社会問題小説・評論板

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宇宙の中で —HANABI— 一話〜十七話
日時: 2009/10/28 20:47
名前: 秋桜 ◆AxS5kEGmew (ID: 4TjuuFmy)

前の分が消えてしまったので、一話〜十七話まで書きます。

コメント禁止です。

Re: 宇宙の中で —HANABI— 一話〜十七話 ( No.1 )
日時: 2009/10/28 21:06
名前: 秋桜 ◆AxS5kEGmew (ID: 4TjuuFmy)

第一話

「はよっす」
「昨日のアレ見た?」
「宿題やってないよ、どうしよ・・・・・・」
いつも通りの会話と、笑い声。その中に混じって、タイヤと床がこすれる音がする。
騒がしい音にかき消されてしまいそうで、しっかりとした音だった。
私は振り向いた。
車イスに乗ったその子は、こっちに向かってくるところだった。目があうと、その子は横を向いて、目をそらした。
——三好凛、だっただろうか。
足が悪いようで、いつも車イスに乗り、耳にイヤホンをつけていた。

「おっはー、友里!」
肩を大きく叩かれる。
振り向くと、親友の萩元陽子が笑っていた。
「おはよう。もう、びっくりしたじゃん」
私は笑う。
「友里こそ、何ボーッとしてたの?」
私は指を差した。
「ああ、三好凛ねー。ああやってクールぶってんだよ。いい加減クラスの輪乱すの、やめてほしいよ、ホント。」
陽子が聞こえよがしに言った。その声が聞こえているのかいないのが、三好さんは前を見て、平然としていた。
私は陽子や皆のようには思わない。三好さんは、もっと深い物を秘めているような気がする。

転校生の噂を広めたのは、陽子だった。
「ねぇ、うちのクラスに転校生来るんだって。めっちゃ美人だってよ!」
男子がおぉー、とどよめいた。
「マジで? どこ住んでたのかなぁ」
「大阪だって。生の関西弁、聞けちゃうよ」
陽子の周りには、あっという間に人だかりができた。陽子はクラスの人気者だ。
——でも、車イスに乗った転校生の挨拶は、皆の期待を大きく裏切った。

「大阪から来ました、三好凛です」
——それだけ、だった。
よろしくも何もない。皆、唖然としていた。
休み時間、陽子を筆頭に大勢の女子が三好さんに質問を浴びせた。
でも、三好さんはそれに対して、簡単な受け答えしかしなかった。
三好さんの周りは、少しずつ人が減っていき、三好さんは孤立した。
だからと言って、三好さんは寂しそうではなく、むしろ清々した、という顔をしていた。
それがまずかったのかもしれない。

「車イスに乗って、悲劇のヒロインぶっている」

その言葉を最初に発したのは、陽子だった。
三好さんはそんな陽子達を冷ややかに見つめ、鼻で笑った。
私は三好さんのそんな態度に強く惹かれたけど、クラスで孤立するほど強くなかった。

Re: 宇宙の中で —HANABI— 一話〜十七話 ( No.2 )
日時: 2009/10/29 21:05
名前: 秋桜 ◆AxS5kEGmew (ID: 4TjuuFmy)

第二話

私は教室のドアを開け、自分の席に座った。
一番前の席に座っていた岸田優子が私に気づき、こっちに歩いてきた。
「おはよう。筆箱出して!」
優子は右手を差し出した。
「今日は勘弁してくれない?」
私は拝むポーズでおどけた。でも、無理だろうな、と思う。
「ダメー。友里のためなんだから」
優子はそう言うと、筆箱を出してチャックを開け、探り出した。
「失格」
優子はしばらく探り、言った。
「何で?」
「キャラペンが入ってない。ボールペンも質素すぎー」

筆箱チェックの始まりは、廊下で筆箱を落としてしまい、優子が拾うのを手伝ってくれたときだった。
「もーっ、遅れちゃうよ。」
優子は頬を膨らませた。
「うわ、何この中身! オバサンくさー」
「オバサンって何だよー」
こんな事で怒るのも馬鹿らしいので、笑って流した。
「そうだ、毎朝私がチェックしてあげるよ」
そう言って、優子は私の返事を待たずに決めた。

「もっとしっかりしなよー?」
優子はケラケラと笑った。その拍子に、筆箱が落ち、中身がぶちまけられた。
「ああ、ごめんごめん」
まだ笑っている。優子が拾おうと身をかがめた時、優子の足の下でバキッと嫌な音がした。
鉛筆が真っ二つになっていた。
「あっ・・・・・・」
優子はさすがに笑わなかったが、
「ごめーん! 怒ってないよね」
と、また笑った。
誕生日にもらったお気に入りの鉛筆。大事だったのに。すごく悲しい。
でも、優子の事を悪く思ってるんじゃない。多分。
「怒ってるわけないじゃん」
私も笑う。
「だよねー。この柄ダサイから、なくなって良かったんじゃないの」
他の中身を拾うことは最早頭にないようで、優子は自分の席に帰っていった。

その時、日焼けをした大きめの手が、他の中身を拾い、筆箱に入れ、手渡してくれた。
「あ・・・・・・ありがとう」
私は顔を上げた。
「あの女も相当なアホやけど、あんたもアホやね」
三好さんは、馬鹿にしたように「ふふん」と鼻で笑うと、私を一瞥して去っていった。

それが——私と三好凛の初めての会話だった。

Re: 宇宙の中で —HANABI— 一話〜十七話 ( No.3 )
日時: 2009/10/30 21:04
名前: 秋桜 ◆AxS5kEGmew (ID: 4TjuuFmy)

第三話

休み時間になり、私は目で三好さんを探した。
三好さんは、車イスを器用に動かし、教室から出ていく所だった。
私は廊下に出た。もう十一月の半ばなので、廊下は身震いするほど寒い。
「あのっ・・・・・・三好さん」
私は呼びとめた。
「・・・・・・何?」
面倒臭そうな声だ。振り返らない。
「さっきは、ありがと・・・・・・」
三好さんの不機嫌な様子に、身がすくみ、語尾が小さくなった。
「ああ、そんな事」
三好さんは短く言う。続けて、
「佐々木さんって、誰のためにウソついとん? 見とってアホらしいで」
さっきよりもっと素っ気無く言った。
また、車イスを進める。私も、呼び止めなかった。

授業中、数学の佐藤先生の高い声が、ボンヤリと耳に入ってくる。
私は窓の外を見た。空は晴天なのに、とても寒そうだ。窓に霜が降りている。
私は三好さんの事を考えた。

——ウソついてるって、どういう事なんだろう。分からない・・・・・・全然分からない。何であんな態度なんだろ。悪い事言ったかな——

とりとめの無い事が次々と頭に浮かんできた。
頭が痛くなり、考えるのをやめた。

「友里、今日帰り道、買い物行こうよ」
放課後、駐輪場で陽子が話かけてきた。
「いいよ。2人で遊ぶの、久しぶりだし」
「えっ、2人じゃないよ。優子とかミヤもいるけど」
陽子は顔の前で大きく手を振った。
「また、それか・・・・・・。ねぇ、今日は2人で遊ばない?」
そのメンバーで遊ぶと、私は決まって「いじられ」役だ。私を「いじる」事で、グループの輪が盛り上がる。
でも、その役も少し疲れてきた。たまに、度を越す時もある。
「だって、もう約束しちゃったしー。友里も行くって言っちゃったんだよ。勝手な事言わないで」
陽子が不機嫌になった。一度ヘソを曲げると、陽子はなかなか機嫌が直らないのだ。
陽子の不機嫌な顔は見たくない。
「分かったって。そんな怒んないでよー」
私は笑った。
「もうっ、今回だけだぞっ」
陽子も笑ってくれた。ほっとした。
「大体さ、あんたネクラなんだから、話続かないじゃん」
陽子は声を出して笑った。
でも、でも。私の話がつまらないと言ったのは、陽子だ。

「陽子ー、友里ー!」
優子とミヤちゃんが、ファンシーショップの前で手を振っていた。
——遊ぶ場所も決まってるんだね——
そう思った自分に驚いた。
——私はこんなに皮肉屋だった?——


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