社会問題小説・評論板

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宇宙の中で —HANABI— 一話〜十七話
日時: 2009/10/28 20:47
名前: 秋桜 ◆AxS5kEGmew (ID: 4TjuuFmy)

前の分が消えてしまったので、一話〜十七話まで書きます。

コメント禁止です。

Re: 宇宙の中で —HANABI— 一話〜十七話 ( No.4 )
日時: 2009/10/30 19:49
名前: 秋桜 ◆AxS5kEGmew (ID: 4TjuuFmy)

第四話

「・・・・・・友里!」
陽子の声で我に返った。
「もー、何ボーッとしてんの。さっきから何回も呼んでたのに」
「ごめんごめん」
私は笑顔で応じた。

「ねえっ、これ可愛いよ!」
ミヤちゃんが手招きをしている。
ミヤちゃんが持っていたのは、ビーズ細工のキーホルダーだった。
天井の照明の光を浴びて、綺麗に光っていた。
「わっ、可愛い!」
「ホントホント」
ミヤちゃんがキーホルダーを振った。付いている鈴が鳴り、心地よく耳に響いた。
「ねえ、これ、動物の形で4種類あるよ。お揃いで買おうよ」
キーホルダーは、ネコ、クマ、ヒヨコ、コブタをかたどった4種類。

——私はネコがいいな——

そう言おうとした。
「あたしネコー」
陽子がさっとネコのキーホルダーをさらった。
「私も狙ってたのにー」
ウケを狙って、わざと大袈裟に悔しがった。
「えー、友里にこんな可愛いの似合うわけないじゃん」
「そうそう、あんたクソマジメなんだから」
今のは——グサッときた。
「友里はコブタって感じー?」
陽子が笑いながら私にコブタのキーホルダーを手渡した。
不細工なブタ鼻がよく目立つ。
その間に、ミヤちゃんはクマ、優子はヒヨコを手に取っていた。

レジに行き、財布を出した時、
「ヤバ・・・・・・」
陽子は財布を覗きこんで、愕然としていた。
「どうしたの?」
「お金、足んない・・・・・・」
「ええっ!」
優子とミヤちゃんは短く叫んだ。
それもそのはず、このキーホルダーは400円ほどの物なのだ。
「どんだけ金欠なんだよー」
ミヤちゃんが吹き出した。
「笑い事じゃないって。お金貨してくんない?」
「えー・・・・・・そんな事言われてもさ」
2人は困惑している。
「友里、お願いっ」
陽子が手を合わせてきた。顔は半分笑っている。
「私、参考書買わないといけないんだけど・・・・・・」
「参考書っ、ウケるー」
優子とミヤちゃんが爆笑した。
「そんなくだらない物買うんなら、貸してよ。友達裏ぎんの?」
陽子は少し怒っている。
「そうだよ、友達じゃん」
「あるんでしょ?」
2人も加勢して来た。
「・・・・・・もー、仕方ないなぁ」
私は笑いながら陽子にお金を渡した。
「サンキュッ」
陽子が会計を済ませた。

帰り道、私はまた「いじられ」た。
私のキーホルダーを投げっこして、返してくれなかったのだ。
陽子が投げた拍子に、キーホルダーは地面に落ちた。ビーズ細工はボロボロになっていた。
3人は気まずそうに顔を見合わせた。
私は笑顔で許した。
「お優しい!」
3人は私をふざけて拝み、私もウケを狙い笑わせた。

これでいいのだ、と思う。
私といういじられ役がいるからこそ、グループが盛り上がり、バランスが取れているのだ。
そう思ったのに、夜、布団に潜ると何故か涙が出てきた。

Re: 宇宙の中で —HANABI— 一話〜十七話 ( No.5 )
日時: 2009/10/30 21:25
名前: 秋桜 ◆AxS5kEGmew (ID: 4TjuuFmy)

第五話

——いじめ——

この言葉が、頭から消えない。
私は唖然とした。
鉛筆を誤って折ってしまったり、キーホルダーの配分を決めてもらったり、そのキーホルダーをふざけて落としてしまったり。
こんな事がいじめだというのか。
一人で苦笑した。
そんなに私の心は弱くない。
でも、消しても消しても、すぐに浮かびあがってきた。

——でも——

声が聞こえた。
私は辺りを見回す。
空耳か、と安心した時、

——鉛筆を折ったのは明らかに優子が悪い。キーホルダー。ネコのキーホルダー。勝手に決めた、私の意見も聞かずに。おまけにそれをふざけて壊すときてる。人を馬鹿にするのもいい加減にしろ——

「誰っ・・・・・・?」
憎しみのこもった声だった。部屋中に響いている。
「ねぇっ、誰なの・・・・・・」
私は耳を塞ぎ、目をつぶった。

——大嫌いだ。ふざけるな。私につきまとうな!——

耳を塞いでいるのに、大きく響く。耳を塞いだ方が大きく聞こえた。
「ふざけないでよ・・・・・・誰なのよ!」
私は布団にもぐりこみ、震えた。
私じゃない。

——嫌いだ嫌いだ嫌いだ嫌いだ。あんなやつらなんて——

塞いだ手の隙間から、滑り込んでくるように聞こえる。
「お願いっ、やめてよ・・・・・・」
語尾がかすれる。息をするのが苦しい。
これは、私じゃない。

——あんなやつらなんて、アンナヤツラナンテ・・・・・・——

私は一層手に力をこめた。続く言葉を聞きたくなかった。
これは、私じゃない。私であるはずがない。私じゃない、絶対絶対絶対絶対・・・・・・。

——死ねばいいのに——

暗闇に、私の悲鳴がこだました。

Re: 宇宙の中で —HANABI— 一話〜十七話 ( No.6 )
日時: 2009/10/31 16:32
名前: 秋桜 ◆AxS5kEGmew (ID: 4TjuuFmy)

第六話

悲鳴に驚いて起きてきた両親には、怖い夢を見た、とウソをついた。
確かに、少しムッとするときはある。
でも・・・・・・死ねだなんて。
そんな事、私は思っていない。絶対に。

「おはよ、友里」
靴箱で、陽子に頭をポンと叩かれた。

——触るな——

あの声が、また聞こえた。
私の膝は、小刻みに震えている。
「友里・・・・・・?」
陽子が顔を覗きこむ。
私は目を閉じ、大丈夫、と自分に言い聞かせた。目を開ける。
「ううん、何でもない」
私は笑い、教室へ向かった。

教室に入り、席につくと、優子がやって来た。
「おはよー! 筆箱チェックの時間だよ」

——黙れ。筆箱に触れんな——

「ひっ・・・・・・」
さっきより、もっと黒い声だ。私は短く悲鳴をあげた。
「どうしたの?」
優子も、私の顔を覗きこんだ。

——好奇に満ちた瞳で私を見るな。あんたなんて死ね死ね死ね死ね——

「あっ、悪魔がっ・・・・・・助けて・・・・・・!」
私は頭を抱え、うずくまった。
「ちょっ・・・・・・友里!? どうしたのっ!」
頭の声が、ふっと止んだ。ゆっくり顔を上げる。
「ご、ごめん・・・・・・。ちょっと頭が痛くて」
自分でも苦しい言い訳だと思う。
「保健室行った方がいいよ。マジヤバイもん」
「うん、そうする・・・・・・」
私はふらふらと教室を出た。本当に頭痛がする。
優子がまだ私の背中を見つめているのが分かった。

保健室のドアを開ける。
「失礼します。ちょっと頭痛がするんで、寝ていてもいいですか・・・・・・」
私はこめかみを押さえて言った。
「いいわよ。奥のベッドを使いなさい」
保健の先生は、美人で優しい事で有名だ。
私はベッドにもぐりこんだ。
寒くなんてないはずなのに、震えが止まらなかった。頬を伝う涙も。

ドアを開ける音が聞こえた。
誰か、保健室に入ってきたようだ。

——熱っぽいんで、体温測らせてください——

——三好さんの声だ。
私は驚いた。クールで一人よがりな三好さんに、病弱なイメージはなかった。

——じゃあ、横になって測りなさい。鳴ったら教えてちょうだい——

三好さんが、隣のベッドに入ってくる気配がした。

Re: 宇宙の中で —HANABI— 一話〜十七話 ( No.7 )
日時: 2009/10/31 16:54
名前: 秋桜 ◆AxS5kEGmew (ID: 4TjuuFmy)

第七話

「あの・・・・・・三好さん?」
私は何故か、喋らなくてはいけないような気がして、三好さんに話かけた。
「・・・・・・誰?」
「私、佐々木。佐々木友里です」
「ああ・・・・・・」
三好さんが寝返りを打った様子が、仕切りのカーテン越しに分かった。
「何?」
「えっと、前私にウソついてるって言ったじゃない。あれ、どういう意味かなって」
つまらない事を聞いてしまった。そんな前の事、どうでもいいのに。
「そのまんま」
三好さんは、素っ気無く言った。
「そのまんまって・・・・・・」
「腹立つことされても、へらへら笑うやん。それって、自分にも皆にもウソついとるって事やろ」
「そっ、そんなっ。私、腹なんて立たないよ」
「へぇ」
三好さんは、全く信用して無い声で言った。

「三好さん、寂しくないの? いっつも一人でさ」
長い沈黙を破ったのは、また私の質問だった。
「全然」
三好さんは短く答えた。そして、
「佐々木さんは寂しないん」
と、逆に質問して来た。
「・・・・・・何で?」
「あんなに大勢で、寂しないん」
「ごめん、言ってる意味、分からない」
三好さんは黙った。
「・・・・・・三好さん、クラスで浮いてるよ」
私は、自分の口から出た言葉に驚いた。
「仲間外れにされてるでしょ」
意地悪な言葉が、次々に出てくる。止まらなかった。
「喋り方とか・・・・・・」
「ちゃうよ」
私が言い終わらないうちに、三好さんが言った。
「うちが仲間外れにされとんちゃうよ。うちが皆を仲間外れにしてんねん」
「・・・・・・それってさー、負け犬の遠吠えじゃないの」
今までで、一番意地悪な声になった。
言い過ぎたと思う。どうして余計な事まで口走っちゃったんだろう。
「佐々木さんって、卑怯やな」
「・・・・・・え?」
「卑怯や」
三好さんは、天井を見つめたままはっきり言った。
思い切り素っ気無く。

その時、三好さんの体温計が鳴った。
三好さんがベッドから出て行く。

——平熱なんで、戻ります——

——いいの?——

——はい、失礼しました——

会話が、カーテン越しに聞こえた。
聞きながら、もし体温計が鳴らなかったら、どんな顔をして、何と答えていただろう、とぼんやり思った。

Re: 宇宙の中で —HANABI— 一話〜十七話 ( No.8 )
日時: 2009/11/08 21:08
名前: 秋桜 ◆AxS5kEGmew (ID: 4TjuuFmy)

第八話

「友里っ、大丈夫?」
私が教室に戻ると、陽子たちが駆け寄ってきた。
「うん、もうバッチリ」
私は指でOKサインを作って、笑った。
「そっか。でも、さっきの友里凄かったよね。ぶっちゃけビョーキ系」
優子が笑い出した。さっきの私の様子を、思いだしたのだろう。
「マジ? どんなの?」
陽子とミヤちゃんが身を乗り出した。瞳はらんらんと輝いている。私と喋っているときより、楽しそうだった。
「助けてっ、悪魔がぁ!」
優子が私の声色を真似て、手を空中で躍らせた。陽子とミヤちゃんは爆笑していた。
「そんなんじゃなかったって」
私も笑った。ただ、今度の笑顔は頬が引きつり、強張った。


家に帰り予習をしていると、不意に三好さんの言葉が頭に浮かんだ。

——卑怯や——

私の手は止まった。どういう意味なのか、分からない。さっぱりだ。
私はシャーペンを放り投げた。頭が痛くなった。私は気晴らしに、街へ出る事にした。

私はウィンドウショッピングが好きだ。陽子たちは見ているだけでは意味がないと言うが、私は窓の飾りを見ているだけで心が浮き立ってくる。
もう11月半ばなので、ウィンドウはクリスマス一色だった。商店街に響くジングルベルを聞きながら、サンタやクリスマスツリーの飾りを一つ一つ眺めていくと、この前陽子達とビーズのキーホルダーを買ったファンシーショップの前に来ていた。
ウィンドウを覗き込むと、見覚えのある背中が視界に入った。それは、紛れもなく陽子だった。
私が窓から合図を送ろうとしたとき、陽子の様子がおかしくなった。
やたらと周りを見回し、明らかに挙動不審だ。そして、並んでいるリップクリームを一つ手に取り、そのままバッグに滑り込ませた。

陽子が店から出てきた。動作がぎこちない。
「陽子……」
私はつぶやいた。
「あれ、どうしたの?」
そう言って笑う顔も、強張っていた。
「私、見てたん……」
「言わないで!」
私が言い終わる前に、陽子は短く叫んだ。
「言わないで……」
陽子は、そのまま肩を震わせて泣いた。私の肩に抱き付き、小さな嗚咽を漏らした。
「出来心だったんだよ……これが初めてなの。信じて」
陽子は、ますます私にしがみついた。私は小さく、信じるから、と言った。
「何か、結構皆やってるみたい……すごくおもしろそうでさ。一回……一回だけで良かったの。お願いだから、言わないで!」
「言わないよ、言うわけないじゃん」
私は陽子の肩を優しくなでた。胸の中では、様々な思いが渦巻いていた。
「ありがと……もうやらないから」
陽子はその場にへたりこんだ。

そんな私達の様子を、冷たい目で見ている車イスにのった女子高生を、私は見た。うちの学校の制服だった。

——三好凛——


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