二次創作小説(紙ほか)
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- アンティークFUGA
- 日時: 2015/07/13 15:04
- 名前: あゆりん (ID: I69Bg0jY)
- プロフ: http://www.kakiko.cc/novel/novel3a/index.cgi?mode=view&no=14844
はじめまして、あゆりんです。小説初心者ですが、精一杯頑張ります。
私は、〔二次小説 魔天使マテリアル〕という小説も書いているので、そちらを読んでくださっている方は、今回もよろしくお願いします。
※はじめに、諸注意です。※
・私は小説初心者です。なので、「下手な小説を読んでるとイライラする!」という方は、ここで戻ることをオススメします。
・機械オンチですので、更新スピード亀並です。
・パクリ、荒らしはやめてください。
・コメント大歓迎&タメOKです。
登場人物紹介
一条風雅
中学生。ひょんなことからと兄弟となった木霊の長たちと共に小さな骨董屋FUGAを営む。アンティークの精、『つくも神』と会話する力を持つ。お人好しで、正義感が強い。
一条紗那
正体は、古代樹『セコイア杉』の精霊で、木霊の長、シャナイア。風雅との契約により、行方不明だった風雅の両親を探す間、風雅の兄となった。風雅の両親の封印をとき風雅との契約は解かれたが、伝説のルビー『バビロニアン・ローズ』の精霊レッドアイとの『精霊の取引』により、再び風雅の兄となった。わがままで高慢。
一条唯
正体は、古代樹『屋久杉』の精霊で、木霊の長、ユイマール。風雅の父、論土の契約により、両親がもどるまで風雅を守るため、風雅の兄となった。風雅の両親の封印をとき論土との契約は解かれたが、その後、風雅の願いにより、再び風雅の兄となった。温和で優しい性格。
- Re: アンティークFUGA ( No.7 )
- 日時: 2015/09/01 16:29
- 名前: あゆりん (ID: I69Bg0jY)
風雅が声をあげたのは、部屋が立派だったからではない。
博物館にも負けないほどの、たくさんの美しいつくも神たちがいたからだ。
ホールの扉が完全に開いた瞬間、風雅には、不思議な香りがあたりを包んだように感じられた。
つくも神たちは、シャナイアたちの気配に気付き、うやうやしく礼をした。
「木霊の長、シャナイア殿、ユイマール殿。そして尊い契りにて結ばれし弟君、風雅殿。お目にかかれるとは、なんたる光栄」
菊の文様の白いローブに身を包んだひときわ美しい一体のつくも神が、ほかのつくも神たちを代表するように進み出た。
「やあ、こんにちは」
風雅が挨拶すると、つくも神はもう一度頭を下げた。
「ここにいるのはみんな、今回僕らが鑑定する骨董に宿っているの?」
「いえ、風雅殿。ここにおる者たちは、この建物に置かれた器物に宿っています。このホールでは過去にも何度か撮影とやらが行われましたが、つくも神の宿る器物が運び込まれることは稀でございます」
つくも神の答えに、風雅は首をかしげた。
「え?じゃあ、ほとんどがニセモノってこと?」
「だろうな。普通のニンゲンに、つくも神は見えない」
「贋作者やインチキな骨董屋に騙されたりして、ニセモノを本物と思い込んでいたりね。よくあることです」
風雅の問いに、ふたりの兄たちはそろってうなずいた。つくも神もなげかわしそうに首をたてに振る。
「残念ながら、そうなのです。今回の品も、半分はニセモノでしょう。運ばれてきたとき、気配を感じませんでした」
「じゃあさ、みんなのこと、教えてよ。みんなはどんな器物に宿っているの?」
風雅は、気さくに話しかけた。
「私は、このコンソールに宿っております」
リーダー格のつくも神が指したのは、菊の彫刻が美しい白い大理石のコーナーコンソールだった。一目で本物だとわかる。
「わたしはこの花瓶に」
青いチュールのドレスを着ているは、群青のガラスの花瓶のつくも神。
「わたくしは、こちらの時計に」
シルクハットをかぶったつくも神が、そう言って、壁の振り子時計を見た。
「わしは、隣の部屋の掛け軸に宿っておる」
そう言ったのは、侍のような風貌のつくも神だ。
「隣の部屋?」
つくも神は普通、宿った器物から遠くまで離れることが出来ない。
風雅の疑問に答えたのは、菊のコンソールのつくも神だった。
「この建物にいると、なぜか力が湧いてくるようにように感じるのです。この建物内では自由に動き回れる。理由はわかりませんが」
「ふううん。そうなんだ」
ほかにも、ティーカップやらタイルやら石像のつくも神たちが次々に現れる。
「紗那くんたち。鑑定頼むよ!」
秋山から声がかかった。
「はーい」
風雅は返事をすると、慌てて駆けて行った。
「部屋の真ん中で、何をしていたんだい?」
秋山に言われて、風雅は答えに困った。
「えっと…。大きいし、きれいなホールだなって話していたんです」
「ここは、この公民館で一番広いんだよ」
「そうなんですか」
会話しながら舞台のほうへ歩いていく。
「待って。今鍵を開けるから」
秋山は舞台袖の古い扉を開いた。
「じゃあ、鑑定よろしくね。終わったら呼んで」
秋山はそう言うと出て行った。
- Re: アンティークFUGA ( No.8 )
- 日時: 2015/09/10 15:48
- 名前: あゆりん (ID: I69Bg0jY)
4 たくさんのつくも神たち
「こんなところに、骨董を置いてるの?」
風雅が、ほこりっぽい倉庫を見回して言った。
「これはひどいですね」
唯も眉をひそめる。
倉庫というより物置と呼ぶほうがしっくりくるような狭い部屋。長く使われていなかったのかほこりの溜まった室内は、ガラクタを隅へ除けてそのスペースにビニールシートを敷いただけのようだ。
風雅は部屋の電気をつけて、中に入っていく。紗那と唯も仕方なく続いた。
「なんだか、骨董が可哀想だよ」
風雅がつぶやいた。
唯は色あせたビニールシートの上から、ひとつの品を取り上げる。
それは漆器だった。白漆塗りの椀に、桜の花びらの蒔絵が美しい一品だ。だが、内側に大きな亀裂が走っていて、漆もところどころ剥げ落ちていた。
「これでは、すぐに傷んでしまいます。特にこの漆器、もっと湿度管理に気をつけなければ」
唯が言うと同時に美しいつくも神が現れた。
「木霊の長、ユイマール殿か」
唯はゆっくりとうなずく。
「シャナイア殿もいらっしゃる。そして、契りにて結ばれし弟君」
つくも神はシャナイアのほうを向いた。そして、次に風雅を見る。
「僕は、風雅っていうんだ。よろしくね」
風雅が笑いかけるとつくも神は礼をした。
「風雅殿、お願いがございます」
風雅はつくも神にこう言われるのに慣れていたが、風雅が答える前に紗那が言った。
「愚痴なら聞かん」
だが、つくも神は首を振る。
「いいえ、愚痴などではございません。わたしの宿る椀のことでございます」
「自分の器物のこと?確かに、大きなひびがはいってる」
風雅の言葉に、つくも神はうなずいた。
「はい。どうか、この椀を直していただけませんか?」
「兄さんたちなら簡単だと思うけど…」
風雅が兄たちを見るが、答えは冷たかった。
「オレはやらん。金にならんからな」
「残念ですが、風雅。今はここにある物を鑑定するのが先です」
風雅はすまなそうにつくも神を見た。
「ごめんね。僕じゃ直してあげられない…」
つくも神はゆっくりと首を振る。
「いいえ。長殿たちは多忙でございますゆえ」
あきらめきれない、といった様子の風雅に、唯が折れた。
「では、鑑定が終わってからですよ、風雅」
その言葉に、風雅の顔がぱあっと輝く。
「いいの、兄さん」
唯はにやりとした。
「その代わり、風雅には鑑定を頑張ってもらわなくてはね」
「うん!」
が、元気があったのは最初だけ。
「これはニセモノ。これも…これもだ」
たくさんのニセモノを前に、風雅はため息をつく。
ちらりと兄たちを見ると、そちらははかどっているようだ。
「順に並べ、お前ら。一人ずつ由来を語れ。愚痴は言うなよ」
紗那はビニールシートの上にあぐらをかいて座り、顔も上げずにリストに書いていく。
唯は、紗那のやり方にため息をつきながらも、つくも神の現れなかった品を分けていく。そのとき、リストにチェックをつけるのも忘れない。
「兄さんたちのほうは、もう終わりそうだな。僕も頑張らなくっちゃ」
そこに、一体のつくも神が話しかけた。
「風雅君、つくも神の宿った品は、これだけです」
金髪の若い青年の姿をした彼は、ペガサスを模したブローチのつくも神だ。彼は骨董のつくも神たちに呼びかけて、手伝ってくれている。
「あっ、ありがとう」
「お安い御用ですよ!」
礼を言った風雅に、彼は明るくウインクをして見せた。
「ほら、順番です。じゃあ、まずはあなたから」
ブローチのつくも神に言われて前に進み出たのは、軍服を着たつくも神。
「自分は、このサーベルに宿っています!」
つくも神はきびきびと答える。
その間に、ブローチのつくも神はほかのつくも神たちの順番を決めていた。
「次はあなたで、その次はあなた。愚痴などは言わないようにしてください。風雅君を困らせてはダメですよ」
おかげで、かなり早く済んだ。
「ありがとう!」
「いえいえ。それより早く彼を直してあげてください」
漆器のつくも神を指して言う。
「うん」
風雅がうなずくと、彼は爽やかな笑顔を浮かべて、ブローチに戻っていった。
「では、また明日」
紗那が漆器を手に取った。
「直せそう?紗那兄さん」
風雅が心配そうにたずねる。
「ああ」
そう言った紗那の瞳が、エメラルドグリーンに輝いた。灰色の髪が銀色の光を帯びて、一瞬舞い踊る。
修繕を終えた椀から、つくも神が現れた。その姿は、先ほどよりも美しさを増しているように見える。
「シャナイア殿、ありがとうございました」
「木は、オレに従う。容易いことだ」
紗那は短く言ったが、つくも神は本当にうれしそうにつぶやく。
「これで、わたしは高く売れる…!」
「え?」
風雅が驚いて問うた。
「どういうこと?」
つくも神は言った。
「わたしの元の主は、今の持ち主の曽祖父にあたる方でございました。主はこの椀を、それはそれは大切に扱ってくださいましたが、今の持ち主はそうではございません。彼は事業に失敗し、わたしを手放そうと考えていらっしゃいます。ですから、わたしは思うのです。少しでも高く売れて彼の役に立つことが、主に対する恩返しにもなるのではないかと…」
つくも神はそれだけ言うと、寂しげな笑みを残して消えた。
風雅の心には、もやもやが広がっていった。
- Re: アンティークFUGA ( No.9 )
- 日時: 2015/10/07 17:47
- 名前: あゆりん (ID: CCab1VcE)
次の日。風雅たちはいよいよ撮影を開始しようとしていた。
「では、撮影始めまーす」
スタッフが声をはりあげる。
「3、2、1」
さっとスタッフがさがり、撮影が始まった。
「出張鑑定団、今回の舞台は北海道です!」
司会の男性が言った。
「今回は、いつもの鑑定士さんが用事のため、別の鑑定士さんにお願いしましたー。噂の中学生の目利き、風雅君。そしてそのお兄さん、紗那君と唯君です!」
司会者が風雅たちを見た。
カメラ横で別のスタッフが、スケッチブックに「自己紹介」と書いて風雅たちに見せる。いわゆる、カンペだ。
「は、はじめまして。一条風雅です」
風雅は引きつった笑みを浮かべる。
「一条唯です」
唯の笑顔も、どこかしら不自然だ。
「どうも」
紗那の挨拶は短い。風雅と唯は苦笑いをした。
「えーっと、紗那君は無口なようですね。それにしても、風雅君は本当に中学生なんだよね?その年で目利きだなんて、たいしたものだよ。お兄さんたちもすごい目利きなんでしょ?最初、モデルかと思ったけど」
司会者は、慣れた様子で場の空気を盛り上げる。さすがはプロだ。
「では、最初の品!持ってきてくださったのは、ゲストのいわしさん!」
いわしさんとは、いくつものレギュラートーク番組を持つお笑い芸人だ。
「どうもー!」
背の低い、痩せた男性が、セットのカーテンの奥から出てきた。
「では、さっそく鑑定する品を見せていただきましょう!」
司会者がカーテンのほうを手で示すと、二人の女性が赤い布のかかったトレイを運んできた。
「これが、いわしさんのお宝です!」
司会者が言うと同時に、女性がパッと布を取り去る。
トレイの上に置かれたのは、掛け軸だった。雪の上にたたずむ、一羽の丹頂鶴の絵。
「いわしさんのお宝は、掛け軸。いわしさん、この掛け軸は、いくらぐらいだと思いますか?」
司会者の言葉に、いわしさんはボードを掲げた。黒いペンで、「四十万円」と大きく書かれている。
「本人評価額は、四十万円!さて、そのお値段は?」
司会者が言う。と、音楽がかかった。
かんぺの「鑑定」の文字にしたがって、風雅たちは掛け軸を見た。
が、この掛け軸は骨董ではない。困っている風雅たちに、スタッフは「もっと眺める感じで!」との指示を出す。仕方なく、色々な角度から眺め回した。
「それでは、鑑定結果は?」
ある程度の時間をおいて、司会者が言った。ドラムロールが鳴り出す。
鳴り終わったところで、鑑定結果を発表する。
いわしさんが、もう一度ボードをあげた。「四十万円」の文字は赤線で消され、その隣に弱々しい赤文字で、「千円」。
「千円!残念でしたねー」
司会者の言葉にうなずくいわしさんは、ひどく残念そうだ。
「では、解説していただきましょう」
風雅が説明しようとすると、スタッフがかんぺに「紗那君→解説」と書いて見せる。
風雅がちらりと紗那を見ると、紗那はげんなりとため息をついた。
「紗那君、解説をお願いします」
「…つまらん、ニセモノだ」
不機嫌な紗那は、ばっさりと切り捨てる。
いわしさんや司会者をはじめ、その場にいた全員が、声を出せなかった。トークのプロでさえも一瞬黙り込んだ状況に、風雅と唯は顔を見合わせ、苦笑いを浮かべた。
「こ、この掛け軸は、残念ながらニセモノです。紙の質や使われている絵の具の色合いからして、おそらく戦後三十年ごろに描かれたものでしょう」
風雅が慌てて解説すると、気を取り直したように、司会者が言った。
「へえ、紙や絵の具だけで、いつごろのものかわかるんですか」
「江戸時代ごろの筆づかいに似せてあるが、構図が不自然で線も硬い。よほどの素人か、あるいは独特の作風をもった絵描きが描いたものだろう」
紗那が言うと、唯も続ける。
「紙や絵の具なら、ある程度はその時代のものに似せることは可能ですが、作風を真似るにはかなりの技術が必要になります。これを描いたのはあまり腕のいい贋作者ではありませんね」
「はあ、なるほど」
司会者は、感心したように掛け軸を眺めて言った。
☆ ☆
「では、最後の品」
次に出てきたのは、あの漆器。つくも神の横に立つ、グレーのトレーナーに黒いジャージのズボン、やぼったい眼鏡の男性が、あのつくも神が言っていた、今の持ち主なのだろう。
「本人評価額は?」
そう言われた男性が意気揚々と掲げたボードには、「一千万円」とでかでかと書かれている。
「一千万円!大きく出ましたねー」
男性は、司会者の言葉など耳に入らないというように、期待に満ちた目で風雅と椀を見比べている。
「鑑定をお願いします!」
司会者に言われて漆器のほうを見た風雅に、つくも神は微笑みかけた。風雅も曖昧な笑みをかえす。
今までと同じように漆器を眺めたあと、CMの合間に風雅はスタッフに値段を伝えた。
あの椀が売られてしまうことを知っている風雅は、むねがチクリと痛む。
CMのあと、司会者が言った。
「では、お値段は?」
「二百万円」のボードをあげた男性は、少し不満げな表情で椀を見下ろしていた。役立たず、とでも言いそうなたその視線に、風雅は怒りがこみ上げてくる。が、それをぐっと押さえ込み、解説をはじめた。
「この漆器は、間違いなく、本物です。百年以上前に作られた、本当のアンティーク」
「なら…」
風雅の答えに、男性がボソッと言った。
「え?」
風雅が聞き返す。
「なら、なぜそんなに安い?これは、もっと高く売れるはずだ」
男性は、マイクに拾われないように小さな声で言った。
「えっと…それが、この漆器の値段です。多分、これ以上高くは売れないと思いますけど」
風雅は男性を軽くにらんだ。
「…」
紗那と唯が鋭い視線を送っているのに気づいた男性はそれ以上は言わず、スタジオを出て行った。解説をしている唯のとなりで、紗那は男性を目で追っている。
(あの人が持ち主…。あの漆器、売られちゃうんだろうな)
風雅は小さくため息をついた。
☆ ☆
「お疲れ様でしたー」
撮影が終わり、スタッフが三人に声をかけた。
風雅たちも挨拶をし、控え室として使っていたホールのとなりの部屋に向かう。
そこに、
「風雅殿」
振り返ると、あの漆器のつくも神だった。
「やあ…。どうしたの?」
風雅がたずねると、つくも神は頭をさげた。
「ありがとうございます、風雅殿。私の持ち主は、私を売ることを決めたようです。もうお会いすることもありませんので、最後にお礼を」
そう言うとつくも神はもう一度ペコリと頭をさげ、漆器に吸い込まれるようにして消えた。
- Re: アンティークFUGA ( No.10 )
- 日時: 2015/11/09 15:55
- 名前: あゆりん (ID: I69Bg0jY)
5 マリー
「あっ」
撮影を終え、ホテルに戻るために公民館を出たところで、風雅が声をあげた。
「どうしました?風雅」
「ペンを忘れてきちゃったんだ、兄さん。多分、倉庫だと思う。とって来る」
風雅はそう言って、一人公民館の中に引き返した。
ひなぎくホールの観音開きの扉を開けた。広いホールをつっきり、舞台袖の古いドアを開け、中に入る。
電気をつけると、ペンはビニールシートのそばに落ちていた。
それを拾ってポケットにいれ、ドアノブに手をかけたところで、風雅はなにかの気配を感じた。
風雅が振り返ると、そこには、一体の美しい精霊がいた。
「わあ…」
風雅の声に、精霊は風雅のほうを見た。
色白の肌に、夜空のような深い群青の切れ長の瞳。栗色の髪をアップにして、銀糸の蝶が乱舞する紺色のチャイナドレスを身に着けている。
「えっと…やあ、こんにちは」
風雅は声をかけたが、精霊は厳しい目で風雅を見、一言も言葉を発しない。
そこに、
「風雅?」
紗那と唯が入ってきた。
「紗那兄さん、唯兄さん」
風雅が兄たちの名を呼ぶと、精霊は一瞬、目をしばたたかせた。
「唯…、紗那…?」
薄いくちびるが小さく動く。
「つくも神か」
「彼女は、何に宿っているのです?」
ふたりの声を聞き、精霊はハッとしたように目を見張った。
「シャナイア…?ユイマール…?」
チャイナドレスの精霊が、ふたりの名を口にした。
ふたりは振り返る。
その反応で確信したのか、精霊はもう一度、木霊たちの名を呼んだ。
「シャナイア!ユイマール!」
チャイナドレスの精霊が青白い光に包まれた。次の瞬間、精霊は姿を変えた。
ガラスのように澄んだ、大きな瞳。たっぷりとした紺色のエレガントなドレスを身に纏った精霊は、頭上に輝く銀色のティアラと相俟って、時代を超えて現れた、本物のプリンセスに見えた。そして、そのドレスとウェーブのかかった地に着きそうに長い豊かな金髪は、風もないのに揺れていた。
風雅は、精霊の変化を息を呑んで見ていた。
先ほどまでの凛とした冷たい印象とはうって変わって、優しく、優雅で、気品に満ち溢れた姿だ。ただ、雪のように白い肌と、サファイアを思わせる青い瞳だけが、変わらずその美しさを保っていた。
「マリー!?」
紗那と唯が同時に声をあげた。二人は一瞬で木霊の長——シャナイアとユイマールの姿となる。
「シャナイア!ユイマール!久しぶりね!!」
精霊は二人の木霊に抱きついた。
「マリー」
「どうしてここに?」
シャナイアは慌てたような顔で、ユイマールははにかんだような笑みを浮かべて、自分たちに抱きついているドレス姿の精霊を見ている。
再会の喜びを十二分に表したあと、精霊の視線は風雅に向けられた。
「あなたは…?」
「一条風雅」
わけがわからない、といった様子で、風雅は自己紹介をした。
「風雅…」
精霊は一瞬首をかしげたが、すぐにすべてを理解したように、うなずいた。
「そう…契約ね」
ユイマールが答えた。
「ええ。私たちは、風雅の願いによって、風雅の兄となったのです」
それから、風雅に向かって言った。
「風雅、彼女はマリー。私やシャナイアと同じ、木霊の長の一人です」
「よろしく、風雅」
マリーがふわりと微笑んだ。
「よろしくお願いします」
風雅は少し顔を赤らめた。
「契約、ね。…わたしも、風雅の家族になりたいな」
「えっ?」
風雅が聞き返す。シャナイアとユイマールも、驚いた表情だ。
「わたしを、風雅の姉として、家族にいれてくれないかな?」
マリーはもう一度言った。
「家族に?マリー、何を考えている?」
シャナイアがけげんそうにたずねた。
「だって、楽しそうなんだもの。シャナイアも、ユイマールも」
「えっと…。あの…」
「ダメ、かなぁ?」
マリーが、風雅を覗き込んだ。風雅の顔がまたも赤くなる。
「い、いや…」
「じゃあ、よろしくね、風雅」
マリーはいたずらっぽく笑った。
風雅がうなずいたとき、
「誰かいるのか?」
声がして、開けっ放しにしていた扉から、秋山が入ってきた。
二人の木霊の姿が、瞬時に紗那と唯に戻る。
「ああ、風雅君たちか。何をしてたんだい?」
「ペンを、この部屋に落としちゃて…。それで、とりに戻ったんです」
秋山の問いに、風雅は少しつっかえながら答えた。
「そうか。…それ、どうしたの?」
秋山が、風雅の右手を指した。
そこには、いつのまにか木のペンダントが握られていた。すべすべした手触りの、角の形のペンダント。コルノだ。
驚いている風雅に、マリーがウインクしてみせた。これは、マリーが宿るコルノなのだ。
「えっと…、ここで見つけたんです。気になって…」
風雅は必死で言葉を考えている。
マリーが宿っているものなら、なんとかして持ち帰らなければ。
「これは、小さいけれど立派なアンティークなんです。アンティーク・ウッドと呼ばれる、樹齢千年を超える木で作られたコルノです」
唯が横から助け舟を出した。
「コルノ?」
「動物の角の形のペンダントのことで、お守りとして有名です」
「ふーん。それ、欲しいの?」
秋山がたずねた。
「はい!」
風雅は大きくうなずく。
「…ちょっと、待ってて」
秋山はそう言うと、部屋を出て行った。
そして、すぐに戻ってくると、にっこりと笑った。
「よかったね、風雅君。管理人さんに話したら、ぜひ貰ってくれって」
秋山の言葉を聞いて、風雅の顔がパッと明るくなった。
「ホントですか?ありがとうございます」
「うん。じゃあ、気をつけて帰るんだよ」
秋山に公民館の外まで見送られて、風雅たちはホテルに向かう車に乗った。
そして、その風雅の首には、マリーのコルノがかけられていた。
- Re: アンティークFUGA ( No.11 )
- 日時: 2015/12/27 18:54
- 名前: あゆりん (ID: CCab1VcE)
ある人から、マリーという名前が、木霊の長にしては単純すぎると指摘をされました。木霊の長の名前なのだから、由来がないのはおかしい、と。ほかにもそう思っている人がいると思うので、一応言っておきます。「きちんと理由はあります!そして、マリーは本名ではありません!マリー、にも理由はあります!」では、とりあえず、マリーの本名だけ明かします。
☆ ★ ☆ ★
ホテルに着いて、一息吐いたのち。
タタン、タタン、タタタン…
風雅の指先がコルノを叩き、心地よいリズムが小さく部屋に響いた。
それは、コルノに宿る精霊を呼び出す、特別なリズム——
コルノから妖しい煙が立ち上る。
煙は次第に薄まっていき、一人の精霊が姿を現した。ウェーブのかかった金髪の、色白超絶美形。アンティーク・ウッドのペンダントに宿る、木霊の長、マリーだ。
高位の精霊は風雅を見ると、微かに笑みをこぼした。
「我が名はアウロラ——」
長年の儀式を重んじる木霊は、ここで、堪えきれずに、その美しい顔に優しい微笑みを浮かべた。
「さあ、願いを述べなさい、風雅」
唯が風雅をうながした。
風雅はうなずき、美しい精霊に笑い返す。
「僕の家族になって。一緒に、暮らしてほしいんだ」
風雅が言ったとたん、スゥッと、薄い光のベールがマリーを包んだ。
ベールが消え去ると、そこには、人間の姿になった、マリーが立っていた。
地に着きそうなほど長かった髪は短くなり、腰のあたりまで。色も明るい栗色。窓から射し込んだ陽の光に照らされて、金色に輝いて見える。
サファイアのようなブルーの瞳も、黒に近い紺色となり、変わらず優しい光をたたえていた。
「これで私も、風雅の家族ね」
人間の姿になったマリーは、嬉しそうに言った。
そして、次に別の笑みを浮かべて、紗那を見る。
「なんだ、マリー」
紗那が言った。 、、
「別に、何も。ただ、意外だったのよ。精霊が——二人が、人間と暮らしているなんて。ねぇ、紗那?」
マリーがにっこりと笑うと、紗那はふいと顔をそむけた。そして、不機嫌な声で言った。
「『精霊の取引』だ。仕方ないだろう」
「なるほど」
マリーはまだ何か言いたげだが、紗那は愛読書の「骨董の目利きブック① 骨董の相場」を読み始めた。話はもう終わりだ、と言わんばかりに。
そんな紗那に、マリーは笑う。
「変わらないわね、シャナイア」
紗那は返事を返さない。マリーは肩をすくめた。
また、新たな『家族』が増えた。精霊と人間の兄弟。このきみょうな絆は、また、風雅を別の事件へと誘うのだった——…。

