二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
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- 【ボカロ】月花の姫歌【コメ募集><】
- 日時: 2012/02/18 20:07
- 名前: 奏 (ID: z070pZ.J)
- 参照: http://www.youtube.com/watch?v=m0_gHHcLV6M
こんにちは、奏と申します(・ω・*)
二次小説が紙と映像にわかれる前、
悪ノシリーズの小説を書いていたんですが・・・覚えてる方・・・いないよなぁ((
というわけで、自分が大好きだった『月下ノ姫歌』という曲を
今回は書いていこうと思います。
(小説タイトルの「ノ」がひらがなになっているのは仕様です)
原曲は上のURLです。
ニコ動での本家はもう消えてしまっています。
そして、今回の小説ではササキさんという方のPVを参考にさせていただきます。
※最初はPVを参考にさせていただいているので「映像」のほうで書いていましたが
元々は音楽なのでこちらに移しました。
基本的にぶっつけで書いていきます。よろしくお願いしますm(__)m
【原曲】
「月花ノ姫歌」
作詞 リョータイ
作曲 秦野P
唄 鏡音レン
【参考PV】
>>1
■ 登場人物 ■
* 漣/レン
お面をつけた神の子。
他と姿が異なっており蔑まれている。
周りの人の気持ちに鈍感ではあるが、心優しい少年。
* 柚葉/ユズノハ
迷子になり漣と知り合った少女。人間。
純粋で真っ直ぐな心を持っている。
漣のことが好き。通称「柚/ユズ」
* 神様(菱月/ヒシツキ)
漣の親であり、師である存在。
漣の話し相手となっている。
過去に大きな罪を背負っている。
* 神の子
漣と同じように生まれてきた存在だが、姿形は漣と異なる。
(本来はこちらの姿が正しい)
周りと違う漣を馬鹿にしている。
* 耶凪/ヤナギ
神の子の1人。
他と違って心優しく真面目。
漣のことをいつも気にかけている。
* 老人
紙芝居の老人であり柚葉の祖父。
たまに子供たちに玩具を作ってあげることもある。
(物語の中では現在亡くなっている)
* 蔦葉/ツタノハ
柚葉の曾祖母。心優しく明るい女性。
神様と愛しあってしまった。
漣の母親でもある。
漣(レン)以外のキャラはボカロではありません。
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- Re: 【ボカロ】月花の姫歌【コメ募集><】 ( No.78 )
- 日時: 2012/03/02 21:14
- 名前: 奏 (ID: GgxfwrUK)
ついさっきまでいた待ち合わせ場所に辿り着いた漣は、
早速彫りこまれた文字列の前にしゃがみ込んだ。
一つ一つの文字を指先で追いながら、
頭の中に叩き込んだ、文字の形と読み方を呟いていた。
「・・・っと・・・確かこれが「わ」・・・で・・・。
こっちが・・・ぐにゃってなってるから「し」かな・・・?」
そんなことを繰り返しながら数分たった後、
漣はやっと二つ並んだ文を解読することができた。
「・・・・・・えーっと・・・最後の文字は「と」に点々だから・・・。」
最後にそう呟いて、出来上がった文章。
地面には、
『漣くんは、私に会うのが嫌なのかな。
私は漣くんに会いたいけど。』
という柚葉からのメッセージが、全て平仮名で書かれていたのだ。
「・・・・・・柚ちゃん・・・。」
ぽつりと呟く言葉が、さぁっと吹く風にかき消される。
文章が読めても、ただ切なくなるだけだった。
返事を書こうと、落ちていた棒切れを手に取る。
「・・・って言ってもなぁ・・・。」
なんと書けばいいのか、漣には分からない。
柚葉に会いたくないわけではない。
むしろ、ずっと一緒にいたかった。
今だって、会って話をしていないのが信じられないくらいだ。
明日になったらまた今までどおりに挨拶を交わせる。
そんな考えさえもが頭の中を渦巻いていた。
「・・・書きたいことはあるけど、字を覚えたばかりの
僕の・・・汚い字が読めるかどうか・・・。
それに、考えだってまとまらないし・・・。」
漣は棒切れを岩にコンコンとぶつけながら、
ふとあることを思い出していた。
もし漣の文字が読めなかったとしても、柚葉は耶凪を呼び出すことができる。
だから無理をして自分の気持ちを全て文字にしなくてもいいのだ、と。
漣は、柚葉の書いた文字列の横に、
明らかに書きなれていないような崩れた文字で、
小さく『ごめんね』と書いた。
そして棒切れを投げ捨て、
毎年百合の花の咲く場所に駆けて行った。
この場所で、漣は14歳になった柚葉に百合を取ってもらった。
「・・・あのときは届かなかったけど・・・。
今日はどうしても取らなくちゃ・・・。」
竹林の中にもちらほらと百合の花は見かけるが、
日の当たるこの場所に咲く百合より、あまり綺麗には見えないのだ。
恐る恐る、百合の根元に手を伸ばす。
中指の先は根元に触れた。
それでも、漣の他の指が百合に届くことはなかった。
辺りを見回しても、漣の手が届きそうな場所に、綺麗な花は咲いていない。
諦めようかと百合から目を離したとき。
「諦メル必要ナイヨ。」
「うぉはっ!!?」
「・・・変ナ声出サナイデヨネ。」
慌てて振り返ると、いつの間にかそこには耶凪が立っていた。
「だっ・・・だって・・・。
いるんなら声かけてくれても・・・。」
「・・・今来タンダモン。」
耶凪はそう言うと、百合の花と漣を交互に見ながら、
何かを考えるように腕を組んだ。
「漣、私ヲ持チ上ゲラレル?」
耶凪は自分と漣を指差した。
「え?・・・ま、まぁ、それくらいなら平気だけど・・・。」
実際、耶凪含め他の神の子は、
身長が漣の半分もない。
だから耶凪一人を持ち上げることなどたやすいことだ。
「ン。ジャアオ願イ。」
耶凪はけろっとした表情で、漣に向かって両手を伸ばす。
しばらく戸惑う漣だったが、
耶凪が何をしたいのかを悟ったようで、
ひょいっと耶凪を持ち上げて腕を精一杯伸ばし、
耶凪を百合の花に近づけた。
ぷち、と何かが切れる音が聞こえると共に、
百合の香りがそこら中に漂う。
「オロシテイイヨ。」
漣は腕を下ろし、耶凪から手を離す。
「ハイ。」
耶凪は大きな百合の花を、漣に手渡した。
「あ・・・ありがとう、耶凪。」
「デモ、ソレヲ柚葉ガ見ルノハ明日ニナルヨネ?」
「え?そ、そうかもね。」
「ダッタラ・・・萎レチャウカモヨ?
明日別ノヲ取ルカ、ソレニ水ヲ吸ワセテオクカ。」
漣は、考えてなかった、という風に困った表情を浮かべる。
しかし、悩む必要はなかった。
「僕の勝手で取っちゃったからね。
この花を捨てるわけにもいかないし、水を吸わせておく。」
漣がそう言うと、耶凪は分かっていたとでも言うように
にこりと笑って頷いた。
そのまま二人は、川へ向かい、茎を水に浸す。
「・・・コレガ、漣ノヤリ方?」
「え?」
「文字デ伝エラレナイコトハ、花デ伝エル・・・。」
「あぁ・・・花がいいってわけじゃないよ。
ただね、相手が好きなものだったり、
自分と相手が関わった、思入れのあるものなら、って思って。」
「・・・・・・漣ラシイヨネ。」
「そう?・・・そういえば耶凪。
今日は随分と大人しいんじゃない?」
「何ガ?」
「てっきり、僕が地面に何て書いたのか見て、
僕をからかうものだと思ってたけど。」
漣が水面に手をかざしながら笑うと、
耶凪は突然無表情へと変え、ぽつりと言った。
「・・・・・・今回バカリハ、ソンナコトシナイデオコウッテ思ッテネ。
神様ジャナイケド、
コウナッタ責任ハ私ニアルカラネ。」
「・・・神様?・・・も、何か言ってたの?」
「イヤ、別ニ。」
漣が不思議そうに首を傾けると、
耶凪はにやっと笑って人差し指を突き立てると、
漣の鼻の頭を指差した。
「イイヨ、後デコッソリ見ニ行クカラ。」
「・・・それは・・・勘弁してほしいかな。」
漣が苦笑する。
その顔を眺める耶凪は、穏やかな顔で笑った。
- Re: 【ボカロ】月花の姫歌【コメ募集><】 ( No.79 )
- 日時: 2012/03/04 23:34
- 名前: 奏 (ID: GgxfwrUK)
その翌日の早朝。
漣は誰よりも早く目を覚まし、
辺りに神様の姿がないことを確認すると、
なるべく足音をたてないようにしながら竹林へと姿を消した。
川へ向かい、百合の花を澄んだ水から引き上げる。
「・・・うん。まだ大丈夫かな。」
花の綺麗さは、日の当たる場所に咲いていたときよりかは少し劣っていたが、
それでもその美しさは何も変わってはいなかった。
それを、昨日書いた拙い文字の横にそっと供える。
いつも柚葉と待ち合わせをしていた場所には、人がほとんど寄り付かない。
雨が降らない限り、この文字が消えることはありえないはずだ。
漣は柚葉に気持ちが伝わることをただただ願いながら、その場を静かに後にした。
社に静かに足を踏み入れる。
「・・・・・・まだみんな寝てるよね・・・。」
ぼそりと呟くと、微かに足音が聞こえた。
「漣。」
「・・・っとぁ!!?」
「しー・・・まだみんな寝てるんだから。」
「・・・お、脅かさないでください・・・。」
真後ろに立っていたのは神様だった。
口元に指を当て、飄々とした顔で漣を見ている。
一方の漣は驚きのあまり瞳に涙を浮かばせていた。
「はは、すまないね。
ところで、随分と早起きだけど・・・どこかに行ってたのかい?」
「え・・・あ・・・えっと・・・・・・。」
「・・・・・・ま、言いたくないならいいよ。
それにしても・・・まだこんな時間だ。
もう一眠りしたらどうだい?最近眠そうだしね。」
漣は戸惑いを隠せないまま自分の寝床へと戻った。
一人残った神様は、辺りを見回して、
何かを思い出したようにぽつりと呟いた。
「・・・そういえば、耶凪もどこに行ったんだろう。」
そして日は昇り、漣は本日二度目の起床を迎えた。
案の定、既に他の神の子は既に目を覚まして騒いでいる。
「・・・・・・ん・・・。」
精一杯手足を伸ばして、かと思うと一気に力を抜く。
「・・・はぁ・・・起きるか・・・。
寝すぎて疲れたかも・・・。」
漣は外の空気を吸い込み、社の階段まで出てきた。
階段に腰を落ち着かせ髪を結うと、
それまで神の子らを見守っていた神様が、漣の横に腰掛けた。
「・・・・・・・・・ん?」
「どうしたんだい?」
「・・・あの・・・耶凪、まだ起きてないんですか?」
漣が尋ねると、神様は不思議そうな、困ったような表情で首を傾げた。
「漣が暗いうちに起きた時点で、もういなかったよ。
足音も聞こえなかったし・・・。どこに行ったかも分からない。
・・・てっきり漣とは会っているんだと思ったけど・・・。」
「・・・いえ、僕は一度も・・・。
まだ耶凪は寝ているんだと思って・・・。」
ニ人は不思議そうな顔で顔を見合わせた。
耶凪は神の子の中でも特に真面目で、
それこそ掟破りも、人を心配させるような行為もしない。
それは二人がよく知っていることだった。
だから、暗いうちに社から姿を消す、所謂家出のようなことをするなど、
考えられないことではあった。
そのとき、ふんわりと百合の花の香りが漂う。
「・・・おや。」
「柚ちゃんが・・・。」
「いつもより早いね。何かあったのかな。」
漣は百合の花とメッセージについては、神様に何も語らなかった。
語ってしまえば、この先自分の身も、
自分と柚葉の関係も、どんな結果を生むか分からない。
漣が、早朝にしていたように
気持ちに気づいてくれることを心の内で祈っていると、
しばらく聞いていない、あの音が響き渡る。
蔦葉の物である、あの鈴の音。
それは・・・
「・・・耶凪を呼んでいるね。」
「・・・・・・みたいですね。」
「全く、耶凪はどこに行ったのやら・・・。
ま、この音はどうせ聞こえてるだろうから、行くとは思うけどね。」
神様はそう言って小さく笑った。
チリン、チリン、と
何度か鈴の音が響く。
赤紫色の紐を指に絡ませ、小さな二つの鈴は柚葉の手に触れながら揺れていた。
「・・・・・・耶凪ちゃん・・・来てくれるかな。」
柚葉は、目を少しだけ伏せながら、
漣の書いた『ごめんね』の文字と百合の花を交互に見た。
悪い考えを振り払うかのように、
二、三回頭を横に振る。
自分に何かを言い聞かせるかのように表情を改めると、
もう一度鈴をチリン、と鳴らした。
すると、三秒も経たないうちにザザザッと葉の擦れる音が響く。
しかしそれは、
なぜか上の方から聞こえていた。
「・・・・・・?」
次の瞬間、何か丸い塊が、下の茂みに突っ込んだ。
「んなっ・・・!何、今の・・・!」
柚葉が慌てて茂みに駆け込み、葉を掻き分けると、
そこにいたのは、弱っているようにも見える耶凪だった。
「や・・・耶凪ちゃん!?」
「・・・ン・・・ア、アァ・・・柚葉。」
「大丈夫?随分疲れてるみたいだけど・・・。」
「平気。チョット色々アッテ、一晩木ノ上ニイタンダケド、
途中デ限界キテ寝チャッタミタイダ・・・。」
耶凪はなんてことないように目を擦った。
柚葉は耶凪を持ち上げ、茂みの中から救出する。
「・・・アリガトウ。トコロデ、私ヲ呼ンダ理由ハ・・・。」
「あ・・・っと・・・ちょっと、聞きたいことがあって。」
「コレノコト?」
耶凪は、漣の書いた文字列と、
早朝に漣が供えた一輪の百合を、じっと見つめて言った。
- Re: 【ボカロ】月花の姫歌【コメ募集><】 ( No.80 )
- 日時: 2012/03/09 18:25
- 名前: 奏 (ID: nsrOqY/c)
「・・・ソウカ、漣、チャント来タンダ・・・。
文字モ綺麗ニ残ッテルシ・・・良カッタ。」
ぽつりと呟く耶凪の横顔を眺めながら、
柚葉は不思議そうな顔で顎に人差し指を当てた。
「・・・もしかして耶凪ちゃん・・・
一晩木の上にいたのって、これを見守るために・・・?」
「・・・・・・・・・マァ・・・人ガ来ナイッテ言ッタッテ、
何カアッテ文字ガ消エチャウヨウナコトガアッタラ困ルシ。
ソレニ、ドウセ柚葉ハ私ヲ呼ブダロウト思ッテ。」
「そっか・・・。耶凪ちゃん、ありがとう。」
柚葉はにこりと柔らかく微笑み、
地面に視線を移しながらしゃがむと、
漣の書いた拙い文字を指先でなぞった。
「・・・これ、漣くんからの返事で、間違いないのかな・・・?」
耶凪は少しも声を漏らさないままこくりと頷いた。
「ゴメン、私、神ノ子ガ人間ノ文字読メナイノ忘レテテ・・・。
漣、頑張ッテ文字覚エタンダヨ。」
「そう・・・なんだ・・・。
でも、この『ごめんね』って、一体どういう・・・。」
「ソレハ、自分デ考エルトイイヨ。」
「・・・・・・じゃあ、この花は?」
柚葉は、文字の横に供えられた美しい百合を手に取った。
漣にとっても、柚葉にとっても縁のある花だ。
「漣ハ、言葉ジャ伝エキレナイコトヲ伝エル手段トシテ、ソレヲ選ンダ。」
「・・・?」
「オ互イニトッテ思入レノアルモノナラ、伝ワルト思ッテル。」
「・・・あ、そうか・・・。確か私が小さい頃にも・・・。」
耶凪は小さく頷き、淡々とした、それでも優しい声色で言った。
「・・・トニカクネ、ソノ『ゴメンネ』ノ意味ハ自分デ考エルトシテ、コレダケ言ウヨ。
漣ガモシ、柚葉ノコトヲ嫌イナラ・・・モシ興味ガナカッタラ、
返事ヲ書クコトモ、一生懸命手伸バシテ花ヲトッタリモシナイッテコト。」
「・・・・・・・っ・・・!」
「・・・ゴメン。私ニハ仲介ニナルコトシカデキナイ。
二人ノコトヲ、マタ会ワセテアゲラレナイ。」
柚葉は目に涙を浮かべながらぶんぶんと頭を横に振った。
「いいの・・・だって、もしもまた会ったら、
・・・私はきっと、今度こそ・・・漣くんから距離を置けなくなる・・・。」
「・・・デモ、会イタイ?」
「・・・・・・うん。矛盾してるとは思うけど・・・。
やっぱり私は、今の生活に満足してない。
漣くんに会っていたあの頃みたいな気持ちが生まれてこない・・・。」
耶凪は返す言葉が見つからずに目を伏せた。
突然、柚葉は耶凪の小さな手を握り、目線を低くして耶凪に合わせる。
「耶凪ちゃん・・・ありがとう。」
「・・・ナンデ?」
「耶凪ちゃん、いっぱいいろんなことしてくれた。
・・・だから、ありがとう。
今日もね、漣くんから返事が来ただけでも良かった。
私を嫌ってないこと、教えてもらって・・・良かった。」
柚葉は一層目に涙を浮かべた。
一筋、また一筋と、赤く染まった頬に熱い涙は流れたが、
それに構わずに柚葉は耶凪の手をとり、小さく微笑んでいた。
「・・・・・・柚葉・・・?大丈夫?」
「え・・・あ、うん。ごめんね。大丈夫。」
「ナライイケド・・・ソウジャナクテ、ナンカ、様子ガ変・・・。」
「え?」
柚葉は、これっぽっちもいつもと変わった行動はしていなかった。
それでも、どうやら耶凪の目には
柚葉の様子がとことなくおかしいように見えたようだ。
「・・・イヤ、気ノセイカモシレナイケド・・・。」
「・・・・・・。」
柚葉は寂しそうな目をしながら、
遠くの空に視線を移す。
そして、生返事をするように、抑揚のない声で言った。
「・・・・・・なんでも、ないよ。」
「・・・・・・・・・・・・柚葉・・・?」
「またしばらく、鈴は使わないことにするね。」
「・・・ウ、ウン。ソノホウガイイト思ウ。」
柚葉はさりげなく話を逸らし、
赤紫色の紐がついた鈴を懐に忍ばせた。
- Re: 【ボカロ】月花の姫歌【コメ募集><】 ( No.81 )
- 日時: 2012/03/09 21:13
- 名前: 奏 (ID: uel54i.x)
社に戻った耶凪は、険しい顔をしながら階段に腰を下ろした。
「・・・耶凪。」
「ワッ!!?・・・カ・・・神様・・・。」
「どこに行っていたんだい?何も話さずにここを出るなんて。」
耶凪はしまった、というような顔で目を逸らした。
自分が一晩も社から抜け出していたということを忘れていたのだ。
「・・・エット・・・ソノ・・・。」
「言い出しにくいことなのかい?」
「言エナクハナイケド・・・デモ・・・。
ト、トニカク、怪シイコトナンカハシテナイ・・・。
心配カケテゴメンナサイ。」
耶凪がそう言って素直に頭を下げると、
神様は大きな手でその頭を撫でた。
「ま、反省しているならいいが・・・。
これからは一声かけてから行くんだよ?」
神様が微笑み、耶凪はこくりと頷く。
「柚葉も呼んでいたようだが?」
「行キマシタ。チャント。
・・・・・・・・・・・デモ・・・・・・。」
「でも?」
「ソ、ソノ前ニ・・・漣ハ・・・?」
「漣なら、君を探しに行くって出て行ったきりだよ。」
耶凪は一層申し訳なさそうな表情で俯いた。
漣が帰ってきたら、真っ先に謝らなければ、とでも考えているのだろう。
「それで?柚葉がどうかしたの?」
「・・・様子、変ダッタ。」
「変・・・とは?」
「分カラナイ。私ノ勘違イカモシレナイ・・・。
ケド・・・柚葉、スゴク寂シソウダッタ。
私ニ見セタ涙モ、ナンダカ・・・嫌ナ予感シカ感ジサセナカッタ。」
「その寂しさは、漣に会えないことから来るものではないのかい?」
耶凪は、しばらく考えるように黙りこみ、
躊躇しながらも首を横に振った。
「違ウ・・・ソレモアルケド、
ソレトハ別ニ、何カアリソウ。」
「・・・・・・あ・・・そういえば、柚葉は何歳なんだ?」
唐突な質問だった。
耶凪は不思議そうに思いながらも、
漣から普段聞かされ、そして柚葉と話したことを思い出す。
「確カ・・・漣ト柚葉ガ会ワナクナッタトキ、柚葉ハ14歳ダッタハズ。」
「と、いうことは、今は15歳ってところかな?」
「ソレガ・・・何ト関係アル?」
神様は耶凪の大きな瞳から目を背け、
隠し事をするかのように口を閉ざした。
「・・・・・・まぁ、いずれ分かるさ。」
「?・・・ソレッテドウイウ・・・。」
そこまで言いかけたとき、
「耶凪!」
竹林の中から、ほんの少し息を切らした漣が現れた。
耶凪の傍に駆け寄り、
怒ったように頬を膨らませて言った。
「もう・・・!今までどこにいたの!?
心配してたんだから!!」
「・・・ゴ・・・ゴメン。」
耶凪が素直に謝ると、漣は表情を緩め、
今度は心配そうな顔へと変わる。
「・・・怪我とかしてないよね?」
耶凪は頷き、漣は安堵の深い息を漏らした。
「なら良かった・・・。」
「・・・心配シテクレテアリガトウ。」
耶凪は小さく微笑みかける。
漣も困ったような、照れたような笑みを浮かべた。
「・・・・・・ア・・・ソレデ神様、サッキノ・・・。」
「・・・・・・・・・・・・。」
「さっきのって?」
「ア、エット——・・・。」
「耶凪。」
漣に今までの話を伝えようとした耶凪を、神様が手で制する。
「君にはあとで話すよ。」
神様はにこりと耶凪に微笑みかけた。
しかしそれは、『漣には言うな』という意味も込められているようだった。
「・・・・・・分カッタ。」
耶凪がしぶしぶ頷くと、
話題から一人外れた漣だけが、
何も分かっていない顔で首を傾けた。
それから、また1年が経った。
柚葉は毎日欠かすことなく待ち合わせ場所に足を運び、
漣もなるべくその場所に足を運び、
柚葉の独り言とも言える、漣へのメッセージを
返事を返すこともなく聴いていた。
その1年。
最後の鈴の音を聴くこともなく、耶凪が柚葉に会うこともなかった。
そして耶凪は、
神様から、柚葉の寂しげな表情と年齢の関係について
何かしらの事実を教えてもらうこともなかった。
漣にとって、柚葉に関して気になることはない。
16歳になり、大人っぽくなった柚葉でも、
その見た目はあまり変わらない。
・・・・・・しかし。
柚葉は、その1年の間で
少しずつ、少しずつ、待ち合わせ場所に来るのが遅くなり、
そして、その場所に留まる時間も短くなっていた。
さらに柚葉は、
岩場に座り、一人すすり泣くことが多くなっていた。
その顔を見ることのできない漣は、
何もせずにその泣き声を聴いていた。
夕日に照らされ、伸びた柚葉の影だけに自分の手を重ねていた。
- Re: 【ボカロ】月花の姫歌【コメ募集><】 ( No.82 )
- 日時: 2012/03/10 22:36
- 名前: 奏 (ID: a32fGRWE)
「・・・漣、何シテルノ?」
早めに寝床に潜り込まず、
久々に、ただぼんやりと星空を眺める漣に声を掛けたのは耶凪だった。
「・・・ちょっと、考え事。」
「・・・・・・ダロウトハ思ッタケド。
隣、座ッテモイイ?」
漣は無言のまま少しだけ横にずれ、
耶凪が座れるくらいのスペースを作った。
「アリガト。・・・考エ事ッテノハ、柚葉ノコトカナ?」
「・・・それもある。というか、自分のことも考えてる。」
耶凪は不思議そうに視線を空から漣へ移す。
「僕、最終的にどうしようかなって。」
「ドウイウ意味?」
「・・・僕が神になれないのは確定してるでしょ?
だから、いつ自分から消滅しようかなー・・・なんて。」
「消滅、スルノ・・・?」
「それもまだ決めてないんだけどね・・・。
柚ちゃんがこの世を去る前に消えちゃってもいいかなとか・・・
むしろ消えてしまった方がいいんじゃないかな、とかね。」
漣が抑揚のない声で、まるで他人事のように呟くと、
耶凪はほんの少し顔をしかめて言った。
「駄目ダヨ。」
「え?」
「漣ガ消滅シタラ、柚葉ガ悲シム。
私モ、神様モ・・・悲シム。ダカラ、ソンナコト言ワナイデ。」
「・・・じゃあ、柚ちゃんがこの世を去った後は?」
「・・・・・・・・・ソレハ・・・私ガ口出シデキルコトジャナイケド、
少ナクトモ、消滅ナンカシテホシクハナイ。
・・・折角、授カッタ命ナンダヨ?
神様ト蔦葉ノ絆ノ形・・・ソレガ君ナノニ。」
「・・・・・・。」
漣はそれに対して何も答えることはなかった。
だが、恐らく漣も分かっているのだろう。
自分が死ぬべきではないことを。
「もう・・・あと1年もしたら、10年になるよ。」
「何ガ?」
「僕と柚ちゃんが出会ってから。」
あぁ、と小さな声で耶凪は頷いた。
「早いよね・・・僕らの人生の中で、10年っていうのは何の変化ももたらさないのに。
人間はどんどん大人になっていく。
僕らだけが、どんどん置いていかれちゃう。」
「・・・置イテイカレテ、ソレデモ最後ニハ追イ越シチャウ。」
「・・・・・・それほど悲しいことなんて、僕らにはないよね。」
「ウン。・・・・・・・ソウダ、最近、柚葉ノ様子ドウ?」
「なんていうのかな。1年前に比べたら、大分留まる時間が短くなったかな。
その分独り言も短くなって・・・。
それと、結構泣き声が聞こえてくる。」
「何カ理由話シテタ?」
「・・・・・・・ん・・・いや、思い当たるものはないかな。」
耶凪は不安そうな顔で再び空を見上げた。
星はきらきらと瞬いている。
手を伸ばせばつかめそうなほど、星は大きく見える。
冷たい空気が笹の葉を揺らし、
光り輝く月は、雲に隠れて現れたり消えたりを繰り返していた。
何も変わらない風景。
何も変わらない音。
それでも時間は、いくら足掻こうとも過ぎていき、
人はいくら足掻こうとも成長して、年を重ねていく。
神族だけが、何の変化もない。
変わり映えしない景色を眺め、人の願いを聞き届け、
人の行く末を見守り、
役目を終えればその生に自ら幕を下ろす。
・・・ただそれだけの種族であった。
「・・・・・・・・・モウ・・・寝ヨウ、漣。」
「・・・・・・そうだね。」
二人はゆっくりと立ち上がり、
それぞれの寝床へと足を運んだ。
その数日後のこと。
約束では『最後』の筈である、
耶凪を呼ぶ、あの鈴の音が響き渡った。
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