二次創作小説(紙ほか)

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ポケットモンスター少年の願い星
日時: 2023/09/14 14:51
名前: アプー (ID: lQwcEz.G)

あらすじ

イッシュ地方中心都市『ヒウンシティ』。
 大都市に建築された『ヒウン総合病院』の屋上から一人の少年がその美しい街並みを眺めていた。
 ―トウヤ君、君は長く生きられて後、一週間位だ…―
 その言葉を思い出す度に少年は表情を暗くし、次第に体を蝕んでいく病魔にイラつきと恐怖を募らせていく。
 しかし、一匹の小さきポケモンとの運命的な出会い…'再会'を果たす事で少年の運命の歯車が大きく動き出す。

 ―――少年の抱いた夢への扉が今、開かれる。

【旅立ち編】
第一話から第五話 >>1-5
【カントー編】
第六話 >>6
第七話 >>7
第八話 >>8
第九話 >>9
第十話 >>10
第十一話 >>11
第十二話 >>12
第十三話 >>13
第十四話 >>14
第十五話 >>15
第十六話 >>16
第十七話 >>17
第十八話 >>18

第十四話『青い炎の使い手のヒトカゲ』 ( No.14 )
日時: 2023/09/04 15:38
名前: アプー (ID: lQwcEz.G)

 side―なし―

 

 「ピジョー!」

 「ピジョット、すみません…今は耐えて下さい。でも、あっちもこっちもオニドリル達に囲まれてて逃げ道なんて…。嫌、落ち着いて考えるんだ。必ずどこかにある筈…逃げ道が…」

 

 ドリル嘴などと言った接近タイプの技を繰り出しながら猛追してくるオニドリル達を疲労が蓄積された体を精一杯に動かしてかわしていくピジョット。

 少年―アオはそんなピジョットに優しく声をかけ、焦燥感に駆られるも何とか鎮めさせようとしていく。

 そして、良い案を考えようとするも突然目前を迸る一筋の雷撃に驚愕してしまう。

 それはアオだけではなかった―オニドリル達もまたその攻撃に驚いてしまい、アオのピジョットから距離を取ってしまう。

 アオは気になり、その雷撃が放たれて来た方向に視線を投げる。

 すると、一匹のピジョンの姿が彼の視界に映った。

 

 「ピジョン…!? ―嫌、他にもピジョンの背中に乗っているみたい…」

 

 その突如現れたピジョンに一瞬敵の増援か…と思うも、雷撃を目にして離れていくオニドリル達の姿を見ると自分達を助けに来てくれたのか…とそんな都合の良い事を考えてしまう。

 

 「でも、野生のポケモンが自らこんな行動を取る筈がないですよね…。もしかしたら、トレーナーの指示でオニドリル達を攻撃したに違いないですし…。だとすると…」

 

 言葉を途中で濁らせ、地上を見下ろしていく。そこには小さくもこちらを見上げてくる人間の姿が確認出来た。

 その数は三人…。

 

 「トレーナーは彼らでしょうか…」

 

 その事を理解すると再度ピジョン達の方に視線を移す。

 眩い光を浴びるオニドリルとその光を放っているピカチュウが視界に映る。

 他にも、無数の黒い針が…青い炎がオニドリル達に直撃していくのを目視した。

 さっきの凄まじい電気技もこの子の物…。じゃぁ…、あのトレーナー達は助けてくれる為にこのポケモン達を…。

 その助けが来てくれた事に彼は「良かった…」と小さく呟き、緊張感から解放されていく。

 それと同時に意識が次第に朦朧となっていき、手放していった。

 

 side―トウヤ―

 

 「トウヤ、ピジョン達が戻って来たよ。ニドラン戻って…」

 「あぁ…、わかってるよメイ。ピジョン、ピカチュウ有り難う戻って休んでくれ」

 「ミニリュウもね…」

 

 僕達はへとへとになって戻って来たポケモン達を其々のモンスターボールに戻していく。

 そして、

 

 「あの…大丈夫ですか…?」

 

 ピジョンと一緒に降下して来たピジョットが心配そうに見つめる一人の少女に声をかける。その子の身長は僕達よりも高かった為に年上である事がわかる。

 「う…」と呻き声を上げて次第に意識が回復していくと直に体を起こし上げようとする。

 

 「―ッ…!?」

 

 その瞬間、言葉に出来ない程の痛みが体全体を駆け巡っていき、表情を顰めた。

 

 「無理しちゃ駄目ですよ。今はゆっくり休んで下さい」

 

 メイが直に彼女の体を支えると丁寧な言葉使いで言い聞かせていく。

 

 「でも、早く逃げないと…。彼奴らが…」

 「彼奴ら…?」

 

 その力のない声に僕とリーフは頭にクエスチョンマークを浮かべながら互いを見合うもピジョットに促され上空へと視線を移す。

 そこには先程僕達が魅了されていた一機の飛行船が…。

 

 「なる程、あの飛行船を操縦している連中に追われて居たって事ね」

 「でも、今は早くここを移動して別の場所に彼女を移さないと…」

 「そうだね」

 

 リーフは顎に手を当てながら、彼女達の経緯を推測していき納得する。

 そんな彼女の様子を瞳に映しながらも、まずはこの疲れ切っている少女を安全な場所に連れて行かなければと考えて言葉にしていく。

 メイはそれに頷いてくれた。

 「え、彼女…?」とどこからかきょとんとした声が聞こえてくるも僕は直にピジョットにモンスターボールに戻るように頼み、彼女を背中に担いでいく。

 

 「リーフ、メイ行くよ!」

 「うん!」

 「えぇ…、わかってるわ。ミニリュウ、あの飛行船に向かって白い霧!」

 

 リーフ達に行くように促すと走り出した。

 その途中でリーフがしなやかなブラウン色のロングヘアーを靡かせて飛行船の方に振り向き、ミニリュウを出して白い霧を命じていく。

 飛行船の周囲にはミニリュウが口から吐く白い霧が徐々に充満していき、彼らの視界を奪っていった。

 

 「これで当分は大丈夫かしら…」

 

 リーフはその白い霧に包まれていく飛行船の姿を見て、安心したように呟くと僕達に追いつく為に走り出す。

 

 side―なし―

 

 ここは飛行船の操縦室…。

 

 「何なんだい、彼奴らは…!?」

 

 カレンはモニターを覆い尽くす白い霧にギリッと奥歯を噛み締め、ドンッと思いっきりコンソール上を両手で叩いた。

 

 「姉御、落ち着いて下せぇ…。まだ遠くまで逃げたって訳じゃ…」

 

 その怒り狂った彼女に怯えながらも、何とかその怒りを沈まさせる為に必死になってなだめようとするゲイル。

 彼は体中から冷や汗を掻いていく。

 

 「ハッ…、あんたは黙ってな!」

 

 カレンは睨みながら、怒声を上げる。その気迫に押されたゲイルは大きな体躯に似合わない程の小さな悲鳴を上げた。

 彼女はそんなみっともない部下の姿にフンと鼻で笑い、霧で覆い尽くされたモニターを睨みつける。

 正確にはその霧の向こう側に居るトウヤ達を…。

 ―絶対に逃がさないよ。そして、見つけ出したら…まずはアタイの邪魔をした三人のガキ共を血祭りに上げてやろうじゃないか…―

 心の中でそう思うと気持ちがスッキリしたのか、フッと不敵な笑みを浮かべていた。

 

 side―リーフ―

 

 真夏の暑さが容赦なく私達から体力を奪っていく。

 今、私達は先程助けた少女を連れて飛行船から出来るだけ距離を取る為に走っていた。ずっと走って居たせいか…段々と息が荒くなってくる。

 

 「ハァ…ハァ…、ここまで来れば大丈夫かしら…」

 

 そして、私は草原の中に立つ大きな大樹を見つけるとトウヤ達を手招きして彼らを誘導する。

 その太陽からの光が遮られた空間でペタンと座り込むとトウヤ達も疲れ切った膝を崩していった。

 

 「降ろしますよ」

 

 背中に背負っていた少女を降ろしていくトウヤ。

 

 「有り難う御座います。後、私…女の子じゃありませんから…」

 

 少女は丁寧な口調でお礼を述べていき、さらっと衝撃の事実を言葉にする。

 

 「えっ…!?」

 

 その一瞬の言葉に呆然とする私達…。

 次第に我に帰っていくと今度は罪悪感に苛まれていく。

 

 「あの…―「本当にすみませんでした!」―トウヤッ…!?」

 

 女に間違えられた事を良く思っていないだろうと考え、直に謝ろうとするも隣から聞こえてきた謝罪の言葉に驚き、視線をそっちに映すと頭を下げたトウヤの姿があった。

 

 「頭を上げて下さい。私…良く女の子に間違われる事がありますから…こういうのって結構慣れているので大丈夫ですよ。それより、オニドリル達に襲われていた所を助けて頂いて有り難う御座います。私の名はアオと申します」

 

 その少年―アオさんは落ち着いた態度で優しく接してくれて丁寧にお礼まで言ってくれる。

 その彼の礼儀正しい対応に好印象を抱き、私達も自己紹介を簡単に済ませていく。

 

 「私はリーフです」

 「トウヤって言います」

 「メイです」

 「宜しくお願いしますね、皆さん…」

 

 ニッコリと笑顔を浮かべながら、アオさんが言ってくる。

 

 「はい、こちらこそ…。それでお聞きしたい事が何点かあるんですけども…」

 

 私は彼に言葉を返すと自身の中で気になっていた事を聞き始めようとする。

 

 「そうですね、話さないといけないですね…。なぜ私があの飛行船に追われていたのか、そして彼らがどういう者なのかを……大体貴方が聞きたいのはこの二点ですよね…?」

 

 彼は直に私の聞き出したい事を理解し、二つの要点に纏めて尋ねてくる。

 私はそれに深く頷き、肯定の意を示した。

 

 「じゃぁ…、まずは彼らがどういう者なのかって所から教えた方が良いですね。彼らはポケモン密猟団『ファンタシア』。まだ、名を上げても居ない密猟者達の集まりです」

 「ポケモン密猟団…?」

 

 メイは初めて聞くその単語に小首を傾げる。

 

 「メイ、ポケモン密猟団って言うのは簡単に言えば珍しいポケモンを捕えて私益を得る為にそれを相手と高い金額で取引をする犯罪者達の集まり…まぁ、悪の組織って言っても強ち間違いじゃないと思う…。そして、彼らはその珍しいポケモンに例えトレーナーが居ようとも必ず奪う為にいろんな手段を取って来るわ…」

 「そうなんだ。…何だか、許せないねその人達!」

 

 私はそんな彼女にハァッ…と深い溜め息をつくと教えていく。

 彼女はそのポケモン密猟団に対して憤慨するのであった…。

 

 「それでファンタシアに追われている理由はね、この子なんです。参りましょう!」

 

 その遣り取りが終わった事をアオさんが確認すると、一つのモンスターボールを空中に投げていく。

 その狙われているポケモンが一体どんな物なのかと言う事に少し興味を持ちながらも背後には緊張感が走る。

 そして、眩い光を纏った一匹の蜥蜴ポケモン―ヒトカゲがその姿を露出していく。

 

 「カゲェ―!」

 

 そのヒトカゲの姿に予想が見事に外れる。

 

 「炎タイプかぁ…でも、小さいから大丈夫かな…」

 

 メイは表情を顰め、どこか若干引き攣った声を上げる。

 メイって炎タイプのポケモン苦手なのかな…。

 

 「えーと、このポケモンのデータは…」

 

 トウヤはそそくさとポケモン図鑑を起動させた。

 

 『ヒトカゲ、トカゲポケモン…ウマレタトキカラシッポニホノオガトモッテイル。ホノオガキエタトキソノイノチガオワッテシマウ』 

 「ふ~ん、そうなんだ」

 

 その図鑑から発せられる機械音に納得していくトウヤ。

 

 「あのアオさん、もしかしてこのヒトカゲが狙われる理由は希少種で現在はあまり見かけられなくなっているからですよね…?」

 

 私は自分なりの推測を述べていくとアオさんに訊ねていく。

 そう、ヒトカゲは旅立つトレーナーに渡す最初の三匹から選べられる初心者用ポケモンで時が経つにつれ旅に出る子が増えていく為、その分を補給し続けているのが原因か最近ではその野生の数は激減して来ている。

 でも、それはヒトカゲだけではなく、他の御三家であるフシギダネやゼニガメも同じである。

 

 「そうですね…、でもこの子が狙われている理由は別にあるんです。ヒトカゲ、見せて上げて下さい。青い炎です!」

 「カゲェ――!」

 

 その瞬間、突如ヒトカゲの尻尾の先端で燃える赤い炎が美しくも煌々と燃えたぎる青い炎へとその姿を変えていき、大きく開いた口からは深海を思わせる程に青く燃えたぎる炎を吐いていく。

 青い炎は周囲の草達を焼き焦がしていった。

 

 「嘘…!?」

 

 その光景に私達は言葉を失うのであった…。

 

 ―to be continued―

第十五話『トキワの森炎上』 ( No.15 )
日時: 2023/09/05 19:21
名前: アプー (ID: lQwcEz.G)

 side―なし―

 

 トウヤ達の妨害を受け、ヒトカゲを奪う事に失敗したカレンは苛立ちを募らせながらもある事を決意する―それはトウヤ達を血祭りに上げる事とどんな手を使ってでもヒトカゲを手に入れる事を…。

 その決意の元…彼女は飛行船の中にある研究室へとやって来ていた。

 ヒトカゲを手に入れる為に開発された捕縛装置を…。

 そして、トウヤ達を倒すと言う目的で作られた凶薬を受け取る為に…。

 

 「それでその二つの出来はどうなんだい…、ゼス」

 

 両腕を組んで壁に寄りかかっているカレンが武器・薬剤開発チーム主任であるゼスに急かすような言い方で尋ねていく。

 

 「はい、姉御…例の試作品はこちらに…」

 

 白衣を着たゼスはその言葉に反応して、両手に持った物を見せる。

 右手にはトウヤ達を倒す為に様々な薬を調合して作られた凶薬『E・B(Enhanced Body)』…。

 左手にはヒトカゲを捕縛する為に開発された『石化ガントレット』が持たれていた。

 

 「では、この二点について説明しますね。まずは、凶薬『E・B』についてですが…この薬はポケモン達の能力を五分間だけですが二段階上げる事が出来、多用する事によって継続時間を増幅する事が可能です。ですが、もし多用し続けた場合はポケモン達の今まで培―「あぁー、もう片っ苦しいねぇ―!」―姉御…話はまだちゃんと…」

 

 ぜスの長い説明に聞き飽きたのか、カレンは引っ手繰るように彼の両手から道具を奪っていく。

 

 「何だい、文句でもあるのかい…!?」

 

 注意をする部下を鋭い眼差しで睨んで、黙らせる。

 そんな部下の様子を無表情で見つめると直にその視線を自身が手にしている二つの道具へと移し、ギュッと握りしめた。

 

 「彼奴らは必ずアタイ達の追跡から逃れる為にトキワの森に入るに違いない。そうなれば森林が邪魔になって上空から探し出すのが困難になるね…。でも、その時が彼奴らを探し出す―嫌、誘き出す絶好のチャンスだよ…。まぁ…、その分彼奴らからは怒りを買うだろうけどね。先回りして早く行動に移そうかねぇ」

 

 カレンは何かトウヤ達を誘き出す為の秘策を思いつくと表情を歪め、小さくも冷たい声で笑い出す。

 後にそれがトキワの森で甚大な被害を生み出す事になるとしても…。

 

 side―トウヤ―

 

 燦々と輝く太陽が二番道路を照らしていく。

 僕達はその光を浴びながらも、リーフの提案でトキワの森へと急いでいた。

 

 「リーフ、本当にトキワの森に入れば安全なんだよね…?」

 「えぇ…、確実とまでは言えないけど少なくとも空からの追跡は逃れられる事は出来るし、今よりは状況がマシになると思うわ」

 

 何だか不安になり、彼女に問うも強い声で肯定してくる。

 実際、僕達がニビシティに着くまでのかかる時間は大体一週間位と思い、二番道路を三日間…トキワの森を抜ける事に四、五日間は必要だと見積もっていた。

 だが、突如珍しいヒトカゲを連れた少年―アオさんに出会い、ポケモン密猟団『ファンタシア』に追われている彼を助けると決めた僕達は急ぐ為に二番道路を二日目の今日中に抜け、そのままトキワの森に入ろうと考えていた。

 余りの暑さに参ったのか、アオさんが急によろめき、一瞬気が遠くなる。

 

 「大丈夫ですか、アオさん…」

 

 その隣を歩いていたメイが身を少し屈めながら心配そうな表情でアオさんを覗き込む。

 そんな彼女の様子に「大丈夫ですよ」と小さな声で返すと笑って見せた。

 僕はそんな二人の遣り取りをぼーっと眺めていると、

 

 「見えて来たわよ、トキワの森が…。でも、何か…赤いのが見えるけど…?」

 

 リーフが低くも確りとした声音で教えてくれるも言葉の最後には何かを不安がるような物言いをする。

 僕は一瞬赤いのが見えると言うリーフの言葉に疑問を抱き、トキワの森の方向に視線を合わせる。と同時に映った光景に目を疑った。

 その視線の先には炎上するトキワの森があり、驚きと共に怒りが募っていく。

 

 「何だよ、あれ!?」

 

 その僕の怒声に僕達の後ろに居たメイ達もその悲惨な光景を凝視してしまう。

 

 「酷い…」

 「これは一体……八ッ、もしかして…!?」

 

 メイは口元を両手で覆い、大きく開いた瞳は揺らいでいた。

 そして、アオさんも驚くも何かに気が付いたのか直に表情が驚きから怒りの物へと変わっていき、急にトキワの森へと走り出す。

 

 「えっ…、アオさん!? ちょっと…」

 

 僕は呼び止めようとするも、

 

 「メイ、どうしたのよ!? ……確りして!」

 

 急にドサッと何かが倒れ込む音とリーフの慌てる声が後ろから聞こえて来て、慌てて背後へと振り向く。

 急に座り込んだメイはクロスさせた腕で両肩をギュッと握りしめ、肩が激しく上下する程の呼吸をしていき最後には苦しいのか瞳が涙で潤んでいた。

 その綺麗なスカイブルーの瞳は虚ろな物へと変わっていき、生気が全く感じられない。

 

 「これって過呼吸……どうしよう、トウヤ」

 

 苦しむメイの姿を目前にして何も出来ない自分自身に対して悔しさで一杯になったリーフが涙目で救いの手を求めるような眼差しを向けて来た。

 

 「―もしかして…!?」

 

 僕はメイが過呼吸を起こした理由に気付くと直に炎上しているトキワの森へと視線を移した。

 そうだ、メイはこの光景を見て思い出したんだ。メイの故郷―ヒオウギシティが火事にあった時の事を…、メイの両親が亡くなった辛い過去を…。

 じゃぁ…、メイはその自分自身のトラウマである過去に似た光景を見て過呼吸になったんだ。なら、早くあの火事を何とかしないと…!

 そうすればメイの過呼吸も良くなる筈…。

 僕は考えを纏めると、取り乱しているリーフの肩にそっと手を置き、

 

 「落ち着いて…リーフ。僕がトキワの森に行って、あの火事を消火してくる。だから、…君はメイが落ち着くまで傍に居てあげて。出来れば、炎上しているトキワの森が見えない場所までメイを移動させる事」

 

 まず彼女に落ち着くように言い聞かせ、心の中で固く決意をしてリーフに何とかしてくると訴えていく。

 リーフはメイを胸に抱き寄せて、僕を見上げると頼まれた事に対して「わかった…」と小さく頷いた。

 

 「頼んだよ、リーフ…」

 

 その一言を残して風を切って走り出す。

 途中、トキワの森から逃げ出してきた野生のポケモン達と擦れ違うも気をそっちに向けずにずっと視界には煌々と燃え滾る炎に身を包んだトキワの森を捉えていた。

 

 「早くあの炎を何とかしてメイの笑顔を絶対に取り戻さないと…。アオさんも心配だし…」

 

 side―なし―

 

 「くっ…くくく…アハハハ…! もっと燃えな、燃えちまいな! ブーバー火炎放射だよ」

 「ブーバァ―!」

 

 周囲の草木がメラメラと燃え、熱を帯びたその場所で顔に傷を負った一人の女性―カレンの指示により、彼女のポケモン―ブーバーが自然を燃やしていく。

 

 「スピッ!」

 「フリ―!」

 「ポッポォ―!」

 「ピィーカ!」

 「ケッ…、姉御の邪魔はさせねぇ…。カイリキー、受け止めろ!」

 

 住処を襲われた事に怒りを覚えた野生のポケモン達が攻撃してくるも、それはゲイルが繰り出したカイリキーの四本の腕で全ての技が受け止められる。

 野生のポケモン達はその光景に一瞬怯んでしまう。

 

 「そっちが来ないならこっちから行くぜぇ…! カイリキー、岩石封じ!」

 「ヒトカゲ、青い炎です!」

 

 カイリキーは頭上に作り出した大きな岩を放つも、その刹那に別の方向から放たれてきた青い炎によって相殺される。

 その出来事にゲイルも野生のポケモン達も驚きの表情をしてしまうも、

 

 「やっと来たんだね、――坊や!」

 

 カレンは瞳に映るアオとヒトカゲの姿に高笑いを上げるのであった…。

 

 ―to be continued―

第十六話『衝突』 ( No.16 )
日時: 2023/09/09 08:30
名前: アプー (ID: lQwcEz.G)

 私は炎で燃え盛るトキワの森を見てあの日の出来事を思い出してしまう。

 それは、私にとってとうに過ぎた過去であり、胸の奥深くに閉じ込めていたはずの辛い…辛い出来事…。

 私の大切なお父さんやお母さんを奪ったあの日の火事の事を…。

 その事を今、目前で炎上しているトキワの森と連想させてしまい、頭の中が次第に真っ白になっていく。

 そんなトラウマを克服出来ない自分自身に対して情けなさと悔しさを感じるのであった…。

 

 side―なし―

 

 「やはり、あなたがたの仕業だったんですか…、ファンタシア! あなたがたの狙いは私のヒトカゲでしょう。―なら、なぜこんな非道な事を…このトキワの森に住むポケモン達は関係ない筈なのに彼らの住処を炎上させるなんて…!」

 

 アオは目前で悠然としている一人の女性に対して怒りの矛先を向ける。

 しかし、女性は怯える事なくニッと不敵な笑みを浮かべていき、

 

 「そうだねぇ…、でもこれは仕方がない事なんだよ坊や~。だって、アンタ達は飛行船の追跡から逃れる為に必ずこのトキワの森に入り込むだろう。なら、空からの追跡が無理になる私達に残される手段はこうやってトキワの森を炎上させてアンタ達を誘き出す事だけさぁ」

 

 冷たい眼差しで見つめて来る。そして、冷笑を浮かべて周囲で煌々と燃える炎を見渡していった。

 その彼女の行動が、表情が…態度が次第にアオを怒らせていく。

 基本的に彼は心優しく怒る事は無かったが、ヒトカゲを奪いたいと言う私欲の目的の為だけにトキワの森を炎上させた彼らの非道な行為に…、―そして彼の好きな所でもある静かな場所が荒らされた事に対して彼の内で怒りの感情がピークを過ぎていた。

 

 「良い加減にして下さい…」

 

 アオは小さくも力が籠った怒声を上げた。ヒトカゲはそんな初めて見る主の姿に一瞬驚愕してしまい、振り向いてしまう。

 

 「へぇー、アンタでも怒る事はあるんだねぇ。今までアンタ達の事を追って来たけどアンタのそんな表情を見たのは初めてだから驚いたよ…」

 「それは良かったですね、――ヒトカゲ、切り裂くです!」

 

 アオはそんなカレンの面白がる声を軽く流して、ヒトカゲに指示を飛ばす。

 

 「カゲト――!」

 

 ヒトカゲは颯爽と草木達を燃やし続けるブーバーに向かっていき、右爪を光らせていく。

 

 「姉御の邪魔はさせねぇぜ、カイリキー…空手チョップで受け止めろ! 」

 

 刃向かって来た野生ポケモン達を倒したカイリキ―がブーバーの前に立ちはだかり、右肩に生えた腕で切り裂くを受け止めヒトカゲの右腕を捕える。

 

 「そこで連続メガトンパンチ!」

 

 その隙を見逃さずに残りの三本の腕でメガトンパンチを次々にヒトカゲの各部に決めていき、最後のパンチで吹っ飛ばした。

 

 「カゲトォ―――!?」

 

 アオの近くまで吹き飛んでしまう。

 

 「ヒトカゲ、まだ行けますか…?」

 

 吹き飛んで来たヒトカゲが心配になり、声を掛けていく。

 ヒトカゲはその問い掛けに小さく頷き、アオの前に出ると尻尾の先端で煌々と燃えていた炎がその凄まじさを徐々に増していく。

 その光景に敵は目を見開いてしまうも、アオには直にそれが何を表しているのか理解出来た。

 ―――発動したヒトカゲの特性『猛火』を…。

 

 「猛火ですか…、なら…これはどうでしょうかヒトカゲ…」

 

 ふと何か思いついたのか、ヒトカゲに突如問い掛ける。

 

 「カゲトォ?」

 

 突然のアオの問い掛けにきょとんとした表情で振り向いて来るヒトカゲ。

 

 「猛火発動状態で青い炎を使うと言うのは…」

 「カゲト。 カァーゲトォ―――!」

 

 アオに了解したと頷き、スッと上空を見上げるとけたたましい鳴き声を上げていった。すると、尻尾の先端の炎が青白い炎へと変化し、一気に勢いを増していく。

 

 「まさか、これ程までに…!?」

 

 カレンはそんな激しく燃え滾る青白い炎を見て、恐怖していく。

 ゲイルやカイリキ―達もまた一歩後退りしてしまい、怯えてしまう。

 

 「さぁ、反撃させて貰いましょうか…ヒトカゲ、青い炎です!」

 

 その指示と共に青い炎がカイリキー目掛けて放たれていく。

 

 side―トウヤ―

 

 僕はアオさんを探し出す為にトキワの森の中を走り回っていた。

 

 「酷い…」

 

 その途中で視界に映る悲惨な光景に心を痛めていく。

 鬱蒼と茂っていた木々達は炎によって焼かれ、野生のポケモン達は燃え盛る炎から必死になって逃げていた。

 

 「助けないと! ピカチュウ、波乗りで消火するんだ!」

 

 直に助ける事を決意すると、ピカチュウを出して広まろうとする火事を消火する為に広範囲に放てる波乗りを指示する。

 

 「ピッカ!」

 

 ピカチュウはこくりっと頷き返し、足元から大波を作り出して燃え滾る炎へと向かっていき、消火していく。

 その技の威力は格段に上がっていた。

 

 「これも修行の成果なのかな…」

 

 だが、波乗りを受けた場所は完全に消化された物の、まだ至る所で太陽のように煌々と燃え滾る炎の存在が確認出来、それは遠くまで及んでいて全てを消火するのに時間が掛かる事が理解出来た。

 

 「これじゃ、埒が明かない…」

 「ピピカ…」

 

 ピカチュウが困り果てた表情で見上げて来る。

 良し、こうなったら…!

 

 「ピカチュウ、僕達と今から二手に別れないか…? 火事を消火するAチームとアオさんを探し出すBチームの二チームに…。波乗りを使えるピカチュウにはAチームに回って貰って、僕とフシギダネ達がBチームに入る。いいな…?」

 「ピィーカ、ピカーチュ?」

 

 ピカチュウに「私、一人なの…」と不安そうに聞かれ、苦笑してしまう。

 

 「居るだろう、僕達にはまだ仲間が…。リーフには水タイプのゼニガメが居るから消火の方は大丈夫だし…、彼女は機転が利いて頼りになる」

 

 「ピピカ、カピカ…ピカーチュ?」

 

 ピカチュウは言葉の中にメイの事が含まれて居なかった事が気になったのか、見上げて来る。

 僕はそんなピカチュウの頭を撫でながら、

 

 「メイなら大丈夫だよ…、芯が確りしてるし…。だって、彼女は病院に居た頃だって僕とは違って全然両親が居ない事に弱音を吐かなかったし、泣きもしなかった。それも彼女の精神力が強いからで、今回だって必ず直に這い上がって来ると思うよ…彼女なら…ね、ピカチュウ」

 「ピッカチュウ!」

 

 メイの芯の強さを説明していく。ピカチュウはそれに納得してくれたのか力強く頷いてくれた。

 

 「それじゃ、行って来るよピカチュウ!」

 「ピッカ!」

 

 僕はアオさんを探し出す為に走り出す。

 ピカチュウもまた波乗りで火事を消火しようと奮闘していく。

 仲間達が来てくれるのを信じて…。

 メイが立ち直ってくれるのを信じて…。

 でも、今の僕にはメイが芯を強く持って居られる理由が他にある事に気付く事が出来て居なかった。

 

 ―to be continued―

第十七話『凶薬』 ( No.17 )
日時: 2023/09/10 15:13
名前: アプー (ID: lQwcEz.G)

 私は両親を失った事で心に大きな傷を負いながらも、左脚部に負ってしまった大きな火傷を治療する為にヒウン総合病院に遣って来る。

 その環境の変化にも慣れずに病室に引き籠ってしまう。

 その頃の私はあらゆる事に対してネガティブな考えしかせず、唯一日中ベッドの上に横たわって啜り泣く事しか出来なかった。

 でも、一年前のあの日に―七夕が行われる七月七日にある一人のピカチュウを連れた少年と出会い、彼のお陰で自身の闇の中から抜け出す事に成功する。

 そして、私はある一つの事を決意する―彼らと一緒に居る時だけでも良いから、涙を見せずにずっと一緒に居ようと…彼らがどこかに行くのであれば必ず一緒についていこうと…。

 ―そこが両親を亡くし、家を失った私にとっての唯一の居場所なのだから…。

 

 side―リーフ―

 

 私は今、メイを休ませるべく炎上するトキワの森から離れた場所にある一本の大きな大樹の所まで戻って来ていた。

 そう、ここは昨日一度休憩を挟んだ場所。

 

 「メイ、ここだったら少しは落ち着くわよね…」

 「……うん」

 

 隣に座らせたメイに気遣うように尋ねていくと、彼女は力なく頷く。

 私はそのメイの様子に心配になりながらも、頭の片隅ではどうしてメイが先程取り乱してしまったのか疑問に思ってしまう。

 大分、この状態は深刻ね…。でも、どうしてメイは炎上したトキワの森を見て過呼吸になったのかしら、もしかして過去に何か火事で大切な物を失った事があってそれが原因になっているのかしら…。

 それとも他に…。

 

 「―ねぇ…、リーフ。少しだけだけど良くなってきたかな…」

 

 メイは少し余裕が出来たのか、覚束ない声ではあるが次第に体調が良くなってきた事を伝えて来る。

 

 「そう、なら良かったわ。でも、もう少し休まないと…」

 

 私はそんな力なく笑う彼女にこくりと頷き、優しくも小さな声で彼女に言い聞かせていく。

 でも、

 

 「トウヤ、トキワの森に行ったんだよね…アオさんを追いかけて」

 

 その発せられた言葉に一瞬固まってしまうも、肯定する。

 

 「えぇ、そうよ。でも、アオさんの事はトウヤに任せて…メイは休んでなさい」

 

 「私も行くから、安心して」と小さな声音を放ち、スッと立ち上がる。

 

 「リーフも行くの、トキワの森に…。――なら、私も!」

 

 メイは無理に立ち上がろうとするも直に気分が悪くなり、体がゆらめいて崩れていくも私の咄嗟の反応に助けられる。

 

 「駄目よ、メイ。まだ気分が悪くて歩けないようじゃ…。仮にまたトキワの森に行ったら今度は本当に倒れちゃうわよ…!」

 「―でも、それでも行きたいの…! トウヤ達が心配だから、お願い…リーフ」

 

 メイは純粋な願いを言葉にすると、真っ直ぐな瞳で見つめて来る。

 

 「……ハァー、わかった。でもね、一つだけ約束して必ず無理しないって…」

 

 肩を竦めて、深い溜め息をつくと彼女がついて来る事を許す代わりに一つの条件を出す。

 

 「うん!」

 

 メイは苦しいながらも出来るだけの笑みを浮かべて返事を返して来た。

 

 side―アオ―

 

 「カイリキ―!?」

 

 煌々と燃える炎の中で青い炎を体中に纏わせたカイリキーが情けない恰好で倒れていく。

 

 「それで終わりですか…」

 

 私は冷ややかな声を相手に放つも、息を切らし始めているヒトカゲを不安げに見つめる。

 ヒトカゲはそんな私に向かって無邪気な笑みを浮かべながら、Vサインをして来る。

 ―だが、

 

 「八ッ…、ゲイル―アンタ…情けないねぇ。坊やにやられるなんて」

 

 女性が部下である筋肉質の男を見下すような眼差しで見つめ、揶揄するような言い方で貶していく。

 その右手にはモンスターボールが握られていた。

 

 「まぁ…、見てな…私がこの坊やを倒してやるからさ! いきな、エレブー!」

 「エーレ!」

 

 眩い光を纏った電撃ポケモン―エレブーが現れ、僕達の前に立ちはだかる。

 

 「さぁ、エレブー。あのヒトカゲに電撃波を喰らわせな!」

 「エーレブ―!」

 

 エレブーが右手で作り出した球状の形をした電撃を放って来る。

 

 「電撃波は必ず相手に命中する技。―なら、ヒトカゲ…青い炎で壁を作って防いで下さい!」

 「カァーゲトォ―!」

 

 ヒトカゲは頷き返し、直に周囲に向かって青い炎を吐いていき、青い色をした炎の壁を作り出す。

 電撃波は完全に防がれるも、それを防いだ場所には一つの大きな穴―ヒトカゲの元へと繋がる一つの道標が出来てしまう。

 

 「抜け道が出来たようだねぇー。エレブー、――破壊光線!」

 

 女性はその事にニッと不敵な笑みを浮かべるとエレブーに指示を飛ばしていく。

 それと同時にエレブーの口から凄まじい速さで一つの禍々しい光を帯びた閃光が放たれていく。

 

 「カゲェ――!?」

 

 その余りの速さで向かって来る破壊光線を目前にして恐怖してしまい、動けなくなるヒトカゲ。

 

 「―――危ない!」

 

 私はそんなヒトカゲを助けたいと思い、庇う為に前に飛び出す。

 そして、トキワの森で大きな衝撃音が響き渡り、爆炎が一瞬にして広まっていった。

 

 side―リーフ―

 

 太陽が西に沈みかけた夕刻。

 炎で燃え滾るトキワの森はさらにその赤みを増していき、私達はその光景を視界に焼き付けていく。

 

 「―メイ…行ける…?」

 

 その光景を目前にしてメイは大丈夫なのか…と心配になり、不安げに揺らぐエメラルドの瞳で彼女を見つめる。

 メイはそれに気付いたのか…、

 

 「……うん、全然問題ないよ…リーフ。―だから、行こう!」

 

 虚ろになり掛けていた瞳に再び生気を取り戻すと一瞬の間を置いて、力強く頷いて見せた。

 

 「…わかったわ」

 

 そんなメイの無理に元気を見せる姿に心の中で渦巻く不安が一層強くなるも、追及する事を止め小さくも諦めたのついた声で承諾の意を示す。

 

 「有り難ね、リーフ」

 

 メイはそんな私の気持ちに気付き、小さな声でお礼を呟くとトキワの森へと走り出す。

 私もまたその後を追うのであった…。

 

 side―トウヤ―

 

 どれだけ走ったのだろうか…。

 消火する為にあの場所に留まったピカチュウと別れて、どれだけの時間が経ったのだろうか…。

 僕は必死になって炎の中を掻い潜って辺りを見渡しながら、アオさん達を捜していくも見つける事が出来ない。

 数十分前からピジョンに空中から捜索して貰っているが、そっちも全然見つからないのかまだ戻って来て居なかった。

 

 「アオさん、一体どこに…」

 

 改めて、周囲が炎で煌々と燃え滾る中を見渡していく。

 すると、その途中で木達に纏わりつく深海を思わせる程の青い炎を視界に映す。

 

 「あの青い炎…って―まさか!?」

 

 その炎に一瞬悩んでしまうも、それが直にアオさんのヒトカゲの物だとわかり、その燃えている方向へと再び走り出した。

 

 「ピジョンも気付いていると良いんだけど…」

 

 side―アオ―

 

 「カーゲ…、カーゲトォ」

 「ヒトカゲ、無事ですね。それから、有り難う御座います。お陰で助かりました」

 「ピジョ…!」

 

 私は心配そうな表情をして寄って来るヒトカゲの頭を撫でながら、目前に立つ一匹の鳥ポケモン―ピジョンに対してお礼を述べる。

 そう、先程エレブーが放った破壊光線は突如現れたこのピジョンが咄嗟に作り出した半透明の球状の形をしたバリアによって防がれたのだ。

 そのピジョンがトウヤ君のポケモンである事を思い出し、心の中ではこれで助けられたのは二度目か…とこっそり思い感謝の気持ちを抱くも、その分何かで返さないと…と言う風に考えてしまう。

 でも、今は…ヒトカゲを奪おうとする彼奴らを何とかしないと…。

 ―また、自由に大空を飛び回る為にも…。

 

 「何だい…あんまりダメージを受けていないようだねぇ~、…坊や。―なら、次でケリをつけさせて貰おうか」

 

 爆炎が止むと同時に一人の女性とエレブーが次第に肉眼で捉えられるようになっていく。

 その女性の指示を受けたエレブーが右手に電撃を纏わせてこちらに疾走して来る。

 

 「ピジョン、すみませんが守るを解除してくれませんか…。後は私達が引き受けますので…」

 「ピジョ…!? ―ピジョ」

 

 行き成りの頼み事に一瞬驚愕するピジョン。だが、このまま守るを多用すると失敗に終わる事を知っている彼は大人しくそれを受け入れ、守るを解除する。

 そして、私達の後ろへと下がってくれた。

 

 「有り難う御座います…。―ヒトカゲ、ドラゴンクローで受け止めて下さい。そして、受け止めた後は火炎放射です」

 「カーゲト!」

 

 ヒトカゲは迫り来るエレブーの雷パンチをドラゴンクローで受け止め、顔面目掛けて今度は煌々と燃え滾る赤い炎を吐いていく。

 

 「爪が甘いね、坊や…そんなんじゃ、アタイのエレブーは倒せないよ。エレブー、電磁波だよ」

 「―ッ…。―レ…ブゥ――!」

 

 顔面を真っ黒に染めながらも、電磁波で確実にヒトカゲの自由を奪っていく。

 

 「カゲェ―!?」

 「ヒトカゲ、大丈夫ですか…」

 

 電撃を体中に浴びたヒトカゲが地面に這い蹲ってしまう。

 

 「さぁ…、まずは戦闘不能になって貰おうか…エレブ―「フシギダネ、葉っぱカッターだ!」―何だい!?」

 

 ヒトカゲに止めを刺そうとする女性。だが、それは別の方向から飛んで来た無数の葉っぱによって阻止される。

 

 「間に合ったみたいだね」

 「ダネフッシャ」

 

 私はヒトカゲの元へと歩み寄り、抱き抱えると葉っぱカッターが放たれて来た方向へと視線を移す。

 すると、そこには帽子を被った一人の少年と背中に大きな種を背負った一匹のポケモンが居た―トウヤ君とフシギダネだ…。

 

 「ピジョ―!」

 「アハハ、じゃれ付くなよピジョン。御免な、遅れて…」

 

 そんな彼らの遣り取りを目前にして次第に体中を鎖のように絡み付いていた緊張感から解放され、自然と笑みが零れてしまう。

 

 「ちょっと、アンタ達…何呑気に遊んで居るんだい、戦いはまだ終わって居ないんだよ。特にそこのガキ!」

 

 女性はその仄々とした光景にいらつき、怒声を上げて最後にはトウヤ君に人差し指を向けて来る。

 トウヤ君はそんな彼女の行動を軽く流すと辺りに燃え盛る炎を撒き散らすブーバーを見て、それが女性のポケモンだと気付くと鋭い眼差しで睨みつける。

 怒ってるんだ…、トキワの森を炎上させた彼女に対して…。

 

 「アハハッ…、何怒ってんだいアンタは…。まぁいいさ…、やっともう一つの目的を果たせそうなんだ。いくよ、エレブー」

 「レェーブ!」

 

 彼女は空中に向かって数十個にも及ぶ小さな飴玉を投げていき、エレブーは勢い良くそれらを飲み込んでいく。

 それと同時にエレブーの体躯が徐々に大きくなっていき、その顔付きがさらに険悪な物へと変貌していった。

 

 「――さぁ…、始めようじゃないか…第二ラウンドを…!」

 

 ―to be continued―

第十八話『石化ガントレット』 ( No.18 )
日時: 2023/09/14 14:49
名前: アプー (ID: lQwcEz.G)

 side―リーフ―

 「酷いわね、まさかここまでだなんて…。思いもしなかったわ」
 「うん…、そうだね。―それにあの時と同じだ…」

 私達は走りながらも、途中で見かける炎で焼かれ煙を上げている木々の無残な姿や燃え盛る炎から必死になって逃げ惑うポケモン達を目の当たりにしてしまう。
 その悲惨な光景に何とか平静を保とうとするも、低くも悲痛な声を上げてしまう。
 私の前を走っているメイもまた首肯し、小さな声で呟くと視線の先に何かを発見したのか急に立ち止まる。

 「…メイ、急にどうしたの…?」
 「リーフ、あれってピカチュウだよね…」

 そんな彼女の様子に怪訝になるも、人差し指で示された場所へと視線を投げ一匹のピカチュウの存在に気付く。

 「あのピカチュウ…もしかしてトウヤのかしら…?」

 ピカチュウの尻尾についた傷跡や波乗りを繰り出している所を見て、トウヤのポケモンだと判断する。
 同じ答えに辿り着いたメイと視線を合わせ頷き合い、消火する事に苦戦しているピカチュウの元へと走り出した。

 side―アオ―

 「ポケモンが大きくなって…」
 「カゲェ…」

 私達は徐々に体躯が大きくなっていくエレブーに対して驚愕してしまう。

 「……」

 だが、トウヤ君は驚いて居ないのか…嫌、まだ怒りを含んだ表情で不敵な笑みを浮かべる女性とエレブーを瞳に捉えていた。

 「どうしたんだい、ガキ。アンタ、もしかして力を増したエレブーを目前に驚きすぎてて表情を変える事すら忘れたのかい。そっちから来ないならこっちからいかせて貰うよ、――エレブー…雷パンチだよ!」
 「レェーブ!」

 彼女の指示にこくりと頷き、熱を帯びた風を切って疾走していく。

 「―速い!?」

 その図体が大きくなったエレブーに対して私はパワーが上がり、スピードが下がったのではないのかと勝手に考え判断していた。
 しかし、その予想を見事に裏切るかのように距離が離れた場所に立っていたトウヤ君の目前にあっと言う間に辿り着く。

 「なる程ねぇ~、パワーだけじゃなくスピードも上がって居たとはね。凄いね、この凶薬『E・B』は…。まぁ…、今はまずあのクソ生意気なガキからだね。倒しなエレブー!」

 凶薬…なんなんだそれは…?
 私は一瞬彼女の口から発しられた単語に困惑してしまうも、その彼女の冷徹な声と共にトウヤ君目掛けて放たれるエレブーの右拳が視界に映る。
 だが、彼は全然かわそうとしなかった。

 「―トウヤ君!」

 私はそんな動こうとしない彼に叫び声を上げるのであった…。

 side―トウヤ―

 「―トウヤ君!」
 
 危険を知らせて来るアオさんの叫び声を聞きながらも、動こうとしなかった。
 ―嫌、動こうとしなくても予想出来たんだ…相手が僕に向かって雷パンチを放って来る事ぐらい…。
 そう、エレブーのトレーナーが敵意を含んだ瞳で僕を睨んで来た時から…。それは何かを企んでいるサインにも取れた。
 ―だから、

 「フシギダネ、蔓の鞭で受け止めるんだ!」
 「ダネフッシャ!」

 直に対処出来る。
 そして、フシギダネは僕の指示に素早く答え、一本の蔦を電撃を宿した右拳に絡めて受け止める―余裕を感じさせるような表情で…。
 パワーアップしたと思われるエレブーの渾身の一撃を軽々と受け止めたのだ。
 まぁ…、その威力はゲンスイさんのエビワラー程ではないが…。

 「レブゥ――!」

 自身の雷パンチを受け止められた事に対してなのか…、それともフシギダネの態度が気に入らなかったのかはわからなかったが、怒りの雄叫びを上げると今度は左手で瓦割をお見舞いしてこようとして来る。

 「蔓の鞭でもう一度受け止めるんだ」

 フシギダネは小さく頷き、それも背後に背負った大きな種から残りの蔦を飛ばし雁字搦めにして顔に直撃する直前で制止して見せた。
 その事にエレブーは焦りが心の中で生じ、次第にそれが心を蝕んでいく。

 「エレブー、落ち着きな。まだ負けた訳じゃないよ! 両手が塞がれても、まだ繰り出せる技があるじゃないかい…」

 だが、そのトレーナーの叱咤に強く頷き、心の中で渦巻く焦りの渦を必死に振り払うとカパッと口を大きく開いた。
 その口の中で光が収束されていく。破壊光線を撃つ気だ…。

 「寄生木の種をエレブーの顔面に向けて放つんだ!」
 「ダネダ…!? ――ダネ…ダネフッシャ―!」

 予想外の指示に一瞬驚きの声を上げるフシギダネ。でも、僕の考えを理解すると直にエレブーの顔目掛けて寄生木の種を放つ。
 すると、寄生木の種はエレブーのおでこにくっつき、一秒も経たない内に顔中に纏わりついていった。

 「何してんだい、簿さっとしてないでパワーを溜めたんら速く撃つんだよ、破壊光線を!」

 女性はやられてばかりのエレブーに痺れを切らして甲高い声で言葉を吐き出す。
 そんな彼女の命令に答えようとするも纏わりつく寄生木の種の締め付けて来る力によって開いていた筈の口は無念にも抗う事が出来ずに閉じてしまう。

 「―レェーブゥゥゥ―!?」

 その刹那、破壊光線を吐く為に溜めていたパワーは行き場を失くした為に口膣内で爆発を起こしてしまい、その反動で開いた口からは爆発の余韻が黒い煙となり軌跡を残しながらも上空へと浮上していく。
 
 「ダネ、ダネフシ!」

 その出来た隙を見逃すまいと止めの指示を求めて来るフシギダネ。
 僕はその要求に首を振って否定して見せると、

 「もう、あのポケモンを攻撃しなくていいよ…フシギダネ。だって、もう戦闘不能状態になってるから。だから、僕達の勝利だよ…」

 理由の言葉を述べていく。
 両手に絡めていた蔓の鞭を解いてフシギダネは訝しげに相手を見つめるも、その瞬間ドサッと言う音を立てながら倒れていく姿を見て納得した表情を浮かべる。

 「くっ、エレブー…。こうなったら、ブーバー…アンタがいきな!」

 女性は悔しそうな表情で倒れたエレブーを視界に映すと、今度はブーバーに視線を移す。
 だが、そのブーバーもまたアオさんとヒトカゲによって倒されていた。

 「アンタまで…」
 「これで貴方のポケモンは全て倒しました。それでもまだやりますか、ポケモン密猟団『ファンタシア』…!」
 「カーゲトォー」

 最後の手持ちを倒されショックを隠せない女性に対してアオさんが冷やかな声で問い詰めていく。
 その声には冷たさだけでなく、怒りも含まれていた。

 「……まぁ、いいさ。アタイはそのヒトカゲが手に入ればそれでいいんだからねぇ~」

 少しの間、沈黙してしまうも直に開き直って高らかな声を上げる。
 ヒトカゲに向かって右腕に装着したガントレットを向けて来た。

 「それは…」

 僕は彼女の右腕についたそれを凝視する。

 「こいつの名は『石化ガントレット』って言ってねぇ~、あらゆる物を石化させちゃうのさ…。―だから、これを使って頂かせて貰うよ…そのヒトカゲをね!」

 その言葉と共に石化ガントレットから一条の光線がヒトカゲに向かって放たれていった。

 ―to be continued―


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