にちょこんと座っていた。
耶凪は恐る恐る柚葉の真ん前に回りこむ。
そこにいたのは、目の周りを真っ赤に腫らし、ぼろぼろと涙を零す柚葉だった。
「ユ・・・柚葉・・・!?」
「・・・・・・ぎ・・・ちゃんっ・・・。」
突然、柚葉が腰を上げ、耶凪に手を伸ばす。
そのまま、その小さな体を抱きしめた。
「・・・・・・・・・柚葉・・・?ドウシ・・・。」
「耶凪ちゃんっ・・・・・・わ・・・たし・・・嫌、だよ・・・。」
ただただ強い力で抱きしめられている耶凪は、
なるべく平静さを保ち、冷静な声で言った。
「・・・柚葉、落チ着イテ。何ガアッタノカチャント話シテ。」
それでも結局、柚葉はしばらく耶凪から離れようとはせず、
土の上に涙の染みを作り続けていた。
数分後、ようやく落ち着きを取り戻した柚葉はゆっくり言葉を紡ぎはじめた。
「・・・あのね・・・私、他の人の所に行くことになったの。」
「ン・・・?他ノ人ノ所ッテ・・・?」
「えっと・・・契り・・・っていうか、その・・・。
男の人のところに、嫁ぎに行くことになったの。」
「エ・・・!?」
「・・・へへ、信じられないよね?」
力なく柚葉は笑ったが、
腫れた目元が強調されるだけで、痛々しさだけが見受けられた。
「・・・・・・柚葉ハ、漣ノコトガ好キナンダト思ッテタケド。」
「好きだよ・・・漣くんのことは、今でも大好きだよ。」
「ジャア、ドウシテ?」
「・・・・・・・・・・・・それは・・・。」
柚葉は何かを堪えるように着物をぎゅっと掴んだ。
指に絡んだ紐の先の鈴が、チリンと寂しげに鳴る。
柚葉の目からまた涙が零れるのが、耶凪の視界に入ったが、
耶凪は何も声を掛けることはなく、ただ柚葉が落ち着くのを待った。
「・・・私が・・・決めたことじゃないから。」
「・・・柚葉自身ノコトナノニ?」
「そう。相手の男の人も、いつ嫁ぎに行くのかも、
全部、全部・・・私の家族が決めたことだもん・・・。」
「・・・・・・・・・・人間ノスルコトハ、ヨク分カラナイ。」
「・・・実は、私も。」
「ソレ、無シニデキナイノ?」
「・・・・・・頑張ってた。ずっと。
最近まで、早めに帰ってずっと訴えてた。ずっと、喧嘩してた。
・・・でもやっぱり、駄目だった・・・。」
柚葉は、膝の上に置いてある漣の面を撫でた。
縁は、小さく欠けたままになっている。
「・・・ここまでその計画を先延ばしするので精一杯・・・。」
「ココマデ・・・?」
「うん。本当はね、結構前から決まっていたことなんだ。
嫁ぐのだって、私が何もしていなければもっと早まってたもん。」
「・・・・・・嫁イダラ、ココニ来レナクナルノ?」
「分からないけど・・・でも、今までみたいにはいかなくなるかもしれない。」
柚葉は静かに目を伏せる。
珍しく結ばれていない長い髪が、爽やかな風に揺れた。
「・・・・・・私、もう漣くんに会えなくなっちゃうのかな・・・。」
小さな柚葉の呟きに、
耶凪は瞳にうっすらと涙の膜をはった。
「・・・とにかくね、今日はせめて、耶凪ちゃんにそれを知っていてもらいたくて・・・。」
柚葉は腰を上げた。
耶凪の目の前に立つ。
小さく微笑むその顔は、永遠の別れを感じさせるようなものだった。
「嫁グノ、イツ?」
「・・・・・・ちょうど5日後・・・ここから見える辺りも歩くよ。」
「・・・私、見ニ来ルネ。」
「・・・・・・・・・ありがとう。」
微笑んだ柚葉は、漣の面を耶凪に差し出した。
「エ?」
「これ、返さなくちゃ。やっぱりこのまま私が持ってるなんてこと・・・。」
耶凪は差し出された面をそっと手で制した。
「駄目。私ハ受ケ取レナイ。」
「でも・・・。」
「・・・漣ニ渡シテ。漣ニ会ウタメニ、マタイツカ・・・ココニ来テ・・・。」
耶凪は、堪えていた涙を一粒、地に落とした。
「漣ハ柚葉ヲ待ッテル。私モ待ッテル。ダカラ・・・ダカラ・・・ッ!」
「・・・分かった。またいつか、ね。」
小さな小指をそっと柚葉の前に出す。
「・・・漣ガ言ッテタ、人間ハコウヤッテ約束スルッテ・・・。」
「・・・うん。」
柚葉はその小指に自分の小指を絡め、
小さく、約束だよ、と呟いた。
- Re: 【ボカロ】月花の姫歌【コメ募集><】 ( No.85 )
- 日時: 2012/03/18 21:49
- 名前: 奏 (ID: uz6Wg9El)
話し終えた耶凪は、
あふれ出そうな涙を手でごしごしと拭った。
「・・・・・・・・・そ・・・っか。
・・・ありがとう、耶凪。僕の代わりに聞いてきてくれて。」
漣は小さく微笑む。
無理やり作っているその笑顔が、今はとても痛々しい。
「・・・漣、私ト一緒ニ行コウ?」
「どこに?」
「決マッテル・・・5日後・・・柚葉ノ晴レ姿ヲ。」
「・・・・・・会えないよ?僕は・・・。」
「会ワナクタッテイイ。姿ダケデモ見ニ行コウ?
・・・ネェ、神様モソレハ許シテクレルデショ?」
耶凪は神様の手を握って、訴えるように揺さぶった。
神様は何も言わず、深刻そうな顔で俯く。
一方の漣も、辛そうに顔を背けた。
「・・・・・・オ願イ・・・オ願イダヨ、漣。
ダッテ・・・柚葉ニ会エナクナッチャウカモシレナインダヨ?」
「今だって・・・会ってないよ。」
「ソウジャナイ・・・!ズット、ズット・・・!
会ワナイママ・・・ソノ姿ヲ見ナイママ、柚葉ガ死ンジャウ日ガ来タラドウスルノ・・・!?」
「耶凪・・・。」
耶凪はポロポロと、堪え切れなかった涙を零した。
今までの二人を見守ってきた耶凪だからこそ、流せる涙だ。
漣は神様の顔をちらりと見る。
ここで漣が出したい答えは決まってはいるが、
神様がそれを許すかが分からないのだ。
「・・・ごめん耶凪・・・。でも、やっぱり柚ちゃんには会えない・・・。
今会ったら・・・ううん、姿を見ただけでも、きっと離れられなくなるから。
ここまで耐えてきたのが、水の泡になっちゃうから・・・。」
「・・・漣、イツカノ柚葉ト同ジコト言ッテル。」
「え?」
「・・・似テルヨ、二人ハ・・・。
誰ノコトモ傷ツケタクナクテ、自分ノ気持チ押シ込メテ・・・。
ソウヤッテ結局、自分自身ヲ傷ツケテ・・・。」
そこまで呟いた耶凪は、零れた涙を全て拭い、頬を叩いた。
「・・・ジャア、私一人デ行ッテクル。」
そのまま耶凪は、神様の顔も漣の顔も見ることはなく、踵を返して社の中に姿を消した。
その日の夕方。
突然の雨に襲われたこともあって、
辺りは既に薄暗くなっていた。
「・・・ちょっと、出掛けてきます。」
「おや?今からかい?」
「はい・・・。雨も降ってるし、多分人はそれほどいないだろうから。」
漣はそう言って小さく笑い、
神様が渡してくれた壊れかけの傘を差すと、
雨音を聞きながら竹林の中をゆっくりゆっくり歩いて行った。
「・・・久しぶり、おじいさん。」
辿り着いたのは、柚葉の祖父の墓。
漣の予想は正しかったらしく、雨の降る中に人の姿はなかった。
ただ墓には、それほど摘み取られてから時間が経っていないような、
綺麗な花が複数横たわっていた。
「・・・柚ちゃんが来たのかな・・・。
・・・・・・あ、そっか、嫁ぐこと、おじいさんにも報告したいよね。」
漣は傘を肩で支えながら墓の前にしゃがみこみ、
静かに両手を合わせ、目を閉じた。
「・・・おじいさん、柚ちゃん、幸せになれるかな。
折角男の人のところに行くんだもん。幸せになってもらわなくちゃね。」
ふと、漣は生前の柚葉の祖父の言葉を思い返し、
雨音にかき消されそうな小さな声で、ぽつりと言った。
「・・・・・・後悔のない選択を——・・・。
・・・今更かもしれないけど・・・僕にそれは、できるのかな・・・?」
- Re: 【ボカロ】月花の姫歌【コメ募集><】 ( No.86 )
- 日時: 2012/03/23 21:19
- 名前: 奏 (ID: kASSjQCj)
それから漣も耶凪も神様も、
何もないように、いつも通りに生活した。
ただ、いつも通り待ち合わせ場所に姿を現す漣の元へ、
柚葉が訪れることはなかった。
それから、ちょうど五日後。
天気は快晴。
花は美しく咲き乱れ、鳥は柚葉たちを祝福するように囀った。
「・・・そろそろかな・・・。」
漣は髪を結わず、上着も羽織らないまま、社の階段に腰を落ち着かせながら呟いた。
最近はまともに柚葉の声を聞いていないような気がする。
昔、梅雨の時期や豪雪のときには1週間以上会わないことも何度かあった。
「・・・あのときは、ちょっと退屈だっただけで済んだのにな・・・。」
今はもう、そんな薄っぺらな感情ではない。
柚葉にたまらなく会いたい気持ちを、ただ押し込めるしかできなかった。
そんなとき、漣の真後ろの戸が開かれる。
「うわっ!」
「・・・漣、オハヨウ。」
驚く漣を横目に、耶凪は階段に腰を下ろした。
小さなため息と共に、宙に視線を固定させる。
「・・・漣、本当ニ行カナイノ?」
「行かない。」
「・・・柚葉ガ漣ヲ待ッテイタトシテモ?」
漣がその質問に少しだけ戸惑い、耶凪に視線を移すと、
耶凪は自分の質問について興味もないような顔で宙を見たままだった。
「・・・・・・柚ちゃんが、僕を待ってるとは思わないんだけど。」
「ナンデ?」
「だって、他の男の人の所に行くんだよ?
・・・やっと、人間じゃない僕と離れて、幸せになれるっていうのに・・・。」
漣が言うと、耶凪は明らかに呆れた表情で、漣の目の前に立った。
「何モ分カッテナイネ、漣ハ。」
「え?」
「察シテアゲナヨ。柚葉ガ、マダ漣ヲ好キデイルッテ。」
漣は、耶凪が何を言っているのか、まるで理解できていなかった。
「・・・・・・まさか。」
「本当ダヨ。柚葉ハ漣ノコト大好キダッテ。
今回ノコトモ、柚葉ガ決メタコトジャナイ。」
「・・・・・・。」
漣はその言葉を聞いて、正直嬉しかった。
自分も同じだということは、すぐにでも柚葉に伝えたい。
・・・それでも、漣の腰が階段から離れることはなかった。
「・・・・・・漣。最後ニモウ一度。
本当ニ、柚葉ノコト、見ニ行カナイノ?」
「・・・・・・・・・行かない。」
漣は膝の上で手を握り締めた。自分を戒めるように、強く。
結われていない長めの黒髪が、爽やかな風に揺られていた。
耶凪は目を細め、再びため息をつく。
今度は呆れではなく、諦めの息でもあるようだった。
「・・・分カッタ。ジャア、私行ッテクルネ。」
耶凪は漣に背を向け、竹林の生い茂る道なき道の始まりの所まで歩を進めると、
ゆっくりと漣の方を振り返って言った。
「・・・・・・ネ、漣。」
「・・・ん?」
「・・・漣、後悔シナイノ?柚葉ニ会ワナイデイテ。」
「しない・・・かは分からないけど。
でも、今柚ちゃんのことを求めたら、きっと、もっと悪い結末になる気がするから・・・。
だから、これ以上傷つかないためにも・・・。」
「結局、」
漣の言葉を、耶凪の淡々とした声が遮った。
耶凪は、少しだけ冷たい目をしながら漣を見つめる。
「・・・結局ハサ、自分可愛サノタメデショ?」
「・・・え?」
「自分ガ辛イ思イシタクナイカラ、柚葉ニ会ワナインデショ?
傷ツキタクナイカラ、柚葉ノ願イモ聞カナイ・・・違ウ?」
漣は返す言葉がなかった。
自分でそのつもりがなかったとしても、本当は図星かもしれないと思ったのだ。
「・・・最初ハ私モ、漣ガ傷ツクナラ柚葉ト会ワナイホウガイイト思ッタ。
デモネ・・・最近ハ考エガ違ウンダ。
二人ガ会ワナイ限リ、二人ガ自分自身ヲ守リ続ケル限リ、
二人ハ幸セニナレナイ・・・・・・私ハソウ思ッテル。」
耶凪はそう言って、寂しげににこりと微笑んだ。
「君ハ柚葉ニ会ウノガ望ミ、柚葉ハ君ニ会ウノガ望ミ。
・・・コレ以上ナイクライ、幸セナ状況ダヨネ。」
「・・・・・・。」
「漣。漣ニトッテ、今大事ナノハ、
『未来』ジャナイ、『現在』ダト思ウヨ。」
耶凪はそう言うと、微笑んだまま漣から顔を背けた。
そのまま、竹林の中へと姿を消していく。
残された漣はただ一人、社の床にごろんと転がる。
「・・・後悔のない、選択を・・・。」
漣の目には、竹と、竹の間からちらりと姿を見せる青い空しか見えなかった。
何も変わらない風景に包まれながら、
漣はこれまでの一月一月をただなんとなく過ごしていた気がする。
柚葉だけが成長していたこの数年。
漣は一人、置いていかれている。
ふと脳裏に耶凪の声が浮かび上がる。
“後悔”という言葉“好き”という言葉。
漣はしばらくの沈黙の末、やれやれ、というように息を吐き、
そして、重たい腰を上げると、急ぐことも焦ることもせずに、
耶凪の後を追いかけるように竹林の中へ姿を消した。
- Re: 【ボカロ】月花の姫歌【コメ募集><】 ( No.87 )
- 日時: 2012/03/29 11:51
- 名前: 奏 (ID: r9WvvYgW)
竹林の奥から風が吹いてくる。
冷たいが、とても優しい風だった。
風と一緒に流れてくる、百合の香り。
これは花じゃない。
きっと、柚葉の気配に混じる香りだ。
少しだけ、人の声も聞こえてくる。
少しだけだが、遠くのほうにいるだけであって、人数は多いようだ。
徐々に視界が明るくなる。
「・・・・・・っ・・・。」
向かい風が漣の結われていない黒髪を揺らす。
目に映るものは、いつもの待ち合わせ場所だ。
「・・・耶凪・・・?」
呼んでみるが、先に行ったはずの耶凪からの返事はない。
姿も見えなかった。
人々の姿も見えない。
それでも、遠くから聞こえていた人々の声は、少しずつ近づいていた。
賑やかな声。
悲しみなど微塵も感じさせないその声。
「そうか、通るのはここじゃなくて、“この辺り”だったっけ。」
漣は、よく柚葉と並んで座っていた岩の上に立った。
いくら神族の目が人間より遥かに良いといっても、
自分の身長ではあまりよく見ることができないだろうと考えたのだ。
このことにより、もし自分の姿が人間の目に晒されたとしても、
人間じゃないなんてことはそう簡単にはバレない。
漣はそう思った。
「・・・僕、どうして待ってるんだろう。
耶凪に誘われたときはあんなに嫌がってたのに。」
思わず自嘲するような笑みを浮かべる。
“結局は自分可愛さのため”
耶凪のその言葉が、いつまでも漣の頭の中を駆け巡っていた。
今までは“柚葉が幸せになれるように”と会わないようにしてきたが、
それは漣が勝手に思っていたことであって、
柚葉がそれを望んでいないのだとしたら、
それは確かに、漣が自分可愛さのために行っているとしか思えない。
そんなことを考えながら数分。
人の姿が見え始めた。
長い長い行列。
知らない人間ばかりだ。
皆が皆似たような服を着ている。
それでも、百合の花の香りは次第に強くなる。
黒い服の大群の中、一人の男が差す傘の下、
真っ白な着物を着ておしとやかに歩を進める女性。
「・・・・・・?」
顔に白粉を塗っているため、一瞬誰だか把握できなかった。
「・・・違う。・・・あれ、柚ちゃんだ。」
俯き加減で、寂しそうに目を伏せるその女性は、
化粧をし、髪も上げ、白く華やかに着飾った柚葉だった。
離れたところにいるせいか、漣が見ていることなど気づいていないようだった。
そのとき、漣の頭上から、綺麗な花弁が数枚降り注ぐ。
その花弁は、冷たく優しい風に乗って、ちょうど柚葉が歩いている所辺りまで飛んでいった。
柚葉はふわりと浮かぶ花弁を手のひらに受け止め、
不思議そうな顔で漣のいるほうを見つめた。
「・・・・・・!」
驚きに満ち溢れた顔で漣を見つめる柚葉。
漣はそのことに気づき、反射的に隠れるようにしゃがみこんだ。
「・・・って、何隠れてんだよ。
これじゃまるで、柚ちゃんから逃げてるみたいじゃないか。」
漣は恐る恐る顔を上げて、再び柚葉を見つめた。
柚葉は寂しげな表情のままだったが、
漣を見るとにこりと温かい微笑を浮かべて、
周りの人に気づかれないように小さく手を振った。
「・・・・・・柚ちゃん・・・。」
漣は自分でも気づかないうちに、笑みを浮かべていた。
照れと嬉しさが混じった表情で、
漣も小さく柚葉に向けて手を振った。
そのまま柚葉は漣に背を向け、行列と一緒に歩き去って行った。
ふぅ、と息を吐き、へなへなと岩の上に座り込んだ。
「・・・漣。」
「うぉあ!?」
いつの間にか、いなかったはずの耶凪が隣に座っていた。
どうも耶凪はいきなり登場するのが上手いらしい。
「・・・ナンダカンダ言ッテモ、結局ハ来テクレルンダネ。」
「・・・・・・耶凪、どこにいたの?」
耶凪は人差し指をぴんと立てて、
上のほうを指差した。
「木の上・・・?」
「ソウ。漣モ柚葉モ、気ヅカナカッタケドネ。」
「・・・耶凪、それ・・・。」
漣は耶凪の手に握られているものに視線を移した。
花弁がほとんど取られているが、それは一輪の花。
「もしかしてさっきの花弁って・・・。」
「私。ダッテアノママジャ、柚葉ハ漣ニ気ヅカナイダロウナッテ思ッテ。」
耶凪は屈託のない笑顔を漣に向けた。
「・・・ゴメンネ、漣。」
「ん?」
「私、キツイコト言ッタナーッテ・・・。
・・・元々二人ニ“会ウナ”ッテ言ッタノハ私ナノニ。」
「・・・でも、それが普通なんだよ。
それが掟の僕たちなんだから。」
「・・・私、自分ガドウシタイノカ分カラナインダ。
二人ヲ会ワセテアゲタイケド、許サレルモノジャナイシ。
・・・多分、神様モ同ジコト考エテルト思ウ。」
「・・・・・・・・・ありがとう。」
「ドウシテ今ノ話デ、オ礼言ワレナキャナラナイノ?」
「・・・だって、耶凪はいつも自分より
僕らのこと考えてくれてるでしょ?神様だって・・・。」
「大事ナ家族ト、大事ナ友達。
考エルノハ“アタリマエ”デショ?」
耶凪はけろりとした表情で答えた。
続けて、優しい微笑みを浮かべて言う。
「家族ト友達ノタメナラ、私ハキット、笑顔デ死ヌコトダッテデキル。」
「・・・何もそこまで言ってないんだけど。」
「ソレ位、二人ハ私ニトッテ大事ナ存在ッテコト!」
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